ちまちま書いてなんとか仕上がりました、ウルトラブライブ第2話!
今回の主役は……かよちんこと花陽!
メンバーの中でもとても優しい彼女がふとしたことで出会ったのは……
それではお楽しみください、どうぞ!
その少女はアイドルに憧れていた。
幼き頃よりステージに立つアイドルに憧れ、いつか自分もあんなステージに立てることを夢見て、いつもアイドルになることを目指して勉強していた。
歌に踊り、どんな衣装が似合うか、いろんなことを考えてはいつか大きくなった時のアイドルになれた自分の姿に夢を膨らませた。
輝くステージを夢見て、みんなを幸せにする、夢を与える姿に憧れて……。
でも、いつからだっただろうか…。
憧れの存在だったアイドルが、とても遠い、手の届かないような存在に思えてしまったのは…。
ある日を境に、彼女は自分のような地味な人間がアイドルになれるのだろうかと疑問を抱いてしまった。
そして、それから彼女はアイドルを目指すことを心の奥底に仕舞い、気がつけば自分の憧れるアイドル達を応援する立場に立っていた。
自分と彼女達では、差がありすぎる…。
目を見張るような才能もない、平凡な自分にはまさに夢のまた夢…。
いつの間にか彼女は自身が目指していた夢から遠ざかっていたのだ…。
それは高校に入ってからも変わらなかった。
臆病で、引っ込み事案で、怖がりな自分のことを彼女は理解していた。
だから、これからも変わらず好きなアイドルを応援する立場に回るつもりでいた。
そんな風に変わった自分に、本当にこれでいいのかと考えたりもした…。
しかし、そんな彼女をずっと見ていた幼馴染は変わらず彼女の事を受け入れ、一緒にいてくれた。
大切な幼馴染と一緒に過ごし、好きなアイドルの事を応援する、それはこれからもずっと変わらない。
そしてこの時
世間では“スクールアイドル”と呼ばれるアイドル達が人気になっていた。
自分と変わらない年頃の、高校生の女の子達が学校を代表するスクールアイドルとなって活動を行う、一生懸命なその姿はとても魅力的で彼女もすぐにスクールアイドルについて調べ、そして今まで以上の速さでファンになった。
学校を代表し、スクールアイドル達がステージに立ち、歌い、舞う、その姿はなによりも輝いて見えたのを、彼女は忘れなかった。
そして、同時に思った。
……もし、私がステージに立てたら……と……。
だが、その思いもすぐに自分の心の奥底に仕舞い込んだ…。
やっぱり、自分なんかが前に出ても仕方が無い…そう感じたから。
しかし、そんな彼女の元にとある“運命”が訪れた。
音ノ木坂学院、スクールアイドル“μ's”との出会いである…。
自身の通う高校、“音ノ木坂学院”に突然知らされた“廃校”の報せ。
学院に訪れたその危機を救うために結成された音ノ木坂学院のスクールアイドルという存在に彼女は少し興味を抱いた。
最初こそ、2年生の三人だけで結成された小さなチームだった。
当然、最初のライブでは見に来る人はほとんどと言っていいほどいなかったし、まだ駆け出しのままだった。
だけど……それでも……
彼女達が秘めていた“可能性”という輝きは、どのアイドルよりも強かった。
気づいたら、自分は学院で行われたμ'sのファーストライブの最初の観客になっていた。
そして、彼女は見た。
例え、誰にも見てもらえなくても、誰にも応援されてなくても、一生懸命に歌い、踊り、ステージを輝かせていた彼女達の姿を…。
自分が見て来たアイドル達も、そのグループにしかない眩しい輝きを持っていた。
でも、彼女達には、彼女達にしかない、彼女達にしか出せない輝きをもっていた、そしてその輝きを目にした時、彼女の心が動き出した…。
それから、悩み、話し、葛藤した先で、彼女は決意した。
彼女達と一緒にいたいということを…。
彼女達と一緒に一度夢見た、あのステージを目指してみたいと…。
彼女はその日、決心した。
スクールアイドル、μ'sのメンバーとして加わることを…。
もう一度、夢を追いかけることを…。
「わ、私……“小泉 花陽”と言います……! ……一年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで……得意なことも何もないです……でも、でも! アイドルへの思いは誰にも負けないつもりです!」
これが、アイドルを目指し、一度はその夢から遠ざかった少女の“運命”の出会いの始まりだった。
そして、その運命は掛け替えのない仲間達と花陽を結びつけた。
「μ's!! ミュージック、スタート!!」
1、2、3年生、学年は違うが頼りになる9人の仲間達とともに作り上げたこの奇跡のチーム。
それは彼女にもう一度“夢”へと向き合う、“勇気”をくれた。
だが、彼女のであった運命というのはこれだけに終わらなかった。
これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。
~ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達~
「優しい勇気を振り絞って… 花陽と慈愛の勇者」
その日、音ノ木坂学院の放課後はいつもと変わらぬ穏やかさを保っていた。
学院の授業を終えて、部活に励み、それぞれの友人との話や遊びに励み、そしてこの時間にしか出来ないことを生徒達はこの放課後という時間を使って謳歌していた。
「誰か助けてぇぇ~~~~~~~~~~~~!!」
ただ一人、夕焼けの街並みを大型の野良犬に追いかけられる少女、小泉 花陽を覗いて…。
「な、なんで私を追いかけてくるの~~!? なんで凛ちゃんがいない時に限ってこんなことになるの~~!?」
「ワン! ワン! ワン!」
「ひぃぃぃいいいいいい!? 来ないでぇぇええええええええええ!!」
茶色のショートボブに何処か優しさと気弱な雰囲気を感じさせる、幼さの残る顔立ちが特徴の女子高校生が野良犬に追いかけ回される………なんともシュールな光景である。
普段からおとなしい花陽が、なぜ放課後に一人でいかにも凶暴そうな厳つい野良犬に追いかけられているのか…。
ことの始まりはいつもと違う帰り道が決定したことだった。
花陽には同じμ'sのメンバーであり、子どもの頃から一緒に過ごしてきた幼馴染の“星空 凛”がおり、普段は家も近いこともあって帰り道は一緒のことが多く今日も同じように一緒に帰るのだも花陽は思っていた。
だが……。
