大学部誌の保管庫   作:三樹知久

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子供向け目指しました!!

後輩「諦めてください」


幼気な戦場

 あいつと初めて会ったのが何時かは覚えてない。気づいたらいた。社宅っていうのに暮らしてて、親が同じ会社に勤めてて同じ年頃。公園デビューは一日違いであっちが先だったと親に聞いた。

 

##

 木々に満ちた薄暗い森。穴の下から悪口が響いている。

 スカタンだのおたんこなすだの負け犬の遠吠えにしか聞こえない。

「キョウヘイ、ハンドル回せ」

「あいよー」

 キリキリカラカラと金属音がして落ち葉に隠されたロープが立ち上がってゆく。ロープは四本あってどれも穴の中に繋がっている。ロープが上に向かってぴんと張り、落とし穴の底に仕掛けられた網を引き上げる。網に捉えられた泥だらけの少年、確か六年生だ。できるだけ芝居がけた口調を心がけ、バカにした感じで。

「木田町のリーダー。ごたーいめーん」

 前線を任せていたリュウジも戻ってきている。三人で描いた旗を持って帰ってきた。これをこの負け犬に見せればおしまいだ。

「ケンター、旗あったぜ。俺等の勝ちだ」

 八月三十一日、夏休み最終日。学校の裏山での陣取り合戦はあと一チームを残して俺に制圧された。

 

 大人たちが世の中物騒になったからと五月蝿いので集団登校がお決まりだ。二学期初日はまだまだ暑いし夏休みの目標は達成できなかったしで気分が上がってこない。

 ホジフィルム社の雨坪社宅四号館一階角部屋、四の一〇四号室のドアをガンガン叩く。

「わぁってるよ! 今着替えてんだから待ってくれ!!」

 相変わらずリュウジは朝に弱い。そしてこの音を合図に上の方でドアが開く音がする。四〇四号室のキョウヘイだ。階段をダカダカと駆け下りる音が響き、姿が見えたところで目の前のドアが開いた。

「「おっはよう!!」」

 俺とキョウヘイは朝から元気な方だ。気分は良くないけれど、挨拶ぐらいはしっかりと。

「まだねみー……」

 リュウジは紙パックの牛乳とアンパンを握って出てきたが、

「ランドセルどうした?」

「あ……先公園行っててくれ」

 キョウヘイに指摘されてドアの中に戻った。

 社宅に備え付けられた公園。申し訳程度のフェンスと滑り台とブランコだけの寂しい公園。あいつがいた頃はあと二つ遊具があったけど撤去された。ここがこの社宅の集団登校の集合場所。既にチビ達が集まってきている。女子は一人もいない。おそらく五年生が連れてった。男子は四年が最高学年だ。

 あいつらの前で暗い顔は出来ない。

「おはよう諸君。昨日は君たちの活躍でまたも雨坪社宅連合の勝利に終わった。残りあと一チーム、もう俺達を弱小だなんて言う奴はどこにもいない。関本バス停チームを潰して俺達が裏山を統一する!!」

 チビ達が口々に任せて! とか、もちろん! と威勢の良い声とともに頷く。

 遅れてリュウジが口元にあんこをつけてやってくる。

「あちいしねみいのにチビ達元気だな、なんかあったか?」

「もう君教室で二度寝したほうがいいね」

 キョウヘイがジト目になってため息を吐いた。

 

 二学期の始業式、校長が問題を起こして四年とも変わったが毎年話の内容は変わらない。文部科学省できっと原稿が配られてるんだ。舞台の袖からオーバーオールにポニーテールの女子が現れる。

「転校生を紹介します、崇矢真さんです。今日から四年二組の」

 あとはよく覚えてない。俺達は立ったままでも寝れる。マコト……ねー。

 

##

 あいつの名前はタカヤ。何かにつけてあいつに勝った試しがない。セミ取りだろうがかけっこだろうがあいつが勝った。

 蝉の声の五月蝿い夏の日だった。二人で木登りをしてた。木に抱きつくようにしがみついていると腕がなにかくすぐったかった。

「ケンタ!! 手!!」

 ものすごい剣幕で叫ぶタカヤに従い腕を見る。幹の向こうで、腕を毛虫に這われていた。

「うひゃ!!」

 真っ逆さまに落ちて、背中を思いっきり打った。

 その後気づいたら病院にいて、俺はあいつに引き摺られて帰ったらしい。

 

