なのは+『現の幻』   作:黒影翼

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File6~第97管理外世界・情報整理

 

 

 

File6~第97管理外世界・情報整理

 

 

 

「ぅ…」

「お、気がついたか。」

 

眼を開くと、マスターさんが私の顔を覗き込んでいた。

 

つまりは寝てるところをみられた。そのことに気付いた私は慌てて跳ね起き…

 

「いつ!っ…」

「ジャケットの防護機能も働いてたし、フレイアに回復しといて貰ったからそんなにダメージ残ってないとは思うけど、さすがに少しは痛むか。」

 

ゆっくりと状況を整理する。

晶さんと勝負する事になって、それから…

 

 

「うぇ…」

 

 

思わず変な声が漏れた。

 

腹部強打による気絶って普通はあんまりない。だって直接は意識に関係ない部位だし。

車での事故みたいに意識が処理できる衝撃の許容限界を超えるダメージとか、肺への影響による呼吸系ダメージとか、そういうのが急激に来て起こるものだ。

 

それを生身でジャケット越しに通したの?晶さん。

 

 

…地球って凄い。

 

 

「気持ち悪いのか?直撃みたいだし」

「ち、違うもん!!」

「ほんとに違うならいいけど無理すんなよ?身体の自衛機能なんて阻害していいことないからな。」

 

女の子になんてこと言うのかと怒った調子で返したけど、マスターさんは割と真面目に私の頭を撫でてそう言った。

う…学校の男子みたいなヤジを想像しちゃってた…子供だ私…

 

「大丈夫なら早いとこ弟君のところ行こうぜ。晶さん、睨まれたり俯かれたりで困ってるから。」

「あわわ、そりゃ大変!」

 

勝負って引き受けたんだから別に変な話じゃないし、むしろ私は武装してたんだから失礼にも程がある。

クラウだって分かってるだろうけど、倒れたってなるとやっぱり心配かけてる筈だ。

 

 

 

 

 

「ごめんごめん!もう大丈夫!」

 

駆け足気味に玄関に顔を出して、片手を上げて挨拶する。

 

「良かった…悪かったな、アクアちゃん。」

「こっちはジャケットあったから。それより晶さんの方は…」

 

包帯が巻かれた右手を見て嫌な想像が頭をよぎる。

けど、晶さんはひらひらとその右手を振った。

 

「皮が裂けたから、ガーゼ当てるのに巻いてるだけ。この程度の怪我ならよくあるから大丈夫だ。」

「ほっ…」

 

思わず息を吐く。

折角アレだけ凄いのに、骨砕いて再起不能とかにしちゃってたら申し訳がたたない。

 

けど、私と一緒に来てたマスターさんが呆れたように肩を落とす。

 

「素人の一撃もノーダメージで流せないのに興味本位で魔法に挑むからだ。」

「ぅ…悪かったって。美由希ちゃんにも勝てないし、やっぱ競技選手の器なのかな、俺。」

 

マスターさんに怒られて、肩を落として謝る晶さん。

 

「けどマスターさんってなんでこんなすっごい人と知り合いなの?」

「家に一緒に住んでたんだよ。向こうの俺ん家みたいにあちこちで仲良くなった人の子が集まっててさ。かくいう俺もその一人だったわけだし。」

「はえー…」

 

それでマスターさんの家はあんな家族構成無視したような奇妙な集まりかたしてたのか。

地球にいた時から珍しい家だったんだなぁ。

 

「さてと、目覚めてすぐで悪いけど、タイムアップだ。」

「え?」

「後は料理と温泉を堪能して、明日には帰るからな。」

 

…そりゃ、昼ごろついて、色々やって気絶してたらそんな時間にもなるか。

 

ま、痛い目にあうだけの価値以上の体験もできたし別にいいけど。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

「しっかし皆スタイルいいなぁ…」

「俺はあんまり興味ないんだけど、たしかにすずかもフレイアも凄いよな。」

「褒められてるのは分かるんですけど…向こうに聞こえるからあんまり言わないで欲しいかな…」

 

女湯から空を通じて聞こえてくる声に、俺は軽く息を吐く。

 

すずかは声を小さめにしたみたいだが、俺は聴力も鍛えてあるのですずかの声も拾えていた。

 

で…そんな女性陣の声にもろに反応する耐性ないのが一人…

 

「別に気になっても普通だと思うぞ。」

「っ…な、にが?」

 

