久々のウルトラブライブ投稿、今回の主役は……ラブアローシュートを決める、μ’sのしっかり者、園田海未ちゃん!
ある日、彼女が訪れたある場所で感じた異変、それは新たな出会いの序曲となる……。
それではお楽しみください、どうぞ!
その少女は支えになることを望んだ…。
幼い頃、他人と関わるにはどうすればいいのかわからず何に対してもどうしようもなく臆病だった、そのせいで友達もいなくて、どこか寂しくて、なんとかしようと思うけどいざとなるとどうすればいいのかわからない…。
公園で元気に遊ぶ同年代の子たち、でもその輪の中にどうやって入ったらいいのかわからないから、ずっと木の影に隠れて見ることしか出来なかった。
少女が生まれ育ったのはこの街でも有名な日本舞踊の家元であり、少女もまたそれに見合った育て方を受け、それが当たり前だと感じていた。
だが、それ以外の外の世界、そこは自分が今まで生きてきた世界とは大きく違っているように感じて……自分がその世界の中で違うように思えて、周りと違う自分が他の子達と仲良くなるにはどうすればいいのか……考えても答えは出なくて、だからどうしていいのかわからなくて……。
だから彼女は誰かと目を合わせることが出来ずに、反射的に木の影に隠れててしまった。
これではダメだ、こんな弱い自分てまは家を継ぐことなんて出来ないと…頭ではわかっている、でも、どうしようもできない…それが悔しくて涙が出てくる、流したい訳じゃない、でもどうしたら止まるのかもわからない…。
わからないことだらけで、何も出来ない……そんな自分の前に、一人の少女が現れた。
『見ーつけた!』
まるで当たり前かのように、最初からそこにいたかのように、その少女は木の影に隠れていた自分を見つけるとそう言った。
突然の事に驚き、どうしようと動揺してしまう、こんな時なんでいいのかわからず、今にも声を出して大泣きしそうになる……だけど、次の瞬間、彼女の戸惑いの涙はピタリと止まった。
『次、あなたが鬼ね!』
まるで、当たり前かのように、前から一緒にいたかのように、誰と比べることもなく純粋な笑顔で向けられた笑顔。
始めてだった…こんな風に明るい笑顔を向けられたのは…。
こんなに安心を感じた笑顔を向けられたのは……。
それから少女には掛け替えのない友人が出来た、空に登る暖かな太陽のような…陽だまりのような安心感をくれるあの笑顔を浮かべる少女に、いつの間にか自分は着いて行っていた。
そして、やがて少女は今のままの自分ではダメだと思うようになった……誰かの影で隠れてばかりではダメだと……自分はもっと強くなりたい、大切な友人を支えるような存在になりたい、と……。
彼女のその思いは彼女を奮い立たせ、家の伝統の習い事から己の心を律する修練を欠かさず、前に、前に、前にと……昔の自分とは違う、新しい……強い自分へと……。
「私は…園田流日舞、家元の娘、“園田 海未”と申します」
やがて少女は高校生となり……引っ込み事案で恥ずかしがり屋だった彼女は、凛とした心を持つしっかりとした自分へと変わって行った。 そして、そこで彼女はまた新しい自分へと踏み出す、新たな出会いを果たすこととなる。
「μ's!! ミュージック、スタート!!」
とあるきっかけで始めることとなった“スクールアイドル”。
あまりにも突飛で、あまりにも無計画な提案から始まったこの活動に彼女は最初、あまり乗り気ではなかった。
だけど、彼女はそれを提案した少女に振り回されながらも…いつの間にか集まっていたたくさんの仲間と共に今まで考えていた自分とは大きく違う、あまりにも輝かしすぎてどこか恥ずかしさを感じてしまうこの活動を、彼女は支えることとなる。
そしてその出会いを果たした彼女は、とある日にまた別の……新たな“輝き”と出会うこととなる。
これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。
~ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者達~
「手を伸ばす輝きは… 海未と蒼き光」
それは数日程前に遡る、ある日の夜のことだった。
その日、音ノ木坂の街では空を駆け抜ける色とりどりの流れ星が見えた。
一つは赤く、一つは青く、一つは白く、一つは金に、一つは銀に……。
色とりどりの流れ星は全部で9つ、それがこの街の空を覆う夜空の中、数多の星々が煌めく夜空を駆け抜けた日のこと。
そのうちの一つが街から離れ、郊外の方に位置する山の方へと落ちて行ったのだ。
青く煌めくその流れ星、やがて地上に近づくに連れてその光が弱くなっていき、やがてそれは見えなくなった……。
そして、その後、その山奥にあるとある湖………そこに、一筋の光が……“落ちた”。
高い水飛沫をあげて湖の中に落下したその光……その後これが、偶然とも、そして奇跡とも呼べる、とある“出会い”のきっかけとなるのだった。
音ノ木坂から離れた、自然豊かな山岳地帯。
その麓近くの道路を一台のバスが揺れながら進んでいた。
そのバスの中にいるのは何人かの乗客、各々それぞれの目的に合わせて着てきたのであろう服装に身を包み、バスに揺られる人々、その中で一人まさにこの辺りに来た目的がはっきりとわかる服装に身を包んだ人物がいた。
「……そろそろ着きそうですね」
綺麗な髪を腰のあたりまで伸ばし、整った顔立ちに、凛とした雰囲気を纏った、まさに大和撫子という言葉が似合う彼女の服装はまさに山登りをしに来たという格好だった。
大きなリュックを荷物を置くスペースに置いて、窓の先の流れて行く景色を見る彼女、すると彼女がポケットに入れていたスマホから着信音が鳴った。
