大学部誌の保管庫   作:三樹知久

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バカの話


英雄にならずとも

 ラクダが何十頭もいた。ついさっきまでの話だ。地面に穴が開き、穴の縁がせり上がる。

 口に牙を生やした大人二抱えの太さの巨大な肉の筒がラクダの足元から現れ、一口で獲物を呑んではまた潜る。

 六組の家族から成る行商人のキャラバンは、たった一匹のワームに壊滅させられた。

 食料も人も水もラクダも呑まれてゆく。更には食料ですらない荷物も構わず呑んでいった。次から次へとパニックを起こしながら呑まれてゆく人とラクダの中、一人の少女だけが放心したまま蹲っていた。

「生き残ってるものは全員止まって伏せろ!!」

 不意に意味のある叫びが響いた。恐慌の中聴く者はいなかったが偶然指示どおりにしていた者は一人いた。放心した少女だ。

 それはラクダに荷を載せさらにその荷の上に跨った黒い貫頭衣の男だった。一度ラクダに指示を出して、できるだけ高く跳ぶ。更にそのラクダの背から男も高く跳ぶ。男は踵を砂に叩き付けるようにして大きな衝撃を地面に伝える。対して、ラクダ自身は衝撃を和らげるように着地する。ラクダやキャラバンの足踏みが目立たなくなる。ワームの標的が男に移る。

 僅かに地面が盛り上がった瞬間、また跳ぶ。が、僅かに間に合わない。貫頭衣からはみ出た脛の右側をやられた。男は全く怯みもせず痛みに表情を歪めもしない。膝まで覆った貫頭衣を翻し、鉄甲に覆われた掌を見せた。牙の一本を掴み、潜っていくワームにしがみついたまま諸共に地面へ潜る。次にワームが頭を出した時、男はいなかった。が、妙だ。出てくるときは必ず獲物の真下から頭を伸ばすワームがなにもないところから頭を出した。そして何やら頭を振り回し藻掻いている。

「轟覇!!」

 突如ワームの頭が内側から爆散し、その体液に汚れた五体満足な貫頭衣の男が現れた。

 着地したあと周りを見回し、まるで迷子になった子供のような不安そうな表情を見せた。

 貫頭衣の中からつばの広いテンガロンハットを取り出して被り目元を隠した。

「また間に合わなかった」

 男はそう呟いた。

 生き残りは少女一人でキャラバンのラクダも全滅していた。

 

 ##

 

 目の前の非道を放って置きたくない。俺が戦いを始めた動機はそれに尽きた。英雄になりたいわけじゃなかったしまずなりたくなかった。たった一人が負けただけで世界が終わるような、御伽噺の英雄なぞ俺のトラウマの根源ですらある。

 

 ##

 

 風が貫頭衣を揺らし、砂を巻き上げ旅人の目を細める。ラクダの荷となった少女が口を開いた。

「水……いりませんか?」

 気弱そうなか細い少女の声が反響するもののない砂漠の風に消えてゆく。

「俺はまだ休憩はいらない、君が休憩したいのなら話は別だ」

 答えた貫頭衣の男は金髪碧眼に精悍な顔つきで物語の主人公によくありそうな見た目の青年だった。つばの広いテンガロンハットを深く額までかぶっていた。答えた男はここ数日水も食事も摂っていない。少女は気付いていなかったが睡眠さえも摂っていない。

「まだって……死にますよ?」

「死なないから問題ない」

 少女は蹲っていたから見ていなかったが根拠はある。喰われた筈の脚が根拠だ。

「食料はまだあるか?」

「今日の夕飯で……」

 そもそも荷物の大半はワームにやられた。散乱した荷物の中には破れたテント、使い物にならなくなった商品、そして僅かな食料、そんな程度だった。よって旅荷物の全てを少女は男に頼っていた。しかし、この男の荷物に食料と水は殆ど無く、お世辞にもこの砂漠を越えられるような用意ではない。旅慣れた様子のこの男にあるまじき荷物だった。

