ここは、妖怪が住む山の丁度中間付近。そこに、一人の少年が倒れ付していた。
その少年――ジュンは、先ほどまで泣いていたのか顔には涙のあとが残っており、そして泣きつかれたかのように安らかに眠っていた。
前述したとおり、ここは妖怪の住む山。普段の状態であったならば、ここにこうして少年が倒れていれば、人間を食料とする妖怪に食われてしまうのが主なのだが、今回は少々事情が違っていた。
今、この山にはサンというありえない力。……ここ、幻想卿では未発見の力を使うものがいるということ。その事を妖怪達は直接知っていたわけではないのだが、野生の勘とでも言うべきかその事をどこからかかぎつけ今はねぐらにこもっているのである。
そしてジュンが倒れたまま、いくらか時間がすぎた。その様子は寝息が無ければ死んでいるのではないだろうかと思ってしまうほどだ。
突然、ジュンの右手がピクリと動いた。
覚醒しようとしているのか瞼を動かしている。そして目を開け上体だけを起こすと、状況を確認するように辺りを見回した。
「お兄さん?」
ジュンが呟く。
どうやら、人を探しているようだった。
まるで、先ほどまで一緒に話していたかのような反応だ。例えば、先ほどまで一緒に話していて、気付いていたら周りに誰もいなかった。みたいな。
夢と現実があいまいになっているのだろうか。
返事が無い。そんな状況がしばらく続き。ジュンの瞳に涙が溜まっていくと。
「なんだ」
「お兄さん!?」
突然声がした。
ジュンが、その声に驚き、辺りを見回すが先ほどから何度も見回している通り誰もいない。
「どこにいるの?」
「あぁ、そっちからは俺は見えないのか。どうやら、声だけが届いているらしいな。安心しな、坊主のちょっと後ろらへんに俺はいるぜ」
「よかった」
ジュンが姿の見えない、お兄さんと呼ぶ人物に痺れを切らし、尋ねる。
それに対して見えない声も答えた。
その答えに少年は自分の背後を振り返ってみるが何も見えなかった。
「とりあえず、その悪い奴がいるって所を目指そうぜ」
「でも、僕どこにいるか分からない……」
「何だ、まだ気配感知ができないのか。よし、俺がやってやろう」
ジュンはお兄さんがいると思われる場所をじっと見詰める。
「ふむ、どうやら山のてっぺんにいるらしいな」
「分かった!」
ジュンは、返事をすると頂上に向かって走りだした。
何も考えずにひたすら走り続けた。
そして息も上がらずに数分走り続けたことにジュンは疑問を感じた。
「お兄さん、僕普段より全然走れるんだけどどうして?」
「あぁ、多分今の俺が起きて精神的?にリンクしているからじゃいか? 恐らくだが、俺の分の体力も使っているんだろう」
「お兄さんは体力使われて大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だぞ」
「そっか」
言うと、ジュンは再び走るペースを上げる。この会話を聞いていると今の状況を忘れてしまいそうになる。
すると、空に一本の弾幕が流れる。
ジュンはそれを見上げた。
その弾幕をジュンは見たことがあった。
「あれ、ゆうかりんのだ」
「本当だな。山のてっぺんにゆうかりんもいるのかもな。めずらしい」
それは、いつかみた風見幽香の弾幕であった。
「妖夢……。幽々子……」
「……。もっとスピードあげなきゃな」
「うん」
そう言ってジュンは更に走るスピードを上げた。
ジュンが山の頂上に着くと、そこには幽香が地面に倒れ付しているところだった。
片手で、身体をわずかながら起こし、その元凶を憎しみを込めた目で睨みつけていた。
「くそっ! ちくしょぉぉおお!」
「ふははははは……」
普段の幽香からは考えられない言動であった。
しかし、それに対してもその元凶――サンは、高らかに笑うだけ。幽香の怒りのボルテージはマックスまで上がっていた。
「クハッ、クハッ。この身体は本当に素晴らしいな。あの幻想卿の実力者の一角風見幽香でさえも、脅威になりえないとは。彼の賢者は、向こうとこちらの境界をたたれてこちらにこれない。ククク。本当に素晴らしい」
「ちっ」
その言葉を聞いた幽香は、軽くしたうちをする。
ここに、ジュンが来たことにも気がついていないようだった。普段の幽香であったなら、ジュンが近付いていてきたことを誰よりも察知し、めでる自身があるというのは本人の言である。
「ゆうかりん!!」
ジュンは、そんな幽香を見て思わず叫んだ。
その声にサンと、幽香は顔を向ける。
「おや?」
「ジュン! 来ちゃダメ!」
ジュンは、サンと幽香のいう事を無視して幽香に近付いていく。
そして、直ぐ近くまで近付くと、小さな身体を精一杯使って、幽香を仰向けにする。
「違うよ、ゆうかりん。 僕は力を持っている。僕はこの幻想卿が大好きだ。だから、この大好きな幻想卿の平和な日々が脅かされたとき。それは、子供だからとか、そういうのは関係ないんだよ。僕は、僕の意思であいつを倒したい! だから、ここにいるの。皆に守られているばかりじゃないんだ!」
その言葉を聞いた幽香は目を見開き、その瞳から涙を流し、顔を歪める。
「ごめんね。できればジュンに頼ることなくあいつを倒せればよかったんだけど。私じゃ無理みたい」
幽香のその苦悩の大きさは計り知れない。
本来守るべき存在に逆に守られてしまう。最強といわれている自分の力が馬鹿らしくなった。大切な人でさえ守れないではないかと。
「だから、お願いしても良いかしら?」
「うん。まかせて!」
断腸の思いの願いをジュンはいつもの愛くるしい笑顔で答えた。
瞬間
「よく言った! 坊主! あとは、俺に任せてくれ!」
そんな声が辺りに響いた。