「こっちよ」
手招きをするルーミアに、カネキは続いた。現在二人はアオギリのアジトの脱出の最中であるが、その前に『あんていく』の仲間と合流して、カネキ奪還が完了したことを告げて回る必要がある。
しばらく彼女について行くと、見覚えのある所に来た。ある角まで来ると、そこはまさしく見知った廊下の様相である。ここを真っ直ぐ行って突き当りを曲がれば、あそこに着くはずだ。
「研、どうしたの」
ルーミアが振り返って言った。
「ちょっと用事を思い出したんだ、行かなきゃ」
カネキは駆け出した。自身の考えた通りに、真っ直ぐ言って突き当りを曲がった。そうして程なくして、確信した折、カネキの向かう先の方から金属を叩くような鈍い音が響いてきた。また更に近付くと、今度はすすり泣きらしい声が聞こえてきて、男性が悔恨するような声も聞こえてきた。
その場所に行くと、牢屋がみたいな部屋がある。声はそこから聞こえてきていたのである。カネキはここを知っている。今現在、万丈たちが閉じ込められている所だ。
カネキは、彼らが居るであろう鉄格子の部屋の前まで来た。
「だ、誰だッ!」
中の万丈たちは、近付いてきたカネキの存在に気付き、警戒しだした。
「万丈さん、僕です、カネキです」
鉄格子の間から覗いて、顔を見せる。すると万丈たちは、目を見開いて、口を半開きにしだしたのであった。
「カネキ……。カネキ、なのか?……」
「ええ、そうです、あのカネキです。遅くなってすみません、でももう大丈夫です、ヤモリは僕が始末しました」
カネキから告げられて、ますます万丈らは驚いた。
「始末って、あのヤモリをか! マジかよ……」
「厳密にはまだ死んではいないけど……、でも赫包を喰ってやったから、あれからどうなるかは僕の知ったことではないです。……そんなことより、今はまずここから出ましょう」
言うや否やカネキは、下がって、とひとこと言って、万丈らが下がったのを見てから赫子で鉄格子を破った。
「お友達は見つかったみたいね」
不意に、カネキの後ろから声を掛けてきたのはルーミアだった。
「お、お前! たしか首を折られて……」
「喰種だって、首折られたくらいじゃ死なないのなんていくらでも居るじゃない」
ルーミアはそう結ぶと、それはさておき、と前置きして、
「お友達は救出したことだし、早くみんなに伝えなきゃね」
歩き出した。
カネキが彼女に続いて振り向こうとする時、視界の端にとあるものを認めて、思わず動きを止めた。それはコウトだった。
コウトはあの後結局、ヤモリに生かされていたのだ。どうしてかというのは、コウトのカネキを見る眼で明白である。母親を殺された、当て処のない恨みがカネキに向けられるのは当然である。
「コウト君……、あのさ……」
声を掛けようとすると、コウトはそれまでの恨みがましい目つきをやめて、目を伏せる。近付き、顔を合わせようすれば、コウトのほうは、気まずいという風にそっぽを向いて目を合わせようとしない。
「お母さんのことは、その、本当にごめん。あの時点でヤモリは始末してさえいれば……」
と言うと、最初コウトは表情をピクリと動かした。その後動揺のままに視線を泳がせていて、次第に息も荒くなって、感情の発露が見え隠れしていった。涙を抑えるように鼻をすすり、
「うるさいよ……、謝ったところで何になるんだよッ……」
これを皮切りに、溢れだす激情が増していく。さながら、水をせき止めていた壁に亀裂が入り、そこから溢れる水が次第に増えていくかのように。
「お、おい、コウト……。カネキはお前のことを――」
「うるさいッ! こいつのせいでお母さんは死んだんだ! ヤモリを殺せるんだったら、最初からそうしていれば……。もう……、早くどっか行けよッ!」
コウトはカネキを突き飛ばした。よろめいてカネキは、呆然として、それでいてどこか悟ったように立ちすくんでいた。それがコウトは気に入らないらしく、今度はカネキを押して、破れた鉄格子の外へ押し出したのである。
「どっか行っちまえッ!」
怒りと悲しみが綯交ぜになったコウトの顔を、カネキは見ていられなくて、目を背けた。それでもコウトからの視線は感じた。カネキ自身への純粋な怒りではなく、何か他の感情が入り乱れた、コウトの困惑気味の視線を。
それに向き合おうと一瞬目を向けるも、耐えきれずカネキはすぐに目を逸らす。所在なく彷徨う視線が、ちょうど万丈を認め、カネキは視線を万丈に合わせて、
「あの、僕はこれから、『あんていく』のみんなに撤退を伝えに行かなきゃいけないから、もう行きます。……どうかご無事で」
