東方喰種! 現代入りしたルーミア   作:YSHS

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R-15とありますが、残酷描写が入るのはもっと先になります


お待たせ! プロローグしかなかったけど、いいかな?

【1】

 

 『あんていく』という喫茶店には、世間には絶対に知られてはいけない秘密がある。その秘密というのが、従業員の全員が喰種(グール)であることである。而して、僕がそれを知っていて、尚且つその『あんていく』で働きだした事の仔細は、僕が喰種であるからと類推するのは間違ってはいない。ただ否定しておきたいのは、僕は生まれつきの喰種ではないということだ。元は人間の、半喰種。詳細は端折るが、喰種の内臓を成り行きで移植したら変化してしまった次第なのである。

 

 さて、今しがた、『あんていく』の従業員には喰種しか居ないと言ったものの、早速それに疑念が湧きあがるような要素が出てくる。それが、この店のお手伝いをしているという十代前半の小柄な少女ルーミアちゃんなのだ。

 

 この娘は、フルネームだとRumia(ルーミア) Nox(ノックス)というらしいのだが、どうも彼女はファミリーネームを意識していないみたいで、彼女を知る人から聞くと、名乗る際にはファーストネームのほうだけなのだとか。

 

 喰種は人肉を喰らう種族で、それゆえに身体能力は非常に高く、また赫眼という、狩りの際には目が赤くなる性質を持つ。この娘も、人肉を喰らい、そして常時目が赤い。身体能力も人間のそれを凌駕していると聞き及んでいる。それだけを聞けば彼女は単なる喰種である。ただ、彼女は普通の喰種とは決定的に違うところがあるのだという。

 

 確かにルーミアちゃんは人肉を食う。だが、普通の食べ物も、実に美味しそうに食べる。その証言として、彼女はよくつまみ食いをするのだとか。

 

 また、彼女は常時目が赤いと言及されたが、かと言ってそれが必ずしも喰種の赫眼であるとは限らない。まず赫眼とは、中央の瞳が、凝固しかかった血液のように赤黒くなり、白目だった部分は真っ黒に染まる。これは、瞳と白目の色を近くすることで視線を悟られにくくするためである。で、彼女の場合は、この赫眼の特徴に当て嵌まらない。白目の部分はちゃんとある。瞳の部分は、赤は赤でも鮮やかな赤の虹彩。これは目の色素保有率が低い、謂わばアルビノの目ということになる。

 

 ちなみにルーミアちゃんはアルビノではない。色素は薄いだろう。しかしそれは、せいぜい髪の毛の色が完璧な金色であったり、肌がほとんど日に焼けていない象牙色である程度のことである。

 

 ところで、どうして僕がここまで彼女の、主に外見的特長について知っているのか。言っておくと、僕に人をじろじろ観る趣味はない。知る機会があっただけなのだ。彼女は、何故か僕に懐いているようで、一緒に居る時間が長いのである。

 

 今も一緒に居る。僕の隣を歩きながら、その辺にあった植物から取った葉っぱで草笛を吹いている。

 

 白いブラウスに赤いネクタイ、その上に真っ黒なベスト、黒いロングスカート着用している。白い靴下と赤いローファーを履いている。髪は金髪のボブカットだが、左側頭部辺りの髪の毛が一部――本人は知らないの一点張りだが――不自然に削れている。

 

 さて、今僕たちが歩いているのは、僕が通う上井大学のキャンパス内であるわけだが、隣を歩くルーミアちゃんが大きな音で草笛を吹くものだがら、どうしても注目が集まってしまう。また最初のほうでは、彼女は西洋人らしいビスクドールのように整った顔立ちをしているものだから、そんな少女がキャンパス内を僕――明らかに兄妹ではない――みたいな者と闊歩しているのだから、周囲からの注視時間は長くなっていたものだった。

 

 今となっては、所謂マスコット的な扱いをされており、草笛の音を聞いた者が――女学生が多い――駆け寄ってきては彼女を猫可愛がりする状態だった。

 

 僕としては、授業があって常に彼女のそばに居るわけにはいかないから、放っておくとフラフラとタンポポの綿毛みたいにどこかへ行ってしまう彼女の足止めをしてくれるのは有難いことではあった。さては、食い意地が張っているルーミアちゃんに食べ物を与えてくれるのも同じく有難いのであった。

