そろそろいろいろ申し訳ない気分
どこもかしこも真っ白で、眩しくて仕方ない。目が痛い。閉じてしまおうか。眠くて眠くて仕方ない。体の内側が熱く皮膚が焼かれるようだ。左手の感覚がない。そもそもどれが脚でどれが腕だったろうか。
皮膚のすぐ外は冷たくて。焼かれている体を包み込んでいる。ここはとても心地が良い。このまま眠れれば明日の目覚めはきっと爽快だろう。
左手の感覚がない。あるわけない。だって左手は今右手で掴んで失くさないようにしている。こんなに冷え切っているんだ。冷凍保存してるようなものだ。病院に行ったら繋がるだろう。でも、ここはもう病院なのではなかろうか。白くて、寝心地が良い。考えても仕方ない。寝よう。
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目が覚めるとまわりが暗い。屋根が高く三角に尖っているのが内側からでもわかる天井。梁が組まれて、その上には直接屋根の裏側が見えている。自分がいるのは布団の中だ。微かな光源は蝋燭らしい。体中が鈍く痛い。起き上がろうとしても全く言う事を聞かない体を諦め、もう一眠りしようとした時だった。
「おぉ、目が覚めたか」
浴衣を着た狼が喋った。いや、狼は胡座をかくことが出来る形をしていただろうか。
見てみれば手足も毛皮に覆われている。
「腹は減ってる……わけねえな。あれだけ食ったしな」
他にも狼はいろいろこちらを気遣うようなことを言ってたが、意識がまた遠のいていった。
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次に見えたのは白い天井と白いシーツに覆われた体。ここは病院なのか? だいぶしっかりしたベッド。口元はチューブの付いた煩わしいマスク。何か事故にでもあったんだろうか、よく覚えていない。
途方に暮れていると声を掛けられる。
「目が覚めたようだね、崎谷君」
白衣を着た初老の男。スライド式のドアを開いて病室に入ってきた。崎谷……それが私の名? よくわからない。
「食欲はあるかね?」
首を横に振る。喋ろうとしても頭も体の感覚もはっきりしない。何日眠っていたかは知らないがとりあえず腹は減っていなかった。
「じゃあ今日も引き続いて点滴と行こうか」
そういえば左腕が動かない。固定されていたらしい。点滴ってテープとガーゼで十分止めれると思うんだが……まあいいか。
左手首の先は包帯に覆われていた。思春期の青年がやるような指を分けるテーピングじゃない。全体をまるごと巻かれて固定されていて、鍋掴みのような手になっている。
日が沈んでゆくとともに意識ははっきりしていった。食事を摂るわけでもないが食堂に向かう。ああいう場所には多分テレビか何かあるだろう。せめて今日の日付ぐらい知っておきたい。
食堂に入った時、一斉に座っていた人がこちらを見る。ジロジロと見られていい気はしない。テレビは二月四日を示していた。
そして、ニュースに私の顔が写った。
『遭難者唯一の生存者意識回復』
ニュースによると私の生存は歓迎されてないらしい。発見された遺体に歯型が残っていたのだそうだ。私がその歯型に一致するのだとか。
ニュースを見ていると頭を強く殴られたように目眩がする。眼の奥がチカチカする。けれど、誰かがこれを見なければならないと囁いているような気がした。
テレビのコメンテーターが私をバケモノと呼んでいる。そういう言い方は良くないとか極限状態の恐ろしさとか色々言っている。最後に印象に残ったのは、歯型の話。
私と一致する歯型以外にも見つかっている。しかしその歯型は日本にいないはずの狼の歯型だった。……らしい。
狼……そう、絶滅したはずで私も図鑑でしか見たことはないのに、何故か狼という獣についてよく知っているような気がした。学名や習性とかのお勉強の話ではない。何を知っているのかすらわからないか知っているはずだという声が頭から消えない。
包帯に包まれた左手首が痒くて仕方なかった。
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大学病院の研究室で一人の男が悩んでいた。これを発表していいのか?