##

 国算音社。四つ終わって昼休み。

 給食をかっこんで三人集まる。行き先は図書室。机に地図を広げる。一枚目は大量のペケ印と数箇所の丸印の書かれた地図。潰したチームの基地は罰印。赤丸の雨坪の基地。その中には倒したチームを配下にして再利用してる基地もある。青丸の関本の基地。あっちにも倒したチームの再利用基地がある。むしろ向こうの方が使ってる基地の総数は多い。戦力も相応のはず。

 もう一枚はアルファベットと大量の楕円の書かれた地図。もう一枚と比べるとペケ印の位置にアルファベットが書かれている。

「こうしてみるとトラップエリア増えたな、人手回るのか?」

 キョウヘイが首を傾げ頭を掻く。

「そこをどーにかすんのがお前の仕事だろ、どうせ前線で役に立たないし立つ気もお前ないんだから」

 リュウジが聞き用によっては失礼な物言いをするがこいつはいつもこうだから俺等二人は今更気にしない。

「三人とも何してんの?」

 後ろから女の声がする。

「女の子には関係のないことだよ、怪我とかした時女子か男子かって結構先生は気にするしうるさいからね。だからあっちで折り紙でもしてなよマコトさん」

「関係あるかどうかはぼくが決めるよ、えっと……」

「キョウヘイ、そっちのがリュウジ、ペン持って難しい顔してるのがケンタ。もういいよね?」

 時々キョウヘイは目つきが悪くなる。ちょうど今のように。

「うん、ごめんね」

 マコト……ああ転校生か。一瞬目が合って、何故か睨まれたような気がした。

「悪役みたいな悪巧み……」

 去り際になにか呟いたらしいが、あとの二人は聞こえなかったようだ。

「下見はこんなもんか。とにかく俺は青丸目指して突撃すりゃいーわけか」

 前線はリュウジに任せる。いつも通りだ。

「僕はこの赤丸で待機してトランシーバーとハサミを握ればいいんだね」

 キョウヘイは一番前線から遠い基地でトラップの管理。いつも通りだ。

「最前線に一番近い戦場の中心になるこの赤丸。ここは俺が担当する」

 本陣に俺。ここに旗が立つ。楕円とアルファベットに囲まれた中心。いつも通りだ。

 

##

 一番古い記憶で既にタカヤはブレーキを持ってなかった。蝉の声に混じって誰かの泣き声がした。

 転んで金髪に学ランの人のズボンにアイスをつけてしまって、その子が怒鳴られていた。親を出せとか弁償しろとか言ってたような気がする。ちょっと目を話した隙にタカヤはゴミ箱から空き缶を取り出しその金ピカ後頭部にぶつけた。

「大人が弱いものいじめしてんじゃねーよ! クソヤロー!!」

 背丈が違いすぎて大きな金髪の手は俺達に届かない。すり抜けるようにして泣いている子の手を掴む。

「逃げるよ! 君も!」

 泣きじゃくるそいつは、キョウヘイと名乗った。隣にいたブレーキのぶっ壊れた怖いもの知らずは

「ボクはタカヤ×××」

「ながいね、どっちが名前?」

「ながいかな? じゃあタカヤでいいよ」

「ボクはケンタ」

「ふたりとも、ありがと」

「ボクはヒーローになるからね、当然さ」

 既にタカヤはそんなことを言ってた。

 

##

 放課後、グラウンドの真ん中に旗を立てる。俺達三人で描いた雨坪連合の旗。日の丸の白を黒く塗り、白を雨坪の文字状に残した旗。

 関本の連中が五分遅れでやって来る。奴らの旗はドクロに関本と書いただけの単純な旗。

 二つの旗が揃ってる今の状況を写真に残す。これでお互いの今回の戦争に使う旗は決まった。すり替えもごまかしも効かない。

 ドクロを受け取り日の丸を渡す。

「またあとで裏山で会おう、弱小」

「卒業前に引退させてやる」

 関本も六年を持たないチームだ。最上学年は五年。やれる。今までで一番でかい戦争だ。だが、楽な戦争だと思った。

 今までとは違う、一対一の総力戦。別チームの奇襲はない。と言うか奇襲と戦争妨害は俺らの専売特許だ。

 

