ここは幻想卿の冥界、白玉楼のとある一室。
そこには、この屋敷の主人である幽々子と、その従者である妖夢、それから一人の男の子がいた。
男の子の名前はジュンである。
ジュンは今年の最初辺りからなんやかんやでこの白玉楼に住むことになった一人の人間である。
そんなジュンには二つの能力を所持していた。一つは拒絶する程度の能力、もう一つは真似る程度の能力である。
そのためジュンは拒絶する程度の能力で成長することを拒絶し、ある意味不老の体を手に入れていた。
そんな彼が白玉楼の一室で幽々子、妖夢の二人に何をやらされているかというといわゆる着せ替え人形である。
「ぎゃー、やめー」
「あらあら、随分可愛らしい事。ねぇ、妖夢あなたもそう思うでしょ?」
「はい、私もそう思います。あっ、この服なんてどうですか? 私のお古ですけどジュンちゃんならきっと可愛いと思います」
そう言って取り出したのはいつも妖夢が来ている服をそのまま小さくしたような物だ。
ちなみに今男が来ている服は幽々子のフリフリである。また、これもどこから見つけたのかジュンのサイズにぴったりであった。
ジュンはその妖夢が取り出した服を見てピタリと止まる。
そして、だんだんと涙目となっていった。
「うわぁああ~~、もうスカートはいやだ~」
そんなジュンを見て二人はますます興奮する。まさに悪循環であった。
嫌がるジュンを無視して二人はジュンは押さえ込み、着ている服を脱がしにかかる。
ジュンは抵抗するが、二人相手に敵うはずもなくなす術がなかった。
そして、二人は妖夢の小さい服を着せていく。ジュンは諦めたのか抵抗をしなくなった。
ジュンがその服を着終えた時にそのすぐ側にスキマが開いた。
その中からスキマ妖怪である八雲紫が現れた。
紫は妖夢の服を着ているジュンを見て目をまるくする。
「ジュン。似合ってるじゃない」
そうして、紫は側にいる幽々子と妖夢を無視してジュンに抱きつき頬擦りをする。
「ちょっ、やめ。」
「ちょっと紫。何やってるのよ! やめなさい!」
それを見た幽々子と妖夢は紫を剥がしにかかるが中々剥がれることはなかった。
「ちょっとくらい良いじゃない。最近ジュンちゃん分が不足気味なのよ」
「何なんですか! ジュンちゃん分って!」
「私は分かる気がするけどね」
「あ~う~~」
「あっ、幽々子様私も分かります」
「なら、何で私に何ですかってツッコんだのよ」
紫はジュンを抱きながら妖夢に不満気な顔を向ける。
「まぁまぁ、二人供。そして紫は何しに来たのよ?」
「あぁ、そうよ。用事があって来たんだったわ」
そう言って紫はジュンを離す。
「妖夢~」
「はいはい、ジュンちゃん。紫さまは、幽々子様とお話があるようです。私と向こうに行って一緒に遊んでいましょうね」
紫の拘束から逃れられたジュンは妖夢の方までトコトコと走っていき膝の辺りに抱きつく。
同じ服を着て抱き合っているその姿はまるで姉弟のようだった。
妖夢はジュンの背中をトントンと二度優しく叩いてから手をとって別室に移動していく。
その様子を紫と幽々子は羨ましく見ていた。
「で、話って何なのかしら? 紫」
ジュンと、妖夢の足音が完全に消えた所で幽々子は話を切り出す。
それを聞いた紫は一度瞑る時間を長く瞬きをする。
「あの子の能力についてよ」
「能力? 最近『拒絶をする程度の能力』は一度も発動していないはずよ。誰かにいじめられているという報告もないわ」
「それは、分かっているんだけど、最近幻想卿を赤い霧が覆うっていう異変があったでしょう?」
「あぁ、紅魔館のレミリアとかいうのが起こしたのよね。あの時は、ジュンも怖がっちゃってなだめるのに苦労したわ」
そう語る幽々子の表情に苦労の色が見てとれた。当時の事を思い出しているのだろう。
「そう、そのレミリアなんだけど。性格にちょっと問題があってね」
「問題?」
「えぇ、何というか。その、彼女はいじめっ子気質なのよ。言葉の使い方も上手いし……」
幽々子はそう言われて紫が何を懸念しているかを理解する事ができた。
その思いついた事が正解しているかどう確かめるために思い付きを話す。
「つまり、ジュンがレミリアに唆されるか、何かを言われるかしてこの幻想卿を拒絶する可能性がある。と、言うことね」
確信めいた様子で言う幽々子に紫は頷いた。
「あの子の『拒絶をする程度の能力』はこの幻想卿内最強の能力だと私は思うわ。全く私が手も足も出ないなんて初めてよ」
そう言って紫はジュンが巻き込まれたある事件を思い出した。
それは珍しく一人で人里まで本人曰く探検をしにいった所どうやら、妖怪否定派の一人に何やらひどいことを言われ癇癪を起こし、人里を消滅させかけた。といった物である。
その時は紫と霊夢も動き何とか納めようとしたのだがなす術なく、幽々子と妖夢がすっ飛んでいって事なきを得ることとなった。
あれと同じあるいはそれ以上の規模の拒絶は避けたい紫であった。
「まぁ、ジュンも最近は心も育ってきた事だし大丈夫じゃないかしら?」
「そうは言われても何か対策をしなくちゃいけないわ」
