分からんかもしれないんでまたそこらへんは感想でお願いします。
尚、今回は挿絵なしです。
PS.アストルフォ君マジカワイイ
目の前の現状に私は驚きを隠せなかった。スペルも能力も持ち合わせていない、身体能力が多少高い程度の男があの吸血鬼であり魔法少女である妹様と互角に戦っていたのだ。否、押していた。その圧倒的不利なスペックの差をまるで予知しているかの如き行動で覆していく。彼と同じく肉弾戦を得意としている紅美鈴も近い戦い方をするが、彼女の場合は主に『反射』で行動している。相手の攻撃をギリギリまで見て、行動を読み、確実に回避や反撃を行うタイプだ。一方、シュウの場合は主に『直感』で行動している。それは相手の行動をある程度まで絞り、その残された選択肢に対応した行動をする。いわば戦略の延長。そして『直感』は『反射』とは違い確実性には欠けるが、咄嗟の判断、認識できない攻撃に対応することができる。
”なんてレベルの戦い...!あの絶大な身体能力を獲得した妹様の攻撃に完璧に対応している シュウが『直感』で行動しているのだというのなら彼は毎回残された選択肢を選ぶという賭けに勝っている...!いや、もしかするとシュウ、貴方には元々選択肢なんてないのかしら ...だったら貴方の世界って本当に厳しい世界だったのね...この攻撃に対応してしまうくらいに...”
と改めて私は彼の境遇のことを理解し、少し悲しくなる。だがそれと同時に彼の強さが今の私たちにはとても頼りに思える。でも…
「何と言うか…『生き急いでいる』ような戦い方ですね…」
今、自分自身が思ったことが後ろから言葉になり聞こえてくる。
「あら、美鈴 気が付いたのね。」
「…はい まだ傷は痛みますが…なんとか」
美鈴は失っていた意識を取り戻していた。改めて美鈴がケガを負ったところを見てみるとその痛々しさが伝わって来る。
”でも…腹部に蹴りが直撃したのにこの程度ですんでいるのは美鈴の武闘家としての能力があってこそのことね…”
「月山さんからはなんて言うんでしょう?その…『生』を感じられないんです。何だか別に自分がどうなってもいいような感じ…『生き急いでいる』から『死に急いでいる』…そんな感じが…」
そう。私もそう感じている。その強さの中にある僅かだが確かに存在しているその綻びを…。
「確かに月山さんは強い 今も妹様と互角、いやむしろ優勢で相手取っています その戦闘センスや身体能力は武術を極めてきた私をも驚かせる程のものです でも、彼には『意思』が伝わってこない 妹様を救いたい、私たちの恩に報いたい そういう想いは伝わってくるんですが…彼自身に対しての思い…所謂『保身』が伝わってこない 何かを怖がっているような…何かを恐れている…だから彼は現実でも精神でも『独り』で戦っている」
「…それにまだあの娘にはあの”能力”がある それをシュウは知らないわ」
と涙を流し、暫く黙っていたお嬢様も口を開けた。
「だから今はシュウが優勢でも簡単にそれは覆る可能性がある それに加えてそんなに不安定な状態ならその確率も格段に上がってしまう…」
このままでは確実にピンチになる時がやって来る…。つまりお嬢様はこう言いたいのだ。『シュウは必ず負ける』と…。
「でも…!」
そう”でも”だ。だって私たちは願う事しかできないのだから。
「咲夜 貴女が言いたいことはよく分かってる シュウは私たちに必ず勝ってくると言ってくれた、あの娘を救うって約束してくれた...だから負けるという可能性が高かったとしても、勝てるという可能性が僅かでもある限り、私たちは信じる それだけは変わらないわ」
「…!」
やはりお嬢様もそう思っていてくれた。でもそれでも私は歯痒かった。願う事しかできない自分が、本来紅魔館を守るべき役割にある私が戦いに参加できないことが、そして…
彼の不安定な精神に気が付いても私には何もできないことが…。
「私たちには…私たちには今のシュウに何もすることはできないのでしょうか…?共に戦うことができれば、一人じゃないって自覚させられる いやそれを伝えられるだけでもいい!情けないです…紅魔館のメイド長として私は長い間、務めてきました だからは私は悔しいのです…彼と共に戦うことができないのが、お嬢様たちを守ることができないのが…!何もできないのが…悲しい…」
私は今の思いの丈を口にした。それ程、何もすることができない自分が弱くて、憎くて、何より情けなかった。
「サクヤ…でも貴方は私の命を助けるために今そんな状態になってる だから貴女は何も悪くはない 寧ろ情けないのは私も同じことよ だからそんなに自分を責めないで」
「...お嬢様」
その言葉は素直に嬉しかったが、やはりこのどうしようもできない気持ちは残ったままだ。
ドガァァァァァアアアン!!!!!!!
