職員室でその子は教師に色々な事を問われていた。問われることは殆どその少女が教室で普段受けている仕打ちについてだ。少女の渾名はお化けだった。少女は受ける仕打ちに文句を言ったことはなかった。
「あのな、言いたかないけど教育委員会の耳に入ったら先生路頭に迷うんだわ。いい加減何か相談するとか抵抗するとかしてくれるとありがたいんだが」
溜息を吐きながら総白髪の白衣の男が問う。
「多数決なんですからそれでいいじゃないですか」
少女が痣だらけの顔のまま、なんでもないことのように微笑んだ。
溜息を吐いた時に下を向いていた教師が何かに気付いた。少女の上履きが赤い。泥水が染み込んだような滲み出る水分。少女がこれまで歩いてきたはずの床に目を向けると、上履きの独特の波状の足跡。どれも赤い。
「あー……霧峰。上履き脱いでみ?」
上履きを脱いで現れた膝下までの靴下は元は白かった筈だ。けれど足首の踵から先がベッタリと赤い。赤が染み出す要因はそこにあった。靴に入れられた画鋲が、靴下を突き破って踵や足の親指の付け根などに突き刺さっていた。
「あ、またやられてる。上履き買い直すのもったいないのにな」
少女の表情は全く変わらない。やられていた片方の靴下だけを脱ぎ、ポケットにねじ込む。教師に顔を向け、また先程までのように微笑う。
「絆創膏いるか?」
「お化けにそんなもの必要ありません」
まるで近所の野良猫に話しかけるような気安く穏やかな声で、裸足のままの左足を床に向けた。高いままの椅子では足は床に着かずゆらゆらと自然に揺れる。
「もういいですよね」
それは質問ではなかった。確認でもない。宣言だった。とん、と椅子から降りてその場を立ち去る。職員室の扉脇のゴミ箱に両方の上履きと靴下を入れた。そうして、両方共裸足になって霧峰と呼ばれた女子児童は立ち去っていった。
ランドセルの肩紐は下の金具が壊れているので背負えない。だから霧峰は引き摺って登下校する。開けた下駄箱に中身が入っていない。彼女にとってはいつもの事だ。これで九月に入ってから三度目の裸足下校。
「あーあ、靴全滅したなんて父さんに言ったら……めんどくさ」
下校途中にある下水の臭いのするドブ川。靴はそこにあった。紐もマジックテープも使われていない安物。靴裏のゴムも波打ってるだけの申し訳程度の滑り止め。どこも緑とも茶とも形容できない淀んだ泥色に染まっている。
「全滅。あれはどう洗っても復帰できない」
すみやかに諦めをつけ立ち去る。どうせいつものことだ。家についても、鍵はない。ドアは開かない。ドアにもたれかかるように座り込み、ランドセルの中にある残しておいた食パンをもそもそと齧り始めた。父が帰るのは大抵の場合九時以降。
帰ってきた父は娘になんの感情も籠っていない目を向け、無言のまま鍵を開けた。
玄関を閉めると同時に少女の頬に拳が襲い掛かる。玄関から続く廊下を二回バウンドするほどの重い一撃。
「靴はどうした」
静かに問う。あれだけの拳を放った後だというのに感情の籠もらなさは変わらぬまま。
「なくした、大丈夫明日からは靴下はくから」
もう一発。今度は背中へ踏みつけるような下段蹴り。
「無駄な恥をかくなと何度も言ってるだろう」
少女はようやく感情を露わにする。ただ、その感情も方向がずれている。御伽噺の狐のように微笑んで、
「恥だと思うのならいなかったことにすればよかったのに」
口元だけだった偽物のような微笑みが、満面の笑みに変わる。目元が弛み、口が開き、まるで殴られたことが嘘だったかのように当たり前に立ち上がる。
「ねえ父さん? 母さんはどんな人だったの? 無口で臆病で腕っ節だけは強い父さんが必死になった女の人でしょう? こんな疫病神を産むような人だったの?」
畳み掛けるように謳うように、娘は父を追い詰める。父は、質問には一切答えずに部屋に戻る。
「靴の予備は明日買い足しておくね、父さん」
その背に普通の親子のような話題を口にした。
明日の食卓には朝食代と夕食代とは別に紙幣が置かれることになる。
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絵本で外国のじゃんけんについて読んだとき、私は全てに納得した。象と人間と蟻。象は人間を踏み潰す。人間は蟻を踏み潰す。蟻は象の耳に潜り込む。象は体が大きすぎて耳から蟻を出せずに痒みに耐える。王様と平民と奴隷と似てるようで違う。奴隷は王様を殺せるけど、蟻は象を殺せない。一番強いものに一番弱いものが勝つ。そんなはずはないのだ。ただ、蟻は象にちょっかいをかけることが許されているだけ。その鼻を奮えば蟻は群れや行列どころか巣まで失う。でも、蟻なんて象にはどうでもいいから何もしない。クラスの皆も父さんもそうだ。自分をどうこうできない相手に目くじらを立てる理由はない。
