File…X
その後、立ち入り禁止区画に入っちゃってたこととか、営業時間終わってるのにでられてなかったこととかでこっぴどく怒られて、イクスちゃんを守ったことでちょっとだけ褒められて、でも危険だって怒られて、そして…
「いらっしゃいませー!!」
何でか、エメラルドスイーツでアルバイトしていた。
えっと、たしか経緯としては…
まずまともに使ってなかった上にいきなり戦闘に巻き込まれ、投げられ火あぶりにされたアクアリウムが不憫になってデバイスの整備を頼みたくて、でもさすがにアレだけの騒ぎに巻き込まれてすぐ『修理費だして!』なんて言える図太さはないからとりあえず診てくれるって言ってくれたマスターさんの所の技術者、アリシアさんのお世話になって、『今後も危険でも調べ物したりしたいなら、多少なり訓練でもどうだ?アクアリウムの為にもさ。』って誘われて、放課後とか休みの日に顔出すようになって…
アレ?何でアルバイトさせられてるんだろ?
ま、まぁ平日はともかく祝日は忙しいし、マスターさん達は風来坊なのか殆ど夕食時くらいしか帰ってこないから、友達たるフレイアさんの力になってあげるって意味で別に嫌じゃないんだけど…
「ありがとうございました。」
うやうやしく礼をするダンディなおじさん…こと、レジアス=ゲイズ元中将と同じ場所でウェイトレスってはっきり言って落ち着かないどころの騒ぎじゃない。
って言うか、絶対気付かないって!テレビで見てた時のあの肉だるまがどうしてこんなスマートで筋肉の乗った、(背が低いけど)いけてるおじさま化してるのよ!?
人間って分からない、本当。
「アクア、クラウ、ちょっと来てくれ。」
バイトの最中、唐突にフレイアさんに呼ばれて下がる。
揃って下がると、映像通信が入っていた。
「あれ、スバルさん?」
『あ、二人とも今来られるかな?イクスが起きたって連絡が入ってさ。』
「そうなんだ!あ、えーと…」
私はチラリとフレイアさんを見た。一応バイト中だし…
と、言う私の心配は杞憂だったようで、フレイアさんはいつも通りの優しい笑みのままで頷いてくれた。
さすがフレイアさん!
「大丈夫ですっ!」
『良かった!じゃ、一緒に行こう!すぐに!』
「はいっ!」
スバルさんの誘いを受けて、私は手早くエプロンを取って
「クラウと一緒に着替えるのはどうかと思うが…」
「ぁ…じゃ、じゃあ着替えて表でね!クラウ!」
勢いあまって服まで脱ぎそうになってた私はフレイアさんの呟きで正気に戻り、慌てて荷物を置いてあるリビングまで引っ込んだ。
あぅ…エメラルドスイーツの人と一緒に過ごすようになってからテンションがずっとおかしいよ…やっぱりはしゃいでるのかな?
古い王様って意味でも、あの騒ぎで一緒に助かったって意味でも、話せて嬉しいなーとか思ってたんだけど、道中でスバルさんから聞かされた話は、そんな私の浮かれた気分を吹き飛ばすものだった。
「最期?」
「うん…原因不明らしくて…今度いつ目が覚めるか分からないんだって…」
実感が沸かない。
死ぬ…とも違うし、身近にそんなことになってしまった人が居ないから。
「変に湿っぽくなるのもイクスに悪いけど…今日眠っちゃったらそれきりだから。」
「そっか…」
長い眠り…か。
何か言っておく事とかある…かな?
「やっほー!イクスちゃん。」
草原に座り込んでいたイクスちゃんに片手を挙げて声をかける。
イクスちゃんの方は目をぱちくりと瞬かせた後、笑みを見せた。
「姉さん…相手王様…」
「いいですよクラウ、それと…こんにちはスバル、アクア。」
「こんにちは、イクス。」
私達に向かって柔らかく笑いかけてくるイクスちゃん。
「私の話…聞きました?」
「…うん、眠っちゃうんだよね、これから。」
短いイクスちゃんとスバルさんの応答。
「どうにか…出来ないの?」
「どうにかも何もない、それが『正常』だ。」
イクスちゃんに求めた回答は、背後から聞こえてきた声によって返される。
振り返ると、そこには不機嫌そうな表情を貼り付けたままのディアーチェちゃんがいた。
「正常って…どういう」
「私の能力は…マリアージュのコアを無限に生み出し、『死体を爆撃兵器』に代える能力です。敵の居ない時に…必要のないときに誤作動を起こせば、民や土地を焼き払ってしまいかねません。…ディアーチェの見解なんですけど。」
「そんな…」
古代ベルカの王族は…戦火を収める力を必要として、兵器として生まれた。
兵器は…武器は…戦闘中以外、その機能を…
「…ふざけてる…ふざけてるよっ!そんなの!そんなの…」
「アクア…」
戦争なんて馬鹿みたいなもの、縁のないもの…だった。
そんなものに振り回されて…ううん、使われている女の子。
それを前に、『よくあること』なんて口走れるような成長、私はしていなかった。