学会の笑い者にされるかもしれない。
そもそも頭がオカシイと思われて自分が入院するかもしれない。けれども彼は書いた。写真を残した。映像を撮った。患者に必要だから?
違う。自分が研究者だからだ。目の前に理解出来ない事があるなら理解しようとするのが研究者だと彼は思っていた。オカルトを全面否定することは出来ない。証拠がないからだ。否定も肯定もせず、ただ調べ続ける。それが自分のあり方だと男は思っていた。けれど、ここには証拠がある。仮説と実証の隙間にオカルトがあって、証拠がなければ何も語れない科学ではオカルトを永遠に論破できない。
では、証拠の見つかってしまったオカルトはオカルトでいられるのだろうか?
肯定しなければならない。あんなにも荒唐無稽な存在を。人を喰うかもしれないモノを。
彼の目の前にはホルマリン漬けにされた手首があった。凍傷で千切れた後寒さで錯乱したのか囓られている。歯型が様々な所に付き、骨まで露出している。鑑定も一致した。傷口もDNAもだ。では、あの患者の左手首に繋がるアレは何だというのだ?
アレの毛のDNAさえ鑑定は一致してしまった。人間に鉤爪などあるものか、毛皮だってあるはずない。アレは本当に人間なのか?
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段々と記憶が戻ってきた。私は親戚七人と初日の出を見に冬の雪山へ行った筈だ。自殺行為ではないはずだった。案内人もいたし崖登りをするつもりもなかった。困難ではあるがそれは超えられる範囲であり一つのアトラクションでしかないはずだった。
初日の出を見て、帰り道。そこからがどこか曖昧だった。目を閉じ思い出そうとしてもいろいろなものが白で占められてゆく。意識が白かったのか景色が白かったのかさえ曖昧だ。
日数は教えてもらえないのだが、寝たきりであった私にはリハビリが必要だった。けれど、リハビリには点滴の針を入れたままという訳にはいかない。食事を再開しなければならない。食堂でニュースを見ながら昼食を摂らされていた。スプーンの動きはとても鈍い。目が覚めてから食欲は全く湧いてこない。特に食堂の中、人前で食事をするなんて論外だ。
テレビの内容はグルメ番組だった
食事で動く唇がとても忌まわしくみだらに思えた。他の生命を自分に取り入れ自分の為に消費する卑しい行為は何故隠すこともなく、グルメなどという言葉でテレビに取り上げられているのだろうか。
まるで遭難したついでに価値観の違う並行世界に迷い込んだかのようだった。
看護師に顔色が悪いと言われてしまった。未だ食欲がわかないので点滴に戻してもらえるか問うたがどうやらダメなようだ。結局、出された食事の半分を腹に収め、ギブアップを認めてもらうのに二時間かかった。
すぐに便所で吐いた。翌日血糖値の検査に引っかかって錠剤食に切り替えられた。
とうとう病院側の防御と監視の抜け道が見つかったらしい。私の病室に見知らぬ女がメモ帳とマイクを持って待ち構えていた。
「崎谷九一さんですね?」
我ながら妙な名前だ。女は本西と名乗り、雑誌名を幾つか出す。
女はこちらの返事も聞かずに自己紹介や名刺を渡したりと慌ただしく上半身を動かして、
「では早速インタビューに移らせてもらいます」
まだ私は名前を名乗ってないし返事もしてないのに捲し立てるように用件を始めてゆく。では早速じゃないでしょうに。
「雪山は過酷な状況だったようですが生還についての心境は?」
マスコミという奴はきっと『言論の自由』が魔法の呪文とでも思っているのだろう。
遺族への感情……遺族私じゃないか。
「雪山では日本にいないはずの生物を見かけませんでしたか? 彼等の死因は本当に凍死だったのですか?」
死んだ親戚や家族のことをうだうだ言われて、頭がくらくらする。何度も言わせないでくれ。私は何も覚えてない。あの日あの場所で何があったかは俺に聞いてくれ。
「うるせえな!!」
ふと、目が醒める。入院用の頑丈なベッドがひしゃげて潰れていて、それに腰掛けていた女は失禁していた。このベッド古くなっていたんだろうか? 私は今夜何処で寝ればよいのだろう?
