一匙のお姫様物語   作:とりるんぱ

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次回でお終いです。


柄じゃない!柄じゃないけど……

       ※※※

 

「ご来店、ありがとうございました~」

 

笑顔で美容師さんに見送られながら美容室と出ると、外はすっかり赤くなっていた。私は時計を確認する。腕時計のちんまりとした針は、きっちりしっかり午後五時を指し示していた。

 

「おや、まだ五時なのか」

 

誰に言うというわけでもなく、私は呟いた。少し前まで、五時になる頃には真っ暗になっていたというのに。しかし今は、例えるならナポリタンのように真っ赤っ赤。日が沈むのも早くなってきたというわけか。

季節の移り変わりを実感していると、食べ物のことを考えたからだろうか。腹時計が鳴った。

ぐ~ぎゅるるるる。

 

「……………」

 

急いで周りを見回す。運のいいことに、近くに人はいなかった。

ふっと胸を撫で下ろす。と同時に、今更ながら自分が空腹感を覚えていることに気が付いた。そういえば、昼から何も食っていなかったような気がする。時間も時間だし、このまま帰宅してしまおう。また腹が鳴り出さないうちに。

そこまで考えて、私は家路に付こうと歩き出した。

 

私は立ち止まった。ガラス越しに自分の姿が写っているのが見えたからだ。

 

ふと、さっきの美容師さんが言っていたことを思い出した。確か、「綺麗で麗しい淑女」だったか。

ガラスに写っていたのは、成る程、確かに自分だとは思えないくらいの綺麗で麗しい淑女だった。ただし、上半身は、だが。

私は閉口した。私が今来ている服は、ベージュのショートパンツにボーダーのノースリーブ。そこから透ける程の透明でペラッペラなシャツを上に羽織っている。間違っても淑女には見えない、ラフな格好だ。

 

「……綺麗で麗しい淑女、か」

 

ポツリと呟いた。声に出してみると今の私の格好がそれとは正に対極の位置にある気がして、私は苦笑した。ガラスの向こうの人物も、それに付随するように口角を吊り上げる。

……しかし、『今の』格好が、か。

私は視線を先程買ったワンピースに落とした。いつの間にか、空腹感は消えうせていた。私は呟いた。

 

「『今の』格好じゃないなら、あるいは」

 

 

 

       ~○~

 

ラフな格好から清楚な格好に着替えた私は、もう一度ガラスの前に立った。

ガラスの向こう側にどんと鎮座しているのは、今度こそどこからどう見ても完璧な淑女。クローバーの意匠が特徴的なワンピースを見事に着こなし、ウェーブのかかったロングヘアを揺らすその姿は、シャロのようなお嬢様オーラを醸し出している。

 

「……よし」

 

私は小さくガッツポーズをした。見たかヒョウ。ちゃんと整えれば、私だってこんなにお淑やかになれるんだぞ。最も、生まれてから17年近くも立っているというのにその事実を知らない私も私なのだが……

ま、たったの17年だ。知っていることより知らないことの方が多いとしても、それは当然というべきだろう。例えそれが、自分自身のことだったとしても。

強引に自分を納得させた私は、ふいに、なんとなく髪の毛を指先で回した。細く巻かれたウェーブが、指先でくるり。踊るように跳ねる。その姿をガラス越しに見て、思わず苦笑した。

今のは「らしく」無さ過ぎる。これをヒョウが見たら間違いなく笑っていただろう。大口を開けて。

そのシーンをリアルに想像してしまい、私は少し腹を立てた。苛立ちを石畳にぶつけるように、わざと足音が出るようにして歩き始めた。

そのまま歩き進み、曲がり角を右に曲がる。そのまま道なりに進み、噴水広場が見えてくる頃になると流石に苛立ちも収まってきた。いつもの歩き方に戻る。と同時に、あることに気づいた。

 

それは、この服が、非常に歩きづらいということだ。

 

歩きづらいといっても動き辛いというわけではない。流石にラフな格好より動きやすくは無いが、しかしそういうわけではない。

ただ、この服を着ていると体中がふわふわとして落ち着かないのだ。いつもと同じ、いつもの道だいうのに遠い外国の道を歩いているような気がする。心と体が乖離しているとでもいうのか。私の心は着慣れないガーリーな服を着ているせいか、舞い上がってしまっているらしかった。

そんな浮き足立った心を抱えて、ふわふわな足取りで噴水広場を横切ろうとして。

私はふっと立ち止まった。

 

チノとココアがいたからだ。




関係ない話だけど、ヒョウをチノ千夜と絡ませるのが難しすぎてはげそう。
被服研の部長や吹き矢部の部長(それぞれ原作4巻、またはアニメ二期10羽登場)と絡ませるほうがまだ楽っていうレベルで。
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