大学部誌の保管庫   作:三樹知久

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毎度のことながらタイトルにセンスが無い


天下の回りものに捧ぐ

「うむ、眠るときはやはり人化の魔術で小さくなり宝物に埋まりながらに限る」

 山奥の何処かの洞窟だった。ここ四百年ほどそこには竜が住み着き近隣諸国の国宝や金銀財宝を貯め込みその輝きの中でぐっすりと眠っていると伝えられる。

 その洞窟の主たる竜は洞窟の奥深くの寝床で怠惰を貪っていた。どうみても幼女だがその肌は仄かに光を放ち、命の輝きと力に満ちた人外であることを示していた。

 惰眠を楽しむのにも飽きたのか、寝床から出て少し進む。そこは少々天井も高く広い。鱗の生えた厳めしい翼を生やし少しばかり羽ばたく。出口に向かって飛びながらも手足は太くなり鱗の面積が増え、首が伸びてゆき、角が生える。洞窟の中でだんだんと巨大化する肉体、上がる速度、出口が近づき開けてゆく洞窟の空間。

「ゴギャアアアアアアアアアアア」

 咆吼とともに洞窟を飛び出したのは紛れもなく竜。荒々しく猛々しい畏怖と力の象徴。朝日に照らされて輝く鱗は緋々色金、その眼は深い翡翠。

「体操はすんだ。食事にしよう」

 そのまま何処かへと飛び去った。

 

##

 

 日を遮り、大きな影を落とす怪物を見上げ、楽しそうに笑う男がいた。

 頭には茶色い布を巻き、同色のボロ雑巾のようなマントを纏った男だった。

「ったくまるまる四日も眠りほうけやがって、あのねぼすけトカゲが」

 男は主不在の洞窟へと意気揚々と進んでいった。洞窟の最奥の龍のねぐらを見た男は、

「こりゃ運ぶのは無理だな、時間もあるこったし……飛ばすか」

 そうつぶやいてからまずナイフで手首を切り裂き血を流す。つぎに宝物の山を二重の円で囲む。内側の円と外側の円の間の帯に血で陣を描き上げる。字は殆ど使われず、矢印や曲線小さな円や図形などを並べてゆく。図形が帯を一周し、男が目的としていた陣が完成した。

 切り裂いた右手で指を鳴らすと、内側の円周から赤い半球上の膜がせり上がるようにして完成した。

「そいじゃあ頼むぜ倉庫番」

 そう告げると赤色が瞬時に白に染まり、魔法陣がベリッと音を立てて岩肌の地面から剥がれた。剥がれたそれが弾けるように消滅し白い半球も消滅した。

 そこに宝物は一切なかった。外は夕日がほんの僅かに顔を見せるのみで、東の空は既に黒かった。

 思ったより早く済んだことと獲物の質に満足そうな男はやはり意気揚々と洞窟を出るが出口寸前で凍りついた。

「我のねぐらで何をしている?」

 男は即座に土下座の姿勢へ移り、

「社会見学です!!」 

 と、突拍子もない事を告げた。

「ここには貴方様のお眼鏡にかなう素晴らしき品々が集められていると聞き、恐れ多くも拝見に伺った次第で御座いまする!」

「バカにしているのだな」

 へりくだりきった男の態度に少しばかり欠伸をし、竜は言う。

「滅相もない!!」

 迷いなく土下座したまま叫ぶ。その声量はその姿勢には不自然と驚嘆すら感じさせた。

「で? 我が宝物はどうだった? その身軽ななりを見れば盗んではおらぬようだが?」

「光の無きこの城においても自ずと輝き威光と歴史を示す宝の数々、眼福に御座いました!!」

「そうか、そうか。自慢の品々だからな。宝石一つのために戦が起こったと聞いた時には宝石を奪い争う国々も焦土にしたものだ」

 満更でもない様子な竜は機嫌を良くするが、やはり無断で入った男に甘くはなかった。威嚇するように睨むと、

「今は鹿と猪を喰らって来たばかりで腹も膨れておるし肥えた目をした人間を殺すのも勿体無いことだ。立ち去れ」

「ハハー!!」

 平伏した姿勢を瞬時に立てなおし風の様に走り去っていった。

(このドラゴンちょろい)

 内心男は嘲笑っていたが竜が気付く様子はなかった。

 男が山を中腹まで下り木々の間を隠れながら走っている頃、洞窟では人化の魔術で幼女の姿となった竜がのんびりと洞窟の奥のねぐらを目指していた。

 そして、

「なん……だと……?」

 集めた宝物はひとつも残っておらず、置き手紙があった。

『金は天下の回りものと申します、ここにあったものは全て相場の半額で売り飛ばさせて頂きますのでご了承下さい。薄汚い盗賊レドルフより愛をこめて』

「フ……フハハ、ハハハ……ふざけるなぁあああああ!!」

 当然そのあと山中を飛び回って探しまわるが、夜闇に紛れたのか盗賊レドルフが見つかることはなかった。

 

