一匙のお姫様物語   作:とりるんぱ

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ココア、アイスを食べるの巻。


#01 あいすくりーむふぁんたじあ
将来の夢にグルメレポーターっていうのもいいかもしれない


四月下旬の日曜日。

春の穏やかな日差しが照り付けるここは、木組みの家と石畳の街。

西洋風の街並みと野良うさぎが有名なこの街にアンゴラウサギを抱えた姿でもうすっかり溶け込んでいるのは、栗色のショートカットが特徴的な、快活そうな女の子。

名前を保登心愛(ほと ここあ)。つい最近からこの街の学校に通うため、とある喫茶店に下宿させて貰っている彼女は、その喫茶店、『Rabbit house』にこの春から新しく入ったアルバイトでもある。

そんな彼女は今、この街の東の方にある小さな並木道を歩いていた。

 

「ねえティッピー、お腹空いたね」

 

ティッピー、というのはココアが抱き抱えているアンゴラウサギの名前。

本当はティッピー・ゴールデンフラワリー・オレンジペコと言うのだが、余りにも長いので皆ティッピーと読んでいる。

そんなティッピーはココアの呼び掛けに返答もせずに、ただ毛玉と揶揄される程に延びきった体毛を少し揺らした。

それは当然のことであり、普通のうさぎはそもそも喋ることが出来ないので呼び掛けられても応えることは出来ない。

それが分かっているココアは機嫌を損ねる訳でもなく、近くに飲食店が無いかどうか探し始めた。

 

「うーん……食べ物、食べ物……」

 

しかし。周りを見回しても、あるのはアクセサリーショップ、花屋、写真屋、電気屋。飲食店は見付からなかった。

 

「ええ……この近くに食べ物売っているところは無いのかなー」

 

などと呟くが、しかし答えてくれる人はいなかった。

仕方がないので、ココアは今まで来た道を引き返し、甘兎庵ーーココアの友人が働いている木組みの街の甘味処ーーへ向かおうとした。

ところが。

 

「あれー?ここ、どこ?」

 

ものの数分しない内に道に迷ってしまったココアは辺りを落ち着き無く見回しながら言った。

しかしながら、それに答えてくれる人はいない……というか、その発言を聞いている人がまずいなかった。

もとより、ココアも返答を求めてそんな発言をしたわけでは無いわけで。

 

「……まあいっか!歩いてれば、その内何とかなるよ~」

 

お気楽にそう言って、ココアは再び飲食店を探して木組みの街の裏路地をさ迷い始めた。

 

 

※※※

 

 

「まだ春だからって……ちょっと客の入り、悪すぎやしないかなあ」

 

そう呟いた言葉は、しかし誰にも反応されること無く虚空をさ迷い、やがて春の陽気に溶けて消えていった。

それもそのはずで、今店内にいるのは俺ただ一人。反応されるされない以前に、対話する相手がそもそもいないのだ。

ここはカニーシェン・アイス。木組みの街の東の方に位置する、個人営業のアイス屋兼氷屋。

で、そこの一人息子である俺は只今絶賛店番中。……なのだが、困ったことに客が来ない。

そもそも、暖かくなってきているとはいえまだ4月の下旬。冷たいアイスが恋しくなるほど暑い訳ではないし、それに今は午後2時。ちょうどお昼時であり、アイス屋にとって一番暇な時間帯だ。お客さんが来ないのも仕方ないと言えば仕方ない。

仕方ないのだが、退屈だ。

客が来ないせいでやることが何も無い。せめて一人くらい客が来てくれれば、接客がてら世間話に花を咲かせることだって出来ただろうに。

しかしながら、客は一向にやって来る気配は無い。現実は無情である。

こういう時、話相手になってくれるアルバイトの一人や二人居てくれたら、退屈しなくて済むのだが。

まあ全然忙しくないこの時期にアルバイトがいても本当に話相手にしかならなそうなので募集する訳はないのだが。そもそも募集するの俺じゃなくて両親だし。

俺に決定権はないのだ。残念ながら。

 

そんなわけで大絶賛俺が暇を持て余していると。

 

「…………ねむい」

 

唐突に凄まじい程の眠気が押し寄せてきた。

繰り返すが、今は午後2時。お昼寝の間帯でもあり、ましてや春の穏やかな日差しに照らされ、しかも凄い暇してる今の状況なら、眠気が押し寄せてきてもおかしくないわけで。

更に言えば、一人も客がいない今なら、別に寝ても問題ないわけで……。

 

「ふわぁ。……あ」

 

なんて考えていたら無意識のうちに欠伸をしていた。

……無意識のうちに欠伸?

