ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!
さて、今回の新たな物語、主役は凛ちゃんこと、星空 凛!

彼女が果たすこととなった新たな出会い、お楽しみください!


限界突破な突然遭遇 凛と最強最速の戦士

 

 

 

その少女は自信が持てなかった…。

 

 

 

他の女の子よりも短い髪、活発で運動が得意で、誰よりも元気だった少女はその元気さのあまり自分には女の子らしさというのがないと感じていた。

自覚はしてはいるが自分だって女の子、その自覚は持っていた。

だからこそ、たまには女の子らしさに憧れたりもした……だけど、ある時をきっかけにそれが自分には似合わない物なのだと……遠い物なのだと知ってしまった。

 

小学校の頃のある日、ただなんとなく、母親に勧められて買ったもらったスカート。

フリルのあしらわれた可愛らしいデザインのスカート、それを履いて学校はと向かった日のことだった。

 

このスカートを履けたことに少女自身はとても嬉しく感じていた。

可愛いデザインのスカートを身につける……女の子らしい服を自分も着れる、その事実がなによりも嬉しくて、なによりもワクワクとした高揚感を感じずにはいられなかった。

みんな、今の自分をどんな風に感じるのか、どんな感想を持ってくれるのか、それがなによりも気になって、それでいて楽しみで仕方なかった。

 

その日の最初に会った昔からの幼馴染は同じ女の子ということもあり、可愛いと言ってくれた。

その一言だけでも、十分嬉しかった。

自分だって女の子なんだ、その事を自覚することが出来たような気がしたから……。

 

……だけど、それはすぐに別の意識へと変わって行った。

 

遅れてやって来た数人の男子がスカートを履いた自分の姿を見て、こう言ったのだ。

 

 

 

『スカート持ってたんだ』

 

 

 

人からしたら何気ない一言なのかもしれない、でも彼女にとってそれは自分がどんな女の子なのかを自覚させるには決定的なことになった。

 

 

自分は女の子だけど“可愛い女の子とは違う”のだと……。

 

 

やっぱり、自分は周りから見たら“女の子らしくないんだ”。

 

だからスカートを履いても、自分には似合わない……と。

 

 

それをきっかけに少女は自分は女の子らしさというものから少し距離を置くようになってしまった。

……だけど、それで良かったのかもしれない。

気ままに、自分は自分らしく、それでいいじゃないか……それの方が気楽じゃないか、開き直りとも取れるかもしれないが自分にはこれでいいのかもしれないと彼女は思った。

 

例えば、道端を自由気ままに歩く野良猫のように…。

 

例えば、夜空をちかちかと輝く小さな星のように…。

 

別に無理に自分を大きく見せなくても、猫も星も気ままに自分らしくいる。

猫はのんびりと、星も気楽にちかちかと……。

 

自分は自分らしく、それがなによりもいいことなのだ、きっと……きっとそうだと……。

 

 

 

そんなある日、彼女は光り輝く仲間達と出会いを果たすことになる。

 

 

昔から、ずっと昔から一緒にいた幼馴染が昔から夢見たもの、その幼馴染が再びその夢を追いかけようと決意し、一歩を踏み出したのだ。

そして、その一歩を……自分も並んで踏み出した。

 

女の子らしくなくて、可愛いものが似合わなくても……でも、それでもいい。

自分は、自分の持つ自分らしさを輝きにして今輝こうとしてる彼女達の……仲間達の光の1ピースになろう。

夢へと踏み出した掛け替えのない友達と、それを共に進んでいく仲間と共に……。

 

他のみんなには敵わない輝きだとしても、他のみんなの輝きをより輝かせられるように……出来ることをしよう。

 

 

夜空に浮かぶ月よりも小さく光る星のような“輝き”だとしても……。

 

 

 

「う~~~! テンション、上がるにゃ~~~! ……え? 凛? 凛は、“星空 凛”、よろしくね♪」

 

 

 

その輝きが誰かのためになるのなら、自分は自分の輝きを精一杯生かそう。

誰よりも元気が取り柄だからこそ、その自分らしさでみんなを支えられるように……。

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

眩い輝きの中に立つ仲間達、みんなと一緒に、より輝く舞台に、光のように一瞬で過ぎて行く青春を彼女達と共に…。

自由気ままでほんの少ししかない光だとしても集まれば、自分にもなにかを残せるような強い光になれるような気がするから。

 

そして、少女はこの出会いをきっかけに今までどこか遠い存在のように感じていたステージへと足を踏み入れ……少しずつ、変わり始めた。

 

だが、彼女に起きた変化はこれだけではなかった。

突如として、彼女は目が眩むような“もう一つの光”と出会うこととなった…。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者達~

 

「限界突破な突然遭遇 凛と最強最速の戦士」

 

 

 

 

 

「にゃ~…今日も1日疲れたにゃ~…」

 

高校生の癖に仕事疲れで帰ってきたサラリーマンのようなセリフだなとは自覚はしている。

しかし、若くても疲れた時は疲れるのだ、いくら自身が体力自慢とはいえ限界というのがある。

中学生の頃、陸上部に所属していた時も疲れた時は有無を言わさず帰って夕食を食べたらベッドに倒れこんで横になることがあった。

 

動く時はしっかり動いて、休む時はしっかり休む、それがなによりも体のサイクルを整える方法と言えるのではないだろうか。

 

「んー…このまま寝ちゃいそうだにゃ~…あ、でもまだお風呂入ってない…まあ、でも少しくらい後でもいいよね~」

 

なんてことを呟きながらゴロゴロとベッドの上で時間を持て余す凛、まだまだ寝るには早い時間、これを活用する方法と言ったら今は体を休めることに費やしたいのが彼女の現状だった。

 

というのも、彼女は今日も“スクールアイドル”としての練習に勤しんだからである。

 

「……“ラブライブ”はもう終わっちゃったけど、μ'sはまだまだこれからだもんね……みんなに負けないように、凛も頑張らないと!」

 

彼女が所属する音ノ木坂学院、スクールアイドルのμ's。

凛は今日もμ'sの練習に励み、たくさん体を動かし、たくさん汗を流し、その分たくさん頑張ったのだ。

この疲れはその証のような物だと言える、それゆえにこの疲労感は彼女にとってどちらかというと不快な物には感じなかった。

一生懸命に頑張った後に感じる疲労感はむしろ清々しく感じる位である。

 

だから、明日も練習が頑張れるように……。

 

「明日に備えて今は充電、パワーチャージだにゃ~…」

 

今はゆったりとしておくのが凛にとっての最善の選択だった。

 

 

「………?」

 

 

すると、ふと凛がベッドで横になりながら窓の方へと目を向けた。

窓の外には見慣れた音ノ木坂の街の風景と、その上を包み込むようにして広がっている夜の暗い空があった。

そして、その夜空には丸い円を形作って淡い光りを放つ月と、ちらちらと所々で輝いている小さな星達が夜空を彩っていた。

 

