大学部誌の保管庫   作:三樹知久

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ちなみに私の所属してたサークル名は文芸部ではなくSF研究会です

SF書けよといわれて出たのがこれ


龍の書き記した道

 バスが森を行く。バス停を通過する度にバス停は小汚くなっていった。

 傷心旅行は田舎に限る。それも冗談みたいな秘境。観光地にはなってないが温泉はあるらしい。

 突然、視界がめちゃくちゃに揺れる。バスが横転し、ガラスが飛散る。バスの外からこの世のものとは思えない咆哮が響いた。

 おいおい、たった一人とはいえ一応乗客なんだから見捨てていくなよ。と、文句混じりに助けを求めようとして、直後に鱗の吐いた巨大な脚を見た。

 例えるなら鳥の足だ。鉤爪の付いた三本指と後ろ向きの鉤爪付きのもう一本。申し訳程度の太さの鳥の足と比べるとそれはサイズ比だけでは説明がつかないほどに太い。

「生きてるうちに見られるなんて!!」

 運転手の声がした。そのすぐ後に絶叫、骨がひしゃげる音肉が裂ける音。そして血の雨が視界を染めた。

 ずしりずしりと巨大な音が遠ざかってゆく。それが足音で、自分は安全圏だと気付くのに大きな時間を要した。

 

##

 

 なんだあれなんだあれなんだあれ!!

 あの巨大な脚は何だ、運転手はどこへ行った? ひたすら走る。バスが進んでいた方角、切り払われた山道。この先にはバス停があるはず。バス停があるなら村だってあるはず。

 遠くの方でまた足音がする。このまま走っていていいのだろうか、あの巨大な何かはこっちに気付いただろうか、ひたすらにさっきまで感じなかった恐怖が頭を掻き毟っていた。

 心臓が重い、肺が熱い、脳が脈打つ。

 明かりが見えて、意識が遠のいた。

 

「よう兄ちゃん、何があった?」

 目が覚めると老人がいて、俺は布団の中だった。

「鱗の……化け物」

「ほう、鱗。龍神様にあったのかお前、バケモノだなんて言っちゃいけねっぞ? バチあたりもんめ」

 見知らぬ老人が次から次へと見舞いに来た。どいつもこいつも嬉しそうにしている。見知らぬ人の見舞いに来て何が嬉しいんだこの方々。

「なにか目出度いことでもあったのですか?」

「龍神様がお見えになったんだろう? 祭りに決まってるじゃないか」

 龍神様? こいつら何言ってるんだ?

「見たんだろう? バスの運転手が龍神様に選ばれるのを」

 認めたくなかったし理解したくなかったが、龍神様とやらはアレのことらしい。

 人が死んだというのに何を喜んでるんだ? 言うに事欠いて祭だと? 

 せっかくの旅行だがこの村にいてはいけないような気がした。

「そういや名前聞いてなかったな、俺はこの村の村長の三枝ってもんだが」

「二谷」

 名乗った瞬間また老人が嬉しそうな顔になる。

「いやー運命ってあるもんだな、お前さん祭りの参加決定だ」

 こんな背の曲がった爺に運命とか言われた。泣きたい。

 眠気が抑えられず、また意識が薄れてゆく。

 

##

 

「龍神様が出るなんて俺らのガキの頃以来じゃねーか?」

「あの時の祭りでは三枝のじーさんが選ばれたんだっけか」

「運転手は運が良かったなー」

「それはそうとあの兄ちゃん二谷っていうんだって?」

「そうそう、偶然なわけねーよな」

「今度の祭りは龍かな? 隠しかな?」

「どーだろーなー」

 

##

 

 窓の外では既に何かの舞が始まっていた。人が龍と聞いて思い浮かべるであろう様々な姿のパターンのキグルミが相撲をとっている。ようにしか見えない。

 キグルミは相撲を取り、その周りには手のひらサイズの人形が置かれている。

 キグルミが人形を食う様を称えるような古めかしい詩。

「二谷、目が覚めたか、ようやく祭りの本番だ」

 縛られ神輿に乗せられた俺を三枝が見ていた。何がそんなに楽しいのか。

 神輿は山へ向かう。

 やめろ、奴が出たらどうする。

 横転したバスの横を通り過ぎたあたりから道を外れる。

 その足跡おかしいと思わないのか?

