顔巣学園の平凡な超常   作:アカシックレコード

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「過去も未来も存在せず、あるのは現在と言う瞬間だけだ」・・・トルストイ

「私にはつい昨日の出来事だが、君達にとっては多分、明日の出来事だ。」・・・ルシフェル

「大丈夫だ、問題ない。」・・・イーノック


第7話:よんでますよ、ルシフェルさん

顔巣学園・校長室・・・

 

諸君、私だ。

何?お前は誰かって?

それは昨日言ったはずなんだがな・・・あぁ、すまない、君達にとっては明日の出来事だったな。

では改めて。

私の名はルシフェル、天界に生くる全ての神仏修羅の使い・・・要するに天使の事だが・・・とにかく、私はそんな彼らを取り仕切る大天使だ。

ちなみにこれは余談だが、私は大天使であると同時に人間界に存在する、とある学園の学園長でもある。

・・・今度は何だ?何で私のような大天使が人間が通う学園の主をしているのか知りたいだと?

・・・・まぁ、それについては話せば長くなる。

どんなに多く見積もっても、全てのいきさつを話し終えるのには、諸君らの人生において約半分の時間を無為にするだろうな。

 

「ルシフェルよ、さっきから何をぶつくさ言っておるのじゃ〜?」

 

おや。

いつの間にやら現れたのだろうか、私の背後にバイト制という名目でこき使われるはずが、全然仕事をしようともしない、別に居ても居なくてもどうでも良い、我らが愛すべき・・・

 

「お主、全部丸聞こえじゃぞ!!!!!」

 

 

 

小間使いの悪魔ムルムルは一応の雇い主であるルシフェルの頭にハリセンで突っ込みを入れる。

 

「おぉ、痛い。雇われの身で主を叩くとは」

 

と、ルシフェルは頭をさすりながら呑気に言う。

 

「ならワシの悪口を最初から抜かさぬことじゃ、全く!!」

 

プンスカという擬音を立てながらムルムルは続ける。

 

「第一、最近のお主はワシを蔑ろにしすぎなんじゃわい!!!」

 

「はて?私はいつも通りに接しているつもりだがな」

 

と言うルシフェルは片手にスマホを持ち、メールに大忙しのようだ。

 

「言ったそばからそれか!!??」

 

ムルムルはルシフェルの手からスマホをひったくる。

 

「人の話を聞く時はケータイを使うでないわ!!!とにかく、お主はワシを蔑ろにしすぎなのじゃ!!!」

 

「うむうむ、そうか」

 

しかし、当のルシフェルはどこから出したのか、折り畳み式ケータイで再びメールをしていた。

 

「だ・か・ら、それを止めぬか!!!」

 

ムルムルは再びケータイをひったくり、即座に真っ二つに叩き折る。

 

「いい加減、ワシに同じ事を言わせるのをやめい!!!全く、あのデウスでもこんな仕打ちはせんかったわ!!!」

 

「ああ、すまない、以降は気をつけよう」

 

と、ルシフェル校長、今度はiPod Touchでメールに勤しんでいる。

 

「・・・メールなんかして楽しいか?」

 

ムルムルは呆れたように問う。

 

「少なくともお前の説教を聞くよりかはマシだな」

 

「・・・もう良いわい、ワシは遊びに行ってくるぞい」

 

と、拗ねたように言うと、ムルムルは紫の煙と共にその場からかき消えた。

 

「やれやれ、やっと行ってくれたか・・・」

 

ルシフェルは座っていた座椅子から身を起こす。

 

「そう言えば、もうすぐ夏祭だったか・・・」

 

軽く伸びをしながらそんな事を呟くルシフェル。

夏祭とは、顔巣学園が7月後半から8月の序盤まで開催する、一足早い文化祭の事であり、一応は普通の10月に行われる文化祭も存在する。

だが、この夏祭は文化祭よりも最高に盛り上がると学内での評判も上々であり、当日には多くの来場者と露店で校舎が埋め尽くされる、生徒達にとっても、教員達にとっても、一大イベントなのだ。

 

「気分転換も兼ねて生徒達の様子を見るとしようか・・・」

 

そう思い立つとルシフェルは天高く左腕を掲げ、指鳴らしをした。

パチン、という凛とした音が鳴り響いた直後、ルシフェルの姿は校長室から消えていた。

 

 

顔巣学園・ごらく部部室・・・

 

「違う違う、そこはもっと右だ!」

 