「珍しい事もあるものね。紫がちゃんと管理人の仕事をするなんて、てっきり藍に任せっぱなしかと思ったけど」
紫は幽々子のその言葉にギクッとした。
しかし、すぐさま何とか体裁をとろうとする。しかし、既に図星を疲れた姿を幽々子に見られていたのでその事には意味は無かった。
「どうやら図星のようね。あなた、恥ずかしくないの? 管理人としてその仕事を従者に任せっぱなしなんて」
「う、あ、あなただって屋敷のことは全部妖夢に任せっぱなしじゃない。人のこと言えないわ」
「あら、私はちゃんと死者を導くという仕事はちゃんとやってるのよ。あなたと違ってね。それに最近はジュンの世話で忙しいのよね。あの子外から来たじゃない? だから気になるものがあると直ぐにどこかに行っちゃうのよ」
困ったわと言って首をかしげる幽々子に紫はわずかながら殺意を覚える。
「くっ、それは。私へのあてつけかしら?」
口の端がぴくぴくと動いている。
それを見た幽々子は更に笑みを浮べる。その事が紫の神経を逆撫でした。
「何の事かしら?」
白々しい。紫は思った。ジュンがこの幻想卿に来たとき住むところに困っていたジュンをこの白玉楼を紹介したのは自分であるのだ。
しかし、もし紫に時間を戻せる能力があったならばその時ジュンにここを紹介した自分をぶん殴ってやりたいと思っている。
「まぁ、いいわ。せいぜい愛想尽かされないようにする事ね」
「愛想つかされるって? 私が? 面白いわ。そんな事は絶対無いわね。もし、99%ありえない事だけれども。もし私に愛想つかして出て行ったとしてもジュンが行くのはあなたの所ではないわね」
「へぇ、それは誰かしら?」
紫の脳内に暗い考えがよぎる。
「ま、それを聴いてもあなたがどうこう出来そうな相手でもないのだけれどね。幽香よ。最近ジュンは彼女の作っている花に興味を持ったらしくてね。一本貰ってきて大事に部屋に飾ってるわ」
その言葉を聞いて紫は膝を折った。幽香といえばこの幻想卿ないでは片手の指に入るほどの強者なのだ。紫自身負けることは無いと思うが、勝てるかどうかは微妙な所である。
「うわぁああ~ん。最近藍が構ってくれないのよ。もう親離れかしら? しなくて良いのに」
すると、さっきとは打って変わり紫はいきなり泣き始めた。しかし涙を流してはいない。
先ほどとの変わりように幽々子は驚き目を丸くする。そして呆れるように溜息をついた。
「そういっても藍があなたの式になってからもう何年経つのかしら。それに今は橙だっているし……」
「はぁ、そうなのよね。最近橙にかまってばかりで私にかまってくれないのよ。これは何ていうのかしら? 放置プレイ? はぁ、それにしても貴女の所のジュンはいいわよね。可愛いし可愛いし可愛いし」
「本人は可愛いと言われると怒るんだけどね。やっぱり男の子だからかっこいいって言われたいんだって。あんなに可愛いから無理だけど」
この二人は既に先ほどのジュンの能力云々といった話題は頭から抜け落ちていたのである。
この幻想卿では、異変が起こることなど日常茶飯事で一種のイベントとなっているからだ。もし異変が起こったとしてもその時に対応すれば良いのだ。
二人がジュンについて談義していると、紫がそういえば。と思いついたような声を出した。
「何かしら?」
「そういえば、思い出したんだけど。外の世界にはある有名な小説があってね」
「小説? それが、ジュンと関係あるのかしら? あの子文字が多いと駄目よ。たまに絵本でも駄目なやつがあるんだから」
新しく話題を切り出した紫に首をかしげる幽々子。
紫は絵本でも字が多い奴って何かあったかしら?と、頭の隅で考えていた。
「そうじゃないわよ。ジュンに読ますんじゃないの。最後まで聞きなさいせっかちは損をするわよ」
「そうね。で、何なのかしら」
「源氏物語っていう小説なんだけど。それの中にこんな感じのシチュエーションがあったのよ」
そういって紫は幽々子に軽くそのシチュエーションについて説明をする。
そのシチュエーションとは、病気によって体が弱っていた光源氏は坊さんに祈祷をしてもらおうと山寺に行く。その途中気になる家を発見したので覗き見てみるとそこにはたいそう可愛らしい十歳くらいの女の子がいた。光源氏はその女の子に恋をして。連れ帰り、自分の好みになるように育て上げた。といったものだ。
「なるほど、それは凄い発見。確か紅魔館に大図書館があったはずよね。そこに源氏物語置いてないかしら」
幽々子の頭の中でかつて無いほどのスピードでどうジュンを育て上げていこうか、という思考が成されていく。
大きくなっても私に依存したままがいいわね。妖夢と一緒にずっといたいわ。等とジュンのあずかり知らぬ所でジュンの将来が決まっていく。
その後も二人は夜遅くまでジュンについて語り合い。そして今日は紫は白玉楼に泊まる事が確定した。
いつもはジュン、幽々子、妖夢の三人で川の字になり寝ていたのだがそこに紫が入った事により川に更に一本足される事となった。
このような事は白玉楼では日常茶飯事のことだった。