今回、遂に第一章『地霊殿強襲編』の開始です。この章に入って色々と設定が増えたり分かりにくい場面があるかもしれませんが温かい目で見てもらえると嬉しいです。今回は月山さん×魔理沙ペアで話が進んでいきます。二人の掛け合いに必見です!(ただしそれをうまく表現して書けたとは言っていない)
それでは『地霊殿強襲編』の開幕です!どうぞ!
第十五話 二人
聞こえない。
聞こえない。
ここはどこ?
分からないまま絶望に横たわり、
からだはまるで骨が無いよう。
「ママ…」
「ママ」
「ママ!」
口は動き、声帯もよく震える。
だが何も視認できない目の前の闇は何も答えてはくれない。
ただあたまには響く。
ただからだには感じる。
“あの箱”の中で何度も繰り返されてきた、悦楽の拷問。
許しは請わない。ただただ「ありがとう!」と感謝する。
「ぼくが終わる」
「俺が始まる」
いつしか目の前の黒は赤みを帯び、
その熱さに(ぼく/俺)の双眸は今にも涙が溢れ出そうだ。
(俺のおもちゃ!)
脳味噌はまるで炭酸のようにシュワシュワしてて、
もうわけが分からなくなっていた。
(太陽!黒い太陽!ぼくだけのもの!俺だけのもの!)
(とどけ、とどけ)
(あの興奮を!)
(ムカデ!ムカデがいる!)
(あの黒い太陽にムカデがいる!)
悦びを曝け出し、それに手を伸ばす。
黒い太陽は叫びだし、そのはげしい音色に心を躍らせる。
(やった♪)
ぱきっと軽く右の人差し指を鳴らす。
そのからだはいつしか艶やかな赤い鱗に覆われていた。
☽
コポコポコポコポ……
「…nん?」
眠った意識を目覚めさせたのは少し遠くから聞こえる軽快な音と鼻に伝う芳醇な香り。しかし、そんな穏やかな目覚めはすぐに終わった。
「グガァーーーグガァーーー……」
何故気が付かなかったのか、この部屋中に大音量の騒音が響いていた。辺りを見渡すと向かいのベッドに仰向けの体勢で鼾をかいでいるマリサがいた。どうやらこの騒音の主は彼女だったらしい。そして彼女の隣にあるベッドにはフランが眠っていた。
「ほんとスゴイ
ふと、この部屋の扉の方から声が聞こえてくる。
「いや、これはこれで女性としての魅力だと思うよ アリス」
僕に声をかけていた者の名は「アリス・マーガトロイド」。向かいで眠っているマリサと同じ魔法使いであり、人形使いでもある。
金髪のショートボブが特徴で容姿はまるで人形のようである。
彼女と知り合ったのは以前、マリサの家へ赴いた時だ。赴いた理由は確か『図書館の本を返してもらう』ことだったか。
出会った当初は本当に人形のようでビックリしたものだが、今ではこうして時たま会い、会話する仲なっている。
今回は夜明け前まで続けていた熾烈な遊び(?)を終え、近くにあった彼女の家に厄介になったというわけだ。
「アリス、今は何時頃かな?」
「午前9時ね あなたたちが眠ってから4時間くらいが経ってるわ」
スッ…
そう月山に告げ、アリスは後ろに控えさせていた人形に持たせておいたお盆に乗せてあるティーカップを手渡す。
カップを手渡された月山には先程、感じた爽やかな香りが鼻を通る。「Thanks.」と言い、月山はその中身を頂く。
その中身は『ペパーミントティー』。このお茶には鎮静作用と精神安定効果があり、心身共にリラックスさせると同時にリフレッシュによる集中力の向上など色々な効能がある。
味は独特な苦味があり、好き嫌いが分かれる飲み物ではあるが彼女の淹れるミントティーにはミルクが入る。牛乳を加え、ミント特有の尖った爽快感をマイルドにし、まったく違った印象のミントティーに変えた『ペパーミントミルクティー』である。ミルクが与える体に優しい甘みが更に心身をリラックスさせてくれる逸品だ。
「ン~Excellent.(最高!)」
しかし、彼女の淹れるこのお茶にはまだ秘密がある。
「今回は寝不足用のと、身体疲労用、それに活力を漲らせる魔力を注いでおいたわ どう体に何か変化はあったかしら?」
そう言われると同時に肉体に満ちていた疲労感が消えさり、逆に体が軽くなる。
「ああ!本当に君のお茶は凄いね!いつも助かる」
