チルノは目の前にある扉を開ける。その扉は山の表面に張り付くように作られていて、その扉は引く形の扉で取っ手は無く扉の一部に申し訳ていどにくぼみが作られていた。
扉が開き、外の光が全然入り込んでいないのかその中は電球が所狭しと吊り下げられていて暗く気分がめいる雰囲気をかもし出していた。
(ジュン……)
その事にチルノはウッとつまりながらも、ジュンの事を思い出し決心してその中へと入っていった。
チルノは扉から手を放した。後ろにある扉が閉まる。
入り口から入るとそこは短く細い一本道になっていた。チルノを挟む二つの壁は山の中にあるという事もあって土を固めて作られていた。
その壁にチルノは手を当てた。そして直ぐその手を放す。
冷たい。チルノはそう感じたのだ。
勿論外は吹雪で覆われているので冷たいということは当たり前の事であるのだが、チルノが感じたという冷たいはそういうことではなかった。
どういった術を使ったのかは分からないがその土からは生き物の気配が全くしなかいのだ。
土の雰囲気すら感じられない。そう、言うなればここは外の極寒の世界と同じく死の世界といった所だろうか。
このような死の世界に、病から救う医者なんてものがここにいるのだろうか?チルノは疑問に思ったがここを出たところで他に当てがあるはずも無くチルノは歩を進めていった。
突き当たりまで進んだ。
その山の中の世界は、中身をまるっと取り除いたように空洞化されており。構造は簡単に言うと幾つも階層にもなっていてその階層がらせん状に階段によってつながれていた。
真ん中から下を見ると何も無くそこから一番下まで一直線であった。(円筒の真ん中をくりぬいた感じ)
チルノがその異様なまでの山の中の文明に感嘆すると辺りからけたたましいサイレンが鳴り響く。
その事にチルノは驚き体を警戒態勢へと移動する。しかし頭はどうやってジュンのところまで医者を連れて行くかを考えていた。
そのサイレンをしばらく聞いていると兵士だろうか。重々しい鎧を着た人間達がそこかしこからわらわらと現れた。
その手には槍を持っている。
チルノは逃げようと周りを見渡すが両方向ともから兵士が上がってきているので逃げる場所は後ろに落ちるか入り口から外へ出るしかない。
そんな事を考えているとあっという間にチルノは真ん中の底抜けを背にして兵士達に槍を突きつけられながら囲まれていた。
「お前! 何者だ!」
「あたいはサイキョーの妖精チルノよ! あたいはここに争いに来たわけじゃないわ。あたいの友達が病気になっちゃったから医者を探しに来たの!」
チルノから一番近い兵士がチルノに向かい叫んだ。
チルノはその状況で何をすればいいのか分からなかったので第一目的である医者を要求した。
すると、奥の兵士達がゴソゴソと話し始めた。
「医者だと? ここには医者などいない!」
「え?」
兵士の中でも威勢がよさそうな兵士が叫ぶ。
その叫びを聞いたチルノは顔が青くなり呆然とした声をだす。
そして今までの医者が見つからないという苦労と、医者がいなくてはジュンは助からない可能性がある。チルノは上手くいかない事づくしでいらだってきた。
「そんな分けないでしょ! 幻想卿だって病気になる人は少ないけれど医者はいるわ! 嘘なんて言ってないで医者を出してよ!」
チルノは叫んだ。
チルノの頭は謎の怒りが支配し、このままではここにいる人たち相手に八つ当たりをしそうな勢いだった。いつものチルノであったならここで軽く一発技をうっただろう。しかし、踏みとどまっているのはひとえにジュンの事があるからだ。
その叫びに答えるように兵士が固まっている一部分が割れそこから白い髭を長く生やした。じいさんが歩いてきた。
そのじいさんが他の兵士より一歩前に進むと兵士たちが「賢者様!」といっせいに叫ぶ。
「チルノと言ったかな?」
「えぇ、そうよ」
「そうか、チルノや。ここに医者がいないというのは本当なんじゃよ」
「そんな! どうして!? だって病気になったら医者が必要でしょ?」
「ふむ、チルノ君は外の世界から来たのかな? なら、分かるだろう?外の世界は極寒で覆われていて害のある病原菌は全て死に絶えてしまっているのだよ。故に病気になる人はおらず医者も必要ない。まぁ、腹痛とかになる人はいるにはいるがそれらを治すのは医者ではなく薬剤師の仕事だ」