##

 

 あの山から降りた麓の農村から伸びる商人や馬車の通る街道。それを西へ四日ほど歩いた先にその壁はあった。街、いや都市を囲む壁と都市の中央の城。城下町というものだ。

 ただ、こういった街では治安の良い地区とそうでない地区がはっきりと別れる。

 その境目となる小さな路地にそのドアはあった。ドアの表札には極東の言語で「生き馬の目」とある。この街の誰も読めないだろう。ドアの向こうから叫び声が漏れた。

「この大ばか!! 私の店を潰す気? それとも私を殺す気!?」

 店の中の様子は雑貨屋というより古道具屋、更には骨董品屋といったほうが近い。店主はメガネを掛けた黒髪の女。この地方では黒い髪は珍しい。普段は細い狐目を限界まで見開き、眉を吊り上げながらレドルフに愚痴を垂れていた。

「在庫整理の真っ最中にあれだけの財宝に埋もれたら圧死しかねないわよ!?」

「まぁそうゴネるなよ、ウスグモ。あれだけの品々の鑑定を任せた上に相場の半額でいいってんだぜ? 大儲けだろう」

 頭を掻きながら応えるこの男はこの剣幕に慣れた様子。

「あれが売り物になるならね。売るどころか単純所持でも足がつきそうな名のある品々ばかりよ、竜に奪われた国宝だの戦の真っ最中に竜を呼び寄せ国々を滅ぼした宝石だの、ところどころ御伽話の文献の挿絵のままの品まであったわ、宿ってる力の質から本物でしょうけど。どこにあったの?」

 自らの目と知識を信用できなくなるような貴重すぎる品々を前に疑いを隠せない店主はため息混じりに問うた。

「わざわざ文献調べてまで鑑定したんだろ? 文献の共通点がわかりゃ一発だろうが」

「よく生きて帰ってこれたわね、これでますます値が付けられない厄介者になったわ」

「おいおい頼むぜ? 金とお宝は天下の回りもんだろうがよ、しっかり回してもらわねーと」

「そう言うと思ってね、貸し倉庫に入りきらない分は商人仲間に引き渡した。で、代金のうちアンタの取り分がこちら」

 店の隅に置かれた二抱えはありそうな革袋。持ち上げるとジャラジャラと硬貨の音がした。

「ちなみにそれの中身の大半はのべ棒だから。硬貨や紙幣じゃ払いきれないシロモノだったから」

 なんでもないことのように言う。目は既に狐目に戻っていた。熱しやすく冷めやすい質の女らしい。

「酒場で使ったら店ごと買えるぞそれ、勘弁してくれ、のべ棒とかどこの店で使うんだよ」

 対してこちらはそれを聞いた途端に顔色を変えた。

「アンタ自分がどういう品持ってきたかわかってる? 値が付けられる品だけでそういうことになる品なの、アンタの貸し倉庫は今値が付けられない品でいっぱい。ご愁傷様」

 大金が入ってくる話だというのに全く嬉しそうじゃない二人。当然だ。使い道がない金など場所はとるわ狙われるわと置物以下だ。

「まぁ次来るまでに売り飛ばしといてくれ」

 袋を担いでレドルフは店を出た。

 

##

 

 遊んで暮らせば子の代まで、慎ましやかに暮らせば孫の代までやっていけるだろう大金を担いだまま裏通りを歩けばどうなるか。

 誰もが知ってるその答えをレドルフは体験することになる。

「随分景気良さそうな袋持ってなぁ兄ちゃん」

 凄んでくる数人を前にこの男は平然としていた。

「やっぱジャラジャラうっさい?」

 そしてあろうことか袋に手を突っ込み、

「俺もそう思ってんだ、くれてやろう」

 集団に向けて金の延べ棒を投げつけ回れ右して駈け出した。

「え、これ本物!? って逃げた!!」

「追え、あの袋、殺してでも奪い取れ!」

「えらく物騒な奴らだな」

 結局チンピラごときに捕まるこの男ではなく、逃げ切った後は下水道に潜んでいた。蓋もきちんと閉めたしその蓋からも遠ざかった位置だ。まず見つからない。

 しかし、この大金の袋をどうしたものだろうか。レドルフの信条は金は天下の回りものというやつだ。この男が大金を得ても世間にもこの男自身にも得はない。

 普段ならウスグモの店で受け取った金を次の遠征のための旅費にして、帰り道すがら目についた教会や孤児院に余った金を見つからないよう夜中に置いてくるということを繰り返す。だが、これほどの大金を使い切るにはいくつ教会をめぐっても足りはしない。

