「ねぇねぇ、超電磁砲(レールガン)って知ってる?」・・・御坂美琴
夕刻である。
太陽は西へ傾き、道行く人や家々の影法師が引き伸ばされたように長くなり、どこからかカラスの鳴き声とかが聞こえてくるみたいな時間帯。
この時間帯になると、大抵の学校は放課後だったり補習が行われていたりするのだが・・・・
例に洩れず、顔巣学園も放課後を向かえていた。
午後6時30分、京多は唯とZ組の生徒である新八とともに学校近くの駄菓子屋にいた。
「だいぶ暗くなってるな」
「遅くなる前に帰らないと」
暗くなったため、彼らは帰路を急ぐ。
数分後、彼らは学校前にいた。
「そういえば京多君は寮暮らしだったよね」
「じゃ、今日はこの辺でお開きだな」
「そうだね。それじゃあまた明日」
「ああ、じゃあな」
別れようとしたその直後、学校の方から絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「な、何だ!?」
京多達は悲鳴のあった方へと走って行った。
そこには・・・恐怖でうずくまっている一人の女生徒がいた。
「お、おい、大丈夫か?」
「・・ゆ・・う・・・い・・・・」
「へ?」
「廊下に幽霊が出たのよ!」
この言葉を聞き、京多は少し戸惑った。
―――幽霊なんているはずがない・・・―――
だが、当の女生徒の目は真剣で、とても嘘を言っているものとは思えない、鬼気迫るものだった。
「・・・・まぁ、明日にもルシフェル校長に伝えておくよ」
「わかったわ・・・・ありがとう・・・・」
女生徒は京多と共に寮へ戻った。
唯もそのまま帰路につき、新八も自宅へと急いだ。
数時間後、午後9時20分・・・
その日の夜中、玄野と澪が夜の学校にいた。
「・・・秋山、何で俺まで付き合わなきゃいけないんだよ・・・・?」
「し・・・仕方ないじゃない・・・怖いんだもん・・・」
澪は玄野の腕につかまっていた。
玄野も澪も忘れ物を取りに来たのである。
最初は玄野が忘れ物を取るためにガンツスーツの力でスライド式の鉄製の校門を無理やりこじ開けようとしていたのだが、そこに遅れて澪もやって来て、「一人で行くのも怖いし、一緒に行こう」という事になったのである。
んで、彼らは顔巣学園の中学棟と高校棟の渡り廊下を共に歩いていた。
玄野が懐中電灯で廊下を照らしているため、足元は明るかったが、夜中の廊下は懐中電灯をつけても暗く、いかにも出そうな気配を漂わせていた。
―――夜の学校ッて、マジ怖ぇぇ・・・・―――
玄野はそんな事を胸に呟いた。
まあ、そこが学校だろうが、神社だろうが、墓地だろうが、病院だろうが、夜に行けばどこだろうと怖いっちゃあ怖いのだ。
とは言え、「夜の学校」という言葉から立ち昇る、独特の薄気味悪さってあるよね。
んで、2-R組教室。
澪の忘れ物を回収し帰ろうとした、まさにその時だった。
どこからか、呻き声が聞こえたのだ。
「・・・い・・・・今のって・・・・」
「・・・・ンなわけねーだろ・・・・・?」
玄野と澪の顔に冷や汗が流れる。
すると、再び呻き声が聞こえた。
しかも、今度ははっきりと聞こえた。
「・・・う・・・嘘・・・・だろ・・・・?」
「・・・・・・ああああああ」
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」」
二人は叫びながら全速力で来た道を逆走し、一目散に逃げて行った。
翌朝、2-R組教室・・・
「だから本当に聞いたのよ!変な呻き声を!」
「本当だ!俺も聞いたンだッて!」
んで、翌日。
玄野と澪はクラスの皆に昨日の事を話していた。
「マジかよ・・・信じらんねーな」
話を聞き、土方はこう言った。
他の人に言っても、信じる者はいなかった。
「どうせ夜の学校でニャンニャンしてたんじゃねーのかぃ?」
「・・・なことあるわけないでしょォォォォォ!!」
バカな事を言った沖田の頭頂部にゲンコツを叩き込む澪。
「ていうか、ニャンニャンってどーゆー意味だ!?」
だが、玄野たちの話を聞き、反応しているものがいた。
「幽霊って・・・」
「いや、まさか・・・」
京多と唯は昨日の女生徒が幽霊を見たという話を思い出していた。
「京多君」
「うん・・・計ちゃん、澪、ちょっとその話をしてくれないか?」
「え?おお・・・」
玄野と澪は昨日の事を全て話した。
「へー、そんな事が・・・・いや、実は昨日の放課後、お前らと同じように幽霊を見た女生徒がいたんだ」
「嘘!?」
「マジかよ・・・」
「まあ、最初は嘘だと思ってたけど」
と、そんな中、佐藤田中が教室に入り朝のホームルームが始まった。
「いきなりだが、昨日幽霊騒動があったらしいやな。いたずらした奴がいたら早く名乗り出ろー」
この言葉に2-Rの生徒たちはがやがや騒ぎだした。
