チルノとジュンがいなくなってからはや三日という時間が過ぎ去っていた。
チルノと、ジュンが宴会から抜け出し、二人の行方が分からないと知れたときの幽々子、妖夢紫橙の取り乱しようは一際目覚ましいもであった。
その光景を一言で表すのならば、カオスその一言に限るだろう。
二人がいなくあったということは文文。新聞で大きく代替的に取り上げられ、ジュンと、チルノの詳しい人相を乗せ幻想卿での大捜索が行われたのだが一向に見つかる兆しが見えなかった。
その間にもありえないことという物は頻繁に起きるもので、大食い姫と名高い幽々子の食欲がなりを潜めたのである。その事も文文。新聞には掲載された。
その辛気臭い雰囲気が幻想卿内に立ちわたり、三日が過ぎ去ろうとしていた時。突然にジュンとチルノが気絶をした常態で白玉楼の前へと出現したのである。
見つけた幽々子と妖夢は喜びに震えた。しかし、その二人の様子をよく見たところでそれも豹変した。
「じゅ、ジュン? チルノ?」
幽々子が、弱々しげに声を絞り出す。今のジュンの表情は青くなり目を閉じ眠っているその様子はまるで死んでいるかのようだったのだ。
となりにいるチルノが血だらけという事も幽々子を不安にさせる要素の一つである。
「妖夢! 急いでこの二人を寝室まで連れてって! 私は紫を呼んでくるわ!」
「はい! 幽々子様」
先に我に帰ったのは幽々子だった。幽々子は妖夢に叫ぶとわき目も振らず飛び立っていく。幽々子の行き先は紫の下だ。その幽々子の目はいつもとは違った真剣さがうかがい知れた。
妖夢も幽々子の叫びに、ハッと気付き目の前で倒れている二人のそばまで走りよりかがむ。妖夢は先ず人間であるジョンをその胸に抱いた。妖夢はそのジュンの冷たさに驚く。そして瞬間的にこのままではジュンの命に関わるであろうことも理解していた。
妖夢はチルノに一回目をやる。そして立ち上がり寝室へと走り出した。
妖夢は寝室へと着くと、一旦ジュンをたたみの上に置いた。
そして、ふすまを開け布団一式を取り出すとその中にジュンを寝かせた。妖夢はそのままジュンを一撫でしておいてきたチルノの元へと向かった。
しばらくして、妖夢は寝室へと戻ってくる。今度は毛布を出さずにただチルノをジュンの隣に寝かせ、タオルケットのような薄い布をチルノへとかける。そしてジュンにしていたのと同じようにチルノも撫でた。
「ありがとう。ジュンを守ってくれたのね。大丈夫、ジュンは絶対助けてみせる」
妖夢はジュンを見る。あまり胸を上下させずに眠っているその様子はなんとなく死人を想像させられた。
妖夢はそんな想像を振り払うかのように頭を二・三度振った。
そんな妖夢の頭に浮かぶのは林の中に住んでいる。一人の医者の事だ。永琳の事である。
今すぐ妖夢は彼女を呼んでくる必要があったのだが、このままジュンを残して外へと出て行っていい物かと考えた。しかし、ここで待っていてもジュンの様態が回復しないことは分かりきったことであった。
妖夢は決心しもう一度チルノのおでこをなでた。
「チルノ。ジュンをお願いね」
恐らく今日中には目を覚ますことは無いだろうが妖夢はチルノに向かってそう呟かずにはいられなかった。
妖夢は自室へと駆けて行くと壁に立てかけてあった刀を取り外へと飛び出していった。
妖夢が部屋から出て行って少しの時間が経ったとき寝室ではチルノが目を覚ましていた。
最初はボンヤリと目を開けていた。しかしだんだんと状況を思い出したのか目を見開いていく。
「ジュン!」
チルノはハッとしてその場から飛び起き辺りを見渡し隣で布団に包まっているジュンを見つける。
そして元々近かった距離を更に近づける。
チルノはジュンの頬に触れた。優しく微笑む。するとチルノは辺りを警戒する。
ここが、安心して良い場所かどうか分からないからだ。チルノはこの純和風なこの建物に見覚えが無かった。
ジュンを背に油断しないようにと気を張り続ける。一瞬の油断が命取りに繋がるということは先ほど身を持って知ったのだ。
そういえば何故自分たちはこんな場所に眠っていたのだろうか?という疑問がわきあがったからそれの答えを考え付いたときチルノは顔を青くした。
そのチルノの考えとは自分たちは攫われたのではないか?といったものだった。
その考えがチルノの神経を更にピンと伸ばす。
つくづくついていない。どうしてこうなったのだろうか?チルノはそう考えて涙を流す。最初はただジュンに喜んでもらいたい一心だったのに……。
チルノの表情をよく見ると顔が少しだけ赤くなっていた。風邪でも引いたのだろうか?