ーーー星空 凛さん、星空 凛さん、至急、職員室の担任の所まで来てください。
放課後に呼び出された凛、一体何事かとしばしあってから帰ってきた彼女に訪ねてみると…。
「かよちぃぃぃぃん! 凛、この前の小テストの点数が悪いからこれから再テストって言われたにゃ~~~!? 点数があまりにもひどからって!! あんまりだにゃ~~~!!」
どうやらこの前行われた数学の小テストであまりにも酷い点数を叩き出し、再テストを言い渡されたようで、凛は半泣きになりながら担任に連行され、勉強よりも運動が好きというタイプの典型的な例である凛にとっては地獄である、再テストの刑に彼女は叩き落とされることになってしまった。
小テストとは言え、彼女がすぐ帰ってこれるほどの実力がないというのは長い付き合いである彼女は知っている。
今日はμ'sの練習も休みだし、凛の再テストが終わるまで待っていても良かったのだが、タイミングの悪いことに今日は両親が家を空けており、彼女は家のことを任されていたのだった。
請け負った以上、あまり家を空けるのはよろしくない、凛には悪いが一人で帰ることにした花陽はそのまま下校。
そして、その道中…。
なぜか突然目の前に現れたいかにも凶暴そうな厳つい野良犬に目をつけられ、追いかけ回され、今に至るのであった…。
「ついてないとかのレベルじゃないよ! なんであんな怖い野良犬がいるの~!?」
このご時世に野良犬がいることを嘆きながら必死になって走り続ける花陽、だが彼女を狙っている野良犬も獲物を逃がすまいとする狼の如く彼女を追いかける。
「わ、私なんか追いかけてもなにもないのに~!?」
普段からμ'sの練習を受けてそれなりに体力は持ち合わせるようになった花陽、だが彼女は同じ境遇となった凛のように運動神経が言い訳ではない、というかむしろ徒競走などは苦手な部類に入る。
それ故に犬と壮絶な追いかけっこを繰り広げる花陽にとっては今親友が受けているだろう小テストという地獄と、同じくらいに辛い苦痛となっていた。
息を切らしながら走ることしばらく、彼女はやがて人気の少ない路地裏へと迷い込んでしまった。
そして最悪なことに迷い込んだその先は行き止まりとなっていた。
「そ……そんなぁ……」
絶望にも似た悲痛な表情を浮かべた花陽はもう限界とその場にぺたんと座り込んでしまう。
「……グルルルルゥ……」
「……ひいっ!?」
そこへ、彼女を追い回していた野良犬が現れ、行き止まりに差し当たってしまった彼女を追い詰める。
唸り声をあげながら今にも飛びかかりそうな雰囲気の野良犬に花陽はびくりと体を震わせて後ずさる。
構図的に言えば、壁際に追い詰められた小動物と肉食動物、まさにそんな感じだ。
「わ、私なんか……食べても、美味しく…ないよ…?」
効果があるかわからないが野良犬を説得してみるが、当然犬に言葉が通じるわけがなく、それどころか……。
『ぐへへへへ……何言ってやがんだ、程よく柔らかそうで食べ応えもありそうな肉が胸に二つもあるじゃねぇか…安心しろよ痛くしないし、たっぷり可愛がってから料理してやるよ……ぐへへへへ』
と言うような感じで、野良犬が牙を剥きじりじりと花陽に近づいてきた。
ちなみにこの野良犬のセリフは花陽から見たイメージから出た物なので野良犬が本当にそう思っているという確証はないが、まさにそんな感じだ…。
唸り声をあげながらじりじりと花陽に近づいてくる。
「ふぇぇ……凜ちゃん……!」
こんな時近くに凜が居てくれたら助かったかもしれない…。
あの時、彼女が終わるのを待っていたらもしかしたらこうならなかったかもしれないのに…。
自身の行いと幼馴染を置いて来たことを花陽はこの時、申し訳なく思ったと言う。 ……だからと言って現状をどうにかできるわけではないが……。
今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらなんとか距離を取ろうと後ずさりをする花陽、しかしすぐ後ろには行き止まりの壁が迫っており、これ以上後ろに下がることは出来ない。
「そ…そんなぁ………ひっ!?」
そして完全に逃げ場を失ったのを野良犬が悟った瞬間、野良犬は花陽に向けて勢いよく走り出した。
獰猛な手足と牙を見せつけるようにしながら迫ってくる野良犬、花陽はもう恐怖のあまり動くことも出来なかった…。
野良犬が花陽に向かって飛びかかって来る。
「いや……だ……誰か……」
気弱で抵抗する術をまったく知らない彼女には、もうどうすることも出来ない…。
花陽は怖さのあまり、その恐怖を強制的にシャットアウトしようと反射的に目をぎゅっと瞑った。
「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
そして、再度、助けを求める叫びを上げる。
今の自分にはそれくらいしかできることがなかったから……。
だが、花陽が上げた助けを求めるこの叫びが………“奇跡”を呼んだ。
「キャインッ!?」
突然、花陽に襲いかかろうとした野良犬が何かに弾き飛ばされるように後ろに飛んだのだ。
突然のことに地面に倒れる野良犬。
『……自分の家におかえり……』
ふと何処からか声が聞こえた気がした。
だが、いったいどう言うことか、わけのわからないと言った様子で立ち上がる野良犬は一度花陽をちらりと見るがあまりの出来事に驚いたのかそのまま何処かへと尻尾を巻いて逃げて行ってしまった。
途端に静かになった路地裏……残された花陽は怖さのあまりまだ目を開けずに震えている。
「……あれ?」
しかし、いつまで経っても何も起こらないことに疑問を抱いた花陽が恐る恐る目を開けた、するとどうしたことか目の前にさっきまでいたはずの厳つい野良犬がいなくなっているではないか。
目を瞑っていたためいったい何が起きたのかわからない花陽はあたりをきょろきょろと見回すが特にこれと言って妙なものはないし、誰かがいるわけでもない。
「いったい……何がどうなって……?」
首を傾げる花陽、しかし、何はともあれ助かったのに変わりはない、さっきまで恐怖のあまり早鐘のごとく鳴っていた胸の動機を落ち着けるかのように深く安堵の息を吐く。
「……そういえば、さっき誰かの声がしたような……」
その際に花陽はうっすらとだが犬に襲われそうになった時のことを思い出した。
うっすらとだが、一瞬、何者かの声を聞いた気がするのだ。
何処か安心感を感じる先ほどの声はいったいなんだったのだろう?
