妖夢が朝食を作り終える頃には幽々子は、ジュンをきちんと起こして食卓へとついていた。
妖夢は、今朝のメイン料理である焼き魚を作り終わり、お盆にご飯、以前から作り置きしてある漬物、お味噌汁、そして焼き魚とサラダを配膳していた。
ご飯をよそっているとき、隣にもう二つ分お茶碗があったのだが今妖夢がよそっていたのと比べると、大分小さいお茶碗であった。
勿論幽々子の物である。
ジュンは、この小さなお茶碗でもたまに残す事があるのに、それの何倍もの量を平らげる幽々子様を思うと、妖夢は人体の神秘?幽体の神秘を感じずに入られなかった。
妖夢は、ジュンが残してしまうことを本来であれば許せないのであるが、やはり無理はいけない。多少多めに見ている部分もある。
幽々子特性特大お茶碗にご飯をよそり、次に妖夢とジュンの分。めんどくさいときは、ちょっと大きめのお茶碗にして妖夢の分とジュンの分を一緒にしてしまう事も多々ある。
最後の仕上げであったご飯をよそりおわると、それを乗せたお盆を一つずつ居間へと持っていく。
「おや、どうしたのですか? 幽々子様」
妖夢が、お盆を持って居間へと行くとそこには、ジュンの隣に顔を惚けている幽々子がいた。
となりにむくれるようにして座るジュンは眠そうだ。恐らく半分眠っている。
妖夢は、その幽々子用のお盆をちゃぶ台の上におきながら尋ねた。
「実はね~」
「はい」
「朝からいい物見ちゃってね~。ね~? ジュンちゃん」
「はぁ……。」
幽々子はジュンと顔を見合わせて確認を取っている。しかし、ジュンは眠すぎるのか大した反応をしていなかった。
妖夢は、そんな要領を得ない返答に生返事を返すしかなかった。
各々に、朝食を配膳し終えると三人は、食べ始めた。
「「「いただきます」」」」
食事中。
「そういえば、ジュンちゃん。幽香から、お花見にきませんかってお誘いの手紙が……」
「幽香おねぇちゃんが!? 行く!!」
お花見雑多録②
朝食を食べ終え、支度も済ませてジュンが出かける時間となった。
三人はいま玄関にいた。
外を見ると、この時期には珍しい猛暑日となっており、太陽の照り付けが肌に痛いほどだ。
ジュンは、先ほど妖夢が出してきたノースリーブと短パンを履き、麦藁帽子をかぶっていた。
「もういい?」
「もうちょっと。」
ジュンは早く幽香のところに行きたいのかかなりそわそわしながら落ち着きが無かった。
妖夢は、ジュンの折れている襟や服を直している。
そして、少しの間ジュンの服をいじり終わり。
「よし。最後に……」
妖夢は、自分の足元においてあった水筒を取り出してジュンの首にかけた。熱中症対策である。
妖夢は、ジュンの頭に手を添える。
「いい? ジュン。水分はいっぱい取るのよ。じゃないと熱中症になっちゃうからね」
「わかった!! 行ってくる」
「行ってらっしゃ~い」
言うとジュンは走りながら外へと出て行った。
その様子を妖夢は笑顔でジュンに手を振った。妖夢の後ろには幽々子がいる
「さて」
ジュンが幽香のもとへと出発し、白玉楼からは見えない位置まで行ったころ。
妖夢は、振り続けていた手を止め、いくらか低いトーンで言った。
そのあまりにもの違いに後ろにいた幽々子はビクッと身体を震わせた。
「ど、どうしたのかしら? 妖夢」
数秒の気まずい沈黙が続き、さすがに何か声をかけなくてはいけないか。と、思った幽々子が顔を引きつらせながら尋ねた。
「実は……」
そう言うと妖夢は振り返り最初に読んでからずっと懐に持っていた幽香からの招待状をとりだした。
幽々子はそれを不思議そうな顔をしてみている。妖夢は深刻そうな顔をしていた。
「これは、幽香からの招待状なのですが、内容が……」
そう言って妖夢は、それを幽々子に渡した。
幽々子はそれを受取ると綺麗にたたまれたそれを開いて無言で読み始める。
最初は表情穏やかだった幽々子だが、それを読み進めるにしたがって険しい顔つきになっていく。しかし、読み終えると逆に笑顔になった。
読み終えると幽々子は笑顔のままで、その紙を破いた。
笑ってはいたがその額には青筋が浮かんでいた。
その様子に妖夢は周りの雰囲気が重苦しくなっていくのを感じた。
妖夢はおそるおそると、言った感じで幽々子に話しかける。
「ゆ、幽々子様?」
「妖夢?」
「は、はい!」
妖夢はそんな幽々子の声に飛び上がり、スタッと正座をした。曰くその時、そうしなくてはならないと思ったそうだ。
妖夢の心拍数は恐ろしい勢いで上がっていく、同時に胃が締め付けられていく事を妖夢は感じていた。
そして二人の間はかなり近い。幽々子が上から見下ろしている事によって更なる重圧感を妖夢に与えていた。
「あなた、こっそり幽香の家まで行って幽香を見張ってきなさい」
「ゆ、幽々子様!? それはつまり、最悪の場合幽香をあいてどってきなさい。と?」
「そうよ」
「それはさすがに、無理なのではないかと……」
妖夢は幽々子の豹変振りにうろたえる。
自分に幽香を相手にしても勝つ事は厳しいと訴える。
が、しかし。
幽々子は妖夢の訴えを聞いても笑顔のままだった。
「妖夢」
幽々子が妖夢の名前を呼ぶたびに妖夢の身体がビクリと震える。
「ははは、はい!」
「何を勘違いしいているのかしら? 私は貴女に幽香を監視して来いと、命令しているのよ? そもそも、貴女。意見できる立場なの? ジュンをわざわざ危険な場所に誘っておいて」
「…………。」
妖夢の心に幽々子のマシンガントークがグサリグサリと突き刺さっていく。
そして、幽々子が言い終える頃には完全に心が折れていた。
幽々子はトボトボと肩を落としながら、支度を始める妖夢を見てニヤニヤしていた。
妖夢は以前は何かとミスを犯す事が多かったのだが、ジュンが来て一人の子を育てる親としての使命感みたいなものが沸いていたのか、ミスをする事が少なくなり、さらにきちっと物事をこなすようになった。
なので、幽々子がこういった妖夢を見るのは久しぶりなのだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
気を落としながらも神経をとがらせていく妖夢。それは今彼女が持っている刀のように鋭くなっていった。
その行ってきますという言葉も小さかったが、先ほどとは違った何かあったときは何を相手にしようと必ずジュンを連れて帰るという覚悟が見て取れた。
その気迫はまさに、御伽噺(おとぎばなし)で聞くような武神のような迫力を持っていた。
幽々子は、そんな妖夢をにこやかに送っていった。
「うーん。いつの間にか立派になっちゃって、心配だから私も行ってあげようかと思ってたけど、行かなくてもいいかも」
幽々子は、閉じられた玄関の扉を見ながら呟いた。そして、なんとなく扉についていた汚れが目についた。
幽々子はあとで妖夢に扉を綺麗にさせようと思った。