ジュンが目を開けるとそこは見たことも無い土地だった。
何処を向いても白銀の世界に覆われ、まったくと言って良いほど生き物の気配がしない。
そう、その場所は大量の雪で埋もれていたのだ。吹雪もこれでもか、というほど吹きすさびここを白銀に染め上げるのに加担していた。
ジュンがその光景に驚いていると、目の前から何やら影が近付いてきた。吹雪が酷いので直ぐそこにいるはずなのだが、シルエットしか分からないのである。
そして、そのシルエットが十分ジュンに近付いたときやっとジュンはそのシルエットの正体を認知することができた。
「あっ、チルノ!」
「ジュン? やっと来たのね。それより、ここは何処なのかしら? あたい、こんな場所しらないんだけど」
お馬鹿妖精チルノ。ジュンがここにくることになった原因を作り出した人物?だ。
ジュンはチルノが現れた時、チルノはこの場所を知っているのではないか?という希望を持っていたのだがその希望をチルノはあっさりと打ち破ってくれた。
ジュンの方がガックリと下に落ちる。
「どうしたのかしら? ジュン、喜びなさいよ。ここはあたい達が始めて見つけたんだ。だから、あたいはここを自分の国にするの」
「どうするんだよ!」
「ど、どうしたの?」
突然大きな声を出すジュンにチルノは驚きうろたえる。
ジュンも自分で何故こんなにも激高しているのか理解できていなかった。ただ、本能に任せるまま怒鳴ってしまったのである。
その間にも二人の周りでは雪が降り積もっていく。
「どうしたの? って、僕はどうやって家まで帰れば良いんだよぅ」
ジュンはそう言うと泣き出してしまった。チルノはそんなジュンを困ったようにして見る。
チルノにとってこの修行という名の冒険はジュンを楽しませるものだと思っていたのである。その考えに反してジュンが泣き出してしまったのでどうすれば良いか分からなかった。
「そ、そういえば、あたい。さっきそこで村みたいな場所を見たわ。そこなら帰れる方法が分かるかも」
「ホント!?」
「ホントよ! ちゃんとあたい見たんだから」
チルノは無いはずの頭を必死に働かせて考えた。そして思い浮かんだのはジュンが飛び込んでくるまでのアドバンテージの時にチルノが探索していて目に入った村のような町のような場所だった。
その時のチルノはどうせこんな場所最強の私が征服したやるわ。と、考えて記憶に留めてはいなかったのだが今は思い出せてよかったと思っていた。
チルノが思い出したように言った事を聞くとジュンはたちまちに目を輝かせた。
その表情を見たチルノの胸に何故かチクッという小さな鋭い痛みを感じた。何だろう?と思ったチルノだったが直ぐに自分が最強ゆえの痛みなのねと解釈し気にすることは無かった。
「どこにあったの!?」
「……。どこだったかしら、いっぱい雪が降ってるから方向とかわからなくなっちゃった」
「だめじゃん。まぁ、いいや。とりあえずその村を探す事にするか」
「そうね!」
チルノはそう言ってジュンの手を取ろうとジュンの手に触れる。その瞬間チルノはパッと手を放した。
「どうしたの?」
その事に驚くジュン。手に何かあったのだろうかと自分の手を見てみるが何も無かった。
チルノはそんなジュンを見て首を振って言った。
「何でもないわよ」
そう言うとチルノは再びジュンの手を取り飛ばずに雪の中を歩き出した。
二人は無言のまま、しばらく歩き続けていると。ふと、ジュンが思い出したようにチルノに声をかけた。
ジュンの前髪が吹き続ける吹雪のせいか少しだけ凍っていた。
「そういえば、何も言わずに歩いているけど。こっちで合ってるの?」
「ふん! サイキョーのあたいの勘がコッチだっていってるんだから間違えないわよ」
「……、そう。なんとか早めに村だっけ? につけるように頑張ってね」
「あたいに任せて、大船に乗ったつもりでいなさい!」
その言葉に絶句するジュンであったが、もう半ば諦めたようだった。肩を落としちょっと声のトーンを落としていった。ジュンの頭にはがっかりをあらわしている三本線が見えるようだった。
そしてジュンが諦めたつもりで言っているとは分からずに、チルノにしては珍しく難しい言葉を使って胸をジュンと手をつないでいる方では無いほうの手でトンと叩いた。
ジュンは泥舟じゃなければ良いけどと思いながらおとなしくチルノに引かれて行った。
最初のうちは会話が続いていた二人も歩き続けるにつれて口数が段々と少なくなっていった。
それに比例するように吹雪は依然として強くなり、村なんてものは全くと言って良いほど見当たらなかった。
村が全然見つからない事からかチルノは段々と焦ってきたのが見て取れる。
しかし、チルノが焦っているのは村が見えないことに対してだけではなかった。チラッとチルノはジュンの方を見る。
「ねぇ。ジュン、大丈夫なの?」
「だ、大丈夫だよ」
嘘だ。お世辞にも大丈夫には見えなかった。
ジュンの顔はこの寒さのせいか真っ青になっていて、その足取りも何だかおぼつかなく。喋っているその声もタドタドしかった。
チルノが焦っていることそれはジュンが目に見えて弱っていっていることだった。チルノは馬鹿で医療の心得もなかったがそれでも分かるほどだ。
そもそもジュンがこんな状態になっていったのにチルノが気付いたのは数分ぐらい前の事だった。しかし、ジュンの体調が悪くなる。その兆候はかなり前からあったのだ。