 

 授業のため一旦離れた後で、授業が終わった今、ルーミアちゃんは何かを食べている。

 

 「何を食べているの?」

 

 僕は何気なく訊いた。

 

 「シュークリームだよ」

 

 「美味しい?」

 

 「うん」

 

 「ふうん、良かったね」

 

 素っ気ないやり取りに聞こえるだろう。けれども、彼女は本当に美味しそうに食べていて、食べることに集中しているから口数が減るのであり、決して彼女が冷たいわけではない。

 

 喰種は普通の食べ物が食べられない。口に含もうものなら、瞬く間に吐き気を催す不快な味が口の中に広がる。そうなれば食べ物なんてとても飲み込めたものではない。けれども、喰種は人間社会に溶け込んでいるのだから、当然普通の食べ物を食べられるような演技を習得しているはずである。彼女もそーなのかーもしれないが、僕の中では違うと、根拠は薄いけど確信していた。

 

 人間の感覚というのは思いの外鋭敏なもので、例えば喰種が人間の食べ物を美味しそうに食べる演技をしていても、どこか違和感を感じるものなのだ。ただ、喰種という存在を認知していても実感を持たない世間の人々は、その違和感を気のせいか何かとして、あまり気にも留めないから気が付かないのである。

 

 ルーミアちゃんからは、僕がどんなに彼女のことを注意深く観ても、そんな違和感は看取されなかった。

 

 シュークリームの最後の一口を頬張り、手に付いたわずかなクリームを舐めて、ルーミアちゃんは僕へ顔を向けた。

 

 「たしかお勉強はこれで全部終わりだよね。じゃあ行こっか」

 

 微笑んでいるのか呆けているのか判らない顔で、ルーミアちゃんはそう切り出した。

 

 「うん、そうだね」

 

 そんな彼女を見ていると、僕は、今後ルーミアちゃんと接する上で、彼女がどんな人格であるかを判断しあぐねてしまうのであった。

 

 【2】

 

 幻想郷最東端にある博麗神社。最近になり、宵闇の妖怪ルーミアの行方が知れないという事が判明し、大騒動とまでは行かずとも、幻想郷の中核を担う者たちの間ではちょっとした騒ぎになっていた。

 

 「たかが弱小妖怪一匹に、どうしてここまでの騒ぎになるのでしょうね」

 

 折りしも博麗神社に訪れていた少女、東風谷早苗は胡乱に呟いた。

 

 「ねえ、霊夢さん、どう思います?」

 

 彼女は社殿の縁側に腰掛けながら、現在近くで境内を竹箒で適当に掃っている巫女に、博麗霊夢に話を振った。

 

 「どうって、何をよ」

 

 「ほら、宵闇の妖怪が失踪したって、妖怪の賢者たちが騒いでいるそうじゃないですか。あの妖怪って、ルーミアってそんなに大それたものなんですかね」

 

 「まあ……少なくとも、ただ失踪しただけだったら何の問題もないわね。尤も問題なのは失踪先よ」

 

 「と言うと?」

 

 「もし、ルーミアが外の世界に行ったとしたら……多分、大変な事になりかねないってこと」

 

 早苗は首をひねりながら、勿体ぶらないでくださいよ、と言った。

 

 「端的に言えば、ルーミアは元々は、鬼の四天王にも匹敵するような大妖怪だったのよ」

 

 「大妖怪! あれがですか?」

 

 早苗は瞠目した。

 

 「でも、あのルーミアですよ。人型だからって、確かに有象無象の妖怪よりも強いのでしょうけど、何の訓練も受けていない人間が対処したなんて事例があるくらい弱っちい妖怪でしょう。それに『幻想郷縁起』にも――私の見落としでなければ――強かったなんて記述はされていなかった」

 

 『幻想郷縁起』というのは、ここ幻想郷の妖怪たちをはじめとした、それらに関する情報が綴られた書物である。人間の生活の安全を確保するために、妖怪の実態、危険区域、理解や対策などを伝播する目的で作られた物なのである。

 