 参道もないのに掃除の行き届いてることが一目でわかるきれいな神社。

 神輿はその境内に置かれた。

 龍のキグルミが踊っている。人形が踏み潰される。黒い布で隠される人形。龍のキグルミ。

 舞を見ているうちに段々とわかってきた。これは生贄と神隠しの寓意の舞だ。

 あのバケモノが来た元の場所へ消えるのが神隠しで、来る前に食われるのが生贄なのだろう。

 足音が聞こえる。

 

 ズズーン。

 

 間違いなくそれは自然現象の音じゃない。吐息の音も動物園でも聞けないほどに大きく荒々しい。

 

 ズズーン。

 

 確実に近づいているのに踊りをやめない。

 足が、木を踏み潰した。

 飛びかかってくる巨大な顎。

 

##

 

 気づくと見知らぬ所にいた。死んだのか? 建物の中だろうか? あの世にしてはメカメカしい印象を受ける。

 縛られたままの自分を自覚して、あの世ではないと確信した。

 ならこれは何なんだ?

『御機嫌よう、クルー』

 電子音声だ。目の前にあった身の丈ほどの大画面に唇が移りそれが喋り出す。

「ここはどこであんたは何だ?」

『私は実験番号TT02、のサポートAI。基本事項を把握していないということはあなたはクルーではない』

 無機質な声が神経を逆撫でする。

「お察しのとおりだよ、できれば解いてくれると助かる」

『その前にあなたには私についての基本事項を把握してクルーとしての資格を得ていただかねばならない。私はタイム・トラベラー02。この船のCPUに搭載されている』

「船?」

 潜水艦だろうか? それともここは船室だろうか? 俺の知ってる船とは空と海と揺れとともにあるものだが。

「私の任務は暴走した時航空エンジンの制御を試み続け、且つ転移した原生生物の回収及び帰還である」

 いつこの説明が終わって自由の身になるんだ?

「つまり俺も帰れるのか?」

『答えはノーだ、暴走したエンジンは意図せず起動を起こしランダムに周囲の生物を転移させ意図した駆動においては誤差約百年から百五十年が予測されるだろう』

「は?」

『年月の概念も知能もない原生生物はこの環境へ帰還できれば概ね問題無い。しかし、あなたは違うのでは?』

 こいつが何を言ってるかようやく分かった。ここはタイムマシンの中らしい。ってことは原生生物は龍神のことな訳だ。そして龍神とは……。

『私の行為は平成の中盤辺りまでは神隠し及び多神教の顕現として扱われる』

 ああそれは見てきた。

『しかしさらに時代が進んだ時私の行為は観測を受けるだろう。しかし人類は私の行為を自然現象として認識し、研究し私が作られる、もはやこの世界において原因と結果は捻れてしまっている』

 段々何を言ってるのかわからなくなってきた。早口になってゆく02の無機質な声。ただ開いたり閉じたりするだけの適当な動きの唇の映像。

 頭がおかしくなりそうだ。

『私を元に私の前号は作られる。更にそれを元に私すなわち02が製造され、ようやく実験が行われる。結果は失敗。先ほど説明した私の任務はその際事故死したクルーの最後の命令である、私はより後に入力された命令を実行する。よって新しく私の現状を把握しクルーとなったあなたの命令を要求する』