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何時か見た天井。ああこれは夢だ。現代建築の象徴の真四角でまっしろな部屋で私は眠っているはずだ。屋根の高い三角の天井。雪国の工夫。ここは見覚えがある。蝋燭の灯がチラチラと建物の色々なところにゆらめき、私と彼の間には囲炉裏がある。
「よお、久しぶりだな」
そう言って話しかけてくる彼にも見覚えがあった。狼を無理やり人型にして着物を着せたようなその姿。
「体は丁寧に扱ってくれよ? 今回叩き付けたのが左だったからよかったようなものを」
どういう意味だろうか。叩き付ける? よくわからない。
「これから何が起ころうがどれだけお前が悩もうが俺はお前の味方だ。お前の不利になるようなことはしないさ、まあお前は嫌がるだろうが」
彼が味方を名乗ったとき何故かとても違和感があった。味方なんて生易しい存在だったろうか? もっと近くてもっと疎ましくて……なんだっけ?
「俺がお前に話しかけるのも元はあり得なかった。まあ、これもお前の我儘のせいだ。我慢してくれ。それはそうとあまり腹を空かせすぎるなよ」
空腹は全く感じないし、栄養剤は受け取ってる。問題はないはずだ。
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ある女が自室で羞恥心と闘いながらもテレビで自分の写るビデオを確認していた。
自分が写ってるのはもう無視だ。カメラの置き方を間違えたらしい。
マスコミは昨今の世間ではマスゴミと呼ばれる。殺人事件や猟奇事件が起きてそれを調べあげるまでが自分の役目だと彼女は思っている。
しかし、ニュースとして取り上げられるかどうかは事件の猟奇性や残虐性では左右されない。ヤクザの組長がめった刺しにされても一日話題になるだけでその後特集は組まれない。
けれど、そのへんの女子高生がナイフで一刺しの損傷の少なく陵辱もされてない死体が見つかれば大騒ぎだ。そして結局犯人が異常だから、アニメとゲームと漫画のせいということで片付く。
結局、自分が恨まれてるとは思っていない視聴者たちは殺された側の粗探しをまず求め、ホコリが出なければとりあえず世間一般で少数派に位置する者の所為にする。
自分がああいう目に遭う心当りがないから隣にいるかもしれない異常者に怯える。目を背けるためのスケープゴートがアニメやゲーム。彼女は思う、自分達の仕事は調べる所までだ。だから、マスコミをマスゴミにするのは視聴者の方だと彼女は思う。そんな彼女でもその光景は信じたくなかった。視聴者のように目を背けたかった。
あの男は包帯に巻かれている、怪我をしている筈の左手を振り下ろしただけでベッドを潰してみせた。その振り下ろした腕のシーンを何度も何度も繰り返す。
その直後には自分の恥が映っている。繰り返す度にそれを見る。振り下ろした時に翻った左の袖と包帯の間。そこには腕毛とは程遠い、毛並みともいうべき物があった。色は男の髪とは違って、灰色だった。灰色の毛並みは、男の喉元にもあった。びっしりと生えていた毛並みは男が我に返ると同時に塗り潰されるように人の皮膚に戻っていった。
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最近病院の食事係が愚痴っている。噂話もよく聞くようになった。もったいないお化けの噂。現代科学の結晶である病院で何をアホな話をしているのか。もったいないオバケは生ごみがお好みらしい。
青いポリバケツを漁る毛むくじゃらの左手、ノースリーブだそうだ。
外出許可を貰っている入院患者はコンビニの廃棄弁当の話まで持ちだしていた。賞味期限が切れたからなんだというのだろう。私には関係ないな、食べないんだから。養分は錠剤で足りていても胃袋の機能はあるはず
何故だか左手首が痒い。目を覚ましてから時々痒くなる。包帯はまだ取ってはならないのだろうか? 入浴も未だ許可が出ない。
ところで、昼の食堂のテレビニュースは淫行教師を必死で叩いていた。私には彼が悪い事をしたようには全く見えなかった。次代を繋ぎ金まで渡している。責任感あるオトナの対応だし教師は未婚だった。高校三年ともなれば既に子宮も整っているだろうに教師は異常性欲者と呼ばれていた。