 しばし思案して、

「あるじゃねえか、一番金が手っ取り早く消える方法」

 この瞬間、レドルフはこの国で最も傍迷惑で物騒な男になった。

 

##

 

 再び「生き馬の目」にて、

「ただいまー」

「一日でさばける訳ないだろ出てけ」

 そもそもここはレドルフの家ではない。図々しいにも程があるだろう。

「馬鹿言え、今日は倉庫から品を受け取りに来たんだよ。今回の財宝まるごとよこせ」

「運べるのか?」

「そこは頑張る、今回の計画それが一番の難関だしな」

 清々しいほどに悪人の笑みを見せた。

 袋を一つから五つに増やし、荷車まで駆り出しようやく表通りへ辿り着く。

 目指すはハンターズギルド。平たく言えば傭兵と何でも屋の集まりだ。当然裏稼業の最前線にして協調性皆無のレドルフに縁のある場所ではない。

 ドアを開ければ一階は酒場になっており、誰がメンバーで一般の客は誰なのかもわからない。何より騒がしくどこもかしこもお祭り騒ぎの喧嘩祭り。

 酒場のカウンターでパイプを弄んでいるのがこの酒場の主だ。すなわち、このギルドの長でもある。

「超大口の仕事依頼したいんだが……」

「内容によるな。あとお前さんの名前だ」

 一瞬顔をしかめたがすぐにごまかした笑みを浮かべ、五つの革袋をカウンターに載せた。

「いいから報酬を見ろよ。失敗成功問わず参加者でこのうち二つを山分けしてくれ。ただし、この依頼を受けてくれ次第俺はこの街をトンズラする。残りの三つは生き残った奴に成功報酬としてアンタが渡してくれ」

 音だけでわかる中身の量に流石のギルドマスターも態度を変える。

「聞こう、何がしたい」

「そもそもこのお宝は、ある洞窟から転移術で飛ばしたあと命からがら逃げ出したって経緯の品々だ」

 地図を広げ、指を指す。その洞窟はこの地方では知らぬものはない。竜のねぐら。生きて帰ることすら奇跡とされる場所だ。この男の運の良さが伺えようが、この男はそもそも竜討伐を目的としてなかったから比較的生存率は高かっただけの話だ。

「断る。どれだけの報酬だろうとあのねぐらはゴメンだ」

 当然の対応だ。このギルドの名誉のために語れば、全戦力を投入すれば互角に戦うのも不可能ではないだろうが犠牲が多すぎる。さながら戦争のような戦いになるだろう。

「いいのか? 俺はこの街を拠点に活動する発掘屋だ」

 この男は発掘屋というより盗掘屋だろうに、いけしゃあしゃあと言い切った。

「何が言いたい?」

 レドルフの口車は既に始まっている。最善をつくすならこの時点でこの男を殺して訪れた竜に首を捧げるべきだが、よりによってギルドマスターは聞き返してしまった。

「この街には俺の匂いがこべり付いた家がある。遅かれ早かれこの街は滅ぶ。さっき言ったろ? 依頼を受けるならこの街からトンズラしてやろう」

 あまりにも身勝手で巫山戯た話だが、聞いてしまったからには無視できない。ギルドは街に密着し、街を守る存在だからだ。

「ふざけた男だ、お前の名と顔は決して忘れん。永久にこのギルドから追手がかかると思え」

 街のすべての住人を人質に取られ、怒りに燃えるが既に遅い。レドルフは最後の一手を口にした。

「無事にトンズラ出来たら手紙で俺のねぐらの場所も教えるから焼くなる壊すなり好きにすればいい。竜への反撃の狼煙は既に誠に勝手ながら俺があげちまった。あとは滅ぶか滅ぼすかだ」

「いいだろう、お前のふざけた話に乗ってやる。これに名を記し手形を押せ」

「育ちが悪くて字が読めないんでね、名乗りと手形で許してくれや。俺はレドルフ・カウフマン」

 その名を聴いた時、ギルドマスターの表情が凍りついた。

「お前が、脱獄王か」

「そんなカッコイイ名前で呼ぶなよ、俺は薄汚い盗賊さ」

 この世で最も金を浪費する行為とは戦争だ。

 かくしてこの国で最も傍迷惑な男は手形を押した後身軽になって街を飛び出した。

 この男にとって世界とは人生とはお遊びだ。積み上げて安定な老後など興味はなく、明日の自分は他人の如くどうでもいい。今、楽しいかどうか、それのみだった。つまり、竜とギルドの戦いの結末などこの男にはどうでもいいことだった。

