顔巣学園の平凡な超常   作:アカシックレコード

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「人生は道路のようなものだ。 一番の近道は、たいてい一番悪い道だ」・・・フランシス・ベーコン

「とうまー・・・お腹減ったんだよぉ・・・」・・・インデックス

「あぁ・・・不幸だ・・・」・・・上条当麻


第13話:祭の朝(2-Rの場合)

顔巣学園・校門・・・・

 

 

「おっはよー!」

 

「おはよー」

 

「おはー」

 

「うぃー」

 

「Hi!!」

 

「ごきげんよう・・・」

 

「待てー!!今日こそ逃がさないわよ!!」

 

「朝っぱらから不幸だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

太陽が登り、多くの人々が眠りから目覚め、各々の活動をし始める頃、顔巣学園の日常は始まる。

時刻は午前8:30、この時間帯になると学園の校門前は登校して来た生徒達の喧騒に包まれる。

色々と規格外な顔巣学園だが、朝の風景は普通の学校とほぼ変わりない。

尤も、顔巣学園は総生徒数が1万を越すため、時折人が殺到して校門が詰まったりはするのだが。

 

「ふぁ〜・・・ねみ・・・」

 

さて、その喧騒の中には、我らが主人公・氷川京多の姿もあった。

半袖のカッターシャツに黄色いプラスチック製のバックパック。

そして、右頬には3日前に負った傷を隠すように絆創膏が貼られていた。

 

「あ、京多君おはよー!」

 

と、氷川に後ろから元気な声をかけるのは平沢唯だ。

彼女も右の膝小僧に絆創膏を貼っている。

 

「おはよう、唯」

 

氷川は唯の方を振り向き、挨拶した。

 

「こないだは大変だったな」

 

「うん!でも一日寝たらすぐに元気になったよぉ!!」

 

相も変わらず、唯は能天気である。

 

 

---俺は3日経ってもあの銃を向けられた時の恐怖感が未だに抜けないけどな・・・---

 

 

たった一日で何事も無かったかのように振る舞う、そんな彼女を氷川は心底羨ましく思った。

 

「京多君こそ、ほっぺたは大丈夫なの?」

 

「あぁ、本当にかすり傷程度だったし、普通に消毒して絆創膏貼ったら治るってさ」

 

氷川は傷を絆創膏の上から指で撫でて見せた。

45口径の弾丸が掠めたせいで、数センチほど頬の肉を抉られたが、今は新しい筋繊維が盛り上がり、指で触ると少しばかり凹凸が感じられた。

 

「それはそうと、今日から夏祭だな」

 

「うん!今から楽しみだよぉ!」

 

唯は楽しそうに言った。

夏祭とは、顔巣学園が7月後半から8月の序盤まで開催する、一足早い文化祭の事であり、一応は普通の10月に行われる文化祭も存在する。

だが、この夏祭は文化祭よりも最高に盛り上がると学内での評判も上々であり、当日には多くの来場者と露店で校舎が埋め尽くされる、生徒達にとっても、教員達にとっても、一大イベントなのだ。

 

「今年も夏祭が来たな!」

 

「露店巡りしようぜー」

 

「あ、もしもしー?俺、今日から夏祭なんで二週間くらいバイト休むッスー」

 

「最終日の特別ゲストは誰が出るんだろうな?」

 

「噂だとFear,and Loathing in Las Vegasが出るらしいぞ」

 

「俺はPOLYSICSが出るって聞いたぞ?」

 

「どっちだよー?」

 

「あはははー」

 

と、氷川の横を通り過ぎる学生達の会話も夏祭の事で持ちきりだ。

 

「今年は色々あって開催されないって言われてたけど、顔巣人なら夏祭なしには夏は始まらないよ!」

 

と、唯。

ちなみに顔巣人とは顔巣学園に通う人の意味である、念の為。

 

「そこまで言うか・・・」

 

言いつつ、氷川は校門の傍に貼ってあるポスターに目をやる。

ポスターには『第13回・顔巣学園夏祭』と大きく書かれ、その下には学園のイメージキャラクターなのか知らないが、ぐるぐる眼鏡をかけた、ゆるキャラのような狂気じみたキャラクターのイラストが描かれていた。

