顔巣学園の平凡な超常   作:アカシックレコード

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「怪物と闘う者は、その過程で自らも怪物と化さぬよう心せよ。」・・・フリードリヒ・ニーチェ

「そんな事よりなにかいいバイト無いですか?」・・・長谷川泰三

「「そーゆー事は他所で言え!」」・・・志村新八&氷川京多


第10話:悪い事は連続して起こるから気をつけろ(前編)

前回のあらすじ

夏祭の買出しのために池袋に来た氷川達は突然現れたカタコトの日本語を喋る黒人のロシア人板前に出会う。

板前服を着た黒人、しかもロシア人、この色々とっ散らかりまくった男に露骨な不信感を抱く氷川。

しかし、あろう事か唯と玄野はその黒人と意気投合してしまう。

そして何故かロシア人の勤めている「露西亜寿司」なる寿司屋で昼食を摂る事になってしまい・・・

さぁ、どうなってしまうのか?

 

 

「・・・前置き長いな」

 

「そうだね、玄野くん」

 

・・・と、玄野と唯は意味無く天井を見上げながら呟いた。

悪かったね、長くて。

 

「・・・誰に喋ってるんだ?」

 

そう力無く突っ込むのは我らが主人公、氷川京多だ。

彼らは今、あの黒人の勤務する寿司屋・「露西亜寿司」のカウンター席に座っていた。

氷川は湯呑を持ちながら店内を見渡す。

 

 

---本当に大丈夫なのか、ここ・・・・---

 

 

氷川がそう思うのも無理はない。

店内はロシア王朝の宮殿をそのまま縮小させたかのような内装に、和風の寿司カウンターが無理矢理括り付けられている。

カウンター席だけならまだ良い方で、座敷の方は大理石の外壁に畳という、協調性の欠片も無い状態だ。

しかも天井からは『安心料金!オール時価』と書かれた垂れ幕がぶら下がっている。

 

 

---・・・しかも時価って・・・---

 

 

今の氷川の脳味噌は一度に大量に入ってきた情報を整理するのに手一杯だ。

おかげで店の中に響く喧噪がまるで耳に入らない。

 

「氷川は何か頼まないのか?」

 

と、玄野の声で氷川は我に返る。

見ると玄野も唯も寿司を注文していたらしく、それぞれの皿の上に握り寿司が載っていた。

 

「って、お前らいつの間に頼んだのか?」

 

「京多くんがぼーっとしてるから待ち切れなくなっちゃったよぉ」

 

「お前も何か頼めよ」

 

玄野はマグロを旨そうに食べながら言う。

人を無理矢理連れて来た奴がそれを言うか?

氷川は少しムッとしたがそれはあえて顔には出さず、代わりに何でもない風でメニューへ目を向ける。

メニューには様々な種類の寿司が写真と共に掲載され、中にはボルシチ寿司やピロシキ寿司なる怪しげなブツもあったが、取り敢えず氷川はサーモン握りを頼む。

注文を聞いたロシア人板前は外人にしては見事な手さばきでサーモンを握り、あっという間に氷川の前へ出す。

 

 

---へぇ、見た目は結構まともだな・・・---

 

 

氷川はそんな事を思いながら、寿司を口に突っ込む。

 

「あ、美味しい」

 

意外にもその寿司はちゃんとしており、変に酸っぱい事もなく、かと言ってワサビを入れすぎたわけでもなく、中々旨い寿司だった。

 

「結構イケるなぁ」

 

これに調子付いたのか、氷川は帆立とマグロの握りを頼んだ。

ロシア人板前も手慣れたもので、握り寿司も三種類までならものの数秒で完成させる。

それを見ていると奇をてらった店内もそこまで気にならなくなってきた。

 

「へぇー、イワノフさんって元軍人さんなんですね!」

 

玄野の隣で唯が板前の一人と喋っている。

 

「まぁ、軍人と言っても、7年も前の話ですがね」

 

「でも、何で板前さんに?」

 

「元々日本の文化が好きでしてね・・・退役を節目に日本に移住して、この寿司屋で働いているわけです」

 

