突然である。何の前ぶれも無い。誰かがその事を教えたという事も無いだろう。何故ならそのような話題になる事が無かったからだ。
だから、幽々子たちが振り回される事となったのも必然であろう。
そう突然言ったのだ。
あれは、幽々子と妖夢が一緒にコタツに入りながらみかんをほおばっていたときの事だ。勿論季節は冬でそろそろ春を迎えるといった時期であった。
その場にジュンはいない。子供は風の子とは言ったもので、未だに外はこんなに寒いのに。そんな事はなんのその外で一人元気に遊んでいた。
「ジュンも元気ねぇ。こんなにも寒いのに」
「そうですねぇ。こんな日にはあったかくしたお家の中でコタツに入りながらみかんやお餅を食べるに決まりますね」
そう言って妖夢は普段の幽々子ほどではないがパクパクとお汁粉や、みかん等食べまくっていた。今もお汁粉をすすっている。
そんな妖夢を幽々子は視線だけを向けて見る。顔を見てそのまま視線を下に持ってくる、今はコタツの毛布に隠れているがその部分は明らかにお腹だ。
「太るわよ」
その一言に妖夢は石のように固まった。
幽々子は固まった妖夢を見て薄ら笑いを浮かべ視線を外で遊んでいるジュンに戻す。
ジュンは残っている雪でお団子を作って遊んでいる所だった。
「元気なのはいいけどね。風邪とか引かないようにってとこだけれど。ジュンには関係ない感じよね」
「妖夢も、いい加減復活しなさい。ジュンはどうせ冷たくなって戻ってくるんだから年越しそばでも作っておいたらどうかしら?」
「はっ、そうですね。早速つくってこようと思います」
妖夢はそう言っていそいそとコタツから出てキッチンへと向かっていった。
夜。年越しの鐘を聞きながら幽々子、妖夢、ジュンの三人がそばを食べていたとき。
「ねぇ、幽々子様? ジュンね。お願いがあるんだけどぉ」
「どうしたの? ジュン」
ジュンが幽々子に四つんばいで近寄り猫なで声で擦り寄って行く。
幽々子はジュンを抱きしめる。
妖夢は幽々子のそばのお代わりをよそりにいっていた。
そして妖夢が部屋に入ってきたときを狙ったかのようにジュンが話しだした。
「ジュン、里の寺子屋に行きたいの」
その瞬間部屋の中の時が止まった。別にこの場所でが能力を発動させたわけではない。
妖夢が持っていたお蕎麦を零さなかったのは奇跡といえるだろう。
「ご、ごめんなさい。ジュン。ちょっとよく聞こえなかったからもう一度言って欲しいのだけれど」
「だから、里の寺子屋に行きたいんだけど。ダメ?」
ジュンは首をかしげて聞く。
幽々子はそのしぐさが可愛いすぎて思わずうなずきそうになったが頷くことは何とか思いとどまった。
「そうね。ちょっと妖夢とも相談したいから。返事は後ででも良いかしら?」
「うん! いいよ。でも、新学期? が春から始まっちゃうって言ってたからそれまでにはお願いね」
「分かったわ。じゃ、今日ももう遅いしねんねの時間にしましょうか? 私はこれから妖夢とその寺子屋について話し合うことがあるから一人で眠れるかしら? 後から私達も行くけれども。」
「分かった! おやすみなさい」
「あっ、ジュンのお椀は私達で片付けるからそのまま寝に行っちゃって良いわよ」
ジュンは一人で寝室へと向かっていく
そして、幽々子はジュンを見送った後いまだ固まっている妖夢に視線を向ける。
妖夢は即座にちゃぶ台に幽々子の蕎麦を置き、幽々子の合い向かい側に足を入れる。
「さて、妖夢。どうすればいいかしら。里の寺子屋、というとやっぱり人里の寺子屋の事よね」
「はい、人里の寺子屋だと思います」
幽々子と妖夢、二人が人里とジュンと聞いて思い出すのは拒絶事件の事だった。
あれから随分と時間が経ち、ジュンの心も育ってきたとはいえ、人里に出す事に関してはまだちゅうちょする所があった。
「とりあえず、私達だけでなく紫様にも相談したほうが良いと思います」
「そうね。それにしてもジュンに寺子屋なんて、誰が吹き込んだのかしら」
時計を見ると12時を過ぎていた。幽々子、妖夢の二人は新たな悩みから新年がスタートするのだった。
場所は変わって八雲家の屋敷。そこに幽々子、妖夢、そして紫の三人は顔をつき合わせていた。