そんなことを考えながら、花陽が立ち上がろうとした時…。
「……あれ?」
彼女の目線がある位置で止まった。
ちょうど自分の目線の下、俯いてようやく確認することができる位置に花陽はあるものを見つけた。
「……人形?」
それは見たこともない人型のシルエットをした小さな人形だった。
人形は何故か花陽を見つめるようにこちらを向いて立っており、その体は全身をブルーの色合いに染めて所々に銀色の部分があるその人形は、人間を模した物とは思えない姿をしているものの人型で何やらとても綺麗な姿をしているように花陽は思えた。
しかし、なんでこんな人形がこんな所にあるのか…。
不思議に思った花陽がじっとその人形を見つめここに辿り着く前後の記憶を探る。
「確か、ここに来た時はこんな人形おいてなかったよね……ていうか、こんな所に人形があるのがおかしい気がするし……」
誰かの落し物にしては妙な点が多い。
疑問を抱いた花陽はふとその人形に手を近づけるの優しく両手でそっと握り、自分の顔の前に近づけて間近で観察してみる。
「普通の人形と変わらないみたいだけど……」
花陽がじっくりと人形を観察していると……。
『……怪我はないか?』
「ふえっ!?」
突然、人形から声が聞こえた。
しかもそれだけでなく、声に驚いた花陽が持っていたその人形を手放してしまった時、彼女が手放した人形が地面に落ちようとした瞬間、その人形が空中でぴたりと静止し、ふわりと浮かんだかと思うと態勢を立て直し再び地面に二本の足で立つようにゆっくりと着地した。
「う、浮いた……というか、それよりも今……喋った?」
突然目の前で起きたことに驚く花陽、警戒しながらもまじまじと人形を見ていると…。
『驚かせてすまない』
再び人形から声が聞こえはじめた。
『信じられないかもしれないが今君の目の前で起きていることは、紛れもない現実だ……しかし、驚いたとはいえ突然投げるのはこちらとしても……』
本物の人間のように話しを続ける青い人形…。
あまりにも現実離れしたその光景に、花陽は……。
「き………」
『?』
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!! 喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
叫ばずにはいられなかった…。
その後…。
「あ、あの……ごめんなさい、急に叫んだりして……」
『いや、状況が状況だったとはいえ私も驚かせてしまった事に変わりはない、私の方こそすまなかった』
ここは花陽の家の自室。
その年頃の女子高生らしいインテリアが施された部屋に用意された少し小さめのテーブル、その上に青い人形が乗っており、その前で学校の制服から普段着に着替え、コンタクトからメガネに変えた花陽がぺこりと畏まって小さくお辞儀をした。
あの後、あまりにも突然の事に驚いた花陽だったものの青い人形の話しを聞いているうちに落ち着きを取り戻し、あの時野良犬から自分を助けてくれたのが彼だと言うことを理解した花陽は人形にお礼をしたいと言って彼を持ってそのまま帰宅、そして今に至る。
「あ、あの……改めまして、助けてくれて…ありがとうございます…わ、私、音ノ木坂学院一年の小泉 花陽です」
テーブルの上にいる人形に自己紹介をする花陽、傍から見たらなかなかシュールな光景である。
『花陽か、いい名前だ……ところで……』
「な、なんでしょうか?」
『……これはいったい?」
青い人形が花陽にあることを問いかける。
問いかけた理由それは………。
「えっと……おにぎり、です……私が作った」
今人形の目の前に置かれた皿の上でほかほかと湯気を上げているている出来たての“おにぎり”だった。
青い人形の問いかけに答えた花陽は人形の問いかけに答えた後、なぜかあたふたと慌て始めた。
「あ、もしかして塩おにぎりじゃなくて梅干し入りの方がよかったでしょうか!? それともシャケとか、昆布とかが良かったですか!?」
『いや、そうではなくて……なぜおにぎりがここに置いてあるのかを聞きたいんだ』
出されたおにぎりが気に入らなかったのかと慌てる花陽、だがそれ以前になぜおにぎりが出されたのかが問題となっている青い人形は彼女にそう答える。
人形の言葉に花陽は落ち着きを取り戻すとなぜ人形におにぎりを出したのかについて答えた。
「それは……助けてくれたので、せめてお礼にって作ったんです」
どうやら彼女は助けてくれたお礼にと、おにぎりを作って来たらしい。
人形が目の前に置かれたおにぎりを一瞥する。
皿の上に置かれた二つの三角のおにぎりは程よいツヤが出ている白米にエッセンスとなる味付けの塩がまぶされて、見ただけでも分かる程に柔らかそうな仕上がりになっている。
白い三角を飾り付ける黒い海苔もまた食欲を引き立てる役目を果たしていて、一目見ただけで相当にこだわりが込められたおにぎりだというのが理解できた。
『……君はおにぎりが得意なのか?』
こだわりが見られるおにぎりから、彼女はおにぎりが得意な料理なのだろうかと感じた青い人形は花陽に聞いてみる。
「得意というか……私、白米が……ご飯が好きなんです、おにぎりだけじゃなくてお茶碗に盛り付けられたご飯も好きで……」
『……なるほど、だからこれほど見事なおにぎりを作れたのか』
「わ、わかりますか!」
青い人形が目の前に置かれたおにぎりの見た感想を言うと、花陽が今までにない程に目を輝かせた。
「今日のおにぎりは特に美味しく作れた自信があるんです! お米がとても綺麗に炊けて、ふわふわで、その感触を潰さないようにって意識して握ったんです!」
『…君はご飯が相当好きなようだね』