 

「そう言えば京多君って、夏祭は始めてだったよね?」

 

「え?あぁ、そうだな」

 

と、氷川は唯の質問に答える。

実は氷川、学園には一年前に転校して来たばかりだったりする。

そのため、夏祭がどんなものなのかはあまり想像がつかないようだ。

 

「夏祭って、文化祭とは違うのか?」

 

「うーん、何て言えば良いのかな・・・夏祭は文化祭というよりかは学園公認の馬鹿騒ぎ、って言った方が良いかな?」

 

と、唯は夏祭を『馬鹿騒ぎ』と表現した。

 

「馬鹿騒ぎ・・・そいつは普通の文化祭よりも楽しめそうだな・・・」

 

「うん、一応は普通の文化祭もそれはそれで盛り上がるんだけど・・・夏休み前で皆テンションが上がってるからね」

 

言いながら、バッグからペットボトル入りの麦茶を取り出してあおる唯。

顔巣学園はその色々と自由すぎる校風もそうだが、何よりも学園内で行われるイベントがお祭りレベルなのも有名だ。

過去に行われた夏祭ではあまりの盛り上がり様に何故か暴動が起こったほどらしい。

 

「そう言えば、軽音部は二日目にライブがあるんだっけ?」

 

氷川はバックパックから取り出したデオドラントスプレーを首に吹き付けながら唯に問う。

 

「うん!今年は澪ちゃんがボーカルなんだよ!」

 

「ほぉ・・・あの澪がねぇ・・・」

 

「珍しい事もあるもんだよー、あの澪ちゃんがボーカルに立候補するんだもん!」

 

と、何かにつけて澪のボーカルを珍しがる二人。

それもそのはず、秋山澪は軽音部きっての恥ずかしがり屋&引っ込み思案娘なのだ。

それが突然ボーカルを引き受けるなど、普通なら絶対にあり得ない事である。

 

「おっと?噂をすれば何とやら・・・」

 

氷川は人混みの中に澪の姿を見つけた。

カバーに入ったベースを担ぎ、どこかソワソワしながら立っている。

 

「みーおちゃーん!!」

 

唯は大声で澪に声をかける。

 

「ひゃわぁ!!ゆ、唯!?」

 

すると突然の呼びかけに驚いた澪は身体をブルン、と震わせた。

 

「おはよう、澪」

 

氷川は澪に軽く挨拶する。

 

「お、おはよ・・・」

 

「朝から随分とソワソワしてるけど、緊張してるのか?」

 

「い、いや・・・別にそーゆー訳じゃ・・・・」

 

澪はベースを抱きしめながら小さな声で言った。

その顔には焦りと恥じらいの色が見えている。

 

「ほぅほぅ、さては待ち人ですなぁ?」

 

と、唯がニヨニヨ笑みながら言う。

 

「だっ!?違ーう!!」

 

唯の言葉に突然澪は顔を真っ赤にして叫んだ。

おそらく怒りではなく恥じらいの感情で。

 

「わ、私は、、、そ、そう!律だ!律と待ち合わせてたんだよ!!!」

 

と、腕をブンブン振り回しながら全力で否定する澪。

しかし、その様はどう見ても何かを隠そうとしているようにしか見えない。

いや、人を待っているのは嘘ではないにしても、まるで、気になるあの人を待つ乙女のような雰囲気である。

 

「本当かなぁ?後で律っちゃんに聞くよぉ?」

 

「う・・・本当だもん!!」

 

 

---朝から平和だなぁ・・・---

 

 

澪と唯のやり取りを、氷川は小さな子供の小競り合いを見る親のような穏やかな目で眺める。

 

「お、氷川じゃん」

 

すると、後ろから声をかけられたので振り向くと、

 

「おぉ、玄野か、おはよ」

 

玄野が立っていた。

肩掛けバッグに半袖のシャツを着て、その下にはガンツスーツを纏っている。

 

「何だ?朝から喧嘩か?」

 

玄野は澪と唯が言い争っている様を見ながら言う。

 

「いや、俺にもよく分からないけど・・・女子にはよくある事なんじゃね?」

 

「何だそりゃ」

 