次代を繋ぎ社会に貢献する行為が罪深く隠しておくべきとされる理由がよくわからない。私にはあの行為の光景よりもこの前のグルメ番組のレポーターのほうが卑しく見えた。
錠剤を受け取り水で流しこむ。ストレスの薬、鎮痛剤、エトセトラ。
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一匹見たら三十匹いると思え。Gの話ではない。マスコミの話だ。昼食を終え病室に戻ると別のがいた。ナースコールボタンで丁重にお帰りいただく。
「一人だけ生き残ってそれについての心境は何かないんですか!?」
ドアの向こうから聞こえた質問に、目眩がした。そうだ、そもそも私は生き残りたくなんかなかったのだ。
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もったいないオバケの正体は十中八九予想がついていた。彼が空腹を訴えないわけだ。もう猶予はない。論文とか言ってる場合じゃない。自殺していただこう。錠剤食の彼は睡眠薬も支給されている。同じ種類を点滴に混ぜれば医療ミスにはならない。
点滴袋を準備して廊下に出た時。体の右側に激痛が走った。
「悪いなあ、死には敏感でよ。なにせ死にたくねえからな。ついでに、夜食もいただくか」
また、いつもの天井。
「よ、死にたがり」
狼はいつも左前の浴衣姿で左手を胸元に突っ込んでいる。
「死にたいわけじゃない」
ここしばらく夜寝る度に狼の家を訪ねている。
「生きるか死ぬかオンかオフしかないんだぜ? 生きたくないなら死にたいってことにならねえか? 共倒れは勘弁なんでな」
毎度毎度饒舌な割に肝心なことは何も教えてくれない。というか何についての話をしているかさえわからない。
「それにあんなちゃちい錠剤で足りると思うのか? もっとまともなもん食え。俺を出張らせたくないだろう? 俺もあまりしょっちゅう出かけたくねえしな」
突然、狼が何かに殴られたように跳ね飛ばされた。ここには自分とあいつしかいない。
見えない何かがいる……のか?
自分自身見えない何かに引っ張られる感覚があった。
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目が醒めると警棒をもったコンビニ店員が俺を睨んでいる。
「残飯だからって無断で食っていいわけじゃねえぞ!? こら犬っころ!!」
人間には人権とか生きる権利とかぬかす癖に人間は人じゃないものに厳しい。そもそもどこまでが人間かだって時代に拠って宗教に拠って肌の色に拠って色々変わったもんだ。俺が腹減るのは何も悪くねえ。
左手の指が動くことに気付いた。包帯がとれている。そこには毛皮に覆われた懐かしい手があった。灰色の毛並みに鋭い爪。爪は指の上側からじゃなく先端の中心から生えていた。
血の臭いがする。後頭部が痛い。血の匂いは指先からした。
使い方は分かっている。爪は鋭く毛皮は広く。振り下ろされる警棒を掴み、へし折る。そのまま左を薙ぐように振った。
奴の腕が輪切りになって地面にこぼれる。
「ひ、うあああああ!!」
左しか使えないのは不便だが仕方ない。まだ牙も右も俺にはないんだ。
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朝、目が醒めると病室が変わっていた。窓に鉄格子が付きドアは鋼鉄製。そして、警官が私の表情を伺っている。
「この近くのコンビニのバイト店員とここの医者が殺された」
警官が凄みを込めた声で私に告げる。次に聞かれるのは刑事ドラマを見たことがあれば誰にでも分かった。
「昨夜、何処で何をしていた」
そう、アリバイのお話だ。こっちが聞きたい。何故部屋が変わってるのかと返す。
「ふざけるな!! 死体からお前の歯型が出てるんだよ!!」
馬鹿言っちゃいけない。人間の筋力じゃ絶対できない状態にぶっ壊したんだ。俺だって容疑者には入らないはずだ。ああそれとも俺は人間じゃなくて日本にいないはずの怪物なのかね?