彼女は異名として「七色の人形使い」と呼ばれている。
魔法には色というものがある。
「赤」は肉体強化の魔法。「青」は補助の魔法。「白」は回復の魔法。「黒」は攻撃の魔法。「緑」は幻惑の魔法。「黄」は使役、召喚の魔法。「紫」はサイキック、占い的魔法。
前に書いてあった「魔導書」の色とは関係ないのであしからず。
アリスはこの全7種の色の魔法を高い水準で使いこなすことができるのだ。(だが異名通り本人は人形の方にこだわり、あまり弾幕ごっこや戦闘などで魔法を使おうとはしない。)
そして話を戻すが彼女のミントティーの隠された秘密というのは回復を司る「白」の魔法と肉体の活力を司る「赤」の魔法がこのミントティーに込められていることだ。
食品や飲み物に上手く魔力を混入させ、魔力の量を調節する繊細な技術は彼女を超える者はいないだろう。
魔法のプロフェッショナルであるパチェにもその扱える魔法の数と質は負けてはいないだろう。
僕はまたその液体を口に運び、ふぅと息をつき、その幸福の余韻に浸る。
「おい!起きろ!魔理沙!ええ?あと5分寝かせて?これ飲んだら眠らなくてもよくなるからさっさと起きて飲みなさい!」
ドカッ!バキッ!
余韻に浸る間、耳の端でそんな声が聞こえてくる。
“飲ませなければどうやっても効果がないということだけが唯一の弱点みたいだね”
彼女たちのやり取りを聞きながら僕は微笑みまたカップの中身を啜った。
「あっ、朝食 リビングのテーブルに用意しておいたから先に行ってて コイツ始末するから」
「そ、それ以上はやめるんだぜ…もう起きたし、趣旨が変わってる」
目を開け目撃したのは黒い笑みを浮かべ、拳を向けようとするアリスとそれに怯え制止のサインを出す魔理沙だった。
「本当に君たちは仲がいいねぇ」
その様子を見て思わず月山は呟く。
「どうやったらお前にはそう見えるんだ…てか見てないで助けて!」
呆れるようにまた必死に懇願するように魔理沙はそう答えた。
☽
「そうだ!私良いこと思いついたぜ!」
突然、魔理沙は立ち上がりそう告げた。
「まったく騒々しい…静かに朝食も食べられないの?」
アリスはそう言って呆れている。
「食事は和気藹々と喋りながらするもんだろ?特にみんなで食べる時はさ」
「魔法の研究を邪魔されたくないために人が寄り付かないこの森に籠っている人とは思えない言いぐさね」
「まぁまぁ、アリス 今はその魔理沙のアイデアを聞いてみようじゃないか」
そんな二人のやり取りを割り込むように月山は優しく答えた。
「それでどういったプランなんだい?」
「よくぞ聞いてくれたぞ月山くぅん!」
それを聞いてくれた魔理沙は上機嫌で返答。思わず口調も変わる。
「私たちはアリスの魔法で疲れは吹き飛び、心身共にリラックスした状態になっている…だがしかぁし!あの時、かいた汗などの臭いは拭えていない…疲れてたから風呂に入らずにそのまま眠ってしまったからな」
確かに彼女の言う通り、僕も気にはしていた。こういう時のために替えの服は用意してはいたが、何分bath(お風呂)に入っていないと自分にも周りにも不快さを与える…のでこの朝食が終われば即座に屋敷に帰ろうと思っていた。一人暮らしの女性の家でお風呂を貸してもらうことは失礼に思えてあまりしたくはないからね。
「私は家が近くにあるからその点は問題ないがシュウは紳士 アリスが良いと言っても風呂を貸してもらわずに紅魔館に帰ろうとする それにアリスも私の風呂も一人づつしか入れないサイズだ 時間がかかるしめんどくさい…だから私は思ったのさ!いっその事、銭湯に行こうじゃないかと!」
そう高らかに魔理沙は告げる。フランは目をキラキラさせ「賛成」意思を見せるが、アリスの方はとてもうんざりそうにジトーと見つめ冷静に返答する。
「関係ない私はどうもしないけど、アンタ銭湯って…一番近いとこで紅魔館よりも距離あるじゃない…」
そう、このアリスの家から最も近い銭湯でも霧の湖の裏手にある妖怪の山の麓にある間欠泉地下センターの温泉施設だ。人里よりは近いが、それでも紅魔館に帰る方が賢い考えだということは誰にでも分かる事であった。