氷川の言葉にキョトンとする玄野。

一見すると喧嘩にしか見えないけど喧嘩じゃない・・・野郎共には分からない感覚なのである。

 

「にしても朝から皆張り切ってんなー」

 

「あぁ、だな」

 

そしてその呑気な野郎二人は校舎側を見上げながら言う。

顔巣学園の校舎は主に高校生の教室があるA棟とB棟、中等部の教室と多目的室があるC棟とD棟、そして文科系の部活で使われる部室で構成されたE棟に分けられ、学園の玄関口である校門があるのがA棟の目の前なのだが・・・夏祭という事で入場者の目に付くためか、A棟のコンクリート壁は絶好の広告スポットになっており、『クレープ屋』、『たこ焼き屋』、『ホットドッグ屋』などの学園祭ではよく見る看板や『囲碁サッカー部』、『死んだ世界戦線』、『やみいしゃまんかんしょく』、『アニメ化希望』などの顔巣学園ならではの一風変わった、というか一部は見方を変えればかなり怪しげな看板が大量に掲示されていた。

 

「まぁ、何だかんだで今年も準備してたんだな」

 

「つか、あそこまで看板出してたら、普通なら馬鹿高い広告料が取れるな・・・」

 

氷川は呆れ混じりに頭を掻いた。

ちなみにこれは余談だが、実は広告料は新聞の社会面に1cm載せるだけでも(発行元にもよるが)8万円以上かかる事もあるんだそうな。

 

「あ、いたいた、計ちゃーん」

 

と、文面だけ見れば女のセリフに聞こえなくない声が玄野の背後からする。

無論、声の主は女などではなく、

 

「おぉ、加藤か、おはよ」

 

「おはよう、加藤」

 

玄野の友人にしてガンツ部副部長の加藤勝だった。

オールバックの髪型に玄野同様ガンツスーツをシャツの下に着ている。

 

「おはよう・・・って、それよりも計ちゃん、西の奴見なかったか?」

 

と、加藤は部活の後輩だろうか、西という名前を出した。

 

「いや・・・俺も今来たとこだから知らないけど?またあいつが何かやらかしたのか?」

 

と、玄野。

どうやら会話を聞くあたり、あまり素行の良い後輩ではないようだ。

 

「あぁ・・・実は今日、朝から中等部の部員でミーティングする予定だったんだけど、西だけ来てないみたいなんだよ」

 

「あんなの放っておきゃ良いだろ?西って中等部でも問題児扱いされてるらしいしさ・・・」

 

「いや、でも一応は部員だしさ・・・計ちゃんも一緒に探してくれないか?」

 

「えー・・・マジで?」

 

露骨に嫌そうな顔をして玄野は首を横に振る。

さすがの玄野も西という後輩を毛嫌いしているようだ。

 

「頼むよ・・・俺も中等部の皆を待たせてるんだ」

 

「ん〜・・・」

 

「俺が行こうか?」

 

と、先ほどまで完全に蚊帳の外だった氷川がやっと口を開く。

 

「え?氷川が?」

 

「うん、どうせ今から教室行ってもやる事無いし・・・」

 

「いや、氷川はやめといた方が良いぞ」

 

と、何故かここで加藤が氷川を止めようとする。

 

「何で?たかが中坊を説得するくらいだろ?なら俺にだって出来るよ」

 

「・・・西が普通の中坊ならな」

 

「は?何言って」

 

と、氷川が言いかけた、次の瞬間。

ギョーンという間抜けな音が辺りに鳴り響き、数秒遅れてA棟の教室の窓ガラスが粉々に砕け散って6m下の地面へ飛散する。

そして窓枠だけになった窓からは、

 

『真尋さんをディスる奴は例え見た目がちょっと真尋さんに似てても容赦ねぇですよ!!!!』

 

と、妙に長ったらしい&説明くさい女性の怒号と、

 

『キーキー喚いてんじゃねぇぞこの×××が!!!!』

 

件の西とか言う中坊だろうか、とりあえず少年の怒号が聞こえてくる。

 

「あーあ・・・言わんこっちゃない・・・」

 

玄野はそれを見て眉間を摘まんだ。

 

「な、何だよ!?あれ!?」

 