このように旨を告げて、そそくさとその場から逃げるように走り出した。廊下を出てルーミアと合流した、どうやら待っていたらしい。彼女は何も言わず、黙って走り出した。カネキもそれに続く。
コウトのことは、しばらく置いておく。自分もそうだったからだ。
母が死んだ時、目の前の現実が認められなくて、反発に変化したその気持ちが怒りとして表れた。程経て現実が見えてきて、泣いて、後は受け入れるだけだった。
あの子が落ち着いたら、その時膝を交えて話し合い、和解しなければならない。コウトの母を死なせた罪をチャラにしようというわけではなく、物事に決着を付けるために。
一旦建物から出た。そこかしこから銃声が聞こえてくる。たまに爆音も響いてくる。依然として抗争はCCGと喰種らの闘争は、やや下火にはなってきたものの、続いているらしい。
「ところで、みんなはどこに居るのか見当は付いてるの?」
カネキが訊くと、
「実のところ、皆目見当も付かないの」
ルーミアはあっけらかんと、
「本当だったら雛実ちゃんと一緒にカヤのそばで待機しているはずだったんだけど、こっそり抜け出して、建物に入ったんだ。その時には警備は無くなっていたから、どこからでも入れたし、みんながどこから建物に入っていったのかすら分からないの」
このように言った。
カネキはこれを聞いて、少しばかり落胆して、ほとんど息を吐くだけに等しい小さな嘆息したが、すぐさま、そう言えばルーミアはこんな娘だったという考えに至り、今度はむしろ安堵をした。
「ごめんねえ、研」
と、手を合わせて、この場には不相応なにこやかな笑みを浮かべるルーミア。それを無視してカネキは、
「なら、やみくもに探すしかないのかな」
近くの棟に、ふと目をやって、目を見開いた。
建物の屋上に目が行った際、数人の人影があって、現在交戦している様子であった。あそこに居る者たちはいずれも、人間には不可能な機動力と跳躍を見せていたのだ。つまりあれは喰種同士による抗争で、考えられるとしたら単なる仲間割れか、もしくは『あんていく』のメンバーが交戦しているかである。
直後にカネキは駆け出した。中に入って階段を上がることを考えたが、それでは手遅れになってしまいそうだった。そこでカネキは、近くにあった木に飛び乗って、それで小さめの建物に飛び移ってそこの屋上まで登った。そこから助走をつけて、件の建物の屋上に向かって跳躍する。飛距離は足りなかった。が、赫子を屋上のへりに伸ばして、引っ張った反動で一気に屋上へ飛び上がった。
着地する直前、そこに居るのがアオギリのマントを着ている者ばかりなのを見た。敵味方が判別出来ず、やむなく赫子で牽制し、安全に着地をした。
赫子の牽制によって舞い上がった粉塵が晴れてきて、異様な光景が見えてくる。赤いマントの者たちの中に、アヤトが居た。彼は、マントを羽織っている者をうつ伏せに組み伏せていた。
「何だ、生きてやがったか……。俺はてっきり、もうとっくにあの変態にぶっ殺されてると思ってたよ」
アヤトは口元に付いた血を袖で拭って立ち上がった。彼は何を喰っていたのか。
見ると、アヤトが組み伏せていたのはアオギリの人間ではなかった。あれはトーカだ。彼女は背中の肩付近を、羽赫の赫包辺りを喰い千切られていた。荒い息と共にビクビクと彼女の身体は痙攣しており、今にも死にそうなくらい弱っているようだった。
「……トーカちゃんに何をしたんだ」
「何って、見りゃ分かんだろ、侵入してきたから排除してんだよ。赫包を破壊してやるのが一番良いのさ、再生力を大幅に落とせるんだからな。もう勝負は有ったのさ」
アヤトはしたり顔をして、トーカのわき腹をつま先で小突いた。
「彼女から――離れろ」
「そんなわけにいくかよ。そら、見ろよこれ、なあこの無残な姿よォ、なあ、オイ」
と、アヤトは周囲を見渡して見せた。辺りには何人かのアオギリの構成員が、大量に血を流して横たわっていた。トーカがやったのだろう。数人を相手にして、その内の何名かを彼女は仕留めたのだ。
「こっちは部下が殺られてンだ、その張本人をみすみす逃がしましたってわけにはいかねえンだよ、ボケが!」
「なら仕方がないな……」
カネキがそう言った時だった。
瞬間。
突如として誰かが乱入した。
乱入者は手近なアオギリの構成員を三人程、一瞬の内に仕留める。それだけに留まらず、アヤトに足払いを掛けると、瞬時にトーカを抱えてカネキの横に移動したのだ。
足もとを掬われる直前になってアヤトは反応した。転倒は免れなかったものの、受け身を取り、追い打ちを掛けられないよう即座にその場から飛び退いた。
「くそっ、誰だッ!」
体勢を立て直したアヤトは、自分を襲撃したであろう者、今カネキの横に奪還したトーカを置いている者を見やって、一瞬目を見開いて、また細めた。