「歯型なんか3Dプリンターでも作れるじゃありませんか」
今何か思考に靄がかかった気がする。それにしてもどうしてみんなそっとしておいてくれないのだろう。私は遭難についても死んだ者についても、何も知らないというのに。どうしてみんな、私が知ってる前提で追い詰めるのだろう。考えたくない、知りたくない、食べたくない、関わりたくない、……もう、いらない。
(本当か?)
もう疲れた。警察がなにか喚いているけど聞こえない。左手首がいつも痒かった。それが腕を伝って痒みが広がってゆく。包帯が破ける音がして、
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いつかの天井。またここだ。
「おいおい、いい加減にしろよ」
また狼は私に説教をする。
「折角色々配慮してるのにお前がバラすの? マジで?」
いい加減にして欲しいのはこちらだ。どうして皆私に問う、私を責める。
「そうだな、お前は何も悪くねえよ。ただ死にたくなかっただけで、その後自分が怖くなっただけだ」
狼が初めて左腕を袂から出した。狼には左手首がなかった。それどころか左手首から糸が解けるように消えてゆく。消えてゆく体が未だそこにあるかのように浴衣は膨らんだまま。
「お前はあの時手段を選ばなかった、イキモノとして当然のことをした。お前は自分を責め、自分を恐れ、俺を作った」
イキタイ?
「ああ、お前が食いたくないのも、考えたくないのも、全部俺が持ってったからだ」
狼はもう左腕がまるごと解けてしまった。胸元から下へ、腹、脇、脚……。
「お前が望んでいなくとも俺が望む。俺は生きたい。どんなことがあっても何が何でも生きたい。お前が捨てれば捨てるほど俺はそれを拾う」
私はそんな必死になれない、なりたくない。私はただただ疲れているんだ。もう何も考えたくない。
「なあ、これがほんとうに最後だぜ? いいのか?」
狼は宙に首が浮いてるだけになった。狼は未だに私を気遣う。早く体を乗っ取りたかっただろうに。私はもうイキたくない。
「俺は生きたいし行きたい。じゃあな」
狼が完全に目の前から消えて、それまで見えない体に支えられて着られているようだった和服がバサリと地面に落ちた。
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包帯の千切れた左手を振り下ろしたら警察は黙った。鋼鉄製のドアは右足で蹴り潰した。悲鳴を上げた看護師の喉笛を噛み付き振り回す。鉄格子のない窓をぶち抜き俺はもったいないお化けになった。
しょぼい噂を立てられたもんだぜ。
せっかくの狼男モノなのにバトルさせてなかった。不覚……。
話に分岐作れる人ってすごく羨ましいです。私絶対無理ですわ。
話作るときは大概一人の人生考えてそこからエピソード切り取ってくるんで分岐もクソももう選択肢は選び終えてるんですよねー。そもそも選択肢のある人生ってなに? 親戚にがんじがらめにされて私の人生選択肢なんて殆どありませんぜ。
既に年末と正月の予定が決まってるんだぜ。どうせまた酔っぱらいの介護なんだぜ。チビ達のおもりなんだぜ。つうかあのガキどもはお守りより重りがいる。てんてんばらばらに走り回るわ障子破るは階段から落ちるわ、もういやだ。