突然の事態に氷川はアタフタと狼狽する。

まぁ、何の前触れもなく窓ガラスが割れたらそりゃ誰でも驚くよね。

ところが、これは顔巣学園が異常なのか、氷川がビビリなのかは不明だが、驚いているのは氷川だけのようだ。

玄野や加藤を含めた周囲にいる人間は全く気に留める様子が無い。

 

「西だ・・・あのバカ、朝から誰かに喧嘩吹っかけやがったな」

 

「いやいや、加藤も玄野も何で冷静!?」

 

「そりゃ、アイツが何か問題起こすのは日常茶飯事だからさ・・・」

 

玄野は大きな溜息をついた。

このように、普通の学校なら大問題になるような事でも、この学園では日常茶飯事なのである。

 

「行くぞ、計ちゃん」

 

「へーい・・・」

 

校舎へと走って行く加藤の後に続いて、玄野はやる気なさげにヘコヘコと走り出した。

 

「・・・い、行ってらー・・・?」

 

一人残された氷川は一応二人に手を振りながらも、人が行き交う中を呆然と突っ立っていた。

 

「だから!私は本当に律を待ってただけなんだ!!」

 

「へ〜、それは本当かなぁ〜?」

 

しかし、澪と唯の言い争い(?)が耳に入ると我に返った。

 

 

---つか、お前らまだやってたのか・・・---

 

 

しかもさっきと話の論点が全く変わってないじゃん。

氷川はやれやれ、と頭を振りながら、

 

「はいはい、そこまで。」

 

パンパンと手を叩きながら澪と唯の間に割って入る。

 

「とりあえず、澪が誰を待ってたかは知らないけどさ、そろそろホームルーム始まるし、早くしないと遅刻するぞ?」

 

「あ、そ、そうだな!もうこんな時間だ、早くしないと遅刻しちゃう!!」

 

と、澪は氷川の言った事をほとんど鸚鵡返しに言うと、逃げるように校舎へと走って行った。

 

「・・・何か不自然だな、今日の澪」

 

氷川はふと呟いた。

ライブを前に緊張するのは分かるのだが、緊張しすぎにも程がある。

しかも、校門の前で誰かを待っていたのを聞かれれば挙動不審。

これは明らかにおかしい。

 

「京多君、知らないの?」

 

と、唯が細めた目で氷川を見上げる。

 

「は?何が?」

 

「うん・・・実は澪ちゃんね、玄野君のことが・・・」

 

唯がそう言いかけた所で、氷川達のいるすぐ近くのスピーカーから一日の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「あ、ホームルーム始まっちゃう!」

 

「あ、あぁ、ちょっと急ぐか」

 

氷川と唯は少し急ぎ足で教室へと向かった。

 

 

2-R組教室・・・・

 

「な、何だ、こりゃ・・・」

 

「めちゃくちゃ、だね・・・」

 

さて、自分の教室へ入ろうとした氷川と唯が見たものは、『暴動の跡か!?』とでも言うかのようにボロボロになった教室だった。

教室のあちこちには椅子や机、チョークなどの備品が散乱し、黒板は中央から真っ二つに折れている。

そして、その教室の真ん中では二名の生徒が玄野と加藤によって羽交い締めにされていた。

片方はアホ毛の伸びた銀髪に碧眼が特徴的な女子生徒、もう片方は整った顔に髪を七三分けにした男子生徒だ。

更によく見ると女子生徒は名状しがたいバールのようなもの、男子生徒もXガンを持っており、どうやらこの二人が教室内で暴れていたようだ。

先ほど、A棟の窓が砕けたのも、これが原因だろう。

氷川以外のクラスメイト達も教室に入る勇気は無いらしく、扉の前で中の状況を見守っていた。

 

「え、ちょ、何がどうなってんの、これ・・・」

 

氷川は呆然としつつも、隣にいたブロンドの髪が特徴的なクラスメイト---カリーナ・ライル---に事情を聞く。

 

「何か、あの中坊がニャル子にケンカ売ったらしいのよ・・・朝っぱらから、しかも夏祭初日から迷惑よね」

 

と、カリーナは大きな溜息をついた。

 

「あぁ・・・そうだな」

 