だから私は、多数決と先生を誤魔化して、蟻であることを受け入れられない皆をほったらかす。
その絵本を読むまでは、体力と時間の無駄だから私を殴るのはやめるように言った。けれどその絵本を読んでからはちょっかいを掛けたくて仕方ない、可哀想な人達を放っておくことにした。それは小学校に入るよりもずっと前だった。
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十月になった。最初の水曜日。朝のホームルーム。担任の白髪に白衣で猫背の酷い教師が教室に入ってきた。その時後ろから付いて来る児童がいた。その歩く姿は自信に満ちて、そこらの大人より力強い。担任からチョークを受け取り自己紹介を始めるのかと思ったら、黒板の前で飛び跳ねるようにして大きく「参上」の二文字を黒板全体を使って書いた。教壇どころか教卓の上に手を使わずに跳び乗り、腕を組む。クラスメート全員を見回しながら、ガラスが振るえるほどに吼える。
「天乃多助! お前らの敵だ! 以上!」
子供らしい意味不明な自己紹介を終えた。
席は一番後ろの窓側に決まった。その席の目の前に彼女はいた。椅子に画鋲を仕掛けられ、尻に刺さっていた画鋲に気付いたのは、後ろの席に座った彼が先だった。
歯を食いしばるわけでも、体の一部が震えるわけでもない。まるで痛みを堪える様子がないまま、画鋲に体重をかけていた。
「気に入んねえな」
天乃は呟いた。
三限目の体育、グラウンドの場所が足らず、晴れていたというのに彼等の組は体育館と相成った。
「ガードアッパー!」
ドッジボールとは思えない掛け声が響く。天乃の声だ。アッパーでボールを跳ね上げ、二歩ほど下がって捕る。
「死ね! モブ共!」
ボールの威力に怯え、避ける敵チームの中に一人、ぼんやりと突っ立てるままの女子がいた。霧峰は一番内野の後ろで天井を眺めていた。二、三人固まった児童が震えて避けた後の空間を通り過ぎたボールはその女子の顔面にぶち当たった。その女子は痛がりもせず文句一つ言わずに外野に出ようとした所を担任に止められる。
「顔面セーフって言いてえ所だが、お前が行くのは保健室だ。バカたれ」
霧峰の口元は鼻血で真っ赤になっていた。
いつものようになんでもないという微笑みを浮かべ、体操服の裾を犬歯で引き千切る。
「おーい、何やってんだ。体操服って高いんだぞ。またお父ちゃんに怒られちまうぞ」
引き千切った体操服の布を鼻に詰め、
「いつものことです。普段着ならばポケットにティッシュもあったんですが、仕方ありません。このまま参加します」
そう言って参加といった癖に外野で体育座りをした。
天乃が後ろを振り返り、
「悪いな」
と一言告げた。
その隙に天乃のチームが一人ボールを食らう。それを見た天乃が再び叫ぶ。この少年は何かにつけて声と態度がでかい。
「モブなんざ狙ってんじゃねえ! まずは俺だろうが!」
これが僅かとはいえ背を向けた者のセリフだろうか。
「転校初日のこの際だ! はっきり言っとく! 俺は父さんのおかげで引っ越しが多い。十二月には俺はいなくなる! 今までのクラスメートと同じように来年にはお前等の顔も名前も忘れる! 俺に覚えられたきゃかかってこい! モブから脇役に昇格だ!」
その宣言は思いっきり元気盛りの男子を挑発した。外野からも内野からも集中砲火を浴びる中、ゲーム展開が遅いのでと担任がボールを二つに増やす。それでもまだ天乃は堂々と戦い抜く。三つに増えて四十二秒後。得意のアッパーで二つボールを跳ね上げ二歩下がる。上を向いてボールを待ち構えた時、敵の内野から外野にボールがパスされ、すかさず標的に向かって放たれる。無防備な背中をボールが捉えた。
「あっはっはっは」
外野に向かって歩きながら天乃は笑っていた。自分にボールを当てた霧峰を指差し、
「今当てた奴! 脇役昇格! 勘違いするな! 主人公はこの俺だ!」
その宣言通りあっという間に彼は内野に戻った。が、そこで授業時間が終わってしまう。内野の人数で勝負を決めることになり、ワンマンプレーの過ぎた天乃の側が負けた。
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今日の給食もいつも通り私の分のお肉は配られない。あとでこっそり先生が私にハンバーグをくれるのもいつも通りだ。先生は給食より自作のお弁当のほうがいいらしい。なんでわざわざ給食費払うのかを聞いたら、
「一食多いと生徒が取り合うだろ? 競争バンザイってな。だが、最低限自分の分は受け取っとけよ?」
