話は伊丹が第三偵察隊の隊長を命ぜられ隊員達にメデイアとギルガメッシュを紹介します。まだサーヴァントである事は話しません。
「気を付け! 伊丹二尉に敬礼!」
桑原曹長の声が響き整列した隊員達が伊丹に向け敬礼をし、伊丹も皆に答礼をする。
伊丹は集められた
「あ~、第三偵察隊の指揮を任せられた伊丹耀司です。え~…………」
何を話して良いか解らず尻切れ蜻蛉の様な自己紹介に彼の優柔不断そうな態度も相まって、隊員の中には彼に命を託して大丈夫なのだろかと思う者まで居る。
更に伊丹は話を繋ぐ。
「え~皆に紹介したい人が居る。この二人は自衛官ではなく防衛大臣からの特務で特別許可を得て我々と行動を共にする。ほんじゃ、メデイアから」
伊丹の三歩後ろから前に出て来たローブを羽織るメデイア。隊員の皆がその美しさに目を剥く。
「メデイアと申します。生まれはコルキス、今のジョージア( グルジア )西部ですわ。皆様、宜しくお願い致します」
倉田三曹が思わず呟く。
「エッ、エルフ耳!?」
一礼をして伊丹の後ろに下がるメデイア。それと入れ替わりにズンズンと前に出て来た迷彩服を着ているギルガメッシュ。
「皆の者、我はメソポタミアの王ギルガメッシュである。余の顔を見据えるとは不敬で有ろう、雑────」
ギルガメッシュを寸での処で後頭部を叩く伊丹。
「皆すまん、こいつの日本語たまに変なんだよ。許してやってくれ」
隊員達は員数外の怪しい二人の事を伊丹に聞き始める。
「二尉、戦闘に捲き込まれた時の彼等の保護はどうするんですか?」
「基本しなくて良いかな。彼等はここの誰よりも強いから」
「へっ!?」
伊丹はさも当たり前の様に答えるが、隊員からすると日本人では無いか弱そうな女性と手ぶらの男性の二人を守らなくても良いとは如何な事なのかと思う。
「二人は自分の身を自分で守る術を持っているし俺の指示にも従ってくれる。なぁギル?」
伊丹はギルガメッシュの目の前で手をグーパーグーパーと握ったり開いたりして見せる。それを見たギルガメッシュは過去のトラウマを思い出したかの様にみるみる青ざめ震えだし伊丹の言葉に頷く。
「はっ、はい! 伊丹さんのお言葉は絶対です!」
「まっ、皆。そう云う事だから宜しくしてね」
財テクが趣味の戸津大輔はギルガメッシュと云う名前を聞き心当たりのある人物を思い浮かべる。
「ギルガメッシュさん。もしかして会社経営とかなさってませんか?」
経済新聞や経済雑誌で今急上昇の企業として取り上げられたのを見た津戸大輔は恐る恐る聞き出す。
すると態度が急変するギルガメッシュ。
「貴様、我を知っておると言うか! 我はKing Of Hero商事を片手間で経営しておる。ふむ、気に入った。貴様、名を何と云う。我に名乗る栄誉を与える」
「自分は戸津大輔陸士長であります!」
「貴様には特にこれを遣わそう」
ギルガメッシュはポケットから五本の木の棒を出し戸津大輔に渡す。
「原初の理を知るガリガリくんの当たり棒だ。しかも五本!」
「きっ、貴重品だ…………」
第三偵察隊には七三式トラック、高機動車、軽装甲機動車が割り当てられ、三偵の面々は各自割り当てられた車両へ乗り込む。そんな中メデイアは一人残り皆を見送る。
「あれっ、隊長。メデイアさんは一緒じゃないんですか?」
伊丹の乗る高機動車の運転をする倉田三曹の質問に伊丹が答える。
「彼女には彼女にしか出来ない仕事をして貰うんだ。だから暫くは同行しないよ」