「なるほど、やっぱり首を折られた程度じゃあ死なねえかもな。或いはあの時はわざとヤモリにやられたってところか……」
「別にわざとってわけじゃないわよ、向こうが勝手に怯えただけ」
ふん、とアヤトは鼻を鳴らした。
さて、とルーミアは口を切る。
「今のでそっちは三人脱落して、あなたを含め三人。もうここまで来ると、さすがに私たちを取り逃がすわけにはいかないわよね」
「かもなァ……。当然、逃がしゃしねェよ、ここでてめえらまとめてぶッ殺してやる。見ろよ、そっちの馬鹿姉貴なんか気絶してやがるぞ、そいつを護りながら俺らから逃げおおせられっか」
「さて、どうかしらね。出来るかどうかは、研次第……」
と、ルーミアはカネキを見やって微笑んだ。
「えっ?」
と、急に話を振られてカネキは戸惑った、それに委細構わずルーミアはカネキの腰をトンと叩いて、
「後はお願い」
直後、脱兎の如く駆け出したのだ。
呆気にとられてカネキは一瞬遅れて、待ってと言おうとして手を伸ばす。瞬間、二人の者が駆け出す音が耳に入る。これはアヤトの他の、二人のアオギリ構成員だ。
二人の構成員は、ルーミアの逃走を阻止せんと追いかけたのだ。片方は羽赫で、もう片方は甲赫。まず機動力のある羽赫が先行して、飛び上がる。その矢先、ルーミアがそちらへ振り向いたのであった。
「待てッ、お前ら!」
叫びながら構成員二人を引き留めたのはアヤト。一体彼は何を見たのか。
だが既に遅かった。
突如、疾走するルーミアが消えたのだ。否、消えたのではなく、折り返したのだ。相当な速さでいたのにも拘わらず、減速の間すらも無く。そうしてルーミアは、現在空中に飛び上がっている羽赫のほうの真下まで来て、跳躍する。その羽赫の足首を掴むと、地面に叩き付けた。
また瞬時にルーミアはその場から飛び出す。今度は甲赫のほうに蹴りを喰らわした。辛うじて甲赫のほうは反応して、赫子で防御。が、それに因って肩が無防備となった。ルーミアが、甲赫の赫子を纏う相手の腕の根元を叩くと、相手の肩関節と鎖骨、それと肩甲骨が一斉に砕ける音が響いた。
そこへ羽赫の結晶の弾丸が飛んできた。今さっきルーミアに地面へ叩き付けられた羽赫のほうの物だ。
反応してルーミアは、甲赫のほうを盾にしてこれを防いだ。
結晶を放った羽赫は、上体を起こした体勢となっていた。ルーミアの攻撃のダメージから立ち直りきっていないらしく、移動出来ないでいる。
と、今度はまた別の羽赫の結晶が飛んできた。こちらはアヤトに依る攻撃だ。素早くルーミアは、甲赫のほうをそちらに向けて防ぐ。そこを隙と見てか、羽赫のほうがまた結晶を飛ばす。しかしまたもやルーミアはそれを防いでみせた。
甲赫のほうを持ち上げて盾にしたまま、ルーミアは羽赫のほうに突進していった。押し返さんと羽赫のほうは結晶を撃ち返すも、意に介さずルーミアは突っ込んでいく。そしてルーミアは、甲赫のほうの体を、まだ立ち上がっていない羽赫のほうへ投げ付けた。
対して羽赫のほうは、背骨のダメージから既に回復していたのか、それをよけて上へ跳んだ。
されどもルーミアはそれをしっかりと読んでいて、羽赫のほうが飛び上がるよりも一瞬早く跳び上がっており、羽赫のほうを再び地面に打ち落とした。
地面へうつ伏せに激突した羽赫のほう。落下の力を利用してルーミアは、羽赫のほうの首筋を踏み付け動きを封じた。
勝負は付いたと言っても過言ではない。まずはルーミアは、甲赫のほうの腕を、肩甲骨辺りから赫包ごと引き千切ると、それを甲赫のほうの頭へ突き刺した。次に、首の骨をやられて地面に倒れたままの羽赫のほうの頭を掴み、そのままねじ切ったのであった。
この間は実に短い。およそ十秒と少しの間に為されたのである。
「くそッ! あの馬鹿ども、あんな単純な手に引っ掛かりやがってッ!」
そう毒づくアヤトを見て、カネキは得心した。ルーミアは、遁走することで自らを餌に敵を引き付けたのだ。まんまと敵二人は引っ掛かり、ルーミアによって仕留められたというわけである。もしあそこでアヤトまで来ていたらどうなっていたことか。或いはアヤトも諸共沈黙させられていたかも分からない。
カネキはルーミアの戦いぶりを直接、まともな精神状態で見たことはないが、彼女なら出来るものと、どういうわけか納得していた。
再びルーミアは、カネキの近くへ寄ってきて、そこに寝かせてあるトーカを担ぎ上げると、
「じゃ、私はみんなを呼んでくるから、研は後をお願いね」
それだけを残して、そこを後にした。
「あッ、おい、待ちやがれッ!」
というアヤトの制止は全くの無視であった。
