幽々子は一人妖夢とジュンが慌てふためいている傍らいつもどおり、お茶をすすりせんべいを食べていた。
チラリと、横に目を向ける。
ジュンは、妖夢の前で正座し、その前で妖夢は、先生のように右手の人差し指をピンッと立てながら話していた。
「いいですか。もし危ない事になったら絶対に逃げてくださいね。私と幽々子様で時間を稼ぎますので……」
ジュンは顔を普段よりも険しくしていた。
幽々子はふぅと吐息を吐く。
(聞いていれば、どうやら魔理沙と霊夢が事に当たっているようね。もし、彼女らで倒せないとなると……)
そんな時、コンコンと扉を叩く音がする。
その音を聞いた妖夢が、出ようと玄関の方へと歩を進める。
「こんなときに誰でしょう」
「待って、私が出るわ」
「はぁ、そうですか。幽々子様」
しかし、それを幽々子は制止すると立ち上がった。
ジュンの隣を通りすぎるとき座っていたジュンの頭を撫でる。
「妖夢、裏から逃げなさい」
妖夢の隣を通りすぎるときに幽々子はボソッと呟いた。
その呟きに妖夢はハッと振り返る。扉へと向かう幽々子の顔には笑みが浮かんでいた。
幽々子は、玄関の方へと消える。
「ジュンちゃん。裏に行きましょう。こっそりとですよ」
妖夢は顔を引き締め、ジュンの手を握ると裏に回った。
幽々子は、玄関の前に立ち一回深く深呼吸する。
そして、玄関を開けた。
「あなたね。この異変の原因は」
「いかにも、所で白玉楼はここであってるかな?」
「えぇ、合ってるわ」
「なら、私が言おうとしていることも分かるだろう?」
サンはそう言うと、土足で白玉楼の中に入り込む。
そして、何かを探すように辺りを見渡した。
「何かしら? こんな所にあなたが欲しがるようなものなんて無いと思うけど、それに、室内に土足で入り込むとは、どんな教育を受けてきたのか知りたいわ」
幽々子はジト目でサンを見る。その視線には殺気がこもっていた。
そんな視線を受けたサンであったが、何も無いかのように首をすくまらせて横に振るだけだった。
「まぁ、そう言わないでくれ。魔理沙が、ここの場所を言われた途端動揺したのでね。どんな珍しいものがあるのだろうか。と、想像を膨らませていた所だ」
「そう、けどそんな想像は意味が無いわ。だって家には宝と呼べるほどの物は無いもの」
「いや、そんなはずはない。あの霧雨魔理沙が動揺したんだ。何かあるはずだ」
「そう思うのは勝手だけど、どちらにしろ。あなたをそれ以上中に入れるつもりは無いわ」
「それを決めるのは君ではないよ」
サンは突然幽々子に襲い掛かった。
妖夢は、ジュンを裏口から外へと連れ出すと、とある方向へ向かい走っていた。
なるべく、急いで行きたいのだが、妖夢とジュンの二人には身長のインターバルがあり妖夢は本気では走れないでいた。
「はっ、はっ、よ、妖夢、どこに行ってるの」
ジュンは息を切らしながらも妖夢に尋ねる。
「山ですよ。諏訪子様や、八坂様、早苗さんがいるところです。あそこなら、山の中には文さんもいますし……」
妖夢はジュンに答える。表情には貼り付けたような笑顔を浮かべていた。
妖夢は、今も後ろで感じる。自分の主の幽々子と、サンの戦闘のことが頭の中にあり、心配で気が気ではなかった。しかし、主にジュンの事を託された身としては、ここで振り返ってしまっては駄目だと感じている。葛藤が妖夢の中でめぐっていた。
二人は懸命に走っているのだが、ここは冥界。二人が目指している山にはかなりの距離があった。
その距離をあっという間に詰める方法を妖夢は思いついていた。しかし、それを実行して山まで体力が持つか?という疑問が着いて回った。
長距離走るのだが、それでも山は遠かった。
妖夢がふと、ジュンを見ると、顔には極大の汗粒を浮かべ、苦心の表情をしながら走っていた。
ジュンの足も乳酸のせいか足取りが危ない。
妖夢は、ふと立ち止まる。
それに伴ってジュンも止まった。不思議そうに妖夢を見上げる。
妖夢は、ジュンと対面する位置に移動し、腰を落として視線をジュンと合わせた。
「ジュンちゃん。私の背中に乗ってください。まだまだ、山までは距離があるので、このスピードだと、追いつかれる可能性があります。」
「分かった」
そう言って妖夢は、そのまま逆の方向を向く。ジュンはその背中に文句を言うことなく乗っかった。
背中に受けるその重みを感じながらも、妖夢は走り出した。