チルノはそういわれて膝を地面についた。そしてその勢いで座り込んでしまう。
チルノの頬を不意に涙が流れ落ちた。その涙は段々に勢いを増していく。
「じゃ、じゃあ、じゅ、ジュンは、死んじゃうの? あ、あたいがこんな所に誘ったから?」
チルノは泣きじゃくり誰に尋ねるでもなく話しだした。
周りにいた兵士達は突然の事に慌てふためきどう対応すべきか混乱している。それは先ほどの賢者も対応に困っていた。
チルノが泣き出す事数分。チルノは今回の自分の行いにまったくジュンにとってプラスが無かった事に涙を流していた。
チルノの当初のプランでは本当に楽しくなるはずだったのだ。それがジュンを命の危機にさらしてしまい。どうすればいいのか分からなかった。
医者を見つければ良いという希望は先ほど打ち砕かれてしまったのだ。手ぶらでジュンのところに帰ることはできなかった。
「!!」
すると、チルノは何かの気配を感じたようにピクンと跳ね起きる。
その事に周りにいた兵士達はざわめいた。
チルノは何が起きているのか確かめるように、驚いたときのように目を見開き辺りをキョロキョロと見回す。
そして何が起こっているのか理解した。
「ジュンが危ない!」
「ど、どうしたのかね」
いきなり叫びだしたチルノに賢者は尋ねる。
「外でかまくらを作ってその中にジュン、医者を必要としている人を隠してきたの。そしてその時周りに何かがあったときの為にって結界に似たものを作ってきたのだけど。それが何者かによって攻撃されてる! そんな、なんなの? このパワーはサイキョーであるあたいの結界に皹が入ってる!」
「ふむぅ。外で力のある奴といったら恐らくグリズリーじゃと思われる。」
「グリズリー!?」
「うむ、そいつはの考えられないほどの力をもち性格は荒い。しかし群れをなして行動するのが特徴の熊じゃ。しかしグリズリーに襲われているとなると、恐らくそいつも群れのはず。」
「それじゃあ、早く行って助けないと!」
「待ちなされ!」
グリズリーの説明を聞き予想以上にジュンの命が危険にさらされていることを知りチルノはすっ飛んでいこうと扉の方へ突進したがそれを賢者は留めた。
チルノはその叫びに動きを止められ賢者を睨む。
「なんで!?」
「うむ、お主の話しを聞いた限りではその者は病気であり、おそらく置いてきたということから動けないのであろう? それに加えグリズリーの群れに襲われている。最強というお主がどれほど強いかは知らぬがわしらの兵士でも数百人体勢で望まなくてはグリズリー相手では勝機がない。それはお主も同じはずだ。そのジュンという者はもう助からなっ」
賢者は早口でまくし立てるように言うがその言葉は最後までつむぐ事は出来なかった。
チルノがその首元に手を鋭くして突きつけたからである。
「お前!! 賢者様に何を!」
「あたいは、何よりも強いのよ。たかが熊なんかに負けはしないわ。次にその言葉を発しようとしたらここにいる奴ら全員殺す」
その事にまわりにいた兵士達はざわつくがチルノはそれを無視して続ける。
そして言い終えたあとチルノはその首から手をどかした。賢者の首から一筋小さな血が流れる。その首に賢者は手をやる。
そんな賢者を見下ろすようにしてチルノは見、ふっと鼻を人鳴らしするとその場にいる全てを無視して扉に突っ込み外へと出る。
「ジュン! 待ってて。直ぐに行くわ」
そんなチルノの後姿を賢者達はただ見ているだけだった。
チルノがこの山内町から出て行ってから少し時間が経ち。一人の老人がその場にいた呟いた。
「どうかあの子らに幸あらん事を」
そう言って老人はそのしわくちゃの両手を合わせる。周りにいる兵士達もそれに続けた。
チルノはありえないスピードで空を切っていた。周りの風景がシーンの一部一部のように後ろに過ぎていく。
そのスピード故に周りの風はかまいたちのようになり飛んでいるチルノの頬を切り血が流れる。しかし、そんなものは気にせずチルノはただ前だけを向いて進んでいた。
「見えた!」
数秒飛び続けるとチルノの視線のなかにとある獣の群れが飛び込んできた。その獣は話しに聞いていた通りかなりでかい熊のようだ。
そして群れを成し、その群れの前方にあるジュンのいるかまくらに向かって攻撃しようとしていた。