その時はもうルーミアはそこには居なかった。何故かは分からないが、ここの屋上の周囲に黒い霧のようなものが現れて、アヤトやカネキの視界を遮って、これが晴れる頃には彼女は消えていたのだ。
まるで大切な物を風に攫われてしまったみたいにアヤトは放心していた。カネキのほうも、何だか狐につままれた心持ちで、ルーミアのあの、人を小馬鹿にしたよく分からない行動を反芻するのであった。
ふう、とアヤトが腰に手を当て深く息を吐いた。彼は俯いて、おもむろに首を横に振る。それで唐突に、哄笑混じりの咳を一つした。
「なあ……」
アヤトは誰にともなく声を掛けて、思わずカネキが、
「ん?」
と反応を示した。
「俺はこれからどうすりゃいいんだ?」
いやにアヤトは落ち着き払っていた。
カネキにはアヤトの今の気持ちは分からない。ルーミアに翻弄された憤りを抑えるために、敢えて平静を装っているのか、はたまた彼女が去ったことで訪れたこの寂寞とした空気に当てられたことで、却って落ち着いているのか。或いは、この惨状を、上にどう報告したものかと途方に暮れているのかもしれない。
「出来れば見逃してほしいんだけど」
回答に困ってカネキは、つい直球でそんなことを言った。
「出来るわけねえだろ、そんなん……」
アヤトは顔を上げた。その顔は憮然としていた。
そして唐突に、ガンッという鈍い音を立てて、近くの手すりを蹴ったのだ。
「あああ! ちくしょう!」
と、次いで、吠えるように絶叫を上げると、肩から出ていた赫子を一層増大させたのである。
「とりあえず、てめだけはぶっ飛ばす! もう面子なんてどうだっていい、俺はお前が気に食わねえンだ。特にその眼がな! 知った風な綺麗事を語ってるみたいで気に食わねェ……」
カネキには、今のアヤトはただ虚勢を張っているように見えた。もうここで戦う理由も必要も無いが、心の内に残った、詮方ないわだかまりがアヤトを駆り立てているのだ。
自分としても毒気が抜かれていて脱力気味なのだが、せめてこれだけはという気持ちでカネキは構えた。
お互いに見合う。けれども周囲の喧騒が耳に付く。集中出来ていない証拠だ。
尤もそれは向こうも同じであろうが。
さして膠着状態にもならず、この睨み合いはすぐに解けた。
先手を打たんとアヤトが飛び出した。カネキに急速に接近するその間に、アヤトは赫子の結晶を撃ち出す。カネキはそれを自身の赫子で弾きつつ、横に回避した。
アヤトによる結晶の弾幕が追ってきて、カネキは相手の周囲を回ってそれから逃げる。
羽赫は燃費が悪く、特に弾幕は最もRc細胞を消費する。それ故に、エネルギィ節約のためにアヤトは一旦弾幕を打ち切った。そこにカネキは突っ込んでいく。相手の方の、敢えてややズレた方向へ突進していった。
アヤトは結晶を数発撃って迎え撃つも、あらかじめズレた方に進んでいたカネキはあっさりと回避。両者の距離が縮んできて、再びアヤトは赫子をカネキに射つ。その攻撃をカネキは赫子で弾き、アヤトへ肉薄して拳を入れた。これをアヤトは肘で受けようとするも、カネキの拳はアヤトの上腕を掠めて胴体に当たる。しかし衝撃の一部がアヤトの腕に行ったことで、ダメージは減衰していた。
カネキはアヤトに捕まれる。すかさずアヤトはカネキの顔面に頭突きを入れた。
負けじとカネキも相手の腹に膝を入れる。堪えてアヤトがカネキの腰にタックルで組み付く。
腰に組み付くアヤトの背中にカネキは肘を打ち、投げ飛ばした。アヤトは鉄柵にぶち当たる。そこへカネキが赫子を放つも、ジャンプでよけられ、鉄柵の上部分だけが破壊された。
アヤトからまた結晶が放たれる。だが発射の勢いは弱く、結晶の一つ一つも小さく、数も少ないため、カネキは簡単に回避出来た。
度重なる戦闘と、今の激しい戦闘に、赫包のRc細胞の蓄えが底を突いたのだ。
空中で集中が発散しているアヤトの隙を突いて、カネキが飛び上がった。アヤトもそれに気付いてまた結晶を繰り出すが、カネキは腹を括って真正面から突っ込み、アヤトを捕まえた。そしてそのまま下に落とした。
次の瞬間、肉を突き破る音が響いた。今しがたカネキが破壊した鉄柵が、落ちたアヤトの胴体に突き刺さったのだ。鉄柵は上の部分が吹き飛んで、柱の部分が剥き出しで杭状になっている。
アヤトは絶叫した。が、声はあまり出なかった。胴へのダメージに因るものだ。
通常の武器では傷付けられない喰種だが、不意打ちなどの場合はその限りではない。アヤトは空中で仰向けの体勢のまま、杭状になった鉄柵が下にあると思わなかったために、胴を貫かれたのである。
カネキは、アヤトの腹から突き出た鉄棒を掴むと、これを力任せにひん曲げた。これでアヤトは無力化出来たと言えよう。
ここに来てカネキは、肺に溜まっていた空気を一気に吐き出す。若干呼吸は乱れている。
