出てきた妖夢に対して魔理沙は、親指を突きたて空で、必死に一方向に逃げ惑っているカラス達を指差した。
その指にしたがって妖夢も、視線をそちらに向ける。そして、そのカラスたちを見ると、表情を一気に硬くした。
魔理沙は、妖夢がそちらを向くと同時に腕を下ろす。
「異変ですか?」
「あぁ、おそらくな。今、霊夢が調査に当たっている。私も直ぐに行くつもりだぜ。こっちにいたんじゃ危ないからジュンをここまで連れてきたってことよ」
「ありがとうございます」
「どうしたの?」
いまだ状況を把握しきれていないジュンが、妖夢たちに聞く。状況を把握できてはいないが、いつもと違う事がおきている事は理解できているようだった。
妖夢は、ジュンの後ろに回って白玉楼の中に入れようとする。
「なんでもないですよ。ちょっと、事件が起きて霊夢ちゃんが頑張ってくれてるってだけです」
「そうよ、ジュン。こっちにいらっしゃい。たまには私とも遊びましょ」
ジュンが中に入ると同時に都合よく幽々子が現れたのでジュンをお願いする事にした。
「幽々子さま。お願いします」
「えぇ」
幽々子が中に入っていったのを見届けて妖夢は魔理沙に向き直る。
「で、どうするんだ? 一緒に来るのか?」
「いえ、私は白玉楼を守る任があるので申し訳ありませんがついていけません」
「そうか、私は直ぐに戻る必要があるから。じゃな」
魔理沙はそう言って、箒にまたがり来た道を戻っていった。
妖夢は、それを見送り、また空へと目を向けると。驚きのあまり目を見開いた。
そこにあったのは、黒い異空間へと繋がるような渦が合ったのだ。
そして、妖夢の勘が告げていた。あれは、不味いものであると。
「ゆ、幽々子様に伝えないと……」
妖夢は、白玉楼へと駆け込んだ。
魔理沙は、白玉楼から博麗神社に戻りながら頭上で形成されていく黒い渦を見ていた。
「霊夢の勘が鈍ったか? あそこまで、上等のものがでたら勝てるかどうか……。mo不味い。霊夢が危ない」
魔理沙は、やはり自分の勘は間違いなかったと確信する。
そして、今回に限って働かなかった霊夢の勘に頭にきていた。しかし、頭に血が上った状態で、あれに挑んでは勝てない事は自明の理。頭を二三度振りクールダウンさせた。
魔理沙がもう一度、頭上の渦に目を向けると、その渦はダンダンと小さくなっていった。
そして、その渦が消えた。
魔理沙の今の位置から、その渦の下方までは、まだ距離が大分あった。
その事に魔理沙は焦り、箒のコントロールが雑になっていた。枝が魔理沙に引っ掛かり小さい傷を作り出す。
そして、どれくらい飛んだだろうか。
突然、けたたましいほどの音の衝撃が、魔理沙を襲った。見ると、どうやら、霊夢がナニカに向かって弾幕を放っているようだった。
魔理沙は、いつもより調子の良い霊夢の弾幕に、すこし安心をする。こういった異変時の霊夢は、最強であるという認識があるからだ。
魔理沙は飛び続け、距離を稼いでいく。
いつの間にか、弾幕の勢いが消えていた。既に決着がついたのだろうか。
魔理沙は、木々の間を飛び、視界に霊夢が入ってきた。
霊夢は、どうしたというのだろうか、まったく動こうとしていなかった。
「霊夢!!」
魔理沙が叫ぶ。
その声に霊夢は振り返った。その表情は眉間にしわが寄り、苦しそうだ。
魔理沙をその視界に納めると、霊夢は眉間のしわを伸ばし驚きの表情をする。
「来ちゃダメ!」
そして、霊夢も叫んだ。
「何言ってんだ。さっきのあれはどういうことになったんだ?」
しかし、魔理沙は更にスピードをあげ、霊夢の横に降り立つ、そして、霊夢の見ていた視線の先にあったものを見た。
すると、魔理沙の表情が角ばった。