「え~、残念…………あんな美人さんと仕事出来ないなんて────」
「おい倉田! 下らない事言って無いで出発するぞ!」
車両三台の出発をブンブンと手を振り見送ったメデイア。
「さあて、この丘の調査を致しますか」
狭間陸将はメデイアの事を嘉納太郎防衛大臣から聞かされており、彼女は狭間陸将からの依頼を受け強固な防塞を造る為に、撃ち落とされた翼竜の死骸が未だ横たわるアルヌスの丘の麓までを護衛なしで歩き回り、霊脈の流や集まりを調べ上げ呪文を施す。
メデイアは門を中心としたアルヌスの丘に防御に優れた六芒星型の防塞を造る様に防塞の設計段階からのアドバイザーとなったのである。
ヘルメットを被り図面を広げるメデイアのアドバイスの下、連合緒王国軍を敗走させてからの三週間は施設科が昼夜を問わず物理的、魔導的にも優れた門を中心とした鉄筋コンクリート製の防塞を突貫工事で造り出した。
帝国皇帝モルトは内務相マルクス伯爵から連合緒王国軍の詳しい被害状況の報告を受ける。
「陛下、連合緒王国軍の人員の損害は戦死者
「ふむ、まあ予定通りだな。帝国の兵力が減った今、いつ牙を剥くとも解らぬ連合緒王国軍の兵も減らせてしまえば此方も安泰」
圧倒的武力を以て近隣国に侵攻し併合、若しくは帝国に有利な不平等な条約を押し付けて来たが為、帝国の存在を為らしめる兵力の大きな損失はいつ反旗を翻す国が現れないとも限らない。
そして皇帝はアルヌスの丘から帝国に繋がる街道沿いの村を焼き払い、井戸には毒を流し込むよう焦土作戦をマルクス伯に指示を出す。
「これで暫くはアルヌスに
そんな皇帝とマルクス伯のやり取りを遮るかの様な凛とした声が響く。
「陛下!」
その声の主は赤髪の皇女ピニャである。
「陛下は我が国の危機的状況を如何お考えか!」
歯に衣着せぬ鋭い口調にマルクス伯は圧倒されてしまう。
「マルクス伯! 聖なるアルヌスの丘には未だ賊徒どもがいる。先の連合緒王国軍の件も陛下に報せたのか!?」
額にうすら汗をかきピニャ皇女の鋭い問いに答えるマルクス伯。
「確かに連合緒王国軍に損害は出ましたがアルヌスの丘に賊徒どもを釘付けにしております。」
「結局は奪われたままだ! 物は言い様だな、
ピニャ皇女の話は帝国の兵力の回復にまで及び、些か辟易としたモルト皇帝はピニャ皇女に話す。
「帝国は丘に屯する敵をよく知らぬ。そなたの騎士団が兵隊ごっこで無ければ見て来てくれはせぬか」
実戦経験が無いとは云えピニャは自らが指揮をする騎士団を兵隊ごっこと言われ歯噛みする。
「承知致しました、陛下」
今日もいつもの様に第三偵察隊は特地内の情報の収集にの為に近隣の村々に赴く。
防塞の基礎建築が終わりメデイアも第三偵察隊と行動を共にする様になった。
先頭を走る七三式トラックには仁科一曹、富田二曹、古田陸士長が乗り、伊丹の乗る高機動車には運転手が倉田三曹、助手席に伊丹、後部席には桑原曹長、黒川二曹、栗林二曹、メデイア、ギルガメッシュが乗り込んでいる。
最後尾の軽装甲機動車には勝本三曹曹、笹川陸士長、戸津陸士長、東陸士長が乗り込んでいる。
特地の青空の下、近隣の村を訪れるが出会うのは普通の人達ばかり。伊丹と同じ様な趣味を持つ倉田は異世界の住人達に些かガッカリし、ファンタジーに出て来る様な姿をした住人を期待していたと伊丹に話す。
「ファンタジーな娘は居ないんっすかねぇ」
「ファンタジー娘?」