「……そうか」

 呟いたあと男はラクダに指示を出す。立ち止まらせ少し歩いてラクダから離れた後……、

「一!」

 地面を思い切り踏みつける。砂が波打ち衝撃を伝える。暫くして、男の出した衝撃とは別種の響きが砂漠を震わせ、砂漠が弾けて、再びそこにはワームがいた。

「二歩!」

 が、躱す。

「ひぃ!!」

 少女がパニックを起こすがラクダから飛び降りれもせずその場で頭を抱える。大してラクダは主に何を命ぜられたのか凶悪な捕食者を目にしても全く動じずそのまま立っていた。

「惨!」

 躱してワームから離れた男は、一歩近づく。ワームが潜り始める。

「疾、」

 もう一歩、ワームがさらに潜る。

「轟覇!!」

 丁度男が突き出した拳がワームの口を横から殴りつけ、爆散させた。ワームの肉を掴み砂から引きずり出しながら、

「これでよし」

 そう呟いた。

 

 ##

 

 目の前の非道を放って置きたくない。聞こえはいいがそれはなんの価値もない動機だ。

 なぜなら目の前で既に非道は起きていて俺はいつも間に合っていないという事だし、目の前で起きていない事に手を出せないという事をも示すのだから。

 侵略戦争を食い止め守った国が新王の暴政で滅んだと聞いた時は頭が煮えたぎるようだった。

 狼に襲われ難儀していた遊牧民を助けたが俺が立ち去った後に盗賊のキャラバンに襲われたと風の噂で聞いた時は思わず膝を着いた。

 

 ##

 

 それから夜になるまで男は巨大な肉の筒を引き摺りながらラクダの横を歩いていた。

「こいつらは衝撃と振動で襲ってくる、集団でいるときに襲われやすい。個人での旅でもありうるがめったにない。集団で最初に襲われた一人はどうしようもない。つまりめったにないが一人の時に来られたら普通は即アウトだからさっきの俺の真似はしないように。対処は動かない事これに尽きる」

 役に立ちそうで立たない講釈だった。今地面に脚をつけているのは男とラクダだけなのだから。

「ところでなんでそれ引き摺って歩くんです?」

「食料が足りないといっただろう?」

「え?」

 珍しく男は晴れやかな表情で言った。そして高らかに続ける。

「砂漠越えの時、俺はあまり食料も水も持たない。何故ならいくらでもこいつが手に入るから必要ないんだ。なかなかに美味い。今回は殆ど君に譲ろう。まだまだ道程は長い」

「え?」

 そしてもうすぐ夜が来る。

 

 ##

 

 御伽話の英雄は与えられた力で与えられた使命を果たしに行くものだ。御伽話の英雄が負けたら世界は滅んでしまうのが常だ。たった一人の敗北で何もかもが終わる。

 世界全てとまでは言わないが、国ひとつ滅んでしまうような重責の中戦い続けた男を知っている。

 例えば、平和ボケした国の平和ボケした首都があるとしよう。城壁に囲われ守られ早数十年。通商のための門は一つしかなく、その門をたった一人で守る歴戦の勇士。

 とても平和な都だ。魔物は出ない、賊は入ってこられない、スラムなんかもない。

 たった一人の勇士がその都の平和を守っていた。そして、ある時俺だけが気付いた。そのたった一人が何者かに負ける日が来るなら、その何者かに勝てる者はこの都にはいないのだと。英雄と悪の大王の御伽噺の世界とこの都は同じなのだとある時俺だけが気付いた。

 幼い頃の俺は周りの友人にそれを語り、父母に叫んだ。誰も聞き届けなかった。勇士は誰にも負けない。勝てないものは病と老いだけ。四代目はこれまでの勇士で最強なのだと都の大人は言った。

 勇士の手伝いをしようと、城門に通うようになった。

 その都が滅んだ日に、俺は勇士と共に城門の外にいた。

 

 ##

 