橙とジュンは精神年齢的に近いことから気が合うようで藍に預け世話を任せている。
「で、どうすればいいかしらね。幻想卿の管理人様」
ちょっと、皮肉った言い方で幽々子は話しだす。
紫はそのジュンのお願いを聞いてさっそく頭を抱える事となった。
「はぁ、もちろん行かせないという選択肢は」
「ないわね」
「そんな事したらジュンちゃんが可愛そうです」
「そうよねー。私も行かせたいのは山々なんだけどね。ただ、一回人里を滅ぼしかけてるっていうのがね」
そうして、沈黙が三人の間に生まれた。
「そもそもよ。何でジュンは寺子屋に行きたいだなんて言い出したのかしら? あの子寺子屋という存在を知らなかったはずでしょう?」
「そうなんですよねー。私もそこが不思議なんですけど、ジュンちゃん最近は白玉楼のまわりで遊んでいるだけで外にでるということは無かったと思うんですけどねー」
「最近ではないとしたら昔にジュンが寺子屋に行きたくなるようなきっかけがあったのかしら」
うーん。と再び沈黙が訪れる。
今回の沈黙は長かった。時が過ぎても過ぎても三人の頭に良い考えが浮かんでこない。
「そういえば、あ、いえ。良い考えの方ではないんですけどね。ジュンちゃんが幻想卿の大運動会の時にチルノと馬鹿だとか馬鹿じゃないだとか言い合っていたんですけど、その時に学校の話題でも出たんじゃないかと」
「何か思いっきりそれっぽいわよね。ジュン、チルノに馬鹿って言われたのが悔しかったのかしら」
「まぁ、相手がチルノだし」
はぁ、と三人は溜息をつく。すると、その部屋に藍が一人入ってきた。
「あら? どうしたの藍?」
「いえ、橙がジュンくんに寺子屋とはどのようなものかというのを教えるのでそれに紙がいるとかで取りに来たんですよ」
「そう、ご苦労様」
紫は藍が紙を数枚とり、書くものも手にしてこの部屋から出ようとした時に聞く。
「そういえば、藍。あなた、こういう世話とか得意よね。ちょっと相談があるんだけど時間いいかしら?」
「あ、いいですけど。ちょっと待っててください。橙にこの紙とペンを持ってきちゃいますから」
藍は部屋から一回で、しばらくすると戻ってきた。
紫が座っている方のコタツにはいる。
「で、なんでしょうか?」
「実は……」
紫は藍にジュンが寺子屋に行きたがっているということを言った。そしてそれにはこのような障害があるということも。
「ははぁ。なるほど。それはそれは、だから今日橙と遊んでいるとき寺子屋の話しばっかしてたんですね。まぁ、今話しを聞いたばかりですけど、私はジュンくんは寺子屋に行っても問題はないと思います」
「それは、なぜかしら?」
「はい、それはですね。今人里の寺子屋というと彗音さんのところの寺子屋に通う事になるとは思うのですが、あっ、ちなみにうちの橙も通っています。それからも分かっている通り人間だけでなく、妖怪も学んでいるところですし。幽々子様の話では最近は、その拒絶をする能力というのは発動させてないんですよね?」
その藍の言葉に幽々子は肯定を示す。
「なら、大丈夫だと思いますよ。ジュンくんもおりこうさんですから一回直接言っておけば大丈夫だと思います」
そう言って藍は自分の役割は終わったと感じ失礼します。と、一言言ってからジュンと橙が待つ部屋へと戻っていった。
「藍の言うとおりかしらね。ジュンだってちゃんと成長してるのよ、私達がやらなくちゃいけないのはジュンを信じる事だったのよね」
藍が行ってしまった後で一人幽々子が呟いた。
そして自分はジュンを信じてあげられていなかったという事にふがいなさを感じていた。
「まさか私も藍にああ言われるとは思っていなかったわ。いや、解決したから感謝はしているけれども」
「うぅ、ジュンちゃんごめんなさい。信じてあげられなかった私を許してね」
「私はこれから人里の方に行ってジュンを受け入れる体勢を作るようにいってくるわ」
「お願いね。橙にもお願いをしておかなくちゃ」
紫はそう言ってスキマを作り出してその中にすべり落ちていった。
「じゅーん。そろそろ帰るわよー」
幽々子は置いてあった菓子折りを一気に全部を口に放り込んで立ち上がりジュンを呼ぶ。
すると、奥から橙と仲良さげに話しながら藍を伴って歩いてきた。
「ジュン、今日は楽しかった?」
