「私はメロンパン一択。」・・・シャナ
「はぁ、そうっすか・・・」・・・志村新八
「あんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱ(ry」・・・山崎退
「お前は少し黙れ!!」・・・氷川京多
第8話:祭りの始まりは結構静か
顔巣学園・正門・・・
「あーぢぃ・・・」
頭から滝のような汗を流しながらそんな事を呟くのは我らが主人公・氷川京多だ。
半袖のカッターシャツ姿に何故か生徒会の紋章が入ったヘルメットを載せ、やる気なさげに誘導棒を振っている。
「うーん・・・アイス食べたいよぉ・・・」
その隣では平沢唯がパイプ椅子の上でチェックシートの挟まったボードを抱えながらノイローゼ状態になっていた。
「ザ・猛暑日ってやつだな、こりゃ」
と、唯の隣でこれまた誘導棒を振りながら玄野計がぼやく。
ん?彼らが何をしているのかって?
それは今から約数時間前に遡る・・・
数時間前、2-R組教室・・・
「おーし、ほいだら終礼終わるぞ〜、日直よろしく〜」
真夏日の外とは別世界のように冷房が効いた教室。
R組の担任である佐藤田中の呑気な声が響くと同時に生徒達は日直の「起立」という掛け声に合わせて椅子から我が身を立たせる。
生徒全員
『さよ・・・』
「おーい、ちょっと待てー」
と、ここで佐藤田中が何かを思い出したかのように号令を中断させる。
生徒全員
『???』
「普通に号令してもつまらんから今日はさよならじゃなくて『起立、礼、ゴッドイーター2発売おめでとー』でいくぞぉ」
生徒全員
『・・・・』
佐藤田中の意味不明な提案に暫し沈黙するR組生徒一同。
「ほれ、坂本ー、早くしろぉ」
「・・・令!」
日直である坂本雄二は呆れたように号令をかける。
生徒全員
『ゴッドイーター2発売おめでとー』
「・・・うん、思ったよりつまらんからやっぱ普通のに戻そ」
---じゃ、最初からやらすな!!!---
R組の少年少女達の心がシンクロした瞬間であった。
しかし、終礼が終わり、佐藤田中が教室を出て行くと同時に生徒達も散り散りに教室を出て行ったり、今後の予定について喋ったりと教室内を解放感が包み込む。
「さでと・・・」
首をコキリ、と鳴らしながら氷川はプラスチック製のバックパックに筆箱と教科書を放り込む。
「あ、京多くーん!」
と、前の席から唯がトテトテとこちらに向かって来る。
その手には何やら丸められて棒状になったチラシが握られている。
「おぉ、唯。どした?」
「今日この後暇?」
「え?あぁ、まぁ暇っちゃ暇だけど・・・どうしていきなり?」
「むっふふー、実はですねぇ〜・・・」
唯はニヨニヨと笑いながら握っていたチラシをビームサーベルのように氷川へ振り渡す。
「良いバイトがあるんだけど、一緒にやらない?」
「はぁ、バイトか?」
氷川は渡されたチラシを伸ばして内容を見る。
『アルバイト求ム!! 年齢性別不問!! バイト代2万円也!!』
チラシにはそれだけがでかでかと書かれ、具体的には何をすれば良いのかは全く書かれていない。
「おい、唯。いくら何でもこれは怪しくね?」
チラシから目を上げて言う氷川。
「えぇ?どうして?」
唯は口を猫のようにしながら首を傾げる。
「だって普通に考えてみろよ、バイトの内容もまともに書いてないし、それでバイト代2万ってのは話が美味すぎるだろう?」
そう言い、唯にチラシを返そうとする。
「いや、一応これ学園側が募集してるんだけど・・・」
「いずれにせよ何にせよ、俺はパスで・・・」
「えぇー、大丈夫だよぉ!!」
しかし、唯も全く譲らない。
「だってほら、ここに顔巣学園って書いてるし・・・」
と、チラシの最下部を指差す唯。
そこには確かに『顔巣学園夏祭運営本部』と書かれており、その下にはご丁寧にスポンサー名まで記されていた。
「・・・とにかく俺はいいよ、やるんなら他の誰かを誘ってやりな」
「えぇー・・・やろうよー、一緒に・・・」
「やりません!」
「ふぇぇ・・・」
そんなやり取りをしていると…
「氷川ー、一緒にバイトやろうぜ」
唯の後ろから玄野がひょっこりと現れた。
その手にはやはり、唯の持っていたチラシと同じモノが握られていた。
「・・・玄野、お前少しは空気読めよ」
「は?何が?」