その風景を見た凛はなにを思ったのか唐突にベッドから起き上がると窓の近くへと移動し、スライド式の窓を開けた。

 

夜風の涼しげな風が外から室内へと吹き込んで来て、凛の頬を撫でる。

その夜風の感覚を肌で感じながら、凛は視線を空に浮かぶ星たちへと向けてみた。

 

「……星空にゃ」

 

星、星空……凛は空に浮かぶ星を見て、なんとなしにそう呟いてみた。

自分の名字にもある“星空”という名前。

この空の向こうでは大きく広がる、宇宙という空間で無限に瞬く星達、だけど地球からは夜にならないと見えないし、その光もどこか儚い……けど、その儚い光を放ちながらも夜という時間に空を彩る星が凛は好きだった。

 

どんなに小さくても気ままに光る星に凛はなんとなく惹かれていたのだった。

 

「……そう言えば、この前の流れ星綺麗だったな」

 

そんな中、凛は以前に自分が目にした“流れ星”のことを思い出した。

 

あれはまだ一週間くらい前だった、あの日も凛がふと窓から外の景色を見上げていたら、突然珍しい色とりどりの“流れ星”が夜空を駆け抜けて行ったのだ。

僅かな一瞬の時間ではあったものの、その時の光景を凛はしっかりと覚えていた。

いくつかの色の光を放ちながら次々と流れて行った流れ星、あの星達が……まるでμ'sのように思えたから。

 

真っ暗な夜空というステージの中で輝きを放ちながらその上に立つ、μ'sの仲間たちと自分、その流れ星達を目にした時に凛はなんとなしにそんなことを思ったのだった。

 

自分達がこれからどんなステージに立って行くのかわからない。

でも、だからこそ一瞬でも綺麗な光を出せるように………例えそれが流れ星のように一瞬だとしても、綺麗な光を出せるように………。

 

みんなと一緒に、これからも頑張っていこう……。

 

凛はその流れ星を見た時にそんなことを考えたのだった。

 

「……うーん、ちょっと凛らしくないかにゃ?」

 

我ながらなかなかのメルヘンな意識確認だと思った。

なんだか自分の思ったことに対して照れ臭くなった凛は頬を指で掻きながらそう呟き、再び視線を夜空へと向けた。

 

 

 

その時だった……。

 

 

 

「………あれ、流れ星?」

 

 

 

突然夜空の上を一筋の光が飛んでいるのが見えたのだ。

赤と金色が入り混じったかのような不思議な光を纏った光、それが空の上を駆け抜けて行く。

 

だが、よく見るとその流れ星はなにやら不自然な点があった。

 

「でも、なんか流れ星にしてはすごい低い気がするにゃ…」

 

そう流れ星にしては飛んでいる位置が低いのだ。

夜空の上、というより本当に街の上を飛んでいるかのような低さであり、しかもなにやら動きも一直線というより右往左往と落ち着きがなく忙しなく動いているのを見る限り、心なしか流れ星にしては妙である。

 

そんな不思議な流れ星を凛が首を傾げながら見ていると……。

 

 

「………あれ、ていうか……こっちに近づいて来てる?」

 

 

徐々にではあるがその流れ星がどんどんとこちらに近づいているような気がしたのだ。

素早く、周囲の空を駆け抜けながら確実にだがこちらに近づいているような気がする。

 

…というかもう、すぐそこまで来ていた。

 

 

「え、え、え!? な、なになになに!? こっち来る!!」

 

 

動き回る流れ星が一直線にこちらに近づいて来た。

それだけでも凛が戸惑うには十分だった、咄嗟になんとかしようとするものの、待ったを知らないかのように流れ星は一直線に凛の所へと向かって来ている。

 

まさに空を駆ける流れ星そのものかのような光の尾を引きながら一直線に向かってくる謎の光、そして近づいてくるその光を前に凛は半ば戸惑うばかり。

 

 

 

「ちょっ、待っ……」

 

 

 

待ってと言ってみようとするものの、まず止まる気配がないし、何より通じるとは思えない。

 

凛の言葉は虚しくも、彼女が言い切ることも許されず………次の瞬間………。

 

 

 

ーーーパコーーーーーーン!

 

 

 

「痛いにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」

 

 

 

おでこに何かがぶつかることによって発生した痛みが走り、彼女は堪らず後ろ倒しに自室の床に倒れこみ、目を回してしまうのだった。

そして、その際の衝撃で彼女の意識は一瞬にして暗闇の中に沈んだのだった……。

 

 

 

故に彼女はこの時、気付くことができなかった。

 

 

自身に迫って来た光を追うようにして、音ノ木坂の夜の空に紛れ込むようにして黒い靄のようなものが浮かんでいるということに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~~……なんかまだ痛い気がするにゃ」

 

「凛ちゃんどうかしたの?」

 

翌日の朝、凛はおでこのあたりを手でさすりながらそんなことを呟きながら上の空で学校へと登校していた。

昨日のあれは結局なんだったのか、気がついたら自分は気を失っていたし、部屋の中を探してもなにもなかった……一体、昨日自分のおでこを直撃したのはなんだったのだろうか……。

 

そんなことを考えていると、隣で一緒に並んで歩いていた幼馴染で同じ音ノ木坂学院の一年生である花陽が凛の変化に気づいたのかそう聞いてきた。

 

「あ、別になんでもないよ? …でも、寝ぼけてたのかにゃ~…」

 

「なんでもないっていう割には気にしてるみたいだけど、何かあったの?」

 

「うん、実はね……昨日の練習で疲れてベッドでゴロゴロしてたら……」

 

花陽の問いかけに答えようと凛は昨日のことを話してみようと思い、ベッドで寝ていた時のことから口にし始めた。

今思えば、あの時若干眠くもあったからいつの間にか寝てて、何かの拍子に寝ぼけて見た夢のようなものなのかもしれないがせっかくだし話題作りに活かすのもありかもしれない。

 

そんなことを考えながら凛が一連のことを話そうとする。

 

 

 

しかし、その時……。

 

 

 

「……あれ? ……り、凛ちゃん!!」

 

「え? どうしたの、かよちん?」

 

「あ、あれ!! あれ!!」

 

 

 

突然花陽が凛を引き止めてガードレールで仕切られた道路の向こう側である車道を指差し始めた。

一体どうしたことかと、凛もその指が指し示す方向へと目を向けて見ると…。

 

 

「……ね、猫ちゃんがいる!?」

 

「しかも、車道の真ん中だよ! 危ないよ!?」

 

 

