紅白や再放送などまだまだ終わりを見せないラブライブ熱、そして新たに書き上げたこの物語!
今回の物語の主役は、真姫ちゃん!
果たして彼女は、どんな出会いをしたのか!
それではお楽しみください、どうぞ!
その少女は、たくさんのものに恵まれていた。
親は大病院の経営者という家庭に生まれ、幼い頃より裕福な家庭で育った彼女は特に不自由することなく、多くのものを手に入れ、その中で育ってきた。
将来も、地位も、約束されたようなものだった。
いずれ自分が大人になった時は父が経営する大病院を継ぐのは必然的だった、せっかく用意されている就職先なのだ、これを逃す理由などない。
故に彼女はその未来を得るために、幼い頃からそれ相応の努力をしてきた。
医学の道に進むために幼い頃から勉学に励み、必要な力をつけて行ったのである。
ただ親の脛かじりで手に入れるのは気に入らなかったというのもある、そしてやるなら自分も努力して、必要な知識を手に入れたいという自分なりの思いもあった。
……だが、勉学に勤しむより少し前、幼い頃から彼女には他に“好きなもの”があった……。
………ピアノ………そう、“音楽”だ。
彼女が母親の進めで何気無く始めたピアノ、それにいつの間にか彼女はのめり込んでいた。
自分の指で奏でる白と黒の鍵盤の旋律、耳の中に流れてくる安らかながらも力強い音…。
ピアノを奏でている時、彼女はその音楽と共に自分自身を表現できているかのような感覚を感じた。
それがとても心地よくて、楽しくて、彼女の心を弾ませた…。
一度はこの音楽を追求してみたい、音楽関係の仕事もしてみたい、と思うようにもなった…。
しかし、決められた未来……医師としての道を逃れる訳にもいかなかった。
一人娘である自分が、親の病院を継がずに潰す訳にもいかない…。
己の人生というレールに用意された、その未来にとって……その道は不必要な要素でしかなかったということを彼女は幼い頃から理解していた。
だけど……未練もあった。
もう終わったと思っていた音楽の道に、振り返りたくないと言ったら嘘でもあった。
そんな時に、彼女は何度も思った…。
もし、今ここにいるのとは“別の自分”がいたら……。
……生まれた時からたくさんの物を持っているのに……自分では好きなものを選べない……そんなジレンマを彼女は感じながら……高校生になった。
音ノ木坂学院……彼女の住む音ノ木坂にある女子校で、彼女は高校生活を過ごすことになった。
何のこともない、自分の医師としての進路のためには必要な高校過程だ、彼女はそこでの三年間を何気無く過ごすつもりでいた。
しかし、その高校生活の中で彼女はある部屋によく出入りするようになった…。
“音楽室”である。
そして、これが彼女の“出会い”のきっかけとなった。
放課後、ちょっとした合間を見つけては無人の音楽室に入り、置かれているグランドピアノの前に座り、鍵盤に指を走らせる。
そこにピアノがあったから、こうして弾いてみたくもなる…。
音楽は……ピアノは自分にとっての安らぎなのかもしれない。
こうして指で白と黒の鍵盤を押して、旋律を鳴らし、自分で考えた歌詞を歌っていると、没頭できる…。
勉強の時の集中とは違う……夢中になれるこの感覚……。
やっぱり、ピアノが好きなんだなと自分が実感できる唯一の瞬間……。
そして同時に……出会いの瞬間でもあった……。
「あの!いきなりなんだけど……あなた!アイドルやってみたいと思わない!?」
そう言ってきたのは自分とはまるで正反対の雰囲気を感じさせる活気づいた明るい雰囲気をした、何を考えてるのか、そもそも何かを考えてるのかも怪しく感じる笑顔を浮かべた自分よりも一学年上の先輩だった。
そして、彼女との出会いを期にもう一つの運命の歯車が回り出した。
そして、自分のピアノを聞かれた彼女の元にその先輩は数回に渡って現れた。
“廃校”という学院の危機の対策として、その先輩が脱却を図るために掲げた“スクールアイドル”、その活動のために必要な歌の“作曲”を頼まれたのが、彼女のもう一つの運命の始まりだった。
一度は諦めた音楽の道に今更関わったところでなにも得るものなどありはしないだろう……。
そう感じた彼女は先輩の誘いを断った。
それに、自分の弾いてきた曲とはまったく違うスクールアイドルの曲は何処か好きではなかった。
そう自覚していたつもりだった……。
だが、それでも……ただの気まぐれだったのか、なんとなしに彼女は曲を作ってみることにした。
なんとなくだが、あの先輩はこのまますんなり引き下がるような性格には思えなかったからというのもある……。
だけど、心の何処かであったのかもしれない………“音楽への未練”が………。
だからこれは、高校生活の“思い出作り”……その証にするだけのつもりだった。
そして、自分が作った歌を彼女達が歌っているのを聞いた時……彼女はその“思い出作り”にもう少し向き合いたくなってしまった……のかもしれない……。
そして、気づいたら彼女は……その先輩と、同じ1年の二人のメンバーと共にスクールアイドル、“μ's”として、本来の用意された道とは違ったまた違ったルートに足を踏み出していた。
「……“西木野 真姫”よ」
一度は目を逸らしたこの道に目を向けた時、気づけば彼女は今まで生きてきた中で普通なら出会うことのなかった、新たな“出会い”を果たすことになった。
掛け替えのない大切な仲間として、まだ自分が歩んだことのない道を共に歩む…“友”との…。
「μ's!!ミュージック、スタート!!」
たくさんの物を得ていた自分が、自分一人で見つけた大切な仲間…。
掛け替えのない出会い、それが真姫にもたらせるのは…彼女が仕方ないと目を逸らした道を照らし出す“光”だったのか…。
だが、彼女の果たした出会いはこれだけに終わらなかった。
これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。
~ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達~
「出会いは眩しい光の中 真姫と大地の光」
音ノ木坂学院の屋上、ここではこの学院のスクールアイドル、μ'sの練習場所として放課後によく利用されている。
