一匙のお姫様物語   作:とりるんぱ

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修正版。一編に纏めようとしたら案外増えたので二本に分けた。


あいすくりーむふぁんたじあ

※※※

 

「えっと……保登 心愛さんだっけ?」

 

その後、客は光の速さでアイスを間食し。

彼女も暇を持て余してたということなのでそのまま雑談中。

その仮定で、俺達は自己紹介をしあっていた。

 

「ココアでいいよ、ヒョウくん。みんなそう呼んでるし」

 

「じゃあそうする。ついでによそよそしい接客口調もやめるぞ」

 

「あ、接客口調だったんだ」

 

「そりゃそうだろ。あんな丁寧な言葉、接客時以外で使わないよ」

 

「いやあ、そういう人なのかと」

 

「そういう人って……そんな奴滅多にいないだろ」

 

「そうかな~。……結構近くに居るんだけど」

 

「マジかすげえ」

 

というか私生活でもこんな窮屈な喋り方する奴っているんだな。結構驚き。

 

で、それはそれとして。

 

「なあココア、凄い勢いでアイス食べてたけど、そんなに美味しかったのか?」

 

ココアに尋ねると、ココアはニッコリ元気に快活に笑って、

 

「うん。こんなに美味しいアイスがあったなんて。目が覚める思いだよ」

 

「そう言って貰えると、アイス屋冥利に付きるな」

 

「本当、ガリガリ君ソーダ味と同じくらい美味しかったよ!」

 

「それ誉めてんの!?」

 

※※※

 

 

「へえ、喫茶店のアルバイトしてるんだ」

 

あまりアルバイトしなさそう、というか真剣に仕事しなさそうな子に見えるけど。

失礼なので言わないが。

 

「うん。ラビットハウスって言うんだけど、知ってる?」

 

ココアは俺がそんなをと思っているとは露知らず。可愛く頬杖をついて訊いてきた。

俺は答えようとして。

 

「いや、知らなーー」

 

口を開いた、そのとき。

 

「……?」

 

何か頭の隅に引っ掛かるようなものを感じて、言葉を詰まらせた。

……なんだろう。ラビットハウス、どっかで聞いたことがあるような、無いような……

 

「……ヒョウくん?」

 

その声でふと我に帰ると、ココアがカウンター越しに頬杖ついて小首を傾げてこちらを見つめていた。

顔が近い。

 

「え、ああうん。多分知らない。……と思う」

 

目を逸らしながらそう言う。我ながら随分と歯切れの悪い物言いだ。

案の定、ココアは頭の上に疑問符を乗っけたかのように、首の角度をさらに30°ほど傾けた。

が、その事について追求することはなく、

 

「そっか~。知らないのか~。最近パン祭りも開いたし、チラシ配りもしてたんだけどな~」

 

代わりに、少しだけ肩を落として、残念そうに笑った。

……ってパン祭り?

 

「ラビットハウスはパン屋さんかなんかなの?」

 

「え?喫茶店だよ?」

 

「じゃあなんでパン祭りなんか」

 

「確かにパン祭り開いたりするし、焼きたて自家製パンが食べれたり注文できるパンの種類も多かったりするけど、ごく普通の喫茶店だよ?」

 

「……あ、そう」

 

どう考えても普通の喫茶店じゃない件について。

その辺のパン屋さんもびっくりだよ、それ。

 

 

※※※

 

 

「300円になります」

 

「安ッ!?」

 

それから更に時間が経ち、気付けば時刻は午後三時。

二時間もこの店に居座っていたココアだったが、流石に場所を移動しようと思ったのか。

荷物をまとめ、お会計をしていた。

曰く、次は甘兎庵ーー木組みの街にある、メニュー名が特徴的な甘味処ーーの新作試食に行くんだとか。

で、まあそんな状況説明はともかく。

 

「あの美味しさで300円かあ。……安すぎじゃない?」

 

ココアはうちの良心的な価格設定に驚いていた。

まあうちの初見さんが価格設定に驚くのはいつものことなんだけど。

 

「でも、そりゃそうだろ。普通、高々アイス程度にそんなにお金なんか払えないだろ。ましてやうちの店、メインターゲットは学生だし」

 

「いやいや何言ってるのヒョウくん。女の子にとって甘いものはいくら高くても食べてしまう代物なんだよ。こんなに美味しいんだから、もっと高くてもみんな買ってくれるはずだよ!」

 

そんなもんなのだろうか。俺なら甘いものに500円以上金は使いたくないのだが。

……ま、男と女は相容れない生き物だ。そういう価値観がそもそも違うのだろう。

まあとりあえず。

 

「そんなに言うんなら、次に来るときは高い買い物をするのを期待しとくよ」

 

