郊外のホテルには、大人数の女達が居た。
「いい様よね」
「男がいい気になるから、こうなるのよ」
どうやら、自分達が貶めた男達の話で盛り上がっているようだ。
それを聞く一人の女が、誰にも気付かれぬように溜め息を吐き出した。
その女は、女尊男卑主義者であったが、どうにも今の風潮は好きにはなれなかった。女であれば誰でも偉い、男は誰であれ自分達より下、という分別の無い無差別な差別思想。
それが、女は嫌いだった。だが、それと同時に自分も同じ穴の狢だと言う自覚もある。
女は元々、女性権利向上団体に属していた。女の権利を向上し、男と同等若しくはそれ以上の立場になる。それが目的の団体だった。決して、無闇矢鱈に男を卑下し自分達が勝ち誇る団体ではなかった。
その筈だった。
なのに
先程から、考えが堂々巡りしている事に気付き、女は一度考えを止めた。
御高説を掲げ、大層な理念を語ったところで、結局は自分も同じ女尊男卑主義者に過ぎないのだ。
差別主義団体に係わらず、自分達思想団体というのは、その思想を誤るべきではない酔うべきではない。一度そうなってしまえば、今の自分達の様な愚か者の集団に成り下がる。
「これで、私達も」
「ええ、幹部よ」
馬鹿馬鹿しい、内心で吐き捨てた。結局、自分達の思想のの為ではなく、自分達の名誉欲で何人の優秀な男が犠牲になったのだ。
本当に馬鹿馬鹿しい。嘗ての思想は何処に消えたのか、否、最初から思想なんて無かったのかもしれない。
一度でも思想に酔ってしまえば、掲げた思想も只の下らない言葉遊びになってしまう。
ああ、なんて下らない。
こいつらを見下しても、結局は自分も同じだ。
抵抗する事もせずに、否、流されるままにこうなっているから、もっと酷い。
もう、どうにもなら無い処まで来てしまった。どうにもなら無いなら、せめて、この思想に殉じよう。
愚か者は愚か者らしく、愚か者として死のう。
女は、そう決めた。そう決め、女の頭が赤く咲いた。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「え~、それでは~、只今より『チキチキ女尊男卑団体潰しちゃお~大会&国家代表で遊ぼう!』を始めたい!」
「始めるじゃなくて、始めたいのか・・・」
丸グラサンの酒瓶片手開会宣言に黒スーツ埓外スナイパーが突っ込んだ。
だが、その突っ込みはまるで効果が無いようだ。
酒瓶の中身、琥珀色の液体を喉に流し込んで丸グラサンが続ける。
「あ~、あれだ。もう、大将がぶっぱなして真っ赤なお花が咲いたからな。そう言う事だ」
「あ~、咲いたなあ」
「咲いたわねえ」
「咲きましたねえ」
フェイゲン、オータム、スコール、アヤイチがジト目でジンクを見る。
それに、ジンクは何なんだろうなぁと思う。
言ってしまえば、先の狙撃もこいつらが「早く帰りたい」と言ったから撃っただけで、個人的には撃たなくても良かった一発だ。
それなのに、こいつらときたら、「え、マジで撃ちやがったこいつ・・・!」みたいな感じで見ている。
「いや、お前ら」
「いや、大将。俺らが言いたいのは、そうじゃない」
「あぁ?」
「マジで撃ちやがった、じゃなくて『マジで当てやがったこいつ・・・!』だ」
そっちかー、撃った事じゃなくて当てた事かー。
だって、丁度良く窓際で丁度良く良い角度で丁度良く無風だったから、そんなん素人でも当てるわー。
「こいつマジで当てやがった、3㎞」
「当てましたね、3㎞」
「頭おかしいわね、3㎞」
こいつら・・・!
「それでどうする?」
「何がだ?メフィスト」
「3㎞先の相手に、どうやって接近するの?」
「「「あ」」」
考えて無かったのか、こいつら。
「おい、どうすんだ。3㎞!」
「何とか言えよ、3㎞!」
「3㎞3㎞うるせぇ!潜伏してるネクロスとクィーンに連絡入れろ!中から攪乱して鴨打ちにするぞ!」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「ええ、了解です」
「ネクロス、どうしたのかしら?」
「急遽予定変更だそうで、内部から攪乱しろと」
「あらあら、仕方ないわねぇ」
全く仕方のない連中だと、思いつつも隠れている部屋で準備を進める。
「なんでも、当てやがった:大将:3㎞、との事らしいのですが」
「何をやってるのかしら?」
「さあ?」
やはりキチガイはやることが違うと、二人は考え部屋の外を伺う。
「どうかしら?」
「一人居ますが、向こう向いてますから、アヤイチに教わったアレを試してみましょう」
「あら、アヤから?」
「ええ、見ていてください」
言って、ネクロスは音も無く部屋から出ていった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「あ~、メンドクセェなぁ」
男の警備員が、欠伸と共に悪態を吐き出す。
上では、綺麗ところが豪勢なパーティーをやっている頃だというのに、自分を始め男は地下か出入口の警備だ。
馬鹿馬鹿しくて、欠伸の一つや二つ出てくるというものだろう。
ふと、気配を感じた。
欠伸を吐き出し、胸の息を入れ換えた後に背後で何かが動く気配がしたのだ。
ここは地下だ。侵入路は二つ、エレベーターか階段だ。だが、その二つ共自分の視界内に納めている。
だから、そこからではない。
ならば、自分がここに来る前から居た奴が居ると言う事になる。
そうでないなら、ゴーストの類いだ。男はその手のモノを信じていない。ちょっと「お?」みたいな体験はあったが、信じていない。
なら、これは・・・
思案に入った男に衝撃が入った。
「隙たい!」
正確には、男の脚の間、体外に露出した内臓にダメージが入った。それはもう、綺麗に入った。再起不能である。
男は薄れていく意識の中で、声を聞いた。
「ネクロス、今のは何かしらぁ?」
「アヤイチに教わった日本の鍛練方法ですよ」
「日本人はクレイジーねぇ」
「ええ、まったく」
そして、それはお前らもだ、と思い、意識を失った。
「それでは?」
「上に行きましょうか」
キチガイパーティー開幕です!
隙たい(スキタイ)
日本の九州は薩摩隼人達の日常訓練
後ろから見て、隙のある輩には隙たい!と叫んでコーカン度上昇の蹴りを下からぶち込むというもの。
だが、再起不能の若者が増えすぎたので、島津家により禁止された。
代わりとして、示現流が広まっていった
出典
境界線上のホライゾンⅣ下