雨が振ったら練習するのは難しいが、晴れれば気持ちのいい太陽の陽光の下で気持ちのいい風もたまに吹いてくる隠れた名所だ。
そこで今日も、μ'sのメンバー達は日々欠かすことのない練習に励んでいた。
柔軟体操から基礎練習、ダンス、歌、スクールアイドルとして必要となる能力は日々の練習から培っていくものである。
その練習は決して楽な物ではない、ハードな練習内容で疲れることも当然ある。
「…はい、一旦休憩にしましょう!」
「あ~……疲れた~!」
曲に合わせてステップを踏む練習、それを一通り終え、ステップのリズムをカウントしていた、海未のその言葉に中央に立っていた明るい茶髪をサイドテールに纏め、動きやすそうだが真ん中に「ほ」の字が描かれている女子高生でそのセンスはどうなんだと疑問を感じるシャツを着た、μ'sのリーダーにして発足のきっかけとなった2年生、“高坂 穂乃果”が疲労困憊した様子でその場にぐったりと倒れた。
曲のリズムに合わせてステップを踏む練習というのは数と時間を重ねれば当然疲れてくる物である。
「穂乃果、いきなり床に寝転ぶなんてはしたないですよ?」
「だって~、疲れてもう動けないよ~……」
「……まったく、休憩が終わればまた別の練習があるのに……」
「まあまあ、海未ちゃん、今は休憩なんだし、ゆっくりしよ? はい、穂乃果ちゃん、お水」
「わぁ! ありがとうことりちゃん! もう私喉からからだったんだよ~…」
床に倒れる穂乃果に呆れる海未をフォローし、ペットボトルの飲料水を穂乃果に渡したのは長いベージュの色がかかった髪を穂乃果とはまた違った形のサイドテールにした彼女は“南 ことり”。
穂乃果や海未と同じ、μ'sのメンバーにして小さい頃より一緒に過ごしてきた仲良しの幼馴染である。
μ's結成以前から一緒の幼馴染の三人、彼女達はμ'sとして活動するようになった今でも変わらず仲良しなのである。
「………」
そんな彼女達の様子をじっと見つめるメンバーが一人…。
「ぷはぁ! いや~、休憩の時に飲む水はうまい! いつも食べるパンと一緒くらい! ……あれ? 真姫ちゃん、どうかしたの?」
「うぇっ!? ……べ、別に、なんでも」
軽く息を整えながら屋上の柵に凭れかかり、彼女の特徴の一つでもある明るい赤髪を指先でくるくるといじりながら、つり目を穂乃果達の方に向けていたのは、黒を貴重とした練習着に身を包んだ、μ'sの1年生メンバーの一人、西木野 真姫だった。
その視線に気づいた穂乃果はことりから渡された水を飲むと、彼女に問いかけてみたが、真姫はすぐさま視線を別の方向に向けた。
「でも、今こっち見てなかった?」
「み、見てないわよ、見てない!」
「えー? そうかな……ことりちゃんはどう思う?」
普段から素直ではない真姫は穂乃果の言葉を否定する。
しかし、穂乃果は彼女から視線を感じたと明確に自覚しているため確認を兼ねて傍にいたことりに聞いてみることにした、するとことりはちらりと真姫の方を見てから口元に笑みを浮かべる。
「うーん、確かに見てたかな? 私もちょっと見られてた気もする」
「なっ!」
「やっぱり! もう、真姫ちゃんったら、嘘は良くないよ?」
「べ、別に嘘なんかじゃ……!」
ことりと穂乃果の言葉に戸惑う真姫、しかし何故彼女は穂乃果達のことを見ていたのか、この時穂乃果は同時に気になった。
「それで、なんで私達のことを見てたの?」
「……なんだっていいじゃない」
「えー……あ、もしかして!」
話を濁そうとする真姫だったが、なにやら穂乃果は何かを感じとったのか突然立ち上がるとじっと真姫の方を見つめ始めた。
「な、なによ急に……」
「……もしかして真姫ちゃん……」
何かを訴えかけるかのような意思の篭った目、その目が自分に向けられていることに真姫は若干の戸惑いを覚えた。
(……もしかして、バレた!?)
まさかとは思っている物の、彼女がこっそりと彼女達を見つめていた理由がよりにもよって一番鈍そうな穂乃果にバレてしまったのかと、真姫の脳裏に不安が横切る。
真姫のことを見据えながら徐々に近づいてくる穂乃果に真姫は反射的に距離をおこうとして後ずさろうとする。
しかし、彼女がいるのは鉄柵のすぐそば、下がろうにもすぐ背中には柵があって距離を開けることができない。
気づけば穂乃果との距離がかなり縮まり、妙な威圧感の篭った目がすぐそこまで来ていた。
「ちょ、ちょっと、ち、近いって……!そんなに近づかなくても……」
「……真姫ちゃん、もしかして……」
「うっ……」
完全に気どられているのだろうか、自分が彼女達を見つめていた理由を……。
真姫がそんなことを考えながら視線を再度明後日の方向に向けた。
すると……。
「………真姫ちゃんもお水、欲しかった?」
「………は?」
穂乃果はそう言って持っていたペットボトルを差し出して来た。
屈託のない笑顔でそう言って来た穂乃果に、変に身構えていた真姫は呆気を取られてその場でぽかんとした表情を浮かべた。
……まあ、結局は考えすぎだったのだ。
穂乃果に限って悟られるはずもない……。
最近、彼女が持ってしまったちょっとした悩みの種を……。
しかし、この悩みにとって穂乃果は一番わかりやすい例として見ることはできるのだ。
いつの間にか、自分達を引きつけていた彼女なら……
放課後の練習の後、真姫は一人普段の帰り道とは違う方へと歩いて行った。
1年生の中でも最も成績がよく、真面目な彼女は同じμ'sのメンバー達と一緒ならまだしも、たった一人で寄り道することはあまりないことだった。
夕日が街をオレンジ色に染め始めた頃、真姫はある場所へと足を運んだ。
「……今日もいるのかしら」
下校するために練習着から音ノ木坂学院の制服へと着替えた真姫は学院から少し離れた場所にある、小さな公園を訪れた。
高台に位置するこの小さな公園は来るまでにちょっとした坂を登るため、この時間帯に歩いてここまで来る人は少なく、この公園を利用するであろう子ども達も時間帯的に少ない。
真姫はそれを理解してここを訪れたのだ。
周囲に人影がいないのを確認すると、真姫は公園の中に入り、丁度公園の端にぽつんと生えている一本の木の下にまで近づく。