 

##

 

 あの街から南へ馬車で十日ほど、城下町の王に忠誠を誓う貴族の一人が暮らす館があった。

 農地が多く、国の運営には重要な領地を任されるだけの有能さのある人物だった。

 しかし、今夜その館に安らかな眠りは訪れない。

「旦那様。侵入者です。結界に反応が三つ」

 一日の業務を終え寝入った矢先に巫山戯た話だ。館の主自らレイピアを構え、召使い達に侵入者からは逃げるように伝令を伝えた。

 侵入者のうちの一人はこの国で最も傍迷惑な男、レドルフだった。血を木の根に染み込ませて作った木偶二つを別々から送り込み、自分自身は巫山戯たことに玄関から堂々と入った。

 しばらく彷徨くと、ナイフを構えた子供が飛びかかってきた。手首に鎖がつき、レドルフのマントよりもボロいボロ布を着せられ、額には布が巻かれていた。

 ナイフを躱すが、その子供の様子を見た途端に、表情を酷く歪めた。心底嫌いで仕方ないものを見た顔をしていた。

「他の召使いは一目散に逃げたぜ?」

 この男はその問いに対する答えを知っていた。分かりきっていた。

「僕は代えの利く消耗品ですから」

 子供は奴隷だった。伝令はこの子には伝えられない。代わりに命を捨てて足止めするように命じられていた。

「予定変更だ、盗みだけじゃ済まさねえ」

 小さく呟いた後、子供からナイフを取り上げた。

 そのナイフで自らの手首を切り裂き、血を床や壁にばらまいた。

「なにしてるんですか?」

「悪いこと」

 今回使うのは転移術のように位置の指定は必要ないしそもそも規模も小さな軽めの術。命を燃料とし、ただ唱えるだけでいい。

「命の輝き世界を照らせ、痛みと蝕み肉を焼け」

 ばら撒かれた血が一斉に発火した。

「おい、奴隷はいくつある?」

「お爺さんが少し前に死んだから今は僕だけです」

 目の前の光景に慌てることもなく抑揚のない声で答えた。

「都合がいいな」

 こめかみを指でつつき、更に唱えた。

「命を啜り蠢く同胞(はらから)に命ず」

 そこから口調を変え、命令内容を追加詠唱する。

「Search And Kill(みつけ次第殺せ)」

 唱えた途端、館の何処かで悲鳴が響き始めた。木の根の木偶が囮から襲撃者へと転じた。

「お前は壊さない、どうせ忠誠なんかないだろ? 主の居場所を吐け」

「はい」

 レドルフが何をする気なのか気づいたのか、奴隷は少しばかり微笑んだ。

 

##

 

 次から次へと死体を量産する木偶共がようやく切り倒されたものの、既に館の主は満身創痍、加えて生き残った召使いは既にない。館はもはや焼け落ちる寸前だ。卑怯な手を惜しみなく使い倒し、ようやく敵が姿を表した。

 敵は何故か奴隷を肩車し、微笑ましい雰囲気を醸しながら鼻歌を歌って現れた。

「一つ聞く、奴隷は物か人間か」

 子供を下ろしながら無表情に問う。

「消耗品など物に決まっているだろう、この国の貴族は誰もが知っている」

 その答えに悪気は一切ない。先祖代々、そして彼自身も幼い頃からそう教わってきたのだ。そのことに疑問も持たない。

「あっそ」

 もはや用はないとばかりに敵は襲いかかった。右手にナイフを持っているが何故か振り上げたのは傷を負った左腕だった。振った勢いで飛び散るはずの血は粘り気を得てしなやかに伸び、一瞬で鋭く固まった。

 レイピアで咄嗟に赤く怪しい刃を防ぐと、刃はあっさりとレイピアをすり抜けた。いや、断ち切られた。折れた赤の切先が宙を舞い、回転しながら更に細く鋭く伸びた。

 さくり。と、軽い音を立てた後レイピアを握った右手首が地面に落ちた。

「は?」

 痛みを認識する前に右のナイフが喉を抉った。

「さーて、盗むか」

 そう呟くくせに、何も持たず子供を肩車して出て行った。

 

##

 

