顔巣学園の平凡な超常   作:アカシックレコード

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「生きるということは刺激的なことであり、それは楽しみである」・・・・アインシュタイン

「やっと祭りか・・・(ファ〜」・・・・氷川京多

「待ちくたびれたよ」・・・・玄野計

「それじゃあ、行ってみよー!」・・・・平沢唯


第15話:夏祭

翌日、2-R組教室・・・・

 

「・・・と、まぁ、ここまでが最近の研究で得られた巨人のデータなんだけれども・・・・って、皆聞いてる?」

 

と、教卓から生徒達を見下ろしながら、生物担当教師・ハンジ・ゾエは大きく溜息を吐いた。

 

2-R一同

『…Zzz』

 

それもそのはず、生徒達は皆居眠りしていたのだから。

このハンジ・ゾエという教師は授業をあまり、というか殆どしない事で有名だ。

最初のうちは教科書に沿った内容の授業をするのだが、その節目節目でやたらと巨人について熱弁するのである。

そして興が乗ってくると、授業そっちのけで手持ちのレポート(無論巨人関連)や解剖図(巨人の)を引っ張り出して、延々ベラベラと語りまくるのだ。

そのせいか、授業開始後15分も経たないうちに、生徒の過半数が一斉に眠りに就くか、生徒同士で馬鹿話に勤しむか、という状況になってしまうのだ。

 

「まぁ、皆は普通科だからあまり巨人に興味が無いのは分かるけどね・・・」

 

と、ハンジは頭をぽりぽり掻きながら、黒板をフルに使って描いた巨人の解剖図を消し始めた。

それと同時に終業のチャイムが鳴り響く。

ちなみに今回の授業で使用した黒板の内容は巨人関係が9割、生物関係が1割という有様だったとか。

全く何をしているのやら。

 

「では、今日はここまで。日直さん、号令よろしく」

 

「ふぁ〜…起立、礼」

 

大あくびしながら、日直の坂本雄二が号令をかけると、R組の教室に気怠げな礼の声が響く。

 

「あ、そうそう、言うのを忘れていたけど」

 

そして、ハンジは教室を出ながら、

 

「今日の内容が夏休み後のテストで出題されるので、皆さんちゃんと勉強しておくようにね」

 

まあまあ残酷な一言を放っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2-R一同

『・・・な、なぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?????』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・2−Rの全員がまどろみから一気に覚醒した瞬間である。

当然誰もノートなど取っておらず、授業を半分も聞いていなかった2−Rはしばらく荒れに荒れたのだとか。

 

 

 

 

一方、その頃・・・・

 

「・・・・」

 

学園都市の某所にある、廃屋となったボーリング場。

人通りもほとんど無いこの場所は、かつてはカラーギャングやチーマーなどの不良集団の縄張りにはうってつけの場所として雑誌で紹介されたりしていたのだが、現在ではそのなりを潜め、全く人が寄り付かなくなっていた。

そんなボーリング場の二階に、その男はいた。

黒いフードを目深に被り、独りノートパソコンに相対している。

指はせわしなくキーボードを叩き、画面には何やら赤い文字列が踊っている。

 

「・・・もうすぐだ、もうすぐにだ・・・」

 

口許に不気味な笑みを浮かべ、男は一心不乱にキーボードを叩き続ける。

刹那、男の携帯に着信が入る。

男はおもむろに携帯をポケットから取り出し、通話に出た。

 

『やぁやぁ、調子良さそうだね』

 

電話の相手もやはり男だった。

声色から判断して、20代前後だろうか。

男はそっけなく応対した。

 

「・・・あんたか、何の用だ?」

 

『釣れないなぁ、君は。せっかく情報を持って来てあげたんだ、もう少しは喜んでくれると思ってたけどねぇ』

 

「能書きを垂れるな、要件をさっさと言え」

 

『はぁ〜・・・まぁ、良いさ。要件は・・・君への忠告だ』

 

と、ここで電話の声は一拍置いてから言った。

 

『・・・学園都市のお巡りサン達がどうやら君の事を探り始めたらしいよ?』

 

「へっ、問題は無い、それも俺の策の一つだ」

 

『へぇ?随分と自信があるみたいだね?自分が捕まらないという自信が』

 

「当然だ、俺はまだ捕まるわけにゃいかねぇんだよ」

 

『まぁ、幸運を祈っておこうか。一応は俺も協力者だからね』

 

いけしゃあしゃあと言い放ち、電話の声は切れた。

男は携帯をポケットにしまい、ようやくパソコンから目を離す。

やれやれ、というように首を回しながら、砕けた窓から空を見上げて。

 

「そうだ、まだ捕まるべきじゃない・・・・」

 

と、男は自分自身に言い聞かせているとも、誰かに教唆しているとも取れる独り言をふと呟いた。

 

