今の生活は、殺せんせーのおかげで何事もなく過ごせているが、さすがにいつまでも頼りっぱなしはいけないので、今日はアルバイトの面接に来ている。お店は愛するサイゼリア、ではなくサイベリアだ。パラレルワールドなので少し名前が替わったのだろう。
「準備ができたのでどーぞ。」
呼ばれたので部屋にはいる。
中には『店長』の名札をつけたひとが座っていた。
「失礼します。アルバイトの面接を受けに来た比企谷八幡です。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。
「初めまして、店長の金沢です。とりあえず座ってもらえるかな。」
そう言われたので素直に正面の席に座る。
「まず、何でアルバイトを始めようと思ったのかな?」
「今、独り暮らしなんですが、家の家賃などを親が払っているので、少しぐらいは自分で払いたいと思いアルバイトを始めようと思いました。」
本当の事はさすがに言えないが、ほとんど同じだ。
「そうですが。しかし、アルバイトをするに当たって少し見た目があれなのがねー。」
やはり目のことになってしまうのか。できれば使いたくなかったが、あれを使おう。
「目のことなら、大丈夫です。この眼鏡をかければ普通の顔になるでしょう。」
そう言ってメガネをかける。自分でいうのもなんだが目の腐り以外はいい顔をしているので、メガネをかけると案外いい顔をしている。鏡で自分の顔を見たときは、なにげに驚いた。
目の前の店長もそうなのだろう。目を大きくしている。
「えぇ!?メガネをかけただけでだいぶ印象が替わりますね。いいでしょう。あなたを採用します。」
「本当ですか!ありがとうございます。」
良かった。どこで採用されたかはわからないが、とりあえずアルバイトはできそうだ。これで殺せんせーの負担が少しでも減ればいいだろう。
「明日の夕方から仕事があるのでよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
今日は良かった。そう思いながら帰路を進む。空にはいつかの時と似たような輝きがあった。たぶん初めてこの世界に来たときだろう。
ふと、周りを見るとクラスメイトの速水さんがいた。少し近寄ったら段ボールを眺めているのがわかった。
「そんなところで何してるんだ?」
そう声をかけてみる。
速水さんはビクッと方が跳ねた。そして驚いたようにこちらを見る。
「え!あ、ヒキタニか。一瞬不審者かと思った。」
後半はべつに声に出さなくて良かっただろう。結構心をえぐられる。
でも、一応名前は覚えてもらえていた。いやヒキタニが名前ではないけど。
「実は、子猫がいてかわいかったから見ていたの。」
確かに段ボールの中を覗きこむとかわいい子猫が座っていた。
「できればこの猫を持っていきたいんだけど、家はペット禁止で困ってたんだ。」
速水さんは猫が好きなのだろう。猫を見ながらニコニコ話をしてくる。普段は口数が少なく聞き役に徹していたが、好きなものの前だとこうも替わるのか。
しかし猫か。カマクラを飼っていたのでこの子猫を飼ってみるのも悪くないと思える。
「俺ならその猫飼えるぞ。」
そういうと速水さんの目が輝いた。
「本当に!ぜひ飼ってあげて。」
そう言って段ボールを持つと俺に渡してきた。よほどここに置いておくのが嫌だったのだろう。
速水さんに「じゃあ」とだけ言って家に帰る。
なにげに独り暮らしは寂しかったので、新しい家族となる子猫を見ながら平塚先生を思い出す。あの人はこれまでの期間、ずっと独り暮らしだったのだろうから、とても強い人だったことがあらためて分かる。
これからこの猫と過ごすんだなぁ、と考えながら我が家のドアを開ける。