File8~マリアージュ
「やー、爽快爽快!普通に遊びに来ちゃったねコレ。」
さすがレジャーランド。
アトラクションいっぱいだし、子供の多い事。
「まぁたまたま私達がいるところで事件が起こる確率の方が低いわけだし、元々気にする必要ないのかもだけど。」
「姉さん。」
来る前から警戒が過ぎたかと思っていると、クラウが私に声をかけて、人差し指を唇に立てていた。
そりゃそうか、連続殺人の犠牲者自体は名前を報道されてるけど、それが遺跡関係なのはネットなんかからクラウが資料を漁った結果なんだ。
ここが海底遺跡上のレジャーランドだってことは周知の事実だし、下手な事話して普通の子供連れまで怯えさせる事はない。
「で、どうするの?」
「上から下まで普通に楽しんで…ちょっと通りすぎてみる?」
毒を食らわば皿まで。
折角だし、解放されてるエリア以外も覗いてみたいところだ。
この後の事件を追う足しにもなりそうだし。
「…分かった。でも、目的は忘れてないよね?」
「当然。」
私の目的は、ヒーローさんやお助け魔導師さんに出会う事。
事件に関係ありそうなものを調べて、遭遇率を上げたいだけで事件そのものに首を突っ込んじゃいけない。
最悪、私のトークスキルで『お手洗いを探して迷い込んだ』とかそういう事にしてやり過ごそう、うん。
普通にコースターに乗って振り回され、いい気分になったあと、ふと思う。
うーん、弟とかぁ…
レジャーランドに男の子と二人きり。
こう言うと随分アレだけど、実質は弟。
これでいいのか私、女子中学生。
…まぁ高校以降でいいよね、そういうのは。
「そろそろ下に行ってみよっか、とりあえず何処まで解放されてるのかも分からないしね。」
私の提案に素直に頷き返すクラウ。
遺跡かぁ…よくあるけど、どんな感じなんだろうなぁ…
Side~ギンガ=ナカジマ
最近起こっている連続殺人事件から見えた、トレディアとイクス。
その二つを、よりにもよってジェイル=スカリエッティ達が知っているとの情報をチンクから聞いた私は、彼女を連れ立って面会に赴いた。
「クアットロは…無事だったか。」
「…ええまぁ、さすがにもう慣れました。」
チンクが真っ先に心配したクアットロ。
彼女は速人さんが捕らえたらしいが、何をされたのか足音にトラウマを覚えてしまって、つれてこられた当初は食事もままならない有様だった。
怪我の功名…と言っていいのか、皮肉げな喋りも復活してきてはいるものの、以前ほど酷くなく、多少丸くなっている。
だけど…
「地上の事件なんて今の私達に関係ないわね。」
情報提供を求めた私の言葉を、ドゥーエが一声で切り捨ててしまった。
ここまで捜査協力も何もかも一切まともに返してくれなかった彼女達が、今回に限って手を貸してくれるかと言うと、正直心許なかったのだけど、やっぱりこうなってしまった…
「下の妹達も関わる事になる、できるなら情報を貰えないだろうか?」
「手段を選ばないなら…私達より先に頼るべき場所があるでしょう?情報はともかく、確実に局ほど忙しくない戦力が。」
忌々しげに呟いたドゥーエ。
彼女は、一般人の…それどころか、魔導師ですらないただの人間である月村恭也さんに倒されてここに囚われた。
仲間にいたグリフといい、速人さんといい、彼らの持つ、戦闘機人の作られた力を否定するような存在ばっかりだったから、スカリエッティと彼に心酔する彼女達にとっては、速人さん達はあまりいい相手ではないのだろう。
そして何より…彼らを民間人とする『建前』で力を借りない癖に、危険と言いながら情報を貰いに来た管理局に、いい思いを持たないんだ。
違法と称されて、自由に研究を続ける事ができなかった無限の欲望とその娘達として、その法の鎖の手伝いなど、進んでやりたいものじゃない。
「単なる戦闘と、防災や諜報はまるで畑違いだ、いくら彼らでも」
『チンク姉、聞こえる?』
チンクが再度問いかけを投げかけた所で、ディエチから通信が入る。
『ミッド海上で、大型火災が発生した。』
直後、表示された映像に…
海が燃える光景が映し出された。
ただ事じゃない大規模火災…これ、マリアージュのっ…
「おやおや、タイムリーだね。」
「タイムリー?」
スカリエッティが肩を竦めながら笑う。
タイムリー…まさか…
「折角だから教えておこう。マリンガーデンは…現在のイクスの居場所だよ。マリアージュが求める主、冥府の王、イクスヴェリアのね。」
マリアージュが求める主って…イクスヴェリアの居場所を…マリンガーデンを目指してるって事…量産型の突撃燃焼爆発兵器が…あんな場所を!?
それは、最悪の報告だった。
SIDE OUT
立ち入り禁止先にこっそりと忍びこんで、現在地が分からなくなってふらふらして、けど人に声をかけることも出来ずにいた私は、漸く帰り道に検討がついたという所で…
外からの爆音を聞いた。
「えーと…これってもしかしなくても大ピンチ?」
軽口を叩いてみるが、冷や汗が止まらない。
帰り道の通路、その先、機械的な光しかないはずの先から、火災の映像にあったようなオレンジ色の光が、帰り道を埋めている。
暖房効きすぎなんじゃないかなー、ここ。
汗が止まらなくなりそうな熱風が、光輝く通路の先から届く。
…帰れるかっ!!