氷川もそれに同意して嘆息する。

全く、本当にいつもトラブルの絶えないクラスだぜ・・・

 

「何だ何だ、またケンカか?」

 

「朝から一体何の騒ぎだ?」

 

と、2-Rの教室の前にできた人混みの中から現れた二人のクラスメイト---音無結弦と日向秀樹---が教室を覗きながら言う。

 

「なんかニャル子とガンツ部の中坊とのケンカだとさ」

 

氷川が事情を説明する。

尤も、どちらが先に手を出したかについては氷川の知る所ではないが。

 

「あらまー・・・こいつはしばらく教室には入れないな・・・」

 

と、日向が教室の中でクラスメイト達の制止を振り切って再び暴れ始めた二人を見て言う。

 

「全く、朝っぱらから何してんだか・・・」

 

「夏祭でテンション上がってるのは分かるけどな」

 

「・・・早く教室入りたい」

 

教室の前で足止めを食らっているクラスメイト達もざわざわと不満をこぼし始める。

 

「おーい、お前ら何してんだー?」

 

すると、騒いでいるクラスメイト達の中から白い全身タイツが特徴の2-R担任・佐藤田中が現れる。

いつもは全身タイツの上からネクタイだけを締めているシュールな姿だが、今日は特注品の夏祭Tシャツを着ている。

 

「何か、ニャル子とガンツ部の奴がバトってるみたいっすよ」

 

今度は日向が事情を説明する。

 

「ほーん・・・ガンツ部って事は玄野か加藤か?」

 

「いや、二人は中で止めに入ってます」

 

氷川が教室の中を扉の窓越しに指差して言う。

壁や扉の防音性がかなり高いためか、教室の中の音までは聞こえてこないが、ニャル子と西の乱闘振りを見る限り、恐らく中では爆発音と打撃音、その他諸々が鳴り響いているだろう。

 

「あー、中等部の西か・・・」

 

と、佐藤田中は室内の有様を見て言った。

教科担当である体育の授業以外は中等部には殆ど関わりの無い佐藤田中でさえ名前を知っている辺り、西の問題児振りは有名らしい。

 

「ふぅむ・・・そうか」

 

ウンウン、と佐藤は頷く。

 

「そうか、じゃなくて」

 

と、氷川達のクラスメイトである短髪の男子生徒---坂本雄二---が佐藤田中に一言物申す。

 

「あの二人を止めてくれないと俺ら全員教室に入れないっすよ?」

 

腕を組み、半ば苛立ち混じりにそう言った。

 

「そうだぜー」

 

「何とかしてよー、佐藤センセ」

 

「せっかくの夏祭ですよ、何とかしましょうよー」

 

生徒達も坂本に続いて口々に文句を言う。

 

「いや〜・・・ニャル子はどうにかなるとしても西だけは俺でも手に負えん」

 

佐藤田中は教室内を見て言う。

突然だが、佐藤田中もニャル子も宇宙人である。

この宇宙には何億もの星々があり、その数ある星々には人間を含めた知的生命体が生活しているのだが・・・ニャル子はかつて太古の地球に飛来し、クトゥルフ神話にその存在を記された宇宙人の一種族の出身であり、佐藤田中は地球から大体6時間くらいで行ける距離にある惑星・中学星の出身である。

ニャル子の場合は惑星保護機構の任務で、佐藤田中の場合は単純に教師としてこの顔巣学園に身を置いており、その上で異星人狩りを主な活動内容とするガンツ部とは一種の不可侵協定を締結しているのだ。

しかし、たまに事情を知らない新入部員からの襲撃を受ける事があり、それだけなら事情を説明する事で大抵は和解するのだが・・・中には不可侵協定を無視して攻撃してくる輩もおり、その急先鋒が西丈一郎だったりする。

しかも、西は宇宙人全般を下等生物として見ており、彼がこの学園に在籍している宇宙人を襲撃する事件もしばしば起こっている。

よって、西はこの何でもござれな学園単位で見ても、かなりの問題児なのだ。

 

「相も変わらず長ったらしい説明だな・・・」

 

佐藤田中が何故か天井を向きながら言う。

一応言っとく、うっせーよ。

 