と、板前は少し訛っているものの、流暢な日本語を喋る。

 

 

---軍人から板前、かぁ・・・---

 

 

氷川は帆立の握りを口に運びながら人生とは本当にどうなるか分からない物だと改めて思う。

数分後、他の二人の腹も膨れてきたところで氷川は会計をするためにレジへ向かう。

するとその時、店の引き戸越しに自動販売機が吹っ飛んで行くのが見えた。

次の瞬間、けたたましい轟音と共に何かの破砕音が響く。

 

「な、何だ!?」

 

財布を持った状態でたじろぐ氷川。

 

「あー、こりゃ静雄がまた暴れてんな」

 

と、カウンターの方から板前の一人が呟く。

 

「静雄って誰ですか?」

 

唯が板前に尋ねる。

 

「お嬢、ひょっとして平和島静雄知らないのか?」

 

「はい、池袋は始めてですから・・・」

 

「平和島静雄、この界隈じゃ有名な、最強のチンピラさ」

 

と、板前は説明を始める。

 

「チンピラって・・・でも何で自販機が・・・?」

 

「あぁ、静雄の奴はとんでもねぇ力持ちでな、ウチのサイモンも中々凄いが静雄の比じゃないだろうな」

 

チンピラが何で池袋最強・・・?

しかも自販機まで投げ飛ばすのか・・・?

氷川は板前の言葉に頭をかき乱される。

 

「まぁ、あれだ。静雄が暴れてる間はなるべく外に出ない方が良いかもな」

 

そう言いながら、板前は再び俎の上の魚を切り分け始めた。

 

「池袋最強?」

 

氷川は財布から五千円札を取り出し、それをレジ横の台に置きながらぼやく。

 

「そんなバッカな・・・」

 

「氷川、今は出ない方が良いぞ」

 

すると、店を出ようとする氷川を玄野が珍しく制止する。

 

「何だよ、玄野まで・・・びびってんのか?」

 

冗談めかして問うが、玄野は割と真面目な顔で続けた。

 

「平和島静雄ってのは俺も聞いた事がある・・・っつーか、こないだウチの部活の後輩が喧嘩売った相手だよ」

 

「だから何だよ?別に喧嘩売ったのは後輩なんだし怯える必要無いじゃん」

 

「それが大ありなんだよ・・・とにかく今はマジで外に出ない方が良いって!」

 

しかし、玄野の制止も空しく、氷川は露西亜寿司の引き戸を開けた。

すると次の瞬間、

 

 

 

「ぃぃぃぃいいいざぁぁぁぁやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

火山が噴火したような怒声と共に氷川の鼻先を"ポスト"がかすめる。

 

「・・・・・え?」

 

氷川の思考は停止した。

というより、目の前に広がる光景が氷川の脳内キャパシティでは処理しきれていない、と言った方が適切だろうか。

 

「な、な、な・・・」

 

氷川の目の前に広がっていたのは、

 

 

「池袋に顔見せんなッつッてンだろうがああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

"道路標識"を"片手"に暴れるバーテン服を着た青年と、

 

 

「やだなぁ、俺がどこに行こうがシズちゃんには関係ないじゃーん?」

 

 

呑気な口調でバーテンを挑発しながらも見事なパルクールで辺りを跳ね回る黒服の青年による、壮絶な鬼ごっこだった。

 

「・・・・」

 

氷川は驚いたままの表情で引き戸をピシッと閉めた。

 

「・・・な?」

 

と、玄野が妙に穏やかな顔で言い、氷川はそれに頷く。

 

「え?何々?外で何かあったの?」

 

外の様子を見ていなかった唯は氷川と玄野の顔を見て首を傾げる。

 

「唯、世の中には知らなくても良い事もあるんだぞ?」

 

氷川は慈しむような声で唯を諌める。

 

「・・・・取り敢えず、少しじっとしとこうか・・・」

 

「・・・そうだな」

 

氷川と玄野がそう言い合い、

 

「???」

 

唯は全く意味が分からないとでも言うように首を深く傾げた。

 

 

一方その頃、ダラーズチャットルーム・・・・

 

餓鬼

・・・まぁ、ここまでが粟楠会と明日機組が盃交わすに至った理由だな

 

テラ

餓鬼さん、えらいそっちの筋に詳しいんすね

 

餓鬼

昔、邪ン蛇カ邪ンに居た事があってよ、そーゆーのにゃ結構詳しいつもりだ

 

テラ

邪ン蛇カ邪ンって、ゾッキーすか?