突然、広大な室内に轟音が鳴り響く。視界は真っ白な閃光に包まれ、何も確認することはできない。
「い、一体、何が起き...!?」
次に聴覚と視覚が正常に戻った時、先程の戦闘の優劣は一転していた。
戦闘が行われていた場所にはいつの間にか無数のクレーターができ、それらの中は血と臓物と肉片で満ちていた。
一方、玄関近くの壁際には月山の姿があった。剣は砕け、躰からは止めどなく血が流れていた。
「シュウ...ッ!」
先程、咲夜たちが意図していた悪い予感が当たった。反転してしまうこの現状を...。
ズズズズズズズ......
「!?」
咲夜たちはその異変に気付く。クレーター内に溜まっていた赤が一か所に集まっていく...!次第にそれは形を成し、そして...
「フゥーー...死ぬほど痛ったいわぁ~」
死神は蘇生する。
「やはり、身体がバラバラになっても平気なようね...ッ あんなの吸血鬼の回復量を遥かに超えてるわ」
そう言ってレミリアは歯ぎしりをする。
「あの娘がこの程度ではくたばらないってことに安堵もするけど...このままじゃどうすることもできない...」
「自身の回復力を見越しての弾幕による相手を含めた自爆...なんて戦法...!」
「これではシュウも予測することはおろか、避けることすらできない。...いえ、あの頑丈な剣をフランに砕かれてる時点でこうなることは決まっていたわ」
レミリアと美鈴は冷静に今の状況を分析する。いや、そうせざるを得なかった。あの未知の領域に存在するフランを理解するには…。
ググッ…
「...『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』 あの能力がある限り勝目は無いわ 私たちの連携での大技があの能力によって封じられてしまったのと同じようにね…」
先程から気を失っていたパチュリーは目覚め、かの能力の恐ろしさを語った。
「! パチュリー様!気が付きましたか!」
と咲夜は目覚めたパチュリーに声をかける。
「ええ、何とかね でも今そんなことを話している状況じゃないわ このままじゃここにいる全員…いえ、この幻想郷にいる人、妖たちが皆殺しにされてしまうのは目に見えているわ」
「......」
その言葉を聞いた三人は沈黙した。実にその通りだった。ここにいる者は全て戦える状態ではないし、今、前線で戦っている月山は満身創痍の状態だ。このままでは確実に最悪の未来が待ち受けている。それはその場にいた全員が理解していた。
「だから、私に1つ方法がある 今、一番有力で最低の愚策が...」
「咲夜 私が全ての魔力を使って回復魔法を掛ければ貴方はまともに動けるようになるはずよ そこで貴女にお願いがあるの...」
ここまで言われると言われている本人である咲夜も理解した。パチュリーが何を言いたいのか...。
「『私たちを見捨てて、貴女の能力で博麗神社に行って』」
「...それは、レイムたちを呼んできて封印術を張ってもらうという事ですか...?」
「ええ、そうよ おそらくアレに勝つことができるのはこの幻想郷には存在しない だったらもうすべきことは一つだけ...『強力な結界を張り、この紅魔館ごと永久に封印すること』それ以外にないわ」
「......」
私は答えられなかった。確かに今言っているこの方法以外にこの現状を改変させることはできないと私は気付いている、でも、それを実行することも拒んでいる。だから私は答えることができない。
「咲夜。貴女の気持ちはよく分かってる でもこのままじゃ日が暮れてしまう 時間がないのよ」
分かっています。でもそんなのおかしいでしょう!私はこの屋敷に仕える身、その私だけ命を繋ぐ?そんな事許されるわけないのに!