 段ボールで作られた壁。ブルーシートの天井。タイヤと縄梯子の床。生きたブナの樹の柱。

 落とし穴。吊るしタイヤの振り子。ボンドを塗ったビニールテープ。

 ここが俺達の戦場だ。

 三年生にガチャガチャで手に入れたトランシーバーを配る。これの総数は、地図の赤丸の数。それぞれに基地を任せる。いつもどおりだ。一番やりやすい戦いでいつもどおりに潰す。

 

##

 タカヤのうちの引っ越しが決まった。キョウヘイも俺もタカヤも泣きじゃくっている。幼稚園の年長の三月のことで、来月からみんなランドセルを背負って同じ学校に行くんだと思っていた矢先だった。

 泣きじゃくりながらもあいつはヒーローになって一番有名な人になるから探しに来いとかハチャメチャなことを言っていた。

 あいつのいない卒園式が終わって、公園の四人で乗れるデッカイゴンドラのブランコみたいのに腰掛けながら考えた。

 ヒーローになったアイツに勝つにはどうするか。ヒーローに必要な物はなにか。ヒーローと再会するにはどうするか。

 ヒーローには悪役が必要で、勝つかどうかはやらなきゃわからない。

 この時出した結論が俺の小学校生活を決定づける。

 

##

 今回の戦争前に俺達は本陣を裏山の頂上付近に移していた。トラップは転がし安く、敵は登るだけで疲れる。

 南に側のどでかい木が敵の基地で一番でかい本陣となるがそこに俺たちの旗があるとは限らない。

「どこから攻めようか?」

 キョウヘイの目付きがまた悪くなる。ついでに口元も歪む。ハサミ握りしめてる時はいつもこうだ。

「近えとこから潰しゃあいいだろ、連中ダンボールが主流なんだろ? 三年どころか二年でも潰せるお粗末基地だぜ?」

 リュウジの言い分は最もだが、お粗末な基地ってことは材料があればいくらでも増設できるってことになる。旗は基地以外の場所に隠すのはご法度だが基地を増やしちゃいけないわけじゃない。

「チビ達に双眼鏡とレシーバで持たせて回らせる、地図のコピーも持たせろ」

 今回一二年生達は投卵兵としてじゃなく、偵察がメインだ。

「知ってのとおり敵の基地は大量。その数三十を越してるのが最新情報だが、おそらく更に増えてる」

「地図以外の位置にある基地を狙うんだね」

 増設されたということは増設する必要があった。つまり今回の敵の作戦の要のはず。そこを少数精鋭で同時強襲する。

「防衛はキョウヘイに任せる。今回は俺も前線に回る、守備の上での囮はチビにやらせろ」

 どこまでが前線になるかわからない混戦になるだろう。敵の目を引く人材は多く確保する。

「強襲が二班、偵察が個人行動、防衛一班。計四つの指揮系統でいく」

「じゃ、作戦スタートだな、強襲A班は貰ってくぜ」

 リュウジと三年生二人がコレまで本陣に使ってたいつもの基地へ向かう。戦地の中心に近いあそこはトランシーバーの受信が一番安定する。

「俺はB班、行くぞ」

 こっちは三年生三人。

「ケンタ、A地点とB地点の間に増設基地。リュウジは既に別の場所に向かってるから」

 早速戦闘開始か。

 