木の下には周りにはレンガ作りの囲いが設けられており、真姫はそれをベンチ代わりにしてその場に腰掛けた。
静かな公園で一人、真姫は何時もの癖で自分の髪を指先で弄り始める。
いったい、何故彼女がこんな場所に一人でいるのか……。
それは………。
『今日も来てくれたんだね』
待ち人がいたからだ。
しかし、その待ち人のことを真姫はあまり知らない。
「……別に、また来てもいいって言ったのはあなたでしょ?」
『そう、だったかな? ……確かに、また来てくれたのは嬉しいけど』
聞こえてきた声に真姫は驚くこともなく、そう返事を返した。
見る限り、公園にいるのは真姫一人のようにも見える。
しかし、会話は成立してる、真姫は今“姿も知らない”何者かと話をしているのだ。
「本来なら姿も見せないような怪しい人とあんまり関わりは持ちたくないんだけどね」
『うっ……ごめん』
「……まあ、あなたは怪しいけど悪い奴じゃないし、良しとしてあげるわ」
きっかけは些細なことだった。
真姫はμ'sの活動と共にチームの作曲を兼ねている。
そのため、たまにアイデアに行き詰まった時は気分転換をしたくなる時もあるのだ。
ある休日の日、真姫はμ'sの新曲を作曲しようとしていた。
その際にちょっと行き詰まったため、真姫は気分転換をしようと散歩に出かけたのだった。
そして、散歩の途中で訪れたのがこの公園だった。
こんなところに公園があったのかと始めて知った真姫はなんとなしにその公園に足を踏み入れてみた。
休日だというのに誰もいないこの公園にたった一人で訪れた真姫、人が来る気配もなく、その時も人がいなかった真姫はなんとなくこの公園がどこか寂しそうに見えた。
そんな公園を励ましたかった、そういうロマンチストな面が珍しく働いたのかは今でもわからない。
気づいたら真姫はその公園から見える音ノ木坂の街を眺めながら、今座っているこの木の下で歌を歌っていた。
あの日、穂乃果と出会った時にも歌っていたこの曲の名前は…“愛してるばんざーい!”。
彼女が密かに作曲して、完全に完成することなく諦めていた道と共に置きっぱなしにしている歌だった。
そして、この歌を歌っている途中だった。
あの時と同じように、突然の“出会い”を果たすことになったのは……。
『……綺麗な歌声だ』
と言っても、出会ったのは声だけでどこに姿を隠しているのかわからない、謎多き何者かだったのだが…。
最初は怪しく感じたし、正直不気味でもあった。
しかし、その声は真姫に何か気概を加える訳でもなく歌の感想を言うと、それ以上は特に行動を見せることもなかった。
この時は、何かの気のせいかとすぐに帰宅した真姫だったが、その後どうしてもあの声の正体が気になった彼女は数回に渡ってこの公園を訪れ、最初と同じように歌を歌った。
しかし、最初の時のような感想は帰ってこなかった。
なので、なんとなしに聞いてみた。
「……どうだった?」
すると、しばらくして……。
『……すごくうまいと思うよ、うん、すごく……』
なんとなく気の利いた言葉ではないが、確かに返事が帰ってきた。
この公園に誰かがいる、いったい誰なのかは知らないが、これをきっかけに真姫はこの姿が見えない誰かと関係を持つようになった。
新曲が出来たからどんな感じか聞いて欲しい、とか最近の調子はどうなのかとかの世間話など、いろんな会話を交わすうちにいつの間にか怪しさとかはなくなり、むしろ興味すら湧いてきたのだった。
そして、今日も彼女はこの公園に足を運んで、その何者かと会話をする。
「……で、今日も姿は表さないの?」
『う、うん……前にも言ったけどちょっと訳ありで君の前には出られないんだ』
この姿を出さない誰かと真姫は数回、このようなやり取りを交わしていた。
その度に何者かはそう返事を返してくる、訳ありで、と……。
なにが訳ありなのかと気になる所ではあるが、こうも徹底してるとどうにも気になって仕方ない。
「こうも姿を出さないなんて、あなたよっぽど恥ずかしがりやなのかしら? ……それとも、幽霊とか?」
『そ、そんなんじゃないさ! 僕は幽霊なんかじゃない! そもそも幽霊っていうのは本来地球に存在するプラズマによる現象や、なんらかの事象が伝承のように伝わって出来たイメージのようなもので……』
「分かってるわよ、幽霊なんていないって言いたいんでしょ? それ前にも聞いたし、それに幽霊がそこまで理知的な言い回しで自分を全否定するのもおかしいし」
とりあえず今までのやり取りの中で分かったのはこの何者かが幽霊ではないということ、そしてこういう化学的な言い回しをたまに見せるということ。
そしてそれでいて極度の恥ずかしがりや、なのかどうかは知らないが、とにかく姿を現したがらないということだ。
訳ありとは言うものの、こうも姿を出さないその人物がいったいどう言う人なのか、この時の真姫はちょっとした興味を抱いていた。
「ねえ、あなた本当に何者なの? 姿は見えないし…その割りには声ははっきり聞こえるし…そろそろ出てきてもいいんじゃないの?」
一か八か、真姫はそう提案するが、姿が見えない誰かはすぐに返答を返すことなくしばらく間を開けると……。
『……ごめん、どうしても姿は見せられないんだ』
その返答にやっぱりか、と真姫は小さくため息をついた。
いったいそこまでして姿を現したがらないのは何故なのか、どう言う訳があるのか、姿が見えない誰かは一行にしてOKを出してくれなかった。
もうすでに顔見知り、というより“声見知り”なこの人物が何故姿を現したがらないのか、気になる真姫。
別にやましい気持ちがないなら素直に出てきてもいいのにと真姫は思うものの、向こう側の気持ちも考えてあまり追求しない方がいいのではという迷いが彼女の中に生まれる。
これが彼女の最近の悩み、密かに出会ったこの人物のことをもっと知るために、どのように距離を詰めればいいのかということだ。
「……まあ、言いたくないなら別に言わなくてもいいけど」
『……うん……あ、そうだ、そういえば新しい曲はできたのかな?』
「え? ……あぁ、まあ一応はね……また聴きたい?」
『うん、お願いしてもいいかな?』
その方法の一環として彼女がしていることの一つ、それはこれ……“制作中の新曲”を聞いてもらうことである。