「...咲夜さん。心配しないでください!私が命をかけてでも皆さんの命は守るんでっ!封印する直前に屋敷からちょちょちょいっと出て行っちゃいますよ!!」
そんなのできっこない...。美鈴。貴女も分かってるはず。そのケガでは満足に闘うこともできないし、強力な封印式を作るには時間もかかる。その時間まで貴女だけで足止めするのは不可能よ。でも、貴女はなぜそんなに希望に満ちた、目をするの?もう眼前には絶望しか待っていないはずなのに...。
「大丈夫よ 咲夜 こうなってしまったのは私に責任がある だったら私には最期まであの娘と向き合わないといけない義務がある...」
だったら私にも最期まで勤め上げる義務がある。でもそれは最悪の結末にしか繋がることのない行為...。ああ、私にはやるべきことすら選択できないのか...。もし、この世界を操作している神様がいるのならなんて残酷な選択肢を選ばせるのだろう...。
そんなどこまでも深く、暗い感情の波が私を覆い、飲み込んでゆく...。次第に私の身体は震え、悪寒まで感じるようになってきた。絶望は確かに私の中に存在していた。
もう...これしか......。
『……ああ、そうだよ。』
私自身理解ができなかった。私の脳裏にある情景が浮かび上がって来たのだ。それは今日、私に似ていた人のことを聞いていた時のシュウの顔と声だった。
あの時、シュウはとても悲しそうな顔をしていた。
だったら何故一人で彼は戦おうとしている?あんなに自身の友人の話をして哀しむ情を見せる彼が何故人の力を借りようとしないのか?
ああ、そうか。きっと彼は怖いんだ。友人を失うことが...。
その気持ちのせいで自分の力を最大限に活かすことができない。そしてその事実に気が付けていない。
だったらそれを理解させることができたらシュウは真の力を開放することができるんじゃないか?
それにあの時見せてくれた白紙のカード...確か、紫が渡してくれたものだとシュウは言っていた。あの紫が何の理由もなしにただの悪戯であれ程の量のカードが入ったカードケースを渡すだろうか...?おそらくあのカードには何か秘密がある。この幻想郷にやって来たシュウの力になる性能があのカードにはある...!
だったら...私は...!
「だから咲夜。 貴女は早く博麗じ」
「...私に考えがあります...!」
咲夜は今、残されている最善で最悪の方法を振り払うように言葉を放った。
「結局、この方法も彼に頼ってしまう... でも!私だけ生き延びる未来よりも、どんな形であれ共に戦い全員生き延びる未来の可能性が僅かでもあるのなら私はこれに賭けます!」
「咲夜...それは一体...?」
レミリアは咲夜のその意図を聞き出す。
「パチュリー様 お願いがあります」
「? ...何かしら?」
「残りの魔力を私とシュウの念話のラインを強制的に繋ぐために使って頂けないでしょうか?それで私はシュウの本当の力を呼び覚ませます。」
「「「!?」」」
それを聞いた時、三人は信じられないといった風に驚愕していた。だが咲夜の曇りなき目を見る限りそれが虚偽の言葉でないことをすぐに感じ取った。
「...それをやって勝算はあるの?」
「...はっきり言って可能性は低いです... でも!私は必ず成功すると思います!」
「咲夜の策の確率がどうであれ、まず精神内を閉鎖している相手に強制的に念話のラインを繋げることはとても難しく成功する確率も低いわ それを踏まえてでも貴女は成功すると言える?」
「はい。必ず成功します これはもう確信です それにパチュリー様の魔法は心配ありません なぜならパチュリー様は私たち紅魔館が誇る大魔法使いなのですから必ず成功させることができます」
「......!」
その言葉にパチュリーは驚く。それは自身の実力が褒められたという事ではなく、あの咲夜をここまで言わせる月山習という存在にだった。
「フッ...よく分かってるじゃない そうよそれは並の魔法使いの場合よ 私みたいな叡智と才気に恵まれた魔法使いなら相手の閉ざされた精神なんて簡単に抉じ開けて見せるわよ 私は咲夜が言っていること信じる みんなはどう?」
「はい!咲夜さんが絶対に成功するって言っているんですから私は賛成です!」
「私も異論は無いわ それに私は後味が悪い
「...ありがとうございます...。」
全員の同意は得た。だったら私は今、全力、全霊を尽くして彼と共に戦おう。
「...ライン作成。...マインドコネクト開始。 チッ...随分と閉ざしてるわね...」
「まずいですよ!妹様が月山さんの元にどんどん近づいています!!」
ギギギギギィ......