 運よくオアシスが見つかったのでその横にテントを建て、樹の枝を拾い僅かな薪にする。

 そして運命の時は刻一刻と近づいてくる。

「よし、焼けたぞ。血も器にとっておいた。しっかり食べて明日に備えるといい」

「……………………」

「どうした? いくらでもあるんだから気にすることはない」

 そう言って男はテントの横の早くも干物になり始めたそれを指す。

「…………………………いただきます」

 あまりにも屈託のない、見た目に合わない笑顔を見て、少女は涙を堪えて食った。

「…………美味しい」

「だろう? 何度か正体を教えず食わせたことがあるんだが誰にも文句を言われたことがない。正体教えると殴られたことが一度あったが」

 ワームに襲われてから表情の暗かった少女が吹き出すように笑った。微かではあったが確かに笑った。

「そういえば、どうして助けたんです?」

「目の前の非道を放っておきたくない。特に意味は無いさ。俺はそんな生き物なんだ」

 その答えを聞いて少女は納得していないようで、少し顔を顰めた。

 

 ##

 

 滅んだ都を見捨て、俺は浮浪者になった。

 浮浪者になって数ヶ月もしないうちに俺は人買いに捕まった。それから入った牢獄は雪山の奥だった。季節もわからないまま、長い日々が過ぎた。

「生き方を選べないなら死に方を選ぼう」

 そう言った奴がいたのは覚えている。そいつに賛同する奴が増えそれは決行された。あいつらは本当に死ぬ気でいた。外は雪が降り積もっていてこの檻の中でさえ寒いというのに手当り次第に壁を壊し、見つけた薬品は片っ端から火をつける。

 ここは仮にも奴隷収容所で人体実験場なのだから、体内に入れる薬に火をつけて建物が瓦礫の山になるなどと誰が思うだろう。

 そうして爆発音が聞こえて、崩れてくる天井を見た。さすがに終わりだな、コレは。

 

 ##

 

 少女が寝静まった頃、男はテントを出る。特に深い意味は無い、ただの見張りだ。

 日が昇り始める頃に焚き火を付け直し、肉を焼く。いい匂いが漂い、すこしばかりよだれを垂らすがどうにか堪えて調理を終える。

「……おはようございます」

 匂いに誘われたのかいつもより早く少女が起きる。

「今日の夕方辺りには街につけるだろう」

 その朝やっと彼は食事を摂った。彼が肉を食う様をみて、少女の笑顔が柔らかくなった。

「昨日より美味しいですね」

 昨日よりも柔らかい笑顔で少女は言うが、

「それは妙だな、鮮度は落ちているはずなんだが」

 少女はすぐに顔を顰めてしまった。

 昼食はラクダに腰掛けたままで完全に干物になった肉を齧らせた。干物になったせいで味が落ちたのかそれとも別の理由か、少女は少し顔を顰めていた。

 砂漠の端の街が見えた時、男は唐突に少女に別れを告げた。ここまでくれば安全だから後は好きに生きると良いとそう言った。

 それまで感情を露わにせず穏やかに弱々しかった少女が堰を切ったように叫んだ。

 

 ##

 

 終わってなかった、目が覚めた。瓦礫の山の上に俺は横たわっていた。

 俺以外にもさらに三人生存者がいた。結論から言うと生き残ったのではなく、死ねなかったのだ。

 人体実験場でもあったこの奴隷収容所は子孫代々まで末永くお使い頂ける死なない奴隷を目指していた。未出荷品が四体いたわけだ。

 虫唾が走った。俺自身はなんの努力もしていないのに、何かに選ばれたように特別な力がこの身にある。まるで物語の英雄のようだ。

 生存者同士で名前を与え合う。これから生きていくための名を。

「バルマー。ガキの頃憧れだった御伽話の英雄の名。お前にゃ多分ピッタリだろ?」

 やはり、英雄と呼ばれるのに自分が相応しいとは思えなかった。あの反乱の中でそんな風に見られたのだろうと思うとその期待を裏切れず、俺は旅を始めた。頭が煮えたぎるような思いをして何度も膝を着きながら旅を続けた。そうして今に至る。

 

 ##

 