「・・・・どうやらこのクラスにはいねーみたいだな。んじゃ、今日伝えることは何もねーからこれで朝のホームルームは終わりだ」
そう言うと佐藤田中は教室から出て行った。
その後、生徒達の間では幽霊の事がしばらく話題となった。
昼休み・・・
「ねぇねぇ、知ってるアルか?この学校の七不思議」
昼休み、R組に来ていた神楽が京多にこう言った。
「いや・・・知らないけど・・・?」
「ちょっと耳を貸すアル」
その後、神楽が京多に顔巣学園の七不思議を教えた。
・教室に響く謎のラップ音
・すすり泣く職員室の霊
・暗黒の黒魔術師
・体育館裏に現れる巨大生物
など、他にもあったが、以上がメインの内容である。
「へー、何か肝試しでもやれそうな話だな・・・」
「お、それいいアルね!」
その後、神楽はクラスの皆に肝試しの企画の事を話した。
ほいで、その夜中。
「皆、集まったアルか?」
神楽は声をかけた。
参加するのは神楽、新八、京多、玄野、以上の面々だった。
「うぅ・・・何か誰かに見られてる気が・・・」
「ちょ、京多君、変なこと言わないでよ・・・」
「何で俺まで参加させられてんだよ・・・」
「ドキドキするアル!!早く幽霊に会いたいアル!」
などと緊張感ゼロの奴、ビビるくせに何で来たんだよという奴が集まった。
するとそんな中。
「あれー?皆も来てたんだー?」
向こう側から放課後ティータイムとガルデモの面々が来た。
「あれ?律達も肝試しか?」
「そうだよー!」
「わわわわわわ私はさ、さ、さ・・・・参加しないって言ったのに・・・・」
「うぅ・・・怖いですぅ・・・」
澪と入江は涙目で訴えている。
どうやら無理矢理連れてこられたのだろう。
「じゃあ、人数も集まった事だし、早速肝試しを・・・」
「何だテメ―ら、夜の学校で何するつもりだー?」
と、ここで2-Z組の担任である銀八がやって来た。
だらしなく着崩した白衣に咥えタバコ、死んだ魚のような目をしている。
「あら、先生まで」
「何だ?肝試しか?」
「ええ、まあ・・・先生はどうして?」
「いや、何かルシフェル校長が今日は宿直っつーからよー、マジで調子狂うわ・・・」
「そうですか」
・・・とまあ銀八も加わって一行は七不思議解明ツアーを始めた。
まず最初は教室に響く謎のラップ音。
「ラップ音って・・・・」
と、ここでガルデモのメンバーであるユイが何故かラッパーの真似をしながら言った。
「チェケラッチョ、チェケチェケラッチョー、の事ですか?」
「いや、ベタ過ぎて逆に美しいわ・・・」
新八はユイをよしよしと撫でてから、説明した。
「ラップ音っていうのは、誰も居ないはずの部屋からガタガタと物音が聞こえる、一種の心霊現象のこと」
「けっ、ラップだかゲップだか知らねーけどよぉ」
と、銀八は不機嫌そうに紫煙を吐く。
「どーせ、ただの音なんだろ?聞こえたとこで怖くもねーや」
「でも、かえってむせび泣きよりも、こういう類の方が質悪くないっすか・・・」
そんな事を言いながら廊下を歩いていた。
最初は何事もなかったが・・・だが、ガタガタと何かが動くような音が聞こえたのだ。
「え?」
「マジ?」
「嘘?」
「今のッて・・・」
誰もが声を上げ、驚いた。
だが、そんな一行にも構わず、音は徐々に大きくなってくる。
しかも最悪な事に、その音は2-R組の教室から聞こえてくる。
「せ、先生・・・・」
一行のうち、R組の生徒達は顔を真っ青にしながら振り返る。
すると、他クラスの面々は即座に踵を返して立ち去ろうとしていた。
「じゃ、ここはR組のお前らに任すわ」
「私達は先に行くネ」
「頑張って下さいねー☆」
「ちょ、ちょっと!」
と、ここで京多は小声でつっこむ。
「ここまで来たのに、やっぱやーめたは無いでしょう!?」
「私、トイレに行ってくるです!!」
「あ、私良い歌詞思いついたから、早く帰ってメモしないと」
「つーか、よくよく考えてみりゃ、今日はジャンプの発売日だったぜ!!」
と岩沢、銀八、ユイが言い、
「♪ソウソウ、俺たちゃ多忙、お前は無謀、行きたきゃお前だけレッツゴー!!」
と、神楽も悪ノリ。
「待て待て待て待て!!!!!!!」
京多は逃げようとする他のメンバーの後ろ襟をふんづかまえた。
「絶対につき合わすからな!!!!!!」
わーったよ、わかったアル、ふぁーい、と渋々言う一行を従えて、京多はR組の教室の前に立った。
京多は教室の引き戸に手をかけ、背後にいる一行に行くぞ?と目で合図を送る。
頷く一同。
一拍の間を置いて、京多は一気に引き戸を開け放った。
『悪霊退散!』
『ICBM!』
『環状線を走り抜けて!』
『東奔西走なんのその!』
『少年少女戦国無双!』
一行はてんでんばらばらに何故か千本桜の歌詞の一節を叫びながら教室の中に躍り込んだ。
そして彼らは見た!!