憤る、涙が出てくる。
「喚くな戯け、貴様に何が出来る。」
「っ!」
静かに告げられたディアーチェちゃんの言葉に、私とクラウは思わずディアーチェちゃんを振り返り…
「もう一度問おう、貴様に何が出来る?」
「ぅ…」
真っ直ぐに見つめ返しながら、責めるでもなく投げかけられた問いに、私は何も返せなかった。
事件に巻き込まれ、二人で救助を待つだけが精一杯だった私とクラウ。
それも、イクスちゃんは殺される事もなかったはずだから、ただの私達の自業自得。
「王様、できる事だけにしか心動かない人なんて、殆ど居ないんですから…そういうのよくないですよ。」
「フン…分かっている。関係もないのに泣きじゃくっているのが無様で見ていられなかっただけだ。」
スバルさんにたしなめられたディアーチェちゃんは、プイと顔を背けた。
「…ひょっとして…『気にするな』って慰めてくれたの?」
「ばっ…やかましい戯け!泣いたり笑ったり忙しい奴め…」
ディアーチェちゃんに質問した私の頬がにやけていたせいか、照れたのか怒ったように完全に私達から背を向けてしまった。
「でも、本当に気にしなくても平気ですよ。私にとってはいつも通りのことですし…いつもと違って、もう目覚める事に怯えなくてもいいって…知りましたから。」
「イクス…」
何処か遠く聞こえるイクスちゃんの声。
その名前を呟くスバルさんの声は悲しげで…
「もう、皆さん失礼ですよ?私は感謝してるのに、そんな暗い顔ばっかりで。」
眠ってしまうイクスちゃん本人にそんな事を言われたらしょげている訳にも行かなくて、でも急に笑ってみせる事も出来なくて、揃ってどうしていいかわからず…
一人平気な顔をして、いやーな笑みを浮かべたディアーチェちゃんが、イクスちゃんを見ながら口を開く。
「働きもせず眠りこけた分の家賃滞納が過ぎんうちに起こしてやる。まさか1000年分も借金溜めるわけにはいかんだろう?」
「へっ?」
「あ、それイクスちゃん持ちなんだ…」
呆けて動かなくなるイクスちゃん。
あまりにも意外なところの話が持ち出された私は…
「くっ…あはははは!」
つい大笑いしてしまった。
「えーと…頑張って。」
「は、はい…」
クラウまで口元を隠して、励ましの言葉を投げかける。
「古代ベルカの借金王…ひ、酷い称号…」
「ス、スバルまで!酷いです!」
「が、頑張ってくださいね、イクス。」
あわあわと私達を見回すイクスちゃんの様子が面白くて、私たちは余計に笑ってしまった。
Side~ティアナ=ランスター
主犯かと思われたトレディア=グラーゼが既に死亡している事を知るのに手が遅れたものの、どうにか主犯の最終目的達成は阻止できた。
と言っても、犯人があたしの補佐をしてくれてたルネッサ=マグナスという子で、あたしは功績所か泥を被る羽目になってしまったのだけど。
ともあれ、凶悪事件が終わってくれた。それだけで十分価値がある。
「落ち着い…てるわね。いつも通り。」
「…ええ。」
捕まっていると言うのに、あいも変わらず静かな返答。
冷静で真面目な彼女らしいと思う。
執務官として凶悪犯罪に関わるようになってから、時々思う。
救いようのない悪党ばかりが、この結果を生み出すものでもないのだと。
己が持つ最強の想い、傷、それを払うための渇望。
俯いてしまっているせいで綺麗には到底見えないものでも、そこには漫然と生きているだけの人とは違う宝物がある。
レジアス元中将にしろ、リライヴにしろ、ルネにしろ、あたし達が捕らえることになったのは、それが犯罪であるからでも、楽であるからでもなかったのだから。
「…今日は、貴女宛に伝言を預かってるの。」
「伝言ですか?」
「えぇ…『命の価値を知らしめる為に死神を演じようとした君へ』…だそうよ、トレディアの意志を継いだって意味だと、少し履き違えてる気もするけどね。」
「そうですね。」
彼女の答えを聞いて、あたしは預かっていた書面を渡す。
何の気なしに受け取った彼女は、その書面に視線を落とし…凍りつく。
書面に記されているのは、彼女の出身地であるオルセアにて起きた、大規模事件の一覧。
兵器製造の施設がことごとく破壊され、オルセアに絡んでいた死の商人…武器商人の団体が悉く局や現地の犯罪者として逮捕、収監されると言う、凄まじく極端な連続事件。
武装や部隊が役に立たなくなったせいで、迫害を推進しているような人達の下に迫害されてきた民族の人たちが集まったりして、つるし上げられたりと酷い事にもなったりしたみたいだけど…
「まともに兵器を使えなくなって食料事情解決の目処が立ったから、少しは狂った諍いは出来なくなるんじゃないかしら。何より、殺さなくてもいいって事を子供たちが味わって喜んでるみたいだから。」
