《GATE/サーヴァント 彼の地にて、斯く戦えり》です。
とうとうここまで辿り着きました。
前作《Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり》は特地でのサーヴァント登場の出処を明らかにする為の話でした。
本作の流れと云うか構成は、伊丹達の行動を中心に進めていきますので、関係してくる地球側の他国内のやり取りはサラッと簡潔に早送りさせます。
まだまだ構想を練りながらの話ですが、伊丹が三偵を解任されるまでの行動は原作の流れに沿い、資源情報調査担当に着任してからは一部外伝+オリジナルの展開にする予定です。
先ずはこの第一話ですが、伊丹達が冬木から東京に戻り銀座事件に身を投じるまでを描いています。
宜しかったら、最後までお付き合い下さい。
虚空屍
1 お久し振りです、閣下
真夏の暑い土曜の昼前。
この太陽の照り返しも強くアスファルトも溶け出しそうな暑さの中、多くの人々が行き交い賑わう銀座。
そんな人々で溢れかえる銀座の真ん中に突如現れる門。
道を塞ぐ様に現れた門に銀座を行き交う人々は何事かと思い立ち止まり様子を窺う。通行人の中には映画のプロモーションかと思う者もいる。
すると突然その門の中から人為らざる怪物達が跳び出し銀座を行き交う人々を辺り構わず蹂躙し始めこの地の平和は破られた。ある者は棍棒で頭を割られ、またある者は上半身を喰い千切られる。そしてまた一人握り潰される…………。
かつては人だった物が、今では只の肉の塊となり其処らかしこに投げ捨てられている。
銀座を行き交う人々はトロール、ゴブリン、オーク、ドラゴンなど当たり前ではあるが初めて目にする怪物達になす統べなく襲われて殺され、辺りのアスファルトは流れ出た血で赤黒く染まる。
逃げ惑う人々に襲い掛かる怪物の群は
怪物達が門を出終えた後には整然と隊伍が組まれた人とおぼしき軍勢が兵馬を進め、怪物達が討ち漏らした生存者を探し、止めを刺しながら更に戦線を押し拡げ始める。正に阿鼻叫喚の地獄である。
その軍勢は銀座中心部の掃討を終え、付近の死体を集め積み上げ骸の山に登りそこに軍旗を立てて声高らかに宣言書を読み上げる司令官。
「我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名に於いてこの地の征服と領有を宣言する!」
話は
伊丹耀司、三十三歳。陸上自衛隊、三等陸尉。
彼は休暇で訪れていた西日本にある冬木市で突如、あり得ない文部科学省への出向命令を受けその地で教鞭を取っていたが、二ヶ月後には原隊への復帰を命じられ市ヶ谷の陸上自衛隊に戻って来た。
東京に戻って直ぐに伊丹はある知り合いに連絡をして面会の日時の調整をして貰い、妻を連れて結婚の報告をしに行く事にする。
この伊丹の知り合いはかなり多忙の身であるが、他でもない伊丹が妻を連れての結婚報告と云う事で様々な予定をキャンセルしてまでも伊丹との面会をスケジュールに捩じ込んだのである。
閑静な住宅地の屋敷の門の前でタクシーを降りる伊丹とその妻。
入口脇に居る警護の警察官に本日の面会を告げて敷地内に入ると伊丹の知り合いに付いている秘書がやって来て二人を屋敷内へと案内をし、とある部屋の障子の前で膝を折り中の人物に声を掛ける。
「先生、お見えになりました」
『おうっ松井、入ってもらえ』
松井が障子を開けると部屋の上座には着流しを着た伊丹よりもかなり年配の知り合いが座って待っている。
「久し振りだな、伊丹」
「お久し振りです、閣下」
伊丹が訪れた知り合いとは現与党の国会議員であり政府の閣僚でもある嘉納太郎である。
「先ずは結婚おめでとう、あと原隊復帰もな」
「有り難う御座います。こちらは俺の妻でメデイアと言います」
伊丹は隣で馴れない正座をしているメデイアを紹介する。
「伊丹の妻、メデイアと申します」
頭を下げるメデイアに
「しかしお前さん達の式に顔を出せなくて済まなかったな」
「そんな事は気にしないで下さい。閣下が多忙なのは判りますから」
「ちょっと遅くなっちまったが俺からの祝いだ」
嘉納太郎は懐から封筒を取り出し伊丹の前に差し出す。それは封筒が立つ位の厚みがある。
封筒の中身を察した伊丹は慌てながら嘉納太郎の前に封筒を押し戻す。
「こっ、こんなに頂けませんよ!」
「おいおい、中身を見てから言ってくれよ。只の新聞紙かも知れないだろ」
再び伊丹の元に渡された封筒の中身を渋々見る。
帯が付いた七桁の諭吉の束が伊丹にこんにちはをしてくる。
「ぐふっ! こんなに頂けませんよ!」
