大学部誌の保管庫   作:三樹知久

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これを書いてる時期、水木しげ子さんと結ばれましたというラノベを読んでブチ切れてた覚えがある
まずヒロインの名前に惹かれて買ったのだがあまり多くは語りたくない
で、赤い糸を題材になんか書いてやろうと思い立ったけどあれだけブチ切れときながら
本職の作家にはそれでもかなわんのだと絶望しながら原稿提出しました


赤が似合うあなたが好き

 人はそれぞれの人生の主人公という言葉があるけど、それは真実だろう。そこは認めよう。けれど、それが名作になるとは誰も言ってないと思うし、言った奴がいるなら、そいつを僕は軽蔑する。

 

 僕の両親は赤い糸が繋がっている。両親が糸で繋がっているわけじゃない。それぞれ別の男女と糸が繋がっている。

 

 夏休みはまだ終わっていない。登校日でもないのに生徒たちが呼び出され、全校集会が始まる。校長先生が重々しい口調で悲しそうな顔をしている。サッカー部のキャプテンがこの夏刺されて死んだ。これを聞いて喜ぶ男子は僅かながらいた。そんなだからモテないのだとは誰も突っ込まなかった。これを聞いて嘆く女子は多くいた。彼は学校のヒーローだった。学校中の教師も生徒もそのニュースに驚いた。けれど、僕はああやっぱり、と思った。ついでに犯人の心当たりがあった。五人ほど。あの五人なら誰がやってもおかしくないし何時かやると思っていた。ただしその五人は仲がいいわけでもない。むしろいがみ合っていた。五人の女子全員と彼は赤い糸で繋がっていた。

 

 アダ名で呼び合う悪友っぽい男女も赤い糸で繋がっている。保健室の先生は歴史の先生と繋がっている。赤い糸の条件は知らない。運命か両想いかそれとももっと生々しいのか。確かめようがない。僕には一本も繋がっていないから。

 

 帰り道、電柱に止まってセミを捕ろうとしている子供を見た。多分小学生。あんな子供からでも赤い糸は伸びている。繋がっている相手はどんな人物で、どんなふうにこの少年の人生に関わるのか。すぐに僕は考えるのをやめた。

 

 誰の人生にも影響を与えない人生とは果たしてどんな人生だろう。きっとその物語は例えようもなく駄作で、その主人公は誰の人生の脇役にも登場しないのだろう。両親の人生に子として登場はしているだろうけど、それはもしかしたら端役かも知れない。何しろ両親がそれぞれ別に赤い糸が繋がっているぐらいだから。

 あの二人にとって家庭が重要な物である保証はどこにもない。

 

 夏休みが終わって最初の日。転入生が黒板の前で自己紹介をしている。男子が喜んでいる所を見るときっと美人の女子なのだろう。

 僕にはそれが赤い糸巻きにしか見えなかった。糸巻きがもぞもぞと蠢いて、名を名乗るさまは悪夢のようだ。糸巻きからズボリと腕が生え、チョークを受け取って名前を書く。

 赤坂志保というらしい。僕の脳内では赤糸さんに決定だ。

 席は、五月に中退した奴の席に決まった。僕の隣だ。よりによって端役の中の端役の隣に転校生である。何かの間違いじゃないかと思ったけれど、隣の隣に学級委員がいたのを思い出す。転校生の人生にクラスメートとして影響をあたえるのは端役の仕事じゃないらしい。今日も世界は正しく回っている。主役は主役らしく、端役は端役らしく、滞り無く回っている。

 

 どうやら彼女の物語はとても展開が早いようだ。完全下校時刻に図書室を追い出された僕は、下駄箱で右往左往している彼女を見た。革靴を隠されたらしい。転校初日にしていじめ勃発だ。当然それを助けたりするのは隣の隣の席にいる主役の仕事なので僕は出来るだけ影を薄くして帰った。まさか本当に話しかけられないとは思わなかったけど。

 

 帰り道、本屋で幻覚や頭痛についての本を漁る。

 いがみ合っていたはずの五人の女子が喫茶店で一堂に会するのを見た。相変わらず雰囲気最悪なのが店の脇を通り過ぎるだけでわかる。ただ、テラス席であんな腹黒サミット開かれたら店の人可哀想だな。彼は死んだというのにそれぞれ五人とも未だに糸が伸びている。まさか死体に繋がっているわけか……。

 

 仲がいい両親と夕食の団欒。ものすごく胃が痛くなる。演技上手いなとしか思わなくなった。時々フォークや箸の先端に惹かれる。目を抉ってしまえばいいのだと、そう思うのに痛みが怖くて出来やしない。