完成とまでは行ってない新曲を聞いてもらって感想を聞く、それだけでも作曲者としては十分なポテンシャルに繋がることもある。
彼女は早速鞄の中に入れていたポータブルプレイヤーを取り出すと市販の小型スピーカーと接続、新たに作曲していた曲を流し始める。
イントロからサビ、終わりまでが流れるまでの間、声だけの誰かは何も話さずにその曲を静かに聞き続けたのかなにも話さなかった。
『…うん、すごくいいと思うよ! 君はやっぱり、すごいな……僕じゃこんな綺麗な歌は作れない』
特に専門的な言葉はなく、端的な感想が曲が終わると同時に帰ってきた。
その言葉に真姫は少し何かを考えるように視線を俯かせると、再度自分の赤毛を指でくるくるといじり始めた。
「……そんなことないわよ、誰だって練習すればこのくらいは」
『いや、君なら音楽家としても通用すると思うよ? 少なくとも僕はそう感じる』
「………」
誰かの言葉に真姫は少し複雑そうな表情を浮かべる。
それもそうだろう、確かに彼女はピアノは好きで一度はその道を目指したこともあった。
だが、それは…仕方なく諦めることにした道…どの道自分が進むべき道は自分で決めている。
でも、もしも…音楽の道を進んでたらどうなっていたのか…。
『……どうかしたの?』
返答が返ってこないことに不審を抱いたのか、誰かがそう聞いてきた。
表情は見えなくても、雰囲気かなにかで感じ取ったのかもしれない……真姫はすぐに取り繕うと先程までの表情を消していつもの表情を顔に浮かべた、まあ、姿は見えないから表情がわかるのかはわからないが…。
「…別に? 私が仮にそういう道に進んだとしても、想像がつかないなって思っただけよ…私の進路はもう決めてるし」
『………ねぇ、君は“ガリバー”を知ってるかな?』
真姫の言葉を聞いた後、姿が見えない誰かは真姫にそう質問をしてきた。
「ガリバー? …ひょっとして“ガリバー旅行記”のガリバーのこと?」
童話、ガリバー旅行記。
誰しもが聞いたことはあるであろうそのガリバー旅行記については真姫も聞き覚えがあった。
ざっくりに言うと、ガリバーという人物が小人の住む島に流れ着いた話と言えるがそれが一体どうしたのか、真姫は首を傾げる。
『ガリバーの物語は社会風刺に基づいたフィクションの話だけど、それは違う見方をすれば少し面白い解釈に繋がるんだ』
「違う見方? なによそれ…」
『……“他世界解釈”、量子物理学に存在する論理の一つさ』
「……あの、私もそれなりに勉強はしたけど、一般の高校に通う女子高生がいきなり量子物理学なんてやってると思う?」
姿が見えない誰かが言った、他世界解釈という論理に対して首を傾げる真姫。
『あー……それもそうか……そうだね、わかりやすく言うなら君が本来いるこの世界とは違う、別の世界の存在を提唱するものなんだ』
「別の世界? ……それってもしかしてSF映画とかでよくある“パラレルワールド”ってやつ?」
『そう、まさにそのことだよ』
真姫の返答に誰かはどこか満足気な言葉で肯定した。
パラレルワールド、“平行世界”とも呼ばれる、こことは異なる形の世界。
映画や本などではたまに設定に使われることもあるこの事象のことを真姫は一応知ってはいた。
しかし、それがなんの関係があるのかと、再び真姫の中で疑問が生まれる。
『ガリバーは旅の中で本来ならあり得ない世界に訪れた、自分が見てきた世界とは違う世界を……つまりそれは見方を変えれば本来ガリバーがいた世界とは異なる別の世界を訪れたとも見て取れる、彼は言い方を変えれば違う世界を行き来した存在であるとも言えるんだ』
「……違う世界を……」
『そう、だからそれは他世界解釈における、もう一つの自分の違いにも当てはまるんだ……もしこことは違う世界で君が音楽の道に進んだとして……僕はきっとその君は音楽で、いい結果を残せてるんじゃないかって僕は思うな……』
なんとも空想的というか、不思議な事を言うなと真姫は思った。
実際にそうだという確証もないのに、もしもの世界のことをそんなに熱心に話せるなんて……この人はとても不思議な人だなと、真姫は感じた。
だが、もしも本当にそんな自分がどこかの世界にいるなら……ふと、真姫はそんなことを考えるが、ハッと我に返ると頭を左右に振る。
「……なにそれ、意味わかんない……ロマンチストのつもり?」
『……そう思っただけだよ、君のピアノはそれくらいに上手だと僕は感じたから……それに、少し違う生き方をしてる自分を考えるのもたまにはいいんじゃないかな?』
「………あっそ………まあ、一応褒め言葉と、アドバイスとしては受け取っておくわ」
どこか気恥ずかしくなったのか、真姫は頬をほんのりと赤くしながらそう言って立ち上がる。
なんやかんやと話し込んでしまったが、そろそろ帰らないと日がくれてしまう。
女子高生の夜道の一人歩きは危険を伴う、真姫はいつもここに来た時は日が暮れる前には帰路に着くように心がけていた。
「そろそろ帰らないと…ママとパパも心配性だから」
『…そうだね…気をつけて』
「……あなたは帰らなくていいの?」
『僕は……もう少しここにいるよ』
「……いつも、の間違いじゃないの、それ……」
姿が見えない誰かに真姫はそう言った、確かに何者かは気が付くといつもこの公園に来ているようだった。
どこに身を隠しているのかはわからないが、あながち間違った指摘ではないだろう。
その後、彼女は公園を出ようと歩き出そうとするが……なにを思ったのか、数歩歩いたところで足を止めた。
「……ねぇ、そういえばあなたの名前、なんて言うの?」
『……え?」
唐突に聞かれたことに誰かは呆気に取られたような反応を示した。
『ど、どうしたの? 急に…』
「もうそろそろ、名前くらい教えてくれてもいいんじゃない? はっきり言うと名前もわからないで、あんたとかあなたとか曖昧な表現で示すより名前くらい知っておいてもいいかなって思っただけよ」
確かになんやかんやがあったとは言え、彼女はこの人物とそれなりに関係を持ってきた。
そろそろ名前を知っていてもおかしくないだろうが、彼女は今だにたまに話す誰かの名前を知ってはいなかった。
姿は見せてはくれないが、名前くらいなら、と思い切って聞いてみたのだが返答はあるのだろうか?