「じゃあなんで助けたんですか!」

 周囲に人混みがあれば一斉に振り返るような悲痛な声で彼女は叫んだ。

「目の前の非道を」

 昨夜答えの答えを繰り返そうとして、

「そんな誤魔化しは砂漠で聞きました!」

 途中で遮られる。

「な、何を怒っているんだ?」

「私は行商人の娘です、帰る故郷もない。あの砂漠で商品も親もなくして私これからどうやって生きるんですか? ワームに食い殺される代わりに野垂れ死にしろっていうんですか? あなたが今からすることが非道でなくて何ですか!? あなたきっと今までもそうやって助けた相手をほったらかしたんじゃないですか?」

「……ああそうだな、自分が屑だってことは前から知っていた」

 男は能面のような無表情になって作り物のような声でそう言った。

 

 ##

 

 助けた相手に真正面から罵られたのは初めてだった。だというのに俺はその言葉に一切反論の余地を見いだせなかった。

 英雄と呼ばれたり恩人として扱われるのが嫌だったから助けた後はそそくさと立ち去るのが常だった。今回だってそのつもりだった。

 この娘を助けたのだって特に感情の籠もらないルーチンワークだった。

 手も目も回り切らない世界を彷徨いながらその場その場の非道をどうにかするよりも、何かを守り通したほうが有意義なのかもしれない。そんなことは……ずっと前から考えていた。わかっていた。そんな生き方をしてみたかった。

 今まで色んな所で人助けをしてみたが俺は正に助けるだけで、助けた何かを守るなら既にその役に収まっている隣人がいた。そうしてその隣人が何かに敗北を喫して台無しになったという話を後から聞いて俺は膝を着く。

 俺は最初から英雄になんてなりたくなかった。俺は何に選ばれたのかは知らないが死なない体を得た。けれどその使い道は英雄なんかじゃない。負けることのない隣人に俺はなりたかった。

 

 ##

 

 テンガロンハットを脱ぎ、目と目を合わせ、男は言った。帽子で隠されていた額には皮膚を剥がしたような傷跡と刺青があった。

「もう一度言う、君は好きに生きるといい。どんな旅をするかどこを目指すのかそれは君が決めるんだ」

 一言一句確認するように絞り出すように言った。

「その旅はきっと一月も持ちませんよ?」

 涙声のまま少女は返した。

「でだ。まず君に重要な選択をして欲しい。俺はその旅に同行してもいいだろうか。君は俺に見捨てるのかと問うた。逆だ。助けるだけ助けてほったらかすこんな半端者を君は隣人として受け入れてくれるだろうか」

 男も泣いていた。少女の言葉が彼の琴線に触れ、それまで抱いていた自分への疑問と不安の全てを曝け出して泣いていた。

「私は、一月で野垂れ死ぬような旅はゴメンです」

 膝を着いて声すら出さずに泣く男の頭を少女は抱きしめる。少女はもう泣いてなかった。

「さしあたってあの街で美味しいでも食べましょう」

 男が泣き止んで立ち上がった時先に口を開いたのは少女だった。

「あの街の特産はラクダだな」

 もう一頭の旅の友へ残酷な宣告が下された。

「え?」

「安心しろ。食用荷運び用は分けているそうだから、これを変な目で見る奴は街にいない」

「それならいいですけど……」

 貸しラクダであるこの友との別れがあの街であることを男は言わなかった。

「そういえば名前……聞いてませんでしたね」

 少し男は眉を寄せ、額の傷跡を指差して答えた。

「バルマー・カウフマン」

「御伽噺の英雄が、女の子にすがりついて泣くんですか?」

 こんな少女でさえその御伽噺を知っていた。

「前提が間違ってるな、俺は英雄なんかじゃない」

 

 ##

 