「あの、人攫いですか? 僕はまた売られるんでしょうか?」

 その素朴な表情にそぐわない悲惨な問いに、ナイフを投げ捨てながらめんどくさそうに質問を返す。

「お前今まで人間扱いされたか?」

「いいえ」

「じゃあ俺はまだ盗賊だ。俺はただ道具を盗んだだけさ」

 答えながら頭に巻いた茶色い布をとった。そこには刃物で皮膚の一部を剥がした惨たらしい傷跡があり、その傷跡のすぐ横に削り残したように刺青がある。刺青はLとあった。

「俺はこうして人間になったがお前はどうする?」

 問いながら子供の額の布を剥がした。そこには人を番号で管理する刺青があった。この刺青には魔術の効力があり奴隷の位置を主に知らせたり意志を奪って命令を強制できる人形を作ることも可能なものだ。

「僕を使ってくれる人がいないのは嫌です。あなたはあの人と違って僕に痛いことしないでくれますか?」

 自分で考えたり自分の意志で生きる気力すらないのか、哀れな答えを返す。しかし、この子は既に前の主と目の前の男を天秤にかけ選ぶということが出来た。

 この子は自分で選び、自分の意志で生きることが出来る筈だった。

 それが出来るのにしないその態度にレドルフは悲しそうに溜息を吐き、

「お前、俺が主の居場所聞いた時吐いたよな」

「はい、命令でしたから」

「誰の?」

「あなたの」

 そこまでで問答を一度止め少し考える素振りを見せて結論を告げた。

「使ってやろう。だが額のそれで人形にする。いつ裏切るかわからねえ奴と歩く気はねえ」

 脅すように告げられた言葉に平伏しながら答えた。

「構いません」

 顔を上げさせ、先ほどのナイフで指先を突く。傷口に膨れた血玉を子供の額に押し付けた。それから刺青を赤くなぞる。

「マスターの変更儀式を確認。命令の御入力を要請します」

 なぞり終えた途端奴隷の目から光が消え、人形の目になった。

「命ずる、これより下す命令は連続して順序通り行え、更に入力を完了してから実行せよ」

「了解しました一時命令の実行を停止し待機します」

「まず裸になれ、次に額の刻印をこのナイフで切り裂いて引き剥がす、第三に俺の進路とは逆方向に進み、最初にあった人間に追いはぎに襲われ親も殺されたと助けを求めろ、この際に必死な表情の演技を追加実行すること。介抱されたら意識を失い次に目が覚めたらお前との契約を解除とする。命令は以上だ」

 裸にするのは衣服から身分がバレないための配慮、額の傷と衣服はいもしない追いはぎの所為にし、そのまま奴隷自身を解放。この男なりに配慮ある命令だったが、

「了解しました」

 服を脱ぎ始めた時僅かな罪悪感とともに後悔した。奴隷は少女だった。

 背を向けあい元奴隷の盗賊ともうすぐ解放されるであろう奴隷人形はそれぞれ立ち去った。

「ま、あんなボロ布じゃあおめかしできねえしな」

 既にプラス思考にレドルフは切り替え、一切振り返らずに次の遊び場へ向かった。

 

##

 

 レドルフと別れた後、商隊に拾われ馬車で眠っていた元奴隷の少女は目を覚ました後まず泣いた。

「捨てられちゃった……」

「目が覚めたか? 怖かったろ、もう大丈夫だ」

 商人が顔を覗き込んでいた。額の傷の手当が万全かどうか自信はなかったが、もうすぐ城下町に着くのでそこで医者に見せればいいだろうと商人は考えていた。

「おじさん……」

「なんだい?」

「レドルフ・カウフマンって盗賊御存知ですか?」

「ああ、商売敵の雌狐の相棒か? 会ったことはないけどよく知ってる」

「私のお兄さんなんです、私はレドルア・カウフマン」

「そうか、そうか。弟子候補がいなくなるのは残念だが目的地に付いたらレドルフと仲の良い奴を紹介しよう」

 レドルフはひとつ命令をミスした。契約の解除の前に記憶の消去命令を与えておくべきだったろう。元奴隷改めレドルア・カウフマンがハンターズギルドに加入してレドルフを追う側に回るのは五年後の事になる。




設定上この世界では最も傍迷惑な男
不老不死がバレてないので代替わりしてるとか噂されたり騙りが出たりもしてる。

ところで、時々国語の授業でこの作品を書いてる時筆者は何を考えていたか答えなさいってあるよね。
 この小説の場合締めきり大変でしたで正解です。風邪ひいて書き上げるの大変でした。
 元はひとつのアイテム盗んだり一つの計画ごとに一話づつ使った連載物として書いてました。
 ドラゴン洞窟編が第一話、ギルドおちょくり編が第二話、奴隷人形編が第三話です。
 第四話の構想もありましたが締め切りとページの兼ね合いでここまでとしました。
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