そう思いながら真姫がその場で待っていると………
『………“ガイア”………』
そう返答が帰ってきた。
「……ガイア……それがあなたの名前なの?」
返答に対して真姫がそう聞き返すと、なにも言葉は帰ってこなかった。
肯定はしていないが、否定もしないと言うことはおそらくあっているのだろう。
そう判断した真姫はそれ以上の追求はしなかった。
「……まあ、悪くない名前じゃない? ちょっと意識しすぎな気もするけど……じゃあ今度はお返しに私の名前も教えないとね」
名前を教えて貰ったのでまだ名乗ってなかった自身の名前も言おうと真姫は背後の木の方に振り向いた。
「私の名前は、西木野 真姫………それじゃ、またね、ガイア」
始めて名前を言ってさよならを言えた。
これで少しは距離を縮めることはできただろうか……
そんなことを考えながら、真姫は公園を出て行った。
だが、この時真姫は気付かなかった…。
公園から出てくる真姫のことをじっと見つめる、黒ずくめの服に身を包んだ謎の人影がいたと言うことを…。
それから数日後、真姫はいつも通りに音ノ木坂学院に登校し、一日を過ごした。
いつも通り授業を受けて、放課後になったらμ'sとしての練習に専念する。
そのため、真姫はまずμ'sの活動の拠点となっている“アイドル研究部”の部室を訪れた。
アイドル研究部の札がついたドアのドアノブに手をかけて、真姫はドアを開く。
「ん? あら、真姫一人できたの? …今日は早いわね?」
「……にこちゃんはそれよりも早かったみたいね?」
部室に入ると同時に真姫を出迎えたのはこの部室の主にして、彼女達が所属するアイドル研究部の部長、矢澤 にこだった。
一番奥の席の席に座って自分よりも早く来ていたのであろうにこにそう言うと、真姫は近場の席に座った。
自分の鞄をおいて、ふう、と息を吐いて席に着く真姫、そんな彼女をなぜかにこはじっと見つめる。
「……ねぇ、真姫、あんた最近穂乃果のことよく見てるわよね?」
「うえ!?…べ、別に? 気のせいじゃないの?」
唐突にそう聞いて来たにこに真姫は動揺した表情を見せる。
「ここ最近、暇さえあれば穂乃果のことよく見てるじゃない、一昨日もその前も、わたし見てたのよ?」
「そ、そんなこと…」
「昨日なんか穂乃果に気付かれてたじゃない」
「うっ……」
まさかにこちゃんにバレていたとは……と苦虫を噛んだような表情を浮かべる真姫ににこは席から立ち上がるとなにやらにやにやとした表情を浮かべる、そっと彼女の方に近づいてくる。
「……ねぇ~? もしかして~、真姫ちゃんって~……」
「な、なによ変な喋り方して…」
妙に間延びした声で迫ってくるにこを警戒する真姫、にこはさらに近づくと彼女の自慢の笑顔を真姫に向ける。
「実は女の子が好きで、穂乃果ちゃんのことが好きだったり?」
「しないわよ!!」
にこの冗談めいた発言に真姫はすぐさま否定して、勢いよく立ち上がった。
「なんで私がそんな趣味みたいになるわけ!?ていうか、恋愛はアイドルのご法度って言ったのはにこちゃんじゃない!!」
「じょ、冗談よ、単なる冗談、にこにーのかわいい冗談にこ♪」
「可愛くないわよ!むしろ心臓に悪いくらいよ!!」
あまりにも必死な真姫に戯けてみせるにこ、しかし、それで彼女の気が収まるわけもなく真姫は烈火のごとく顔を赤くしてにこを睨みつける。
「……でも、そう見られてもおかしくないわよ? 最近じゃ女の子同士の恋愛を好むファンも多いんだから」
「……意味わかんない!」
「……あのね~、わたしはあんたに気を付けろって言ってんのよ! こういう勘違いされるから!」
「勘違いもなにもそんなんじゃないって言ってるでしょ! 私はただ穂乃果がいい“お手本”になると思って……!」
そこまで言ったところで、真姫はハッと口を閉じた。
「お手本? なによ、お手本って……穂乃果から何か教わるものでもあるの?」
「い、いや…それは…その…」
つい出てしまった言葉に真姫は動揺しながらなんとか誤魔化そうとするが、にこはじーっと真姫を見つめたまま目を話そうとしない。
(絶対に言えない……穂乃果みたいにいつの間にか人との距離を埋めるにはどうすればいいのか知ろうとしてたなんて、にこちゃんには絶対言えない……!)
彼女がここ最近、穂乃果を見ていた理由、それは彼女が持ついつの間にか人を引き付ける何かを学ぼうとしたからだ。
理由は公園で出会った姿の見えない誰か……ガイアが、なんで姿を表さないか聞くためにはガイアともっと心の距離を近づける必要があると判断した真姫はその能力を一番秘めているのかを考え、結果、それは穂乃果が一番持っているのではないかと判断したのだ。
彼女は本当にいつの間にかμ'sのみんなを引きつけた彼女にしかない、特別な何かがある、そのため彼女をお手本にすれば人を引き付けるにはどうすればいいかを知ることができると思ったのだ。
しかし、その行為がそんな風に思われるなんて真姫は思っても見なかった。
特に、目の前にいるにこにだけは……。
ただでさえ、何かしらに自分に突っかかってくる彼女に余計なことを知られればなにを言われるかわかったもんじゃない。
「と、とにかく! なんでもないの! 私、先に屋上に行くから!」
これ以上話をややこしくするはわけにはいかない、真姫はそう思って半ば強引にこの部屋から出て行こうとした。
「あ、ちょっと待ちなさいよ真姫!」
「なによ、だからなんでもないってさっき!」
尚も聞いてこようとするにこを真姫は突っぱねようとするが……
「……屋上に行っても、今日雨で使えないけど……」
「………あ」
結局その後、真姫はにこに穂乃果を見ていた理由について追求されることとなった……。
その日の放課後、真姫は雨の中、傘をさしてある場所へと向かっていた。
行き先は今日も、ガイアと出会ったあの公園である。
雨なのでもしかしたらいないかもしれないが、念のためと思い、彼女は今日もガイアの元に向かおうと思ったのだ。
「……まあ、今日もいるとは限らないけど……一応は、ね」
そんな独り言を呟きながら真姫は公園へと続く坂道を登っていく。
雨が真姫がさしている傘を叩き、独特の音を真姫の耳に伝えてくる、それを聞きながら彼女が歩き続けていると……。
「……?」
その坂道の途中で、珍しく人影を見つけた。
坂道の端で雨が降っているのに傘も刺さずに全身を黒いコートで包み、頭にはこれまた黒の帽子を被っている謎の人物。
普段なら人があまり来ることが少ないこの場所に、人がいるのにも驚きだが……その人物を見た時に真姫は言い知れぬ不気味な何かを感じた気がした。
この黒ずくめの何者かにはあまり関わらない方がいい、そう判断した真姫は足早にその人物の前を通り過ぎようとする。
「………お前はガイアを知っているのか……?」
だが、真姫が前を通り過ぎたと同時に黒ずくめの何者かは彼女に深く響くような怪しげな声でそう聞いた。
突然声をかけられた真姫は反射的に足を止めて、恐る恐ると黒ずくめの何者かの方へと振り返る。
「………答えろ、奴は………どこにいる……」
すると、真っ黒な帽子を目深に被ったその人物は彼女の方に向き直り、帽子のつばに手を添えながら再度そう聞いて来た。
この人物はガイアのことを探しているのか、咄嗟に真姫はそう判断したが、その人物から感じる嫌な雰囲気に答えるのを躊躇した。
答えたら、自身とガイアに何かが起こるような気がしたから……。
「奴はどこに………“ウルトラマンガイア”はどこにいる……!」
「し、知らない!!」
血気迫るような黒ずくめの言葉と声に、怖くなった真姫はそう言い捨てると走りだした。
緩やかな坂道を、雨の中必死に走る真姫。
あの黒ずくめには話してはいけない、関わってはいけないと彼女の中にある、勘のようなものがそう告げる。
そう感じさせるほど、あの黒ずくめからはとても嫌な雰囲気を感じたのである。
足早に坂道を上がっていく真姫、ふと後ろの方を振り向くと…。
(……着いて来てる……!?)