「はい! ご飯は食卓に上る素朴ながらも欠かせられない重要な食べ物なんです! 白くてふわふわで熱い炊きたてのご飯を口に入れた時の幸せ……はぁ、ご飯ってなんであんなに美味しいんでしょう……」
幸せそうな様子でうっとりとしながらご飯について語り出した花陽。
どうやら彼女の白米に対するこだわり、というより思い入れはとても強いようだ。
しばらくそのままご飯について語り続けそうなほどに恍惚な表情を浮かべる花陽、だがやがてハッと我に返ると慌てて青い人形と向かい合って申し訳なさそうに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい、私つい夢中になっちゃって……」
『構わない、夢中になれるのはいいことだ』
つい夢中に話していたことを申し訳なく思っている様子の花陽にそう言ってフォローする青い人形。
好きな物を他人がとやかく言うのは無粋であると感じたからだろう。
しかし、青い人形はしばらくするとこう返した。
『だが、すまない……私は見ての通りの姿だ、それに私は君達人間のように食事を必要とはしない、せっかく用意してくれたようだが……』
「あ……そうなんですか……ごめんなさい、私そうとも知らずに……」
『いや、気持ちは受け取らせていただくよ、ありがとう……このおにぎりは君が後で食べるといい、自信があるんだろう?』
「は、はい! ありがとうございます」
せめてもと言ってお礼を言った人形にさらにお礼を返す花陽、出来がよく少し自分も食べたかったようだ。
しかし、おにぎりのことで話が持ちきりになったが、今はそれよりも重要な話がある。
とりあえず雑談を済ませた花陽は気を取り直して本題へと話を移すことにした。
「あの、それでなんですけど……あなたはいったい? 人形なのに喋ったり、一人で浮かんだり、普通の人形じゃないですよね…?」
恐る恐ると言った様子で花陽が青い人形に問う、すると人形は首を動かすことが出来ない変わりか、体をピクリと動かしてみせた。
『ああ、君の言うとおり私は普通の人形と言うわけではない、私は今訳あってこんな姿になっているだけだ』
「じゃあ、あなたは……」
『……端的に言うと、私は君達にとって“宇宙人”と言うことになる』
「う、宇宙人!?」
人形が話した人形自身の正体に驚いた花陽、まさか人形だと思っていたのが本当は宇宙人だったなんて夢にも思わなかったからだ。
……まあ、人形が一人でに喋ったり、勝手に動いたりする時点で普通ではないのだが……。
『驚くのも無理はない、だが安心して欲しい、私は君達と敵対するつもりはない、むしろ君達地球の人間達に私は何度も救われたんだ……』
「そうなんですか……じゃあ、宇宙人さんはなんで地球に?」
宇宙人と聞いてもしかしたら侵略しに来たとでも言われるのかとドキドキしていたが穏やかな口調でそう言った青い人形からは嘘のような邪な物を感じなかった花陽は質問を続けた。
『……私はここに来る前、ある事情でこの姿となり、この惑星に流れ着いた……』
「事情、ですか……?」
『この姿はその際に負ってしまった怪我のようなものだ……だがこんな姿でも私にはやるべき事がある』
青い人形はそう言うと再び一人でにふわりと浮かび上がり、花陽の前を通り過ぎるとそのままゆっくりと部屋の窓へと辿り着き、その窓枠に足をつけた。
窓から外を眺めるかのようにじっと外を見つめる青い人形の小さな背中を花陽は見つめる、この時花陽にはこの人形の言葉になにか“強い思い”のようなものを感じた気がした…。
「その事情って、なんなんですか?」
『……君が気にする必要はない、これは私が果たすべき責任であり、私の役目なんだ』
「で、でも! なにか私にもお手伝いできる!……かもしれない……じゃないですか」
人形の言葉に花陽は最初強く訴えるようにそう言ったのに、次第にじょじょに声を小さくして自信をなくしたように曖昧な言葉になってしまった。
『……無関係な君を巻き込む訳にはいかない』
そしてその言葉に対して青い人形はそう返事した。
「そんな……無関係じゃないですよ! だって私、宇宙人さんに助けて貰いましたし……お礼がしたいんです」
『……それが危険なことでもか?』
「え……?」
花陽は人形の言葉にそう訴えかけるが人形が言ったその言葉に反射的に彼女は言葉を失った。
青い人形は再び体を動かし、顔についた二つの乳白色の目で彼女のことを見つめるように体を花陽の方に向けた。
『君はこの地球の人間だ、私は極力…関係のない君達を巻き込みたくない…それに……』
人形はそういうと体を再び動かして花陽に背を向けると……
『君はなぜだか……私の友人に似ている気がする……』
そう告げた瞬間、人形の姿が淡い水色の光に包まれて次の瞬間には窓際に立っていた小さな姿がどこにも無くなっていた。
「あ! ま、待ってください!」
慌てて花陽が辺りを見渡して部屋の中をくまなく探し始めるが、部屋のベッドの下、机の引き出しの中、タンスの裏などありとあらゆる物陰を探しても青い人形の姿はどこにもなかった。
おそらくは所謂瞬間移動、テレポーテーションのような力を使ってこの部屋から出て行ったのだろう。
「……もう遅いし、もう少しゆっくりしていってもよかったのにな……」
何処かへと去っていった青い人形の姿をした宇宙人のことを心配しながら花陽がふとベッドに腰を下ろす。
一体、あの青い人形の宇宙人はなんのために地球に来たのだろう…そして、果たすべきことと言うのはなんなのだろう…。
直前までいた彼のことを思い浮かべた花陽の脳裏に最後に見た青い人形の背中と彼の乳白色の目が浮かびあがる。
あの時の人形の言葉と小さな背中、花陽にはあの時見た人形の姿がとても固い決意を秘めているかのように見えたと同時に……その後ろ姿が小さな人形の体には収まりきらないような大きなものに見えた気がした。