息も荒くたっているのもつらそうだ。その事からチルノは風邪という判断がついたのだが、チルノ自身は風邪なんてものになった事が無く今のこの自分の状況は薬を盛られたかと考えていた。
チルノの意識が朦朧としてくる。瞳孔はぶれおそらくその瞳に移っている光景は一つのフィルターをかけたようになっているだろう。
そんなチルノが認識できているのはジュンだけだった。
そんな時玄関が開けられる音がした。
「こっちよ! 紫!」
その声は幽々子の物であったのだが、チルノはその声をも認識していなかった。
二人分の駆け足音が聞こえてくる。その足音は段々とチルノがいる部屋へと近付いてきた。チルノの体がこおばる。
「ここよっ!」
「危ない!」
幽々子が紫を引き連れ寝室の扉を勢い良く開けると、その瞬間幽々子に一つの弾幕が襲い掛かってきた。
幽々子はそのいきなりの攻撃に体が硬直してしまったが、隣にいた紫に腕を引かれそれが当たる事はなかった。
その弾幕はそのまま後ろへと通過して行きこの白玉楼を破壊する。
その事にしばし呆然としながら二人はしばらく時間が経ち攻撃が止んでいたのでその開け放しになってしまった扉から中をこっそり見てみる。
すると、チルノが主を守る番犬が威嚇をしているように身体を大きく見せようとし、その手には符が何枚か握られていた。
「紫?」
「えぇ、チルノは今正気じゃないわね。それに目がかすんでいるし、息も荒い。風邪ね。多分まともな思考力がついていないのでしょう」
「どうする?」
「そういえば、妖夢はどうしたのかしら?」
二人は今のチルノを救おうと考えたが特に良い案という物が浮かばなかった。
すると、紫が今いない従者の事を思い出す。
幽々子は妖夢が今何をしているのか考えながら一つの結論を出した。
「あれじゃないかしら? 多分、ジュンの身体が今よくないから永琳でも予備に行ったんじゃないかしら」
「ジュンの様態はどうなの」
「うーん。私もすぐ飛び出して行っちゃったからよく分かってないのだけれど、多分相当酷いものだと思うわ」
「それじゃ、」
「そうね。チルノには悪いけどジュンの命が掛かってるし、眠っていてもらうしか……」
そう言って幽々子と紫が行動に移そうとすると。またもや、玄関が開く音がする。
丁度良いよう具合に妖夢が帰ってきたようだ。
足音はまたもや二人分。妖夢と永琳のものだろう。その足音がこちらへと近付いて来る。
その事に紫と幽々子の二人は踏み込むタイミングを逃していた。
「あっ、幽々子様。紫様。ってコレどうなってるんですか!」
妖夢とその後ろから永琳がこちらに向かって歩いてくる。
妖夢は先ほどチルノによって吹き飛ばされた壁等々を見ながら叫んだ。
幽々子と紫は今着たばかりの永琳と妖夢に経緯を簡単に説明した。
「あぁ、チルノちゃん起きたんですね」
「えぇ、起きてくれたのは良いんだけどね」
「どうしたんですか?」
妖夢はチルノが目覚めてくれた事に感謝したが、幽々子はそのことに対して溜息をついた。
なので妖夢は質問してみると、見てみなさいと幽々子は寝室を指差した。
妖夢はその中を少しだけ腰を引かせながらのぞいてみる。
「チルノがね。正気を失ってるのよ。多分風邪だとは思うんだけど」
紫は言う。妖夢はその声に振り返った。
そして永琳はなら、といった感じに自分の手をポンと叩いた。
「なるほど、なら私の出番ね」
永琳はそう言うとバッと開け放たれた扉の前に飛び出した。永琳のスカートがかっこよく舞う。
チルノは突然現れた気配にビクッと身体を震わせたが、スペルカードを発動させようとした。
しかし、それよりも早く永琳は懐から注射器を一本取り出してチルノへと放り投げた。
その注射器は丁度良くチルノの首元にヒットした。
するとたちまちにチルノは目を半分開きにして、首をこっくりこっくり船をこぐようにする。
