一匙のお姫様物語   作:とりるんぱ

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ヒョウ、ラビットハウスに行くの巻。

……なんだこのタイトルは。


#02 快楽を覚える一歩手前の表情
快楽を覚える一歩手前の表情


「へ?チノの笑顔を見たことが無い?」

 

ラビットハウスのカウンター。ココアは困ったような表情でリゼの発言を肯定した。

 

「うん。そうなんだよ。チノちゃん早くにお母さん亡くしてるし、おじいちゃんもいなくなっちゃってショックを引きずってるのかな……」

 

「まあ、確かにチノってあんまり笑わないもんなー」

 

「うん……って、あれ?」

 

ココアが顔を上げる。

 

「今、あんまりって言った?」

 

「言ったけど」

 

「え?」

 

脳内で(クエスチョン)マークが大量発生するココア。そんなココアに、リゼは、

 

「もっと笑ったら取っ付きやすくなるのに勿体無いよなー」

 

「え……えええええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

この日、ココアは人生最大の衝撃を受けたという。

 

 

 

 

 

 

 

~☆~

 

 

「『rabbit horse』ねえ……」

 

先日来店した客が置いていった『rabbit house』のチラシを見ながら、俺は呟く。

 

チラシで、よりにもよって店の名前をスペルミスするのはどうかと思う。下に書いてある「うぇるかむかもーん」という造語と合わせると、さしずめこのチラシは『兎馬へ うぇるかむかもーん!』と宣伝していることになる。それでいいのかラビットハウス。

 

等と考えていると、いつの間にか俺は噴水広場まで来ていた。噴水広場は木組みの街の中央に位置する、その名の通り噴水がある広場だ。ちなみに俺の家は木組みの街の東端の方にある。チラシを見ながらだったため気付かなかったが、結構な距離を歩いてきたようだ。

 

「どっこいしょ」

 

年寄り臭い掛け声を出しながら、広場のベンチに座る。

 

すると、どこからか野良兎がひょこんと現れた。

 

「おお、野良兎か。この種類は……ホーランドロップ?」

 

やや大きめの体にたれ耳を持つその兎を見ながら、俺は言った。

 

 

 

木組みの街では、割とよく野良兎の群れを見かける。他の街ではまず見ることのできないそれは、この街の観光資源の一つとなっている。この街が『うさぎの群れが見られる街』『木組みと石畳と兎の街』『もふもふ天国』などと呼ばれていたり、この街のマスコットが兎をモチーフにしているのもそれが原因である。

 

さて、野良兎は通常はミニウサギ、つまり雑種で構成されている場合がほとんどなのだが、稀に別種が混じっていることがある。

 

この『ホーランドロップ』は、兎の中でも好奇心旺盛で、抱っこしやすいサイズであるということから人気の種類であり、たれ耳が特徴的な兎である。

 

閑話休題。

 

見ると、ホーランドロップはつぶらな瞳で俺を見つめていた。かわいい。

可愛いので頭を撫でてやった。すると、ホーランドロップは顔を綻ばせながら俺が頭を撫でるのに合わせて首を振った。かわいい。

 

ホーランドロップくん(ちゃんかもしれないが)の可愛さをしばし堪能していた俺だったが、いつまでもこんなことをしているわけにもいかない。俺はホーランドロップくんを撫でるのをやめて、ベンチを立った。すると、

 

「…………」

 

名残惜しそうに俺を見つめるホーランドロップくんの姿があった。

 

……かわいい。かわいい。かわいい!この子をずっと愛で続けていたい。よしうちの子にしよう。

 

俺こと楽戸 氷、うちで兎を飼うことを決めた瞬間であった。

 

 

それはそれとして。

 

 

あまりにもこの兎が可愛いのですっかり忘れていたが、俺が今日こうして外出している理由はラビットハウスにいくため、なのである。

 

先日うちに来た客が置いてきたチラシのインパクトが凄かったために、いつか行ってみようと思っていたのだが、たまたま今日は家の手伝いをする必要が無くなったため、せっかくだから今日行こう――となったのである。

 

「ラビットハウスは木組みの町の中央の方……と」

 

チラシに描かれた地図を見ながら言う。どうやらラビットハウスは噴水広場の近くにあるようだ。

 

「よし、行くぞ」

 

俺はホーランドロップを抱きかかえると、ラビットハウス目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

「そろそろ笑ってやったらどうだ?」

 

リゼはチノに提案する。昨日ココアがチノの笑顔を見たことがないと発覚してから、ココアはチノの笑顔を写真に修めようとあれこれ画策している。しかし、ココアの努力も空しくチノはココアにまだ笑顔を向けていないのであった。

 

「見せなくていいんです」

 

チノは言った。

 

「私はココアさんにとってわが子を突き落とすライオンです。這い上がってきた時に笑いかけるんです。多分」

 

「照れてるだけって正直に言えよ」

 

チノの謎理論にリゼが突っ込む。

 

「全く……そうだチノ。くすぐったら笑うだろ」

 

そう言ってリゼはチノの腋の下をくすぐり始めた。

 

 

こちょこちょこちょこちょ…………リゼのこちょまし攻撃にチノが浮かべた表情は、

 

「や……やめてください……」

 

女性が快楽を覚える一歩手前のそれであった。

 

「や……やめ…ちょ……ひゃう!そ……そこはダメです~~」

 

今にも飲まれてしまいそうな弱々しい声。文字にすると相当いかがわしい言葉の数々。

それらを生み出させている元凶であるリゼはというと、

 

(なんだろう……この犯罪を犯しているような気持ちは)

 

罪悪感を感じていた。

 

「や…ひゃ……ちょ、ちょ……ひゃ、ひゃあ!や、やめて下さいリゼさ……ひゃッ!」

 

(やめよう)

 

そう思ってリゼが手を離そうとしたとき。

 

 

――カララン

 

 

ちようどラビットハウスのドアの方からベルが鳴る音がした。

 

それはつまり、お客様が来店したということである。

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「ひゃ…ひゃあ……はあ……はあ……」

 

チノの腋に手をやったまま、目をドアのほうに向け固まるリゼ。

 

どこが、とは具体的に書かないが、とにかく色々やばいチノ。

 

そして、垂れ耳が特徴的な兎を抱えた大変間の悪い客はしばしその光景を見て固まっていたが、

 

「……あ、お取り込み中でしたか。失礼しました」

 

「待ってくれヒョウ!誤解だ誤解!逃げるように立ち去らないでくれー!!」

 

ラビットハウスから、リゼの怒声が鳴り響いた。




何この三点リーダーの使用率。
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