 

餓鬼

まぁ、大昔の話だ

 

餓鬼

こっちの世界に入った瞬間辞めたけどなw

 

 

サイトーさんが入室されました

 

 

サイトー

よぉ、お前ら

 

餓鬼

おぉ、サイトーさん

 

テラ

サイトーさんちわっす

 

サイトー

今お前らどこよ?

 

テラ

今池袋っすわー

 

餓鬼

何かあったんすか?

 

サイトー

池袋でハンターの一人が見つかったらしい

 

サイトー

場所は駅の西口だ、多分そう遠くには行ってない

 

テラ

うわ、マジすか?

 

餓鬼

めっさ近くっすよー

 

餓鬼

殺して喰っちゃって良いッすかー?

 

サイトー

いや、まずはこの辺にいる連中を全員集めろ

 

サイトー

良いか、俺が行くまで誰一人殺るんじゃねーぞ

 

テラ

了解ー

 

餓鬼

わっかりやしたー

 

 

サイトーさんが退室されました

 

テラさんが退室されました

 

餓鬼さんが退室されました

 

 

池袋・某ネットカフェ・・・・

 

「・・・さてと」

 

各々に区切られた個室の一室から男がスマホ片手に出てくる。

外は真夏日だと言うのに、暑苦しい黒服に身を包み、サングラスを掛けている。

黒尽くめの男はスマホの画面をタッチして連絡先一覧を開き、所定の電話番号に掛ける。

 

『もしもし〜?』

 

五回目のコール音で少し息の荒い男の声が聞こえてくる。

 

「おぉ、俺だ。ブクロでハンター発見、今すぐに応援寄越せ」

 

『うへ、マジすか?俺今忙しいンすけど』

 

すると、相手側の方から「ねぇ、まだぁ?」と、これまた息の荒い女の声が聞こえてくる。

 

「知るかよ、ヤってるんならさっさと終わらせて来いや」

 

男は言うと、通話モードを切り、代わりにポケットからマイルドセブンを取り出して咥え、ライターで着火する。

フー、と紫煙を吐き出し男は首をゴキリ、と回す。

 

「さ〜てと、久々に暴れるか」

 

そう言う男の口元から覗く犬歯は、まるで獣の牙のように鋭く尖っていた。

 

 

池袋・某ラブホテル・・・・

 

「んねぇ・・・もうお終いなのぉ?」

 

と、ベッドの上で半裸を晒す女が問う。

その周囲には、今まで行為に及んでいたのか、使用済みのコンドームやティッシュが散乱している。

 

「おぉ、上からの命令だからな・・・お前もさっさと準備しろ」

 

と、今度は男が緩んだネクタイを締め直しながらそれに応答する。

この男もやはり、ネットカフェにいた男と同じく、黒尽くめだ。

 

「ちょっとぐらい無視しても良いじゃないのよぉ・・・」

 

女も黒いスーツに着替え始めながら言う。

 

「一回ヤった後の仕事って結構キツいのよ?」

 

「知らねーよ、第一、誘ったのはテメェだろーが」

 

「あら、そう言う割にあなたもノリ気だったじゃない?」

 

「うっせー、バカ」

 

男は欠伸と共に伸びをした。

 

「俺が好きなのは、燃えるようなセックスと」

 

「殺し合い、でしょ?」

 

黒いジャケットを羽織りながら、女が言う。

 

「私も、そんなあなたが好きよ?」

 

「そりゃどーも」

 

言いながらニヤリと笑む男の口元から覗く犬歯も、牙のように尖っていた。

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