「あー、それはしない方がいいんじゃないかな~」

 

「ダブスタかよッ!」

 

 

※※※

 

別れ際、ココアは俺に何か渡してきた。

 

「はいヒョウくん」

 

「ん?もう代金は貰ったぞ?」

 

「いやそうじゃなくて。はい、ラビットハウスのチラシ」

 

「……ラビットハウスのチラシ?なんでまた」

 

眉を潜めて言うと、ココアは明るく笑って、

 

「今日は美味しいアイスを食べさせて貰ったからね。今度は、ラビットハウスで美味しい珈琲をご馳走してあげようかなって」

 

「ご馳走……ってことは、奢って貰えるのか?」

 

俺がそう言うと、ココアは震えた声で、

 

「そ、それは言葉の綾だよ。きっちりお金は支払って貰うよ」

 

「あ、そ」

 

なんだつまらない。

 

「ともかく、私そろそろ甘兎庵に行くよ」

 

ココアはそう言って踵を返し、ドアノブに手をかけて、

 

「あ、ラビットハウスにもいつか来てね!」

 

と言いながら、店から出ていった。

 

俺はというと、

 

「ご来店、ありがとうございました~」

 

その呼び掛けには応じず、接客の定型文でココアを送り出したのだった。

 

 

※※※

 

 

四月下旬の日曜日。

夕方の橙色の日差しが照りつけるここは木組みの家と石畳の街。

西洋風の町並みと野良うさぎが有名なこの街にアンゴラウサギを抱えた姿でもうすっかり溶け込んでいるのは……って、これ冒頭部分のコピペだから省略しても構わないよね?

 

「それでね千夜ちゃん!なんとそのアイス、たったの300円だったんだよ!」

 

それはさておき、ここは甘兎庵。木組みの街にある甘味処。

そこの窓際の席で、ココアは顔を僅かに紅潮させながら言った。

 

「まあ!そんなに美味しいのに、ワンコインで食べれちゃうの!?」

 

そして、ココアの話に少々大袈裟なリアクションを返しているこの少女は甘兎庵の看板娘。

ココアと同じ学校に通う、ココアの友人にしてクラスメイト。

名前を宇治松 千夜(うじまつ ちや)という。

 

「そうなんだよ。代金を聞いたとき、私もビックリしちゃった!」

 

ココアは千夜の反応に気を良くしたのか、上機嫌で笑う。

千夜は、そんな明朗な笑顔を見て、

 

「そうなの。そんなにお手軽でしかも美味しいのなら、私も行ってみたいわ。……ところで、なんて名前のお店なの?」

 

「え?えーっと……『カニンシェン・アイス』だったかな?」

 

「あら、楽戸さんのところ?」

 

「え?千夜ちゃん知ってるの?」

 

ココアの目が丸く見開かれる。

対する千夜はにっこり笑顔で、

 

「知ってるも何も、うちで出るかき氷の氷は、全部楽戸さんちのところの氷なのよ?」

 

「へえ~、あのお店って氷屋さんもやってたんだ~」

 

「そうなの。そして、その氷を使って作られたのがッ!」

 

千夜はそう言うと、一端厨房に入り、そして。

 

「この甘兎庵新作メニュー、『花緑青の牡丹雪』よ!」

 

「すご~い!氷がエメラルド色に輝いて見えるよ!」

 

「税込540円、この夏から販売開始よ~」

 

新作のかき氷を手に、ココアと千夜のお喋りはますますヒートアップし始めた。

 

※※※

 

 

「嵐みたいなやつだったな」

 

そう呟いた言葉は、やっぱり誰にも反応されることなく虚空をさ迷い、春の陽気に消えていった。

それもその筈で、今ここにいるのは俺一人。

例によって暇してる俺は、しかし寝ることはなく。

先程来た嵐のような客・保登 心愛に思いを馳せていた。

いやまあ恋愛的な意味ではなく。

 

「にしても、ラビットハウス、ね」

 

保登心愛。落ち着きの無い奴だった。が、しかし。あいつが働く姿を見てみたいような気もする。

 

なんというか、面白そうだし。

 

「そう言えば、さっき貰ったラビットハウスのチラシ、読んでなかったな。どれどれ――」

 

『 rabbit horse  春のパン祭り開催中!

 

うぇるかむかもーん!』

 

 

「………………何これ」

 

俺の手から、チラシが滑り落ちた。




他作品の話になるけど、今日はきんモザのアリスちゃんの誕生日なんだよなあ。
……でも、アリスの誕生日ネタは他ならぬきんモザ本編で既にやっちゃってる(きららMAX2015年12月号参照)し。そもそも今日がもう終わってしまうので聖誕祭には参加できませんな。残念。
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