美鈴の目には大鎌を持ったフランが倒れている月山の方へ向かっているのが確認できた。余り時間が残されていないことに美鈴は焦りを隠せない。
「分かってるわよ!ちょっと静かにしてて! ......キー作成。........................作成完了。 一本目使用。...不一致。 二本目使用。...不一致。 三本目使用。...一致! マインドコネクト再開。...............コネクト完了。 念話の準備出来たわ!咲夜、今よ!」
「分かりました!」
そう言って咲夜は目を閉じ、自身の心の声を自身の心と繋がった月山の心にへと届ける。
だが、何を言えばいい。
何と言って私は彼に気づかせてあげられる?
いや、そうじゃない。一言。始めはそれだけでいい。
今、私が望み、彼を奮起させる言葉を。
『シュウ!立って!!!』
「ッ!」
それが彼の望みでもあり、私の希望でもある。
これは決めつけなんかじゃない。彼はそういう人だから。
『いい加減なことを貴方に呼びかけるだけで私たちは何もできない 結局はシュウ一人に任せてしまっている...だけど。独りで戦っているって思わないで 見えなくても私たちはあなたと共に戦っているから...』
何もできないことには変わらない。頼っているだけなのも認める。でも私は戦う。彼と共に。
そしてきっと私に似ているという”その友人”もこう言うに違いない。
『だからシュウ立って...!まだ貴方は死ぬような男じゃないでしょ!』
だってシュウって本当にそういう人だから...。
「ググッ...ア”ア”ア”ア”!!!」
「!?」
私は固く閉じていた目を開ける。目の前に見えるのはボロボロになった体を必死で動かし、立っている彼の姿だった。
ケガの影響か体は小刻みに震え、立っていることもやっとそうだった。いつもカッコづけている彼からは考えられない位、今の彼の姿は何とも不様なものだった。
でも、私には今の彼の姿が何よりも美しく、誰よりもカッコよく私の目には映った。
”絶対に彼は成し遂げる。この深き絶望を光満ちた希望へと変えられる。”
”誰が彼のことをどう思おうと、私はシュウを信じる...。”
ビュォォォォォォォォ!!!!
突然だった。室内に突風が吹き荒れた。
「な、なにこれ!?」
「何かを口にしたかと思ったら突然、月山さんの周りから風が!?」
「まさか...これが咲夜の言ってたシュウ本来の力!?」
三人は今起こっている謎の減少に驚きを隠せないでいた。
「こ、これは...」
咲夜はその風に何かを見た。それは
それは頬に当たり、消え去る。
”冷たい...。”
「...雪?」
それはタダの風などではなく、雪を含んだ雪吹だった。
次第に吹雪で見えにくくなっていた視界は開けてゆき、吹雪の発生点であった場所が露わになる。
「...シュウ それに、あの姿は......」
先程まで満身創痍であった男の姿は既に無く、そこには氷の剣を携えた白銀の騎士が佇んでいた。
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「...フゥーーー......」
僕は肺に溜まっていた空気を大きく体外に吐き出した。
”不思議な感覚だ...。”
率直な感想。それはあのひどかった傷が治ったからだとか、突如出現した冷気の能力に対してだとかそういうのではない。
誰かが僕の側にいる。そんな感じがするのだ。それは心霊的なものとは違い僕に恐怖を感じさせない。寧ろ安心と優しい温もりを与える神秘的なものだった。
それにこの”与えられた力”のことも自然と頭の中に入っている。あの声によって...。
”さっきの声は一体...?それにこのdiary(手帳)の表紙...”
