なのは+『現の幻』   作:黒影翼

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File9~ヒーローの正体

 

 

File9~ヒーローの正体

 

 

 

Side~クラウ=トーティア

 

 

 

油断なく剣を構える。

実戦経験なんて大してある訳でもない、この間だって囲まれた姉さんを助けようと様子を伺って失敗した。

 

今度こそ…守り抜く、守りきってみせる。

 

「はっ!」

 

重たい剣を振るう。

女性の剣とぶつかって、衝撃が伝ってきて手に痺れが走る。

でも、力負けはしていない。

 

 

斬り合いを繰り返す。

けど…

 

「っ!」

 

一閃を読めず、咄嗟に転がって下がる。

やっぱりただの鍛錬じゃ、どうしたって経験に差が出る。

 

どうする…どうすれば…

 

考える間も無く追撃を繰り出そうとする女性。そのバイザーに向かって、一つの光球が僕の背後から飛んでくる。

女性は止まってその光球を切り払った。

 

見慣れた水色の魔力光、今のは…

 

「へへ…弟に守られっぱなしじゃ格好つかないからね。」

 

姉さんの声。

振り返るわけにもいかないけれど、元気を取り戻したと感じた僕は、思わず笑っていた。

 

 

SIDE OUT

 

 

と、とりあえずこっちの事はおいておくことにして…

 

「逃げなきゃ駄目なんだよね?」

「あ、その…はい。」

 

上手く立てずに転がっている女の子にそれだけ確認すると、私は覚悟を決めた。

 

「クラウ!私が絶対に隙を作って見せるから、そこで一撃叩き込んで!」

「わかった。」

 

自分の魔力値に有頂天になっていた頃、調子に乗っていた頃に貰ったデバイス、アクアリウム。とはいえ、この子に罪があるわけじゃない。

 

なのに…ごめん、こんな手しか思いつかなくて。

 

誘導弾の多段制御なんてそう簡単に出来ないし、それだけ出来ても多分あの人には通じない。

だから私は、クラウの背後から一発の誘導弾を撃つと…

 

 

 

「いっけえぇっ!!」

 

 

 

ジャンプしてクラウの頭の上を通り過ぎるようにアクアリウムを投げ放った。

 

「っ!」

 

魔力弾は切り払えたものの、顔面に向かってくるデバイス本体は避ける位しか対処も出来ず、大きく体勢を崩す女性。

 

「はぁっ!!!」

 

普通じゃ持つのも苦労しそうな大剣。

クラウはそれを思い切り振りぬいて…

 

 

剣の側面で思い切り女性を叩き、吹っ飛ばした。

 

 

「や…った?」

「うん。」

 

壁に叩きつけられて動けなくなった女性。その姿を確認して一息つく。

 

防御魔法でも使っていないのなら、大剣の重さを思いっきり振りぬかれて無事で済む訳もない。

 

「は…はぁっ…助かったーっ!」

「ま、待って下さい!」

 

安心してべしゃりと崩れ落ちた私は、傍からの声に首だけ向ける。

同じくまともに立てずにいた女の子が必死な顔で…

 

 

「マリアージュは動けなくなると爆発するんです!」

 

 

とんでもない事を言い出した。

視線を戻すと、倒した女の人は何故か黒く溶け始めていて…

 

 

 

轟音がした瞬間、何かにつかまれて思いっきり引っ張られた。

 

 

 

「っ…くっ…」

「あ、あはは…ありがとクラウ…」

「す、すみません…」

 

咄嗟に大剣をしまった…待機状態に戻したクラウが、私と女の子を掴んで思いっきり飛んだんだ。

ちょっと熱かったけど、痛い目に会うほどの爆発を受けずに済んだらしい。

 

 

「あ…」

 

と、待機状態って言葉に、放り投げたアクアリウムの事を思い出す。

 

視線を燃え盛る炎の中に移す。

 

「あったけど…」

 

思いっきり炎に呑まれているそれは、さすがに取りにいけない。

とりあえず無事なら消化された後に回収して貰えるかな…と、そんな事を考えて…

 

 

 

 

ビキリ、と…不吉な音が聞こえてきた。

 

 

 

 

上層階が…爆発で崩れそうになっている。

私達の場所はともかく、アクアリウムの真上が。

 

「ぁ…」

 

何の気なしに手を伸ばす。熱い。

熱気が伝わる中、天井からの音は大きくなってきて……

 

 

 

 

 

瓦礫が、崩れて落ちてきた。

 

 

 

 

アクアリウムが、私の思い上がりと自信喪失で…私のわがままだけで生まれて使われなかったデバイスが、瓦礫の雨にその姿を消していく。

 

デバイスが見えなくなった光景に、私は力なくうなだれて…

 

 

 

「人命救助を生業とする機関では、集団行動統制などの決まりは勿論、ペットや家財の為の突入は禁止されている。」

 

 

瓦礫の中、瓦礫にふさがれた視界の中から聞こえてくる声。

視線を上げる。

振りそそぐ瓦礫に、次から次へと線が入って…ばらばらと細切れにされていく。

 

 

それらが全て収まった頃、埃や炎で防がれていた視界が、妙な風で晴れて…

 

 

 

「だから、俺は局員なんてやれないのさ。大切なものを失いかけて泣いてる女の子の笑顔を取り戻せなきゃ、ヒーローになりきれないからな。」

 

 

 

晴れた視界の中に、青い髪の女性を胸に抱え、真紅のマントをつけたマスターさんが立っていた。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

床と天井の崩落に巻き込まれた私は、下の階に落ちた。

下からの生命反応に、床を破っていくべきか否かを考えた一瞬の間の崩落。それに対応できずに落ちて…

 

 

気がついたら、速人さんにお姫様だっこされていた。

 

「あ、あの、おろして下さい!」

「ほいほい。」

 

恥ずかしさに慌ててしまったけど、何の気なしにあたしを降ろした速人さんの行動に、漸く自分の状況に気付く。

 

災害救助に来た特救が、民間の剣士に助けられてどうすんの馬鹿!

