File7~事件を求めて
Side~スバル=ナカジマ
ティアが来て、エリオとキャロも来て、アルトも揃って食事して、そんな楽しげな日に気が抜けていた…なんてことは当然ない。
でも…あたしはその日、目の前で救いを願う人を助けてあげる事ができなかった。
多分話を聞いたからか…ヴォルツ指令が回してくれた車に乗って、少しの話と励ましに、ちょっとだけ重苦しい空気が晴れた車。
その中でヴォルツ指令はその口をゆっくりと開いた。
「ところでナカジマ…変な話なのは承知で聞くんだが…」
「はい?」
珍しく言い辛そうなヴォルツ指令。
あたしはどんな話でも変な反応をしないようにと、心を落ち着ける為に飲み物を…
「ヒーローって信じるか?」
「ぶーっ!!!」
「うぉ!お前なんて事を!!」
煽った所でとんでもない事を言われて、思いっきり含んだ飲み物を噴いてしまった。
ああぁぁぁ!指令の車なのに!!
「す、すみません!」
「ったく…まぁ変な話なのは分かってんだけどよ…」
ぼやきながらタオルを投げ渡す指令。
受け取ったタオルで車内に散った飲み物を拭き取りながら、続きを聞く。
「…お前さんが褒めちぎった空港火災でな…見たんだよ。」
「そ、そうなんですか…」
あの規模の火災、指令が伝説となるほどのソレに加わって、ヒーローなんて呼ばれるだけの動きを出来る人なんて一人しかいない。
あの人は…一体何やってんですかまったくっ!!
って、ごねるどころか下手な救助隊より余裕で装備も能力も桁外れだからなぁ…あの人達。
文句も言うに言えない。
「お前みたいだよ、耐熱防護か何か知らないが、炎の中に凄まじい速さで突っ込んでいきやがる。俺は一瞬幻かと思ったよ、何しろ生命反応なかったからな。」
「あー…え?」
生命反応がないって聞いて、そんな事出来たなぁとか思い返してしまってまずい反応であることに気付く。
いけないいけない、普通驚くとこだここ。
「今回あっただろ?どこかから放たれた氷結魔法。」
「はい…」
何処からかいきなり放たれた氷結魔法。
それが火災で燃え盛る炎に包まれたホテルに直撃、一気にその温度を下げた。
普通安全確認が出来ないと、人とか巻き込みかねないから撃てないんだけど…魔力ダメージの設定を応用したのか建造物そのもののみにしか氷結効果は及ばず、被害が最小限で済んだ。
「多分、奴やその仲間なんじゃないかって、俺は思うんだ。…まだ笑うか?」
「いえ。」
間髪いれずに返した。
そもそも、初めから笑うつもりなんて欠片もなかったんだから。
ただ、そのヒーローや仲間達が想像できてしまうせいで吹いてしまっただけで。
「お前も分かってると思うが…そう簡単なもんじゃねぇ。魔導師って力があるだけに、何も知らねぇまま首突っ込んでくるようなら、今度は…」
言葉を止める指令に、何を言われるかと少し緊張していると…
「そんなオマケより、救助隊としてきっちり働いてみせて、そんでもって勧誘でもしてこい。出来る奴が来てくれれば救える奴も多くなる。」
「あ…は、はい。」
無理難題に乾いた笑いがでそうになったものの、それを飲み込んであたしは頷いた。
命を救う、そのためにあたしはここにいるんだから、それが関わる話を笑えない。笑う気なんてない。
ただ…
あの人達が、何故そんな身でいるのかを知っているあたしは、指令の言葉に力強い返事を返す事が出来なかった。
SIDE OUT
地球に行ってからしばらく、めぼしい進展もないまま起きてきた朝、映っていたニュースに私は呆然とした。
「ホテルで大火災…うわぁ…これ酷いなぁ。」
ホテル上部が…うん、えらいことになってた。
詩的な表現が浮かばないけど、とにかく酷かった。
何をやったらそうなるんだって言うような燃え方をしている。
と、次の瞬間…
「うえぇ!?凍った!?」
どっからか放たれた長距離魔法が直撃した上層階がまるまる氷付けになった。
何でこんな事に…
「…お願いだから、見に行くとか物騒な事はやめて頂戴ね?」
「あ、あはは…分かってるよ。」
お母さんに念を押され、私は苦笑を返した。
正直、向こうで拾ってきた情報もあるし、顔出してみたりしたいけど…
早々何度も家族に心配かけるもんじゃない、うん。
この間異世界に行ったばっかりで次また事件現場とか、どんな中学生だ。
『尚、この氷結魔法での人的被害は全くなく、非殺傷設定で放たれているため、火災を止めるために放たれたものだと睨んで、放火犯である長身の女性との関係を含め、調査を進めるとのことです。』
…ますますヒーローさん関わってそうだけど…うーっ、我慢我慢!我慢するんだからっ!!