「・・・この聖戦(クルセイド)を完遂するまでは、な」

 

聖戦(クルセイド)

その単語の意図するものは果たして何なのか。

男がただのイタい奴なのか、それとも本当に何かを始めるつもりなのか。

それはまた別の話。

 

 

 

 

 

顔巣学園・校門付近・・・・

 

『ブレスレットの配布は本日16時までとなっております』

 

『フェイス両替所はこちらになりまーす』

 

真夏の太陽が照りつける、昼の12時半。

顔巣学園の校門前には大量の生徒達が長蛇の列を作っていた。

 

「でね、夏祭の間は顔巣学園は一つの国みたいになるんだよ」

 

「なるほど、つまり夏祭の期間中は学園の外には出られないって事か?」

 

「いや、絶対出られないってわけじゃないけど・・・色々と手続きが面倒なんだ」

 

多種多様な人種・種族・年齢の入り乱れる人混みの中、氷川京多の姿はそこにあった。

隣には平沢唯と秋山澪の姿もある。

 

「ふぅん・・・じゃ1週間丸々学園に缶詰ってわけだ」

 

「でも顔巣学園は広いからねぇ、半年くらいは学校で生活できちゃうよ」

 

と、唯は財布の中身を物色しながら言う。

ちなみに夏祭の期間中、顔巣学園は基本的に独立国家とほぼ同じ体制を取っている。

学園内においては、専用の通貨であるフェイス(Faith)が流通し、円やドルを使った商売や支払いは原則不可能となる。

また、通常の校則に付加される形で夏祭期間限定の校則も存在しており、楽しい反面、色々とややこしい箇所もあるようだ。

 

「まぁ普通に楽しんでれば大丈夫だよ」

 

「普通に、ねぇ」

 

澪の言葉に氷川は一抹の不安を覚えた。

ただでさえ何でもござれのこの学園だ、普通では済まされない事態が起こるだろ、絶対・・・

 

「次の方!」

 

なんてことを考えている間に、両替の順番が回ってくる。

氷川は財布から卸したばかりのバイト代を出した。

とりあえず軍資金として4万円は手元にある。

 

「あ、あまりたくさん換金しない方がいいぞ?最終日までに使い切れなくても払い戻しはできないからな」

 

「え、そうなの?」

 

「最初は1万5千円くらいでちょうどいいんだ。夏祭中も換金所は営業してるから」

 

「へぇ・・・じゃ、これで」

 

澪に言われるまま、氷川は2万5千円を財布に戻し、代わりに1万5千円を換金所の係員に手渡した。

 

「1万・・・5千円ですね、列の横で少々お待ちください。ブレスレットを作成しますので」

 

列の横に退く事、約3分後。

 

「氷川京多様〜ブレスレットが用意できました〜」

 

係員に呼ばれ、氷川は換金所のすぐ横の広場に向かった。

そこには券売機のような機械が三つ並び、人々がブレスレットを受け取っている。

 

「ブレスレットの使い方はご存知でしょうか?」

 

「あ、はい、一応知ってます」

 

フェイスは電子通貨であり、専用のブレスレットにチャージして支払い時にタッチパネルにタッチして利用することになっている、というようなことを担任の佐藤田中から聞いたのを氷川は思い出した。

とりあえずブレスレットを受け取り、腕に嵌めてみる。

うん、こうして見るとなんだか普通のラバーバンドみたいだ。

 

「さてと・・・」

 

氷川は電子生徒手帳の夏祭の欄を開いた。

見たところ、かなりの量の出店やイベントがあるらしく、特に14時からは特設ステージで特別ゲストのライブがあるらしい。

 

「NINJA COREと竜宮小町がオープニングアクトか・・・後で行ってみよう」

 

そう思いながら生徒手帳をポケットにしまうと、向こうから唯と澪、そしていつの間に合流したのか、岩沢が来た。

 

「よう、氷川」

 

「岩沢」

 

ギターケースを背負い、氷川に手を振る彼女もまた腕にブレスレットを嵌めている。

 

「あ、そうか。ガルデモもライブやるんだっけ?」

 

「あぁ、3日目にな。今日と明日は放課後ティータイムと合同でリハをやったり、音合わせしたりする予定だ」

 

「3日目か…そう言えば、放課後ティータイムは今回秋山がボーカルなんだっけ?」

 

「そうだよー!しかも驚くなかれ、メイド服着て演奏するんだよ!!」

 

「唯!?それは言わない約束だろ!!!」

 

と、澪は真っ赤になりながら唯の後ろ頭をはたく。

メイド服か……と氷川は思った。

おそらくは律かさわ子先生あたりに強要されたのだろう。

少し哀れではあるが、まぁ、頑張れ、澪。

 