「いや、距離とかそんなのどうでもいいから 楽しいことが一番だからね うん。それにほら見てみこのフランのキラキラしたお目!こんな健気な少女の願いまで踏みにじろうってのか!お前は!」
そう言って魔理沙はフランに抱き着き、「お前も行きたいよなー」「うん!行きたーい!」といった会話をしながら横目でアリスを見つめている。
「別に反対してないって…ただシュウがそれでいいのかと思っただけよ」
そう言ってアリスは月山の方に目を向ける。月山もそれに答えるべく、アリスの方を向き淡々と話す。
「ああ、別に僕は構わないよ というか実は大衆向けの温泉に入ったことが無くてね…前から興味があったんだ だから喜んで参加させてもらうよ」
元の世界ではお坊ちゃん暮らしであった月山。経験したことのある風呂は屋敷の浴場や旅行先で入ったことのある個人専用の風呂(サイズ大)などといったものだけで大衆の銭湯には入ったことが無かった。ので今回この誘いのお陰で彼は初めて銭湯というものを経験することになる。
「よぉし!じゃあ決まりな!シュウは私の箒に乗るとして、フランは日傘持ちながらだったら太陽の下でも飛べるよな?」
「うん!ダイジョウブ!」
元気よくフランは答える。かく言うフランも大衆浴場は初体験。好奇心が勝り、距離のことなどは頭に入ってはいない。
「そうと決まれば早速行くか!あと、関係なさそうにしてんじゃねぇぞアリス 実は行きたそうにしてるのを私が気づかないと思ってたのか?」
「勝手に私が行くことを決定づけるような空想を言うんじゃあない」
「ええ~?ほんとにござるかぁ?」
「私が正直者だって事もう忘れちゃったのかしら?」
「私は過去を振り返らない女だぜ!」
「物忘れをカッコよく解釈すんのはアンタくらいのものよ…」
息の合った漫才のような会話を何度か繰り返しているうちに魔理沙はアリスの勧誘に成功した。
今日、四人で銭湯に行くこととなった。
しかし、この時誰も行く先で次なる異変が待ち構えていようとは思いもしていなかった。
おそらくこれもレミリアが言った月山に対する運命なのだろう。そしてそれに彼は必ず立ち向かわなければならない…何故ならそれが彼の決められた定めなのだから…。
☽
「Woah!Excellent view!(素晴らしい眺めだ!)」
「だろぉ!」
現在、月山たちがいるのは上空300m辺り。エンパイアステートビルの高さである。魔理沙の箒に乗せられている月山はその位置から望める景色の荘厳さに感嘆の声を上げる。その反応に魔理沙も喜ぶ。
「フラン大丈夫?」
「ええ!絶好調よ!」
後方ではアリスがフランのことを心配しているようだが、当の本人は日傘を差しているので日差しによる悪影響はなさそうだ。否、逆に空中ではしゃぎまわるほどの体力があるので心配する必要はないだろう。
「それにしてもいつの間にアリスと仲良くなったんだ?アイツ私らの前ではよくしゃべるけど普段は無口な奴なんだぜ まだ会って間もないお前とあれだけ話せるなんて…何か秘密でもあんのか?」
魔理沙は以前から気になっていたことを月山に問う。彼女からすればアリスと会話していることがとても不思議に思えたのだ。何故ならアリスは他人には極度の無関心で基本的に物事には拘らない性格をしている。だが別に人嫌いというわけではない。友人もある程度はいる。だがあまり積極的に話したがらないのだ。そんな彼女が出会ったばかりの、しかも異性である月山と話をしている。それを魔理沙は不思議がった。勿論人見知りであったフランにもだ。ので魔理沙は不思議と人を惹き付けてしまう月山の秘密を知りたかった。
月山はその答えを尋ねられ、不敵な笑みを浮かべ、淡々と答えていく。
「フフッ…何、大したことはないよ それこそ僕の人柄の良さが彼女に理解されたからじゃないのかな…いや、僕たちは既に友達だったんだよ…眼下に咲く花々やこの体全体で受け止めている風も…そう!(カッ!)言うなれば僕を取り巻くすべてがマイ……!」
「いや、もうよく分かったから黙っていいぞ」