あの黒ずくめが真姫を追いかけて来てるのだ、ゆっくりとした足取りだが確実に真姫を追いかけて来ている。
それに気づいた真姫は不安を感じて、さらに足早に走り出した。
このまま追いつかれたらなにをされるかわからない、真姫は慌てて走り、やっとの思いで緩やかな坂を登り切ると咄嗟にいつもガイアと話をしていた公園へと飛び込んだ。
「はあ…はあ……!」
雨水でぬかるんだ地面を早足で踏みしめながら、彼女は公園の奥へと向かう。
しかし、それほど広くない公園に逃げ場はなく、気づいた時には真姫は逆に追い詰められてしまったことに気づいた。
「あ……うそ……どうしよう……」
突然のことに動揺して追い詰められることを計算してなかった真姫はなんとか隠れる場所がないか、公園の中を見回す。
だが、そんなことをしている間に……公園の入り口に黒ずくめの何者かがたどり着いてしまった。
「っ! こ、来ないでよ!!」
真姫はその人物にそう言うが、そんなことはお構い無しと言いたげに黒ずくめの人物は真姫に近づいてくる。
「……言え、ガイアはどこだ……」
「……知らないわよ……そんなこと…!」
「……お前がここで……ガイアの名を呼んだのは、聞いている……」
「っ!」
その言葉に真姫は昨日のことをこの黒ずくめは知っているのだと、すぐに理解した。
この黒ずくめはガイアのことを知っていて、ガイアの居場所を聞こうとしている、だとしたらここはまずい、まずすぎる、下手をすればガイアの居場所を知らせてしまうような物だからだ。
それを瞬時に判断した真姫は……。
「ひ……人違いよ! 私は……なにも知らない!」
ガイアに何かが起こるのを避けるために咄嗟に嘘をついた。
黒ずくめの人物を睨みつけ、そう言い放った真姫、だがそれに対して黒ずくめは………
「………嘘を………着くな………!」
その言葉が嘘だと瞬時に見抜き、帽子を被った頭を上げ、目にも止まらないというのはまさにこのことと言えるスピードで、真姫との間合いを一気に詰めた。
「ひっ……あっ……あぐっ…!」
そして真姫は自身の首が締め付けられる息苦しさを感じた。
黒ずくめの男が乱暴に彼女の首に手をかけて片手で締め上げ始めたのである。
「………言え………さもなくばお前を、ここで殺す………!」
「っ……だ、れが……以下にも怪しそうな……やつに……!」
ぎりぎりと首を締められ、息苦しさを感じ、真姫は苦しそうな表情を浮かべる。
人間離れした力で首を締められ、持っていた傘を手放し、今にも窒素しそうになりながらも彼女はガイアと会っていたことを言おうとはしなかった。
「……最後の警告だ……ガイアは何処か言え……さもなくば殺す……!」
「っ……くふっ……ぅう…!」
黒ずくめがさらに手に力を込めてそう言ってくる。
しかし、真姫は絶対に口を割らないと言わんばかりに口を真一文字に結んで頭を振った。
息ができず、次第に意識が遠のいて行く…。
わけもわからずにこんなところで死ぬのかと、真姫は思ったが…。
同時に最近知り合ったばかりだが、少し興味を抱いていたガイアを売らずにすんでよかったと安心もしていた。
それはなぜか?
真姫の中でその答えは自然とすでに出てきていた…。
(……ここであいつを打ったら、人を惹きつけるも論外だものね………それに、最低なことをしなくて済むわ……“友達”を、売るくらいなら……!)
彼女がなぜガイアに興味を抱いたのか、それは心の何処かで……ガイアと友達になってみたいと思ったからだったのだ。
素直じゃないとよく周りから言われるが、全くその通りだと感じた、死ぬ直前でようやく理解したのだから。
(……ごめんね、ガイア……もう、私……!)
その思いを理解したが、真姫の意識はどんどん遠ざかっていく。
そして、彼女の視界が暗闇に包まれる………。
その直前、不意に彼女の首を掴んでいた手が何かに弾かれるように離れたのだ。
「ぐう………!」
「っ……ごほっ……けほっ、けほっ……!」
首を締める物がなくなり、ようやく息ができるようになった真姫はむせながらも反射的に呼吸をする。
息を吸い込み、吐き出して、次第に意識をはっきりとさせて行く。
そして、霞んでいった意識をハッキリとさせた真姫が顔をあげると……
「………え?」
自分と黒ずくめの人物の間になにやら“赤い光”が割り込むようにして入り、発光していた。
暖かさを感じさせる赤い光、それを見た真姫はあることを感じた。
「……助けてくれたの?」
この光が自分を助けてくれたのかと理解しながらも、不思議なその光をまじまじと見つめる。
『……真姫ちゃん、今のうちに!』
「うぇ!? 今の声……あ、ちょっ!?」
すると突然、頭の中に声が聞こえたかと思ったらその光に手を引かれるように、真姫は一瞬の隙をついて公園を出ていった。
「………今の光………そうか………あれが……!」
傘を手放し、雨に打たれながらも、赤い光のおかげでなんとか公園から抜け出した真姫は本来の帰り道とは逆の方に導かれ、人気のない、街から離れた場所にぽつんとある寂れた廃工場へとたどり着いた。
廃工場の中に飛び込むようにして隠れた真姫と、真姫を導いた赤い光。
「に、逃げ切ったの……?」
『いや、わからない、奴は僕を狙ってる……多分僕を見つけるまで追ってくるはずだ』
真姫の言葉に答える赤い光、その言葉に真姫はあることを感じる…。
「……ねえ、その声って……ひょっとしてあなた……ガイアなの?」
『………』
聞き覚えのある声と話し方、それらが彼女が先ほど脳裏に浮かび上がった友人、ガイアと酷似していることに気づいた真姫は赤い光にそう問いかける。
すると、赤い光はその問いかけにすぐに答えようとはしなかった……だが、しばらくすると、その光は次第に大きくなり……風船が弾けるように光が拡散した。
「うえっ!?」
それに驚く真姫、だが弾けた光の中から出てきた物を見た瞬間、さらに言葉を失い、目を見開いた。
「……人、形……?」
赤い光の中から現れたのは、人型の人形だった。
しかし、人型ではある物の人間をかたどったような物ではなく赤と銀色の配色が成された体に銀色の顔、乳白色の丸い目をした、少し変わった人形だった。
いったいなぜ浮遊する光の中から人形が現れたのか、あまりにも現実離れしたことに真姫が唖然としていると……。