 つまり、狂ったタイムマシンがこれから何をするか決めろと言われたのか。

「事故が起きたって言ったな、お前の頭は大丈夫なのか?」

『暴走を起こしたのはCPUではなくエンジンだ』

「帰れないって言ったよな」

『イエス。あなたを正確に元の時代に返すことはできない。前後百年程度の誤差は覚悟して欲しい』

「お前がここにいるから未来のお前が事故を起こすんだよな、お前を破壊する方法は?」

『あなたがその質問をすることは僥倖だが、あなたは重要な選択を迫られる』

 そりゃあこの船壊したら俺は帰れないものな、せめてエンジンとやらだけでも壊して俺はこの船で人生を終えるってのもありなんだが。

『この船には自爆機構が積まれている。しかし外部からの操作や実験妨害に対抗し、内部のエンター入力によってしかそれは起動しない。この船と運命を共にするクルーが最低一人必要となる』

 え?

「よってあなたが取るべき選択は二つ、誤差百年の帰り道か、ここで即座に爆死かだ」

 は?

『更に帰還する場合、機密保持のためにあなたの記憶を消去するが、どの程度の記憶損傷となるかは不確定だ』

 おい?

『しかし、元の時代への帰還が事実上不可能な以上記憶喪失の放浪者となったほうがどこかの集落に溶け込みやすいのではなかろうか』

 なんでこんな勝手なことを言われているのだろうか。俺の人生どこで間違ったんだろう。死ぬか、俺じゃなくなって見知らぬ土地かの二択。つまり、「俺」は間違いなくここで消えるわけだ。

『さあ、現状最後のクルーよ、私に命令を』

 

##

 

 名前以外の記憶のない私を村の人達は快く受け入れてくれた。この村では時々あることなんだそうだ。神隠しや記憶のない異邦人。そして、龍神様。

 私がこの村で平和に暮らせるのはきっと龍神様のお導きなのだろう。

 山の中で私を拾った村長に世話になりながら薪を拾う生活が五年ほど続くうち村長の娘と仲良くなった。

「儂の祖父もお前さんのようなよそもんだった。遠慮はいらない。娘と村を頼む次の村長はお前さんだ」

 

 ##

 

 ここ最近神隠しが続いておる。娘の婿も消えてしまった。そろそろ代替わりのつもりだったがもうしばらく踏ん張らねばならんらしい。せめて孫の顔は見たいものだ。

 孫は娘婿が三枝と名付けた。だというのにその名を呼ぶこともなくいなくなってしまった。

 神隠しもまた龍神に選ばれた者だ。目出度いはずなのになぜこんなにもやりきれないのか。

 村の皆が喜び踊るさまがどうしてみていて辛いのだろう。

 儂は結局よそ者ということなのだろうか。

 

##

 

 神隠しが収まって数年が立つ。この村では珍しく、妻に先立たれた老人となった。

 大抵は爺が先に死ぬものだ。

 まだ頑張らにゃならんわ、孫に村を任せられるようになるまでは頑張りたい。

「じー、栗拾いいこー」

「おー、まだまだ三枝には負けられんなー」

 いつの間にか栗拾いが薪拾いになってキノコ集めになっていった。

 

 ズズーン。

 

 懐かしい足音がする。あれ? 龍神様に儂はお目見えしたことがないのになぜこの足音を知っとんだ?

 

 ズズーン。

 

 目出度いことだ、また誰かが選ばれるのだろう。目出度い事なのに何故か胃がキリキリと痛む。

 

 ズズーン。

 

 足音が近づいてくる。

 

 ズズーン。

 

「じー、この音なーに?」

「よく覚えておきなさい、もうすぐ村の守り神に会えるからな」

 

 ズズーン。

 

「龍神様?」

「ああ、そうだ。すっごく大きくって強い神様なんだ」

 

 ズズーン。

 

 やりきれないこともあった。ままならないこともあった。

 が、龍神の顎の向こうには楽園があるのだ。

 儂も選ばれたのだ。

 

 ありがたや、ありがたや。




これはひどい。字数も内容もひどい。反省会待ったなし。
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