興奮し出した月山の話を終わらせるかのように(てか終わらせた)魔理沙は自分が質問したことを後悔しながら月山にそう告げる。
“でもアリスやあの人見知りだったフランがお前を気に入っているわけが何となく分かるぜ…お前には人を惹き付ける面白味がある きっと二人もそこに惹かれたんだろうぜ ま、私たちみたいな可笑しなヤツじゃないとお前の面白味は理解できないだろうがな”
そんなことを思いながら魔理沙は先程まで浮かべていたうんざりした表情を止め、口元に笑みを浮かべる。
「Oh,あれが件の『間欠泉地下センター』かい?」
そう言う月山の眼には山の麓から立ち上る白煙を吹きあげる巨大な煙突が映っていた。
「ああそうだぜ あのでっかくて目立つ煙突は核融合ってやつの研究施設でその核融合を利用して温泉のボイラーを兼ねてるんだ 昔は間欠泉の温泉と一緒に地上に出てきた怨霊が蔓延っていて近寄れなかったけどその怨霊も消えて今じゃ温泉街として繁盛してんだぜ」
「fun…それは何とも…色々と驚愕させられる単語があって困惑してしまうが、だがこの世界では普通の事なのだろうね」
飛躍しすぎた話だが月山自身この幻想郷に来て人知を超える様々な現象や存在を体験してきただけあって、こういった話に対してもう疑問を持つことは無かった。ただ一つだけ気になったことはあった。
「だが地下から一緒に怨霊が出てきたとはどういうことだい?まるで地下には怨霊の巣窟のような口振りだが」
「ああ シュウは知らないんだったな あの下には昔、運営されていた地獄があるんだ そこの怨霊どもが間欠泉に乗って地下から放出されたんだ」
まさかの答えに思考が追い付かなそうになるが「幻想郷だから仕方ない」と割り切り思考を落ち着かせる。
「でも旧地獄って言ってもそんなヤバい所じゃないんだぜ そこには都があって色んな奴が住んでる 今じゃ温泉終わりの歓楽街として人気のある観光スポットになってる 風呂から出たらみんなでちょっと寄っていくか」
「Oui!ぜひ同行させてもらうよ!どんなところなのか気になって来た」
「来ちゃったから最後まで付いて行くつもりだけどあんまり遅くなるのはよしてよね 家に帰ったら人形の創作作業をしないといけないから」
「やった~♪」
魔理沙の提案に全員が取り敢えず賛成をした。魔理沙は月山に何か惹き付ける力があるといったが、彼女は彼女で人を惹き付けてしまう力を持っているのかもしれない。
暫く皆で談笑しながら空中を移動しているといつの間にか間欠泉地下センターの側の上空に来ていた。
眼下には温泉街とその中心部に佇む大きな煙突を持つ施設が建っている。更に覗けば人が歩いているのが分かる。魔理沙の言う通りこの施設群が繁盛していることは一目瞭然であった。
「シュウ さっき言ってた地下への入り口があそこだぜ」
そう言って魔理沙が指差す方向を月山が見るとそこには中心部にある施設に取り付けられたエレベーターの入り口が確認できた。
「一気に何十人も運ぶことができる巨大エレベーターだ あれで旧都に行ける ん?アイツあんなとこで何やってんだ?」
「ん?」
魔理沙がそう言うので月山も確認してみる。よく見ればエレベーターの前で大きなリュックを背負った少女がずっとエレベーターの扉を見ている。
魔理沙はその謎を確認するために高度を下げ、少女の方に近づく。後方からついて来ていたアリスとフランもそれに釣られて高度を落とす。
スゥーーッ
無事に着陸したと同時に魔理沙は例の少女に声をかける。
「おい、にとり何やってんだ?故障でもしてんのかそのエレベーター?」
「おお、誰かと思えば我が盟友、魔理沙じゃないか…ん?お前の後ろにいるその屈強な御仁は?」
「ああ、こいつか?こいつは…」
そう魔理沙が月山を紹介しようとする言葉を遮るように月山は淡々と自分語りを始めた。
「僕の名前は月山習。この幻想郷に一カ月前に迷い込む、もとい移住してきたseeker after truth(心理の探究者)さ 以後お見知りおきをlady…」
彼特有のいつもの(キザな)自己紹介が決まる。その自己紹介を受けたにとり本人の方は苦笑気味の笑顔を浮かべる。
“ん?”