「え〜、こ、こう?」

 

「あ、ちょっと左にずれたな」

 

一方その頃。

顔巣学園の東京ドーム5個分の広さを持つ広大な敷地内に、それなりに堂々とした茶室がある。

そこは本来ならば、茶道部が使っているのが自然なのだが、実はこの学園には茶道部は存在していなかったりする。

じゃ、何でわざわざ茶室なんか作ったんだ?と言う奴がいるかもしれない。

・・・まぁ、早い話が建築業者の早とちり、とでも言っておこう。

さて、そんな茶室は現在はごらく部という部活が部室の代わりに使っているという状況なのだが・・・

現在その茶室ではごらく部の部員達による夏祭への準備の真っ最中であった。

 

「ん〜、じゃ、こう?」

 

部屋の梁に花飾りを貼りながら、栗色のロングヘアの少女---歳納京子---が問う。

 

「あー・・・うん、OK」

 

そして、その問いに黒髪のショートへアの少女---船見結衣---が応える。

 

「それにしても、まさかごらく部が正式な部活発表に乗り出すとはねぇ〜」

 

首につっかけていたタオルで頬の汗を拭きながら京子は言う。

 

「まあ、たまにはこう言うのも悪くはないと思ってな」

 

「へぇ〜、何か意外」

 

「何だ、私がやる気になるのがそんなにおかしいか?」

 

と、目の端を少し吊り上げながら結衣が言う。

 

「いや・・・別にそーゆーわけじゃないけど・・・そう言えば、ちなつとあかりは?」

 

京子はさりげなく話を逸らす。

 

「あぁ、あの二人なら今購買に行ってる。確かアイス買ってくるとか言ってたな」

 

「ひょー!アイスキター!!!」

 

アイスが好きなのか、途端にテンションが上がる京子。

 

「ラムレーズンかな?ラムレーズンかなぁ?」

 

「さあな、でもあったら良いな」

 

なんて呑気な会話を交わしていると・・・

 

「よぉ、準備は順調のようだな」

 

部屋の奥にある額縁からまるで忍者のようにルシフェルが現れた。

 

「あ、校長先生」

 

「ちわでーす!」

 

ルシフェルが何で額縁から現れたのか、という所は特に突っ込まず、結衣と京子の二人は気軽に挨拶する。

 

「校長先生が来るなんて、珍しいですね?」

 

「ああ、ちょっとした生徒観察・・・もとい夏祭に向けての準備具合を見て回っているんだ」

 

「へぇー、暑い中大変ですね〜」

 

「うむ・・・そうそう、暑いと言えば、今年の夏は気温が40℃を超えるそうだ。君たちも熱中症にはくれぐれも気をつけてくれ」

 

「「はーい」」

 

と、ルシフェルの忠告に声を合わせて返事する二人。

 

「ただいまです〜」

 

「外暑〜い」

 

すると、購買部に行っていた二人が帰って来た。

 

「アイス買って来ましたよ結衣先ぱ・・・あ、校長先生」

 

購買部のビニール袋を持ったピンク色の髪をツインテールに結わえた少女---吉川ちなつ---がルシフェルを見て言う。

 

「こんにちわー、校長先生」

 

それに続いて赤い髪をお団子状にまとめた少女---赤座あかり---がルシフェルに挨拶する。

 

「あぁ、君達も相変わらずのようだ」

 

「校長先生は何でここに?」

 

ちなつがアイスの入ったビニール袋をそこにあったテーブルに下ろしながら言う。

 

「夏祭の準備確認だ」

 

ルシフェルは答える。

 

「今年の夏祭は来場者の数が半端ではなかったからな・・・」

 

「へぇー」

 

「・・・と言うか校長先生、何で来場者の数なんて分かるんですか?」

 

「む?あぁ、そうか。君達にとってはこれから来たるべき出来事だったな」

 

と、ルシフェル。

ルシフェルはどうやら時間感覚がめちゃくちゃのようだ。

まぁ、時間を自由に移動できる者だから当たり前なのだろうか。

 

「ところで、君達ごらく部は夏祭では何を?」

 

「この部室を使って、小さいですけどカフェをするんですよ」

 

今度はあかりが言う。

 

「そうか、客が沢山来ると良いな」

 

ルシフェルは爽やかに笑みながら言う。

 

「さて、私はこの辺で行くとしようか」

 

「あ、校長先生もアイス一つどうですか?」

 