そう言ってその日の給食の唐揚げを使われていない爪楊枝で私の口に捩じ込んだ。
そもそもお肉は好きじゃないから取られても文句はないし先生が無理やり口に捩じ込むのもそういうことだ。けれどその日はこのクラスのいつもを知らない人が私の隣にいる。給食の時の並びに机を動かすと天乃君は私の隣の席になる。
「気に入んねえ」
そう呟いて立ち上がり、私のハンバーグを掛けてじゃんけんをしている男子達に空になったシチューの食缶を叩き付けた。
「バックアタックッ!」
「何すんだ!」
男子がだいぶ怒っている。当たり前だ。もう少し新入りの分ってものを弁えたほうがいいと思うけれどそんな暇は彼には無いらしい。
問答無用とばかりに四人を凶器攻撃で容赦なく蹴散らしてる所を真後ろから先生が出席簿で、
「バックアタックセカンドォ!」
と、黙らせた。
「何すんだよ先生」
そのセリフはさっき君も言われていた。先生はもう片方の手に爪楊枝を携えていた。その先にはサイコロステーキ。
「いじめが許せなかったんですねー、偉いからこれ食っとけ」
叫んで口が開いてる天乃君に捩じ込む。
「気に食わねえ事とかは帰りのホームルームで皆で話し合おうな? あと、足りねえ奴は先生の分の給食食っていいぞー。俺はいつも通り弁当あるから」
そう言って先生も黒板の横のデスクに戻ってしまった。先生はデスクのほうが教卓よりお好みらしくプリントやビデオを使った授業が多い。チョークは喉を痛めるからホワイトボード実装ハヨとかいつも言ってる。
昼休み先生が私を呼ぶ。やっぱりサイコロステーキは私が食べる事になった。
帰りのホームルームで天乃君が言うことは、給食のことだけではなかった。
「まず一つ。朝の画鋲雑魚モブは誰だ」
え、見られてたんだ。あー話し長くなりそうだなー。
「霧峰ー? 画鋲って何のこった? 上履きか? 椅子か?」
先生に聞かれたら答えるしかない。面倒だけど。
「椅子です」
「毎年毎年俺ばっか問題あるクラス回しやがって……」
私の答えを聞いているのかいないのか先生がなにか愚痴っている。
「言わねえなら一人一人画鋲でケツぶっ刺すからパンツ脱げモブ共」
天乃君それはちょっと恥ずかしいんじゃないかな。やめてあげたほうがいいよ。
「話し合いだといっただろうが、バカ主人公。でだ、まずってことはもう一つあるんだろ?」
天乃君は苛つきながらも答える。私を指さして
「こいつ脇役。で、お前等モブ」
また訳の分からない事を言い出す。
「分っからねえかな? こいつは我慢してるんだよ。お前等モブが可哀想だから」
それを聞いた瞬間この人が蟻じゃないらしいと気付いた。この人はどうやらあのじゃんけんで人間に当たるらしい。人間は、たしかに主人公かもしれない。じゃあ、脇役でお化けで象の私は……悪役かな?
結局その話し合いは何も解決せず、下校の時間を迎えた。
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それから天乃多助も苛められる側に含まれるようになった。画鋲を仕掛けられようと教科書を隠されようと彼は敵を嘲笑った。
モブが主人公に嫉妬するのは仕方のない事らしい。彼が転入してから数週間後の下校時だった。途中まで帰り道が同じだった苛められっ子二人は並んで歩いていた。まず少女が先に口を開いた。
「私を庇って何か得あるの?」
と、自分の味方をしたために虐げられる勝ち気な少年に問う。
「あ? 馬鹿かお前。得しかねえよ。モブ共が俺を目の敵にすればするほど俺は目立つ。奴等は俺が転校しても俺を覚えておいて悔しがる。それに、痛くねえとしても面倒は避けたいだろ?」
少女の顔も少年の顔も痣だらけだった。それまで笑顔だった少年は突然真剣な表情になって。
「来週にはもう俺いねえから」
そう言った。ぱたりと、握り締められていたランドセルの肩紐が地面に落ちた。それまで短い小学校生活でクラスメートが数人転校していったこともあるだろうに、彼女は愕然とした表情をしていた。
「だからよ、人の殴り方覚えとけ」
そう言って分かれ道に駆け込んだ。木曜日の事だった。
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天乃君が行ってしまう。それは転校初日のドッジボールの時から分かっていたことだった。とてもこの現実を受け入れてはいけないような気がしたけれど、どうすればいいのか分からなかった。明日が金曜日で、来週にはいないということは明日が最後ということになる。どうしようかどうしたいのか眠ってしまうまで答えは出なかった。
朝が来て、テーブルには晩御飯代と朝御飯代が置かれていて父さんはもう家にいない。いつものことだけれど。来週からは何かが変わるような気がしていた。
