第三偵察隊とアルヌス協同生活組合の代表団がイタリカの街に到着します。
伊丹達、第三偵察隊の面々は装備を整え集まり、桑原曹長の号令の下、縦、横、方陣と射撃陣形のチェックを済ませると、各員が三台の車両に分乗し仮設住宅のある避難民キャンプへと寄る。
キャンプに着くと、気さくに声を掛け出す伊丹達を子供を始めとした避難民達が待っていた。
「おじちゃん、この袋を三つお願いします」
子供達一人一人が重たそうに抱えてくる袋を高機動車に積み込み、伊丹や黒川に見よう見真似の敬礼をする。
「おじちゃんは勘弁しれくれよな…………」
「二尉は子供達に慕われていますわね、うふふ」
その後にレレイ、テュカ、そしてロゥリィが乗り込むと伊丹が見送りの人達に声を掛ける。
「皆さ~ん、積み忘れはありませんか? 無い様でしたら出発しま~す」
住人から手を振られての出発となり、三偵はアルヌスの丘から離れテッサリア街道へと合流する。
伊丹が乗る高機動車に居る桑原曹長は、コンパスを乗せた地図を広げ絶えず進行ルートを確認しているのだが、レレイは等高線が引いてある程の精度の高い地図と、行き先を指し示すと思われるコンパスに興味を持つ。
( ジエイタイは如何にしてこの様な精巧な地図を作ったのか? それに方角を示すこの道具は…………)
自衛隊の持つアルヌス周辺の地図は、ヘリから撮られた航空写真で起こした地形図である。
コンパスに興味深々のレレイに気が付いた桑原が説明をする。
「ん? これに興味が有るのかい? これはコンパス。コ・ン・パ・ス。この赤い針が北の方角を指すんだよ」
穏やかに教える桑原に、レレイは直ぐにでも覚えようと復唱をする。
「コンパス。キタ。コンパスはキタの方角を示す物」
車内ミラー越しに桑原とレレイのやり取りを見た運転手の倉田が伊丹にぼやき始める。
「隊長~、なんすっかねぇ。あの鬼軍曹の
暫く街道を走っていると前方に煙が上がっているのを伊丹と倉田が確認する。
「隊長! 前方に煙です」
「やだなぁ~、あの煙。この道の先だよねぇ? 煙の上がっている方に向かうの二度目だろ? 悪い予感しかしないんだけど…………」
伊丹は全車に停止を命じて地図を見ている桑原曹長に確認をとると、煙が上がっている方向にイタリカがあると桑原は答えを返す。
伊丹はレレイに双眼鏡を渡し、煙を確認させ問い掛ける。
「あの煙は何だと思う?」
レレイは覚えた日本語で、たどたどしく答える。
「今は畑を焼く、季節、違う。恐らく
「『かぎ』じゃなくて『火事』だね」
レレイの言葉の訂正をした伊丹は、自分の乗る車内の皆と、無線で各車両に指示を出す。
「周囲の警戒を厳にしろ! 対空警戒は怠るな!」
するとロゥリィが伊丹と倉田の間に上体を割り込ませ、妖艶な笑みを浮かべ呟く。
「血の臭い」
先ずはイタリカの状況を知る事が先決で有ると判断した伊丹は、同乗しているメデイアに声を掛ける。
「メデイア。使い魔をイタリカに放って様子を見てくれないか?」
「お安い御用ですわ、耀司様。なんなら私が直接飛んで行って差し上げますわ」
「メデイアも霊体化出来る訳じゃ無いから、目立つから駄目だよ」
するとメデイアは掌に一匹の蝶を出し、車外へと放つ。
それを見ていたレレイを始めとした皆が驚きの声を上げ、レレイがメデイアに尋ねる。
「メデイア。それは何でどんな働きをするのか?」
「あ~ら可愛い賢者さん。興味がお有りの様ね。これは私の使い魔でね、これが見たり聞いたりした物が私や耀司様の頭に入ってくるのよ」
他の隊員達は単純に手品の様だと驚くばかりであるが、レレイは今まで出会った事の無いメデイアの魔術にひたすら驚いている。
( こんな魔法もあるのか! お師匠様に知らせなくては!)