「でも、アイツら止めないとホームルームどころか準備も出来ないじゃん」

 

と、カリーナはイライラした様子で毛先を指で弄くる。

 

「そうですよ、先生」

 

と、同じくクラスメイトである吉井明久も続く。

 

「あの二人を止めないと僕らの夏祭は始まらないですよ!」

 

「そうだぜ!先生!!」

 

「何とかしろよー、センセー!」

 

「先生!」

 

「先生!!」

 

「センセー!!!」

 

と、教室の前で巻き起こるR組の生徒達による先生コール。

 

「いや・・・それは俺も分かってるんだがな、さすがの俺も命は惜しい・・・」

 

それに押され、少し困惑気味の佐藤田中。

しかし、それは同時に佐藤田中が如何に生徒達からの信頼を得ているかを表している・・・のかもしれない。

 

「・・・分かった、何とかしよう」

 

押しに負けたのか、佐藤田中はため息混じりに言い、締め切られた教室の扉の前に立った。

行くぞ?と周りにいる生徒達に目配せをし、全員が頷いた所で一気に扉を開け放ち、教室に踏み込む。

・・・ところが、

 

「・・・何だ、こりゃあ!?」

 

佐藤田中は一瞬ア然とした。

その理由は単純だ。

教室の中では先ほど乱闘していたニャル子が、

 

「う、う〜・・・にゃ〜・・・」

 

脳天にフォークを突き刺されて自分の血の池の中に卒倒し、

 

「スーツが!!スーツがオシャカになったぁぁぁぁ!!!」

 

同じく西もガンツスーツの至る所にフォークを突き刺され、血を流すやら、スーツから流れ出た緑色の液体を垂れ流すやら、とにかく大変な事になっており、そしてその横には・・・

 

「・・・全く、お前らは毎度毎度問題を起こすのな」

 

と言いながらハンカチで血の付着したフォークと手を拭う少年がいた。

状況から見て、教室外で先生コールが起きている間に騒動は鎮圧されたらしい。

 

「・・・え?誰このヤンデレ・・・」

 

廊下側の窓から覗いていたクラスメイトの誰かが思わずそんな事を口走る。

確かに暴徒を鎮圧したのは良いだろう。

人をフォークで刺すなんて、明らか異常である。

しかし、佐藤田中はそのフォークを持った少年をよく見ると、こう言った。

 

「おぉ、誰かと思ったら真尋か」

 

「あ、おはようございます、先生」

 

真尋と呼ばれた少年は佐藤田中に軽く頭を下げた。

そう、彼は2-R組の生徒にして、ニャル子の保護者(?)でもある少年、八坂真尋だ。

 

「すいません・・・朝からこのドアホが迷惑かけたみたいで」

 

「いや〜、むしろ助かったぜ。しっかし・・・朝っぱらから何でこいつら喧嘩なんかしてたんだ?」

 

と、佐藤田中は床に倒れ伏しているアホ二人と教室の惨状を交互に見ながら真尋に尋ねる。

 

「元々は西がニャル子に喧嘩売ったんすよ」

 

と、真尋の代わりに玄野が、Xガンを取り出そうとする西の鳩尾を蹴り飛ばしながら言う(西はグフッと言って気絶した)。

 

「こいつ、夏祭とか文化祭とか嫌いみたいで結構イライラしてたらしくて・・・そんで憂さ晴らしにニャル子に喧嘩売って、今に至るってわけです」

 

「ほぅ・・・つまりこの中坊が発端ってわけか・・・」

 

佐藤田中はハァ、とため息を吐いた。

 

「・・・でも、何で文化祭嫌いがこーゆー事に繋がるんだ?」

 

「あぁ、単純にコイツ友達いないんすよ。だから夏祭にしろ文化祭にしろ、一緒に楽しめる奴いなくて」

 

と、玄野はいけしゃあしゃあと言った。

 

「そんで、イライラの中で朝から八坂といちゃついてるニャル子に目をつけたんじゃないっすか。しかもニャル子は宇宙人だし、協定が無けりゃガンツのターゲットにされかねないし」

 

「まぁ、僕もニャル子には無視するようには言ったんですけど・・・こいつが僕の事を『人外大好きのど変態』って言った瞬間にSAN値が吹っ飛んだみたいです」

 