隣で湯に浸かっているクラウが、何を聞いてるのか分からないといった風を装って俺を見てくる。

無口無表情と普通の奴は思うんだろうが、よくみれば身体が強張ったりと、気にしてるのが分かる。

 

フレアみたいな奴ばっかりってのも不気味だし、普通そんなもんか。

 

「覗きにいったりとか」

「犯罪。」

「んじゃ混浴くらいはどうだ?」

「…いい。」

 

お、迷った迷った。

 

「けど、随分仲いいんだな、弟君と。クラウ君だっけ?」

「たはは…殆どパシってるのになーんか嫌がらないんですよね。」

「無理は強いていないのか?彼はあまり感情を見せないようだが…」

 

再度女湯から聞こえてきた会話に、クラウが目を閉じる。

何かに耐えるように。

 

「…大変だな。」

「無理は…してない。」

「知ってるよ、大変だな。」

 

一見成立してない会話。

でも、俺が何を大変と言ってるのか感づいたのか、クラウは分かりやすく俺から顔を逸らした。

 

素直じゃない頑張りやが多いことで。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「自然多い場所まで来れば空気もマシになるし、料理もおいしいね。」

 

そこまで空気のよくない地球だけど、都心とか機械がもろに動いてる地域から離れれば、それなりにまともになった。

それに、わざわざ向こうに取り入れるくらいの料理もある世界だし、なんといってもマスターさんが奮発したのか豪勢な料理の数々だった。

 

「んー…魚がおいしい!お肉よりカロリーの心配いらないしすばらしいね地球の料理!」

「刺身、な。地球全土って訳でもないけど、細かいとこうるさい代わりに、腐りの早いこういうもんも扱えるんだよ、日本って。」

 

マスターさんの解説を聞き流して私は再度半透明の魚を一枚口に運ぶ。

わさびじょーゆとか言うのの少しだけピリッとする感覚も、なんていうか凄い。

 

フレイアさんの作るお菓子もその辺で買ってくるのとなんか『ちょっと』違う雰囲気とか味があるのは、多分こういう細かいと言うか、上品な拾いものなんだろう。

 

 

今の段階で出した私の予想もあわせて、間違いないと思う。

 

 

 

「普通に旅行を楽しむのもそれはそれで経験なんだが…収穫はあったのか?」

 

 

 

と、私がこっちで拾った情報を思い返していると、マスターさんが質問を投げかけてくる。

私は箸を置いて、これ以上ないくらい自信満々の笑みを浮かべる。

 

「元々こっちで本人を探そう何て思ってはないけど、手がかりはバッチリ。」

「「え?」」

 

小さくガッツポーズをした私に、フレイアさんとすずかさんが驚く。

それもそうだ、だって二人と色々検索してた時にそんな話は出なかったから。

 

「つってもどういうことだ?こっちでネット使っただけで向こうの人間の手がかり見つけるって。」

「一回本人見てたのが大きいかな?カタナ…それもコダチ何てもの使ってたから。間違いなく地球の…日本に縁のある人だよ。」

 

私がコダチといった所でマスターさんが少し驚きを見せる。

 

「勿論、地球ってだけで日本じゃないって可能性も考えたよ?異文化コミュニケーション入ってるみたいだし。でも、カタナを使った剣技に関しては、日本の剣道主体にしか残ってなくて、オマケに世界競技になってないんだよ。」

「競技じゃなくても知ってる奴はいるかもよ?それなりに長いしな。」

 

晶さんの質問に、私は軽く首を横に振った。

 

「剣道って競技として無い国で、更にその剣道でも使ってる人が絶滅近いコダチを、手元も見ないで抜いてしまえるような達人さんになるまで練習して、かつ魔法世界に縁のある人がいる確率ってどれくらいだと思う?」

「…そりゃ…確かに殆どないな。」

 

こういう理由で日本以外を候補から外した。

聞いて晶さんも納得したのか、少し考えて頷く。

 

「更に!日本って苗字や文字が分かりやすいくらい特徴的なの。だから、今までの出現地域から範囲を絞って日本かカタナに縁のある人を探せば…」

「なるほどな、少なくともヒーローは見つけられるって訳だ。」

 

日本の事をちゃんと知らないままだと地球全部から可能性を考えなきゃいけなくなるし、フードのお助け魔導師と関連付けたら、日本からも外れる可能性がでてくる。

それだけに、日本に絞る理由に確実性が出来ただけで大分収穫だ。

 