「出来たら苦労しないよねー…」
さっさと事件現場に来てしまうあたり私の性格ってもう修正不可能なんじゃないかって思う。
とは言っても遠巻きに眺めるくらいがせいぜいなんだけど。
急激な温度差は金属にしろなんにしろダメージを与えるものだけど…ホテルは大丈夫なんだろうか?
修繕か掃除か塗装か、外壁が鉄骨と布で覆われている。
「はー…」
終わった事件現場だけ見ても仕方ない。
私は事件の捜査がしたいんじゃなくて、それに関わってる人達を見つけたいだけなんだから。
「やはりきたか…」
「あ、フレイアさん?」
終わった事件現場、その地に何故かフレイアさんがいた。
「何でここに?仕事は?」
「作る分は作って販売は頼んできた。アクアが来ているんじゃないかと気がかりになってね。」
理由を聞いてみればびっくりした。
私が目当てだったの?
「今回ばかりは危ない、連続殺人の容疑者が起こしてる事件だ、関わろうとするものじゃない。」
「そりゃ…うん、分かってる。」
あれだけ大々的に放送されてれば、嫌でも危ない事くらい分かる。
事件に関わっていいはずがない。
でも、探してるのは事件の犯人じゃなくてそれを止める側の人な訳で…
「うー…」
「無理もないな、今回は探していたローブの魔導師もいた訳だし、気になるだろう。」
「そうなのそうなんだよ!」
苦笑するフレイアさんの言葉に思わず熱を入れて詰め寄る。往来である事も忘れて。
「外部から氷結魔法の一撃、それによる凍結!修繕中のところを見る限りじゃ、温度差による支柱や鉄骨への被害も少ないはずだし、中にいた人に被害が出るようなら撃った人も手配されるはず。プロと同じ…ううん、防災の人たちが出来てないならそれ以上の力量で、技量の人じゃないと出来ないんだよ!」
間違いなく並の人でも偽者でも、若気の至りでもない。
広域攻撃可能な魔力と魔法を持ってる上にその調整も自由自在な人でないとこんな事できない。
「あまり不謹慎な事を大声で言うものじゃない、調査に局員の方々もいるようだし…」
「あ、そか、ごめんなさい。」
いくら魔法が先天性の割合が高いって言っても、専攻してる身で何処の誰とも知れない人に負けてるなんて気分が良いわけがない。そんな事、この間の飲み屋さんでの話で分かってるのに…
「でも尚更疑問なんだよねー、どうして局員さんにならないんだろう?厳しいだろうけど、こんな技量才能だけで持ってるはずないから相当頑張ってるはずなのに…」
改めてホテルを眺めて呟く私に、フレイアさんは小さく肩を落とした。
「え?じゃあクラウも止められたの?」
私とは別口で、連続殺人って事だったからその流れを調べて貰ってたクラウと合流したけど、クラウの方もマスターさんに止められたらしい。
居場所がよくわかったなぁってのもそうだけど、あのマスターさんが人を止めるタイプだと思わなかった。
「…で、どうするの?」
私を真っ直ぐ見て聞いてくるクラウ。
なんだろう、何か珍しい気もする。
「どうするって…」
どうするもこうするも、こっちも目撃情報聞いて回るどころじゃなかったし、話じゃ死者までいるんだから不謹慎で調べが足りてない。
そんなこんなで、思考がぐるぐる回ってしまってる私に向かって、クラウは紙を差し出した。
「…マリンガーデン?」
「海底遺跡上のレジャーランド…狙われてるのは、遺跡関係者。」
事件は現在進行形で片付いてなくて、マリンガーデンは海底遺跡上にあって、狙われてるのは遺跡関係者で…
あれ?これ…下手すると危険なんじゃ?