伊丹は無線で各車両に指示を出す。
「さぁてと、イタリカに向けて出発だ!」
メデイアの使い魔からの情報で、イタリカの城塞都市が、謎の武装集団に襲われ南門側は軽微な損傷。しかもアルヌスの兵を束ねているのは、身分の高そうな女性だと云う事も判明した。
「ねえ、レレイ。危険な所にこの人達を巻き込むのは止めたら?」
テュカは伊丹を始めとした自衛官達の身を心配するが、レレイはこのままイタリカの街に入ると言い出す。
「こちらやジエイタイが敵では無い事も解らせねばならない」
イタリカの城壁にある入り口から少し距離を取り、各車両が停止をする。
すると城塞の上から弩を向けて大声で誰何をしてくる者が居る。
「何者だ! 敵では無いのなら姿を現せ!」
物騒な交戦域にテュカが心配をする。
「レレイ、やっぱり止めましょうよ!」
レレイはそんなテュカの心配を無用とばかりに拒み、車外へと出ようとする。
「私一人で行っても用件は済ませられる」
「レレイったら! 矢避けの魔法を掛けるから待ちなさい!」
テュカはレレイに矢避けの精霊魔法を掛けると一緒に車外に出る。
するとロゥリィまで一緒に車外に出始める。
「あ~らぁ、二人で何をこそこそしようとしているのかしらぁ。面白そうだから私も行くわぁ」
流石に女性三人だけで交戦域の街中に入らせる訳にも行かず、伊丹も慌てて彼女達に付いて行く。
「女、子供だけで行かせる訳にもいかないよなぁ。
そんな伊丹の行動に、ギルガメッシュが声を上げる。
「あっ! 伊丹さん!! メデイアさんはここで待っていて下さい。我が伊丹さんの警護をします」
いつの間にか金ピカの鎧を着込んでいたギルガメッシュがメデイアに話すと、彼女は伊丹の身の安全を彼に託した。
「ギル、耀司様を守って頂戴。しかし、いつ着替えたの?」
レレイを先頭に、テュカ、ロゥリィ、ギルガメッシュ、伊丹がゆっくりと歩き出し、城門へと近付く。
ピニャは城門の覗き窓から、こちらに向かって来るリンドン派の杖を携えた魔導師、精霊魔法使いのエルフ、黒ゴスの神官、きらびやかに輝く金鎧を確認する。
( 何なんだ、あの一団は!? リンドン派の魔導師にエルフだと! あれは!? ロッ、ロゥリィ聖下か!? 間違いない! 確かに死神ロゥリィだ! 何故ここに居る!? それに金ピカだと? 敵なのか、味方なのか…………)
ピニャの配下のグレイも、彼女の肩越しに覗き窓の外の光景を目にする。
「何でしょうなぁ~、あの一団は。魔導師、エルフ、幼いエムロイ教の神官見習いでしょうか? それにあの目立つ鎧の者────」
「あのエムロイ教のは神官見習いではなく、亜神の死神ロゥリィだ! 見てくれは幼いが、齢九百を越えているのだぞ!」
グレイも死神ロゥリィの名前こそは聞いてはいたが、見るからに十代前半の年格好とは想像してはおらず、そのギャップに驚く。
「幼子の様な者があの死神ロゥリィだとは…………見た目はここのご当主のミュイ様と大差は御座いませんな。しかし何故にまた、ここに居らしたのか…………」
「ふんっ、神の行いなど気紛れだからな。それに、大体神官などが口にする天啓だの、神のお言葉だとか、結局は神の名を借りた神官自身の言葉ではないか! 本当に神からの言葉かどうかも怪しいぞ!」
グレイは不穏当なピニャの宗教発言に耳を塞ぎながら、彼女の今の話と自分が無関係であることを主張し出す。
「あーー! あーー! 姫様、小官は何も聞いてはおりませんぞ! あーー!」
ピニャはこちらに向かって来る一団と、攻め込まれイタリカの兵の士気も下がって来ている現状に考えを巡らす。
( この一団は敵なのか、味方なのか、城内に招き入れて良いのか、悪いのか…………しかし妾にはもう兵達の士気を上げる術はない。全ては妾の決断に掛かっているのか! ええいっ、ままよ!!)
遂に意を決したピニャは、勢い良く扉を開け放つ。
「よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?」
鈍い衝撃音と共に開け放たれた入り口には、気を失っている斑服を着た男が仰向けに倒れている。
予想外の出来事に、ピニャは倒れている男と一緒だった一団の者達に確認をする。
「わっ、妾か?」
レレイ、テュカ、そしてロゥリィが頷くが、ギルガメッシュがピニャと倒れた伊丹の間に立ち言い放つ。
「伊丹さんへの仕打ち、万死に値すると思え。雑種」
「わっ、妾の所為か…………」
「雑種以外に居るまい」
ギルガメッシュが空間から一振りの剣を取り出すと、グレイや周囲の兵達がギルガメッシュに剣を構える。
「姫様! 早くそこからお退き下さい!」
( ギル、ここで事を荒立てては駄目よ。こんな連中は私が一撃で消し炭に出来るから、先ずは耀司様の容態を看て差し上げて )
メデイアからの念話を受けたギルガメッシュが空を見上げると、ローブを拡げ円環を纏ったメデイアが、蝶の様に既に浮遊している。
( メデイアさん、いつの間に!?)