眉間を摘まむ氷川を見てキョトンとする玄野。
「つか、何だよ、平沢もバイトやんのか?」
と、玄野は唯の持っているチラシを見て言う。
「うん、ホントは軽音部の皆でやろうって事になったんだけど、皆色々忙しいみたいで…それで京多君を誘ってたの」
「ほぉ」
「でも京多君ってば、怪しいからって話も聞いてくれないの・・・」
「いやいや、話はちゃんと聞いてるから!」
と氷川。
「そもそも俺が言いたいのはバイト内容が書かれてないから怪しいね、って事!!」
「何だよ、それならここに書いてるじゃん」
言いながら玄野は自分の持っていたチラシを氷川に見せる。
そこには『顔巣学園生徒会からのお知らせ』と書かれ、その下には『校門周辺の交通誘導アルバイト募集』とある。
「ほらな、バイト内容も書いてるし、あのジャッジメント様が大々的に宣伝してるんだぜ?」
「そうだよ!京多君も一緒にやろーよ!!」
「い、いや、だから俺は・・・・」
「はいはい、言い訳する暇あるならさっさとやるぞ」
と、玄野は氷川の首根っこをひっ掴んでズルズルと引っ張って行く。
「・・・え、えーーーーーー・・・・」
氷川は玄野にズルズルと引きずられながら教室を出て行った。
時間は戻って、顔巣学園・正門・・・
「なぁ、そろそろ休憩入れようや・・・」
「それもそうだな、このままだと氷川も平沢も本当に干物になっちまいそうだし」
と、玄野は近くの植え込みに腰を下ろす。
氷川と唯もその隣に座った。
「まぁ、これで2万なら容易いもんだな」
「よく言うぜ、無理やり参加させたくせにさ」
氷川はタオルで汗を拭いながら言う。
「昨日は水流に呑まれて、今日はこのクソ暑い中で3時間立ちっぱなしとか、どんな拷問だよ・・・」
「そう言えば京多君、昨日水浸しで倒れてたけど、結局あれは何だったの?」
と、唯が疑問に思っていた事を尋ねる。
「だから何度も言ってるだろ?ギルドの地下通路で水流に呑まれて死にかけたんだよ」
ちなみに氷川の受難は第7話を参照してほしい。
「ふぅーん、よく分かんないや・・・」
唯は空を仰ぎながら能天気に呟いた。
「アイス食べたぁい・・・」
「やめろよ、俺だって食いたいんだから」
「あ、あの雲ソフトクリームっぽくね?」
「玄野もやめろよ・・・」
「あ、ホントだぁ」
そんな事をうだうだと喋っていると・・・
「よぉ、どうだ、調子は?」
と、奥からマダオ・・・じゃない、Z組の長谷川泰三がのしのしと現れた。
「「「おーす、マダオ(君)」」」
「だから俺はマダオじゃねぇって!しかもこの小説ん中じゃまだ高校生ですから!!」
と、このマダオ、さりげなくメタ発言。
「何だよ、お前もバイトなのか?」
「おぅ、時給2万なんてそうそう無ぇからな」
と、マダ・・・長谷川は鷹揚に頷いてみせる。
「特にここ最近はバイトですら就職難とか言われてるらしいから、こういう小さなチャンスは一つ一つ拾っていかなきゃなんねぇ」
「ふーん・・・」
と、そんな事を喋っていると…
「ねぇねぇ、京多君」
唯が氷川の脇腹をツンツンと肘で小突く。
「何?」
「あの人達、さっきから気になってたんだけど、何なんだろ?」
氷川は唯の指差した方向を見る。
そこにはパイプ椅子に腰掛け、黒い全身タイツを身につけた集団がいた。
---そう言えば、さっきからいるけどあいつら何者なんだろう・・・---
と、氷川は胸に呟く。
実際、彼らは格好からして既におかしい。
この猛暑の中で黒い全身タイツ、しかも顔を布で隠していて、まるで20世紀少年のともだちのよう。
そして手元には何故か人数カウンターとチェックシート。
一見しただけでは何をしているのか想像もつかない。
「あ、やっぱ二人も気になってたのか?」
氷川や唯だけでなく、そばに居た玄野も黒ずくめ集団に目を向ける。
しかもよく見ると帰宅する途中の生徒たちも彼らが気になるのか写メを撮ったり、気持ち悪がっていたりしている。
どーでも良いけど、こんなのがいきなり後ろにいたらビビるよね。
「生徒会・・・じゃないよな、あれ」
長谷川が訝しげに言う。
「どっちかと言うと不審者だろ・・・」
「でも不審者なら生徒会がすぐに駆けつけるはずだよ?」
と唯。
しかし付近にいる生徒会メンバーは彼らをマークしている様子は無い。