 

 理科室に行くとき、彼女が階段でふらついた。目の前を波打つ赤を、とっさに掴んだ。

『こんな硬い革靴履いていたら足を痛めてしまう。スニーカーを送っておこう。色は白が志保ちゃんには一番似合うだろう。新しい部屋の住所も下駄箱も教室の席も分かっているし、これからも色々なプレゼントを続けよう』

 一瞬何か身に覚えのない光景が見えた。周りの生徒達が僕を見ている。

「お前、今何を掴んだ?」

 え? 転びそうになった彼女は怪我一つなく体勢を立て直している。端役の僕がなにか特別なことをして彼女が助かった?

 頭を掻き毟りたい衝動に駆られ、そのまま僕はその場を逃げ出した。

 何をしているのだろう、これでは僕が何かしたと言っているようなものだ。適当に虫がいたとか言えばよかったのに。まだまだ蚊は元気じゃないか。しかし、糸は掴めたのか。

 長年これと付き合っていたけど試したことはなかった。あのイメージは何だったのだろう。あんなイメージが見えるものが愛とか恋とかに関わっているとは思いたくない。

 きっと愛の力というのは色で言えば黒とピンクのマーブルで、プラスかマイナスかで言えばマイナスなのだろう。そう確信出来るだけの悍ましさがあのイメージにはあった。

 教室に戻ったが、さっきの事は忘れ去られたようだ。誰も話しかけてこない。

 彼女から伸びている糸が、僕の机の上を通っていた。さっきの事もあるので触りたくないが万一があってはいけないので掴んでどかそうとして、

『革靴を卓袱台に置き、話しかけながらお茶漬けを食べる。志保ちゃんは一体どんな料理が得意だろうか。あまりお手伝いはしていない娘のようだから将来が心配だね』

 また、あのイメージ。傍迷惑な親切と、気持ち悪い執着のイメージ。一瞬吐き気が来る。

 そして、隣の彼女と目があった。糸で巻かれた上半身。その上端に近い場所から目出し穴が覗いている。

「知ってますか? それ、片想いの時だけに見えるんですよ」

 僕は彼女に声を掛けられていない。僕は端役で、美人(おそらく)の転校生と人に言えない共通の悩みなんかない。主役は主役らしく、端役は端役らしく。それが正しい劇だ。

 だから、僕は今日も一人でお弁当を食べる。

 あのイメージの中で感じたお茶漬けの味を思い出して吐き気が限界になった。便所飯は気分悪くなった時すぐに吐けるからありがたい。

 放課後、彼女は一つ目のイメージで見た白いスニーカーを下駄箱から取り出してゴミ箱に捨てた。代わりに折りたためる室内スリッパで帰っていった。

 糸を掴んだ時のイメージ。他の糸もあんな感じなのだろうか。端役の僕にその機会があるとは思えないけど、恋とか愛が本当にピンクと黒のマーブルだとしたら……。

 丁度、比較対象が五本浮いていた。

『彼を殺したのは誰? 誰誰誰? 仇はどこ? こいつらのうちの誰か? それとも?

 彼は他のクズとは格が違うのになんであんな簡単に死んでしまったの? あきらアキラ晶あきらアキラアキアキアキアキ……』

 やめとけばよかった。五本とも内容はさして変わらない。口調や見ている光景の角度、一人称。わずかに違いはあったけど五人分。同じ人物についてひたすらプロモーションビデオを見た気分だ。どれもこれも映画に出てくる狂人そのままで、それでも一歩引くだけ茶漬け野郎よりマシに見えた。

 そう、一歩引いている。不思議なことに、あの五人は誰もサッカー部のキャプテンを襲っていないらしい。生命も貞操も奪ってはいない。全員が全員を疑い合いながら探偵を雇ったり自力で足を使ったりしていた。

 前に校長先生のお話からずっと、あの五人を疑っていたことを公言はしていない。けれど、心のなかで謝った。

 そういえば、一人だけ彼女を妙に疑っていた。学園のヒーローと転入生。絵になる図だろうけど彼女と彼は顔を合わす前に死に別れた。キャプテンは転校生が来ることを知っていたらしいけど、疑う根拠それだけだったりする? 恐ろしい事を考えているものだ。

 

 結局愛の力はマイナスの力だったらしい。

 ならば、糸で繋がっていない両親が表向き円満なのもマイナスの力がないからだろうか?