なんと、車道のちょうど真ん中のあたりに小さな子猫が一匹、うずくまるようにして伏せていたのだ。

幸い怪我はしてないようだが、かなり怯えているようで身動きが取れない状態になっている。

朝のこの時間帯は通勤や通学、その他諸々の事情で車の行き来が激しい、このままではあの子猫がいつ車に弾かれてしまってもおかしくない。

 

「ど、どうしよう…助けようにもあんな所じゃ…」

 

「でも、見捨てるなんて出来ないよ!」

 

「え……凛ちゃん!?」

 

別に見知っているわけではない野良の子猫、どうにかしようという義理は花陽にも、当然凛にもない。

だが、そうとわかっていても目の前の小さな命の危機を目の当たりにして、凛はいても立ってもいられなかった。

 

凛は持っていた鞄を花陽に預けるとガードレールの上を軽やかに飛び越える。

 

「り、凛ちゃん危ないよ!? ここ横断歩道でもないし、もし凛ちゃんに何かあったら…!」

 

「それでも猫ちゃんが怪我するかもしれないのを放っておけないよ!」

 

「で……でも……」

 

「……大丈夫にゃ、凛は足に自信あるもん」

 

心配そうに見つめる花陽にそう言い聞かせて視線を車道へと移す凛、確かに中学の頃の陸上部の経験があるため足の速さには自信がある、なんとか駆け抜けて子猫を助けられれば後は戻るか向こう側に走り抜けるかのどちらかだ……。

 

息を整えて、タイミングを見計らう…。

少しでも検討がずれて、目測を謝れば巻き添いになってしまう。

そうならないように細心の注意を払って子猫と車の両方に視線を行き来させるが……。

 

 

「……あっ!」

 

 

不意に子猫が立ち上がって動き出した、車の走る車道をなんとか横切ろうとしているのか……だが、それはこの状況では自殺行為である。

車道を走る車は急には止まれないし、都合良く待ってはくれない。

 

 

そして少しの間を開けて、子猫が渡ろうとする車道に車が走り込んできた。

それなりのスピードを出して走ってくる車、動いしまったばかりの子猫は車に気づいたものの引き換えすのも走り抜けるのも出来ず、その場に立ち止まってしまう。

 

このままでは確実に子猫は車に……!

 

そう理解した瞬間………凛の体は動いていた。

 

 

 

「凛ちゃん!!」

 

 

 

咄嗟に走り出した凛を危ぶんで花陽が叫ぶ、だが凛はもう止まれなった。

車道に飛び出した凛はそのまままっすぐに子猫へと向かって行く……。

 

だが、その間にも車は確実に凛と子猫へと近づいてくる。

凛が子猫を抱き上げたその時には、もう車は彼女のすぐ近くまで迫っていた。

 

そして、花陽は咄嗟に最悪の光景を予見して瞼を閉じて視界を遮ってしまった。

 

もう間に合わないと、わかってしまったから…。

 

罪悪感と恐怖にも似た感情を抱きながら目を閉じた花陽はそのまま強く目を閉じたまま最悪の事態が起きるのを予見する……。

 

 

 

………だが、そのあと……“なにも起こらなかった”。

 

 

 

「………?」

 

 

 

車と人が衝突する音も、ブレーキの音も聞こえない。

まるでなにも起きていないかのような異様な音も聞こえずに、車道を車が走り抜ける音だけが花陽の耳に入ってきていた。

 

どうなっているのか気になった花陽が恐る恐ると、片目を開けて車道を見る………。

 

 

……すると……

 

 

「………あ、あれ? 凛ちゃん……?」

 

 

どういうわけか、何故か車道には凛の姿も子猫の姿も見受けられなかったのである。

呆然とする花陽、一体凛はどこに行ったのかと視線を巡らせていると……。

 

「………凛ちゃん!?」

 

なんとか凛の姿を見つけることができた。

 

“車道の向こう側の壁の上”に立つ、凛の姿を……。

 

 

 

「………あ、あれ? ………くしゅん!」

 

 

 

この事に当の凛もなにがなにやらと言いたげな表情を浮かべる。

そして、彼女は前から持っている猫アレルギーの反応であるくしゃみを一つした。

 

 

……彼女の腕の中には車道にいた子猫がしっかりと抱きしめられていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんなんだろう……いったい……」

 

学院に登校し、午前中の授業である体育の途中、今朝起きたことを振り返りながら凛はあの不思議な出来事に首を傾げていた。

 

(猫ちゃんを助けなきゃって思って夢中で飛び出しのは覚えてる……でもそのあと猫ちゃんを抱き上げて夢中で走ったら……気づいたら向こう側にまで渡り切ってた……しかも、壁の上に飛び乗ってたにゃ……)

 

あの時のことを振り返りながら凛は再確認する。

あの車道を車の間を抜けて走り抜けるのは不可能ではない、だけどだとしてもあれはあまりにも“速すぎる”。

 

いくら足に自信があるとはいえ、あの時は普通なら衝突しかねないほどの距離まで車が近づいていた。

しかし、凛はそれを回避したのだ……夢中で走り抜けて……。

 

いくらなんでもあの一瞬で車道を渡りきるなんてことができるのだろうか。

あの車との距離は凛自身も大怪我、あるいは最悪の事態も覚悟していたほどだ……所謂、火事場の馬鹿力にしても違和感が残る。

 

(……本当になんだったんだろう……)

 

不思議なことを体感し、頭の中に疑問符ばかりが浮かび上がる凛。

だけどいくら考えても答えは出てこない、気づいたら車道を渡り切っていた、その事実だけが頭に残る。

 

そんなことを考えながら体育の授業を受けていると……。

 

「次、星空……星空?」

 

「……ちょっと凛、次あなたの番よ?」

 

「………にゃ? ……あぁ! ご、ごめんなさい!」

 

いつの間にか自分の番が来ていたようだ。

体育教師が自分の名前を呼んで、今か今かとホイッスルを鳴らすじゅんびをしている。

そういえば今日は100メートル走だった、練習として一人ずつ100メートルを走っている中、上の空になって自分の番が来ているのに気づかなかった。

 

近くで待機していた同じ1年でμ'sのメンバーの一人である真姫が教えてくれてやった気付いた凛は慌ててスタート位置につく。

 

考えすぎてぼーっとしてしまった。

一度あのことは忘れて、今は学生としての本文に努めよう、とにかく今は体育の授業に参加し、100メートルを走ることに専念しよう。

そう決めた凛は腰を深く落としてスタートの体制についた。

 

全力で走れば自然ともやもやしたことも無くなるはずだ。

そう信じながら、体育教師がホイッスルのを凛は待つ。

 

そして、体育教師がホイッスルを吹いた瞬間……。

 

 

 

凛は思いきり地面を蹴り、“風になった”。

 

 

 

「………あれ?」

 

 

 