ラップ音の元凶を!!
「お妙さ~ん」
・・・・とある男子生徒が椅子に頬ずりをしていた。
聡明な読者諸君ならば、もう台詞で分かるだろうが、それはZ組の生徒会・会長、近藤だった。
「お妙さ~ん、んふっ、んふふっ」
「・・・・近藤、お前、何してんの?」
玄野が白い目で近藤を見つめた。
「く・・・玄野?あれ?皆ァ!?なんでここに!?」
「皆で七不思議解明ツアーやってるの」
と、顔色一つ変えないで唯がゴリラに言った。
「・・・で、オメーは何やってんだ?」
銀時が静かな口調でバカゴリラにこう聞いた。
「あ・・・・あのえと・・・・これは・・・その・・・・・実は俺、将来椅子を作る職人になりたくて、その、材質チェックを・・・・」
冷や汗をかきながらクソゴリラは弁解する。
「・・・へー、材質チェック、ねぇ。ほっぺで?」
「はい、ほっぺで。ほっぺが一番木目の風合いを感じやすいんですよ」
「いやいや、近藤君よ」
銀八はそう言いながら手近な椅子を一つ持ち上げた。
「材質チェックってのはな、ほっぺじゃなくて頭でするもんだろう?」
「・・・は?あ、頭って・・・・」
と、うろたえる近藤の顔面に、
「材質チェケラ!!!」
と、銀八は椅子を思い切り振り下ろした。
ガツンという音のあと、ゴリラはぎゃんと悲鳴を漏らし、その場に倒れ伏した。
それに続いて新八、神楽、京多、玄野、ユイ、律の容赦ないストンピング攻撃が始まった。
新八『ざっけんなっ!!』
神楽『死ね、ボケェッ!!!』
ユイ『なーにがラップ音じゃコラァ!!!』
京多『死ねぇっ!!月面探査船に轢かれて死ねぇっ!!!!』
律『このド変態ゴリラ!!!!!』
玄野『切り刻まれて、ホルマリンの中で××でも掻いてろ、ブタがぁっ!!!!』
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
・・・・・と、まあ、こうして七不思議は一つ解明されたのであった。
「次は職員室か・・・・どうせまたしょーもねーオチだろー?」
今さっきの変態ゴリラ騒動のせいで怪談オーラゼロの銀八が言った。
他のメンバーもあんなものを目にしたので何かが吹っ切れているようだ。
「・・・んで、案の定職員室から声が聞こえてるけどよー」
確かに職員室からは泣き声が聞こえていた。
その後、肝試し組は何にも恐れずに職員室へ向かった。
「開けっぞー」
銀八は普通にドアを開けた。
で、目にしたのは・・・・
「う・・・・・うう・・・うっ、ううう・・・・」
「・・・・何やってんスか、服部先生」
そこでは銀八の同僚で、日本史教師の服部全蔵が座薬を入れていたのだ。
キャスター椅子の上で膝立ちになり、おまけに下半身むき出しでケツをこちらに向け、手には座薬をつまんでいる。
銀八たちの存在に気付き、服部は振り向いた。
「あ、坂田先生。どうしたんだ?アンタも痔かい?」
「いやいや、なわけねーだろうが、何やってんだよこんな時間に」
「いや、実は座薬を入れようと思ってだな。もう痛くて痛くてタマんねーんだわ、イボ痔が」
腹が立つほどに呑気な声で、服部は言う。
「いや、そんなもん、家で入れりゃーいいでしょう!?」
と、京多は当然の指摘。
「まあ、そりゃそーなんだけどよー、実は俺、痔の事は家族に内緒にしてんだよね、だから座薬も職員室に置いてあんのよ」
「それで?」
と、後を銀八が引き継ぐ。
「夜中に職員室で、人知れず泣きながら座薬挿入ってか?」
「いやぁ、驚かせてすまんすまん」
と、相変わらずケツを出したまま詫びる服部に、
「別の意味で驚いたわァァ!!!!!」
銀八は服部のケツに思い切りキックをかました。
服部はケツをむき出しにしたまま壁にドガシャアと激突。
床に倒れたイボ痔野郎に、暴力担当の6人がストンピングの嵐を降らす。