しかもマークどころか気にも留めていないらしく、各々雑談に興じたり、ミントンを振り回していたり、そのミントン野郎を殴り飛ばしたりしている。
「生徒会はノーマークか・・・」
「そうみたいだね・・・」
「でもすげぇ気になるよな、あれ」
「あぁ、気になるな」
「気になるねぇ」
「気になるな」
気になる、という単語を連呼する氷川達。
すると・・・
「長谷川、何をサボっている?」
後ろから凛とした声がする。
振り向くと、そこには日本刀を帯刀した生徒会役員のノヴァがいた。
「あ、いや、別にサボってるわけじゃねぇんだけど・・・」
「言い訳する暇があるならさっさと仕事しろ!」
と、ノヴァは年上であるはずの長谷川にも容赦ない言いよう。
「うぅ・・・分かってるっつーのに」
ぶつくさ言いながら長谷川は自分の持ち場に戻って行った。
「全く・・・それからお前達も!」
長谷川の背中を見送りつつ、氷川達にも鋭い視線を向けるという器用な芸当をするノヴァ。
「な、何だよ、ノヴァ?」
「休憩時間はとっくに終わったはずだが?」
ノヴァは誰に対しても毅然とした態度を崩さない。
どうでも良いが、彼のこの性格は生徒会内では白井黒子と並んで厳しいと言われていたりする。
「今暑いから休憩してんだよ、何か文句あるか?ヒヨコ豆君よぉ?」
と、玄野がノヴァを挑発する。
「なっ!?貴様!!僕を侮辱するつもりか!!!」
・・・しかし、白井黒子に比べると結構キレやすいのが玉に瑕である。
「あぁ、そうだよ!!つかお前、下級生の癖に生意気なんだよ、敬語くらい使えや!!!」
「黙れ黙れ黙れぇ!!僕だって小柄なお前に言われる筋合いは無い!!!」
「うっせぇ、ヒヨコ豆!!」
「あー!!またヒヨコ豆って言った!!!これでも毎朝牛乳飲んでるんだぞ!!!!」
「ハッ、バカか!?牛乳飲んだくらいで背なんか伸びねぇんだよ!!!」
---子供かお前ら・・・---
二人のキャラ崩壊振りもそうだが、あまりにも低レベルな口喧嘩に暫し唖然とする氷川。
「ほ、ほぇぇ、喧嘩は駄目だよぉ!」
唯はその隣であたふたしている。
「もう限界だ!!叩き斬ってやる!!!!」
と、ノヴァは腰に差していた日本刀を勢いよく抜刀する。
「おぉ!?殺る気かぁ!?面白いじゃねえか!!!!」
玄野もガンツソードを構えて臨戦状態になる。
「いや、つーかそれどっから出したぁぁぁ!?」
もはや氷川のツッコミも彼らの耳には届かない。
「覚悟は良いか、ヒヨコ豆ェェ!!」
「望むところだ、このチビめが!!」
「お前ら少し落ち着けぇぇぇ!!!???」
血生臭い闘争が始まろうとした、まさにその時、
「・・・あなた達、何をしているの?」
玄野とノヴァの間に割って入る少女がいた。
その少女は流れるような銀髪のロングヘアに金色の目、白いブレザーを着ている。
「って、立華?」
そう、彼女は生徒会書記の立華奏だ。
奏はノヴァの方へ向き直りながら言う。
「ノヴァ君、喧嘩はしちゃダメっていつも言ってるでしょう?」
「僕は彼らに注意を喚起しただけですよ。それに、そもそもの原因はこいつが先に難癖を付けてきたからです」
「な!?お前あんだけ喧嘩売っといてそういう事言うか!?」
「落ち着いて、玄野君」
奏は玄野をなだめる。
「つーか、そもそもの原因はお前が偉そうな口利くから悪いんだろうが!?」
「仕方ないだろう?それに君こそ僕をヒヨコ豆だの何だのと侮辱したじゃないか」
「知るか!!ちょっとぐらいは年上を敬おうとする努力をしろって言いたいんだよ、俺は!!!!」
「ま、まぁまぁ、玄野」
と、ここで氷川がやっと口を挟む。
「ノヴァはただ単に俺達に注意しに来ただけだし・・・まぁ、確かにノヴァも少し腹立つ物言いだったけど、それは彼の性格じゃ仕方ないだろ?」
「そうだよ!ノヴァ君も別に悪気は無かったんでしょ?」
と、唯も氷川に続く。
「確かに私も休憩が長いって事は分かってたし、そろそろやんなきゃなー、って思ってはいたんだよ?」
「・・・いやいやいや、俺ら後輩にナメられてんだぜ?何で俺らが悪いみたいな話になってんの?」
納得していないのか、玄野は不満そうに言う。
「だーかーらー、元々俺らが休憩を短くしとけば良かったってわけ。そんならお前もノヴァも喧嘩直前までは行かなかったの」