比喩ではない、凛は走りながら感じた。

今自分は走っている、走っているのだが……まるで風になったかのような今まで感じたことのない疾走感があった。

 

「にゃ……にゃにゃにゃにゃにゃ~~!?」

 

これはおかしい、そう気付いた凛が慌てて走るのをやめて地面を踏みしめてスピードを落とす。

地面をがりがりと抉るような感覚を足に感じながら校庭の土煙を巻き上げ、ようやく止まることができた。

 

「な、なに今の……にゃ?」

 

先程感じた感覚に戸惑いながらも今自分が走ってきたコースを振り返る凛。

 

その瞬間、凛は自分の目を疑った。

 

スタート位置が、あまりにも“遠い”。

100メートルのまっすぐのコースのはずなのに、それがあまりにも遠かった。

ざっと見ても余裕で100メートルなんて超えている位置に自分はいる、そしてあまりにも離れた位置にいる自分へとクラスメイトや体育教師の先生の離れていてもわかる位の愕然とした視線が向けられている。

 

 

 

「………あ、あれぇ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。

 

絶対におかしい。

 

凛は今朝から起きている自分の中の“異変”に確信めいたものを感じていた。

とにかく言えることとしたら、今日の自分は“何かが違う”。

 

確信と言っても単純な感想なのだが、今は確実にそうとしか言いようがない。

 

今朝の子猫を助けた時や、体育の時の異変……あの異様としか言いようのない“スピード”、これは流石にただ調子がいいというような理由で片付けられるようなレベルじゃない。

現役で陸上部だった自分でも、あんなに速く走ったことなんてないし、あんなスピードを出せる覚えもない。

 

実際、今日のμ'sの練習でも他のメンバーにはその話題で持ちきりとなっていた。

 

「すごいよ凛ちゃん! 聞いたよ! 世界記録だって!」

 

「凛ちゃんが足が早いの知ってたけど、そこまでだったなんてびっくりしちゃった」

 

「日々の努力が身を結んだのですね…おめでとうございます、凛」

 

二年生メンバーは体育の時の自分の功績を聞いて何故かお祝いムードだった。

と言っても、もともと記録なんて取ってないから世界記録かどうかもわからないのだが……。

 

「まさか凛がそんなポテンシャルを秘めていたなんてね…驚きだわ」

 

「はっ! ……ひょっとしてあんた、にこにーに対抗しようと陸上系スポーツアイドルってキャラで行こうと密かに計画して……」

 

「それはいいとして、凛ちゃんすごいな~…みんなにはない特技やん♪」

 

三年生メンバーも似たり寄ったりで、なにやらこの事実に感嘆にも似た感じで心配とかは微塵もなく、むしろ応援されてしまった。

これは異常だとは感じることなく……。

 

 

「……なんか納得いかないにゃ~……」

 

 

そのことを振り返りながら凛は放課後の帰り道、なんとも言えない複雑な物を胸に抱きながら二人の友人と一緒に帰路についていた。

右側に真姫、左側に花陽と二人に挟まれる形で夕焼けに染まり始めた音ノ木坂の町を歩きながらそんなことを呟く。

 

「別に気にすることもないんじゃない? 体調的にはなんの問題もないんでしょ?」

 

「今日の練習もいつも通りに出来たんだし、きっと凛ちゃん、今日は調子が良かったんだよ、凛ちゃんもともと運動神経もいいし」

 

「むー…かよちんも真姫ちゃんもわかってないにゃー!」

 

凛にあまり気にしないようにとフォローを入れるためか、二人がそう言うが当の凛は不服そうである。

 

「わかってないって…じゃあ、凛はどこか体が悪と感じるの?」

 

「違うけど! 体は確かに元気一杯だけど、おかしいんだよ! なにがおかしいのかわからないけど、凛にはわかるんだにゃ!」

 

「はぁ……意味わかんない」

 

「あ、あはは……」

 

凛なりに二人に訴えかけてみるが、真姫はどうにも理解してくれなさそうだ。

花陽も少し戸惑い気味の苦笑いを浮かべているが同じようにあまり凛が異変と感じている何かについてはあまり悪いイメージは持っていないようだ。

 

明らかにおかしいのに、周りはそれほど深刻に感じていない……これって周りから凛はそれほどまぇに足が早いと認知されているという証なのだろうか?

 

嫌ではないがなんとも複雑な物である……。

 

「……それほど悩む物でもないでしょ、それも凛のいい所って考えてみればいいんじゃない?」

 

「……真姫ちゃん」

 

「……それでもおかしいって感じるなら、一度なんでなのか自分のことでも振り返ってみれば? もしかしたら、わりかし近くに答えがあるかもね」

 

そう言うと真姫は歩く方向を変えて、凛と花陽とは別の方向へと足を向けた。

 

「それじゃ、私こっちだから」

 

「あ、うん、バイバイ真姫ちゃん」

 

途中で帰り道が違った真姫は二人にそう言い、別の道へと歩いていく真姫を花陽は手を振りながら見送る。

 

「真姫ちゃんが普段から素直じゃないのはわかってるけど、もう少しはっきり言って欲しかったにゃ~、なんだったらうちの病院で見てもらえば? ……みたいな」

 

「でも、真姫ちゃんも真姫ちゃんなりに気にしてくれてるんだよ、きっと」

 

「……それはうれしいけど……まあ、いっか」

 

花陽とそんなやり取りを交わしながら凛は彼女とともにいつもと同じ帰路に戻った。

夕焼け空から照らす太陽がオレンジに染まった道路に二人分の黒い影を映し出す。

 

しかし、その二人の後ろ姿を分かれ道の影からこっそりと覗き込む人影が一人……真姫である。

 

先程別れたように見せかけてこっそりと様子を伺うように壁際に隠れていた真姫、顔を出して離れていく二人の後ろ姿を見つめながら彼女はなにやら鞄を漁ると何かを取り出した。

 

「……ねぇ、あれ、どう思う?」

 

『……多分なんだけど……一人は真姫ちゃんの考えてる通りだと思う』

 

「……そう、やっぱり……」

 

会話をしてなにやら確信めいたものを確認した真姫、彼女の姿勢が追う物の先には……花陽の隣で今だになにやら気にしている様子の凛がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、凛は自宅までの道のりの途中で花陽と分かれて、それ以降は一人で帰路についていた。

花陽曰く、ちょっと用事を思い出したらしいが……晩ご飯の買い出しでも頼まれていたのを思い出したのか、程度に考えた凛はとりあえず花陽を見送って、後は一人で帰ることにした。

 

時間が経つにつれてどんどん傾いて行く夕焼けの太陽、その日を受けながら凛はいつもと変わらない帰り道を進み続ける。

 

 

……しかし、その最中に彼女はある違和感を感じ取った。

 

 

 

「………?」

 

どこからか、妙な視線を感じるのだ。

不意に背後を振り返って見るものの特に怪しい人影のようなものもなく、今自分が来た道の光景が広がっているだけだ。

 

「……今日はいろいろあって神経質になっちゃったのかにゃ?」

 

自分の気のせいかと思い、再び凛が歩きだそうと前を向く。

 

だが、それから数歩歩いた所で凛はまた立ち止まり、あたりを見回す。

 

 

 

(……なんだろう、このゾワゾワする感じ……気持ち悪いにゃ……)

 

 

 

さっきから時折感じるこの肌に着くような嫌な感覚、それを感じた何度か感じ取った凛はさすがに嫌悪感を抱き、訝しげに辺りを見回す。

だが、辺りには自分以外の人影が見当たらない……。

 

…やはり、今日の自分は少しどこかおかしいのか…そんなことを凛が考えていると…。

 

 

 

 

 

ーーー伏せろ!