安心感と、優しさと……そして、何故か胸の内が温かくなるような感覚……。
彼はなにを思って役割を果たそうとしているのだろうか……花陽は不思議な出会いを果たした青い人形のことを思い浮かべつつ、ふと近くに置かれていたスマホへと視線を移すと……。
「……あ、凛ちゃんからメールだ」
いつの間にか幼馴染から今日の再テストをなんとか終えたという報告と、明日の練習についてのメールが届いていた。
明日は週末で学校は休み、しかしμ'sの練習には絶好の日だ。
「かよちん、昨日はごめんね? ひとりで帰らせちゃって…」
「ううん、大丈夫だよ凛ちゃん、気にしてないから」
翌日、花陽はμ'sのメンバーと共にスクールアイドルの技術を磨く練習に励んでいた。
少しでも上達出来るようにと歌にダンスに励み、合間の休憩時間で彼女は凛と雑談に耽っていた。
明るい色合いのショートカットにボーイッシュなズボンと上着が活発さをこれでもかと引き出している格好をした凛が手を合わせて昨日のことについて花陽に謝るが花陽はそんな彼女に気にしてないと言ってフォローを入れる。
「でもでも、かよちんになにかあったら凛もう心配で心配で……本当になにもなかった?」
それでも彼女を心配する凛、長い付き合いの幼馴染は一番に花陽のことを思っているのである。
そんな彼女に心配されて、これ以上心配させるよりかはいっそ話してしまったほうがいいのかもしれない、と思った花陽は凛に昨日の出来事について話してみることにした。
「えっと……ちょっと大きめの怖い犬に追いかけられたりしたけど…」
「えええぇぇぇぇぇぇっ!? か、かよちん!! 全然大丈夫じゃないにゃーーー!!」
「で、でも大丈夫だよ!? ほら、怪我もしてないし」
「でも危機一髪には変わりないにゃ!! むぅ……かよちんを襲おうとした犬め、こんどあったら凛が懲らしめてやるにゃ!!」
「ほ、ほどほどにね…?」
しかし、むしろ逆効果だったようだ。
心配をかけさせないつもりが、余計な心配をかけさせてしまったようだ。
ぎゅっと両手を握り、意気込む凛に花陽がそう言って釘を指しておくがこの勢いだと凛は町中の野良犬を成敗しかねない気がする…。
そんなことを花陽が思っていると…。
「さっきからどうしたの? なんだか騒がしいけど」
「あ、“真姫ちゃん”、実は…」
そこへ同じμ'sのメンバーであり、花陽や凛と同じ一年生にしてμ'sの曲の作曲を担当している“西木野 真姫”が二人のいる所に近づいてきた。
メンバーの中で唯一釣り目気味な彼女の性格に合わせてか黒を基調とした練習着に彼女の赤毛を包む帽子も合間って同じ一年生なのにどこか大人びたクールさを感じさせる服装に身を包んだ真姫、そんな彼女に気づいた花陽が事情を説明する。
「……なにそれ、犬に追いかけられたくらいで大袈裟ね」
「大袈裟じゃないにゃ! 十分危険だにゃ! かよちんに怪我をさせるのはこの凛が許さないにゃー!」
「凛は心配しすぎよ、現に花陽は無事なわけだしまた同じことを繰り返すほど不注意な子でもないでしょ?」
メンバーの中でも冷静な真姫は花陽の性格からそのように告げる。
確かに花陽は積極的な性格ではないもののよく気が回るし、目が行き届いているところがある。
その点から彼女がまた同じことを繰り返すようなことはないと分析した真姫だが、それを聞いて凛はむっと頬を膨らませる。
「む~~…じゃあ真姫ちゃんはかよちんが怪我してもいいの?」
「えっ!? そ、そんなこと言ってないじゃない、凛は心配しすぎって言いたいだけよ!」
「かよちんを守るのは凛の義務だにゃー!」
「なにそれ意味わかんない!」
「ふ、二人とも落ち着いて……私は大丈夫だったから……ね?」
なぜかヒートアップする両者に戸惑いつつもなんとか落ち着けようとする花陽、すると…
「ほらそこ、なにしてんのよ! そろそろ休憩終わるわよ!」
「ご、ごめん“にこちゃん”…」
黒髪を両側で二つ結びにして、ピンクのフリルのミニスカートに赤いシャツを来た花陽よりもさらに小柄で、メンバーの中でも特に子どもっぽい見た目をしているがそれに似合わない性格の強さが目からびんびんと出てる、三年生にしてμ'sが所属する“アイドル研究部”の部長、“矢澤にこ”が三人にそう言って来た。
にこの言葉に花陽が二人に変わって謝るがにこはなにかいいたいらしく、三人の元に近づいてくる。
「まったく騒がしいったらないわね…いい、あんた達? アイドルってのは常に落ち着いてそれでいて華やかにあるものなのよ、それは練習も同じよ! それなのにそんなにぎゃーすか騒いでたら気品もなにもあったもんじゃないわ! しょーがないから、ここは私がそのお手本を」
「ところで花陽、よく怪我とかしなかったわね」
「無視ぃ!?」
アイドルとはなんたるかというにこの言葉をばっさりとスルーした真姫、まあ、このようなにことのやりとりはよくあることである。
特に真姫とにこの二人なら尚更だ。
そんないつものやりとりを目にしながら花陽は真姫の言葉に頷いて返す。
「うん、助けてもらったから」
「え? それって誰かが助けてくれたってこと?」
「う、うん…たまたま通りかかったんだって…」
実際にあの青い人形の宇宙人は偶然花陽を見かけたために助けてくれたらしく間違ってはいない。
すると、この言葉に食いつく人物が二人いた。
「へー! ねぇねぇどんな人どんな人?」
「な、なによそれ、まさか花陽! あなたスクールアイドルでもご法度にされてる恋愛に片足突っ込んだり…」
「ち、違う違う! そんなのじゃないよ……ただ……」
花陽の言葉に興味津々と言いたげな凛とにこに花陽は少し戸惑いながらも……
「ただ……すごく不思議で……優しい人だったんだ」