真尋も気絶した西の腹に足を載せてグリグリとやる。

 

「まぁ、ニャル子もやり過ぎですけど、僕もこいつにはムカついたんで・・・」

 

「そうですよね!!真尋さーん!!!」

 

と、真尋の言葉を遮って脳天にフォークが刺さったまま、ニャル子が口を挟む。

 

「確かに私は人外ですし、それを指摘されるのは別に問題無いとしてもぉ〜、真尋さんをディスる奴は誰であろうと許しません!!!」

 

フォークが刺さりっぱなしの脳天から血を流しながら、ニャル子は熱弁した。

どうでも良いが、傍から見ると今のニャル子の状態はかなり怖い。

 

「まして、将来を誓い合った私と真尋さんの熱き情熱と性欲は誰にも止められな」

 

「ニャル子、あまり喋ると今度は身体の至る所が穴だらけになるぞ?」

 

真尋は顔だけ笑いながら目には殺気を滾らせるという器用な芸当を見せつつ、ポケットからフォークをちらつかせる。

 

「ふぇぇぇ、分かってますよぉ・・・」

 

しくしく泣きながら、ニャル子はそそくさと今しがた自分の倒れていた床に再び倒れ伏した。

 

「まぁ、取り敢えず事の次第は分かった・・・だが、まずはこの教室を元通りにして、朝礼を終わらせようか」

 

そう言うと、佐藤田中は廊下へ向かって「おーい、入って来いー」と声をかけた。

するとそれを皮切りに、生徒達が教室へ一人二人と入り始めた。

 

「うわー、ひでー・・・」

 

「派手にやったわね・・・」

 

「喧嘩だけでよくここまでやるぜ・・・」

 

と、生徒達は文句を言いながらも机と椅子を元の位置に片付け始める。

 

「全く・・・朝っぱらから僕を怒らせないでくれよ」

 

と、自分の机を移動させながら真尋は大きな溜息をついた。

 

「だってこの中坊が先に・・・」

 

ニャル子は気絶した西を廊下へ放り出しながら言う。

廊下へ転がされた西は、そこにいた生徒指導の教諭に引きずられて行く。

 

「喧嘩両成敗だ。あっちがあっちならお前もお前だよ」

 

「ふぇぇ・・・そんなぁ・・・」

 

ニャル子は泣きそうな目で真尋を見る。

真尋はそれをできるだけ目に入れないように廊下へ視線を下ろした。

 

「大体、中坊相手にケンカってだけでこの様なんだ、ちょっとは周りの迷惑ってのを」

 

「・・・それは違う、少年」

 

すると突然、真尋の言葉を遮り、2-Rの生徒でもあり、ニャル子のストーカー(!?)でもあるクー子が口を挟む。

 

「な、何だよ・・・」

 

「・・・ニャル子は何も悪くない・・・あの中坊が諸悪の根元・・・」

 

と、無表情に、かつ無愛想にニャル子を擁護するクー子。

 

「それに、あの中坊は私達のような宇宙人にとっては天敵も同然・・・」

 

「や、そこまでひどくはないだろ?一応は惑星保護機構とも不可侵協定を結んでるって玄野に聞いたぞ?」

 

「・・・それでもニャル子を敵に回すなら、私は容赦しない・・・」

 

と、クー子は右手の拳をキュッと握りしめながら言った。

・・・そしてその右手には何故か女物の下着が握られていた。

 

「・・・そろそろツッコんでおきましょうか・・・クー子、あんた何握ってやがるんですか・・・?」

 

「・・・ニャル子のぱんつ」

 

少し顔を赤くして言うクー子。

それを聞いた瞬間、ニャル子の顔から段々と血の気が引き、真っ青を通り越して黒くなり始めた。

 

「・・・いつ掠め取りやがったんですか?」

 

「今。だからニャル子は今すぐに私と××××し」

 

放送コードに引っかかりまくりな単語の直後、突然クー子の言葉は途切れた。

次の瞬間、クー子の脳天には真尋のフォークが突き刺さり、ニャル子の腕ひしぎ逆十字が決まった。

 

「アホな事するな大バカー!!!」

 