一方アヤトは、身体を起こそうとするも、力が出ないようで、そのままぐったりとした。息も絶え絶えだが、生きてはいるらしい。
「一つ訊いていいかな」
言問うカネキ。アヤトは反応をこれといった反応は示さないが、カネキは勝手に続ける。
「『あんていく』でのことなんだけど、あの時、ヤモリに向かっていくトーカちゃんを、君は殴ったよね。でも何だかそれが不可解なような気がしてならないんだ。いや、あのシチュエーションなら自然なんだけど、僕にはどうも不可解だったんだ。何が不可解なのかは分からないけど……」
そう言って沈思する。
あの時、ヤモリがカネキに絡んでいた時、突っ込んでいったトーカをアヤトは妨害した。カネキは、あの場を取り仕切っていたのはアヤトだと踏んでいた。で、その時、ヤモリがトーカを返り討ちにすると事態はますますかき乱されるわけだから、現場を取り仕切る身としては、あの時トーカを妨害するのは正しい判断であっただろう。
それにアヤトはあの後、トーカを挑発してヘイトを自身に向けさせた。そうすることでトーカを沈黙させられる口実が出来たわけである。
なお、あの時はヤモリはルーミアにまで絡んでいて、それで更に興奮した。これを慮ると、ヤモリがトーカを攻撃してまた更に増長することを防げたのだから、英断であろう。
何のおかしな点も無いはずだ。
「でもどうしても違和感を感じるんだ。あの時の君は、合理的な判断をしたというより、むしろ感情で動いていたようにも見えた。トーカちゃんを挑発するのだって、ただ単に冷徹だったってだけじゃなかったんだ」
カネキは悩んでいた。自分の推察は、もしかしたら思い違いなのかもしれない。論理的に考えたらそれで済むのに、どこかでアヤトの内の情を疑いきれなくて……、でも明瞭な推測には至らなくて……。
「くくく……」
アヤトは憐れむように、或いは嘲るように、力無く笑った。
「てめえを見てると、うちの親父を思い出すよ、……ああ、馬鹿な男だったさ。まるでこっちの心の内を見透かしたみたいに、知った風な口を利いてたよ」
彼の言葉ははっきりとカネキに聞こえた。とは言え、そのために無理をしていたからか、アヤトは血を吐きながら咳き込む。されどもカネキは、アヤトがまだ何か言いたいということを汲んで、敢えてアヤトを止めずに先を促した。
「人間と共存するためには、人間と同じ物を食べられなきゃいけないとか言って、吐きそうになりながら、隣人がくれた煮物とかを食ったり……。だが最後には、その親切な隣人の通報のおかげでくたばったわけだ。……俺はああはなりたくねえもんだッ! だってよ、隣人の気持ちになって考えてみろよ。喰種っつう、人を喰うかもしんねえ連中から、私はあなたを食べません、だから仲良くしましょうとか言われて、信じられると思うか。人肉しか喰えねえ俺たちは、現状でどうやって人間とオテテ繋いで生きて行けってンだ!」
このように滔々と語るとアヤトは、これまでより一際激しく血反吐を吐き出し、息を荒げながらも、その眼には憎悪を、それとそこはかとない虚しさが混じった感情が湛えられていた。一方でカネキは、そんなアヤトの様に、妙な既視感を覚えた。
「君は……」
カネキはとつとつと語り始める。
「君の感情には、何だか親しみを覚えるよ。……どうして君が、唐突にそこまで語ってくれるようになったのか、何となく分かる。君やトーカちゃんのお父さんに、それだけ僕は似ているんだろうね。トーカちゃんもそうだった。僕のことを半端者とかいって蔑んで、僕の理想論を冷笑しておきながら、何だかんだで僕に優しくしてくれる――」
要領を得ない。頭の中に浮かんだことが、次から次に出てくる。
「僕も親を失った。君の気持はよく分かるよ。僕の母さんは、自己犠牲の精神を徹底して、そこを付け込まれて命をすり減らして――死んだんだ。悲しかったし、寂しかった。中学の頃にその感情がぶり返して、今度は母さんを憎みもしたさ。母さん、あなたの言っていた自己犠牲の精神は、結果的に僕を寂しくさせたよって。あなたは僕に、自分の実の息子に、同じように死ねと? でも今となっては……」
当時の自分をこうして俯瞰して、そして見えたものは、何も無い所に向かって喚き散らす自分――虚しさだった。
所在無さげにカネキは視線を動かして、嘆息するように一つ息を吐いた。
「僕は、君がトーカちゃんに乱暴をしているところに乱入して、当初は半殺しにしてやろうかと思った。全身の二百十五本の骨の内、百十三本をへし折るという、文字通りの半殺しを……」
カネキは失笑した。
