一匙のお姫様物語   作:とりるんぱ

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今回の話は全て次回予告への壮大な前振りかもしれません。いつか番外編的なのでその内容を掘り下げるかもしれませんね。

……ぶっちゃけこの話二つに分ける意味なかったと思う。


一番不憫なのはシャロである。

                   ※※※

 

放課後。ホームルーム直後の昇降口前は、今日の全工程を終えた生徒たちでごった返していた。授業という呪縛から解き放たれた彼らないし彼女らは、制服。ジャージ。ユニフォーム。いろいろな格好をしていた。いずれにしろ、顔が開放感に満ち溢れているのは変わらない。

部活に所属していない俺はそいつらをかきわけかきわけ、自分の下駄箱まで辿り着き、靴を履き替え、昇降口を出た。

 

外は、雨が降っていた。

 

「……マジか」

 

俺の口から、そんな声が漏れた。朝家を出たときは雲一つない青空だったのだが。しかし今は、青空一つない曇天だ。これは一体全体、どういうことなのか。

……ま、梅雨だし。天気が変わりやすい時期なのだろう。

強引に自分を納得させた俺は、自分の鞄を漁り始めた。といっても俺は教科書の殆どを置き勉しているので、鞄にはあまり持ち物は入っていない。意識して毎日入れているものなど、財布と本と弁当。それくらいだ。

だから今日鞄の中に置き傘が入っていたのは奇跡的な幸運といえるだろう。俺は濡れなくてすむことに安堵しつつ傘を広げた。

 

ふとここで、俺は周りを見回した。周りの生徒は突然の雨に多種多様な対応をしていた。

俺と同じように鞄から傘を取り出し広げる者。突然の雨に驚きの、あるいは憤然とした表情を浮かべる者。「こんな雨、敵じゃない!」とか言って颯爽と霧雨の中を駆け抜けていく者……。

 

人によって反応は様々だが、たまたま傘を持ってきている俺が言うのもなんだが一応言わせて頂こう。

 

『梅雨に傘を持ち歩かない奴は控えめにいってアホである』。

 

心の中でいつかの自分に盛大なブーメランを放ちつつ、俺は帰宅しようと歩き始めた。

 

その時、背後から聞きなれた声が。

 

「雨!?傘持ってないのに!」

 

「困ったな」

 

声の主を確認しようと俺は振り返った。するとそこには、案の定リゼとシャロの姿が。二人とも傘を持っていなかったのか、突然の雨に驚いていた。

 

「う~む。止むまで待つべきか、迎えを呼ぶべきか……おや、ヒョウ」

 

リゼは顎に手を当て考え事をしていたが、俺に気づいて呼び止めた。

 

「ヒョウ、傘貸してくれないか?」

 

「悪いなリゼ。これしかないんだ」

 

俺は傘を持つ手を捻った。手の動きに追随するように傘が回転する。

リゼは表情を変えずに言った。

 

「じゃあお前の持っているそれでいいから」

 

ぐるり。手首を強く捻った。それによって生じた強烈な回転エネルギーが余すところなく傘に伝わり、傘にたまっていた雨粒を全て払い落とした。

その中の一部がリゼに降りかかる。何かあったかな、という表情をしていた。

俺も涼しい表情をして言う。

 

「何故俺がわざわざ濡れてまでお前に傘を貸さねばならない?」

 

「これから映画なんだ。濡れたまま映画館入るのって抵抗感あるだろ?」

 

「『だから傘貸して』ってか?嫌に決まってるだろ。俺だって濡れたくないんだ」

 

「え、傘貸してくれないの?」的な表情をするリゼに閉口しつつも言った。

リゼはあからさまに溜息をついた。

 

「全く。ヒョウには自己犠牲の精神が足りないな」

 

いくらなんでも理不尽すぎやしないか。俺は吐き捨てるように言った。

 

「お前が図々しすぎるんだよ」

 

そんな俺の言葉を無視して、リゼは俺への失望を隠そうともせず大げさに頭を振った。流石にこの仕打ちはひどいと思う。俺は反撃を試みた。

 

「大体、だなリゼよ。そもそもお前には傘なんて必要ないんじゃないか?」

 

指を一本立てて言う。リゼは、

 

「は?どういうことだ?」

 

軍人の顔になって俺を睨み付けてきた。その目の「凄み」に若干気圧されつつも、俺はほくそ笑んだ。

 

……よし。用意した釣り針に見事に引っかかってくれた。

 

そんな内心を気取られないように、俺は指をもう一本立てた。

 

「だって、だな。軍人は傘なんかささないからだ。手が塞がると邪魔だし、不便だからな」

 

「軍人」の言葉を話した途端、リゼの目の色が若干、しかし確実に変わったのを俺は見た。

 

……これはもう、傘を貸す必要はなくなったな。そう思いつつ、俺はリゼに言った。

 

「……さてリゼ。お前、傘は必要か?」

 

「いらない」

 

即答された。

 

「確かに手が塞がると不便だよな。よしシャロ、走るぞ!」

 

「ええッ!」

 

軍人魂に火がついてしまったリゼはシャロにそう言うと勢いよく走り始めた。驚いたのはシャロだ。しばらくの間猪のように駆けていったリゼを呆然と見つめていたが、

 

「あ!待ってください、先ぱ~い!」

 

すぐにリゼを追いかけて行った。そんなシャロのちっこい背中を見ながら、俺は小声で詫びた。

 

「……すまんシャロ。俺の健康と服の寿命の為だ。ちょこっと、雨に濡れておいてくれ」

 

俺は左手を突き出した。雨の程度を確認するためだ。

 

雨は、ちびちびと、冷たく俺の手を湿らせていった。




~次回予告~

ヒョウ「あ、傘忘れた」

リゼ「なんだ、今日はお前が忘れたのか?仕様がないな」

ヒョウ「うわ……梅雨なのに傘持って来てないとか……控えめに言ってアホだ……」

リゼ「でもまあ、いいんじゃないか?」

ヒョウ「?」

リゼ「ある程度雨を被れば、目も覚めるしな」




次回「ウォーター・ガンファイト」




ヒョウ「……俺、眠くないんだけど」

リゼ「授業中寝てるからな」

ヒョウ「まあな。人間は休息をとる生き物で――」

リゼ「あっそ」

ヒョウ「ちょ、帰んないでリゼ!話聞いて!ついでにその傘に入れて!濡れるから!」

リゼ「はいはい」






シャロ(あ……相合傘ッ!?)
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