「けどそれだと酒場の局員さんと約束したフードの子の方に話が通せないんじゃないのか?」

「そこなんだよねー…」

 

マスターさんからの指摘は考えなきゃいけないところではある。

 

「一応、同じ様な活動してるから、仲間だったり、少なくとも同業者コミュニティとかあったりするんじゃないのかなーって。だから、ヒーローさんに聞いてみるつもりなんだけど…」

 

それで上手く行かなかったら私にはお手上げかもしれない。

 

「随分考えたんだね。」

「まぁね。情報に憶測ってあんまりよくないんだけど、調査にはアタリをつける必要ってあるし、帰ったらこれで探してみる。」

 

褒めてくれるすずかさんに謙遜せずに胸を張る。

そりゃ一般人だし穴くらいあるかもだけど、私なりに頑張ってるからね。

 

「しかしアクア…無理が過ぎないか?」

 

と、水を差すように心配そうな表情を向けてくるのはフレイアさん。

普段からこうだからなぁ…下手するとお父さんやお母さんより心配してくれてるかもしれない。

 

「別に無理はしてないんだけど…クラウは?」

「大丈夫。」

「いや、労力の話ではなく…」

 

少し額を抑えたフレイアさんは、私を真っ直ぐ見て来る。

 

「追っているヒーローや魔導師そのものですら素性が知れず、その偽者だっているのだろう?全てがまともなものとも分からないし、本人がまともだとしても事件に関わっているんだ。以前のような事があったらどうする?」

 

一回既に事件に巻き込まれかけてる。

助けが来なかったらろくな事にはなってなかったと思う。

 

だから、フレイアさんの心配は多分まともだ。私だって何があっても覚悟は出来てるなんて言うつもりはこれっぽっちもない。

 

「そりゃ、何が起きても大丈夫だし覚悟も出来てるなんて言う気はないよ?だって今口先だけでそんなこと言っても絶対出来てないし。」

「なら」

「でもさ、キリがないよそれ言ったら。」

「え?」

 

私の言葉に呆けたように固まるフレイアさん。

そりゃあんな事もあったし、私だって何にも考えない訳じゃない。

でも…

 

「何処で何してれば、怪我も失敗もしないで安全平穏無事無傷でいられるの?」

「それは…」

 

答えは『そんなものない』だ。

料理でも指くらい切るし、工作でも細工でも調合でも…歩いてるだけでも怪我する可能性なんてある。

仮に何もしなかったとして運動不足とか不摂生で病気になるかもだし、そもそもいつかのテロみたいな大規模事件が起きたら何処にいたから無事で済むなんてものすらない。

 

「だったらやりたい事やりたいよ、やっぱり。そりゃあんまり危なそうならやめとくけど、ただ調べてるだけだしね。」

 

さっぱりと答えると、フレイアさんはしばらくして小さく息を吐いて笑みをみせた。

 

「…そうか、そうだな。アクアは今のままの方がらしいか。」

「うん。」

 

何処か噛み締めるように呟いたフレイアさんの言葉に、珍しくクラウが声を出して同意する。

 

「な、なによ!それじゃいつでも何処でも無鉄砲みたいじゃない!」

「違うのか?」

「マスターさんまで!皆ひっどーい!!」

 

私はそれなりに真面目に抗議してるのに、食事場は笑いに包まれた。

地球行きだってマスターさんに誘われたんだから私が無茶なんじゃないもんっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

検閲通せばOKなおみやげをいくらか買って、すずかさんに見送られてミッドに戻ってくる。

 

と…フレイアさんがクラウに話しかけた隙に私の肩を抱き寄せるマスターさん。

かっこよくて力強い人だけにちょっと照れる。

 

「はぇ?」

「怪我とかはともかく、色々にかまけすぎて身近な大切なものに気付かないことはあるかもな、気をつけろよ。」

 

わざわざそれだけ耳打ちすると、軽く背中を押して離れるマスターさん。

 

なんだろ?妙な忠告。

そんな変わった注意なんて私が聞いたってしょうがないと思うんだけど…

 

 

 

ま、いいか。今日はこの後の行動方針決めるのに忙しいし、旅行帰りともあってさすがにちょっと疲れた。

細かい事は気にしないで帰ろう。

 

 




正体知ってると、『当たり前だろ』と思うような前提も、現地に行かないと拾えないかな…というのが今回の情報整理の流れです。
いくらか文化流れてきてるったって異国所か異世界ですからね、ミッドと地球。
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