「行ってみる?」
「クラウ、アンタ…」
レジャーランドとはいえ、多少危なくなる提案をするクラウ。
私から引っ張ってばっかりだったクラウが持ち出した話に少しびっくりする。
「姉さんは…止まらないほうが、らしいよ。」
「…コイツ!」
人のイメージを勝手に固定してしまっている弟の額にチョップを入れる。
特に動じずに私を見ているクラウ。私は小さく息を吐いて…
「…ケーキじゃ済まないわよ?チケット代。」
「うん、済まなかった。」
一番の問題に念を押したつもりだったのだけど、クラウは二枚のチケットを取り出した。
相変わらず表情を変えないクラウ。だけど、その顔は何処か楽しそうに見えて…
既に買ってるって…ったく、なんて奴っ!
感心するべきか呆れるべきか、とにかく驚かされた。
でもまぁ…そこまで準備しちゃってるなら今更考える事もない。
「…よしっ、行きますか!」
私は一枚チケットを受け取ると、笑みを浮かべてみせた。
Side~高町速人
「やれやれ…アイツも本当大変だな。」
マリンガーデンのチケットを買っていたクラウの姿を見た俺は、予定を変更して装備を整える。
「後つける気?」
「そこまではしないけど、マリンガーデンの様子くらいは見ておかないとな。」
リライヴの質問に軽く答えを返す。
最近動いてるらしいマリアージュとかいう兵器群。
連中の狙いが遺跡関係となると、さすがにマリンガーデンを放置しておく気になれない。
少なくとも、すぐ動ける状態でいないといけない。
「外は頼むな。局の人達も仕事頑張ってるったって、高ランクの魔導師なんてぽんぽんいるものじゃないからさ。」
「知ってる、他所で何か起きればディアーチェやユーリが動いてくれるし。安心して。」
笑顔で告げるリライヴに、俺も同じく笑顔で頷く。
分かってる。
戦力が無敵に近くっても、すぐ傍で、すぐ対処できる状態で、すぐ対処できる事が起きる保障なんてない。
どれだけ備えたって、全て護ろうなんて、安心の保障がつく訳がない。
現に、ホテルの爆発でも死人が出てしまっている。
でもそれが…死人が『出ていい』理由になんて、なりはしない。
「無敵のエースがいなくったって、ストライカーも頑張ってるんだし、どうにでもなるさ。」
「なのはに聞かれたら怒られるかもよ?馬鹿にしてるのかって。」
言いあって、あっさりとなのはの怒る姿が想像できた俺とリライヴは互いに笑った。
「…こっちは私達に任せて、速人はあの子達をお願いね。」
「あぁ、任せとけ。」
元々あいつらだけなんて言わず、誰かを死なせる気なんて毛頭ないし、なんと言っても珍しいフレイアの友人だ。
護って見せないとな、ヒーローとして。
SIDE OUT
はやてクラスがいると救助終わったら一撃氷結消化、しかも後始末は魔法の解除のみ。
普通の救助隊だと、消化剤砲撃等…高ランク魔導師便利だなぁ(汗)