永琳が放ったものとは睡眠薬だ。
チルノは目の前に強大な力がいるという状況で、なんとかその力からジュンを守ろうと睡魔に対抗したが、元々疲れきっていたチルノの体はあっさりとその睡魔に敗北を帰した。
チルノは再び意識を落とした。またジュンを守れなかったと涙を流しながら……
その様子を側で見ていた紫と幽々子は感嘆の溜息を漏らす。永琳の手際が良かったからだ。
「さすがね」
「これくらい、訳ないわ」
紫はその手腕を賞賛するが永琳は何事も無いかのように振舞う。
自然な動作で永琳はジュンが眠っている布団の側まで近付いていき腰を下ろした。その後ろに紫、幽々子妖夢の三人が座った。
永琳は熱を測る親のように先ずはチルノのおでこに手を当てる。
「風邪ね」
永琳はチルノの症状をそう診断する。そして永琳は今問題となっている人物に目を向けた。
その様子を三人は不安そうに見詰める。
永琳はジュンへとその手を伸ばした。ジュンの全身をまさぐるように触っていく。その表情は段々角ばっていく。
「ど、どうなの?」
紫が真剣の表情をしている永琳に尋ねる。
永琳はそれを無視してさらに触診を続ける。それからしばらく永琳はジュンの様態を看続けていた。
そして丹念に看終えたところで紫たちの方に身体ごと向ける
「分からないわ。体に異常なところなんて無い。強いて言えば体が冷たくなっているだけ。勿論体が冷たくなっているのだから体に異変があるはず。だけど今のジュンには異変が見られない」
「そ、それは、どういうことなのかしら」
「分からないわ。私もこんな状態の人を見るなんて初めてよ。そうね、あえてジュンに診断結果をいうなら異常なし。立派な健康体です。ただ、体温が下がっている様なので暖かくして暖かいものを飲んでくださいって所かしら」
永琳の診断結果は絶望的なものだった。
その診断結果を聞いた紫と、妖夢の全身から力という力が抜け落ちた。
そして幽々子はその診断結果を聞いて目を見開き力弱くジュンの方へとノソリノソリと張っていく。
「うそ。うそよね? ジュン。そのまま眠ってるなんてことはないでしょ? ほら、明日になったら元気に笑顔で寺子屋に行かなくちゃ。慧音も皆もジュンがいなくて心肺していたわよ。だから、ほら、眠ってないで何とか言ってよぉぉぉ!」
幽々子はすがるようにジュンへと話しかける。しかし、それに答える声は無かった。
右手を伸ばしジュンの頬に触れる。その頬はまるで死人のように冷たかった。幽々子の瞳から涙が溢れる。
「い、いやああぁぁぁあああああああ!」
幽々子は発狂した。目の前の現実からのがれるように。目の前のコレが夢であるようにと。声を大にして叫んだ。
しかし、目を覚ますなんて事は無くて目の前に眠っているジュンはいまだ冷たいままだった。
パン!そんな時乾いた音がこの部屋の中に響いた。
紫は幽々子の頬をはたいた音である。
幽々子は叩かれて今自分が何をされたのか理解できずしばらく呆然とする。そして自分が何をされたのかはっきり理解できると。
その美しい顔をゆがませた。
「何するのよ!!ッ」
そう、幽々子は紫に叫ぶ。その時紫の顔を見た幽々子は驚いた顔をする。
紫は静かに涙を流していた。
その隣にいる妖夢も声を押し殺しながら泣いている。
「幽々子。貴女が悲しいのは分かるわ。私も悲しいもの。泣いてしまうのもしょうがないわ。けれど、現実から目をそらすのはよくないと思うわよ」
「ごめんなさい。紫」
その紫の言葉に落ち着く幽々子。
その時紫は何かを感じたのか苦いような顔をする。
そして、その表情を段々と晴れやかになっていく。
その様子を幽々子は首をかしげながら見る。
「それに」
「それに?」
「それにまだ諦めるのは早いわ」
そう言って紫は顔をほころばせた。
最後までお読みいただきありがとうございます
そろそろ更新ペースを落とします。