神楽『死ね、ボケェ!!』
新八『汚ねーケツさらしてんじゃねえぞ!!!』
ユイ『なにがむせび泣きだ、コラァ!!!』
律『驚いて損したわ!!!』
京多『バカかテメーは!!!』
玄野『つーか、テメーのケツにゃ座薬じゃねえ、Xガンぶち込んでやらぁッッ!!!』
「わ、ちょ、馬鹿!ほんとに入れるな!!Xガンだけは勘弁して!!!それ、痔だけならまだしも内臓ごと破裂するから!!!!」
しかし、服部の抵抗むなしく、玄野は服部のケツの穴にXガンを突っ込み、そのまま容赦なく引き金を引いた。
青白い光と共にギョーンという音が鳴り響く。
一瞬の間を置いて、
「・・・・ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
服部の絶叫が夜の学園内にこだました。
「・・・で、次は?」
「暗黒の黒魔術師アル」
とんでもなく馬鹿げたものを二回見た事で、やる気と恐怖感が完全になくなった銀八が神楽に聞いた。
他のメンバーもやる気がない。
いつもは生き生きとしている唯の目も今は死んでいる。
京多に至っては自前のiPhone5でPodcastを聞いていた。
で、彼らは調理実習室前に立っていた。
「またどーせ変なオチだろ?」
言いながら銀八は扉を開けた。
と、そこでは土方が何かを作っていた。
「・・・・土方、お前何やってんだ?」
「新種のマヨ作ってるんです」
「あ、そ」
そのまま皆は土方を無視して教室を出て行った。
「次」
「体育館裏に現れる巨大生物アル」
もうみんな元気がない。
何か怖いものかと思ったのだが、今日目撃したのは幽霊ではなく、バカ共によるバカな光景であったからだ。
「へんっ、どーせ定春だろ?」
「ヘドロ君・・・じゃないよね・・・?」
「ま、まさかぁ・・・・」
なんて会話をしながら体育館裏にやって来た一行だが、そこにいたのは・・・
『あら、みなさんこんな時間にお揃いで』
そこには天然オイルをあおっているタチコマがいた。
ちなみにタチコマとは元々は公安9課所属(所有?)の高機能AI搭載型多脚戦車であり、現在は家出中ということで顔巣学園に身を寄せているのだが・・・
その子供っぽく、人懐っこい性格と丸っこい外見も助けて、女子生徒からの人気が高く、特に中等部の生徒たちからは何故か学園の守り神扱いされている存在である。
「あ、タチコマだー♪」
唯が思わず黄色い声を上げる。
『でも、何でみんなここにいるの?』
「七不思議解明ツアーをやってるんだよ」
唯が理由を教えた。
タチコマは「へー」と言った後、さして興味もない様子で再び天然オイルをあおり始めた。
「・・・え、興味なし?」
タチコマに新八がこう言った。
『だって、七不思議なんて所詮は誰が流したかも分からない噂でしかないんでしょ?』
と、タチコマは超正論。
この一言に一行は言葉を無くす。
『実際に見た事もないような事象を、さも本当にあった事のように言って、勝手に怖がるなんて、人間って不思議だなぁ』
―――いや、まあ、そりゃ・・・・そうだけども・・・・―――
そうなのだ、全くタチコマの言う通りなのだ。
タチコマが機械であり、そういった非科学的な事は一切信じない、というよりかは信じられないというのもあるが、実際、今まで自分達が見てきたものは全てバカ共のバカ共におけるバカな光景ばかりだったのだから。
「・・・それもそうアルね・・・・」
「俺ら、何してんだろ・・・」
「馬鹿だよなぁ、こんな夜中にわざわざ学校来て、ありもしない事を探そうだなんて・・・」
「何か・・・空しいな・・・・・」
「・・・・・これで解散するか」
「うん・・・そうだね・・・・」
かくして、タチコマの鶴の一声(?)で完全にやる気を無くした一行はそれぞれの家路に就いた。
だが、幽霊騒動は完全に終わったわけではなかった。