「つまり喧嘩両成敗、という事ね」
と、奏がまとめる。
「とにかく、今回は喧嘩になる直前で良かったわ。もし喧嘩になっていたら……少なくとも殺し合いに発展していたわ…」
「全くですよ・・・ただ注意をしに来ただけでこんな面倒事に巻き込まれるなんて・・・」
「ノヴァ君」
すると奏はノヴァの額をデコピンで叩いた。
「痛っ!?何するんですか!?」
「もちろん、あなたにも原因があるわ・・・もう少し普通に注意ができないものかしら」
「し、仕方ないですよ・・・元々こういう性格ですし」
「・・・あなたはそう言ってこの前もリベルタ君と喧嘩していたわね」
「うぐっ、それは・・・」
「へへへっ、結局お前も怒られてやんの」
怒られているノヴァに横から茶々を入れる玄野。
「う、うるさい!?第一、リベルタとの件は、あっちから挑発してきたから・・・」
「人の挑発に乗るのは、あなたがまだ未熟な証拠よ?」
「だって・・・・それは・・・・・・んあー、もう!!とにかく、僕は悪くないからな!!!」
と、ノヴァは拗ねながら日本刀を腰の鞘に戻した。
「・・・引き続き巡回に戻ります」
そして力なく言いながらその場を立ち去った。
「全く、とんでもない奴だぜ」
言いながら玄野はノヴァの後姿に中指を立てる。
「・・・ごめんなさいね、彼には後でちゃんと言っておくから」
「いやいや、良いんだよ立華。元は俺達がダラダラやってたのが原因だし」
「うん、私も少し休みすぎてたよ!」
「そうかしら・・・でもあの子、よく他の人ともトラブルを起こすから・・・この間なんて池袋でカラーギャングの・・・・・何と言ったかしら?」
「ダラーズか?」
「そう・・・ダラーズの不良と喧嘩になって、相手を半殺しにしたって聞いたから」
「へぇ・・・そりゃ大変だったな・・・」
「とにかく、あの子はプライドが高すぎるのが玉に瑕ね・・・私からもよく注意しておくわ。バイト頑張ってね」
「おう、ありがとな」
「あと1時間だけど頑張るよぉ!!」
「ついでにノヴァのケツに蹴り入れといてくれー」
氷川達の声を背に奏は走って行った。
「さて、さっさとバイトに戻るか」
そう言って氷川は足下に転がっていた誘導棒を拾う。
「ねぇ、氷川君、ダラーズってなぁに?」
「え?平沢、ダラーズ知らないのか?」
玄野が驚いたように聞き返す。
「うん、最近よく名前聞くんだけど、どんな集団なのかなーって」
「まぁ、要するにダラーズってのはSNSサイトだよ。たまにカラーギャングと同一視されてるけどな」
と、氷川が説明する。
「へぇ・・・でもカラーギャングって、悪い人がいっぱいいるのかなあ」
「いや、確かに不良も多いけど普通にしてたらそういう連中と関わる事は無いよ」
「そうそう、しかも仲間内で連絡取り合うのに結構便利だから俺らも使ってるぜ?」
と、玄野は唯に自身のケータイの画面を見せる。
そこにはダラーズのマイページが表示されていた。
画面の右端にはアイコンと、ハンドルネームだろうか、『くろの』と表示されている。
「へぇー、それ私もやりたいなぁ」
「あ、それなら俺が招待メール送っとくから、そこから登録して」
「え?自分で勝手に登録しちゃいけないの?」
「あぁ、どうも一見さんお断りらしいんだ。一時は勝手に入っても良いよー、って方針だったんだが、今は完全招待制になってて誰かの誘いが無ければ入れないんだ」
玄野は唯の携帯に招待メールを送りながら言う。
「へぇ・・・あ、来た来た♪」
「まぁ、メールが来たら、後は好きに設定できるから」
「うん!ありがとう!!」
唯は嬉しそうに玄野に礼を言う。
「んじゃ、バイトに戻りますか・・・」
「・・・ところで、俺ら何かを忘れてないか?」
と、ここで氷川が玄野と唯に言う。
「?どうした?何かあったか?」
「・・・さっきの黒服だよ」
---あ、そう言えば・・・---
玄野と唯は今更思い出したようだ。
急いで正門の方を見る氷川達。
しかし、そこにはさっきまで居たはずの黒尽くめは忽然と消えており、帰宅する生徒たちの喧騒だけがあった。
「「「あれ?黒服は?」」」
頭の上に?マークを浮かべながら首を傾げる氷川、唯、玄野。
いつの間にかいなくなった黒尽くめ集団が何者なのか・・・それは後々分かる事になるのだが、それはまた別の話。