「でも君がルーミアちゃんに手玉に取られている様を見て、溜飲も下がったよ。君もまた、彼女に弄ばれて業腹になって、もう何が何だかって感じなんでしょ」
「……かもな」
このようにアヤトは気のない返事をした。適当に聞き流しているのか、はたまた彼自身も何やら物思いに耽っているだけなのか。
それからカネキは、そぞろに居たたまれない気になって、その重苦しい空気の中黙ってそこを後にした。アヤトの方に背を向け、この建物の屋上から降りようと手摺りに足を掛けた折、不意に背後で、鉄が瞬時に引きちぎられる音と、アヤトのものと思しき呻き声が聞こえたので、振り返るともうそこには誰も居なかった。ただアヤトの血痕を残して。
何の気配も感じなかったはずだった。なのにアヤトは、カネキがすぐ近くに居るにも拘わらず回収された。
ひどく薄気味悪い。
あの瞬間、カネキに気付かれずにあのような芸当が出来るものが自分の近くに居たと思うと、まるでうそ寒い風に撫でられたように肌が粟立つ。
「研!」
名前を呼ばれた。きっとルーミアだ。振り返れば案の定彼女だった。カネキが飛び越えようとした鉄柵の向こうにある、隣接した建物の屋上の中心辺りで、手を振っていた。
不思議にも安堵は無かった、むしろ、胡散臭く信用出来ない、自称味方を前にしたみたいな……。
「みんなを見つけた! 敵に鉢合わせない道も確保したから、ついて来て!」
さりとて、その実績に裏付けられる実力は心強いことこの上ない。
意気揚々と告げてきたルーミアは、返答を待たず背を向けて走り出した。カネキも黙って後を追う。彼女の言った通り、道中では捜査官にも敵対喰種にも遭遇しなかった。時たま手負いの敵と鉢合わせる事もあったものの、その時はルーミアによってあえなくとどめを刺されるのであった。
そして、敷地内を出る頃には、あれほどやかましかった銃声や破壊音はすっかり鳴りを潜め、ただ寒々とした静寂の空気が流れるようになった。ルーミアの後ろをゆっくりついて行きながらカネキは、先ほどまで居たアオギリのアジトの建物を眺めていた。元々廃墟だったあれらの建物群は、多少壊れた程度ではあまり変わらなかった、けど、連れてこられた当初の印象と、脱出した今の印象はまるで違うものに感じられた。
ふと、視界の内に人影が入った。それは遠い所に立っていたが、にも拘らず大柄な男であると判る。黒い大きな剣のような物を肩に担いでいる。きっと捜査官。こちらの方を、明らかに見ていた。ところが、その捜査官らしき男は、こちらを眺めているばかりで、襲い掛かってきたりとか、仲間を呼んだりといったことはしてこなかった。その様にカネキは既視感を覚えた。デジャヴなんかではない、あの佇まいは確かに見たことがある。
しばし膠着する。
その後。互いに、黙って背を向けた。相手の挙動には一切注意を払わず、同時に踵を返して。
「お知り合いかしら」
ルーミアが尋ねてくる。
「知ってるでしょ」
それに雑に一言で返す。
白々しく彼女は首を傾げて微笑んでみせた。
二人は再び歩き出した。
道中、安全のある場所の、その辺の木に、負傷したトーカが座って背を預けているのを見つけた。既に意識は戻っていた彼女は、まず目の前をルーミアが通り過ぎるのを見て、次いでルーミア後ろを歩いて来たカネキを見、安堵したように表情を崩した。
更に先には、あんていくの面々も居た。さては、
「万丈さん……、それに皆さんも……無事で良かった」
「あんていくの奴らは、これで全部みてえだな、その様子だと」
万丈は肩を弛緩させて、ほっと一息吐いて言った。
「はい、お陰様で」
微笑みながらカネキは僅かにこくこく頷いた。それから芳村店長の方を見て、芳村店長もまたいつもの優しい眼を合わせた後、鷹揚に頷いた。隣に居た入見や、ヨモとウタもまた同じように。なお、古間のほうは店で留守番をしている模様。
「お兄ちゃん!」
ヒナミはカネキに駆け寄ろうとした。が、かつては真っ黒だったカネキの髪の毛が、今は全て真っ白になっていて、而してそこはかとない悲壮を纏っていることに戸惑いを覚えて、その足をつい止めた。
「お兄ちゃん?……」
もう一度ヒナミは、こわごわと、覗き込むように、顔色を窺うように呼び掛けた。
「どうかした、ヒナミちゃん」
カネキは努めて明朗な表情をその顔に貼り付けて返した。彼とて、ヒナミから滲み出る当惑に気付かないわけがない。
えっと……、とヒナミはまごまごと口籠った。それに対して急かすような真似を、カネキはしないようにした。
と、そこへ、
「雛実ちゃん」
ルーミアがヒナミの横に来て、優しく声を掛けて一呼吸置いてからそっとヒナミの肩に手を置いた。ちらっとヒナミはルーミアを見る。そしてもう一度カネキに目を向けてから、少しの間躊躇した後、こわごわとカネキに歩み寄っていった。