なーんてツッコミをしている余裕もない。
「どうするの?」
「どうするって、外ならさすがに消化始まってるだろうし、焼け死なない所に隠れて待つしかないよ!」
あんな炎どうにかできる力なんてさすがにない。
フィールド全開で炎を掻き分けて突っ走っても、私はともかく、私の半分も魔力値ないクラウが…
ざっ…と、足音が聞こえてきた。
視線を移せば、一人の女の人。
バイザーをつけている長身で大剣を手にした女性。って…この人、手配されてた衣料品店襲撃犯じゃ…
チラリとクラウを見る。…駄目だ、こんな時くらい私が守らないと。
未熟だろうと何だろうと、私がやらなきゃ…誰もいないんだから!
「クラウ、一人で火から離れて逃げて。煙は吸わないように出来るだけ低い姿勢でね。」
「一人でって…姉さん?」
私は覚悟を決める。
アクアリウムを起動させ、大剣を持った女性の前に身を晒し…
「アレは私が引き付けるから!」
それだけ言うと、全力で女性に向かっていった。
いくら何でも本物の犯罪者相手になにが出来るとも思わない。
だけど、挑発して走って逃げるくらいなら!
「貴女はイクスの居場所をご存知ですか?」
「犯罪者相手に話すことなんてないっ!」
接近と同時にシューターを一発放り込む。
だけど、事もなげに剣で魔力弾を断ち切られた。
うー、やっばい、この人相当だ。
掌に乗せて事足りるサイズの弾が高速で動いているのにそれを事も無げに剣でとらえるなんて、それなりに出来る人じゃないと無理な話だ。
そりゃ大会常連ならそれくらい当たり前にやるんだろうけど…
「知りたい事があるなら捕まえてみろっ!」
私はそのまま女性の脇を通り過ぎ、クラウを逃がした道と反対に突っ走った。
それなりには体力もあるんだから!絶対逃げ切ってやるっ!!
「だあぁぁぁぁっ!!」
こんな大騒ぎ平気で起こすような犯罪者相手に捕まったら一巻の終わりだ。
走る、走る、走る。
「くっ…」
追ってきてる?って確認する為に振り返って…
ブン、と大剣が振るわれる音がした。
「うわぁ!!」
慌てて飛ぶように避ける。
が、前を見ないまま飛んで気付く。
アレ?柵なかったっけ?
「あ…」
結構な跳躍のおかげで柵を越えて気付く。
足場がない。
「わああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
家よりは軽く高いんじゃないかって階層を一気に落ちる。
えーと、高高度落下用衝撃吸収魔法…展開!
「へぶっ!」
したけど、緩やかになっただけで、顔面から床に突っ込んだ。
うぅ…鼻が痛い。
ま、まぁ直で2、3階分の落下ダメージを顔面に受けたらさすがに首とか色々危なかったし、鼻が痛いだけで済んでるのはよしとしよう。
追ってこられることを考えてそのまま走る。もう現在地なんて何処か全く分からない。
誰か気付いてくれますように、誰か気付いてくれますようにっ…
さすがにもう自力で逃げられる気がしない。
「あの…」
「え?」
場違いな子供の声。
私は足を止めて視線を移し…
本当に小さな子供がいた。
「……誰?」
「あ、その…」
言い淀む子供。
こんな所で平然としてられるなんて…
まさか…主犯?…な訳ないか。
「大丈夫ですか?」
「私は大丈夫…じゃないかなー?はは…」
くったくたでへたり込む。
結構疲れてた。そりゃそうか、殺され…かけてたんだよね…多分…
「は…はは…はぁっ…」
「…逃げないと、危ないですよ。」
へたり込んだ私にそう声をかける女の子。
そう言われても、ジョギングならともかく全力疾走繰り返すのは人間技じゃないんだから勘弁して欲しい。
「ところで君…誰?」
「私は…すみません、逃げないといけないんです。」
質問に答える事無くそう言うと、彼女は立ち上がろうとして…
ずっこけた。
「あらら、大丈夫?」
「な、何で…」
困惑する女の子。うーん…まぁどう大人びた口調して見せた所で子供みたいだし…
へたり込んだ体をひょいと立たせる。
「炎の中突っ走るわけにはいかないけど、これでも一回は競技出たことあるんだから…」
言いながら、構える。
視線の先には暗闇…いや、その中から見える一人の人影。
「お姉さんが守ってあげる、助けが来るまで位は…ね。」
「む、無茶です!マリアージュは」
「無茶でも何でも…やるしかないでしょっ!!!」
私は構えたデバイスを手に、向かってくる人影に魔力弾を放った。
当然のように斬撃で消される。
けど、その間に距離を詰めて…
私が振るったデバイスはあっさりと止められ、体ごと弾き飛ばされた。
「きゃあっ!!」
力負けした。
大剣と棍状の杖じゃ、一撃の重さに違いがありすぎる。
「ぁ…」
大剣を振りかぶった女性が見える。
バイザーをつけて、表情の伺えない女性、隠された表情同様無機質な動きで構えられた剣は…
「駄目!逃げて!」
女の子の叫びも虚しく私に向かってまっすぐに振り下ろされた。
思わず眼を閉じる。
怖かった。怖くて真っ白になってしまった。
次に来る痛みに涙を流しながら悲鳴すら上げることも出来ずに…
キン…と、甲高い衝突音が聞こえた。
「は…あああぁぁぁぁっ!!」
次いで、馴染み深い声。
ゆっくりと目を開く。
「ク、クラウ!?」
自分の身長ほどの剣…というにはあまりに装飾のない、鉄の塊を剣の形にだけしたような、そんな剣を持ったクラウが、振り下ろされた女性の剣をはじき返し…
「姉さんは…僕が守る。」
私の動揺を他所に、剣を構えなおしたクラウは迷いなくそう言い切った。
マリアージュの一体相手ですらこの有様。(むしろ逃げられるだけ凄い?)
戦闘能力ないのって大変なんだなぁ(汗)