妖夢は一人、幽香宅への道のりを歩いていた。
お花見雑多録③
場所は変わり幽香宅……の道中の空にて。
晴れ渡る空の下で、一人の女性が男の子を抱え上げ飛んでいた。
女性の顔は常にニヤケ顔で、男の子は空高い場所にいるため落ちないようその女性に力強く抱きついている。
そして今まさに少しだけ男の子の抱きつく力が強くなった。すると、女性もそれに応じて顔が緩んでいく。
男の子は恐さを感じないために目を強くつぶっていた。
女性は緑色という日本では少しお目にかかれないような髪色で、真っ赤な目。そして小脇に傘をぶら下げていた。
男の子の方は、日本人によくいる黒髪。黒目の男の子で、小麦色の肌をしている。活発的という印象を受けた。
とまぁ、前置き甚だしく女性とは幽香のことで、男の子とはジュンのことである。
この二人が何故このようにして空を飛んでいるのかを解明するには少し前にさかのぼらなくてはいけない。
ジュンは妖夢と幽々子から見送りを受け、一人淡々と歩いていた。子供らしく腕と足を大きく振り、歌を歌っている。
すると、ジュンの足元にもう一つの影が現れた。
「なんだこれ?」
ジュンは不思議に思い。その影をじーっと見詰め、しばらく見詰めた所でそれが影だという事に気がついた。
ジュンは上を向く、日差しの強い太陽に目を細める。
同時、スタッと一人物がジュンの隣に着陸した。
ジュンは未だに上を向いていて影の正体を探していた。その足は既に止まっている。その時影のことが気になりすぎてジュンの頭の中には、幽香との花見の事などすっかり抜け落ちていた。
「ジュン。よく来てくれたわね」
「あっ、幽香!!」
そんなジュンに向かって一人話しかける人物がいた。花妖怪幽香である。
ジュンは、そこで始めて幽香の存在に気がつくと一目散に幽香に飛びついた。
幽香は、そんなジュンを嬉しく思いつつ、後ろへとよろけないように足に力を込めた。
「どうしたの?」
ジュンは一旦幽香から降りると尋ねた。
「いやね。ジュンが向かってきているって花たちが話してたから妖怪に襲われたら危ないって思って迎えに来たのよ」
「そうだったんだ! よろしくお願いします」
ジュンは深々とお辞儀をした。
幽香は傘を持っていないほうの腕を広げる。
「じゃ、飛んでいくからしっかり捕まってね」
「はい」
幽香がそう言うとジュンは、幽香の半身にしがみつくように捕まる。例えるなら木にしがみつくコアラのように。
そうすると必然と幽香の胸にジュンの手が当たってしまうのだが、ジュンは全く気にしていないようだった。
ジュンがしがみつくと同時に幽香は顔がニヤケていく、幽香自身もそれを自覚していた。
幽香はジュンが落ちないようにと広げたほうの腕で支えた。
「じゃ、行くわよ」
「お願いします!!」
幽香は空へと飛び出した。
(役得。役得。)
ジュンをその腕に抱きながら幽香は満面の笑みだった。
幽香と、ジュンの二人が空に飛びたちしばらくした後ようやく幽香が高度を下げ始めた。
その事に気がついたジュンが幽香の身体にうずめていた顔を上げ幽香の顔を見る。
「もうついたの?」
「えぇ、もうちょっとで着くわ。危ないからもうちょっとよく捕まっておいてね」
幽香がそう言うとジュンは再び幽香に強くしがみつく。
幽香の口元からよだれが少し垂れた。あわてて、傘を持っている方の手で拭う。その顔はにやけていた。
「げへ。げへ。へっへっへ」
幽香はジュンの耳を手で多い隠していた。
幽香が地面へと羽のようにふわりと降り立つ。
幽香の腕の中でジュンがもぞもぞと動き出した。そして幽香の腕に捕まられながらも地面に降りようと手を前へと伸ばし重心を前へと動かす。しかし、幽香が腕を解かないので降りる事は出来なかった。