初めて会った時から感じたあの青い人形の印象を語ったのだった。
後日、学院が週末の休みに入り、花陽はこの休日を利用して街に出かけることにした。
ゆったりとした白のシャツに緑のスカートという私服に着替えた花陽はある目的のために街に出るとあるものを探すために心当たりのある場所を片っ端から探し始めた。
あるもの、それは花陽を助けてくれた青い人形である。
あれ以来、どうにも彼のことが気になって仕方のない花陽はもう一度彼に会おうと街に出たのだ。
しかし、相手は小さな人形な上に超能力を使う宇宙人、そう簡単には見つけられない…。
初めて出会ったあの路地裏を探しても見つからない…。
「うーん…どこに行ったんだろ…宇宙人さん…」
見つけることができなかった花陽は少々溜息を尽きながら街から少し離れた山間にある自然公園にまで来た。
この辺りは自然豊かで落ち着ける場所としてはうってつけの場所だ。
少々捜索に疲れた花陽はここで休憩を取るために来たのである。
何処かに座って休もうかとしている花陽が、辺りを見渡していると…
花陽「……あれ?」
彼女の視界の先に小さな女の子がなにやら不安そうな顔で周囲をキョロキョロと見回している。
年は7、8歳くらいだろうか……女の子が一人でなにをしてるのか気になった花陽はなんとなしにその女の子の方へと近づくと、なにがあったのか聞いてみることにした。
「ねぇ、どうかしたの? 誰か探してるの? お父さんとかお母さんは?」
迷子の可能性を考えてそう聞くが、少女は首を左右に振ると右手を花陽に差し出して来た、右手にはなにやら紐のようなものがある。
どうやらそれは犬用のリードのようだった。
「ムサシがね…いなくなっちゃったの…」
「ムサシ? …もしかして、ペット?」
「うん……子犬なの……ちょっと目を離したら…」
「あ……そうなんだ」
どうやらこの少女は逃げ出したペットを探しているようだ。
子犬というのでまだ幼い分心配になっているのであろう、少女は今にも泣きだしそうになっている。
「……ねぇ、その子犬……ムサシって子のこと教えてくれる?」
「…え?」
「わ、私もね、今探してる人がいるんだ、だからそのついでに一緒に探してあげるよ、二人なら見つかるかもしれないし…」
「本当…?」
「うん、本当だよ」
「…ありがとう、お姉ちゃん…!」
子犬を探す少女を放っておくのは可哀想だと感じた花陽はそう言って少女と共に、“ムサシ”と言う名の子犬もついでに探すことにした。
「えっと……ムサシくーん?」
「ムサシー!」
少女から子犬の特徴が柴犬の子どもだとわかった花陽は少女と共に子犬の名前を呼んであたりを探し続けた。
探すに当たり、自然公園の奥へと入っていった二人、なかなかに広い敷地を持つこの自然公園を進んでいくと…。
ーーーワン!
微かにだがどこかで子犬の鳴き声が聞こえた。
「あ、ムサシの声!」
「え? あ、待って!」
その声を聞いた途端に鳴き声が聞こえた方向へと走りだした少女を花陽が追いかける。
やがて二人は自然公園の奥にある湖へとやってきた。
微かに聞こえた子犬の鳴き声を頼りに花陽と少女が周囲を見回すと…。
「ムサシ!」
少女が湖のほとりに柴犬の子どもがいるのを見つけた。
どうやらあれがムサシと言うなのを子犬のようだ。
子犬のもとに向かって走りだした少女に花陽が着いて行く。
「わん!わん!わん!」
「………?」
しかし、なにやら子犬の様子がおかしいことに花陽は気付いた。
なにやら、仕切りに湖の方に向かって吠え続けているのだ。
まるで何かを威嚇するかのように…
子犬の不可解な行動に疑問を抱いた花陽はふと湖の方を見つめる。
……そして、彼女はあることに気付いた。
湖の底から、何かが出てくるかのように湖から泡が出てきていることに…。
「ま、待って!!」
咄嗟に花陽が少女を止めようとする、しかし少女は湖に向かって吠え続ける子犬に意識が向いてしまっていて聞こえていない。
少女が子犬のすぐそばまで辿り付いて子犬を抱き上げたその瞬間、湖の異変は……姿を表した。
突如、湖から激しい水飛沫が上がりその中から巨大な姿をした偉業が姿を表した。
ーーーゴァァァァァァァァァァァアアアアアアア!
地を揺るがさん程の咆哮を上げる巨大な体、屈強な体にまるで恐竜のような四肢を持ち、頭部に赤い棘を幾つも生やしたような凶悪な見た目に、爛々と輝く深紅の目がその恐ろしさを体現しているかのようだ。
自分達人間の物とは明らかに違う巨大な“怪物”、その姿を見た花陽は驚きのあまりにその場で足を止めてしまった。
「あぁ………っ!」
足が震え、動悸が早まる。
恐怖が体を支配するのを感じる花陽、いったいこの怪物はなんなのか、誰に問いかけても答えは出ないだろう……こんな生き物がいるなんて聞いたこともない。
「っ!」
だがその時、花陽は咄嗟に思い出した。
湖の中から姿を表した怪物の前にいる少女と子犬のことを……。
少女と子犬がいたところに花陽が目を向けると、少女は子犬を抱えたまま声を出せずに固まっている。
そして、目の前にいる小さなその姿を見つけた怪物がまるで獲物を見つけた獣のように深紅の目を少女へと向けて狙いを定めた。
このままでは少女は怪物の餌食となってしまう…。
それを理解した時、花陽は無意識のうちに走りだしていた。
怖いか怖くないかと聞かれたら、当然怖かった。
あんな怪物を前にして怖くないわけがない、ただそれでも目の前で危機に瀕している小さな二つの命を見捨てられることはできなかった。
走りだした花陽が少女と子犬を庇うように両手で抱きしめる。
そして、その瞬間、少女に狙いを定めた深紅の目を持つ怪物が巨大な顎を開き、そこから燃え盛る火炎を花陽たちに向けて打ち出した。
その時!