「年上からの祝いは素直に受け取っておくもんだ」
「…………では、有り難く頂きます」
メデイアと二人で深々と頭を下げる。
前以て嘉納太郎が出前を頼んでいた特上の寿司が届き、食べながら会話が進む。
「処で伊丹、お前さん冬木市に居るとき散々な目に遭ったみてえだな」
伊丹は嘉納太郎が聖杯戦争の事を言っていると感じたがまさかとは思いつつそれをはぐらかす。
「散々な目ってなんです?」
「聖杯だよ聖杯。俺が知らねえとでも思ってんのか」
「何で閣下が聖杯戦争を知っているんですかっ!?」
「なあ伊丹よ。あんな
あれだけ人が死に物を破壊されているのを警察が不審に思わずにはいないし、かと云って深くは追求して来ない。確かに警察の捜査が緩いと聖杯戦争中も伊丹も感じてはいた。
「もしかして公安とか
「まぁ、参加したお前さんにだから言うがそう云うこったな」
伊丹は聖杯戦争が60年に一度の厄介な行事として政府に知られている事に驚きを露にする。
「それに聖杯戦争が終わった後も生き残った参加者達には公安が張り付いてるぜ」
「何で残ったマスターに────」
「あれだけの斬った張ったの世界に浸かったんだ。精神が病んだ奴が破壊や殺人衝動に駆られたり、あの儀式を世間に公表しない様にする為だ」
伊丹は嘉納太郎から政府の立場としての言葉に或意味納得する。
「表向きこの世界は魔術とかは認めちゃいねえが政府は把握しているぜ。まぁ、官邸と一部省庁の上層部だけなんだがな」
「もしかして政府は過去の聖杯戦争も知っていたんですか!?」
「ああ、明治時代の頃から政府としての公式な記録は残されているぜ。都市伝説みたいだがそうじゃねぇ。今までの聖杯戦争に関する資料や報告書は官邸の金庫にしっかりと保管されて引き継ぎがされているってもんだ」
伊丹は昔から政府がその存在を認め秘匿していた事に驚くが、嘉納太郎は話を切り替えた。
「で、お前さんのかみさんはその時召喚した相棒なんだってな。話は聞いてるぜ」
そんな事まで知っているとは嘉納太郎の言葉通り公安や内調が動いている事を伊丹は確信する。
「ええ、俺が召喚したのは魔術師のクラスのサーヴァントです。ギリシャ神話でも稀代の魔術師と伝えられてもいるんですよ」
「さーぶぁんと?」
「サーヴァントです。使い魔って事で先程言われた相棒ですよ」
嘉納太郎はメデイアに話を振る。
「で、メデイアさん。オタクのこいつのどこに惚れたんだい? まぁ、俺も人の事を云えた立場じゃねえんだがな」
「始めは宿を取る為の方便で許嫁としていましたが、日を重ねるに連れ伊丹の優しさに触れた感じが致しました。ええ、その優しさですわ」
「
聖杯が願望機である事を知っている嘉納太郎は興味に駆られ伊丹に聞きただす。
「メデイアが肉体を持つ事ですよ。あとは聖杯の機能停止ですかね」
「何だと!! お前はあれを止めちまったって言うのか!?」
伊丹は何当たり前の事を聞いているのかと思いサラリと答えるが、政府関係者としとの立場の嘉納太郎が驚き出した。
「えっ? いけませんでしたか?」
「参ったなぁ…………いやな、政府も今後あれに一枚噛もうとしていたんだが聖杯はもう出て来ないのか…………」
「ちょっと待って下さい! 聖杯は人の善し悪しを選びませんよ。勝ち残った者の願望を叶えるだけです。実際、聖杯を人間を間引く為に使おうとした輩も居たんですよ! それに比べれば何て事無いじゃないですか!」
この世を地獄に変える事も出来る聖杯が伊丹の手に渡った事を天に感謝した嘉納太郎。
「世界の危機を救った隠れた英雄って訳か…………英雄様を無下には出来ねえよなぁ。なあ伊丹よ、困った事があったら言ってくれ。世界を救ってくれた礼代わりだ、力になるぜ」
伊丹は分厚い封筒を擦りながら嘉納太郎に話す。
「もうお祝いは頂きましたが────」
「あれは結婚祝いだ! 今言ったのはお前さんが馬鹿な事に聖杯を使わなかった事への礼だよ! お前さんとかみさんの武勇譚を聞かせてくれねえか」
伊丹は休暇を当てて冬木の同人誌即売会に出向いた処から話をし出す。
生の聖杯戦争の話を聞き嘉納太郎は興奮を露にする。
「まあ、お前さんがかみさんと無事に居られたのが何よりだな。その話を内調で話してくんねえか。お前さんの生の語りを記録として残さにゃならんからな。そんときゃあ、追って知らせるよ」
最後に嘉納太郎は伊丹に言って良いのか悪いのか迷った挙げ句、話せなかった事がある。
( なあ伊丹よ、入院中のお袋さんに結婚の報告位してやんな………… )
東京に戻ってからと云う物、メデイアはギルガメッシュを連れ都内を回り霊気の集まる所を調べ回り、皇居が一番霊気が集まる所と判り、ちょこちょこと皇居周辺に出掛け出している。