 

 

 

 

 

「へ……っ!? にゃ!!」

 

 

 

突然頭の中で声が響いた。

その瞬間、凛は咄嗟にその場に身を屈めると遅れて自分の真上をとてつもないスピードで何かが通り過ぎて行った。

驚く凛が慌てて視線を上げる、すると今度はなにもない道路の上に、“何か”がいた。

 

まるで靄のような怪しげな動きを見せながら、ゆらゆらと揺らめく謎の浮遊物。

人魂にも見て取れるようなその浮遊する物体を目にした時、凛は驚きのあまりに目を一杯に見開いた。

 

一体これはなんなのか、凛の思考はこれでもかと稼働するもののまったく答えが導き出せない。

 

「な、なになに!? なんなの~!?」

 

慌てふためく凛、しかし、そんなことは構うことなくその浮遊物はゆらゆらと揺らめきながら再び凛へと近づいてくる。

 

ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる人魂のような何か……その距離が縮まっていくにつれてそれに比例するかのように凛の中で言い知れぬ恐怖のようなものが湧き上がってきた。

 

だが、その時……

 

 

 

ーーー走れ! 今はここから少しでも遠くに、走るんだ!

 

「にゃ!? う、うん! わかったにゃ!!」

 

 

 

 

また聞こえてきた謎の声、頭の中に直接響くように聞こえてくるその声に凛は三度驚くが、目の前に迫る謎の人魂への恐怖からその言葉を信じて踵を返すと、一目散にその場から逃げたした。

 

そして、地を蹴った瞬間にまた感じた“今までに感じたことのない疾走感”、凛は今日で二回も体感したことになったその感覚と共に再び人並み外れた超スピードを発揮し、その場から離脱した。

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!? や、やっぱりこの速さはおかしいにゃぁぁぁぁぁあ!?」

 

その速さに堪らず叫びを上げながらもなんとかその場から逃げ出した凛、だが彼女の前に現れた人魂は逃げさった凛が向かった方へと向けて空中を滑るようにして後をつけていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超常的な現象に遭遇し、謎の声に導かれるままにその場から逃げ出した凛、住み慣れた音ノ木坂の町並をなぜかは知らないが発揮できるようになった超スピードで走り抜けるてしばらく、彼女はいつの間にか町外れにある巨大施設の開発跡地にたどり着いた。

 

ここは以前に大きなドームだかなんだかを建てようとしたがいろいろな事情があって建造を断念して、そのまま放置された場所であり、この時間帯は人も少ない。

そんな場所になんとか逃げ込んだ凛は立ち止まると疲れた様子で息切れを起こしながらその場に座り込んでしまった。

 

「はぁ…はぁ…なにがどうなってるのかさっぱりだにゃ~…」

 

今朝から身の回りで起きている何かしらの異変、それに文句を言い放ちながら凛は息を整える。

 

 

ーーーすまない、こうなってしまったのはすべて、私の責任だ…。

 

「責任とか言われても、なんなのかわからないと凛もすっきりしないにゃ!」

 

ーーーあ、あぁ……そうか、申し訳ない

 

 

頭の中に響く声に凛が返事を返すとその声は律儀にも丁寧な口調で謝ってきた。

だがそれでも凛は不満そうに頬を膨らませる。

 

「だいたい今日はいろいろなことがおかしいにゃ! 昨日の変な流れ星とぶつかってからなんだかすごい速く走れるようになったし、いつもの練習もそんなに疲れなかったし、やけに体が軽いし、極めつけは人魂のお化けに襲われて、真姫ちゃんじゃないけど、もうわけわかんないにゃ~~~!」

 

ーーーす、すまない……

 

今日のことを振り返ってありったけのことを愚痴としてぶちまけた凛、高らかにそう言い切った彼女の勢いに押されてか彼女の頭に響く声もどこかたじろいでいるかのように感じる。

 

 

……だがここで凛はあることに疑問を抱いた。

 

 

 

 

「………ところで、なんで頭の中で声が聞こえるの?」

 

 

 

 

今更ではあるが頭の中に響くこの声がなんなのか、不思議に思った凛はそう口にしながら首を傾げる。

 

ーーー……そうだな、改めて説明させて貰おう……簡潔に言うと、今君の中には私という存在がいて、一時的にではあるが君の体の中に入ってしまっているのだ

 

唐突にそんなことを言い始めた声に、凛はわけもわからず首を傾げ続ける。

 

「……どういうことにゃ? 凛は元から凛だよ?」

 

ーーー……つまりは、今君の中には君とは違う者が入り込んで一体化となっているというわけだ

 

「あー、なるほど! なんとなくわかった気がするにゃ!」

 

さらにわかりやすく纏めて説明した声に凛は納得したのか手をぽんと叩いた。

 

「………」

 

だが、それから少し間を置いて凛はあることに思考を巡らせる。

 

一体化、今謎の声は自分が別の何かと体を共有していると言っていた、つまり今凛の体の中には凛ではない別の何かがいて……。

 

そこまでのことにたどり着いた凛は、一度思考を停止させると………。

 

 

 

 

「………って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

今になって驚きのあまりの絶叫をひと気のない場所で響き渡らせた。

 

「ど、どういうこと!? り、凛、漫画とか映画とかでよくある二重人格とか、れいのーりょくみたいのに目覚めちゃったの!?」

 

ーーーいや、落ち着いてくれ、それは少し違うんだ

 

わたわたとパニックになる凛、そんな彼女を宥めるように頭の中に聞こえる声は言うと、彼女を落ち着かせてことの次第について話し始めた。

 

ーーーなぜ私と君が一体化したのか、それについてなんだが…君は昨日、光とぶつかったのを覚えているか?

