顔巣学園の平凡な超常   作:アカシックレコード

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「人生に必要なものは、愛と勇気と少しのお金である」・・・・チャーリー・チャップリン

「人生に必要なもの、ねェ・・・とりあえず俺は全人類を愛しているから、必要なものなんて無いかな」・・・・折原臨也


第11.5話:The Great Escape in Ikebukuro

多くの人々や車達が行き交い、多種多様な思想や欲望が入り混じる街、池袋。

そこには単に観光目的で来た者や、池袋が地元である者、そして腹の中に一物抱えるキレた奴ら、例を挙げればキリがないのだが、とにかく多種多様な思惑が錯綜する、泥っこくもあり、どこか新鮮な世界があった。

 

 

氷川達が露西亜寿司で食事している頃、池袋駅・西口・・・・

 

「ふにゃあ・・・」

 

日曜日の午後、右往左往する人々で埋め尽くされた駅前の喧騒の中。

壁に寄りかかりながら、ショートカットヘアのその少女は呑気な、それでいて少し独特な欠伸をする。

 

「ごめーん!かがみ、待った?」

 

すると、向こうからアホ毛が特徴的な金髪の少女が走って来た。

 

「遅いのですよ・・・何分待たせれば気が済むのですか?」

 

と、かがみと呼ばれた少女は眠たげに目をこすりながら言う。

 

「ごめんごめん、私池袋は始めてだからさ、道に迷っちゃって」

 

「それならケータイで道を確認すれば良いでしょうに・・・」

 

「や、そもそも私ケータイ持ってないし」

 

金髪の少女はカールした毛先を揺らしながら言う。

 

「・・・鎖々美さんも女子高生なら携帯を持つべきなのです・・・まぁ、それはいいでしょう。早く行きましょうか」

 

「まずはパルコだよね」

 

金髪の少女---月読鎖々美---とショートカットの少女---邪神かがみ---はデパートへ向けて歩き出した。

そう、この二人も氷川達と同様、顔巣学園の生徒で、やはり彼らと同じ理由で池袋へ来たのだ。

 

「それにしても・・・」

 

鎖々美は行き交う人々を見て言う。

 

「池袋って、こんなにゴミゴミしてたっけ?」

 

「東京の主要都市の一つですからね・・・人が多いのはよくある事なのでは?」

 

と、かがみは前後左右から絶え間なく迫り来る人の濁流をやり過ごしながら答える。

 

「でも、今日は休日ですからね。人通りが多いのはあるかもしれません」

 

「まぁ、そうだよね」

 

池袋の真ん中で友人同士、何気ない会話が紡がれる。

 

「そう言えば、買わなきゃいけない物って何だっけ?」

 

「リストは鎖々美さんが持っているはずでは?」

 

すると、鎖々美はかがみの問いに暫し黙る。

 

「・・・忘れたのですね、よく分かります」

 

かがみは呆れたように眉間に手をやった。

 

「ごめん!ど忘れした!!」

 

かがみに合掌しながらへこへこと頭を下げる鎖々美。

 

「・・・ふにゃあ・・・本当に仕方が無い奴なのですね、鎖々美さんは」

 

と、かがみは心底呆れたように、手首に意識を集中する。

すると、手首の真ん中が観音開きの要領で開き、中からiPo・・・もとい、小さなタッチパネルが現れる。

 

「買う物リストは・・・っと」

 

かがみは何の造作無く、手首に現れたタッチパネル(?)を操作する。

そう、邪神かがみは秘密結社アラハバキによって造られたロボットなのだ。

元々は顔巣学園の教員である邪神つるぎが「外敵」によって攻撃を受けて呪われた部分を切り離した肉片を、前述のアラハバキが拾って改造したもので、本来は呪われた「体の一部」でしかないため、当初は感情の無いロボットそのものだったのだが・・・それはまた別の話。

とにかく、かがみは手首のパネルを操作し、メモ機能を起動させる。

 

「・・・買う物はオレンジジュース二箱とうどん玉が一箱です」

 

「っていうか、かがみはそういう機能持ってるんだから何も私にリスト担当させなくても良いんじゃない?」

 

鎖々美はかがみが手首にパネルをしまい込む様を見ながら言う。

 