そう思い僕は左手に持っていたカードケースの表紙を見つめる。
そこには月の仮面が描かれていた。それはかつて僕が元の世界で喰種として活動していた時に使用していたものとほとんど同じデザインだった。しかしそれは”ある部分”だけ違っていた。
”Crescent Moon(三日月形)ではなく...反対のmorning moon(残月形)。”
その仮面のイラストは僕が愛用していたものと向きが左右反対だった。多くでは左右どちらの向きであろうが三日月と捉えられるが、実際は違う。
三日目に出現する三日月の形は光っている方が右にある。一方、光っている方が左にある場合は二十六日目に出現する『二十六夜』と呼ばれる月だ。他には”有明の月”、”残月”、”暁月”と呼ばれ、見える時間も夜明け前となる。
そして三日月が満月になろうと盛んになっていく若盛の状態であるのに対し、二十六夜は終わりの三十日月を迎え、衰えていくだけの老衰の月。
だが、今の僕にはこの二十六夜の意味がまったく別の意味として捉えることができた。
確かに二十六夜は残りの四日でその光を失う。しかし、逆に言えばまたそこから新たな光が生まれ出でるのだ。
二十六夜は衰退の月でもあるが、転生の月でもある。
今までの己を殺し、新たな自分を創り出す不死鳥の月...。
有明の空に浮かぶ残月は消え、後に東方から上り出でるは旭日。広がるは照り渡る明日の大空。
そう。正にこの逆に描かれた月は僕の今の姿を表している。
『孤独だった旧き己を殺し』、『団結し合う新しき己が生まれ』、『後に待つのは日の出のような光満ちる
”今の僕にぴったりの表紙だ。元の世界に戻ったらこのデザインで作ってみるのもいいかもしれない...。”
まだ危険な状況にあるのにも関わらず、僕はそんなことを思う。これもこの力の影響なのかもしれない。
「へぇ~よく分かんないけど それがアンタのスペル...?」
目と鼻の先にまでいた少女はさっきの吹雪の影響からか僕から少し離れた位置にいた。そして少女はそこから僕に向け、自身の疑問を問いかけてくる。
「...君たちが知っているものと同じものかどうかは知らないが、確かにこれは僕のspell(魔法)のような力だよ」
僕はフランにそう答える。
「フン...はっきりとは答えないのね...その様子を見た感じじゃあ身体回復に特化した
ダッ!!
離れたと言ってもそれ程離れているわけではない。今、フランは大鎌を振りかぶりながら物凄い勢いでこちらに飛び出してきた。狙いは僕の首元。到達までの時間は一秒も掛からないだろう。回避することもできない。
だが僕は動じることは無かった。それは新たな力を手に入れたという慢心からではない。僕はカードを構え、その名を口にする。
「
ズズズズズ...パキキキキィィィィイイイン!!
僕の足元から何かが飛び出してきた。それは僕の背を軽く超える大きな氷壁だった。
「!?」
突然の氷壁の出現にフランは驚愕する。氷壁と言えどそれは彫刻のように人の手で綺麗に形作られたものではない。それはまるで刃が露出した壁。更に勢いよく飛び出してきたフランにそれを回避する術は無い。
バギギィィィィィィインンンン!!! ズシュズズズ...!!!
「グハァッ!!!」
フランは氷壁に直撃しそうになったところを大鎌を振り当て、その力で床に着地する。しかしそれは直撃を免れただけであって傷を負わないと言う事ではなかった。着地した彼女の右肩からは血が滴り落ちていた。
「これが君の聞きたがっていた僕の力だ ま、ほんの一部のものに過ぎないがね お味はどうだい?」
「ッ...!こんな小細工で調子に乗んじゃねぇぞクソ野郎ォッ!!!!こっちはなァこんなの喰らっても痛くも痒くもないんだよォ!!!!!」
フランは激怒し、立ち上がる。するとやはり彼女の右肩の傷は癒え、流血は完全に止まっていた。
「その様子じゃ堪能して頂けたようだね...それでは今度は僕の方から質問させてもらおうか...」
タンッ...!
「...なっ!?」
”は、迅い...!”
ガギィィィィイイイイン!!!
真紅の刃と薄氷の刃が重なり合う。
「くぅ...ッ!」
「それでは質問だ。君は何故戦う?」
「?」
僕の質問に彼女は『今更?』といったような顔をした。だが僕には聞かなければならなかった他人の口からではなくフラン自身の口からその真意を...。
「そんな決まってるでしょ!復讐よ!ふ・く・しゅ・う!!!」
キィィィィイイン!!!