これはSNSの通知だと気づいた彼女はポケットに手を入れてスマホを取り出すと通知内容を確認する。
『海未ちゃん、もう着いた?(・8・)』
独特な顔文字をつけて来た相手は自分の幼馴染だ。
彼女はその顔文字に口元に微笑みを浮かべるとスマホの画面に指を走らせて返信する。
『もうそろそろ到着です』
飾り気のない内容の返答だが彼女はいつもこんな感じだ。
すると程なくして相手の幼馴染からまた返答が帰ってきた。
『新曲の作詞、頑張ってね! 私も衣装のアイデア考えるよ(^ ^)』
励ましの内容が込められた返信に彼女の表情にまた微笑みが浮かぶ。
「…ことりも頑張ってる以上、負けてられませんね」
幼馴染にして、同じスクールアイドルとしてステージに立つ仲間の激励を受けた彼女、園田 海未はこれから自分がしようとしてることを思い、再度気合を入れた。
彼女はこれからリフレッシュを兼ねてμ'sの新曲の作詞のために趣味を楽しみに来たのだ。
作詞という己のインスピレーションがものを言うこの作業はなにより自身のモチベーションが重要となる、そのため彼女は新たな曲に必要な新たな歌詞を考えるべく、趣味である“山登り”を休日を利用して久々に楽しみに来たというわけだ。
「“ラブライブ”がひと段落してμ'sは今、大きな目標が本来の音ノ木坂学園の存続に戻った以上、今後も気は緩めずにさらに精進しませんとね」
元々、自分が幼馴染である友人を見守る形で始めたスクールアイドル、μ's、その本来の活動目的は学園の存続のためにアイドル活動をすることにある。
その一環としてスクールアイドルの祭典、“ラブライブ”への出場を目指したものの、とあるきっかけを理由に途中で断念してしまった。
しかし、それでも自分達の目指すことは変わらない……彼女もまた、幼馴染の彼女が……穂乃果が走り出した時からそれを支えようと決めたのだから。
「……今頃、穂乃果は家でゴロゴロ…と言った所ですかね、念のためトレーニングのメニューも考えておきませんと……最近たるんでいる様子がよく見られますし」
故に厳しくするのも彼女のため、甘やかさないのが彼女のやり方だった。
ただでさえ穂乃果は怠け癖がよく見られるのだ、その分しっかりと鍛えないと彼女の力にならない。
今回のはみっちりとした内容にするか、と海未が考えていると……。
ーーー ~♪~♪……次は~……
軽快な音声と共にバスの中に聞こえてきたアナウンス、どうやらそろそろ目的地に到着するらしい。
「……さて、では参りましょうか」
山が呼んでいる……あの山で、何かに出会えそうな気がする……。
これはきっと自分達の新たな道を示す、新しいインスピレーションなのかもしれない…!
そう考えながら、海未は持っていた荷物を手に取ると早速自身に気合を入れ直した海未は車窓の窓から見える自然に包まれた山を見つめた…。
………だが、彼女は知らない………その予感が、別の意味であたることになるとは………この時の彼女には、知る由もなかった………。
山にはそれぞれ特徴が存在する。
ただ起伏が激しく、自然に包まれているだけが山ではない、それぞれの山にはそれぞれの特徴があり、その山でしかない特別な楽しみというのがある。
例えばその山は何百という長い年月の間その場所に存在し続け、世界遺産に指定されたとか、その山には大昔から存在する遺跡があるとか、その山にしか生息していない生き物がいるとか、用は特色のことなのである。
今回、海未が登ろうと決意して選んだ山、この山の特色は緩やかな中にも力強さを感じる起伏のある坂があり、何よりもこの山でしかみられない湖と滝が存在するらしい。
とりあえずはその滝と湖がある地点を目指すのが今回の目標だ。
「…できれば山頂アタックをかけたいところですけど、この辺りの天気は変わりやすいと情報がありましたしね、ここはとりあえず焦らず行きましょう」
山の麓、これから山道へと入っていく道すがら、山登りのための服装と大層なリュックで身を固めた海未は山の上を見上げながら呟いた。
山の天気は変わりやすいとはよく聞くことではあるが、天候は本当に気まぐれを起こしやすく油断をすれば大惨事を招きかねない。
なので無理はせずに今回は確実性のある目標を狙っていくことにした海未は早速山へと入って行くことにした。
まだ始まったばかりの地点だが、すでにこの場所には豊かな自然の姿がちらほらと見えている…。
都内の音ノ木坂とは違った独特の空気を味わいながら大きく深呼吸をした海未は早速意気込むと……。
「……子どもの頃はよく穂乃果に振り回されて、色んなところに行きましたね……」
好奇心旺盛、故に行動力に溢れていた穂乃果……彼女の提案により、幼馴染のことりとともに多くの場所に足を踏み入れた海未。
彼女にとって、子どもの頃に体験したそれはまさにちょっとした“冒険”そのものだった。
最初こそ怖気付いていた自分を、彼女は引っ張られ、彼女は…時に危ない目にもあったが…たくさんのものを見てきた。
「……もしかしたらこの趣味も、その影響かもしれませんね」
そんなことを考えながら山の中へと足を踏み入れた海未……目指すはこの山の名物となる、湖と滝だ。
「……もっと前に……もっと先に……よし」
その頃、この山の奥で、何か得体の知れないものが動き出そうとしていた……。
「………」
山の奥、深い緑に囲まれたその場所でその影は周囲を見回す。
そして、なにを思ったのか懐からあるものを取り出すと、それを手に持っていた“人形”へと押し当てた。
『リヴァイブライブ!』
そして、その時……ちょうどとこを同じくして……この山にどす黒い雨雲が迫りつつあった……。
山登りの醍醐味はただひたすら山道を登るだけではない、それ意外にも楽しみ方がある。