「カ、カネキ……お兄ちゃん、だよね」
「ああ、うん。すっかり髪の色が変わっちゃったけど、うん、僕だよ」
「そう……。あのさ、あの、お兄ちゃんが生きてて本当に良かった……。その……、えっと……、おかえりなさい」
ヒナミは、どういう顔で迎えればよいのか分からないのか、その顔には安堵した笑みと、不安げな顔が交互に浮かんでいた。とにかく安心させようと、カネキはそっと彼女の頭を一撫でした。
「ああ! カネキくん、無事なようで何よりだよ!」
と、耳障りなほど甲高く声を掛けてきたのは月山だった。
当然これは無視。しかし一応、社交辞令として会釈はしておく。どうして彼がここに居るかというのは、大方見当は付くし、それに興味も無い。
「んーっ!」
カネキの後ろでトーカが、立ち上がって伸びをした。
「ったく、これでまた明日も学校行かなきゃなんないってのが辛いな……。こちとら、ただでさえ羽赫だから燃費悪いってのに、赫子は喰われるわ、傷の治りは遅いわ、腹は減るわ、踏んだり蹴ったりだってーの!」
「そうだね……」
「あとさ、あんた、その若白髪どーにかしなよ、目立つったらありゃしない」
カネキの頭髪を指差してトーカは、いつになく親しみのこもった、からかう口吻で言った。
自分の髪の毛を撫でながらカネキは、照れるように相好を崩した。
「いや――」
と、カネキが口を開く。
「僕は『あんていく』には戻らないよ」
そう結んでカネキは、表情を変えぬまま視線を逸らした。
「は?」
対するトーカは、二度見しながら素っ頓狂な声を上げた。
「僕は――『あんていく』からしばらく離れるよ。ちょっと、やりたいことがあって……。準備が必要なんだ、調べなきゃならないこともある、時間も……あんまりない」
「ちょ、ちょっと待って、訳分かんないンだけど……。あのさ、こっちはね、死ぬかもしれない、下手をすれば面が割れて、今後大手を振って外歩けないかもしれないってリスク冒してまで救出しに来たんだけど。それをあんた、無下にするっての?」
彼女は、顔に怒りを浮かべたりでも、悲しさに緩むわけでもなく、ひたすら訳が分からないといった面持ちでカネキを詰問していた。顕著に表に出ていないだけで、その内にふつふつと悲憤絡み合った情が煮えているのが透けていて、耐え切れずカネキは顔を背けた。
俄かに気まずい静けさに包まれる。
「な、なあ、カネキ」
とそれを破ったのは万丈だった。
「今回は、本当に助かった。その……、俺にも手伝わせてくれ、役に立たねえかもしんねえけど、きっと助けになるからよ。パシリにでも、それか『盾』にでも、……要るかどうか分かんねえけどよ」
弱腰な風だった。それでも、彼はカネキを見据え、言った後もきまり悪そうでありながらも、真っ直ぐカネキの眼を見ていた。
「助かるよ」
カネキは、さも頼もしいという体で微笑み、万丈へ手を差し伸べた。
「そっちがよければ、一緒に来てほしい」
「あ、ああ!……」
安堵したように万丈は頷く。
またその時、雰囲気を壊すように、横合いから拍手の音が聞こえてきて、
「素晴らしいじゃないか、それは!」
相も変わらず空気を読まない立ち振る舞いの月山が、大仰に腕を広げながら後を被せる。
「カネキ君、是非ともこの僕も君について行こうじゃあないか! そちらのムッシュ・バンジョイが『盾』であるならば、差し詰め僕は君の『剣』……、絶対に君に損はさせないさ」
と、ナイトの誓いさながらに跪きながら結んだ。
「……」
カネキからの冷ややかな視線を受けても、あたかも何事も無いように。
「カネキ、そいつは止したほうがいい……。俺はこいつと会ってまもないけどよ、頭おかしいってのは分かる」
カネキは万丈のほうを一瞥する。彼の進言を聞き流すのではなく、飽くまで認めた上で、それから至って穏やかな眼を向けて小さく頷いた。再びカネキは月山へ視線を戻すと、無感動に顔を緩ませ、
「月山さんの戦力は、この身で知っています。手を貸してくれると言うなら、是非お願いします」
ただ……、とカネキは一つ置いて、月山の耳元へ口を寄せると、
「ちょっとでも余計な真似をしてみろよ、その行いを絶対に後悔させてやる……」
抑揚無く囁いた。
「ほう!……」
俄然月山は悶えだし、その弾みで息を漏らすのであった。その様は周囲から見ても顕著であり、その場の誰もが顔をしかめる。
「ふう……。ああ、全て承知しているよ、カネキ君……、勿論だとも……。その上で僕は君に仕える所存さ……。ああっ、あの時君を食べ損なったのは僥倖だったッ!……」
いよいよ自らの変態性をあけすけにしだした月山に、最早誰も見向きもしなかった。