「そもそもリストを持ってくる役に自分から立候補したのは鎖々美さんでしょうが・・・」

 

「だってぇ、久々の学校で、しかも夏祭が近いなら、何かやっとかなきゃダメじゃん?」

 

「・・・鎖々美さんの厚かましさには脱帽するのです」

 

と、大きな溜息を漏らすかがみ。

 

「まぁ、買う物も分かったところだし!早く行こ?」

 

「・・・ふにゃあ・・・先が思いやられるのです」

 

鎖々美はかがみの制服の袖口をぐいぐい引っ張りながら目的地へと歩み始めた。

 

 

数分後、ラブホテル街・・・・

 

「さぁて、どう料理されてぇんだぁ?」

 

「とりあえずそこの銀髪とハンター殺して女は便所にしよーぜ」

 

「俺あの女すげー好みなんだけど」

 

「クラブで解体するか?」

 

場所は戻って、氷川達は突如として現れた黒尽くめの集団に囲まれていた。

 

「おぉ、ここで大人しく殺されるか?」

 

男は、玄野の額にハンドガンの照準を合わせ、ゆっくりと撃鉄を起こす。

カキャッ、という冷えた金属音が響き、発砲可能な状態になったのがわかる。

 

(おいおいおい!!これ、どうすんだよ!?)

 

八方塞がりの氷川は小声で玄野に言う。

 

(ンな事言ったって!今俺武器持ってねぇし!!)

 

(私達、ここで死んじゃうの!?)

 

唯はもはや半泣き状態だ。

しかし、黒服に周りを囲まれている以上、迂闊に動く事はできない。

下手に動けば、集中砲火を浴びて三人仲良くあの世逝きだ。

とはいえ、このままじっとしているわけにもいかない。

 

「くっそ・・・ここはイチかバチか、捨て身で行くしか無いか・・・」

 

玄野はそう呟くと、身体の横に掛けていたバッグを後ろに回し、氷川に目で合図を送る。

氷川もそれを察したようで、コクリと頷いた。

 

「おぉ?何だぁ?死ぬ覚悟でもできたのかい?」

 

ハンドガンの男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら言う。

それに釣られて、周りの黒服達もヘラヘラと笑い出す。

 

「さぁ、それはどうだか・・・なっ!!!」

 

刹那、玄野が男に足払いを食らわせる。

そしてそれは見事に相手の足首に命中し、

 

「んだぁっ!?」

 

男は尻餅をついた。

その一瞬の隙を突き、

 

「氷川、ずらかるぞ!!!」

 

「よっしゃ!!!」

 

玄野と氷川は咄嗟に駆け出した。

 

「ふぇっ!?な、何々!!??」

 

唯も氷川に腕を引っ張られながら、駆け出した。

 

「ハンターが逃げたぞ!!!ぶっ殺せ!!!」

 

「クソガキがぁぁぁぁ!!!」

 

「殺せ!!誰でも良いから早く殺せ!!!」

 

後ろの方から黒服達の怒声が聞こえてくる。

しかし、氷川達はそんな事御構い無しにひた走る。

 

「このまま大通りまで出るぞ!!」

 

と、玄野は走りながら氷川に伝える。

 

「了解!!」

 

走りながら氷川もそれに応じる。

すると、

 

「わぁぁぁぁ!!!」

 

後ろからついて来ていた唯が突然絶叫した。

 

「ど、どうした!?」

 

「あ、あの人達、撃って来たよぉぉ!!!」

 

唯は走りながら後ろを指差す。

後ろの方から黒尽くめ達がサブマシンガンや日本刀で武装して追いかけて来ていたのだ。

サイレンサーを付けているのか、銃声は聞こえなかったものの、地面には確かに弾丸が穿たれた跡がある。

 

「げぇ!?マジかよ!」

 

「何で私達がこんな目にぃぃ!!」

 

「知らねえよ!!つか、何なんだよ、あいつら!!!」

 

池袋を舞台に始まった死の追いかけっこ。

氷川達は丸腰のまま、黒尽くめ達の発砲を避けながらただ、ひた走る。

果たして彼らの運命は如何に。

 

 

同刻、パルコ前・・・・

 

休日ということで多くの人々で賑わう池袋駅前のパルコ。

その出口から鎖々美とかがみが出て来た。

 