それは……。
「おぉ、お嬢さん、精が出るのぉ?」
「い、いえ、好きで来てますので…お爺さんも頑張ってますね?」
山を登る道すがらに出会う人々との関わりである。
こう言う風に一見険しく、疲れるだけに思える山登りも同じ道を共にする人々がいれば自然とその苦楽を共にすることで距離が縮まって来るのだ。
海未が道中に出会った老人と今現在話しながら山道を登っているのもそのためである。
「ほっほっほっ、まだまだわしは隠居はするつもりはないんでのぉ、この体が動く限りなんべんでも山に登って見せるわい」
「お元気なんですね、でも体を動かすのはいいことですけど、無理はしないでくださいね?」
「わかっとるよ、心配してくれてありがとう……いやぁ、しかし、こうして山に登るのはええことじゃわい……お嬢さんもそう思うか?」
口元の白い髭を手で撫でながらリュックを背負い、杖を使って山道を進んでいく老人が隣を歩く海未に問いかける。
「えぇ、私もこうして山に登るのは好きです、なんというか……自分をもっと磨ける、というか……精進できるような気がして」
「ほぉ…その年でそこまで言うとはのぉ…大したもんじゃわい…」
「いえ、まだまだです、私はもっと自分を高めて行きたいのです……未熟なところがあるのは自分が一番わかっていますから」
実際この山に登ろうと思ったのもμ'sの新曲の歌詞を考えるためのインスピレーションを得るためである。
自分達はまだまだ未熟、駆け出しで磨くべきところが多い、そのため少しづつでも前に進む努力が必要なのだと海未は考えている。
「ほっほっほっ、なるほど“すといっく”というやつなのじゃな、お嬢さんは……で、なにか見つけられたかの? この山を登ってみて」
そんな彼女の思いを感じ取ったのか老人は再び海未に問いかけた。
すると、その問いを受けた海未は一瞬だけ同様の色を見せると間を明けてから苦笑いを浮かべた。
「……お恥ずかしながら、まだこれだというものは見つけておりません」
実際山を登り始めてしばらく歩いたが、彼女のインスピレーションを擽るようなフレーズは浮かんでこない。
しかし、その答えを聞いた老人は口髭を蓄えた顔に温和な微笑みを浮かべるとこくこくと頷いた。
「いやいや、恥ずべきことじゃあらんよ…なにも山はがむしゃらに登ってなにかを得る場所ではないからのぉ…」
老人は今現在進んでいる山道の先を見つめながら続ける。
「一歩、また一歩、少しづつでも進んでいく中でなにを感じ、どうしたいのか、それを考えるのも山登りをするに当たっての心構えというやつじゃ…」
その言葉にある重み…年の功、というものなのだろうか?
老人から感じる言い表せない説得力のようなものに海未はなんとなく聞き入ってしまっていた。
「……自分がなにをしたいのか、ですか……」
「あぁ、そしてそれは山を登っていれば自然とわかって来ることもある……どれ、ここで一ついいことを教えてやろう、なにかの足しになるといいんじゃが」
「……そうですね、せっかくなので是非お聞かせください」
海未が微笑みながらお願いすると老人は再び温和な微笑みを浮かべ、遥か山の奥の方を見つめるように遠くへと目を向けた。
「…実はの、この山にある滝と湖が交わる場所…そこには昔“水神様”が住んでおられたという話があったそうじゃ…」
「…“水神様”?」
「…“水神様”は訪れた者の心の内を知り、今必要なものがなんなのかお恵みをくださる……心が清らかなものにのぉ……」
そう言って説明したのは、おそらくこの山を登るに当たって海未が目標としていた湖のことについてのようだ。
それに関しては知らなかったのか、海未は少し驚いたような表情を浮かべる。
「そんな伝説にも似た話がこの山にあったのですね…」
「ほっほっほっ……伝説というのはちと大袈裟すぎる気がするがのぉ……まあ、言い伝え程度な昔話じゃよ」
笑いながら老人はそう言ったものの、そんな昔話染みた言い伝えというのは、こうして聞くと何処か神秘性の感じるものに聞こえる。
恵みの施しをくれる水神様が住んでいたとされている湖……これは俄然そこに向かう気力が湧いて来たというものだ。
もしかしたら、そこに行けば新しいフレーズが浮かぶかもしれない……そう思った海味は再び意気込み、気合を入れて山を進んでいく決意を固める。
だが……。
「………おや?」
ふと老人が空の方を見上げて首を傾げた。
それにつられて海未もまた空を見上げて見ると…。
「………これは………雲行きが怪しくなって来ましたね」
遠くの方ではあるが次第に怪しい色合いをした灰色の雲がこちらの広がりつつあることに気がついた。
見たところ雨雲のようだ。
「……おやおや……山の天気は気まぐれじゃのう……こりゃ、湖までいけるかわからんのぉ」
「そんな……でも、仕方ないですよね……なんだが雷とかも落ちそうですし」
遠くの空に見える雨雲、あれがただの雨雲にしては少々たちの悪そうなものに見えた海未は残念そうな顔を浮かべるが渋々そう言って納得せざるを得なかった。
何かあってからは遅いのだから安全を第一に考えるのは基本中の基本である。
ここは老人の言うように湖までいけるかわからないし、あまり無理はせずにここは一旦様子を見るのも手かもしれない…。
ー………ー
「………え?」
だがその時だった、不意に海未はなにか妙な感覚を感じ取った気がした。
頭の中が今まで静かで、波打つこともなかった水面が波紋を広げるかのような、静かながらも心を揺らすざわめきにも似た感覚。
「………今のは………」
心の中に深く浸透してくるかのようなそのざわめきに、海未は疑問を抱く。
この感覚はなんなのか……なぜ、こんな感覚が胸の中に突然現れたのか?