走るにつれ妖夢の顔にも汗がにじむ。決してジュンが思い訳では無いのだが、それでも人一人の重さというのは負担になっていた。
そうして走っていると、ようやく山の近くに来る事ができた。
その時の妖夢の表情は、驚愕といったような、焦り、わずかながらの絶望感を浮かべていた。
走っている途中の事である。後ろからの気配が一つ分弱くなったのだ。
その事は、確実に妖夢の負担となっていた。幽々子が買ったのなら良かったのだが、もしあの得体の知れない男が勝ってしまったとしたら……。
しかしながら妖夢は、内心幽々子に勝っていて欲しいと思いながらも、異変時にはめっぽう強い霊夢と、魔理沙のコンビから勝ち抜いてきた事から勝ち目は薄いであろうという事は分かっていた。
ようやく山のふもとまで来た。
妖夢は、その山の頂上辺りまで見上げ、何か決意をしたような表情をしている。
背中に乗っていたジュンは、そんな妖夢を見て心配そうに見ていた。
「妖夢、大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。腰を下ろすのでちょっと降りてもらえますか?」
「うん」
妖夢は腰を下ろすと同時にジュンは地面に降りた。
妖夢は、少し伸びをして腰をトントンと叩く。そして再び腰をジュンと同じ視線まで下ろした。
「確か前に何度か来たことがありますから、守矢神社までの道は分かりますよね?」
そう尋ねると、ジュンは頷いた。
それを見てから続ける。
「ジュン。先ほどやってきた訪問者。あの訪問者は我々からしたら悪者です。何か事情があるのかも知れませんが、ジュンの大好きな霊夢や、魔理沙、幽々子様を傷つけた人は悪い人でしょう? だから、やっつけなくてはいけません。分かりますね?」
「なら、僕の能力を使えば……!」
妖夢はジュンに悟らせるように語り掛ける。
ジュンは、先ほどの訪問者は悪い奴という認識をした。そして、いつだったか知った自分の能力を使う事を提案する。
しかし、その提案に妖夢は首を振った。
「それは、駄目です。ジュンは私と幽々子様の可愛い可愛い息子です。そんな息子を戦場に親が駆り出しますか? 少なくとも私たちはしません。それに、ここに住むほかの物たちもそう思っているでしょう。息子を守るのが親の役目です。幸いに私たちは、闘う術をもっています。だから、私たちは絶対にあなたを戦場に出したりしません。言うなれば、能力を戦闘のことに使わせる事は絶対にしません。分かりましたか?」
ジュンは、その話を聞きながらいつの間にか涙を流していた。そして必死に頷いている。
妖夢はそんなジュンの様子に微笑む。
「なら、ジュンはここから先一人で行ってください」
「妖夢はッ?」
「私はここで、少しの時間しか稼げないでしょうが足止めをしなくてはいけません。大丈夫、そんな顔しないで私は絶対に死にませんから。私が強い事はジュンも知っているでしょ?」
ジュンは頷く。
「なら、行ってください」
妖夢はジュンの背中を押した。
ジュンはトボトボと後ろを振り返りながらも山の道を歩んでいく。
妖夢は一回瞬きをする。
「行け!」
妖夢は叫んだ。
同時にジュンは後ろを振り替えることは無くなり、力強く走り出した。
ジュンが山道に消え見えなくなるまで、見送っていていた。
そして見えなくなると、後ろを振り返る。
「さて、出てきたらどうですか? いることは分かっています」
「おや、気付いていたのか」
すると、先ほどまで背景の一部だった場所からサンが出てきた。
妖夢は殺気を強くする。
「では先ずは、自己紹介と行こう。私はサンというよろしく」
「ふん。先ほど私とジュンの会話をずっと見ているなんて以外と優しいところがあるんですね」
妖夢はハン!というような感じで皮肉った。
「ふふ、まぁね。良く言われるんだよね」
そして、妖夢は先ほどから気になっていた事をサンに尋ねる。
「貴様、さっきから肩に背負っているのは何だ」
「おや、分からないのかね? 君のご主人だよ。幽々子と言っていたかな?さっき。それと、あの男の子は誰だい? 随分と親しいようだが……」
妖夢の表情がよりいっそう険しくなる。
「だまれ外道が、幽々子様を放せ!」
妖夢はキレた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今まで気付かなかったんですけど、幻想郷の郷の字が間違っていたらしいですね。恥ずかしい。
辞書登録したので31話あたりから改善されていると思います。