 それから彼女は様々な街を見たがり、どこに行くにもまずその街の特産を知りたがった。

 人に教えると大概難色を示す物もワームで慣れてしまったのか彼女は嬉々として食べた。

 思っていたとおりだった。英雄として世界を彷徨うより誰かを守ったほうが有意義な旅に感じた。

 父娘に間違われると彼女は拗ねた。俺も彼女の親に悪いから否定した。何故か白い目で見られた。俺に少女趣味はない。

 兄妹に間違われると彼女は拗ねた。父娘よりはマシだろうというと彼女は更にヘソを曲げた。周りに兄さんが悪いと言われた。

 姉弟に間違われるようになる頃、彼女は拗ねてもそれを表に出さないようになった。そういえば何歳になったかと聞くと蹴られた。周りには俺が悪いと言われた。三桁の俺を前に年を気にしてどうするのかとは言えなかった。彼女の前では大怪我もなく無傷で勝つようにしていたから、もしかしたら彼女は知らないかもしれないから。

 ついに俺が変わらない事を問い詰められ、俺は正直に自分の正体を語った。彼女は隠していた俺を許し、自分がどれほど老いても旅を続けて欲しいと言った。

 

 ##

 

 少し荒れた道を馬車が行く。御者はテンガロンハットを被った黒い貫頭衣の男で、馬車の荷台に積まれたテントや毛布に寝転がっているのは老婆だった。

「ねえ、次の街は何が美味しいのかな?」

 老婆が御者に問う。どこかぼんやりとした夢見心地の声。

「三つぐらい前の街でここから先は俺も知らない土地だと言っただろうに」

 呆れたような声だがそこに悪意は一切なかった。ただ長い付き合いの連れ合いを労るような声だ。

「ああ……そうだったね。そういえば前の街の特産は野菜だったね。長持ちするかな?」

「次の街までは体にいい食事になりそうだな」

 穏やかに静かに馬の蹄が音を鳴らしていた。

「ねえ、何時頃からだろうね、バルマーの名前を聞いて誰も驚かなくなったのは」

「何時頃からだろうな、おかげで俺も気が楽だよ」

 焚き火の前で、雨の中布屋根を張った馬車で、風に揺れる馬車で、

「英雄ぶらなくていいものね」

「そうだな……」

 旅人たちのとりとめもない話は続く。

 ある日、テントの中で、会話が途切れた。

「おい、どうした? 寝るなら夕食の後にしないと明日が辛いぞ? ほら、起きろ」

 途切れた会話はとりとめのない独り言から、涙声に変わった。

 

 ##

 

 彼女を喪って、墓を掘った。証明された。人助けをして回るより誰かを守り通したほうが有意義な旅だった。けれど、その誰かを喪った時どうすればいいのかを俺は考えていなかった。馬鹿な話だ、どんな人間でも俺より長生きするなんてあるはずがないのに。

 ここに家を建て暮らすのもいいかと思ったが、商人のよく通るこの道には賊もよく出た。

 大抵は薪拾いしてる途中で、賊に襲われた死体を見つけて墓を掘る程度だった。数年して、ついに襲われている現場を見てしまった。

 そして、昔忘れたはずの悪い癖が出た。

 助けた相手に礼を言われ同行を頼まれて、俺は何故か断っていた。その場を逃げるように旅を再開して、昔嫌で嫌で仕方なかった英雄ごっこすら再開していた。

 誰かを守ったほうが有意義だと知った筈なのに、隣人のいないものを助けた後も俺は同行を断っていた。商人を助けて同行を頼まれた時、貴族を助けて騎士として残れと誘われた時、どこかの街の自警団に誘われた時。

 何故だかそこで隣人になるつもりになれない俺がいた。

 誘われる度に、彼女の顔が浮かび、目の前にいる誰かの隣にいたいとは思えなくなる。

 気付けばまた英雄の名は売れ始め、俺は首を傾げながら名乗る。

「英雄見習い、バルマー・カウフマン」

 見習いをつけるのは多少の抵抗のつもりだ。

 




主人公は強くてイケメンで朴念仁であるべきだと思ってみたり。そんな訳で今回の主人公は馬鹿にしてみました。自分がどういうつもりで彼女と旅をしていたのか気付かないまま旅をするバカを書いてみました。

で、これ当時の私の原稿で一番評価が良かったんですよね。

そんなに朴念仁が好きか。
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