そして、この感覚を……“どこかで感じたことがある気がする”のはなぜか……?
胸中のざわめきを不思議に思いながら、彼女は一度雨雲が包みつつある方の空を見上げる。
すると、僅かにだが雨雲の中で光が瞬いた気がした、恐らく雷のようだ。
ー………!ー
そして、その瞬間再び海未の胸中に異様なざわめきを感じ取った。
先ほどよりも近く、はっきりと感じたその感覚……海未はその感覚がなんなのかを知るべく、自身の心に問いかける。
(……なんで、私はこの感覚を知ってるのですか……これは……私も感じたことがあるから? ………なら、それはいつ?)
それを確かめるように自身の過去を振り返る。
この感覚、それを感じたのは……そう、遠い…遠い昔だ…。
今よりもずっと前の、自分がまだ幼かった頃……。
あれはそう………“あの出会い”よりも前の時だ……。
どうしたらいいのかわからず、なにもできず、もどかしさを感じながらもどうしたらいいのかわからずに戸惑っている……そう、あの頃の……まだ他人との関わり方を知らなかった幼い頃の自分が抱いていた感覚……。
そうだ、これは…それと似ている…。
そしてこれは、同時に求めているのだ………誰かが、このもどかしい感覚の中で“助け”を………。
口に出すことはできない、でもそれでも求めている……何処かで身を隠しながらも、本当はなんとかして欲しいと思っていて、戸惑っていた……あの頃の自分と同じ……!
「……おじいさん、申し訳ありません……私、ちょっと行って来ます」
「なに?い、行くってどこに…お、お嬢さん!?」
「誰かが呼んでるんです! 助けてあげないと……だから!」
それを理解した海未はそう言うと一目散に山の奥へと向けて走り出した。
誰かが求めている、助けを……あの時に自分に差し伸べてくれた、彼女のように……今度は自分がその手を差し伸べるために……。
なぜかはわからない、でも……彼女は走った。
そのままにしてはおけない、このままじゃいけない、だから…自分がなんとかしないと…!
この感覚を感じ取ったからこそ、海未は走り出したのだ。
自分に出来ることを、するために…。
雲行きが怪しい中、山道を超え、先へと進み続けた海未。
自分が感じたこの感覚に導かれるように、それを感じ取った方向へと無我夢中で走る。
いつもの自分ならこんな危険なことには足を踏み入れなかっただろう、今にも落雷が落ちそうなこの天気の中で山に居続けるなんてこと……まずしない。
しかし、それでも彼女は止まらなかった。
自分が感じ取った、何かが……今にも消え入りそうな何かが、助けを求めているのに……止まる訳にはいかない。
怖がる訳にはいかない………。
……これも、もしかしたら幼馴染の彼女の影響なのかもしれない……だから、ここで止まっていたら絶対に後悔する……そう感じているのかもしれない……。
そんな思いを胸に抱きつつ、海未は走り続ける。
そして、やがて彼女切り立った崖のような開けた場所に出た。
周囲を森の木々に囲まれながらも高い崖に面したその場所は奥の方では川が流れているのが確認できる。
その川は崖へと向かって流れており、そのまま重力に従って崖から水が落ち、滝へと姿を変えている、轟々と聞こえる水が落ちる音がそれを物語っている。
「……?」
すると、海未はその川の近くで何かを見つけたのか目を凝らして滝のすぐそばへと目を向ける。
すると、そこにはなにやら身体を黒いローブのようなもので覆った謎の人物が崖の下の方へと目を向けていた。
いったい何者なのか、海未がその人物を見つめていると……。
「………」
そのローブは海未の存在に気づいたのか、後ろを振り返った。
目深にかぶったローブで顔は見えないがその視線はまっすぐに海未を捉えている様だ、実際にその瞬間、身体を貫く様な視線が自分に向けられているのを反射的に海未は感じ取っていた。
「……あの、そんなところでなにをしているのですか?」
体に感じる異様な感覚を肌で直に感じながらも海未は目の前のローブの人物に問いかける。
するとローブは海未に向けていた視線を外すと再び滝の下へと目を向けて……。
「………!」
右手を空へと掲げるとどこからともなく雨雲から稲光が走り、それが滝とは違う山の裏手の方へと落雷となって落ちて行った。
何事かと戸惑う海未、すると………
ー……グオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオン!!