( 耀司様とのパスの繋がりは伊達ではなくってよ。いきなり音信が途絶えたら、流石の私も直ぐに動くってものよ )
( そう云えば、冬木で我が伊丹さんを待ち伏せした時も、直ぐに現れましたよね )
突然、聖杯戦争の頃の話をしだしたギルガメッシュの言葉に、必死で身を挺した事を思い出し、顔を朱らめるメデイア。
( ちょ、ちょっとギル! 照れるから止めてくれるかしら )
テュカは伊丹の腰から水筒を取り出し、彼の顔に水をジャバジャバと掛けながらピニャに怒鳴り出す。
「貴女バカじゃないの!? 扉の前に誰か立っているとか考えないの! ゴブリン以下よ!!」
ギルガメッシュは、ロゥリィに膝枕をされている伊丹の頬を軽くペシペシ叩く。
「伊丹さん! 伊丹さん!」
程無くして意識を取り戻した伊丹は、小隊無線から呼び続けている桑原曹長に胸元のプレストークスイッチを押して答える。
「
『二尉の意識の戻りがもう少し遅かったら、メデイアさんに因ってイタリカが消滅していたかもしれませんよ』
「えっ?」
伊丹が空を見上げると、そこには今にも上空から光線を出しそうなメデイアが浮遊しているのが目に入った。
伊丹は慌てて飛び起き、空のメデイアに向かい大きく手を振り大声で叫び、念話で話し出す。
「おーーい! メデイア! 俺は大丈夫だから、物騒な真似は止めてくれよなーー!」
( 心配掛けて済まなかったな。上空に使い魔を残して降りて来てくれないか )
「耀司さまぁ~! 只今そちらへと降り立ちますわぁ~!」
( 嗚呼、耀司様。ご無事で何よりでしたわ )
空に浮遊しているメデイアを見つけたピニャを始めとした街の住人達が腰を抜かさんばかりに驚く。
「ひっぃぃ! 翼竜を使わずに人が空を飛んでいる!」
メデイアは伊丹の呼び掛けに応え、彼の傍にフワリと降り立つと、驚くピニャを睨み口を開いた。
「お嬢さん、耀司様がご無事で何よりでしたわね。怪我でもなさっていたら、この街が差し詰め
降り立って直ぐに物騒な物言いをすりメデイアを伊丹は宥める。
「メデイア、俺は何ともないから大丈夫なんだけど」
と、伊丹は言いながらピニャに視線を移し話を繋ぐ。
「何で俺はこんな目にあったのか、その張本人から事情を聞きたい!」
すると周囲の者達の視線がピニャへと集まる。
「やはり妾なのか!?」
流石のグレイもため息混じりに答える。
「姫様以外におりましょうや?」
ピニャも皇女と云う立場上、軽々しく頭を下げ謝る訳にもいかない。
しかも目の前に居るのは、緑の斑服を着ている。もしかしたら、これが噂の緑の人かも知れないと考え、一際大きな声を上げて伊丹一行の到着を知らせる。
「みっ、皆の者! 妾の言葉をよく聞くがよい!
( さあ、皆の者! 大声を上げて歓待せよ! さすれば妾も頭を下げずに済む…………だろう )
ピニャの一言に一番驚いたのが伊丹である。自分が打ちのめされた事情を聴こうとしたら、いつの間にかイタリカを救う援軍にされてしまったのである。
「ちょっと待ってくだ────」
伊丹の抗議の声を掻き消さんばかりのどよめきと歓喜の声が辺りから沸き上がる。
炎龍を撃退した強者達、魔導師、精霊魔法の使い手、それに使徒が揃っているのだから負ける気がしないと感じ始めた兵や市民達。ここに来て、兵達の士気も一気に高まった。
それとは対照的に、置かれた現実に嫌な予感しかしない伊丹。
( 商取引の護衛と偵察の筈だったのに、何でこうなるんだ…………巻き込まれた…………)
こうしてピニャは、計らずも伊丹達、緑の人を味方に引き入れてしまうのであった。
最後まで読んで頂き有り難う御座います。
伊丹達は本来の目的とは違いますが、イタリカの街の中に入り込めてしまいました。
この後、伊丹を始めサーヴァント達の活躍は?
ではでは…………
虚空屍