すると、茶室を出ようとするルシフェルに結衣がアイスバーを一本勧めてきた。

 

「外も暑いですし、校長先生みたいに黒服だと熱中症で倒れちゃいますよ?」

 

「あぁ、その点については問題ないよ」

 

と、ルシフェルは着ていたシャツの裏地を見せた。

それは外見からでは分かりにくいが、どうやらメッシュ素材でできているらしい。

 

「でも、黒は熱を吸収しやすいって言いますし・・・」

 

「む・・・そうか、なら頂いておこう」

 

言いながらアイスバーを一本手に取るルシフェル。

 

「では、夏祭に向けて頑張ってくれたまえ」

 

『はーい』

 

ごらく部員の返事を背に、ルシフェルは茶室を後にした。

 

 

顔巣学園・高校棟2-R組教室・・・

 

所変わって、2-R組教室・・・・

そこでもやはり、生徒達による夏祭へ向けての準備が着々と進められていた。

R組の生徒達が作業する中、我らが主人公・氷川京多の姿もそこにあった。

頭にはタオルを巻き、看板か何かに使うのだろうか、大きな木板をノコギリで切断している。

 

「ふぃー・・・」

 

やっと切り終えた木板を手近な机に置き、再び新しい木板を切る作業にとりかかる。

 

「よぉ、大変そうだな」

 

と、日向が氷川にエナジードリンクを投げてよこす。

 

「あぁ、サンキュー・・・」

 

タオルで汗を拭い、エナジードリンクをあおる氷川。

 

「少し休憩するか?」

 

「あぁ、それもそうだな」

 

言いながら氷川は持っていたノコギリをそこに置いた。

 

「しかし、今年の夏もクソ暑いな・・・」

 

「まあな・・・おかげさまで戦線の皆も夏バテ状態だったぜ」

 

「マジかよ・・・」

 

他愛も無い会話を交わす氷川と日向。

すると・・・

 

「日向君、いるかしら?」

 

仲村ゆりが日向を呼びに教室へ入って来た。

 

「おぉ、どうしたんだよゆりっぺ?」

 

「ギルドに例の物が届いたそうだから、取りに行ってくれるかしら?」

 

「えー、それもかよぉ!?」

 

日向は勘弁してくれ、とでも言うように首を振る。

実は先ほどまで日向は戦線本部がある旧校長室から戦線の武器製造機関であるギルドとの間で物資の運搬をしていたのだが・・・

ギルドの地下工場へはかなり面倒なルートを辿らなければならないのだ。

 

「俺じゃなくても他の奴に任せれば・・・」

 

「残念だけど、他の皆は各々の仕事が忙しいみたいでね」

 

「いやいやいや、さっきまで本部とギルドの間を何度も往復してた俺の身にもなってくれって・・・」

 

日向は文句たらたらである。

 

「しかも、あのルートは対天使用の即死トラップが仕掛けてあんだぜ?」

 

「あら、大丈夫よ。ちゃんと解除してもらったから」

 

と、ゆりはニコニコと笑いながら言う。

 

「本当かよ…まぁ良いわ、んじゃ行きますか…」

 

日向は気だるそうに立ち上がった。

 

「何だ?また汚れ役を押し付けられたのか?」

 

氷川は空になったエナジードリンクの缶をゴミ箱に放りながら尋ねる。

 

「あぁ、戦線で使う物品が届いたらしい」

 

「ほぉー」

 

 

---まぁ、戦線で使うんだったらきっとロクなもんじゃないよな…---

 

 

氷川は心の中でそんな事を思う。

 

「ところでさ、氷川」

 

「何?」

 

「ちょっと手伝ってくれたりする?」

 

「嫌だ」

 

氷川はポーカーフェイスで冷淡に言い放った。

 

「えー、そう言うなよぉー」

 

「つか、そもそも何で俺なんだ」

 

他に誘える奴なら戦線メンバー以外にもたくさんいるだろうが、と氷川は指摘する。

 

「その他に誘える奴らは皆忙しいんだっつの!マジで頼むよぉ、氷川ー」

 

と、手を合わせて氷川に頼み込む日向。

 

「…あー、もう分かったよ…手伝えば良いんだろ、手伝えば…」

 

「マジっすか!?」

 

「あぁ、その代わりの交換条件に応じるんならな」

 

氷川は偉そうに人差し指を立てながら言う。

 

「何だよ、言ってみろよ」

 