「おいおい、なんだ。ありゃ」
「あれとは、失礼だな。フム君は魔理沙だね。よろしく私の名前はサンという。この世界を手に入れるためにここまで来た」
そこにいたのは、長身で、足が長く。髪を腰まで伸ばしている。目つきは少々鋭く、整った顔立ちをしている。
そして、その男の最も目を引いた特徴は、その頭にある。ヤギの角を巻いたような角だ。(参考としてはモンハンのディアブロス)
その男、サンは魔理沙を見てニヤリと口をひずめる。
その表情に魔理沙の背中にゾゾゾッと寒気が走った。
「おい、何だあいつは」
「だから、逃げてって行ったのに……」
霊夢はハァ、と溜息を着いた。
その様子から、このサンという男かなりのツワモノであるということが分かった。
魔理沙は、サンの放つプレッシャーから、引きつるような笑みを浮かべて霊夢に向き合って言う。
「何言ってんだ。バカヤロ、あいつを倒さなくちゃ、あたしらに平穏は無い。それなら、勝ち目の無い戦いだろうと、残って抗うさ。それに、あたしらは無敵だろ?」
「あら、そのセリフ。私を口説いてるの? 残念ね。ジュンがいなかったらころっと惚れてたかもしれないわ」
「そりゃ、残念」
霊夢は魔理沙のセリフにポケーっとするが直ぐに、ニヤリと笑い。からかう。
魔理沙は、その場違いなやり取りのお蔭で、先ほどから身体を縛っていた緊張感が消えていた。
「そろそろ、よろしいかね?」
そのやり取りをただ、黙ってみていたサンは一通り終わったところで、口を挟んだ。
魔理沙と霊夢は、サンに向き直る。
「はっ、その余裕な態度後悔させてやるぜ!『マスタースパーク』!!」
魔理沙の、スペルカードの発動とともに、戦闘が開始された。
<キングクリムゾン!!>
「その程度か?」
「ぐがっ」
サンの魔法が空を飛んでいた魔理沙に辺り、魔理沙は頭から地面へと墜落していく。
やがて、魔理沙と地面との距離が零となり、かなりの衝撃が魔理沙を襲っい、魔理沙の軽い身体は、その衝撃でバウンドする。
衝撃のせいか、魔理沙の息が一瞬つまり、肺の中にあったはずの酸素も吐き出してしまった。
そんな重症とも呼べるべき傷を負いつつも、まだ、意識があった魔理沙は、ゴロンと転がり仰向けになった。深く深呼吸をする。
魔理沙は、細く目を開けた。霊夢は、魔理沙の傍で仰向けになり転がっていた。
霊夢は先ほどからピクリとも動かなかった。
サンが、ゆっくりと降りてくる。見下すように魔理沙を見る。
「ふむ、幻想卿噂の巫女と、魔法使いもそうでもなかったな。私のこの力を試せるほど強い奴は他に誰がいただろうか……。太陽の畑か、地獄の鬼か、それとも賢者のところか、白玉楼か……ん?」
ゆっくりと確かめるようにサンは喋る。
それを、魔理沙はどこか他人事のように、ぼーっとしながら聞いていた。無駄な事を喋っているうちに何か手を打ちたかったが、身体が全く動かなかった。
そして、サンが白玉楼と言った瞬間、ピクリと反応してしまった。
「ふむ、白玉楼ねぇ。行ってみようか」
それをあざとくサンは見つける。
ギリと、魔理沙は強く歯を噛み締める。
馬鹿のように反応してしまった自分と、いまだ動きそうに無い身体を魔理沙は呪った。
サンは後ろを振り返りここに用はないとばかりに歩く。
そして、魔理沙たちとある程度距離をとると、冥界の方向をどうやって察知したかは知らないが、その方向へと飛んでいった。
魔理沙は自身の無力に打ちひしがれている。
その頬からは、涙が流れ、口元からは、血が流れていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回の投稿は2012年8月16日です