フランは僕の剣を大鎌で押し返し、距離をとった。
サッ...
「revenge...(復讐...)」
「そうよ!アイツらは私自身を否定した そして私を閉じ込めたッ!!」
ザッ!!
「ッ」
ギィィィイイイン!!ギギギギギィ...!!
再度、飛び出してきたフランの斬撃をもう一度剣で受け止める。
「あの暗くて、寒くて、寂しい......地下室の中に四百年も入れられた!!」
シュッ...ブオン!!ガギンンンン!!!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!.........
フランは鍔迫り合いを止め、今度は何度も僕に向って大鎌の刃を切り付けてくる。自身の怒り、憤り、憎しみ、哀しみ...それら全てをぶつけるかのように彼女は何度も切り付ける。
僕はその感情の激流を受け止め続けた。
「それに”あの目” 私のことを化け物のように見てくるあの目ッ!!あれが本当に私は嫌だった!!」
ガンッ!!!
「まるで『何で生まれてきたんだ』って言われてるみたいで!!」
ガンッ!!!
「誰も私を愛してくれない...!みんな上っ面だけで本当は私のことを邪魔ものだって思ってるッ!!」
ガンッ!!!
「だったらみんな私よりひどい目にあわせてやる!命の消える恐怖と孤独に死んでいく恐怖を感じさせてやる!!」
ガァンッ!!!
「だから私はこの世界から”愛”を消してやる!!みんな殺してやる!!みんないなくなれば孤独なんて感じないですむ...だってそこには最初っから私だけしかいないことになるものッ!!!」
ガアアアンンンッ!!!!
「そして最後に私だけしかいなくなった世界でこう言ってやるんだ.........」
ガアアアアアアンンンッ!!!!
「『そして誰もいなくなった』ってネッ!!!!!」
ガギギギギィィィィィイイイインンン!!!!!キィィィィイイン!!!
「!?」
フランは強烈な一撃を繰り出した直後、大鎌を回し、柄の部分を上に持ち上げ僕の剣に当てる。僕はその下段からの攻撃をまともに赫子で受け、後退りする。
するとフランはニヤァ...と笑い、僕から距離を取るために後ろに下がった。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!!これで終わらせるゥ!!秘弾『そして誰もいなくなるか?』ァ!!!!」
そう告げた瞬間、フランは目の前から消え去った。まるでそこには始めから何も存在していなかったかの如く。
ビュウゥゥゥゥゥゥゥ...!
「...!」
気付けば目の前には蒼い大型の光弾が出現し、僕に接近していた。僕は光弾から離れるべく走った。だが低速ながら光弾は僕を追いかけるように向って来る。
”homing missile(追尾弾)か...。”
「...ん?」
離れるために進んでいた僕はまたある事に気が付いた。
ビュウゥゥゥゥゥゥゥ...!
ビュウゥゥゥゥゥゥゥ...!
「光弾が増えている それに...」
ボッボッボッボッボッボッボッボッ.........
「littlesizeの光弾がこんなにも いつの間に......」
僕の目の前には後方から僕を追いかけている光弾と同じものが二つ出現していた。それらも回避しようと僕は別の方向へ移動しようとしたが、今度は僕の周りにその光弾を小さくした小型のものが出現していた。よく見るとその小型の光弾は僕を追尾してきているあの光弾から発生しているものだった。
”...あの追いかけてくる光弾が作り出しているのか...。”
月山の前方と後方からは追尾してくる大型の光弾。そして四方八方にはランダムに動く小型の光弾。僕は自由に動き回ることを許されなくなってしまった。しかし、このまま立ち止まっていても光弾の直撃は必至。
「...だったら最小限の動きで避ければいい」
フッ...スッ...スッ...