「…今月の昼食代、貸してくれたりとかする?最近、空前絶後の金欠病でさぁ…」

 

「……」

 

 

---何か、俺と氷川の立場入れ替わったな…---

 

 

そんな事を思う日向であった。

 

 

顔巣学園・忍者部部室…

 

 

「ナイスでーす、ナイスですねぇー」

 

所変わって顔巣学園の部室棟…

非公認のものも含めると約50はあるとされる顔巣学園の部活。

顔巣学園の広大なグラウンドのすぐ横には、そんな部活の部室が全て存在する巨大な部室棟がある。

そして場所は2Fにある忍者部部室。

ここはかつて実在していた忍者部という部活が使用していた部室で、現在は空き教室になっているのだが…

たまに一部の生徒達が勝手に使っており、基本的には多目的室と化している。

 

「何で私がこんな事を…」

 

と、金髪をツインテールに結わえた殺し屋の少女・ソーニャが不満げに呟く。

 

「ソーニャさん、お似合いですよぉ〜」

 

と、ソーニャの先輩であり、現役くのいちの呉織あぎりがフォローを入れた。

ちなみにこの時、ソーニャもあぎりも何故か猫耳カチューシャにメイド服の格好をしており、その傍らではソーニャの自称・友達である織部やすながカメラのシャッターを切りまくっていた。

 

「ナイスでーす、ナイスでーす…」

 

「…やすなはいつまで写真撮ってるんだ?」

 

「あ、ソーニャちゃん、ちょっと右向いてみて!」

 

するとやすながカメラを持った姿勢のまま、ソーニャに言う。

 

「へ?こ、こうか?」

 

意外に生真面目なソーニャは一応それに応じる。

 

「良いよぉ、良いよぉ!ナイスでーす、ナイスどぇーす!!!」

 

ソーニャがポーズを変える度にやすなはシャッターを切りまくる。

 

「それじゃー、次はブラチぐふぉぉ!?」

 

やすながソーニャに扇情的なポーズをリクエストしようとした瞬間、ソーニャの拳がやすなの鼻っ柱にめり込む。

 

「良い加減にしろ!!誰がそんなのやるか!!!」

 

怒鳴りながらやすなのカメラを破壊するソーニャ。

 

「うぇぇぇ…だって、だってぇ」

 

「と言うかさっきから気になってたんだが、何でこんな格好で写真なんか撮る必要があるんだ!?」

 

と、ソーニャが猫耳カチューシャを無理矢理外していると…

 

「メイドカフェは開店前につき準備中〜、という訳だな」

 

鼻歌交じりに唄いながらルシフェルが部室に入って来た。

 

「あら〜、校長先生ではございませんかぁ〜」

 

と、あぎりがのんびりとした声で言う。

 

「あ、校長先生だー!」

 

「あぁ、校長か…」

 

と、ソーニャとやすなもあぎりの後に続く。

 

「夏祭の準備はどんな具合だ?」

 

「はい!もう凄く順調ですよ!!」

 

やすなはどこから出したのか、新しいカメラを構えて言う。

 

「このままたくさん写真を撮って、あぎりさんとソーニャちゃんのグラビアをぐべらっ」

 

と、今度はやすなの顔面にソーニャの鋭い蹴りが入る。

 

「お前の目的はそれか!!!」

 

「うぇぇぇ…だってぇ…その方が売れるし、お客さんもたくさん来ると思ったから…」

 

「ははは…まぁ、準備はそこそこと言った所か」

 

ルシフェルは苦笑いしながら言う。

 

「と・に・か・く!!私はグラビアなんかやらないからな!!!」

 

「えぇ〜、ホントは写真に映るのが恥ずかしいだけなんじゃないの〜?」

 

と、やすながニヤニヤしながら言う。

 

「そんな訳無いだろう」

 

ソーニャは半ば呆れた口調で言う。

 

「それに私がグラビアなんかやったら、敵組織に顔が割れる事になるだろうが」

 

そう、ソーニャは女子高生にして、とある暗殺組織に所属する殺し屋だったりする。

それ故にグラビア等の表立った行動は出来ないのだ。

 

「それについては問題無いよ」

 

と、ルシフェルは爽やかに笑みながら言う。

 

「君の所属する組織の敵対勢力の動向は把握済みだ」

 

「でも、それだけでは…」

 

殺し屋としての勘からか、ソーニャはルシフェルの言う事があまり受け入れられないようだ。

 