学校について上履きを履く前に一度中を見る。天乃君が口酸っぱくして言ってたし、とそこまで考えてだいぶ自分が天乃君に影響されて変わって来ていることに気が付いた。
ああそうか。私は天乃君に自分は大丈夫だと言いたいんだ。今日の帰り道に言おう。それが最後だから。
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その日の殴り合いは廊下で起きていた。三人に囲まれても天乃は平気で殴り返している。段々と喧嘩しながら廊下での立ち位置がズレてゆく。
そこに、
「おはよう」
と挨拶で邪魔が入った。丁度階段を登ってきた霧峰だった。
「よそ見すんな化け物夫婦!」
一瞬動きの止まった天乃に四人目が襲いかかった。助走をつけたドロップキック。そのまま、天乃と霧峰は二人共転がり落ちていった。踊り場まで落ちた時、一際大きくごきりと嫌な音がした。霧峰が肩を揺すっても声を掛けても天乃は起き上がらなかった。
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何が大丈夫なものか。人が一人死ぬほど何度も階段に叩き付けられたのに私は傷一つない。そんな筈はない、私は庇われたんだ。お化けなのに象なのに人間に庇われたんだ。でもおかしいよね。蹴ったのは蟻だ。私を庇ったからといって蟻が天乃君を殺せる筈がないんだ。私を庇えるほど強い天乃君はいつも主人公を名乗っていたけれど人間じゃないのかもしれない。私はお化けなのは確かだけれど象ではなかったのかもしれない。主人公、英雄、お化け、悪役。そして最後に天乃君が言われた化け物という言葉。頭の中でグルグルと回ってゆく。
そうして、気付いてしまった。じゃんけんじゃなかったんだ。三竦みなのはあってるけどそうじゃなかったんだ。まず英雄と化け物と人間がいる。化け物は人間を食う。英雄が化け物を倒す。用済みになった英雄は人間に追い払われるんだ。英雄だった天乃君は化け物の私を退治しなかったから用済みになってしまったんだ。お化けなんて可愛らしい呼ばれ方してるからこんなことになった。あいつらを蟻だと思って、自分が一番強い象だなんて思っていたからこんなことになったんだ。
私が間違えた。ちゃんと化け物は化け物らしくあいつらを殴ればよかったんだ。
化け物に女の子なんて似合わない。スカートは全部捨てよう。父さんに怒られるけどしばらくは着回せるし少しづつ増やそう。髪も短く切ろう。これは……自分でも出来る。元々ボロっちかったし赤のランドセルは捨てよう。代わりに遠足で使うリュックでいい。鏡を見る。何故かまだ何もしてないのに昨日までとは自分の目付きが違う気がした。
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土日の間に天乃家は引っ越し向こうで少年の葬儀は行われた。担任も懲戒免職で姿を消した。それから月火水木金が過ぎても、もう一人階段から転がり落ちた少女は学校に姿を見せなかった。家にも彼女は帰らなかったらしい。
月曜日の朝。見慣れない生徒が現れた。黒いシャツに黒いズボン。黒いジャンパー。持っているのはランドセルではなく、リュックサックだった。奇妙な持ち方だった。肩紐の下側が千切れていて肩紐を掴んで引き摺る。それもまた黒。喪服の再現のようだ。
顔は痣だらけ、首には紐を巻きつけた後のような痣。髪は短く適当に切られてザンバラ頭。目付きは鋭く常に睨みを利かせた目。
その児童は先週一週間丸ごと行方しれずだった女子の席に座った。
一人の生徒が女子とも男子とも分からぬ無言のそれに声を掛ける。
「おい、おま」
正しくは掛けようとした。椅子が投げられた。怯んだ隙に駆け寄り股間に膝を叩き込んだ。悶絶するそれにもう一撃、顎にアッパー。
崩れ落ちた彼を踏みつけながら周りを見渡す。黒が初めて口を開く。
「誰だなんて聞くなよ? さっき自分の席に座ったんだから」
獣が唸るような低い声。もう一人勇気ある生徒がその肩を掴もうとして、顔面に肘を打ち込まれた。追撃ちを掛けようとした拳が逸れ、壁に当たる。どがき、と大きな音がして僅かに壁が揺れた。壁から拳を離した時、肘と手首の間がぶらりと重力に従って曲がった。
「クソが、もう折れてやがる。凶器の使い方でも覚えるか」
そう呟いて先ほど投げた椅子を掴み自分の席に戻った。もう誰も彼女だった筈のそれに声を掛けなかった。
「霧峰夜空。お化け改め、化け物です。どうぞよろしく」
ホームルームにやってきた初めて会う担任にそう名乗った。
匂い嗅いだ後頬骨砕けるまで殴られるのがワンセット