「うん!」
ジュンは幽々子の足元に引っ付いた。
幽々子はそんなジュンの頭を撫でながら笑みを浮べる。
「藍さん。今日はありがとうございます」
「いえいえ、私も橙も楽しかったかですから……。ね、橙も楽しかったでしょ?」
「うん! 楽しかったですよ藍様。ジュンに学校で教わった事を教えてあげました」
「そう、ありがとう」
その後も何言か、世間話をかわした後帰ることとなった。
五人は玄関へと移動する。
「じゃ、藍。また来るから」
「えぇ、また来てください。紫様も、橙も喜びます」
ジュンの上で幽々子と藍、妖夢は別れの挨拶をかわす。
「橙ー。またねー。藍もまたねー」
「うん。ジュンじゃあね。寺子屋に通う事になったら一緒にあそぼうね」
「うん!」
下でジュンと橙も別れの挨拶を交わすとジュンは幽々子と妖夢に手を引かれ屋敷を後にして白玉楼へと帰っていった。
紫宅へジュンの進学について相談しに行ってから、早3ヶ月が過ぎ去った。
その間にジュン、幽々子、妖夢、そして藍や橙からもジュンが寺子屋に通えるよう手はずを整えて欲しいと頼まれた紫はあっちこっちへと、走り回り何とか新年度が始まるまでにはジュンが寺子屋に通えるようにしていた。
後にいつも仕事を押し付けられている藍は語る「あんな、紫様始めて見た」と。
かくして本日はジュンが寺子屋へと通う最初の日である。
白玉楼では、玄関前でジュンが晴れ着姿で幽々子や、妖夢に涙ながら見送られる。といった場面が流れていた。
「ジュンも立派になったわねぇ」
「そうですねぇ。幽々子様」
「私の息子だから心配は無いけど、やっぱり心配ね」
幽々子は、かがんでジュンと目線を合わせた。
「ジュン。大丈夫? ハンカチは持った? 鼻かみは?」
幽々子はまるでジュンの母親のようにジュンの事を心配する。
実は昨夜も妖夢も同じ事をジュンを相手にしていた。
同じ事を永遠と繰り返しているのだが、対してジュンはまったく嫌な顔一つせずにうんうんと返事をしていく。
「大丈夫ね。じゃ、いってらっしゃい」
「行ってきまーす」
ジュンは手を大きく振りながら白玉楼を離れていった。
ジュンのいなくなった白玉楼に残ったのは涙をとめどなく流し続けている。主人と従者の姿があった。
「ねぇ、妖夢。親離れってこういうことを言うのかしら?」
「そうですね。幽々子様」
妖夢の顔からはジュンが消えた途端に笑顔からボロボロの泣き顔に崩れ落ちた。ジュンを笑顔で見送ろうとさっきまで虚勢を張っていたのだろう。
そんな従者の姿を見た幽々子は妖夢を抱き寄せる。
「今日は、食べましょう。ジュンが成長してくれた事は喜ばしいことなのだから。赤飯をいっぱい炊いていっぱい食べましょう。もちろん貴女もよ」
「はい! 幽々子様」
二人は白玉楼の中へと消えていった。
さて、ところ代わりここは人里の入り口に当たる場所。そこには知りに九本の尻尾を生やした藍と猫妖怪の橙がいた。二人とも今日が初登校となるジュンを寺子屋まで送り届ける役目を担っている。
太陽がそこそこ昇りきった頃だろうか。道の向こうから一人の人物が歩いてきた。
「おーい!」
向こうも藍と橙に気がついたようで。大きな声でこちらを呼び手を振ってくる。
橙と藍も橙は大きく手を振り、藍は小さく手を振る。
「ジューン!」
橙はジュンの方へと走って行く、藍はそれを傍らで優しく見守る。
ジュンも橙が走っているのに気付き走り出す。
「橙、元気だった?」
「元気って、数ヶ月前にも一回あったじゃない」
「そうだった」
二人は行き会うと、お互いに握手をし合って笑いながら話していた。
「ジュン、あなた今日から寺子屋だけど大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、橙。幽々子や、妖夢から何かあったら直ぐに知らせてねって言われてるから何かあっても直ぐに解決できるさ」
「そう、ならいいんだけど。何かあったら私にも言ってね。私はジュンの先輩なんだから!」
「うん、頼むよ。何せ始めてのことだから全然分からないんだ」
そう言って橙は腰に両手を当て無い胸を張る。
ジュンがそう言うと、橙はズイと右手を差し出してくる。
その事に首をかしげるジュン。