「っ!?」
突如として聞いたことの無い様な獣の咆哮……いや、もはや獣とは言い難い地を震わせる程の何かの叫びが海未の鼓膜を震わせる。
そしてその瞬間、その山の裏手の方から先程の落雷よりも強力な光を放ちながら、青白い稲妻が今度は滝の下へと向かって放たれたではないか!
轟音と閃光、落雷の爆発めいた音を優に超えるかのような激しい音を響かせながら滝壺へと落ちた稲妻が再びスパークする。
その稲妻から発生したエネルギーの影響なのか、海未の肌が泡立つ様な感覚と、ぴりぴりとした肌を付く様な異様な感じに襲われる。
ローブの人物が手を上げたのを合図にしたかの様にして目の前で起きた頂上的な現象、それに海未は戸惑い数歩後ずさる。
「………お前には関係のないことだ………」
警戒を強め、後ろに後ずさった海未にローブの人物がそう告げる。
この時、海未は咄嗟に感じた……目の前にいるこの人物は……“普通ではない”、と……。
このままここにいたら、なにをされるかわからない……と……。
このローブになにを言ったとしても次の瞬間に自分がなにをされるかわかったものではない…言い知れぬ不安と恐怖が海未の身体を支配していくのを、海未自身は感じていた。
咄嗟に海未がさらにもう一歩後ろに下がり、ローブの人物に背を向けようとした……。
ー………っ……!
「あ………」
…また感じた…。
ここに来る途中にも感じていた、何かを求める様な感覚……。
声には出さないようで、それでいてか細く感じた……この感じは……。
「………っ!」
気付いた時には咄嗟に海未は再びローブの人物と向き合っていた。
「……聞こえなかったか? ここを去れと言ったはずだが?」
「………できません」
「………なに?」
海未の言葉にローブの人物は訝しげに問いかけるが、海未は一度目を閉じて大きくその場で深呼吸をすると目を開きローブの人物を見つめた。
「感じるんです………誰かが助けを求めてるって……」
「………?」
はっきりと聞こえたわけではない、助けの声を聞いたわけではない……ただ、彼女は感じたのだ……その誰かが、危険を知らせていることを……助けを求めていることを……。
「……あなたのやっていることがなんなのかはわかりません……ですが、このまま見過ごしたらダメだと言うことが理解できました……だから……」
そう言うと海未は背負っていたリュックをその場で降ろして、近くに落ちていた一本の木の棒を拾い上げた。
そして、それを両手で握り、感覚を確かめるように数回振ると、再び深呼吸をしてまっすぐにローブの人物を見据えた。
「……私は、ここで引き下がるわけにはいきません……あなたがなにをしようとしているのかはわかりませんが……」
両手に握った棒の先端をローブの人物へとまっすぐ向けた海未は自身の決意を固める。
……あの時、自分へと向けてくれたあの笑顔……あれが自分を救い出してくれた救いの手だった。
だからこそ、海未はこうして今の自分へと変わろうと思えた……変わりたいと思った。
彼女のように強く、彼女のようにまっすぐに、彼女のようにひたすらに何かと向き合える、心の強さ……。
そして、同時に思った……彼女と共に前に進みたいと……彼女のために自分ができることをせめて、と……。
でも、ここで背を向けてこの場を去ってしまったら…おそらく、それは叶わない…きっと彼女なら、手を差し伸べるだろうから…。
だからこそ、自分は逃げる訳にはいかない。
支えとなるべく今の自分があるのに、そのきっかけとなった彼女に顔見せできないことをする訳にはいかない…自分はもう、前までの自分とは違う…!
だから彼女は向き合った…。
「……あなたを止めさせていただきます」
………自分が感じ取ったこの感覚と………。
………そして、それを感じ取る要因となっているのであろう………目の前の頂上的な危険と………。
意を決してそう言い放った海未の表情にはもう恐れも不安もなかった…。
まっすぐな決意が露わになったかのようなまっすぐな思い、凛とした雰囲気を体に纏わせた彼女のその目にローブの人物は顔の見えないそのローブの奥で見据える。
「………そこまでする道理がどこにある」
「……正直、私にもわかりません……だけど、一つ言うとするなら……そうしたくなった、と言うだけです」
ローブの人物の問いかけに海未が答える、そして木の棒を正中線に構えると……。
「……あからさまに助けを求めているのに、無視することはできない……そういった、所でしょうか!」
一進、迷いのない動作で足に意識を集中させて海未は思い切りが前へと飛び出した。
リュックを先ほど取り去った分、身軽になった海未は地を滑るかのようなスムーズな動きで一気にローブの懐まで飛び込む。
海未の家は代々伝わる“日舞”の家元の家系であり、彼女は幼い頃よりその家柄の元修練に励んで来た、それは舞だけにとどまらず茶道や花道もあり、部活にしている弓道もまたその修練の一つとして始めた…。
そして、その中には“剣術”の手解きもあったのだ。
凛とした佇まいは全てに通ずる、自身がより前へ、より己を磨く術として受けてきた修練の感覚を海未は迷うことなく発揮する。
「…っ!」
懐に入ったその瞬間、両手に握っていた木の棒をローブで包まれた頭部にめがけて振り下ろす!