「ここの霊脈が集まる場所は最高じゃないの! 本当に良い霊気が集まっているわ! いざとなったらここに陣地をつくるわ。ええ、結界を張るわ! 流石は二千六百年以上続く皇国だわ。」
「メデイアさん、もう聖杯戦争有りませんから」
ギルガメッシュの言葉など聴こえないメデイアは東京を護り皇居に集まる霊気にただただ感心する。
「天海大僧正は素晴らしい仕事をしたわね。嘗ては徳川幕府を護る為、そして帝都を護り今の東京を魔力の力で護り続けて居るのよ!」
メデイアは地図に今までのお詣りをしたお不動、神社仏閣をマークしてそれぞれを線で結んでいくと、皇居を中心とした五芒星や北斗七星の形になる。更には皇居の真北に位置しているのは徳川家康公を神と奉る日光東照宮がある。
「こんなに霊力で首都を護っているのは日本位だわ~」
メデイアはお詣りをした所に魔術を仕掛け、いつでも魔術結界を張れる様にもしていた。
そんな度々皇居の周辺を散策するメデイアとギルガメッシュが周囲の目を惹かない訳がない。
皇宮警備隊の中でも話題にあがっている。
「最近良く見掛ける外人のカップルが居るよな」
「そうそう、良く皇居の周囲を散策して居るな。しかし目立つ二人組だよ」
「ああ、俺は気になって話し掛けたら都内のパワースポットを巡っていて、その霊気が皇居に集まっているって言っていたぞ」
「本当かよ!? しかし珍しいよな、外人さんのパワースポット巡りって」
「俺なんて目が合う度にあの美人さんから
「くっ、羨ましいなお前は!」
ギルガメッシュが伊丹やメデイアを『さん』付けで呼ぶにも、彼なりの心中の変化があった為である。
聖杯戦争最終戦の前から、伊丹の出退勤を度々待ち伏せしてはサーヴァント替えを仄めかすなど、己がマスターである言峰綺礼よりも伊丹に興味を抱た。
最後の戦いに於ては、瀕死の重症を負ったギルガメッシュの顔を伊丹が判別出来ない程に打擲し、指の骨を一本一本全て折り、放って置いても何れ消え去る敵であるギルガメッシュを『戦いはもう済んだ』との理由で、伊丹がメデイアに頼み込んで一番に治癒の魔術を掛けたりして貰った経緯から、伊丹とメデイアには恐怖と云う
こうしてメデイアと行動しているギルガメッシュであるが、何もせずふらついて居る訳ではない。
伊丹と共に東京に来た彼は株のデイトレーディングを始めたのである。彼の持つスキル《黄金律》が加わり底値の株がストップ高に成る程である。
株の売買で纏まった金を得たギルガメッシュは起業をし出す。その社名も《King Of Hero商事》とされたが、勿論伊丹もメデイアもこの胡散臭い会社が何をしている企業かは今は未だ知らされてはいない。
こうしてメデイアの皇居巡りとギルガメッシュのデイトレーディングと企業運営は彼等の
そんな平和な日常を過ごす伊丹達。
真夏の暑い土曜の昼前。
新橋駅に伊丹とメデイア、そしてギルガメッシュがゆりかもめに乗り換える為に小走りで改札を抜ける。
何かが一瞬、伊丹の視界の端を通る。
伊丹は連絡通路の窓に付いた汚れか何かかと思いそちらに目をやると、信じられない物を視界の中心に捉える。新橋から離れた銀座上空から此方に向かって飛んでくる翼竜である。
( おいおいおいおい! なんだよありゃ? ワイバーンか!? 有り得んだろ!!)
するとメデイアが念話で然り気無く答えて来る。
( あらまっ、珍しい。ドラゴンですわね )
その念話にギルガメッシュも加わる。
( 伊丹さん、あのドラゴンは雑種に使役されていますよ )
伊丹は目を凝らして観ると確かにドラゴンの上に人らしき物を確認した。
すると伊丹はかなりズレた事を言い出す。
「不味いぞ、本当に不味いぞ! 夏の同人誌即売会が中止になっちまうよ! 寄りによって何でこの日なんだ!!」
悪態をつきながらも尋常ならざる物を見て銀座周辺の状況を想像した伊丹は同人誌即売会が中止になるのを阻止する為、メデイアとギルガメッシュを連れ新橋の交番に居る警察官に陸上自衛官の身分証を見せ二重橋の攻防に身を投じるのである。
後に二重橋の英雄として全世界に名前が知れ渡る事を今の彼は知る由もない。
最後まで読んで頂き有り難う御座います。
Fate/staynightをご存知の方はギルガメッシュがギルガメッシュではないと感じると思います。この部分は《Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり》の最終決戦から見て頂けたら理由が判ると思います。
ではでは…………
虚空屍