 

「え? もしかして、あの変な流れ星って……」

 

ーーーそう、あれこそが今君の中にいる私自身だったんだ

 

昨日のあれは寝ぼけてみた夢などではなく現実だったのだ。

それを理解した凛は今度は頭の中に響くこの声がなぜあの時自分のところに来てしまったのかが気になった。

そして、なぜ一体化してしまったのかも…。

 

すると、まるで凛の思考を読み取ったかのように声はそれについても話し始める。

 

 

ーーーあの日、私はあるやつから逃げていた……今の私のままでは太刀打ちできず、逃げることしかできなかったため、必死に逃げ回っていた……すると、無我夢中で飛び回っているうちにいつの間にか目の前に君がいて……ぶつかった際の拍子に一体化してしまったんだ

 

「へぇ……じゃあ、今日凛の体が変だったのも」

 

ーーー私と一体化したことで身体能力が向上したためだろう、と言っても先程まで私も気を失っていたのだが……

 

 

 

なんともはた迷惑な偶然によって一体化してしまったものだ。

要するに今日のことはすべてこの一体化した人物が大きく関わっていたということのようだ。

 

だがそれに対して、凛は怒る様子も見せずにただ黙ったまま、俯きながら何か考えこむ。

 

 

 

(……てことは、あの時……この人が凛の中にいたから猫ちゃんも、そして凛も助かったんだ……)

 

 

 

……今朝のあの出来事、危うく子猫と一緒に大惨事になるところだった危機を乗り越えることが出来た。

その理由はその偶然に導かれた、あの出来事によるものだったのだ。

 

要するに自分は、今一体化している彼に助けられたのだ……。

 

凛は自分の中でそう考えを纏めると、胸のあたりに手を当ててそっと目を閉じる。

 

「……ありがとう、助けてくれて」

 

ーーー……? どうかしたのか?

 

「……なんでもないにゃ」

 

気を失っていてなにがあったのかは覚えてないのだろう、その声の人物にそう言ってはぐらかす。

なににしても助けられたのならお礼は言うのは当たり前のことなのだから……例え、覚えていなくても、その事実に変わりはないのだから。

 

 

 

 

だが、その時……

 

 

 

 

「………っ!?」

 

 

 

 

再び凛に、肌が泡立つような嫌な感覚が走った。

咄嗟に立ち上がった凛はその感覚を頼りに後ろを振り返る。

 

すると、そこには先程の謎の人魂のような浮遊物が空中に浮かんだいた。

 

「ま、また出たにゃ~!」

 

ーーー もう、追いついたのか……!

 

空中にふわふわと浮遊する、謎の人魂……するとその人魂はどんどん大きくなり始めた。

まるで風船が膨らむように大きくなっていく人魂擬き、そしてそれがちょうど人と同じくらいの大きさになった瞬間、その人魂は人型のシルエットへと姿を変えてまったく別の姿へと変わった。

 

全身を黒いローブで包み込んだかのような不気味な雰囲気を纏った謎の人物、その姿を見た凛は咄嗟に数歩後ずさる。

 

「や、やっぱりお化け……!?」

 

ーーー いや、それとは違う……奴は私を狙って来た、“刺客”だ

 

「し、刺客……? どういうこと?」

 

ーーー ……やつにとって私は邪魔な存在だ、故に速く潰しておくに越したことはないのだろう……

 

深刻な様子でそういった声、するとその声が刺客と言った謎のローブの人物は懐から何かを取り出した。

 

よく見るとそれは何かの人形のようだった。

青い体を持った両生類か爬虫類を思わせるような見た目をした見たこともない生物を模した人形、ローブの人物はそれを手に取るとその人形の足の裏へと空いているもう片方の手を押し当てる。

 

 

 

『リヴァイブライブ! ラゴラス!』

 

 

 

するとどこからか声が聞こえ、それと同時にローブの人物が取り出した人形が光を放ち始めた。

あまりの事態に動揺する凛、ローブの人物はそれを他所に手に持っていたその人形を自分の後ろへと高く放り投げた。

 

 

 

そして、次の瞬間……光を放ちながら投げられたその人形は空中へと浮き上がり……光を放ちながら、その大きさを一瞬にして巨大化させた。

 

 

 

ーーーギャォォォォォオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

凛の鼓膜を揺さぶる、けたたましい鳴き声。

その鳴き声はさっきまでローブの人物が持っていた人形と同じ姿をした、青い体の怪物だった。

まるで恐竜のような太い足に爬虫類のような質感を持つ体、左右に突き出た突起を持つ頭には二つの目があり、その双眸が凛を見下ろす。

 

 

「な、なに……これ、なに!?」

 

ーーー こいつは…“冷凍怪獣 ラゴラス”…まさか奴は、私ごとこの子まで…!

 

 

そして、青い体の怪獣…“ラゴラス”を呼び出した黒いローブの人物はそのまま姿を何処かへと消してしまった。

まるで霞のようにいつの間にかいなくなったことにも驚きだが、今はそんな余裕はない。

 

凛の目の前に現れた怪獣、ラゴラスをなんとかするのが先決である。

 

だが、凛はこんな見たこともない巨大な怪獣を前にしてどうしたらいいのかわからずに戸惑っている。

 

 

 

ーーー ………しかたない………今は、これしか!

 

 

 

 

すると、突然凛の体から光が発生し、凛の体から飛び出すようにして一つの光の球が出てきた。

 

「にゃ!? ……あ、昨日見た変な流れ星! 本当に凛の中に入ってたんだ……」

 

そのことに驚きながらもまじまじといった様子で光の球を見つめる凛、すると次第に光の球は姿を変えて行き、やがて小さな人型の形へと変化した。

 

それは、真紅の体に銀色のラインを走らせた体に勇ましい印象を与える銀色の顔に二つの輝く目を持った人型の人形だった。

 

 

「……これって……」

 

『……君に頼みがある』

 

「わっ、喋ったにゃ……」

 

 

驚く凛だが、彼女の目の前に現れたその人形は再びその体を光で包み込むと今度は金色と銀色の色彩が施された楕円形の形をしたアイテムへと姿を変えた。

 

『こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないとは思っている……だが、頼む……私に力を貸してくれないか?』

 

「……力を貸すって……凛が?」

 

『…今の私では、私が本来持つ力を引き出すことはできない…だが、君の力があれば私は本来の力を一時的に解き放つことができる、だがら……頼む、私と共に戦ってはくれないか……』

 

浮かんでいる金と銀のアイテムから聞こえてくる声、それを聞いて凛はしばらく間を開けて黙り込む。

 

だが、しばらくすると凛は意を決したような表情を浮かべてそのアイテムを手にとった。

 

 

 

「いいよ、凛も助けてもらったし、こうなったらこれ以外出来そうなこと、ないしね!」

 

『……あぁ、感謝する! ……本当にありがとう』

 

「凛と猫ちゃんを助けてくらたお礼だよ! ……えっと……名前、なんていうの?」

 