「私を誰だと思っている?君達の校長であると同時に大天使なんだ。」

 

しかし、ルシフェルは余裕綽々と言った風で笑んだ。

 

「大丈夫、君の悪いようには絶対にしないよ」

 

「校長…」

 

ソーニャは嘆息を漏らす。

 

「じゃ、私はそろそろ行くとしようか」

 

ルシフェルは言いながら教室を出た。

 

「行ってらっしゃいです〜」

 

その後ろ姿を見送りながら、あぎりが実にのんびりとした声で言う。

 

「さぁ、ソーニャちゃん!校長先生のお墨付きも頂いた所で、早速グラビア撮えごへっ」

 

言いながらカメラを構えた所で顔面にソーニャの肘がクリティカルヒットし、卒倒するやすな。

 

「同じ事を何度も言わせるな!!私はグラビアなんかやらないからな!!!」

 

 

顔巣学園地下・ギルド連絡通路A1…

 

 

「何だよ、荷物って結局これの事だったのか?」

 

「あぁ、案外普通だろ?」

 

氷川と日向は段ボール箱を抱えながらギルドから地上への通路を共に歩いていた。

ちなみにギルドに届けられていた荷物というのは風船とマジックテープという極々普通の物資であり、氷川の想像していた物とは全く違う物だった。

 

「つか、最初はどんな物だと思ってたんだ?」

 

「いや…戦線の事だから武器とか弾薬かと」

 

氷川は額の汗を拭いながら言う。

実際、ギルドでは新しい武器開発という名目で世界各国の銃器メーカーから技術提供や試験品の納品を行っていたりする。

また、過去にはとある軍需品メーカーからの技術提供で二足歩行戦車の開発もしていたようだ。

 

「まぁ、この程度の荷物なら直接本部に送ってくれればありがたいんだがな…」

 

日向は首をコキリ、と回しながら言う。

 

「あ、そう言えば…」

 

と、氷川が何気無く言う。

 

「ゆりの言ってた即死トラップって、結局何なんだ?」

 

「あぁ、それは…」

 

日向が説明しようとした、まさにその時…

 

『緊急事態発生、緊急事態発生』

 

通路に突如としてサイレンと警報音が鳴り響く。

 

「な、何だ!?」

 

「まさか…天使が!?」

 

日向は段ボールを放り出し、ブレザーの胸ポケットから無線機と拳銃を取り出す。

 

「おい!?チャー!?」

 

『おぅ、日向か』

 

無線機からギルドのリーダー-チャー-の声がする。

 

「いきなり警報が鳴ったんだが、何があったんだ!?」

 

『あぁ、軽い点検さ。何、トラップは作動しないから安心しろや』

 

「な、何だよ〜、そう言う事は先に言えっての!!」

 

日向は呆れると同時に胸を撫で下ろす。

 

『はっはっはっ、すまん、すま……ん?』

 

と、ここでチャーは深刻な口調に変えて言った。

 

『お前ら、今すぐにその場から逃げろ』

 

「は?何だって?」

 

チャーの突然の忠告に戸惑う日向。

 

『良いから、とにかく今すぐに地上へ上がるんだ!!良いな!?』

 

「えっ?おい、そりゃどう言う意味だよ!?」

 

日向が無線機の向こうのチャーに問うた、その瞬間だった。

 

「お、おい、日向、ありゃ何だ…?」

 

日向の背後で氷川の声がする。

 

「あーもう、今度はなんだ!?」

 

言いながら振り返る日向。

そこには何故か顔を青くして硬直している氷川がいた。

 

「どうしたよ、顔真っ青だぜ?」

 

「う、う、う、うし、しろ、ろ」

 

と、氷川は真っ青な顔のままで今しがた通って来た通路の奥を指差す。

 

「は?後ろ?」

 

怪訝な顔をしながら氷川が指差した方を見る日向。

そこには……

 

「………何で?」

 

「………何ででしょうねぇ……」

 

……大量の水が、こちら目掛けて大挙として押し寄せて来ていたのだ。

 

「……日向」

 

「……氷川」

 

二人は互いに顔を見合わせ、そして頷き合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

『逃げろォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!』

 

 

顔巣学園・音楽室…

 

 

「ふむふむ、そうか。では今年の夏祭は澪がボーカルなんだな?」

 

「はい!もう今から楽しみですよぉ〜」

 