 夕食中メロドラマを流す、この食卓。僕はすぐにドラマからも思考からも意識を切り離して、豚カツを頬張った。

 

 朝、教室を見回すとクラスメートの悪友コンビの赤い糸が消えていた。けれど周りは二人を囲んで何かを祝っている。とうとうくっついたかとかそんな言葉も聞こえた。

 また、机に糸が掛かっている。彼女は僕の表情と手をじっと見つめている。なんてことはないのだ。彼女は僕を見ていない。気のせいだ。早く糸をどかして席に着こう。

『怪我しそうになった志保ちゃんを助けた?

 その後逃げ出した? 挙句の果てには友達一人もいない上に便所飯がデフォルトのモブ野郎が志保ちゃんに話しかけられた?

 転校先でのいい気になっているイケメンは親密になる前に始末したけど、まさかあんな伏兵がいたなんて。早くあのモブも始末しよう。階段から落ちそうになったのを助けたことは評価しよう。トランクに詰めてどっかの屋上から落として殺そう。薬で眠らせてからやれば苦しみは一切無いだろう』

 は? え? ちょ、マジ?

「大変ですね。私、実はストーカーに悩んで転校したんです。スタンガン予備ありますから持ちます?」

 僕は端役だから余計な事に関わらない。きっと僕が死んでも誰も気付かない。苦しみはない方法を模索しているらしい。

 ……なら、それでいいのではなかろうか。

「いいよ、どうせこれは何も僕に関係しない幻覚なんだから」

 僕はその日初めて教室で声を出した。みんな悪友コンビを祝うのに夢中で誰も気付かなかった。彼女以外は。

「そうですか」

 と、彼女の目出し穴の向こうの目は僅かに細くなった。

 

 それから数日何事もない。夕食はいつもどおり仲良し夫婦を見せつけられる。父が職場の後輩について、母はパート先の上司について、それぞれ言い寄られて迷惑だと愚痴を叩き合っていた。言い寄られて迷惑という事は一方通行という事で片想いということで……この家は……。両親はついでだからお前もなんか愚痴を言えと言ってきたけれど僕は適当に成績についてしか言えなかった。そして僕は両親に繋がる糸を握った。

 

 どうやら僕は両親について疑うばかりで何も知らなかったらしい。悩みが一つ解決したのに死にたいという鬱々しい気分がまるで晴れなかった。件のストーカーはまだ来ないのだろうか。

 

 朝、学校へ行く途中財布を落としたと声を掛けられる。振り返った時口元に布を被せられた。

 

 眩しさで目が覚める。おかしい。僕は彼女につきまとっていた茶漬け野郎に襲われて死んだはずじゃないのか。

 トランクの中で体育座りをしていた体は強張っている。

「囮捜査って知っていますか?」

 眩しさに目が慣れた時、聞き慣れた隣の席の声と初めて見る顔。

「一人目の時は失敗して助けることも解決もできなかったんですが、今回はうまくいきました。ご協力感謝します」

 クラスの男子が喜ぶのもよく分かる。彼女は確かに美人だった。けれど糸じゃない赤に彩られている。

「それ、返り血?」

「はい、そこに転がってる男の血です」

 茶漬け野郎……こんな顔だったのか。これが死んだから思いは消えて糸も消えた。らしい。

「体が軽い、糸がないとこんなに楽なんですね。塵も積もればといいますし、あんな細い糸でもああ集まるとキツイですね」

 茶漬け野郎に刺さっているナイフを引き抜き彼女は言う。

「演技で付き合ってる振りをすれば糸とは無縁でいられると思いませんか?」

「お断りします、せっかく美人でよりどりみどりなんですし、僕のような端役じゃなく、主役とメロドラマしてください」

 何を言っているんだ僕は、まず通報だろ。殺人現場だぞ。ここ山の中で彼女はこれを埋めている真っ最中だぞ、逃げて通報だろ。

「端役だからいいんじゃないですか、誰にも取られませんし、どうせ何もかも初めてでしょう? 私もそうですし」

 そうして僕はキスされて、自分が単純で当たり前の端役男子であると思い知った。

「あれ、また糸……。早く主役になってくださいね、その頃にはこの糸も消えてますよ」

「片想いの糸が消える、それって僕が君を諦めるってことかな?」

 彼女は何故か呆れ果てた目をした。

 




バカテスのFFF団っていわゆるモブですよね
学校に女子がいなければ脇役にもアドバイスする親友役にもなれない
そう、登場すら出来ないのだ!! モブ以下だ。 男子校は地獄だぜふーっはっはー
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