「ルーミアちゃん、あのさ――」
「んー?」
ふとカネキから声を掛けられて、おもむろにルーミアは応えた。あれだけの激戦の中を、敵を蹴散らしながら進んでそれなりに疲弊していたたためか、ちょうど伸びをしていた彼女のその返事は間延びしていた。
こちらを見上げるルーミアを前にして、カネキは彼女の目を見据えたまま、しばしの間、フリーズした機械のように静止していた。数秒程して視線を落とし、それからもう一度彼女の目を見やり、
「君も来てくれないかな、……頼むよ」
その場に居る何人かが瞠目してカネキとルーミアを交互に見た。取り分けヒナミが、一番強い衝撃を受けたようで、その瞬間、えっ、という声を上げた。彼女以外に声を上げた者はおらず、彼女のその一声は全員の耳に、印象深く響いた。
ふうん、と、ルーミアは相槌を打ち、
「いいよ、研についてってあげる。元よりそのつもりだったしね……」
と。
邪知を臭わせる声音で、実にゆっくりと、意味深長に告げたのである。
その時カネキは、自分の中で強張っていた何かが、徐々に、徐々に力を失っていくの感じた。安堵でも、安心でもない、どちらかというと観念したような感覚だった。もう自分に逃げ場は無いのだと思った。前に進もうが、後ろに下がろうが、関係ない。どこまで行っても纏わり付かれて、先方が満足するまで取り憑かれ続けて、その果てに……。
限りなく絶望に近いけれど、そう形容するにはあまりに不明瞭。ただ言えるのは、進み続ける事しか残されていない自分は、これからも手放しに進み続けるのだろう、――広大な暗闇の中で光を求める蟲けらの如く。
やおらカネキは、いつの間にか俯いていた頭を持ち上げて、トーカに目線を合わせて、
「じゃあね、トーカちゃん」
虚心坦懐な調子でカネキは別れの言葉を告げた。
「カネキ……、あの……、私も――」
「たまにはコーヒーを飲みに行くよ」
訥々とトーカは何かを言おうとしていて、それを敢えてカネキは遮って言ったのだ。
「君のラテアート、あのウサギの絵のやつ、不格好っちゃ不格好だけど、それが何だか味なんだよね。……僕は好きだな」
畳み掛けるように喋って、それでもカネキはその微笑に一抹の綻びを現わさなかった。一方のトーカは、提案しようとした、けれど言い出しづらいことを言えなかったことで、安心と悔いが同居した面持ち――食いしばった歯を、引き結んだ唇で隠して、涙を溢すまいと目を細めた顔を見せたのであった。
そのままトーカは一切何も言わず、顔を隠すようにカネキへ背を向けると、さっさとその場を後にしてしまった。
ほっとカネキは息を吐いた。が、その息は寒さに震えてるかのように頼りなかった。『あんていく』の彼らは、そんなカネキの様子を見て、何とも言えないでいた。
苦笑交じりにカネキはその場を後にし、つかの間独りの時間を得た。
ふと空を見ると、夜空には、優しいながらも力強い光を放つ月が浮かんでいた。あれは十五夜ではない、でも、十六夜なのか待宵なのかは判らない。
どこか既視感がある光景だ。そう、あれは、あの棍棒の捜査官と対峙した時のだ。彼はその時、この世界は間違っている、と言っていた。歪めているのは貴様ら喰種だ、とも。
「本当にそうなのかな」
ここ地上から大気層を通して見える、あの茫漠たる宇宙を見ていると、そぞろに疑問が湧き上がってくる。例えば、あの燦然と輝く月は、今は地上の半分を照らし続けているけれど、その光は宇宙からすれば、残り火よりも儚い明かりでしかない。それに、あの光は元来は月のものではなく、太陽の光が跳ね返ったもの。その太陽の光は、これまた地上の者からすれば途方もないエネルギィを孕んでいるのだが、しかし、その太陽よりも偉大なる恒星はこの宇宙に山ほどある。
もし、この世界が歪んでいるとするのなら、真に歪めているのは、強いて言うなら――
「この世界に存在するモノ全て」
さりとて、ミクロな人間らの視点でそう結論付けたところで、畢竟僭越に過ぎないのではないか。もっと、マクロな視点で見れば、この世界はどう映っているのかも分からない。或いは、この世界は、法則だっているように見えて実は、ただ物凄く粗いだけの乱数の世界なのかもしれない。
燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや
――史記
……実を言うと、もうエタってしまうおかなと考えていたのですが、にも拘らずコメントをくれた方々がいらっしゃってくれて、居ても立ってもいられず、恥知らずにも投稿してしまいました。(ホモは気まぐれ)
次の投稿も未定で、完走する保証はありませんが、もし宜しければお付き合いお願いします(大胆な告白は女の子の特権)。