「必要なものは一通り買い揃えたよね?」

 

と、鎖々美は日差しから目を隠しつつ、かがみに問う。

 

「それは別に良いのですが・・・」

 

かがみは夏祭用の品が入った紙袋を持ちながら言う。

 

「鎖々美さんも少しは手伝って下さいよ・・・」

 

あなたは手ぶらなのに私だけ荷物持ちとはどう言う事ですか、とかがみは思った。

実際、紙袋の中には露店で振る舞うためのうどん玉とオレンジジュースがこれでもかと言う位に詰め込まれ、その重量は優に10kgを超えていた。

尤も、かがみの場合はロボットであり、尚且つ神経回路も自分の意思でON/OFFの切り替えはできるため、彼女自身は重量を感じていないのだが。

しかし、傍から見れば、ひ弱そうな女の子が意地悪な友人に大量の荷物を運ばされているようにしか見えなかった。

 

「かがみがジャンケンで負けたからでしょ?」

 

「はぁ・・・血も涙もないのですね・・・」

 

と、かがみが肩を落とした時だった。

 

「ねぇ、あれ何だろ?」

 

鎖々美がかがみの背中を叩きながら、奥の通りの方を指差す。

そこでは少年二人と少女一人が慌てふためきながら疾走していた。

そしてよく見ると、後ろからは黒尽くめの集団が後を追いかけている。

 

「・・・逃○中の撮影では?」

 

と、かがみは某有名番組の名を出してみる。

 

「いや、でもカメラマンいないし・・・しかも何か追いかけてる方も銃持ってるし」

 

「神々による改変・・・でも無いようですね」

 

かがみは頭頂部からスコープを出現させ、状況を分析する。

ちなみに改変とは、神々が支配するこの世界の全てのモノに宿る『神』というべき存在が、自分の支配下にある神を従わせ、事象を自由に変化させる事である。

そしてその「神」には個々の人格があり、自由に考え行動するのを通常は最高神であるアマテラスが統制しているのだが、ここから先は長くなるので割愛させて頂こう。

まぁ、とにかく、改変とは一言で言うに、神のいたずらとでも言うところか。

 

「どうやら追いかけられている方は私達と同じ学園の生徒のようなのです・・・」

 

「どうする?」

 

「むぅ、私としてはあまり面倒事に首を突っ込みたくないのですが・・・」

 

と、かがみがスコープを外したその時、どこからか携帯の着信音が鳴る。

 

「あ、電話が・・・」

 

今度は手の平に意識を集中するかがみ。

すると、かがみの手の平に画面と通話ボタンが現れ、みるみる内に携帯電話へと変化した。

ボタンを押し、電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『おぉ、かがみか?』

 

電話の相手はつるぎだった。

飄々とした声が電話口から聞こえてくる。

 

「姉さん、何かあったのですか?」

 

『ん、まぁ、ちーとウチの生徒が厄介事に巻き込まれててさぁ・・・今お前らブクロにいんのか?』

 

「えぇ、まぁ。助けに行け、と言う事ですか?」

 

『まぁ、そゆこと。でもできる限り急いでくれよ?』

 

「それは何でまた?」

 

『いや、実はそっちで吸血鬼が好き勝手暴れてるって情報が入ったからさ』

 

電話の向こうで、つるぎは吸血鬼、という単語を出した。

 

『鎖々美にも被害が及んだら事だし・・・』

 

「・・・分かりました、とりあえずは鎖々美さんを安全な場所へ移すのです」

 

かがみはそう言って電話を切った。

そして鎖々美の方を向いてこう言った。

 

「申し訳ありませんが、この街にて少しばかり問題が発生したので、鎖々美さんは先に帰宅して下さい」

 

「えぇー!?何で?一緒に帰ろうよお」

 

鎖々美は頬を膨らましながら言った。

 

「しかし、鎖々美さんに危険が及ぶ可能性もあるのですよ?私はあなたの親友として最善の選択をしているのです」

 

「かがみ・・・でも」

 

と、かがみの言葉に対し、鎖々美が何か言いかけたその時。

 

「ちょーっといいですかぁー?」

 

「貴方の幸せを祈らせて下さぁーい」

 

鎖々美の背後から突然黒服の男達が現れる。

 