軽く、それでいて空気を切り裂くような鋭い音を鳴らしながらローブの人物の頭へと向かっていく木の棒…。
距離、間合い、タイミング、共に絶好の瞬間だった。
しかし、その棒がローブの人物に直撃する寸前、ぴたり、と前触れもなく止まった。
「なっ………」
直撃する寸前、ローブの人物が伸ばした手によって海未が握っていた木の棒が掴まれ、直撃を受ける前に止められてしまったのだ。
それなりにしっかりしていて、硬さも十分にある木の棒、形こそ整っていないが素手で受け止めるとなると相当な衝撃が伝わるはず……しかし、目の前のローブの人物はそれを感じさせないほど、スムーズにそれを受け止めたのだ。
「……邪魔をするのか……?」
「っ……この!」
先程の光景を目の当たりにして目の前のローブが普通の人間とは違うことは重々理解していた海未はすぐさま木の棒を引き戻し、その手を振り払うと怖気づくことなく果敢にさらに木の棒を振り抜く。
横一文字、袈裟懸けに振り上げ、洗礼された剣線にも似た打撃、並の物なら直撃するであろう距離とスピード、しかしそれをローブの人物は容易く躱していく。
その動作に全くの隙は見えない……既に海未の動きが、読まれているのだ。
僅かな体の動きを先読みし、それに対応していく…それはもはや人間の反応を軽く超えている。
「……なら、こちらも加減は無しだ」
大きく踏み込んで振り下ろした一撃、それを変わらず容易く避けながらローブの人物は海未の耳元で呟いた。
身体を横に流し、すれ違うようにして立ち位置が入れ替わった両者、滝の水が落ちる崖を背にすぐさま振り向いた海未はその勢いを利用して横薙ぎに棒を振るうが……。
「っ!?」
突如、自分の体を言い表せない衝撃が駆け抜けた。まるで身体全身を見えない大きな手で突き飛ばされたかのような衝撃、そのあまりの力に海未はとっさに持っていた棒を手放してしまった。
右手を順手にして握っていた木の棒を離しながら海未はこの時何が起こったのか疑問を抱いた。
目の前にあるのはこちらに向いて右腕を伸ばし手のひらを突き出す、ローブの人物の姿。
そして、それに対して自分は見えざる力によって突き飛ばされるかのような感覚を感じ、身体が後ろの方へと弾き飛ばされた。
「………邪魔をしなければ落ちることもなかったろうにな」
後ろには滝の水が轟々と音を立てながら落ちる切り立った崖……このままでは……そう海未が感じ取った時には、もうすでに自身の足は地についてはいなかった。
直後海未の身体は浮遊感を感じ、程なくして重力に引きよせられるかのように近くを落ちていく滝の水と同じように落下していく。
感じたのとがない高所から落下する感覚、声もあげる余裕もなくそのまま落下していく海未をじっと目深に被ったローブ越しにその人物は見ていた…。
(………私はこのまま落ちたら、どうなるのでしょうか………)
不意に海未の頭にそんなことが浮かび上がった。
人間は不思議とこういう状況に陥った時冷静になるということなのか、崖の底、轟々と滝の水が落ちて大きな湖を形作る滝壺、そこに向かって落下しながら海未は疑問を抱く。
(………何もできずこのまま………)
そして程なくして辿り着いた一つの答えに僅かに海未はある感情を抱いた。
恐怖? ……違う……。
不安? ……違う……。
悲哀? ……違う……。
これは………“悔しさ”だ……。
(誰かが助けを求めてる……それなのに、私は何もできずに……)
求められた願いに答えるべく、差しのばした自身の手……しかし、それがこのまま届かずに何もすることができずに自分はこのまま何も救えず終わるのか……。
何も出来ないまま、終わるのか……。
自分のしたことに……意味はないのか……。
………そんなの、嫌だ………。
(……私は……まだ、こんな所で終わりたくない……私はまだやるべきことがある……穂乃果と……ことりと……みんなと……成すべき夢が……そして今この場に来た理由も……まだ成しえてない……!)
このまま終わることなんて出来ない、差しのばした手はまだ引かない、その手を掴んでないから……。
そして、夢へと差しのばした手もまたまだ引く訳にはいかない……まだ、辿り着いてないから……。
“輝き”へと伸ばした手、それを諦め、引くにはまだ早すぎる。
まだ諦めたくない……諦めない……だからこそ、彼女は今も手を伸ばす……。
(私はまだ……まだ……!)
自身の思いを秘めて伸びした手……その時……不意に自身の視界を眩く、同時に安らかな青い光が包んだ。
やがてそれは彼女の右腕へと集まり、三角の金縁の翡翠が埋め込まれたブレスレットへと姿を変える。
滝壺へと海未の体が近づいて行く、その刹那……翡翠の上部に施された装飾が左右に展開し、ぐるりと180度回転した。
その瞬間、海未の身体を水ではなく“光”が包み込んだ。
まるで水の中にいるかのような感覚に包まれる感覚に一度は身体が滝壺に落ちたのかと錯覚するが衝撃は感じなかった。
代わりにこの時、海未が別に感じたのは……“名前”だった。
「……ア…グ…ル……?」
“アグル”という………名前が………。
「ふん………」
滝壺へと落ちていく海未を確認したローブの人物は再び本来の目的を果たそうと、再び空の雨雲を見上げて右手を振りかざそうとした。
この時、すでに雨雲はもはや“雷雲”と呼ぶのが相応しい程の黒雲へと変化し、青白い稲妻が火花のように雲の中で唸りを上げている。
おそらく、この雷撃を利用して次の一撃を湖へと落とせばほぼ目的の“標的”を討つことができるだろう…。
ローブの人物はそう高を括ると天高く、右腕を伸ばす…。
「……?」
だが、その時……不意にローブの人物が何かに気づいたのか視線を空の黒雲ではなく、滝の水が落ちる滝壺へと向けた。
先ほど、一人の少女を返り討ちにし、そこへと落とした、ならあとは纏めて雷撃で始末すればいいはず……しかし、この時ローブの人物はあることに気づいた。
滝壺は崖から落ちて行った水が溜まり、湖となっている。
轟々と音を立てる水が水面を揺らす中………その湖の湖面に、淡く輝く“光”が発生していることに………。
「………まさか………」
ローブの人物がその光がなんなのかを理解したのと同時に、湖面に発生した光はどんどんその輝きを増していく。
とっさにローブは雷雲へと腕を伸ばし、とどめの一撃を打ち込もうとするが………。
ー………デェア!