一方、ルシフェル校長は音楽室にて軽音部の面々と優雅にお茶会をしていた。

 

「普段は恥ずかしがり屋な君がボーカルを志願するとは、随分と成長したな、澪」

 

「ち、違いますってば!!それに私は…」

 

「うっそだ〜、みーおしゃーん」

 

と、律は澪の隣でニヨニヨと笑む。

 

「ホントは計ちゃんに振り向いてもらいたいんだろぉ〜?」

 

「ち、ち、違ぁーーーーーーーう!!!!!!!!!」

 

澪は顔を真っ赤にしながら絶叫する。

 

「大体それは律やしおりが勝手に決めたんだろうが!」

 

「あーれぇー?私そんな事言ったっけぇー?ねぇ、しおりん?」

 

律はその隣にいた関根に問う。

 

「うーん、私も記憶に無いなぁー」

 

関根も全く覚えが無いよ、とばかりにわざとらしく首を傾げる。

 

「くっ……二人とも覚えてろよぉ……」

 

まるで熟れたトマトのように真っ赤になる澪。

 

「まぁ、動機はともあれ、一つのバンドのボーカルを務めるのは大変な事なのだろう?」

 

「は、はい…」

 

澪は僅かに頷き、溜息を漏らす。

 

「クラスの皆に見られるし、お客さんもたくさん来るし……それに計ちゃんにだって………とにかく自信無いですよぉ…」

 

「…成程、今の君はそう考えているのか」

 

だがな、と、ルシフェルがここで人指し指を立てて言った。

 

「未来の君は、果たしてそう考えるだろうか?」

 

「…へ?」

 

ルシフェルの問いに顔を上げる澪。

 

「確かに君は人見知りが激しいし、所謂恥ずかしがり屋ではある。だが、時にはそれを乗り越えてでも成し遂げなければならない事があるんじゃないか?」

 

「………」

 

「人間というものはどうしようもない程に複雑で、そして愚かなまでに単純な生き物だ。頭ではどんなに出来ないと思っている事でも、一度やる気を出せば成し遂げる事は至極簡単なんだよ」

 

ルシフェルは紅茶を啜りながら続ける。

 

「そしてそれは人間を更なる高みへと導くのだ…これはまさしく、最初から人類が持って生まれた一つの叡智とも言えるだろう」

 

「……校長先生」

 

「今はまだ怖いかもしれない、だが、己を信じて一度やってみる事だ。そうすればきっとうまくいくだろう」

 

「おぉ…何この説得力…」

 

「てっつがくぅ〜」

 

後ろで話を聞いていたひさ子と律が呟く。

 

「…はい、私、頑張ってみます!」

 

ルシフェルの言葉に勇気づけられたのか、澪は顔を上げた。

 

「あぁ、私も応援しているよ」

 

と、ルシフェルが優しい笑みを浮かべたその時、

 

 

『いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 

午後の静かな時間を引き裂くが如く、音楽室のちょうど外の方で少年二人の絶叫と共に何かの破砕音が大音声で響き渡る。

 

「うぉっ!?」

 

「な、何だ何だ!?」

 

「ひょっとして、爆弾テロ!?」

 

「ひぃぃっ!!怖いよぉぉ!!」

 

驚いた律、岩沢、唯、澪が窓際に駆け寄って外を見る。

 

「一体何事だ?」

 

ルシフェルもそれに続いて外を見た。

そこにいたのは……

 

 

「…何をしてるんだ、あいつらは…」

 

「…さ、さぁ…」

 

 

何故か全身水浸しでコンクリートの上に伸びている氷川と日向だった。

 

「あの…あれって氷川先輩と日向先輩ですよね…」

 

梓がそう呟く。

 

「…でも何で二人とも何で水浸しなんだろ」

 

「さ、さぁ…」

 

軽音部のメンバーとルシフェル校長の間に何とも言えない空気が流れる。

 

「…あら、大変!」

 

と、ここで紬が何かを思い出したかのように声を上げる。

 

「あのままだと氷川君も日向君も風邪を引いちゃうわ!!」

 

そう言うが早いか、紬は大急ぎで音楽室を出て行った。

 

「あっ、ムギちゃん…」

 

「行っちゃったな…」

 

残された軽音部員とルシフェル校長は紬の後姿を呆然と見送っていた。

 

「…まぁ、あの二人は紬が何とかしてくれるだろうな」

 

と、言いながらルシフェルは座っていた椅子から立ち上がる。

 

