妖夢は叫ぶと、腰に刺していた刀を抜き、一瞬にしてサンとの距離を詰めた。
その速さは、並の物では無く、訓練をしている者であっても目に留まらないほどだ。
勿論サンであっても、それに該当する。
妖夢は、姿勢を低く振り上げるようにしてサンを切りつける。勿論、肩に背負われている幽々子を傷つけないようにだ。そのまま、妖夢はサンの後ろまで行く。
「ぐぁあああああ」
一瞬送れてサンは自分が切りつけられている事に気がつき、目を丸くして断末魔の叫び声をあげた。その細めの肢体から赤い血液が噴出する。
キン!という擬音とともに妖夢は、刀を鞘に納めた。
体勢を崩したサンの肩からズルリと、幽々子が落ちる。
妖夢はその音に振り返った。
「幽々子様!」
そして先ほどと同じように、すさまじい速さで、幽々子のところまで行くと主の身体を背負い少し離れた見つかりづらそうな茂みの中に置き、先ほどと同じ所へと戻った。
その間、わずか数秒。
妖夢が戻ってきてサンを見ると、両膝、両手を地面に着き、血をだらだら流しながら、ゼェハァゼェハァと荒く息をしていた。
「くっそぉ! こうやって下手に出てやっていれば、調子に乗りおってぇ!」
サンは叫ぶ。同時にかなりの殺気がオーラのように立ち込めた。
その事に、妖夢は相手の顔を見て動きや、思考を読もうとしたが、地面を向きうつむいたままだったので、確認する事ができなかった。
「……?」
その時妖夢はあることに気がついた。
それは、サンから零れるよう垂れていた血液である。それがいつの間にか、止まっていた。
サンは、荒く息をしながらも立ち上がろうと、片足を地面に着き膝の上に手を置く。
妖夢は、立ち上がることを許そうとはせずに、追撃を放つ。
「ヘブッ!」
すると、サンは後方へと吹っ飛んでいき大きめの木にブチあたり、ズルリと下に滑り落ちた。その木には、サンが受けた衝撃を物語るくぼみが出来上がっていた。
無様な声をあげる。
しかし、猶サンは気絶をする事は無く意識があった。
妖夢は、様子を見ようと距離を取りサンを観察する。
ノロノロと、亀のような速度で起き上がる。手を地面に着き腰を上げる。妖夢の側からは見えないが、その表情は怒りにそまり元の原型が無かった。
「……」
サンがその体勢で何かを呟く。それは口元に耳を近づけなくては聞こえないくらい小さく。故に妖夢はサンが何かを呟いた事さへ気がつかなかった。
瞬間妖夢は何かを感じ取り、跳躍し、その場を離れる。
すると、先ほどまで妖夢が立っていた場所の地面に熱源が発生し、そこから何とマグマが天に向かい柱を作り出した。
その現象を妖夢は、茫然自失しながら眺めていた。
「ハッ!」
妖夢は、サンを見る。
すると、サンは悪魔のような笑みを妖夢に見せ付けるように一瞬浮かべると、妖夢のほうへと超スピードで跳躍してきた。
その事に妖夢は驚き、サンに合わせるようにして後ろへと飛ぶ。
サンは妖夢との距離を詰めると腕を手刀のようにして振り下ろす。
妖夢は持っていた剣でそれを受けた。
「!」
予想以上に重いその振りに驚いた顔をする。
サンは、妖夢が受け止めたのを見ると、口元をニヤリと歪める。そしてまた何かを呟く。
先ほどまで拮抗していた妖夢の剣と、サンの手刀。呟いた瞬間、サンの腕力が上がり、手刀が地面へと振り下ろされた。
妖夢は、地面に叩きつけられるように落ちる。身体が少し地面の中に埋まる。
落ちたときの衝撃で辺りに砂煙が舞った。
妖夢は、気が飛びそうになったが、衝撃の痛みから何とか気を飛ばす事は無かった。痛みの為に閉じていた目を開け、刀を杖のようにして起き上がる。
(なんだあれは、あいつが何かを言った瞬間力があがった。それに、さっきの溶岩の柱……。何だろう。分からない。幽々子様……、私はどうすればいいのでしょうか)
砂煙がいまだ立ち続けているそのわずかな時間に妖夢は頭をフル回転させる。先ほどの呟きと、力が上がったことの関連性。対処方を考えていたのだ。
しかし……
(だめだ、分からない。声を封じれば良いのかも知れないけど、今のアレに接近することは不可能でしょう。)
妖夢は、砂煙のため周りを見ることはできないが、幽々子を隠した場所の方を見る。
(勝てない。ここは、逃げるが吉でしょうか。ふふ、ジュンちゃんにあんなカッコイイ事を言ったのにこんな体たらくでは、笑われてしまいますね)
妖夢は、少しだけ戻ってきた体力を使い。幽々子がいる方向へと飛ぶ。
そして、幽々子を担ぐと、サンに見つからないようジュンが向かった先、山の頂上へと向かう。幸いに、サンと妖夢の位置関係は正反対で妖夢の後ろが山へと続く道だった。
しかし、やはり何かを呟いたのだろう。先ほどまで舞っていた、砂煙が不自然に発生した突風により消えてしまった。
妖夢は驚愕の表情をする。サンがどこにいるか確認しようと、顔だけを後ろに向ける。しかしいない。
(どこにいる?)
妖夢は、周りの気配を探った。
妖夢の足がとまる。妖夢は上を見上げた。
すると、妖夢の少し上空に横になりながら、ニヤニヤしながら妖夢を見ていた。
「おいおい、ここまでやっておいて逃げるなんて、酷いことするんじゃねぇよ。寂しいじゃねぇか」
妖夢は、ギリっと歯をかみ締める。幽々子をその場に下ろした。
刀を抜くと、妖夢は足に力をこめ、サンに向かっていく。
「そうそう、そうすればいいんだぜ。まっ、無駄だけどな」
「やぁぁぁああああああああああ!」
サンは手を何か握るような形にする。
すると、そこに光が収束していき、最後には斧を形作った。
「ギガスラッシュ!!」
サンは叫ぶと妖夢が斬りかかってくるのにあわせて、斧を振り下ろした。
空から、赤いナニカが降りだした。
雨のように振りそそぐそれは、局地的なもので、隣を見ても振っていることは無い。
ドンと、何か重いものが地面に落ちるような音がした。
「ハハハハハハッ!!」
地面には、一組の主従が倒れ臥していた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
20という節目の話でした。
節目節目というものは何か特別な感じがしますね。
ここまでお読みいただいている皆様には何時よりも増した感謝の意を。
さて、次回ですが
そろそろ書き溜め分も少なくなってきましたのと同時に私事にて集中するべき時期が近付いているために、しばらく時間をおきたいと思います。
具体的に言うと9月の最後あたりまでは少なからずとも執筆に時間は当てられなくなり、次回投稿がかなり遅延すると思われますがなにとぞ理解の程をよろしくお願いいたします。