それよりも早く、その光の中から雷雲へと向かって光り輝くエネルギーで形成された光球が放たれた。
光球は寸分の狂いもなく雷雲へと命中、そのまま雷雲は四散、湖の上に溜まりつつあった黒雲は無くなった。
そしてその瞬間、湖面に浮かんでいた光がより一層の輝きを放ち、それは一筋の光の柱となり、その光が大きくなって行き、やがてその光から、何かが勢い良く飛び出して来た!
空へと舞い上がるように飛び立った光、それは不規則な起動を描くとそのまま山間の地面へと降下した、そしてその光が晴れるとその中から巨大な人型のシルエットが浮かび上がった。
「……この状況で“可能性”を持つ人間と出会えたというのか……!」
その姿を見たローブの人物がこの事態に動揺を隠せない様子でそういった。
ローブの人物が見つめる先にいたもの、それは……“青い巨人”だった。
全身を深い海の底のような蒼で包み、体を走る銀色のラインと同じく銀色の顔に胸の金縁のプロテクターと五角形の金縁に逆三角の形をした水晶。
頭部に黒のラインを刻みながら、鋭さを感じる光り輝く双眸を持つその巨人は凛と、そして堂々と山間に立つ……。
その姿を見てローブの人物は呟く……。
「………“ウルトラマンアグル”………!」
その巨人の、真の名を……。
「………ちぃ、パズズ!」
本来の作戦はこの事態によって失敗してしまったが、まだ手は残してある。
ローブの人物はアグルへと目を向けながら近場の山の方へと指示を飛ばすと、その瞬間その山全体を震わせながら巨大な獣の影が姿を現した。
ーグォォォォォオオオオオオオ!
胸と腹が赤く、それ以外の体表をくすんだ灰色に包み込み、まさに凶悪そうな顔つきをした頭には二本の太い角が備わっている。
獣のように折り曲がった太い二本の足で地面に立ち、牙を剥き咆哮をあげるその巨大な獣、怪獣がローブの人物がいた山とは別の山の裏手から姿を現した。
ローブの人物はこの怪獣、“宇宙雷獣 パズズ”の名前を持つ怪獣を利用して雷雲に溜まった電気をさらに強化し、湖へと放ち湖の中へと逃げ込んでいたアグルを仕留めるつもりだったのだ。
しかし、アグルが本来の力を解き放ったのなら仕方ない、こうなればパズズの力で抑え込むつもりらしい。
「………」
だが、アグルはパズズを前にして警戒する様子も見せず、凛とした立ち振る舞いを崩さずに右腕を伸ばし、数回挑発の意味を込めてか手招きをして見せた。
それを見たパズズはその挑発に反応してか唸り声を上げるとそのまま太い足で地面を蹴り、周囲を揺るがしながらアグルへと迫った。
間合いが詰まり、パズズの鋭い爪を持つ腕がアグルへと向けて振り下ろされる。
だがアグルは真正面からその攻撃をいなすと、俊敏な動きですぐさま反撃の拳を打ち込む!
「フッ! アイ! デェア!」
さらにそこに蹴り、手刀、後ろ回し蹴りと連続で攻撃を叩き込んでいく。
そのしなやか、かつ一瞬の揺らぎもない動きにパズズは圧倒されるがそれが余計にパズズの闘争本能の引き立てたのか、パズズは再び叫びを上げながらアグルに向かって突進する。
だがアグルはその動きを見切り、身体をひねりながら横へと回避するとその勢いを利用してパズズの首の後ろへと水平チョップをカウンターで打ち込み、さらにパズズが振り返った所を勢いをつけた回し蹴りを叩き込んで地面へと打ち倒した。
地面へと倒れたパズズにさらなる追い打ちをかけるためかアグルは灰色で太いパズズの尻尾を両手で掴むとそれを抱えて振り回そうとしてるのか力を込める。
「…っ! ウゥァァァァアアアアアアア!?」
だがその瞬間、アグルの体に途轍もない力の電撃が流れた。
一体何が起こったのか………よく見るとパズズの頭のツノが変形してアグルのいる背後へと先端が向いている。
どうやら反撃とばかりにパズズは頭のツノから電撃を発射し、アグルを痺れさせたようだ。
電撃の威力のあまり咄嗟に手を離してしまったアグル、追い打ちとばかりにアグルの身体をパズズの尻尾が打ち据える。
尻尾によって弾き飛ばされ地面を転がったアグル、そこにパズズが立ち上がりアグルの方へと振り返ると牙が並ぶ凶暴な口を大きく開き、そこから火球を打ち出した。
アグルへと殺到する火球、地面を転がったアグルはすぐさま体制を立て直そうと身を起こすが殺到した火球が直撃しアグルの周囲を火球が直撃したことで発生した爆炎が包み込んだ。
ーグォォォォォオオオオオオオン!!