「氷川はどうするんだ?1日目だし、色々と見て回ったりするんだよな?」

 

と岩沢。

 

「うん、とりあえず俺はオープニングアクトのライブ見に行くつもりだけど、一緒に行くか?」

 

「あ、それ良いね!私も行くー」

 

「こら唯、私達は練習があるだろ」

 

「えー…でもあの竜宮小町がライブするんだよ?澪ちゃんだって見に行きたいんじゃないのー?」

 

唯は頬をぷくーっと膨らませながら言う。

確かに、大人気のアイドルユニットが学校でライブをするのなら、誰だって見に行きたいはずだ。

 

「何言ってるんだよ唯、私達あと2日しか練習できないのに…」

 

「まぁまぁ、澪」

 

と、ここで岩沢が唯と澪の間に割って入った。

 

「ライブって言っても1時間くらいで終わるしさ、私達も見に行かないか?」

 

「まさみまで……でも、そしたら練習はどうなるんだよ」

 

「おーい、澪ー」

 

すると、その時。

澪の後ろから律が走ってやって来た。

いつの間に物販で買ったのであろうNINJA COREのTシャツまで着てライブが待ち切れないようだ。

 

「あ、律」

 

「よぉ澪、何してんだよ」

 

「そうだ!律、唯とまさみがライブに行こうって言って聞かないんだ」

 

と、澪は律に直訴しようとする。

部長であるお前からも何とか言ってくれ、と言おうとしたのだろうが、

 

「何だ?澪は行かないのか、ライブ」

 

その言葉は律のあまりにも残酷(少なくとも唯と岩沢にとっては思わぬ援軍)な一言で打ち砕かれた。

唖然とした表情でその場に固まる澪。

 

「お前らもライブ行くんだろ?」

 

「え?うん、行くけど」

 

「あぁ、私も行くぞ」

 

「竜宮小町、早く見たーい!」

 

「じゃ、みんなでライブへ行くぞー!!!」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

と、澪はまだ粘る。

 

「何だよぉ〜、澪ちゃんは竜宮小町を間近で見たくないのぉ〜?」

 

「そ、そりゃ、竜宮小町は見たいけど・・・」

 

「あ〜、はいは〜い、澪ちゃんはマジメちゃんだから練習しなきゃダメなんだよなぁ〜、じゃ〜、私達だけで行くかぁ〜」

 

律はひたすら澪を煽る。

どうやら練習する気など毛頭ないらしい。

 

「折角の機会なのに、もったいな〜い」

 

唯も調子に乗って悪ノリしている。

 

「よーし、じゃ澪は放っといてライブ行くぞー!!!」

 

「竜宮小町ー!!!」

 

「よし、行こうか」

 

「え!?ちょ、おーい!!!」

 

一人残された澪の虚しい叫びを背に、氷川達一行はライブステージへと向かう。

 

「・・・うぅ、私も行くぅ〜!!」

 

・・・かくして澪がパーティーに加わった。

 

 

数分後、第6グラウンド・特設ライブステージ・・・・

 

『Are U ready!!?? Make some Noize!!!!』

 

顔巣学園は約12もの多目的グラウンドを持っている。

第1グラウンドは主に保険体育の授業用、第2グラウンドは軍事科の訓練用、第3グラウンドは体育系の部活用etc…といった具合にそれぞれ使用目的が決まっているのだ。

そしてここ第6グラウンドは主に野外ステージを設営し、ライブ会場として使うのが主な用途だ。

さて、その第6グラウンドに設置されたステージの上、スキー用のゴーグルを被った男がマイク片手にグラウンドの観客を煽っている。

その後ろでは同じくゴーグルを被った5人の男達が、ギターの調弦をしたり、音楽機材に接続したパソコンを弄っている。

彼らはNINJA CORE。

オーストリア出身のEDMコアバンドだ。

 

『C'mon.......JUMP DA FUCK UP!!!!!!』

 

その言葉を合図に、ステージに設置された特大スピーカーから激しいハードコアなサウンドが放たれ、会場のテンションを一気にブチ上げる。

一部では気の早い観客がモッシュピットをしているのが見える。

 

『Leady Go!! Tokyo, Japan!!! We are NINJA CORE!!!!』

 

会場に立ち込める熱気、歓声、そして重い音圧のハードコア。

これが顔巣学園名物・夏祭の始まりである。




用語解説コーナーVol.1

NINJA CORE
ニンジャ軍団を自称する、オーストリア出身のEDMコアバンド。
ポルトガル系ボーカルのExeを筆頭に、ドラムンベースやダブステップを多用した電子音楽を展開する。
メンバーは全員日本マニアだが、日本に来た事は一度もないらしく、今回の夏祭のオープニングアクトが初めての来日。
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