ま、まぁ速人さんを民間人というには無理があるんだけど…

 

「ほらデバイス。」

「あ、ありがと…あちち!」

「そりゃ炎の中に落ちてたわけだからな。俺んち持ってくれば診てやれるぞ。」

 

デバイスを手に照れ笑いを浮かべる女の子。その姿を見ながら、私は思い返す。

 

『人命救助を生業とする機関では、集団行動統制などは勿論、ペットや家財の為の突入は禁止されている。』

 

命を救う、その現場での仕事。

ついて回る規制や規則、それに伴う行動制限。

ヴォルツ指令も、空港火災の時の無茶が原因で色々と枷をはめられている。

 

こんな事を本気で言う人だから、ずっとそうしてきた人だから…

 

すみません指令、やっぱりあたしにこの人の説得は無理そうです。

 

「スバル、三人は任せていいか?俺はあっちの相手をする。」

 

速人さんが指差した先には、マリアージュの群れ。

 

「10秒で片付ける、爆発はすると思うから防御魔法よろしくな。」

「…はい!」

 

結局力強く返事を返してしまった。

あー、後で指令に怒られるな、絶対。

 

 

SIDE OUT

 

 

「き、危険です!とめてください!マリアージュは倒せても生身で彼女達の爆発を防げるわけが」

「大丈夫。」

 

慌てる女の子に対して、何かを確信したように呟いたのは、意外にもクラウだった。

でも、うん。私も、なんとなく大丈夫な気がする。

 

「えーと…イクス?」

「あ、は、はい…」

「そっか、君がイクスなんだね。後の二人は…」

 

私に振られて漸く、局員さんが話を進めている事に気がついた。

 

「あ、アクアです、アクア=トーティア。こっちは弟のクラウ。」

 

いつものようにぱぱっと紹介を済ませてしまう。

 

「3往復してる余裕がないから、一気に行きます。クラウ、イクスを背負ってあたしにおぶされるかな?」

「はい。」

 

戸惑うイクスを余所に、クラウと一緒に手早く準備を進めるスバルさん。

 

 

 

私はそっちを見ずに、マスターさんの方を…ヒーローの方を見た。

 

 

黒い服、二本の小太刀。

いつか見た装いから覆面が外れ、変わりにこれ以上ないほど分かりやすく背を埋めている真紅のマント。

 

「「「イクスを解放してください。」」」

「戦争再開しようって連中に…子供は任せられないな。」

 

いつかと同じ、20程の数の武装集団、おまけに倒しても爆発するっていうオマケ付き。

そんな危険極まりない状況で、不気味な副音声を前に…

 

彼の声は澄んでいた。あまりにも普段通りに。

 

宣戦布告と取れる彼の言葉に、マリアージュの全てが武器を構え…

 

 

 

彼の姿が消えた。

 

 

 

誓って私は瞬きをしてなかった。

だから、本当に消えたんだってそう思って…

 

次から次へと、マリアージュが斬られていくのに気がついた。

 

10秒、本当にその程度だった。

それで全て終わってしまった。

 

私達、二人がかりで漸く一人どうにかできた程度なのに…

 

 

 

と、倒れるマリアージュが次々と液化を始めた。その先に、一人立つマスターさん。

 

「あ、危な」

「下がって!」

 

叫びそうになった私は、いきなり腕を引っ張られて…

 

 

 

 

轟音と爆発が視界を埋め、それを防ぐ青色の障壁が展開されていた。

 

 

 

凄い…この爆発、単純に考えて私達の十倍以上なのに、あっさり防ぎきってる…

 

「す、凄いんですね…局員さんも…」

「これでも防災士長ですからっ!皆を安全な場所まで一直線に連れて行けないと!あ、後スバル隊員でオッケーですよ。」

 

結構余裕あるらしいあたり、本当に凄い人なんだろう。

 

でもマスターさん、この爆発の中にいたんじゃ…

 

 

「ふぅ…ま、こんなもんか。」

 

 

爆煙の中から、カタナをしまってマントを手にしたマスターさんが姿を見せた。

 

 

 

まさか、マントを振って爆風を防いだの?

嘘ぉ…

 

 

「期待通りかアクア?JS事件に協力したヒーローの実力は。」

「は、ははは…」

 

炎の中、マントを着なおして笑うマスターさん。

 

…凄すぎると、何を言ってもいいのかわかんなくなるんだね、ホント。

 

 

 

「よし!でるぞ重戦車!」

「おう!ってそこまで重くないですよっ!」

 

軽口を交わしてすぐ、私はスバルさんに抱えられる。

背中にクラウとイクスを背負っているからこれで三人。その状態で…

 

 

「うおおおおぉぉぉぉっ!!」

「で、えええぇぇぇぇっ!?」

 

ローラーブーツがうなりをあげて、走り出した。

 

皆すっごいなぁ…ははは。

マスターさんに壁を斬って貰いながら突っ走るスバルさんに抱えられながら、私は何か遠い事のように笑っていた。

 

 

 




という訳で正体判明回。戦闘を神速単発で終了させてて目立つ速人だけど、三人抱えてダッシュしつつ、炎、瓦礫に対処って言うのはさすがに速人には難しい芸当なので、スバルいなかったら…
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