「右手?」
「……。手よ。手!」
ジュンは何のことだかよく分からずしばらく自分の右手を眺めていた。
時間が経つと橙はイライラし始めた。そして叫ぶとジュンの左手を掻っ攫うように奪う。
そして二人はその道を歩き始めた。
「? ? 何で、引っ張るの? 時間はまだ大丈夫だと思うんだけど」
「いいから! 黙って引っ張られてれば良いのよ!」
そのジュンの問いかけに橙は顔を少々赤くして答える。
「藍ちゃんと連れてきたわよ」
橙は照れを隠すように、ジュンとつないだ手を藍に見せる。
「はい、よくできました。じゃ、寺子屋まで行きましょうか」
そして藍は二人に背を向け二人より一歩先に出るようにして歩き始める。
後ろの二人は、それについていくだけだ。
ジュンの隣にいる橙は握った手をもう少しだけキュッと強く握った。橙は少し隣にいるジュンの顔を覗くようにして様子を伺う。しかし、ジュンはその事に気がついていないようだった。
橙は、誰にも気付かれないように心の中で溜息をつく。
前を歩いていた藍はその様子をニヤニヤしながら伺っていた。
「そういえば、ジュン君はまえ人里に来たときに怒っちゃったんだって? どうしたの?」
道中前を歩いていた、藍が何気ないようにジュンに聞く。
その瞬間、ジュンの隣にいた橙に緊張が走った。身体が少しだけこうばる。
橙と藍はジュンを迎えにここに来る前に、紫からジュンにこの事だけは聞いてはいけない。と厳命されていたのだ。
もし、ジュンがその事を思い出し、いまここで拒絶をする程度の能力を使用したら。いままでの苦労が水の泡になってしまうのだ。
しかしそれでも、藍はジュンに聞いた。それはジュンが過去の事は過去の事としてもう既に水に流していると感じたからである。
「だって、皆が僕を幽々子様の子だって知ったら『冥界の死神からの遣いが来たぞー!』っていうんだもん」
ジュンはその当時の事を何のことなしに暴露する。その事実は藍やとなりにいた橙を落ち着かせた。
能力を使わなかったことは確かだが、以前能力を使ったときの理由がジュンらしかったからだ。
「そっかー。ジュン君は幽々子様や、妖夢の事が大好きなんだねー」
「うん!」
幽々子のその問いかけにジュンは迷うことなく即答する。その事に橙が不安を覚えた。
藍はやってしまったかな?と、思ったが気にしないことにした。このぐらいの事実ならば既に周知の事実だ。
「いいね。幽々子様とかが聞いたら喜ぶよ。ところで、ジュン君は今日が初の寺子屋となるけど、だいじょぶかな?」
「もう! 藍! それは私がさっき聞いたの。私がジュンとおしゃべりするんだから話しかけないで!」
「あらあら、ごめんなさい。橙」
おほほほほほ。と言って藍は前を向き歩き始めるが、意識の大半は橙とジュンの会話を盗み聞きするほうによっていた。
「そういえば、ジュン。今日は初日だから寺子屋はお昼で終わるのよ? 知ってた?」
「うん、知ってたよ。今朝妖夢に教えてもらったよ」
「だからさ、ジュン。私の家でお昼にしないかしら?」
「うーん。どうしよ。多分妖夢がご飯の用意をしてくれてると思うんだよね」
藍は、うんうん。と聞いていたが途中で雲行きが怪しくなったため心の中で頑張れとエールを送る。
橙の表情も段々と曇っていった。
「で、でもほら。妖夢さんが忘れているかもしれないじゃない?」
「いや、妖夢に限ってそれはなさそうだけど……」
「そ、そうよね……。う、うぅ。」
「ジュン君? 橙はね。ジュン君とお昼が食べたいんだって。妖夢とかには私から言っておくから家でごはんを食べてが無い? 私も久しぶりにジュン君に私の料理を味わってもらいたいわ」
「うーん。それならいいですよ」
藍はその話しを聞いてここらへんが橙の限界だろうと思い、話しを挟む。
藍の考えではジュンが拒否している理由は、妖夢たちに迷惑をかけるのでは?という考えからだろう。ならば、あらかじめ妖夢たちに家で食べるという事を伝えておけば問題ないのである。
そして、予想どうりジュンはあっさりと首を縦に振る。すると、隣にいた橙は先ほど私が内心をばらしたせいかむくれていたが、その言葉を聞いた途端パァ!と顔を輝かせた。
「そう? なら決まりね!」