伊丹は倉田の好きなファンタジー娘を想像する。
「隊長はそんなの期待しないんですか?」
「そうだなぁ~、期待しなくも無いが俺はなぁエルフ耳が────」
伊丹と倉田は同じ様な趣味を持つ者同士話が合う。
思わずメデイアが口を挟む。
「宜しかったですわね耀司様。耀司様の趣味に応えられる方が居らして」
「そうなんすっか、隊長はエルフ耳が…………あっ!?」
倉田はメデイアの一言で彼女の容姿を思い出す。
「どうした倉田────」
「もしかしてメデイアさんって…………」
いつも然り気無く伊丹の傍に居るメデイアを思い出す倉田は話を繋ぐ。
「もしかして隊長とご関係があるんですか?」
「……………………」
「……………………」
勿論メデイアから答える訳にも行かず、伊丹共々黙り込んでしまう。
流石に伊丹が重い口を開いた。
「メデイアは俺のかみさんだ…………済まん」
「……………………」
暫くの沈黙の後、高機動車内に隊員達の驚きの声が響く。
「ええーーーーっ!」
この余りにも響いた叫びにも似た声が前後の車両にも伝わり、無線を通して富田からの声が入る。
『隊長! どうかされましたか!?』
「いや、何でもない。後で話すから…………」
いつもの様にコダ村に着き住民交流や近隣の情報を得るが、今日は脚を伸ばし更に奥地に進む予定である。
コダ村を出た第三偵察隊は得た情報と地図を突き合わせ次の目的地であるエルフの村へと前進する。
日も傾き桑原曹長の意見具申で野営をすることに決め森の手前で野営地を探す。
そんな最中、翌朝に伊丹達が目指す森の奥に煙が上がっているのを見付け桑原が双眼鏡を覗き込む。
その視界には炎を吐く大型のドラゴンが空を舞っている。
「一本首のキングドラゴンですか?」
伊丹は桑原から渡された双眼鏡を覗き込み指示された方を見る。
「おやっさん古いな~。あれはエンシャントドラゴンって云うの」
齢五十の桑原曹長には知らない言葉ではあるが伊丹共々只ならぬ事態で有る事を想像にする。
「野営は中止だ、中止! あれが居なくなるまで森に隠れるぞ!」
伊丹の指示の下、車両を森に乗り入れ隠し遠くから煙の上がるドラゴンが居る場所を双眼鏡で眺める。
「しかし何にも無い所を襲うかねぇ? 栗林ちゃん、一緒に見に行かない?」
伊丹の誘いを冷たくあしらう栗林二曹。
「あれの習性にご関心があるのでしたら隊長お一人でどうぞ」
そこにギルガメッシュが口を挟んで来る。
「なんなら我と一緒に行きま────」
ギルガメッシュの頭にメデイアの鉄拳が全力で振り下ろされる。
その音は普通の拳からは決して出ない様な、宛ら大型ダンプがコンクリートの塊にぶつかった様な大きな音を出す。
その音に隊員達は一斉にメデイアに振り返る。
「ギル! 貴方、もう一度指の骨を折られたい様ね」
青ざめるギルガメッシュとメデイアの不穏当な発言に彼女とギルガメッシュの間に何が有ったのか恐ろしい想像しか出来ない隊員達。
メデイアは伊丹にも注意を促す。
「耀司様。あの巨大な龍の強さも生態も解りませぬ故、危険な真似はお止め下さい」
「もう少し近くで見た方が良いか────」
「お止め下さい」
「はい…………」
エルフの住まうコアンの森を巨大な炎龍が襲う。
森の住人であるエルフ達は逃げ惑うが炎龍が吐く炎に焼かれ喰われていく。ある者は矢を放つが固い鱗には歯が立たない。そして焼かれ喰われていく。