 

 

決意を固めたものの、これから力を貸す相手の名前も知らないのはちょっとやりにくい、そう感じた凛は右手に持ったそのアイテムへと視線を落としてそう問いかける。

 

 

 

『……私の名は、マックス……M78星雲から来た、“ウルトラマン”……“ウルトラマンマックス”だ』

 

「……マックス……なんだかかっこいい名前! よろしくね、マックス! 凛は、星空 凛!」

 

『あぁ、よろしく頼む、凛! ……さて、では行くぞ……!』

 

 

 

互いの自己紹介を済ませた二人は覚悟を決めると目の前にいる巨大な青い体の怪獣を前にして、身構える。

そして、凛は右手に持っていた金と銀のアイテムを空へと翳した。

 

するとその瞬間、そのアイテムから虹色の光が溢れ出す。

 

 

 

「テンション、マックスに上がって来たにゃーーーー!!」

 

 

 

そして、凛はそのまま勢い良く右手に持ったアイテム、“マックススパーク”を自身の左腕へと押し当てる。

すると、たちまち凛の体が眩い光に包まれていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひと気のない開発予定地だった場所、そこに突如として出現した怪獣、ラゴラスは爬虫類のような独特の鋭さを持った目を動かし、低い唸り声を鳴らす。

闘争本能に焚きつけられたように体を揺らすラゴラス、すると突如としてラゴラスの目前に眩い虹色の光が立ち上った。

光の柱とでも言えるようなその光、ラゴラスは警戒して威嚇するような鳴き声を上げると、それと同時に目の前に現れた光が少しずつ晴れて行った。

 

そして、光が収まって行くに連れて徐々に何かが姿を露わにしていく。

 

ラゴラスと同じくらいの大きさだが、はっきりとした人型。

真紅の体に走る銀色のライン、そして胸の中央に金縁が施された青い水晶が施された胸と両肩を覆う銀色と金のプロテクター。

額に胸と同じ青い水晶を持った銀色の顔には鋭くも力強い光を放つ二つの双眸が光り輝く。

 

人間とは大きく離れた外見をした赤い巨人、だがラゴラスのような威圧感は抱かない、むしろ安心感を感じるかのような……例えるならそれは、“戦士”の放つまっすぐな闘志。

 

 

 

「シュア!!」

 

 

 

左腕に装着された彼専用の装備、“マックススパーク”。

その輝きを携えながら、戦士は両腕を握りしめてラゴラスと対峙する。

 

 

 

夕焼けに染まる、この無人の開発跡地で冷凍怪獣ラゴラスと、光の巨人……“ウルトラマンマックス”が向かい合った。

 

 

 

ーーーギャァァァァァアオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

姿を表したウルトラマンマックスにラゴラスが威嚇の咆哮を上げる。

だが、それに対してマックスは怯むことなく身構えると地面を力強く蹴り、前へと走り出した。

 

そして、まっすぐにラゴラスへと向かっていくマックスは走る勢いをそのままに両足を揃えて跳躍すると、ラゴラスへと向けて飛び蹴りを打ち込む!

 

重い衝撃と共に大きく体が揺れたラゴラス、飛び蹴りを受け後ろに後退したラゴラスは反撃とばかりに鋭い爪を振り上げてマックスへと思い切り振り下ろす。

だが、マックスはその一撃を左腕をぶつけて受け止め、同時に横腹に蹴りを叩き込む。

 

「デュア!」

 

マックスの攻撃はまだ終わらない、攻撃を防御され、反撃を受けたことで怯んだラゴラスにさらに連続で拳を打ち込んでいく。

 

一発、二発、三発と力が込められた拳がラゴラスの体を打ち据え、とどめとばかりにマックスは右の拳を腰だめに構えるとその拳をラゴラスの顎に目掛けて思い切り打ち上げる。

 

マックスのアッパーカットがラゴラスの顎を捉え、ラゴラスはそのダメージから大きく体を揺らして怯む。

このチャンスを逃しはしない、マックスはすかさずラゴラスに組みつき、勝負をかけようとする、が……。

 

「ッ! ウオォォア!?」

 

ラゴラスがマックスが接近して来たタイミングを狙って口を大きく開き、そこから白い靄を纏った光線を打ち出したのだ。

不意を突かれて放たれたラゴラスの光線、ラゴラスの別名は“冷凍怪獣”であり、今マックスへと向けて放たれたのはとてつもない低温をまとった、マイナス240度の冷凍光線である。

 

ラゴラスの冷凍光線を受けてしまったマックスは堪らず後ろに吹き飛んでしまった。

地面を揺らしながら、仰向けに倒れこむマックス、そこへラゴラスはさらなる追いうちをかける。

 

ラゴラスはすかさず倒れこんだマックスの上にのしかかると、両腕を次々と振り下ろし、叩きつけ、マックスを滅多打ちに攻撃していく。

マウントポジションを取り、完全に優位に立ったラゴラスはそのまま攻撃の手を緩めずにマックスを攻めたて続ける。

苦戦し、窮地に立たされたマックス……。

 

しかし、例え危機の中にいても彼は……マックスは諦めなかった。

 

「グッ……シュアァ!」

 

渾身の気合と共に振り下ろされたラゴラスの右腕をなんとか打ち払ったマックスはさらに右腕を頭部の角飾りへとあてがい、そこから“刃”を抜き放ち、ラゴラスを横薙ぎに切りつけた。

 

まさかの反撃を受け、堪らずにラゴラスは弾かれるようにマックスの上から弾き飛ばされ、そのまま地面に倒れ伏した。

その隙をついて素早く起き上がり、受け身をとりながらラゴラスとの距離を開けると、マックスは右手に持った刃を構えて再びラゴラスと向き合う。

 

マックスが今先程、ラゴラスを退けるために使ったのは彼の持つブーメラン型の近接武器“マクシウムソード”である。

薄い刃に秘められた鋭さは並の刃物とは比べものにならない刃、それを構えたマックスに再び立ち上がったラゴラスはもう一度冷凍光線を発車する。

 

「デュ! シェア!!」

 

だが、マックスは同じタイミングで持っていたマクシウムソードを勢い良く投げた。

 

マックスの手から投擲されたマクシウムソードは高速回転しながら一直線にラゴラスへと向かっていくが、その際にラゴラスが放った冷凍光線を弾き、切り裂き、霧散させ、マックスに向かってくる冷凍光線を全て打ち消したのだ。

 

そして、そのままマクシウムソードは跳ね上がるような弧を描きながら軌道を変えるとラゴラスの頭部にある左右に突き出た突起の内の片方を両断する!

 

マクシウムソードによる強烈な一撃を受けたラゴラスは大ダメージを受け、今まで以上の動揺を見せたラゴラス、そこへマックスはさらなる追撃を仕掛ける!