「!?い、いきなり何なのよアンタら?」

 

「良いから面見せろコラ」

 

うろたえる鎖々美を無視して、黒服の男達は鎖々美の顔を押さえ、冷徹な声を紡ぎ出す。

 

「こいつかぁ?」

 

「こ・い・つ・だ!ビンゴビンゴ。確変入りましたわぁー」

 

何がビンゴなのか、男達はニヤニヤと顔を見合わせる。

唇や鼻に開いたピアスやサングラスから透けて見える悪人相を見るに、彼らに平和主義者というイメージはどこにも無い。

突然の事に呆気に取られているかがみを他所に、男達は下卑た笑いを浮かべ、鎖々美に煙草臭い顔面を近づけた。

 

「君さぁー、こいつのお仲間だよなぁ?」

 

と、男の一人がポケットから携帯を出し、その画面を鎖々美の前に突きつける。

そこには機械的な黒いスーツを着た少年の姿が写っていた。

 

「は、はぁ?私・・・何も知らないですよ?」

 

「いやいやいや。トボけんなや。手前らのガッコーにこんな連中いるのは百も承知なんだぜぇ?」

 

「そーそー。確かガンツ部とか言う連中だよなぁ?」

 

「「・・・!?」」

 

ガンツ部という単語に、かがみと鎖々美の心が一気に震え上がる。

 

「まさか・・・貴方達は」

 

「そーそー、そのまさかさ。」

 

と、男はニヤリと歯を見せて不気味に笑んだ。

一瞬だが、チラリと見えた犬歯が牙のように鋭く尖っていた。

 

「・・・吸血鬼・・・」

 

かがみにとっては最悪のタイミングだった。

親友に被害が及ぶと判断した時には、既に遅かったのだ。

男はニヤニヤしながら続けた。

 

「ま、俺らの用は単純さ。別にアンタらに恨みがあるわけでもねぇんだわ」

 

「ただぁ、俺らはお前らのお仲間をやっつけたいだけだからぁ。ここまで言えば大体分かるよなぁ?」

 

と、黒服二人組の一人が鎖々美の肩を取り、自分の方へ引き寄せた。

どうやらスーツ越しに鎖々美の頭へ拳銃を突きつけているらしい。

 

「オトモダチを殺されたくなかったら俺らの言う事に従えって事さ」

 

「そそそ、そしたら殺すのだけは少し待ってやっk」

 

と、男が言いかけたその時。

ボクリ、と鈍い打撃音がその場に響き、黒服二人組はその場から2メートルほど吹き飛ばされた。

彼らは地面をゴロゴロと転がった後、近くにあった自販機に頭を強かに打ち付け、そのまま動かなくなった。

 

「え!?な、何!?何!?」

 

突然の出来事に狼狽する鎖々美。

周りの通行人も、何事かとこちらを見ている。

かがみが、目にも留まらぬ早業で、黒服二人組を殴り飛ばしていたのだ。

 

「・・・鎖々美さん、どうやら事態は相当深刻なようですので、先に帰宅する事を推奨するのです」

 

と、かがみは普段ののんびりとした口調とは打って変わったような重い声色で鎖々美に告げた。

身体は怒りに震え、目からは、見つめられただけで射殺されてしまいそうな眼光が零れる。

 

「・・・え?かがみ?」

 

「理由はどうあれ、彼らは鎖々美さんを傷つけようとした・・・私が直々に灸を据える必要があるのです」

 

「・・・まさか、かがみ、あんた!?」

 

「・・・大丈夫なのですよ、私はこれでもロボットなのですから」

 

言いながら、かがみは紙袋を地面に置き、下半身に意識を集中する。

すると、太腿からロケットエンジン、背中から鋼鉄製の翼が現れ、かがみの身体は飛行形態へ変化した。

 

「とにかく鎖々美さんは安全な場所へ逃げて下さい。あ、あとこの荷物もお願いしますね」

 

「え?ちょ、ちょっと!?こんな重い荷物持てないってばあ!!!」

 

鎖々美はこう言ったが、かがみは彼女の言葉を最後まで聞かずに、文字通りそのまま空へ飛び発った。

 

「・・・え、え〜・・・」

 

一人残された鎖々美はただ、呆然とするしかなかった。

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