 しかし、情報を広く一般に知らしめるためであると言うことは、即ち、長すぎて解りにくいものとならないようにする必要があるということである。つまり、詳らかに記すにしても、最低限かつ平易な書き方になる。故に、その辺の他愛もない妖怪はまとめて扱われ、ルーミアのような弱小妖怪などの項は、あまり書かれないのである。

 

 「所詮あれは、人が創った歴史がしたためられた書物の一つに過ぎないのよ。宵闇の妖怪が強かったという『歴史』さえ消してしまえば、たとえ、あれを知っている個人が寄り集まっていたところで、それを拡散させてしまえばいいだけのことよ。勿論、矛盾は残るでしょうね。だけれど、縦しんばその矛盾に気付いて真実を知ったところで、それを知った個人がどう足掻こうとも、為せることは何も無いわ。良い線まで行って管理者に消されるのが関の山よ」

 

 鷹揚な足取りで霊夢は社殿へ近づき、その辺に竹箒を立て掛けて、早苗の隣に座った。

 

 「そんな、『歴史』の抹消なんて無茶苦茶じゃないですか。大体、宵闇の妖怪が元々強かったなんて『歴史』を無くす理由なんてそうそうないじゃない、せいぜい個人的な動機くらいですよ。だからと言って、おいそれと『歴史』の抹消なんて出来るはずが――」

 

 「ここが常識の通じる世界ならね」

 

 霊夢は、早苗の言葉を遮るような大きく通る声音で言った。

 

 「里の守護者――早苗も知っているでしょ――上白沢慧音が『歴史』を食べ、あとは、個人で宵闇の妖怪について知っている者たちの、その情報を共有しているという部分の『境界』を八雲紫が断ち切ってしまえば……」

 

 ちらりと彼女は早苗を見やった。

 

 それならもしかして、と早苗は神妙な面持ちで呟いた。

 

 「そもそも、宵闇の妖怪なんていう、如何にも強そうな妖怪がどうして弱いとされているのかしらん」

 

 と、霊夢。

 

 「そりゃあ、ラスボスっぽい敵が一面のボスなんて出オチを狙ったからでしょう」

 

 「それは飽くまで、あのビール神が何を狙ってルーミアをあのポスト置いたかの説明じゃないの。そうじゃなくて、東方の世界の中で、どうしてルーミアが弱いかということよ」

 

 「なぁんだ、そっちのことか。ちょっと勘違いしちゃいました!」

 

 えへへ、と、早苗は茶化す調子で笑ってみせた。

 

 「それでその解釈についてだけど――」

 

 霊夢は、徹底的な無視を決め込む姿勢を見せつけた。

 

 「――少なくともこの話の中では、筆者は、東方の世界で明らかにされていないこと……もしかしたらこの先永劫に明かされないこととかには、正しい答えは無いと見立てているわ。例えばルーミアのあのリボンとかは、何かを封印している御札とは公式に言われていて、ファンはそれを、ルーミアの本当の力を抑えるためのものなどと予想を立ててはいる。けど、実際には答えなんてなくて、ファンに各々想像させて楽しませるためのどうでもいい設定だというのが筆者の推測、もとい憶測よ」

 

 「じゃあ、少なくともこの話の中では、ルーミアの強さには根拠があって、弱くなったのにも訳があると言うんですね」

 

 「ええ、そうよ」

 

 ふと霊夢は立ち上がって、社殿の中のちゃぶ台の上に置いてある、二つの湯呑みの内片方に急須の中の茶を――中に落ちた茶葉の粕が混ざるように左右に軽く振ってから――注いでそれをあおった。茶は既に冷えていたようで、心地良さそうに息を吐いた。

 

 「オジサン臭い」

 

 「あんたが長々と喋らせるからでしょう。で、どこまで話したっけ」

 

 「ルーミアの解釈を語る上での前提までは話しましたね」

 

 「そう。それじゃあ――」

 

 と、霊夢が話を再開させたところで、

 

 「その前に、お茶を貰えませんか、私も結構話したもので喉が渇いちゃって」

 

 黙って霊夢は、急須の中の茶の残りを、もう片方の湯呑みに注いで早苗に渡した。ありがとうございます、と言って早苗は受け取った。

 