月山は不規則に動き回る大量の小さな光弾を避けながら追尾する大型の光弾から逃げる。その姿はまるで藪の中を高速で飛び抜けて行く燕のようだ。
不規則に動く子弾の動きを読むことはそれほど難しいものではない。だがそれが大量になった場合はどうだろうか?たとえ一つ目の光弾を回避したとしても続けざまにやって来る二つ目、三つ目の光弾の動きを把握することは容易なことではない。しかも、それが何百もあるのだ回避することはほとんど不可能に近い。
だが今のこの男は簡単にそれをやってのける。不可能なことも可能なものへと...。
「.........」
この時、月山は無数に張り巡らされた光弾の弾幕を回避しながらある事を考えていた。
”フランの目的は理解できた だがその行為には『矛盾』がある...。”
気付けばいつの間にか月山の周りには蒼の弾幕は消え、大量の様々な動きをする弾幕が広がっていた。しかし、月山はそれらをも簡単に避けながら考えることを止めない。
「だったら彼女に聞き出すしか方法は無いね...」
そう言って月山は例のカードを取り出す。
「...氷喰『スノーエンジェル』」
「!!!」
パキキキキキキ!!!!
月山がその言葉を放つと同時に右後方の虚空に氷塊が出現した。それはまるで子供一人を覆いつくす程の大きさだった。しかし、それは現実のものとなった。その場所には何も無かったはずなのに氷塊の中にはいつの間にか少女が閉じ込められていた。その影響からか月山の周りにあった無数の光弾は消えて無くなった。
パキィィィィイイイイン!!!! ドサッ...!
そして宙に浮いていた氷塊は落ち、その衝撃で砕け散る。辺りには金剛石のような氷の破片が飛び、床にまき散らされた。しかし氷塊の中身の少女は無傷の状態で外に放り出され、床に倒れ込む。
「グッ...な、何で私の位置が、分かった...?」
フランは驚愕していた。何故なら自身のこの技を完全に封じられたのはこれが初めてだったからだ。このスペルは言わば『耐久型』のもの。自身がいなくなることで相手は攻撃を与えることができず、一方的にフランが放つ弾幕の餌食になる。対処の方法はただ一つ...『時間を消費させること』。
このスペルは一定時間までしか展開されない。制限時間が決められているのだ。だがそれは”弾幕ごっこ”での場合。今行われているのは殺し合い。公正なルールなどは決められていない生きるか死ぬかの無法の戦いだ。つまり実際の対処の方法とは『フランが弾幕を止めるまで』だ。しかしそんなもの起きるわけがない。フランの魔力は今、無限と言っていいほど存在している。よってこのスペル『そして誰もいなくなる?』はフランが確実に月山の命を奪うために放った究極の技だったのだ。
しかしそれは破られてしまう。透明化していたフランを直接攻撃するという前代未聞の方法で。
「...僕の力だよ。今の僕はある程度の範囲まで自由に氷を作り出すことができるんだ」
そう言って僕は右の掌に氷の結晶を生み出し、フランに見せる。
「それと、私の居場所を特定したことに何の関係が......」
「自由に氷の結晶を作り出せると言う事は僕の周りにある水分を操ると同義なんだよ...そしてその空気中に存在する水分を使えばそれがレーダー代わりになって周りにあるモノ全ての位置を把握することができるんだ」
詳細に言うと月山は魔力などの神秘的な力で空気中の水分を凍らせ、自由な場所に氷を作り出している。更にその冷気を帯びた水分と月山自身は感覚を共有しているため、冷気を帯びた水分に当たれば即座に月山にそれが存在する場所と動きが伝わるようになっている。だから月山はあの莫大な量の弾幕を回避し、透明化していたフランを見つけ出したのだ。因みに魔力があれば水分が少量であってもある程度大きな氷を作り出すことはできる(少々時間はかかるが。)。
「...へぇ~ってことはアンタの能力は『冷気を操る程度の能力』ってわけね」
そう言ってフランは納得したように月山を見てくるが、それは正解でもあり、間違いでもある答えだった。月山はそれを正すように口を開いた。
「いや...それは違うよ 確かに君が言うようにこれは”冷気”を操る能力だ...しかしこれは僕の生徒が僕のために与えてくれた能力であって、僕自身の力ではないんだ...」
「...は?」
フランは今度は何を言っているのか分からないという風な顔で月山を見ている。しかしすぐにその答えは淡々と月山の口から告げられた。
「僕の能力は『美食をする程度の能力』。仲間たちと共に戦うために得た僕唯一の能力さ...」
次話では月山さんの能力とカードの謎について書きたいと思います(すぐに上げられるとは言っていない)。
心配しないでくださいね!続けてはいきますよ!!
それでは次話もお楽しみに♪