「君達もそろそろ練習に専念した方が良いだろう。夏祭を盛り上げる為に、君達も頑張ってもらわねばならないからな」

 

「まぁ、そうですよね」

 

ルシフェルの言葉に梓が応える。

 

「紬が戻って来たら練習再開するか」

 

言いながら岩沢は壁にかけていたギターを取り、調弦を始める。

 

「おし!気合入れて行くぞぉ!!」

 

律もスティックを握り、気合を入れる。

 

 

---…さて、私もそろそろ行くか---

 

 

ルシフェルも部員達の邪魔にならぬよう、胸の内で呟きながら軽音部の部室を後にした。

 

 

顔巣学園・ビオトープ

 

「ゔぅ……」

 

「いっでぇ……」

 

一方、その頃…

氷川と日向はビオトープのコンクリートの上で大の字に伸びていた。

 

「…チャーの野郎、謀ったな……」

 

日向が息も絶え絶えに言う。

 

「…だから俺はお前に付き合いたくなかったんだよ……」

 

口の中に残った水を吐きながら氷川は呟く。

 

「…俺のお陰でこんな目に遭ったってか?」

 

と、日向は自嘲気味に笑う。

 

「あぁ、そうだよ、こんなのはもう御免だよバカヤロー」

 

そう言いながらも氷川はニヤッと笑う。

 

「は、はははは…」

 

「あはははは…」

 

そして何故か意味無く笑う二人。

暑い真夏の日差しが照りつけるビオトープに、男二人の情けない笑い声が虚しく響いた。

 

「…そう言えば荷物は?」

 

ひとしきり笑った後、日向は氷川に問う。

 

「……流されてった」

 

「…マジで」

 

「あんな水流に呑まれたらしゃーねーじゃん」

 

「…まぁ、そうだな」

 

そんな事をつらつらと言っていると…

 

「あ、氷川くーん、日向くーん」

 

部室棟の方から紬がスタスタとこちらに向かってくる。

 

「あぇ?む…ムギ?」

 

「二人とも大丈夫ですか?」

 

言いながら紬は腕に掛けていたタオルを二人に渡す。

 

「お、おぉ、何とかな」

 

「俺も少し目が回ってるがまぁ、大丈夫だ」

 

「それは良かったです〜」

 

紬はほっとしたように言った。

 

「にしても、ホントに俺ってツイてないぜ…」

 

タオルで顔面を拭きながら氷川がぼやく。

 

「と言うか、何で水浸しで倒れてたんですか?」

 

と、紬が氷川に尋ねる。

 

「あぁ、何かよく分からないけど、後ろからいきなり水流が来て、それに呑まれて、溺れかけて、んで気づいたらここで伸びてた」

 

氷川は一息に今まで自分が置かれて来た状況を説明した。

 

「あ、あぁ…それは大変でしたね…」

 

紬は氷川の説明が理解できないのか、それとも氷川と日向の受難に返す言葉が無いのか、微妙な返事をした。

 

「まぁ、こうして生還したわけだ、別に問題ないよ」

 

「荷物は流されてったけどな…」

 

「そうですか…でも二人が無事で何よりです!」

 

そんな事を言い合っていると…

 

「おーい、ムーギー」

 

部室棟の軽音部室から律の声が聞こえる。

 

「練習再開するから早く戻って来い〜」

 

「え、でも氷川君と日向君が…」

 

紬は氷川と日向の方を心配そうに見る。

 

「あ、俺らの事は良いよ」

 

「どうせ後は教室に戻るだけだしな」

 

と、氷川と日向は言う。

 

「え、でも…」

 

「大丈夫、大丈夫、俺身体だけはマジで頑丈だから」

 

日向はニッと笑う。

 

「それに軽音部は夏祭でライブするんだろ?だったら俺らに構うより練習した方が良いぜ」

 

「そうですか…分かりました、二人共風邪には気をつけて下さいね」

 

そう言うと紬は走って行った。

 

「さて…」

 

「御隊長様に挨拶でもしに行くか?」

 

と、氷川は茶化すように言った。

 

「冗談はよせや、事情説明しても殴り飛ばされるだけさ」

 

日向は苦笑いしながら立ち上がった。

 

「まぁ、とりあえずは一旦教室戻るか…」

 

「…そーだな」

 

氷川と日向は身体中の至る所から水滴を滴らせながら、2-R組教室を目指して歩き出した。

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