だがそれとは違い、彼女はもう一つ「何か」を感じさせる表情を一瞬であったが浮かべたのを月山は確認し、不思議に思った。
「だから言わせたくなかったんだ…まぁ、変な奴だけど良い奴だから仲良くしてやってくれな」
良いタイミングで月山の自己紹介を全否定するかの如く魔理沙がカバーに入った。
「お、おう…私の名前は『河城にとり』見ての通り河童 そしてエンジニアだ よろしく頼むよ新しい盟友」
そう言ってにとりは『よろしく』の握手をしようと右手を出してくる。
「Oui!」
月山も了承の意を見せ右手を出し、彼女と握手をする。だがこの時の月山の頭の中はある事でいっぱいになっていた。
“河童か…僕らが認知していたものとは随分と違っている…もしかするとあの帽子の下にはお皿が付いた頭が隠されていたり……”
そう思い彼女の帽子を眺めていたが、女性の体を勝手に推察したりすることは紳士として恥ずべきことだと思いそれを考えることを止める。
「お前の噂は聞いてるよ 確か外の世界からやって来た奴が異変を解決したって」
月山の存在は魔理沙たちの間では有名になっている。『幻想入りした男』、『博麗神社の神になった男』、『異変を解決した男』、『紅魔館を破壊した男』etc….良い印象の噂もあれば事実無根の噂に悪い印象を持たせる噂など種類は様々だ。だが月山自身自分が良くも悪くもこの界隈で有名になっていることは知らない。
「ほう…僕のheroicさが君たちの間で噂になっていたとは光栄だね」
だから今、彼は良い意味の噂しか流れていないと勘違いしてしまった。因みにこの噂を流した元凶が魔理沙だということも勿論彼は知らない。
「良ければ今度玄武の沢に寄ってくれ 私の発明品を見せてやろう あと外の世界の話も聞いてみたいしな」
「おいおい!二人で仲良く話すのは良いが私の話を忘れて貰っちゃ困るぜ!」
「ああ、そうだったな 完全に忘れてたよ 確か私がここで何をしているかの理由だな」
魔理沙の一言で漸く本題の会話になった。
「故障じゃないのか?」
「故障ではないんだ ちゃんと稼働はしている」
にとりはそう言うがそれなら尚更謎は深まるばかりだ。それを尋ねるように月山の後方から声が発せられる。
「じゃあ何でこんなところにいるのよ?」
その声の主はアリスだった。いつの間にかアリスたちも地上に降り、この会話に参加していた。
「それがなぁ…地下に降りたままエレベーターが上がってこないんだよ もう上りの時間なのに…」
このエレベーターはロープウェイのようなもので上りと下りの時刻が設定されてある。時間は15分毎に設定されており、一台しかないので地下に降りたい場合は乗り遅れれば30分後のエレベーターに乗らなくてはならない。にとりが言うにはもうその時刻を随分過ぎているはずなのに一向に地下からエレベーターがやって来ない。しかし故障ではなく地下から直接運航を止めているみたいだと。
「それじゃあまるで地下で何かあったみたいじゃねぇか」
「でももしかしたら故障かもしれないと思ってここに来てみたんだがやはりエレベーターは正常だった…お前たちの言う通り旧都の方では今、何かが起こっているのは間違いなさそう……」
そう話していた矢先であった。遠くの方からにとりを呼ぶ声が聞こえてきた。
「にとりーー!大変だぁーー!」
声のする方へ振り向けば、ドタドタと激しい足音を鳴らしこちらの方へかけてくるにとりと同じ格好をした少女が見えた。
「どうしたんだ!?何か地下の事で分かったことでも?」
ハァハァ…と息を荒げてにとりの傍にやって来た河童の少女は息を整えながらハッキリと言った。
「縦穴の階段でこいしちゃんが倒れてて…」
「え!?」
この場にいた者で一番その事に驚愕し、声を初めに発したのはアリスの背後で話を聞いていたフランだった。
「ぐっ…!」ダッ!