「馬鹿な…馬鹿げている…こんな…一体何が…オーバーS級の魔導師でもここまでの事は…まさか、白い堕天使が?」
「彼女には局も見張りをつけてあるから、そんなはずがないんだけど…ね。」
彼女の驚きの通り。
一騎当千に値するほどの力の人が全力を奮って、しかも『暗躍』になっていないと成立しない。
正体がばれるような事をしていては、シンボルなり敵対なりとにかく祭り上げられるだろうし、何より魔力を使って派手に動いていればあたし達管理局だって放置できない。
「ぁ…」
呻き声のようなかすれた声を漏らすルネ。
書面の最後には、戦火が収束した地域で農具や作物を手に笑みを見せている子供達と…
『君の仕事は此方だろう?』
の一文。
「…馬鹿げている。」
「そうね、この騒ぎだって、巻き込まれた人は皆無じゃないし、そう全て上手く纏まるわけがない。何処の誰とも知れない力づくで、遺恨が残らないはずがないから。でも…」
写真に写る笑顔の子供達。それを見ていると、つくづく思うことがある。
「痛みを痛みだと知らない事こそ幸せな日常なんだって…そう思うわ。少なくとも…子供達くらいは。」
「っ…」
無知でいる事が悲劇を生み、人を傷つける事は多いけれど…だからと言って、わざわざ街中で戯れている子供達に、犠牲や悲劇の話を逐一思い知らせるなんてどうかしている。
失ってから『大切であった』事に気付く事は、既に『大切なもの』を失ってしまっているんだ。
「笑えない人が増えるより、笑顔で居られる人が増えてくれてほうがいいわ。…ま、平和ボケだって言われたらそれまでなんだけど…ね。」
「っ…」
彼女が痛みを痛みだと知らない人達に憤っていて気付かなかったように、なんて事ない単純な話。
その痛みを見せた結果奪っていた『幸せ』がどんなものなのかを、ルネの方も蚊帳の外の出来事のように眺めるくらいしか知らなかったんだ。
あたしはただ静かに、書面を握ったまま目を閉じたルネと残りの面会時間を過ごした。
「あ、おかえりティア。」
「ただいま…ってのも変な感じだけどね、悪いわね謹慎なんかに巻き込んじゃって。」
自分の補佐が事件の主犯だったって事で、軽い謹慎をくらったあたしは、スバルの所に引き続き邪魔する事になっていた。
さすがに悪いとも思ったんだけど、当のスバルはそんな一言すら許さないほどブンブンと首を横に振る。
「巻き込むなんてそんな!家にティア居てくれたほうが嬉しいし。」
「それも妙な表現だけどね…なのはさん家みたいになったらどうすんのよ…」
それなりに有名な英雄二人。幼馴染で同棲して子供一人の保護者となってるあの二人、『夫婦コンビ』なんて噂が立つ位になってしまっている。
尊敬できる二人ではあるんだけれど…さすがにそれは真似たくない。
「それはそれでっ!」
「おいおい…」
満面の笑みで拳を握ってみせるスバルから、あたしは自分の体を抱え込むようにして距離をとる。
や、多分執務官と現場局員の人気コンビに憧れてるんだろうけど。…そうであって下さい。
と、握りこぶしを紐解いたスバルは、力を抜いて少し肩を落とした。
「今日…イクスに会ってきたんだ。…もう眠っちゃったんだけど、ね。」
「…そう。」
あまりいい話ではない事は、声のトーンから分かった。
元々、救助した後に眠ってしまったのも機能不全とか言う話だったし、今回の覚醒と同じくいつ目覚めるか分からないんだろう。
「でも多分また話せる。ディアーチェとアクアがその方法探してくれるって。」
「アクアって…あの遺跡の子?」
ヒーロー会いたさに立ち入り禁止区域まで踏み込んで、見つけたイクスをマリアージュから守るために戦った、ある意味レヴィなんかよりよっぽど馬鹿な子。
ただの一般人じゃ?
「凄かったんだよ?でしゃばるなって怒ったディアーチェに、『見つかるかはともかく、調べるだけならサルでもできるっ!』って言い切って。なんかあの子なら見つけてきそうな気がする。」
「アンタみたいに頭にお花畑でもあるんでしょうね。」
「そうかも。」
ちっこいとはいえそこは長年の知識と経験を詰めた王様だけの事はあって、本気になればそれなりの威厳と迫力はあるディアーチェ。
魔法打たれたらまず防げないし、そんな相手に啖呵切れるなら、結構強い子だ。
ふと、痛みを知るか幸せなままでいるか考えていた事を思い出す。
そう言えば…あの子、話で聞く限りじゃマリアージュに殺されかけた挙句火災の炎を眼前にデバイスまで失いかけたのよね。
「例外も居るのね…」
「へ?」
「なんでもない。」
恐怖というには十分なものを揃って受けたはずなのに、あっさりそんな事を言って見せたアクアの話に、あたしは思わず笑みを零した。
SIDE OUT
題~話じゃなくFileにした時点で、これ予想ついてた方も居る…かなぁ(汗)