 

「テェア!!」

 

マクシウムソードが自身の頭にある角飾りへと戻って来たのを確認すると、マックスは再び地を蹴ってラゴラスへと向かっていく。

だが、今度のは今までのような距離を詰める接近ではない……瞬間的に間合いを詰めて、敵に逃げられない高速の一撃を叩き込む、マックスの“最速の攻撃”!

 

残像が見えるほどの速さでラゴラスに接近したマックスはその勢いを乗せたままラゴラスへと思いきり体当たりをする、その衝撃は凄まじく、ラゴラスは大きく後ろに吹き飛び、地面に倒れこんだ。

 

マックスの最速の攻撃を受けながらも、ラゴラスはなんとか立ち上がろうとするが、ラゴラスはダメージが蓄積しているのかよろよろとした様子で立ち上がった。

 

 

チャンスは今しかない。

 

 

マックスはこの隙を逃さないため、すかさず左腕のマックススパークを天高く掲げるように左腕を突き上げる。

すると、それを合図にしたかのように彼の左腕に眩い光が集まり、それは輝く光の翼のような形を形成した。

これはマックスの持つ、“最強の一撃”……目前に立ちふさがる敵を撃退するためのマックスの必殺技!

 

 

 

「……シュアァァァァァァァア!!」

 

 

 

マックスは天高く掲げた左腕を下ろし、垂直に立て、その下に平行になるように右腕を添えることで腕を逆L字型に組んだ、その瞬間彼の左腕から鮮やかな七色の光線が発射された。

 

彼の打ち出した必殺光線、“マクシウムカノン”は一直線にラゴラスへと向かっていくと、ラゴラスの体に寸分の狂いもなく直撃、ラゴラスはその攻撃を受けると最後に鳴き声を一つ上げてから後ろ倒しにゆっくりと倒れ………。

 

 

 

激しい爆炎を上げながら、爆発した。

 

 

 

夕焼けに染まる空の下、ウルトラマンマックスが勝利を収めた瞬間である…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? じゃあ、マックスには仲間がいるの?」

 

あの戦いを終えた後、マックスは凛との一体化を解除し、元の姿へと戻った。

そして、その後凛はマックスのことについて聞いている内に彼に仲間がいることを知った。

 

 

『あぁ、私を含めてこの地球に“9人”……まだ彼らは何処かにいるはずだ、早く見つけて合流しなければ……』

 

「……そっか、じゃあ凛もそれを手伝うにゃ!」

 

『手伝う? ……私を?』

 

 

凛の唐突な宣言に人形になったマックスは彼女の手の中で不思議そうに言った、それに対して凛は当然と言うように満面の笑顔を浮かべる。

 

「困ってるなら助けるのは当たり前、誰かが困ってるなら当然にゃ! それに……マックスにはなんやかんやで助けられてばっかりになっちゃったから、その恩返しもしたいにゃ!」

 

『……恩を作ったつもりはないのだが……』

 

元を正せば凛が人間離れした力を発揮できたのはマックスと偶然一体化したことによる副作用のようなものだし、ラゴラスとの戦いもどちらかと言うと巻き込んだ形に近い。

だが、それでもと凛は屈託のない笑みを浮かべてマックスに言った。

 

「それでも、このままなのは凛もちょっと嫌なの! それに、なんだかおかしなことがこの辺りで起きてるんでしょ? なら、凛も手伝うよ! その方がマックスもいいでしょ?」

 

純粋な目を向けてマックスを見つめる凛、それに対して人形のマックスはしばらく考え込むように間を開けると……。

 

『……仕方が無い、私もこの姿ではまともに力も出せないからな……』

 

「それじゃあ、決まりだにゃ! これからよろしくね、マックス?」

 

『……よろしく頼む、凛』

 

渋々と言う様子ではあるが凛の申し出を受けたマックス、改めて二人は挨拶をかわすと凛は早速マックスを制服のポケットに突っ込む。

 

「よーし! じゃあ早速、マックスの友達を探しにいくにゃ!」

 

『今からか!? …もう今日は遅いと思うのだが…』

 

「思いたったら……えーっと、なんだっけ? ……とにかく、ちょっとでも探して手がかりを見つけるにゃ、マックスも早くお友達と会いたいでしょ?」

 

一体この子にはどこまでの元気が詰まっているのだろうか…。

あんなことの後だと言うのに、これと言った疲労を感じさせないこの元気さ、マックスは驚きにも似た何かを感じずにはいられなかった。

 

意気込む凛は早速とマックスの仲間を探そうとする。

 

 

 

「別に、そんなに焦らなくてもいいわよ、凛」

 

「……にゃ?」

 

 

 

だが、そんな時彼女を引き止める声が何処からか聞こえてきた。

その声に凛は動きを止めて声が聞こえた方へと目を向ける。

すると、その視線の先には……見慣れた赤毛をした一人の少女がこちらを見つめていた。

 

「あれ、真姫ちゃん? 確か帰ったんじゃ……」

 

「どうにも気になってね、あなたを追って来たのよ……そしたら案の定、まさか凛も“会ってた”なんてね」

 

そう言いながら凛に近づいて来たのは先程途中で分かれて帰ったはずの真姫だった。

真姫はそう言いながら凛に近づくと凛のポケットに収まっているマックスをちらりと見る。

 

「え……どういうこと? 会ってたって……もしかして、真姫ちゃん何か知ってるの!?」

 

「……知ってるもなにも、薄々気づいてたからこうして追って来たのよ……だって、私も会ったんだから」

 

すると、真姫は自分の肩にかけていたカバンの中から何かを取り出すと、凛とマックスの二人に見えやすいように差し出した。

彼女が取り出したもの、それを目にした時凛…そしてマックスも驚きを隠せなかった。

 

なぜなら真姫の取り出したもの、それは……マックスと似ている姿をしている、人形だったのだから。

 

 

「……こ、これって」

 

『驚いた…まさかこんなに早く会えるとは思ってもみなかった』

 

『それは僕も同じだよ、マックス……無事だったんだね』

 

『……あぁ、君も無事だったようだな……“ガイア”』

 

 

まさかの再会を果たしたマックス、そして驚きの事実を知った凛。

再会した二人と、同じ出会いを果たした二人…。

 

この時、夕焼け空は次第に太陽が沈み、空は暗闇に包まれ始め、その中で一つ………“一番星”が輝いていた。

 

 

 

 

これが、六人目の出会い……。

 

μ'sのメンバー、星空 凛。

 

そして、最強最速と呼ばれた赤き光の戦士、ウルトラマンマックスとの出会いだった…。




いかがでしたか?
物語が進むにつれて、徐々に現れる怪しげな影……そんな中、次回は誰がどんな出会いを果たすのか。

次回もお楽しみに!
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