するとフランは脇目も降らずに先程にとりを呼んでいた河童の少女がやって来た方へ向かって行った。
「ちょっ!?フラン!待てっ!!」
その行動に意表を付かれたこの場にいた魔理沙もそう言って、フランを追いかける。残された月山たちも魔理沙に反応してフランを追いかけた。
「また走るのか…ハァハァ」
但しにとりに伝えに来た河童の少女の方は往復する体力は既になく、追いかける皆とは違って随分なスローペースで追いかけることになった。
☽
エレベータの前から場面は移り、現在月山たちがいるのは間欠泉地下センターの内部。その中でも中心に位置する核融合炉に繫がる縦穴の側にいた。
「ほぅ…随分と深い穴…それに熱いね この穴は一体何のためのものなんだい?」
「これは核融合の実験もとい利用方法を研究するものだ 地下の方には太陽と同じ完全な核融合を扱うことができるヤツがいてな そいつの協力の元ここで色々とやっている ま、利用方法っても発電と湯沸かしのエネルギーとして使わせてもらってるくらいだけどな」
「そんなamazingな施設だったとは…」
「おっ、フランのヤツあそこで他の河童どもと一緒にいるぞ どうやらあそこにこいしもいるみたいだな」
魔理沙が告げる方へ目を向けると扉の前で何やら揉めている群衆が見えた。傍まで近寄るとフランが河童たちに抱きあげられている少女に向って何かを言っていた。
“あの娘が『こいし』か…”
月山が目にしたのは帽子を被り、少し火傷を負った薄緑の髪をもった少女であった。ただ不思議に思ったのは左胸の辺りに変なアクセサリーを付けていることであった。
「こいし!こいし!しっかりして!」
慌てているのだろう。混乱しているフランは抱きかかえられているこいしに大きな声で呼びかけている。それを見た魔理沙は止めるべくフランに近寄る。
「おい!落ち着けってフラン!そんなやり方じゃこいしの方もつらいだろ?」
「あ…」
魔理沙に叱咤されて漸く冷静さを取り戻したのかフランは黙って俯いた。魔理沙はフランの相手を終えると今度はこいしの方を向き、静かに彼女に語り掛けた。
「もう大丈夫だこいし、すぐ治療室に連れて行ってやるからな だがその前に何があったのか簡単に教えてくれないか?」
月山はそんな無理に答えさせるよりも早く治療を受けさせる方を優先した方が良いと言いそうになったが、そう発言した魔理沙の眼を見て言葉を詰まらせてしまう。その眼は真剣そのもので、幾度もこういった困難を見てきた者の眼差しだと瞬間的に感じさせた。よく周りを見れば、皆、彼女と同じ眼をしていた。それは先程まで慌てふためいていたフランもだった。
“そうか…彼女たちはこんな事を幾度も経験し、どうやって行動すればいいかを理解しているんだ こいしは傷ついてはいるが軽い火傷を負っているだけで命に関わるほどのものではない つまり魔理沙はこいしの意識が無くなる前に今回起きた異変の情報を少しでも得ることの方が重要だと思っているのか…素晴らしい判断力だ そして僕には君たちの心中も察せられるよ…”
そう月山は彼女たちの内に秘められた心までも読んだ。それは怒りや憤り、そして何よりこいしを今すぐにでも治療室に運びたいという衝動が。
魔理沙がそう聞くと、こいしは苦しみながらも必死に言葉を口から発しようとする。
「ハァハァ…地霊殿の上から変な化け物が、出、て…今、お姉ちゃんたちが喰い止めてるけど多分負けちゃう…!お願い魔理沙、お姉ちゃんたちを助けて…!」
その言葉は途切れ途切れではあるが、情報としては十分なものであったし、しっかりと月山たちに伝わった。
そんな悲痛な想いを魔理沙に伝えたこいしに向け笑顔で魔理沙はこう言い切った。
「ああ、任せとけって!そんなヤツ私がちょちょいっと倒してやる!」
そして魔理沙は右手でグーサインを作る。それに安心したのかこいしは目を瞑り、
「うん…おねが、い…ね」
そう言い残して河童たちに運ばれていった。