激しい花火のような音とともに、花陽達に向けて打ち出された火炎が“何か”に憚られて弾けた。
「ひゃぁぁぁぁぁぁあ!?」
その際に発生した強烈な爆風で、少女と子犬を庇った花陽は少女達と一緒に吹き飛ばされてしまった。
咄嗟に少女を守るように自身の体を下にして地面を転がる花陽、体に打ち付けられる衝撃をなんとか受け流す。
(い、生きてる……よね)
なんとか意識がはっきりしているのを確認した花陽はすぐに自分が庇った少女を見る。
少女の意識はない、しかししっかりと呼吸はしている。 どうやら今の衝撃と恐怖で気を失ってしまったようだ。
意識を失った主人を心配して、子犬が彼女の頬を舐める。
「よかった……って、そうじゃなくて……いったいなにが……?」
一人と一匹の無事に安堵する花陽だったがすぐに怪物がいる後ろを振り向いた。
すると、そこには花陽と少女を見据える巨大な怪物がいる危機的状況に変化はない…。
『……無茶を……するな……君は』
「ふえ!? ……あっ!」
だが、唯一違うのは……自分の足元に見覚えのある青い人形があるということ…。
「う、宇宙人さん! もしかして……また、助けてくれたの?」
『……下手をすると、今度は怪我だけでは済まなかった……それなのに
』
前にあった時とは違い、なにやら疲弊した様子の青い人形、おそらくまた何かの超能力を駆使して花陽達を助けたのだろう。
しかし、サイズの違いから完全な相殺とはいかず負担が大きかったようだ。
微かに煙を上げて、地面に横倒しになっている人形を花陽は咄嗟に広いあげる。
「だ、だって…」
『……君は、そこまで積極的な人間には見えない……だが、それでも……なぜあんな危険な真似を』
青い人形が花陽の行動について問いかける。
すると花陽はしばし間を開けてから……。
「……それは、宇宙人さんの一緒です……」
『……?』
「宇宙人さんだって今、そんなに傷つくのを覚悟で私たちを守ってくれました……」
真剣な眼差しを浮かべて、答えた…。
「……私も、このままじゃこの子達が危ないって思ったから……そしたら、無我夢中で……確かに怖いけど……誰かが酷い目に会うのはみたく、ないから」
『………』
……それは、花陽が咄嗟に振り絞った“勇気”だった。
目の前で危機に瀕した小さな二つの命を見捨てることを選ばなかった花陽が自分の身を顧みずに起こした行動の理由だった。
それを知った青い人形はそれ以上何かを問いかけるでもなく、押し黙った。
『………やはり、君は何処かにている………私の“友”に……』
「……え?」
ふと、そう呟いた…。
彼の言う友がなんなのか、花陽が咄嗟に考えていると…。
ーーーゴァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!
再び巨大な怪物が咆哮をあげる。
驚いた花陽が怪物の方を見上げると、怪物は再び巨大な顎を広げて火球を放とうとしていた。
『とにかく、今は逃げるんだ! あの怪獣は……“カオスゴルメデ”は、私がなんとかする!』
「え、で、でも……そんな体でなんて! それに、宇宙人さんは本来の姿じゃないんでしょ!?」
『たとえこの姿でも気を逸らすくらいはできる、その間に君はその子たちを連れて逃げるんだ!』
花陽達を逃がそうと説得を続ける青い人形、だが……。
「嫌です!」
それを花陽は首を左右に振って断った。
その返答に青い人形は驚いたのか、言葉を失う。
「私は……あなたに二回も助けてもらいました……なのに、このまま逃げるなんて嫌です! …だから…私もあなたの力になりたいんです! なにか、力になれることができるなら、手伝わせてください!」
花陽の訴えに青い人形は返答を出さない、その姿はなにやら迷いを見せているかのようなそんな感じに見えた。
青い人形が迷いを見せている間にも怪獣、“カオスゴルメデ”は次の攻撃を行おうとしている。
『……仕方ない……花陽、と言ったな? その言葉を信じてもいいか?』
「はい!」
『……それがとても危険なことでも、君は私に力を貸してくれるか? ……どんなに恐ろしくても』
「………は、はい! こ、怖くないわけじゃないけど……それでも、が、頑張ります!」
『………わかった』
質問に対する花陽の答えを聞いた青い人形はふわりと一人でに浮かび上がり、花陽の手を離れると花陽の目の前で淡い水色の光を放ち、その人形自身の体を包み込んだ。
突然発生した光に花陽が驚き、目を閉じるが次の瞬間、彼女の目の前にあった青い人形はその姿を変えて、白い某の先端に花の蕾のような装飾が備えられた何かへと姿を変えた。
花陽が目を開けると目の前に浮かんでいたそれをゆっくりと手に取る。
『それを天に掲げるんだ…そうすれば、君は私と一心同体となる…大丈夫、その後は私がなんとかする』
「……私と、宇宙人さんが……」
その言葉に花陽は一瞬の戸惑いを見せる、しかし後ろで気を失っている少女の姿を見つけた時、その迷いを捨て、こくりと首を縦に振った。
「わかりました……あ、そう言えば……まだ、聞いてないことがありました」
『…なんだ?』
「……あなたの名前です」
決意を固めた花陽はこれから力を貸す相手の、青い人形の姿をした宇宙人にその名を問いかける。
確かに、あの時は花陽しか自己紹介をしていなかったため、宇宙人の名を聞いていなかった。
花陽の問いかけに青い人形はしばらく間を開けて……。
『………私は、“ウルトラマンコスモス”………』
「……コスモスさん……よろしく、お願いします」
彼の本当の名前、“ウルトラマンコスモス”。
その名を聞いた花陽はその手に持った蕾を天に掲げて、花開かせる。
そして、その瞬間、彼女の体が淡い光に包まれた……。
口に滾らせた火炎を唸り声と共に、カオスゴルメデが吐き出す。
空をかける火炎の砲撃、その威力は見ただけでもわかるほど強力なのは目に見えて明らかだ。