 「茶粕が濃くて飲みにくいと思うけど、いいかしら」

 

 「ま、多少はね?」

 

 湯飲みを軽く揺らしてから、平然と早苗は茶を飲んだ。

 

 「どうぞ」

 

 彼女は手で促す。

 

 「まず、妖怪が存在する上で、最も重要な必要条件は何かしら」

 

 「人間からの恐怖ですね、神様で言うところの信仰みたいなものでしょう」

 

 「そうね、妖怪というのは、人の物や現象に対する畏怖とかから生まれた存在。九十九神だって、人が物を大切にするよう啓発するために、子供を脅すのと同じように創られたとも考えられるわ。百年も使わずに九十九年で捨てちゃうと、器物が持ち主を恨んで化けて出てくるぞってね」

 

 「そういった話が人々の間に浸透し、その集団の意識が妖怪を存在させる事となった。だからこそ、妖怪は噂通りの習性を持つというわけですね」

 

 「そういうこと。そしてそれを支えているのは人間からの恐怖。で、いつの時代も人間は宵闇に対して恐怖を抱いているわね? たとえどんなに光を作ったとしても宵闇が怖いことには変わらない、それどころか暗闇に対する耐性が減る可能性だってある。いわんや、人間の宵闇への恐怖の権化たるルーミアが、その『信仰』を受けているはずの彼女が、どうして弱くあるのかしらね」

 

 「あっ、確かにそうですよね。殊にこの幻想郷では妖怪の存在が認知されているのだから、ルーミアは強いというのが至当なはず。それだけじゃない、宵闇への恐怖は外の世界でも続いていて、その世界で彼女が活動する事に因って、人を喰う宵闇の恐怖が喚起されたら、或いは……」

 

 早苗の言葉尻がすぼんだ。何かを話そうとしてはいるが、まとまらないようで、沈思しながら眼があちらこちらに泳いでいた。

 

 「碌な事が起こりそうにないわね」

 

 そんな早苗を尻目に、霊夢は言った。

 

 「霊夢さん……」

 

 早苗はおもむろに喋りだした。

 

 「私、とても嫌な予感がするんですけど、……どう思います」

 

 「どうって、今言った通りじゃない、碌な事が起こりそうにないわねって。どうしたのよ、そんなに色めき立って」

 

 興奮気味の早苗とは対照的に、霊夢は至って冷静であった。そんな彼女を見て、早苗は戸惑っている。

 

 博麗霊夢には、文字通り神懸り的な鋭い勘がある。たとえ、雲を掴むような事に於いても、勘を働かせて適当に動くだけで須臾にして物事を解決してしまうのである。今にしても、早苗は霊夢の勘に答え合わせを求めたのであろう。しかし返ってきたのは肩透かしなものだったのだ。

 

 「私、途轍もなく嫌な予感がするんです。何か大事なことを忘れている、否、顕在意識上では忘れていても潜在意識下ではおそらく覚えていて、それから推し測ったことがあるんだって。杳として判らないけど、きっと何か大変な事が起こるかもしれないと感じるんです」

 

 早苗はずいっと顔を霊夢に近づけながら捲くし立てた。渋い顔で霊夢はそれを押し戻す。

 

 「どうせ考えすぎでしょう。同じようなことを諄々考え込んでいるから、あれやこれやと色々な可能性が浮上してきて、その中で自分にとって関心が強いものを針小棒大に推すのよ」

 

 「常に最悪を想定して行動すべきです! 何があなたをそんなに暢気にさせるんですか!」

 

 「勘よ」

 

 霊夢は即答した。

 

 「霊夢さんの勘だってたまには外れはしますよ。さあ、うかうかしていられません、宵闇の妖怪について調査をしに行きましょう!」

 

 勢い良く早苗は立ち上がると、渋る霊夢の両肩を引っつかんで立ち上がらせた。

 

 「面倒くさいわねぇ……。第一、当てはあるの?」

 

 そんなの決まっているじゃないですか、と、早苗は如才無い返答をした。

 

 「宵闇の妖怪の歴史改竄に一枚噛んだと思しき人物、上白沢慧音さんのもとにです」




反応が芳しかったら、また、気が向いたら更新すると思います。
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