炎龍の出現に寝ている娘を起こした父は避難をする様に彼女に諭すが、炎龍相手では逃げる場所が無いと弓を手にする娘。
部屋を飛び出した彼女が見た光景は集落が焼かれ幼馴染みが喰い千切られる物である。その光景に戦慄を覚え身体が硬直し迫る炎龍から逃げる事も出来ないで居る。
そんな娘の危機を見た父は炎龍の左目に目に矢を当て気を逸らす。
恐怖に固まる娘を父は満面の笑顔を以て井戸に放り投げ娘の無事を祈る。
そんな父の背後に炎龍の大きな顔が迫っている。彼女にはその後の出来事を知る由も無い。ただひたすら井戸の底で立ち尽くすだけである。
ドラゴンも飛び去り上空の監視を厳にしながら煙の上がっていた所に向け車両を進める第三偵察隊。
目的の場所に近付くにつれ焦げ臭さが車内にも漂う。
存在した筈の集落の入り口で降車し隊員を散開させ焼け落ちた集落の被害状況を確認する。
辺りは消し炭になった家屋の跡らしき柱とそこに住んで居たで在ろう住人達。半長靴の厚みがある靴底を伝って地面の温かさを感じる。
被害状況を伊丹に報告しに隊員達が集まり、およそ三十軒の家屋の跡が確認され死亡者は推定百人とみられた。
伊丹は集落の中心に有る井戸の縁に腰を掛け、水を汲むために紐が付いている汲み桶を井戸に投げ入れる。
すると乾いた音が井戸の底から響き伊丹を含めた隊員達が中を覗くと一人の人間らしき者が倒れているのを見付ける。
唯一の生存者の可能性が有るため伊丹は井戸の底に降り一人の少女を救い上げる。
全身は水に浸かっていた所為か体温が低くはあるものの呼吸はしている。
伊丹と倉田は彼女の耳に視線を注ぐ。
「倉田はエルフ耳萌えか?」
「いえっ! 自分はケモノ娘の猫耳です! やっぱりケモノっ娘が居るんでしょうね。期待しちゃいますよ!」
そんなやり取りをしている男性隊員を栗林二曹が一喝して追い払う。
「こらっ! 見せもんじゃないんだから! これだから男って!」
栗林二曹と黒川二曹の二人の女性隊員とメデイアは救助したエルフの娘にポンチョを被せ高機動車へと運び濡れた衣服を脱がせブランケットを巻く。
伊丹は調査日報に書き記す。
「ドラゴンは人を襲うっと」
伊丹の傍に来て敬礼をする黒川二曹は、救助したエルフの少女の処遇について話し出す。
伊丹は当然の事として保護する旨を黒川二曹に話す。
「だってほらっ、俺って人道的じゃん」
そんな伊丹に黒川二曹は冷たく伊丹の趣味を交えた答えをする。
「隊長は
「なっ、なんと! 炎龍が現れただと!?」
第三偵察隊はアルヌスの丘の駐屯地に戻りがてらコダ村に寄り、伊丹が村長に炎を吐く巨大な龍を見た事をイラストを交えながら片言の特地語で知らせる。それを知った村長はみるみる青ざめ村中に炎龍出現を報せ村民はパニック状態となり、村を捨てての避難となる。
「人やエルフの味を覚えた炎龍は再び辺りを襲い出す。儂らはもうここには住んでは居られん」
伊丹は唯一の生存者であるエルフの娘を保護した事を告げ、コダ村の村長に引き渡そうとしたが、人とエルフとでは生活習慣も違いエルフの生態も解らない事から拒否をされてしまい、結局は伊丹達の保護下に置かれた。
こうしてコダ村の住人達の村を捨てての逃避行が始まった。
最後まで読んで頂き有り難う御座います。
コダ村住人との逃避行が始まりレレイやロゥリィと出会う事でしょう。
まだまだメデイアもギルガメッシュも活躍しません。他の隊員達が特地に馴れたら伊丹が話すかもしれません。
ではでは…………
虚空屍