河童たちが去った後は皆が沈黙していた。だがそれはただの沈黙ではない、決意の沈黙だ。
「マリサ、僕も付いてゆこう 今回のこの異変やはり僕にしか解決できないものかもしれない」
「例のレミリアの言葉か…ああいいぜ!そりゃ紅魔館を壊す程の猛者が付いてきてくれるならこっちも願ったり叶ったりだ!」
魔理沙も月山の運命の事は聞いていた。だが彼女は別に運命の件で月山を連れて行くと決めたわけではない。それは勘。先程魔理沙が思った月山が持つ他人を“惹き付ける何か”と同じで月山の内にある“何かに”彼女は可能性を感じたから彼の同行を許可した。
「私も行く!」
月山の同行を承諾したすぐ後にフランがそう言った。だが魔理沙はそれを認めなかった。
「いや、フランお前は残れ お前はこいしの側にいてやる仕事があんだろ?それに私たちが負けると思うか?」
「……」
フランは黙って静かに首を横に振る。その様子を見た魔理沙は笑顔でフランの目線に合わせるようにしゃがみ、優しくこう言った。
「だったらお前は残って私たちの帰りを待っててくれ」
「…うん」
「よし!いいこだ!」ワシワシ…
返答までに少し時間がかかったがフランは言う事を聞くと言った。そのフランに感謝するように頭を雑ではあるが温かみ込めて撫でた。
魔理沙は撫で終わると今度はアリスの方へ向き、こう指示した。
「それとアリスには霊夢のとこ行って今回の事言っといてくれ まぁ行かなくても既に紫が動いてそうだけどな」
「分かったわ」
「よし、それじゃあ そろそろ行くか…」
そう言って行く準備をしていると背後から声が聞こえてきた。
「おい!勝手に行くのは良いが、戦う前にあの世に逝ってしまうような状態になるのは止めてくれよ」
地下へ向かおうとしていた僕ら二人を突然ニトリが呼び止めた。
「コイツを着ていけ」
「これは?」
そう言われるとポンチョのような白い布を渡された。
“確かこれは先程こいしを抱きかかえていた河童たちが着ていた…”
「特別な冷却服だ 着ていないこいしが縦穴の周りに作られた階段を通っただけであんな風になっちまったんだ 戦う前に疲労を貯めておくのは辛いし それに早く行きたいだろ?これを着ていけば灼熱の縦穴の中心部から移動しても無傷で移動できる」
縦穴は核融合炉によってとんでもない温度になっている。そこを無傷で突破するのは不可能に等しい。箒を使い階段の道を移動するにしても階段は螺旋状、高速で移動できないし時間がかかる。ならば階段の外側から真っ直ぐ突入すれば尋常ではない熱で身を焼かれてしまう。それを改善するためににとりはこれを二人に渡した。これがあれば短時間で旧都に行くことができる。
「ありがとな!にとり!」
魔理沙がそう言って感謝の意をにとりに伝えるとにとりは笑顔でこう返す。
「いいよいいよ後で金取るから」
「こんな時までお前は商売のことしか頭にないのか…」
「当り前だろ 商売人なんだから」
呆れながらもそんなやり取りを見てその場の堅くなっていた雰囲気が少し和やかになった。
“まさかニトリはこれを狙って…まったくこの幻想郷の女性たちには毎回驚かされる”
月山はふとそんなことを思う。そして同時に人間と妖怪がこうやって強調し合っているこの世界が羨ましく思った。
「よし!そんじゃ行くぞシュウ!」
「OK!マリサ!」
突入する準備ができた二人はにとりから貰った冷却服を着用し、箒に跨っていた。
「ああ、あと一番大切な事言い忘れてた…」
何かを思い出したかのように魔理沙がふとそんなことを呟いた。
「帰ってきたら温泉入って、その後皆で旧都で遊ぼうな!」
魔理沙は笑顔でそう言った。
そう言えばそのためにここにいるのだったと今更ながらに月山、アリス、フランの三人は思い出した。
ならば答えは一つ。
「Oui!」「うん!」「…ええ」
三人はそれぞれの想いを述べる。その言葉を聞き届けた魔理沙は決意を固め叫ぶ。
「よぉし!行くぜ!」
ビュン!