なんだそれ。もう末期じゃないか。早く寝た方がいいな、これは。

 

特に抵抗もせず、あっさり睡魔に屈した俺は早速カウンターに寄っ掛かり、そのまま瞼を閉じた。

ああ、瞼が重い。眠い。眠い。眠い。

こりゃもう寝れそうだ。春の陽気恐るべし。

……まあ、結果的に言うんなら寝れなかったのだが。何故ならここで、

 

ーーカララン

 

「お腹……空いた……」

 

客がやって来やがったからだ。

寝ようとしたときにやって来るとかどういうことなのだろう。タイミング悪すぎる。

もっとこの客には空気を読んで頂きたいところだ。

 

「何か凄い自分勝手で横暴なことを思われている気がするなあ」

 

客はなんかジト目で俺を睨んできた。

が、すぐに元の明るい表情に戻って、

 

「まあいっか。それで、ここは何屋さんなのかな?」

 

むしろ何屋だと思って入ってきたのか疑問に思わせる台詞を吐いた。

俺はというと、いろいろ突っ込みを入れたい気持ちはあったけれど。

 

「いらっしゃいませ。木組みの街のアイス屋、『kaninchen ice』へようこそ。……ご注文は何に致しますか?」

 

俺は愛想良い笑顔を浮かべて、ココア色の髪の客にメニューを差し出した。

 

「へえ……バニラ、ストロベリー、チョコレート、抹茶、ラムレーズンにマスクメロン!へえ~、色んなのがあるね~」

 

「フレーバーだけでも結構な種類がありますからね。今お客様が挙げられたのはハーゲン○ッツにもあるような一般的なものですが、うちでは珍しいものも取り扱っているんですよ」

 

「ほんとだ!ドルチェ・ヴィータにオレオインミルクティー、ストロベリーガナッシュにこまめ!聞いたこと無いものばっかりだよ!」

 

ん、こまめ?そんなものメニューにあったかな?

……あ、小豆のことか。

 

「こんなにメニューがあるとどれを頼んでいいか分からないよ~」

 

小学生レベルの漢字を平然と間違えた客はしかしそれに気づくこともなく、数多あるフレーバーのうち、どれを注文するかで悩んでいた。それも真剣に。

因みにこれは完全にどうでもいい余談なのだが、うちに来店する客のうち、女性客は男性客に比べて三倍メニュー選びに時間を使うというデータがある。

多少エキセントリックな言動をしているとはいえ、目の前の客も女子ということなのだろう。なんか凄い時間使って考えてるし。

しかしそんな客もとうとう何を頼むか決めたようで、突然、

 

「よし、これでいこう」

 

と呟いたかと思うと、意を決した表情で、

 

「ガリガリ君ソーダ味下さい!」

 

「取り扱っておりません」

 

「えー、じゃあコーラ味!」

 

「味の問題では無くてですね……」

 

「コーンポタージュ味!」

 

「メニューの中から選んで貰えますか!?」

 

「えっ、メニューに無かったの?」

 

「無いよ!さっきあんなに時間使ってメニューのどこを見てたんだよ!」

 

「うーん……文字?」

 

「でしょうね!」

 

キレ気味にそう言い放つと、客はちょっとだけ首を傾げて、

 

「それじゃあ、この店のオススメは何かな?」

 

と訊いてきた。間髪入れずに答える。

 

「バニラアイス」

 

「珍しいものを用意してるって言ってたのに、オススメはバニラなんだ……」

 

「何か仰りました?」

 

「え?何も言ってないよ? 」

 

「はあ。…で、ご注文は?」

 

「じゃあ、そのバニラアイスで」

 

「かしこまりました。何か他にご注文は」

 

「いらないかな」

 

「かしこまりました。お持ち帰りですか?店内で召し上がりますか?」

 

「店内で召し上がるよ」

 

「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」

 

「はーい」

 

「お待たせしました、バニラアイスです」

 

「わあ、出てくるの早い!」

 

え、そう?普通じゃない?

配膳するのにかかった時間、両手で数えられる程度にはかかってるし。

 

「……取り合えず頂きます」

 

客は首を捻る俺には目もくれず、手を合わせてそう言うと、早速スプーンでアイスを口に運んだ。

 

客の動きが止まった。

 

何事かと思って客を見てみると、恍惚とした表情。目元が少し滲んでいるように見える。

 

「…このアイス、美味しすぎて涙が出てくるよ……」

 

そりゃどうも。

 

「アイスそのものも甘すぎない感じで美味しいんだけど、何よりもバニラの香りが普通のアイスに比べて何倍もすっきりしてて、それが甘すぎないアイスと丁度良くマッチしていて、とっても美味しいよ……」

 

……味の説明上手いな。なんかのグルメレポーターか?

 




多分次回でこの話は終わるかな?
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