「はいはい。お嬢さんにお坊ちゃん。のろけはそのくらいにして寺子屋に着きましたよ」
「何が惚気よ!」
「のろけ?」
そのようにして話していると寺子屋についていたようだった。
藍は、なんとなく二人をからかう。橙は予想どうりの行動をとってくれたが、ジュンはのロケという言葉を知らなかったようだ。
たしかに、そういう言葉をあの二人は教えそうに無かった。
「なんでもないわよ! ジュン! さっさと行きましょう!」
「あ、あうん。行って来ます」
「行ってらっしゃい」
「さて、先ずは白玉楼に行きますか」
ジュンと橙が行ってしまった後、藍は誰に言うでもなく呟いた。
「ふーん。寺子屋ってこんな所なんだ」
「そうよ、案外狭いでしょ。あ、そこで上穿きに履き替えるのよ」
「あっ、ごめん」
「まったく、ここらへんは白玉楼でも同じでしょう?」
「だからごめんって。ちょっと建物に見入っていたんだ」
下穿きのまま、室内にあがろうとしていたジュンを橙は注意する。
そして、その時二人の気配を感じたのか奥から一人の女性が出てきた。
「おや、誰かと思ったら橙か。すると、そちらはジュン君かな? 始めまして、私は慧音。ここの寺子屋の先生をやっている」
「はい、始めまして。ジュンです。先生のことは紫や、幽々子からよく聞きました。なんでも里の守護者をやっているそうで」
出てきた女性の名前は慧音というらしい。
ジュンはそう言って頭を下げる。この挨拶は白玉楼から出るときに妖夢に仕込まれたものだ。
慧音はそのジュンの賛辞に頬をかいた。
「はっはっは、そんなたいそうなものじゃないよ。私は。ついといで」
そういってジュンたちは靴を脱ぎ上履きに履き替える。
その時に下駄箱の中にはそこそこの量の下穿きがあったのでほぉ、とジュンは感心した。
「先生、この仲に妖怪はどれ位いるんですか?」
「うーん、そうだねぇ。大体人間と同じくらいかちょっと少ないくらいだね」
「そうよジュン。私達のほかにも妖怪はちゃんといるから安心しなさい」
「うん。でも多分僕は分類的には人間に分けられるはずだけどね」
その瞬間ジュン以外の二人は固まった。
さて、場面は変わり寺子屋の室内。ここで、授業が行われる。
その室内にいる人数は数えてみると16人。そこに橙と、ジュンが入るので計18人のクラスとなっている。
他のクラスメイトは席についているので橙は慌てて開いている席に座り、ジュンは慧音から自分の席を教わり前へと歩いていく。
最初ということで挨拶として自己紹介をする事になったのだ。
ジュンは前に立ち深呼吸をする。
「はじめまして。ジュンといいます。僕が住んでいるところは冥界の白玉楼というところです。これからよろしくお願いします」
そう言って一例する。パチパチと周りの人たちはジュンに拍手を送った。
それから。慧音は初日なので何もする事がないということでくんと他の子たちの交流会をするようにといった。
慧音はそれを言うと部屋の奥へと消えていく。前日、紫とジュンが入学する事についてぎりぎりまで話し合っていたため眠いのだ。
すると、ジュンの前に一人の妖精が立ちはだかった。
「あなた、これからこの寺子屋で生きて生きたいなら最強のこのあたしの下についたほうが身のためよ!!」
その妖精の名前はチルノ。
この幻想卿内でおばかで有名な妖精だった。
チルノはこの寺子屋ではいわゆるいじめっ子の立場にいた。それも人間相手に限り
「ちょっと、この馬鹿なに言ってるのよ。ジュンこの馬鹿のいう事なんて聞かなくても良いからね」
そんな寺子屋初日から早数ヶ月が過ぎる。
この日からチルノはジュンによくちょっかいを出すようになる。
ジュンはその日のことを思い出すと、顔に優しい笑みがよみがえるのだ。
例えば、授業中。脈絡も無いときにチルノがジュンに向かってスペルカードを使用しようとしたり、その時は慧音が気付いたお蔭で事なきを得たのだが
その後も、度々チルノはちょっかいをだそうとしていた。
一度、チルノがジュンの妖夢お手製のお弁当を氷付けにしてしまい、ジュンが切れたときは慧音、橙。ジュンの事情を知っている者は肝が冷えたという。
さらにそれから数日。今日は博霊神社にて大宴会が行われる日。そんなめでたい日に事件は起きた。