『……これが僕の姿なんだ、真姫ちゃん……』
「え……! この声って……ガイア?」
『……そう、僕がガイア……本当の名前は、“ウルトラマンガイア”……』
突然話し始めた人形は浮遊しながら自分のことをガイアだと話し始めた、そのことに真姫は目を白黒とさせる。
確かに今までで何度かはガイアはどんな人物なのかを考えた時にあまりにも不思議な存在だから人間ではない何かかもしれないと思ったこともあった。
だが、それが人形だなんて思いもしない、と言うか考えもしなかった。
『驚くのも無理はないよ…いろいろと事情があってね…』
「じ、事情………?………それって、もしかしてあの黒ずくめのやつと関係あるわけ?」
説明しようとするガイアに、咄嗟に真姫はそう問いかけた。
すると、ガイアはしばらく黙り込むが……。
『………奴は僕を狙ってる………真姫ちゃん、これ以上君を巻き込ませる訳にはいかない、だから今の内に……別の道から』
「そうはいかない………」
「っ!」
あの黒ずくめの男の危険から真姫を逃がそうとガイアがしたその時、二人がいる廃工場の入り口にあの黒ずくめの人物が立っていた。
『もう追いついて来たのか…!』
「ガイア、抵抗は無駄だ……大人しくこちらに来い……」
『……それで従う訳にはいかないんだ』
不気味な声でガイアにそう言った黒ずくめ、しかしガイアは黒ずくめの言葉に対して否定的な返答を返す。
すると、黒ずくめは笑っているのかほんの少し肩を震わせて、被っている帽子の唾に手をかけた。
「………なら、仕方ない………そこにいる女を消し、お前を“あの方”の元に連れて行く!」
被っていた帽子を投げ捨て、そう言い放った黒ずくめの姿を見たとき、真姫は再び驚愕した。
黒ずくめの帽子のしたにあったのは人の顔ではなかった。
全体的な形は人間のシルエットだ、しかしそれはゲルのような半透明で濁りのある何かで構成されており、怪しげに蠢いていたのである。
明らかに人間ではない黒ずくめの正体に驚くのもつかの間、次の瞬間には人の形をしたゲルのような物はその形を徐々に変質させていき、どんどん大きく膨れ上がっていったのだ。
「な、なんなのよあれ!」
『まずい……ここは危険だ! 早く外に!』
屋根をも突き破りかねないほどの大きさに膨れ上がっていくゲルのような物、危険を感じたのかガイアは浮遊しながら真姫にそう呼びかけると彼女はガイアと共に廃工場の別の出口から外に出る。
「な、なんなのよ……いったい、なんなの……あなたは何か知ってるの、ガイア……」
息も絶え絶えになり、外になんとか出た真姫は自分を先導してくれたガイアにそう問いかける。
一体あれはなんなのか、なぜガイアを狙っているのか、“あの方”とはなんのことなのか、真姫の中で疑問が次々と生まれてはごちゃごちゃに混ざり合っていく。
だが、混乱するその思考に対して帰って来たのはガイアの答えではなく……
ーーードガァァァァアン!
まるで近くで爆弾が爆発したかのような凄まじい音と共に、突 廃工場の屋根を突き破り、外に出て来たゲルのような物が変質した“巨大な異形”だった。
「こ、今度はなんなのよ!? あれ…なんなの!?」
『………あれが奴の正体、“巨大異形獣 サタンビゾー”………』
「サタンビゾー…? ……あの怪物のことなの……?」
真姫の見つめる先にいる巨大な異形の怪物。
それは漆黒の楕円形の体に腕と足が付いたようなアンバランスな形で、その体の中央には黄色に輝くラインが縦に一本だけ刻まれており、怪しい光を放っている。
この世の物とは思えないような、まさに怪物を前にした真姫は愕然とするばかり…。
だが、そんな彼女のことは御構い無しとばかりに漆黒の怪物、サタンビゾーは真姫とガイアを見つけると二人の方に向き直り、腕を振り上げた。
すると、その腕から鋭利な二本の爪が伸びた。
そして、ずしり、ずしりと崩れた廃工場を出て、二人の方へと近づいてくる。
「ちょっと、こっち来るわよ!」
『……奴の狙いは僕だ、真姫ちゃんは逃げて』
「え……逃げろって……あんたまさか私だけ逃がすつもり!?」
『君を危険な目に合わせる訳には行かない、これは僕自身の問題だ、だから早く!』
迫り来るサタンビゾーから真姫だけでも逃がそうとするガイア。
確かに、本来の真姫ならこんなありえないことあまり首を突っ込みたくはない。
だが、この時ばかりは……違った。
「お断りよ!」
ガイアの言葉を真姫は真っ向から断った。
それに対して人形の体をぴくり、と震わせたガイアが真姫の目の前まで浮遊してきた。
『断るって……なにを言ってるんだ! 君が関わる理由は…』
「だって、ここであんただけ残して私が逃げたら……私が一生後悔するじゃない!」
説得を試みようとするガイアに、真姫はそう告げた。
「確かに関係ないかもしれない……でも、あんた一人で抱え込もうとしなくてもいいじゃない、困ってるなら隠してないでちょっとくらい相談しなさいよ……私たちはもう、他人じゃないんだから!」
ガイアに反論の余地を与えずにまくし立てた真姫、そして彼女の言葉にガイアはすぐに言葉を返せなかった。
『……真姫ちゃん……っ!』
だが、そんなやりとりをしているうちにもう既にサタンビゾーは二人のすぐそばにまで近づこうとしていた。
それに気づいたガイアはサタンビゾーのいる方に正面を向けてから慌てて再び真姫に向き直った。
『……こうなったらもう一か八かだ、真姫ちゃん君の力を貸して!』
「私の力って……何かあるの?」
『うん、僕はもともとこの状況をなんとかするための力を持っている……だけど、この姿じゃその本来の力を出すことが出来ないんだ、でももしかして君なら……いや、きっと真姫ちゃんなら』
説明するや否や、真姫の目の前で浮遊していたガイアが再び光に包まれ、その姿をさらに変質させた。
そして、光が収まり、姿を現したのは金色の縁取りが施された無骨なVの字を描いたシルエットに、中央の藍色のパネルが施された物だった。
「これは…?」
『これは“エスプレンダー”、これを掲げて、僕の名を呼べば君は僕と一体化して、僕は本来の力を出すことができる……もう一度言うよ、真姫ちゃん……力を貸してくれ!』