それを見て勝利を確信したのか、パズズが地を揺るがす咆哮を上げる。
あたりに響き渡る轟音……。
しかし、パズズのその雄叫びは……上げるにはまだ早いものだった。
「………まだ終わってない………」
ローブの人物が発生した爆煙の中を見据えてそうつぶやく。
すると、次第に晴れてきた爆煙の中から……。
「………」
片膝をついた状態で両腕を垂直に立てたような体制のアグルが姿を現した。
爆煙が晴れた瞬間、伏せていた顔を上げたアグルはそのまま立ち上がると咆哮を上げたパズズを見据える。
勝利を確信した一撃を耐えられたことに苛立ちを感じたのかパズズは再び頭のツノの形状を変えて、電撃を再び打ち出す。
「……デェア!」
だがその電撃をアグルは素早く地面を蹴り、身を捻りながら跳躍して回避すると……。
「オォアアアアアア!」
身体を回転させながら落下の勢いをつけ、そのままパズズの頭のツノ目掛けて降下し、竜巻の如く回転しながらの蹴りを見舞い、ツノを破壊した!
ーグォォォォォオオオオオオオン!?
ツノを破壊されたことで電撃はもう放てない、戸惑う様子を見せるパズズを前に着地したアグルは両腕を額の前で交差させると右腕を上に左腕を下へと伸ばす。
すると、アグルの周囲に青い光が渦を巻くように発生し、それがアグルの額へと集まるとやがてそれは青く輝く光の刃を作り出す。
空へと立ち上るように伸びていく光の刃、アグルはそれをパズズへと狙いを定めると……。
「デェアァァァァァアアアアアアア!!」
伸ばしていた右腕を振り下ろし、パズズへと目掛けて光の刃、“フォトンクラッシャー”を打ち出した!
殺到するその一撃にパズズは回避する暇もなく直撃を受ける、そしてその直後、放たれた光のエネルギーがパズズの中でスパークし、パズズはそのまま爆散した!
「………」
目の前の敵を倒したアグル、空にかかる曇天から光が溢れ出した……どうやら、太陽が顔を出すのが近いようだ。
その光を浴びて凛とした雰囲気を纏い、その場に立つ青い巨人をローブの人物はじっと見据える。
「………またしてもか………ちっ」
舌打ちをしながら、その人物はその場を去る。
一体、何が目的なのか……なぜ巨人、光の戦士を狙うのか……。
そして、ローブの人物が姿を消したと同時にアグルもまた青い光に身を包み、その場から姿を消した。
「おいお嬢さん、しっかりするんじゃ! おい!」
「………っ……?」
気がつくと、自分は川岸のそばで倒れ、すぐそばでさっきまで一緒にいた老人が自分に向かって必死に呼びかけて来ていた。
その声に反応し、うっすらと目を開けた海未はその目を自分の身体を揺さぶる老人へと向ける。
「……お爺、さん……」
「おぉ、よかった気がついたか……なにやらものすごい揺れと音が聞こえたと思って来て見たらお嬢さんが倒れとってな……一体なにがあったんじゃ?」
「……なにが……」
その言葉を聞いて海未は気を失う前の自身の記憶を探る。
確か、自分はここにたどり着いて謎のローブを来た何者かがしようとしてることを止めようとして………それで……。
「………私は確かあの時……」
そう、そのまま崖から滝壺に向かって落ちて行ったはずだ……。
しかし、ここは崖の上の川岸、一体どうしてここにいるのか……わけもわからず海未はその場で呆然とする。
「………?」
すると、ふと彼女は自身の右手が何かを握っていることに気がついた。
右手へと目を向けると、それはなにやら人型の形をした不思議な青い人形だった。
こんなものを自分は持っていただろうか?
疑問を抱く海未がその人形を見つめていると……。
ー………礼は言っておく………。
「っ!」
自身の脳裏に何者かの声が聞こえてきた。
それを聞いた瞬間、海未はこの人形がなんなのかを理解した。
……これが……この人形が……彼が自分に助けを求めていたのだと……。
そして、自分の身にあの時なにが起こったのかも……。
「おいお嬢さん、本当になにがあったんじゃ? 覚えておらんのか?」
人形を見つめる海未に老人が問いかける、すると海未は再び彼へと目を向けると微笑みを浮かべ、晴れ間が見え始めた空へと目を向けた。
「………助けるつもりが………助けられたのかもしれません………“水神”とは少し違う………青い光に………」
伸ばした輝き、それが彼女に齎したもの………これは数奇な運命によって生まれた、一つの出会いだった。
これが、七人目の出会い……。
μ'sのメンバー、園田 海未。
そして、青き惑星の水の意思を宿した青き巨人、ウルトラマンアグルとの出会いだった……。
いかがでしたか?
さて、残りメンバーも少なくなってきたので残りが誰が出てくるかおおよその見当がつき始めた頃かと思いますが、今後も首を長くして続きをお待ちください!