 虫取り網に石ころをいれて地面に振り下ろす。バレバレの落とし穴が衝撃に負けて崩れる。石ころを捨て即座に敵兵に網を被せて落とし穴に引き落とす。

「そいつ確保しておけ」

 三年生に指示を出し、そのまま基地に接近。ダンボールの壁を蹴る。中に兵士は……いない。

 今確保した一兵だけ? つまりこの基地も囮か。コレで囮の基地は二つ目。

『ケンタ、リュウジがすでに増設基地を五つ潰してるけどどれも一兵だけだったって』

 キョウヘイからの通信ではっきりした。増設基地から狙うという作戦を読まれている。

「リュウジの班を三年二人とリュウジ単体に分けろ、増設強襲を二班という体制を保って騙されてるふりを続ける」

『了解』

「通信のとおりだ、俺達B班は既存基地の殲滅に移る」

「わかった!!」

 三年生の声は威勢がいい。まだまだバテてないようだ。

 次の基地への移動中に敵襲。障害物競争で使われそうな広い網が降ってくる。

「こんな中途半端な位置でトラップだと!?」

 が、俺には通じない。キョウヘイの作ったトラップはまず俺を実験台にしている。枝葉の音が不自然すぎてバレバレだ。

 網の四方はわざわざ人が握った状態で降りてきている。掛かった相手を即確保しようとする姿勢は立派だが、結果としてバレやすい奇襲は意味が無い。

「俺はこいつらを片付ける、諸君はこの先の基地への奇襲を続行」

 四人相手か……こういうのはリュウジの役なんだがな……。

 投げ縄を操る四人から逃げ回りながらトラップエリアへ誘導する。トランシーバーのスイッチをON。

「07D!!」

『あいよー』

 トランシーバーの向こうからハサミの音がした。ロープで吊り下げられたタイヤが七つ。振り子になってすっ飛んでくる。基地の中まで仕掛けを固定したロープを伸ばし、ハサミ一つで遠距離から起動できる。ロープをスムーズに動かす滑車がいくつかいるが、キョウヘイのお気に入りだ。怯んだ相手を虫取り網で引き倒す。倒れた先には落とし穴。即座にブルーシートで塞いで無人確保。後三人はそのまま使うトラップは違う物、違う地点、同じ手で片付けた。

 

 はぐれた班員と連絡がつかない。今頃捕虜だろうか。単独で確保と基地潰しを繰り返す。

『ケンタ!! リュウジがやられた!』

 は? チャンネル争いで中学生の兄貴と相撲とってるリュウジが? 前線最強のあいつが? 何が起きたんだ。

『どの地点だ!!』

『09C!!! 前回の戦争の敵本拠地!!』

 リュウジがやられたってことは最大戦力がそこにいるわけだ。

 舐めやがって……、何の対策もなく基地そのままだと!?

『その地点のトラップは起動できるか?』

『もうホイールを全投入した、後は君の仕事だ』

 段ボールで出来た二階建ての一戸建て。そんなふざけた基地の壁にタイヤが九つ突き刺さっていた。タマゴを投げ込んでくる敵兵の眼をごまかしている内に市役所から五時を告げる夕焼け小焼けがなる。

 リミットだ。この鐘がなったら親に帰れと言われている子供は多い。ほとんどのチームがこの時間以降は停戦としている。俺たち以外は。大人の都合何かしったことか。

 敵兵が停戦を呼びかけ射撃をやめた。当然突撃。穴だらけの壁を打ち抜き、俺達の旗が向こう側の無傷の壁にかかっている。その下に縛られた捕虜が転がっていた。

 

 ズボリと音がして、浮遊感があった。不自然なほどでかい基地は基地の中にまでトラップを仕掛けるためだったらしい。

「ねえ、コレ。ボクが直接取ってきたんだ」

 女の声がした。戦場ではするはずのない女の声が。図書室で聞いた声だ。

 目の前に、キョウヘイが守ってたはずの奴らの旗が広がった。

「ヒーローに会うには悪役になるのが一番だよね、卑怯な手段で勝つのは楽しかった?」

「誰から聞いた?」

「キョウから」

 その呼び方は三年以上耳にしていない。

目の前から旗がどき、見覚えのある笑顔があった。

 俺はまたこいつに勝てなかった。




 今作は子供向け目指しました。大人の作った門限とか集団下校とか始業式のお説教とか。よくわからないめんどくさいものに縛られながら力いっぱい遊んでた小学校時代が懐かしいです。
 ってか、だいぶ人物脚色してますがやってる遊びは私の小学校時代そのまんまです。私の地区のリーダーはこの話のオチと同じ手で討ち死にしました。
 ちなみに私はキョウヘイポジです。
 子供向けなんで怪我させるようなガチバトル書けませんでした。その為書きたかったシーンが全然書けず苦労しました。せめてバットぐらい振り回させたかった。
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