チルノは懐からスペルカードを取り出した。
「氷符」
するとそのカードから弾幕のような光線が放たれ熊の方に向かう。
当たる、そう思った瞬間。そのグリズリー達は危険を察知したのか即座にその場から離れ、光線を避ける。しかしそれでも群れのうちの数匹には光線があたり痛手を負わせていた。
その見た目に反した俊敏力にチルノは驚愕をあらわにする。
そしてグリズリー達は辺りを見渡し、光線を発射した元であるチルノを見つけると群れで連携を取るように動いた。
グリズリーが動いた事によってグリズリー達とかまくらの間にはスキマができた。そのスキマにチルノは入り込む。かまくらを背にしてグリズリー達の前に立ちふさがった。
一瞬の緊張が両者たちに走る。
それから永遠とも感じれるような時間が過ぎ去り先に動いたのはグリズリー達だった。
チルノとグリズリーの戦闘が始まった。
それからどれほどの時間が経ったであろうか、チルノの水色で可愛らしかった服は血でそまり不気味な雰囲気をかもし出していた。
チルノの目も光を映していないように思える。しかしその目は未だに何匹もいる目の前のグリズリーに向けられていた。
まわりにはチルノが倒したグリズリーが何頭もいる。しかし、その頭数は減ってはいなかった。チルノが流した血とグリズリー自身が流している血の匂いが奴らをおびき寄せているのである。
チルノはすでに満身創痍であった。肩で息をしていて、立っているのもやっとのようだった。息を整えるように深く息をしながら次第にその息を落ち着かせていく。
その時チルノに数匹のグリズリーがチルノに向けて飛び掛ってきた。
危険を感じたチルノは右に向かい回避行動を取った。
しかし、避けた場所の目の前にはすでに行動を先読みしたグリズリーが一匹腕を振りかぶっていた。あっ、まずい。そう思った瞬間にはもう遅かった。
チルノはその腕に刈り取られ吹き飛ばされる。後ろにあったかまくらに激突し意識を落としながら考えていた事はジュンのことだった。チルノの意識は涙を流しながら消えていった。
チルノがうごかなくなった。それはただ単に気絶をしただけだが。
グリズリーの中でも一際大きい奴がそろりそろりとチルノに近付く。そしてチルノの様子を確かめようとその鋭い爪でチルノをちょんとつついたとき。
そのグリズリーの首が胴体からすべり落ちた。
「まったく、こんな事になってたのか」
「ふふ、チルノは頑張ったようね」
数秒間首を切られたグリズリーの胴体も立った状態を保ち続けたが直ぐに重力に負け崩れ落ちた。
その場所に立っていたのは、黒と灰色を基調とした服をまとい。刃の長い刀を持った男と、ナイトキャップをかぶり何やら空間を切り裂きそこに腰掛けている金髪の美女だけだった。
男はその崩れ落ちたグリズリーに視線を落としていたが視線をあげ他のグリズリー達を見る。
その瞬間どうしたことだろうか、グリズリー達は急におびえたような声をあげその場から逃げるようにして離れていってしまった。
「ふぅ。」
「相変わらず便利ね。貴方のそれは」
女は男に笑いかける。男はそれに一瞥して答えた。
「ふん、そんなのは良いから早くこの子たちをそれで連れて行ってくれ」
「了解」
女は人差し指をついーっと上から下へと下ろす。すると、チルノとかまくらの中にいて眠っているジュンの近くにぱっくりと空間が開けた。
その空間の中はびっしりと目がついていて見る人によっては嫌悪感を催すだろう。
その空間はぱくっとチルノとジュンの二人を飲みこんで消え去った。
「じゃ、私達も帰りましょっ」
「あぁ、そうだな」
男は持っていた刀を腰に差す。
今度は男が人差し指を上から下へついーっと動かした。すると、先ほどの物と少し似たような現象がおきる。
そして空間が開くと女は男の首もとに飛びつくように抱きついた。
その事い男はうっとおしそうにしながら言う。
「なにするんだ。紫」
「いいじゃない。この方が雰囲気もでるしっ!」
「まぁ、いいけどな」
男と女二人はそのまま空間の中へと歩いていく。そしてその空間が二人を飲み込むと先ほどと同じようにぱっくりと消える。
その場に残ったのは一つのかまくらと、数十匹にも及ぶグリズリーの死体。そしてチルノが流した血と涙の後だけだった。