しかし、次の瞬間……。
再びその火球が淡い水色の輝きに憚られ、相殺された。
一度ならず二度までも防がれたことにカオスゴルメデは怒りを滾らせているのか、再度咆哮をあげる。
だが、その咆哮はただ巨大な怪獣の怒りを表しているだけでなく、突然現れた巨大な“光の巨人”に対する威嚇の咆哮でもあった。
淡い光が徐々に収まり、その中からカオスゴルメデと同じ大きさを持った人型のシルエットが姿を表す。
青い体に走る銀色のライン、そのラインと同じ銀色の顔に輝く優しい光を宿した乳白色の二つの双眼。
そして、胸に光り輝く水晶…。
人間とは大きくかけ離れた姿をしながらも、その青い体から感じる安らかな何か……。
まるで月の光のような優しい光と共に姿を表した、その光の巨人の名は……。
“慈愛の勇者”、“ウルトラマンコスモス”…。
「シュア!」
両手を広げ、流れる水のようなゆったりとした動きと共にカオスゴルメデに向かって身構えたコスモス、それに対しカオスゴルメデは威嚇の唸り声を上げながら再度口から灼熱の火球を打ち出した。
だが、コスモスはその攻撃を身軽な動きでジャンプし、回避すると身を翻しながらカオスゴルメデの頭上を飛び越え、カオスゴルメデの背後へと着地する。
湖の中へと着地し、高い水飛沫が上がる。 そしてカオスゴルメデの背後をとったコスモスはまるで竜の如く強靭な太い尻尾を両手で掴むと、そのまま自身の方へと引っ張る。
カオスゴルメデは尻尾を掴まれ、思うように身動きが取れないのか左右に大きく体を揺らしてコスモスを振り払おうとする。
だが、コスモスもそう簡単にその手を離そうとはしない。
「ウオッ!?」
しかし、カオスゴルメデのパワーに押され、コスモスは振り払われてしまい湖の中へと倒れこんだ。
それを狙ってカオスゴルメデがコスモスに襲いかかろうと狙いを定めて強靭な右足をあげ、踏みつけるように下ろした。
だが、コスモスは踏みつけられる前に両手で防御姿勢を取り、その足を受け流した。
そしてすぐさま立ち上がったコスモスは膝立ちの体制でカオスゴルメデの横腹へと掌底を叩き込み、そのまま身を回転させて横薙ぎの水平平手打ちを打ち込んだ。
しかし、その攻撃はそこまで攻撃力を秘めてはいない。
それもそのはずだ、コスモスは元々、この怪獣を“傷つけるつもりはない”。
コスモスの攻撃にカオスゴルメデは腕を振り上げて反撃をしかける、だがコスモスはその攻撃を次々に両腕で受け流して行き、その隙をついて再度平手打ちを打ち込む。
大きく後ろに押し込んだカオスゴルメデとコスモスは距離を取ると、再度構える。
ウルトラマンコスモスの異名は“月の光のごとき、優しい慈しみの戦士”。
故に、慈愛の勇者の名を与えられたコスモスは相手が怪獣であろうと無闇に傷つける行為はしない、敵の攻撃を受け流し、極力ダメージを与えないような戦いを主体にしているのだ。
「テェァァァ!」
その後もカオスゴルメデの攻撃を回避し、受け流しては反撃の掌底を打ち込むコスモス、拳や蹴りと言った直接の攻撃力はなく、そこまでダメージはないものの、反撃を行うカオスゴルメデは着実に体力を減らされている。
カオスゴルメデが再び爪を翳して攻撃を仕掛けてくるがコスモスはそれを右腕で受け流し、左腕をカオスゴルメデの頭部に絡め、そのまま湖へと叩き込む。
湖に倒れたカオスゴルメデの上を転がるように乗り越えたコスモスは再び距離を取る。
立ち上がろうとするカオスゴルメデ、それをしっかりと見据えたコスモスはその両手を胸の水晶に添えるように構える。
すると、コスモスの周囲に優しい光が集まって行く。
「……ハァァァァア……!」
そのまま両手を上に広げて、光を両手に収束させると右腕を前へとゆっくりと突き出して掌から優しい光を溢れさせる。
ゆったりと流れる小川の如き光が空中を流れていく、そしてその光は立ち上がったカオスゴルメデを包み込んでいく。
その光にカオスゴルメデが苦しむような動きと唸り声をあげるものの、しばらくするとカオスゴルメデの動きが大人しくなり始め、やがてその動きを止めた。
光が収まると、カオスゴルメデはすっかり大人しくなり………次の瞬間、その体に変化が起き始めた。
刺々しかった赤い頭部が次第に青い甲殻に包まれた滑らかな形状のものに変わり、爛々と輝く深紅の瞳が青色の瞳に変わった。
その姿はカオスゴルメデの本来の姿、“ゴルメデ”……。
暴れていた怪獣を本来の姿に戻したコスモスは優しくうなずく。
その瞬間、ゴルメデの体が再び淡い光に包まれた。
そして、その大きな体がみるみるうちに小さくなって行く。
やがて小さな光となったその人形は湖のほとりへと移動し、光が収まると地面に先ほどのゴルメデと同じ姿をした“人形”が転がった。
「………シュワ!」
それを見届けたコスモスは両手を空へと広げ、遥か空の彼方へと飛び立って行った…。
「……こ、怖かったぁ……」
安堵を声を上げる花陽、先ほどのあまりの体験の後となると仕方のないことだろう…。
早まる動悸を抑えるように胸に手を宛がう花陽、その手には先ほど一体となったコスモスの人形が握られていた。
『……大丈夫か? 花陽……』
「は、はいぃ……なんとか……凄いんですね、コスモスさんってあんなに大きかったんだ」
『あぁ……それよりも、まずは先ほどのゴルメデの人形を回収してくれ……それと、あの子供と子犬を』
「あ、そ、そうでした!」
コスモスに言われ、花陽は慌てて立ち上がると気を失っていた子どもの元へと走り出す。
これが、“二人目の出会い”…。
μ'sのメンバー、小泉 花陽。
そして、慈愛の勇者、ウルトラマンコスモスの出会いだった…。
いかがでしたか?
次回もいつになるかはわかりませんが、できればお楽しみにしていてください!
さて、次は誰のお話にしようかな……