例えばチルノがジュンと手をつなごうとしたとき、その時チルノが何故ジュンの手を驚いたように手を放したかと言うと、予想以上に手が冷たかったからである。他にもジュンの前髪が凍っていたりだとか。色々だ。
チルノはそんな自分に迷惑をかけないよう自分の体調を隠しているジュンを早く助けるべく、無い頭でどうすればいいかを考えていた。
しかし、考えても考えても良い考えは思い浮かんできそうに無かった。
「う、うぅ……」
そんな時ジュンがうめき声をあげた。すると、パタン。ジュンはうつぶせになるようにして顔から雪の大地に倒れてしまった。右手だけはチルノに手をつながれていたため上に延びている。
「ジュン!」
チルノは直ぐに膝立ちになってジュンを仰向けにする。そして息がしやすいようにと、いや、そこまで考えていないだろうが。ジュンの上半身をその膝に立てかけるように乗せた。
「大丈夫!?」
そんなチルノの声もジュンには既に聞こえていないようで目を瞑りながら荒く息を吐いているだけだった。
チルノはジュンの身体から伝わってくる体温の低さに顔をしかめる。その冷たくなった身体をその小さな体に抱きチルノはとある一つの決意をする。恐らくこのままにしておけばジュンの命は危険だろう。その事だけはチルノには理解できた。そしてこれを治すにも医者が必要であるという事も
そのチルノの決意はいわば一か八かの博打に近いものである。しかし、この状況その博打に頼らなくてはいけなくなってきたのだ。
「ジュン! ここで待ってて。あたい、直ぐに村でも何でも見つけてお医者さんを見つけてくるわ! それまで、それまで頑張って!」
チルノの賭け。それは、ジュンを一先ずここにおいておき自分で医者を探し出してくるという事だった。
しかし、その賭けには不確定要素が幾つもあった。まず最初に、村があるかどうかも分からない。あったとして、ここは極寒と言っても良い場所で病原体が生息絶滅していて医者がいない可能性もある。
そして、ジュンをここにおいている間、まだ見ぬ何かがジュンを襲わないという保障は一つも無い。
その不安定な要素のうち幾つをチルノが理解していたかは分からない。ただ、チルノの心を漠然とした不安が襲いかかっていた。
チルノは右手で握りこぶしを作る。
言っても、本当にこのままジュンをポーンと置いていく訳では無い。チルノが思いついたのはかまくらである。
チルノは能力を駆使してパッとかまくらを一つ作り上げた。そして中に入るための穴を開ける。
以前チルノが大妖精からかまくらを教わり中に入ってきたときは雪の中にいるのに熱がこもっていくのでその感じが好きにはなれなかったのだが今回はその熱を不快に思う事は無く。逆にありがたいとも思っていた。
穴を開け終えたチルノはジュンをその中に入れる。
何かジュンにかけてあげたいと思ったチルノであったがコートなんて気の利いたものをチルノが持っているはずも無かった。
「じゃ、まってなさい」
チルノはジュンの手を握り、自らの心の不安を払拭するとかまくらから外へと出る。そしてそのかまくらに少しでも危険が近付かないようにと、後に見失わないようにとマーキングをして置く。
そして、そのかまくらから離れるように歩く。途中何度か振り返っていたが決心がついたのか氷の羽を背中に展開すると飛び立っていった。
「どうして! どうしてないのよ!」
チルノは視界の悪い吹雪の中、人が住んでいそうな場所を探し回っていた。山ふもと、凍った川の付近。しかし、それの何処にも村と呼べるものは唯一つとして見つけることはできていなかった。
チルノの心の中を焦りが支配していく。チルノの瞳の端にはしずくが溜まっていた。
ジュン……。ふと、チルノは立ち止まり心の中でかまくらの中で自分の帰りを待っている人のことを思い浮かべる。
その時だった。ふと、チルノは何かを思いついきそうになった。その思いつきは泡のようなもので先ほど浮かんできたのにすぐに消えてしまっていた。
なんだ、さっき自分は何を思いついた。思い出せ、早く。早く。早くしないとジュンが……。!!
思い出した! 何故こんなにも探して村が無いか。考えてみればそれは当然の事だ。周りを見てもこんなにも吹雪で覆われているのだ。氷妖精である私でさえも不便を感じてしまうような。
そんな場所なのに表面だけを探していた所で村が見つかるはずも無い。だから、多分、多分。村はどこかの地面の中に……。
そこからのチルノの行動はすばやかった。冷気を操る程度の能力を応用して当たりの吹雪を撒き散らす。すると、視界が明瞭になって辺りがよく見えるようになった。
それに伴ってチルノの表情もよく見えるようになる。チルノの頬がすこしだけ赤くなっているのはチルノでもすこしだけここが寒かったからだろう。目が少しばかり充血しているのも吹雪で目が乾燥していたからだ。
チルノは目を凝らし再び山のふもと付近を見てまわる。
そして山を半周とちょっとしたところであろうか。チルノは山の表面に一部不自然な場所を見つけた。
チルノはその付近に降り立った。そしてそこをよく見てみると扉の形をしていた。
「やっと、やっと!」
チルノは目を輝かせながらその扉を開け中へと入っていく、その先にあるのがその希望を打ち崩すものだと知らずに……。
最近、東方関連で新しい小説を執筆中です。
10話くらいまで書けたら乗せようかと考えています。
題名は『駄目人間が紅魔館に住み込みで働く(ニート)』の予定です。
まぁ、予定なので……