「人のぱんつ被って許されんのは変態仮面ぐらいですよぉぉぉ!!??」

 

ニャル子と真尋はクー子に制裁を加えながらシャウトした。

 

「あああっ!!ニャル子ぉ・・・ニャル子ぉ・・・もっと・・・もっとしてぇ!!」

 

・・・尤も、当の本人は痛めつけられる事に快感を見出しているらしいが。

 

 

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「・・・今度は何をしとるんだ」

 

さて、そんな三者三様(?)な様子を遠巻きに見ながら、我らが影の薄い主人公・氷川は呆れ口調で言った。

 

「クー子ちゃん、良いなぁ・・・僕も真尋君にダブルリストロック掛けられたいよぉ・・・」

 

「おい、ハス太?さりげなくあれに加わろうとするなよ?」

 

と、氷川は自分の隣でニャル子と真尋がクー子に制裁を加えている様を物欲しそうに見ていた小柄なクラスメイト---ハス太---に言った。

 

「・・・つか、ハス太君よ、何でそんなマニアックな技知ってんの?」

 

「宇宙CQCの通信講座で覚えたんだー」

 

「う、宇宙CQCッスか・・・」

 

氷川は改めて最近の通信講座の汎用性に驚いた。

つか、宇宙CQCって何なんだよ・・・

 

「氷川君にも掛けてあげようか?」

 

「丁重にお断り致します」

 

得体の知れない体術でシメられるのは俺も御免だ。

 

 

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「このクラスは本当にトラブルが絶えないな・・・」

 

と、玄野が自分の机を教室の奥から運び出しながらクラスメイトである木下秀吉に話しかける。

 

「これはトラブルと言うより、完全に学級崩壊レベルじゃろう・・・」

 

秀吉はボロボロになった壁や天井を見て言った。

すぐ横を見れば、先ほどの暴動で破壊され、今やただの木屑鉄屑と化した自分の机を前にオロオロすしたり、机こそ無事だったものの、中に隠していたエロ本の残骸を手にむせび泣くクラスメイトの姿があった。

確かにこれほどの超常が繰り返されているのは、おそらく顔巣学園だけであろう。

 

「そう言えば確か一話あたりでもこんな事があったような気がするんじゃが・・・」

 

「あぁ、沖田が土方にバズーカぶっ放してたな」

 

メタ発言・・・もとい、一ヶ月程前の事を回顧する二人。

全く、毎回毎回こんな状況でよく勉学に励めたものである。

 

「ねー、玄野ー」

 

と、玄野の後ろからカリーナの声がする。

 

「ん?何ー?」

 

玄野は振り向かずに声だけでそれに応対した。

 

「一限目って何だっけ?」

 

「あー、数学。鉄人の方な」

 

ちなみに鉄人とは高等部において数学を担当している教諭・西村宗一のことだ。

何故鉄人と呼ばれているのかと言うと、それは彼の趣味であるトライアスロン、そして彼自身が鉄人の異名に相違ない鍛え上げられた肉体の持ち主であるからだ。

尤も、本人はそう呼ばれるのを嫌っているらしいのだが。

 

「・・・やば、私宿題やってない」

 

珍しく宿題を忘れたカリーナが呟く。

 

「マジかよ?鉄人にドヤされるぞ」

 

「えー・・・でもいつもは忘れてないから大丈夫でしょ?てか、そう言う玄野はやってるの?」

 

「・・・やってない、つかある事知らなかった」

 

「・・・・」(玄野)

 

「・・・・」(カリーナ)

 

「・・・何故二人揃ってワシを見る?」

 

玄野とカリーナは秀吉をガン見してこう言った。

 

「「宿題みーして♪」」

 

「・・・ワシもやってないんじゃがのう」

 

「何でやってねぇんだよ!?お前見た目は結構まともそうなんだから宿題くらいやって来いや!!??」

 

「このおバカ!そんなんだからいつまでも優子に比べられんのよ!!それでも優子の妹!?」

 

「ちょ!?ワシは弟じゃ!妹ではないわ!!」

 

「くッそー!!何で夏祭なのに午前授業とかあんだよー!!!」

 

玄野の悲痛な叫びは教室の中の喧騒に消えた。

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