「幽香?」
ジュンは顔だけ振り向き幽香を見る。すると目をつぶり優しい顔をした幽香の顔が近付いてきていた。
その事にジュンは驚き目を見開く。
幽香は、ジュンが地面に降りたいのを無視して持っていた傘を落とし、包み込むようにジュンを抱きしめた。幽香の頭がジュンの肩辺りに来る。
「んーー?」
幽香はジュンが降りたいという事を理解していたが、そのぬくもりを手放す事がためらわれたために意地悪く聞き返した。
幽香はスンスンと鼻を動かしている。
「僕、下に降りたいよ?」
突然抱きついてくるという行動を起こした幽香を不思議に思いながらジュンは訴えた。
しかし、それには直ぐに返答は無く。ジュンが痛いと思わない程度に抱きしめられる力が強くなっただけだった。
ジュンはそんな幽香に戸惑う。ジュンにとって幽香とはかっこいいお姉さん的存在だったからだ。まぁ、それも理性という皮をかぶっていた姿であったのだが。故にジュンはこの様に弱さを見せる幽香を見たことが無かった。
ジュンはどうすればいいか分からず徐に幽香の頭を抱き優しく撫でる。
幽香は先ほどまでただ結んでいるだけだった口の端をあげる。幽香もジュンの頭を少し乱暴にかき撫でた。
「ふふ、ありがと。」
幽香はそういうとジュンを下に下ろすためにしゃがんだ。
ジュンは、地面に足をつけると先ほどまで足を地面につけていなかったせいか少しよろける。
そんなジュンを幽香は微笑みながら見詰める。
「このこの、いつのまにかいっちょ前にカッコよくなっちゃって。あの可愛いジュンちゃんはどこ行ったんだ?」
「あいたっ! う~~~」
そう行ってジュンの頬をツンとつついた。
よろけていたジュンはその衝撃で転び尻餅をついてしまった。ジュンは恨めしそうに幽香を睨む。
幽香はそんなジュンに笑みを向けつつ両脇の下に手を突っ込み立ち上がらせる。そして自身も傘を拾い上げながら、立ち上がりジュンの背中に手を回す。
「じゃ、お花見をしましょうか。お菓子もいっぱい作ってあるのよ」
「ほんと!? やったぁ!!」
二人は幽香の家まで入っていった。
夜。
お花見をしつつ幽香はジュンに自身の手作りであるお昼ご飯や、お菓子、お夕飯などを振る舞った。
そんな幽香は今自分のベッドで眠っているジュンを肴にしながら一人お酒を飲んでいた。
ジュンの残したお菓子を食べながらグイッとお酒を一飲み。幽香はお酒の入ったコップをテーブルに置くと窓まで近付いていく。そしてガラッと少し大きめの音を立たせながら窓を開ける。その事によってジュンが起きてしまうかもと、空けた瞬間思ったがどうやら杞憂だったようだ。
目の前に暗闇の中の蒲公英畑を眺めながら幽香はそこそこ大きな声で叫んだ。
「ジュンちゃんは眠っちゃったから、今日はお泊りよ。主さんによろしく言っておいて頂戴」
幽香はそう言うと窓をピシャリと閉め鍵をした。
扉の鍵は既にしてある。
ジュンはどうやら、お花見をし、お夕飯など満腹になるとどうやら眠気がきてしまったらしく首が船をこいでいた。
幽香は外にいる誰かにジュンを預けてもよかったがせっかくの役得なのでやめた。
舟を漕ぐジュンに幽香は提案したのだ。
「今日は止まっていく?」と。
眠気がMAXだったのかジュンは二つ返事で了承。
幽香は心のなかでガッツポーズをするのだった。
幽香は、テーブルの上に少しだけ残っていたお菓子を口へと押し込み。お酒でお菓子を流す。
眠気が回ってきた幽香は自身のベッドへと向かっていった。
「おやすみなさい。ジュン。出来ればこうした日が毎日続きますように……」
幽香はベッドに横になるとジュンを抱き枕として、即座に意識を闇へと落としていった。