目の前で浮遊するエスプレンダーから聞こえてくるガイアの言葉、この状況で見つけた、唯一の希望の“光”。
そして、真姫はじっとエスプレンダーを見つめた後、決断した。
「……いいわよ、これしか方法がないんでしょ? あなたと私が一緒に助かる方法は!」
真姫は意を決した表情を浮かべるとエスプレンダーを手に取り、裏側の持ち手に手をかけた。
そして、こちらに向かってくるサタンビゾーを睨みつける。
サタンビゾーは右手の爪を振り上げ、彼女に向かって振り下ろそうとしている。
このままでは彼女はサタンビゾーの爪に引き裂かれてしまうだろう、だがそれでも真姫は億することなく手に持ったエスプレンダーを左肩にあてがうとそれを思い切り真正面へと突き出し、叫んだ。
「ガイアーーーーーーー!!」
それを合図に、エスプレンダーから解放された赤い暖かな光が真姫の体を包み込んだ。
その光は真姫の中にある不安や恐怖と言った感情を包み込み、ふっと彼女の心にこの絶望的な状況の中で安心感を与えてくれた気がした。
サタンビゾーの真正面に、突然眩い真紅の光の柱が立ち上がる。
その光に気圧されるようにサタンビゾーが後ろに二三歩後退する。
地面から立ち上った赤い光の柱はその光の勢いを徐々に強めていき、やがて空高く登っていくと、その光が徐々に静まっていき………
「デュア!!」
光の柱の中から赤き巨人が姿を現した。
赤と銀色の体、胸に備わった金の縁取りに黒のプロテクターのような物、そして胸の中央の逆三角形の水色に輝く水晶。
光の中から現れた巨人はそのまま地面に向かって降下していき、そして腰を大きく落とした状態で着地した。
その瞬間、地面が爆発するかのような土煙が上がる。
そして、その中で巨人はゆっくりと立ち上がると目の前にいるサタンビゾーを銀色の顔にある乳白色の楕円形の双眸で睨みつけた。
「ディア!」
開いた左手を前に、握り拳にした右腕を曲げた構えを取り、サタンビゾーと相対する赤い巨人。
そう、この姿こそ人形の姿をしていたガイアの本来の姿。
大地の力を宿した地球の意思が生み出した戦士……“ウルトラマンガイア”である。
光と共に本来の姿を現したウルトラマンガイアを前にサタンビゾーは動揺するかのような素振りを見せる。
だが、すぐに右手を振りかぶり爪を構えるとガイアに向かって走り出した。
「……ダァ!」
それと同時にガイアも走り出し、サタンビゾーとガイアの間にできた間合いをどんどんと縮めていった。
そして、その距離が埋まった瞬間、サタンビゾーが右腕を振り下ろしてガイアを爪で攻撃した。
だが、ガイアはサタンビゾーの一撃を身を低く屈めて回避し、反撃にサタンビゾーの体に力強い回し蹴りを打ち込む。
鈍い音と共に漆黒の体を大きく揺らしたサタンビゾー、しかし、すぐに体制を立て直すと反撃とばかりに横薙ぎに爪を振るって攻撃してくる。
だが、ガイアは冷静にその一撃をバックステップをとって回避するとまた間合いをとって再び構えを取り、サタンビゾーを牽制する。
爪の間合いに入らないように気をつけながら身構えるガイア、それに対し、サタンビゾーは攻撃の隙を伺っているかの如くガイアを見据える。
「………っ!」
だが、サタンビゾーは接近してくることはなかった。
サタンビゾーの体の黄色のラインから突然、強力な光を放つ光弾が発射されたのだ。
「デュアァァァァア!?」
不意打ち同然の攻撃にガイアはたまらずその攻撃の直撃を受けてしまい、大きく後ろに後退する。
その隙を狙って、サタンビゾーは一気にガイアに接近するとアンバランスな体についた足を振り上げてガイアを蹴り飛ばした。
地面に轟音を立てて倒れこむガイア、サタンビゾーはさらに追い打ちをかけようと爪を振り上げ、ガイアに突き刺さんとばかりに振り下ろす。
だが、ガイアはその一撃を横に体を転がすことで紙一重で回避する。
そして、そのまま受け身を取りながら体制を立て直し、立ち上がったガイアは再度身構えると一気にサタンビゾーに向けて走りだし……
「ディア! ……デュァァァア!」
サタンビゾーの右腕を抱えるようにして拘束し、右腕から伸びる爪にめがけて思い切り肘を打ち下ろし、その二本の爪を纏めてへし折った!
武器を折られ、動揺するサタンビゾーにさらに追い打ちで回し蹴りと後ろ回し蹴りを立て続けに打ち込んで怯ませると、ガイアはさらにサタンビゾーな体に拳を叩き込んで大きく後ろに後退させる。
ガイアからの猛反撃を受けたサタンビゾーだが、まだ戦える武器は残っていると体の前で腕を交差させると、それを左右に開く動作をして、再び体のラインから破壊光弾を発射する。
「ディアッ!!」
しかし、ガイアは二度同じ手を喰らいはしない。
ガイアは両腕を前に突き出すと手の平からサークル状の光の障壁、“ウルトラバリアー”を展開し、サタンビゾーの破壊光弾を防いだ。
自身の攻撃を防がれて激しく動揺するサタンビゾー。
それを見てガイアは強力な一撃を放つべく、両腕を左右に大きく広げた。
「ディア! ……ァァァァア……!」
その瞬間にガイアの周囲に光の粒子が発生し、ガイアが身を低く屈めるとガイアの頭部に集まっていく。
そして、それはやがて鞭のようにしなる“光の刃”を作り出す。
両腕をあげて、ガイアは光の刃を大きく後ろに逸らす………そして………。
「ディァァァァァァァア!!」
両腕を前に振り下ろすと同時に頭部の光の刃を発射、“フォトンエッジ”をサタンビゾーに直撃させた!
ガイアの強力な一撃を受けたサタンビゾーはその威力のあまりに地面に倒れ伏し、そのまま轟音と共に、爆発した。
なんとかサタンビゾーを退けることができた、ウルトラマンガイアと真姫。
戦いが終わり、静寂が辺りを包み込む中、ガイアは空を見上げる。
すると、いつの間にか雨を降らしていた雨雲は何処かへと去り……その間から眩い“光”が差し込んでいた。
これが、“三人目の出会い”…。
μ'sのメンバー、西木野 真姫。
そして、大地の意思を宿した赤き巨人、ウルトラマンガイアとの出会いだった…。
いかがでしたか?
ていうかこれ二万字も使ってたのか…書いてて気づかなかった…。
さて、それはそれとしては……次回も更新は未定ですが、お楽しみに!
次は誰がどのウルトラマンと出会うのか…。