魔理沙と月山を乗せた箒は勢いよく灼熱の縦穴に突入し、消えていった。
「あのさ…にとり」
「ん?何だアリス?」
「箒には冷却の布付けなくてよかったの?」
「あ」
時、既に遅し。
「ハァハァ…やっと着いた…」
にとりを呼びに来た河童の少女 今到着。
☽
「やっぱりここにいたか…」
ここは旧地獄全体を見下ろすことができる丘。丘には蛍が多く飛んでおり、更にその景色を風情よく際立たせている。
「とりあえず戦えない者たちは避難させておいた」
「おおご苦労さん」グビッ…!
金髪の女にそう言われた角持ちの女は片手に持った杯を口の中に流し込みながら返事する。
「だが出現したのがあの屋敷でよかった 言い方は悪いがお陰で旧都の者たちを非難させることもできたし、旧都の方には被害が及ばなかったんだからな」
そう言って金髪の女は旧地獄の中心部を眺める。そこには大きな屋敷があり、先程から爆音が何度も聞こえてくる。
「よーし、そんじゃ行くかー」グビッ…!
そう言って角持ちの女は杯を片手に持ったまま立ち上がり。もう一杯とばかりに酒を飲む。
「にしても良かったのか?旧都の妖怪を呼ばなくて」
「増援を呼んだところで私一人の力に及ぶわけがない それに私の“能力”の邪魔になるだけだ」
「それもそうだな」
「エレベーターは止めたのか?」
「ああ そんなことは無いとは思うがヤツが地上に出ないように手を打っておく必要があったからな それにもしものための手は他にも打ってある」
「巫女か」
そう言った角持ちの女の顔が先程まで浮かべていた笑顔から一変、真剣な面持ちになる。
「そうだ こいしに伝達役として縦穴の階段から地上に出てもらった 地上のヤツらならちゃんとした増援にはなるだろう それにここを出て5時間後までにエレベーターが起動しなければ縦穴の階段を破壊しろとも言ってある」
「ふーん だったらさっさと戦いに行かなくちゃいけないな 奴らに大物を横取りされちまう」
「そっちを理由に急ぐのか…何でお前はそんなに楽しそうにしてるんだ」
金髪の女は呆れそう言うが、角持ちの女はそんな様子はお構いなしと言わんばかりに意気揚々とこう言った。
「そりゃ楽しくもなるさ 久々の大勝負なんだからなぁ!」
彼女の名は「
今回、本家っぽい(超絶低クオリティ)表紙絵と僕の好きな旧都コンビを描かせて貰いました。モチーフは見ての通りQs組のあの二人ですw
今回は一周年と言うことで相変わらずのトレス絵ですが張り切って描いてみました。やっぱり難しいですねw絵描きも物語の創作ももっと上手くなりたい…(切実)因みにお嬢様はこの章に一切出てこない予定です。
次回の投稿がいつになるかは分かりませんがやはり一カ月ごとを目安に出せれるように頑張ります!(できるとは言っていない)
これからもよろしくお願いします!