仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon Trilogy~ 作:龍騎鯖威武
「本当に助かってます、サトル君。いつも買い物に付き合ってもらって」
「ううん、平気ですよ秋子さん。僕だって、何かお手伝いがしたいですから」
「ありがとね、サトちゃん」
夕方の買い物帰り。
買い物袋を抱えたサトルと、名雪、秋子の3人が並んで歩いている。その姿はまさに家族といえるだろう。
「あ、竜也君とあゆちゃん!」
名雪が嬉しそうに駆けてゆく。その先には、探し物をしている2人の少年と少女がいた。
「こんにちは、名雪さん!」
「見つからないよぉ…」
あゆは名雪に気付かず、未だに探し物の最中。
「まだ見つかりそうもない?」
「うん…。あゆの大事にしてた物みたいだから、絶対に見つけたいんだ。あゆも、あんなに必死になって探してるんだけど…」
竜也と名雪が会話している姿を見ていた秋子は、口に手を当てて、サトルにこう告げた。
「私、少し思い出した用事がありますから、先に帰りますね。名雪をお願いできますか?」
「はい。なゆちゃんは僕が責任を持ってつれて帰ります!」
「まぁ、頼もしい。じゃあ、よろしくお願いします」
少し微笑んだ後、秋子はその場を去った。
すると…。
「昔の事、思い出してみない?」
ふと聞こえる声。その方向を振り向くと、大学生くらいだろうか。小説を右手に持った青年がベンチに腰掛けていた。
その小説の名は、カフカの「変身」。
「何故、君が英雄になりたかったのか…知りたいな」
「え…?」
7年前のことである。
「もぉ…いやだ…」
1人で泣きじゃくる少年。
彼は、両親から愛情を、全くそそがれなかった。家に居れば常に両親から受ける虐待。外に出ても、誰一人彼を気にするものはいない。少年に居場所はなかった。
「僕は…どこに行けばいいの…?」
誰も答えてはくれなかった。
…今までは。
「雪、積もってるよ?」
そう言って話しかけてきたのは、青い髪を三つ編みに結んだ、同じ年頃の少女だった。
彼女の言葉で、自分の頭を手で触れると、少量の雪だったであろう冷たい水滴が手についた。
「…もしかして、泣いてたの?」
どんなに泣き虫であっても、女の子に涙を見せたくないのが男の子の意地。一生懸命、涙を拭いて返事をした。
「泣いてないよっ!」
「でも、目が赤いよ?」
涙は拭いても、その証拠までは隠し通せないのが悲しい。少女は簡単に見抜いた。
観念した少年は、何故泣いているのかを話した。
「…僕は、どこに行けば良いか分からない」
「お家に行けば良いと思うけど…迷子なの?」
「やだっ!家はやだ!君まで、そんな事言うの!?」
怒鳴り散らして、暴れる少年。
家には、彼の恐怖の対象が居る。戻るなどまっぴらごめんだろう。
「ご、ごめんね!…もしかして、もっと遊びたいの?」
困ったように謝る少女。落ち着いた少年を見て、彼女なりの考えを言ってみた。
「…そうすれば、どこに行けばいいか分かるかな…?」
少し不安そうだが、同時に期待を込めて聞く少年。
「うん、きっと!一緒にあそぼ!わたし水瀬名雪!あなたは?」
「虎水サトル…」
「じゃあ、サトちゃんだね!」
これがサトルと名雪の出会いだった。
「ねぇ、どう?雪ウサギ作ってみたの!」
「…かわいいね」
名雪が嬉しそうに雪ウサギを作って話しかけても、どこか虚ろな表情でかえすサトル。
「…えいっ!」
「うわっ!?」
雪を丸めて、サトルに投げつけた。
「…なんだよっ!」
ムキになったサトルは、名雪に雪玉を投げ返した。
「きゃっ!あは、雪合戦だよっ」
その日の夕方頃まで2人は遊びつくした。
「はぁ…はぁ…僕の勝ちだね…」
「う~…負けちゃった…」
雪玉をあてた数は圧倒的にサトルが勝っていた。
「…そろそろ夜になるね。サトちゃん、もうお家に帰る時間だよ?」
「家…?やだ、かえりたくない!かえったら、また叩かれる…」
サトルは、相変わらず家のことになると異常なほど拒絶するような様子を見せる。
「う~ん…。じゃあ、わたしのおうちにおいでよ!」
「え、でも…」
「ほら、いこ!」
その日、秋子はサトルを受け入れた。
「どうして、君のお母さんは優しいの?」
「だって…お母さんって優しいものだよ?」
名雪の言葉はサトルを無意識に苦しめる言葉となった。
「そうなんだ。羨ましいな…。僕のお母さんはいつも怒って、僕を殴るんだよ。お父さんも同じ。どうして、僕だけ…?」
「あ…」
幼い彼女にも、どういう事なのかは、分かってきた。
「じゃあ、わたしのお母さんが、サトちゃんのお母さんになればいいんだよ!」
「君…もしかして、バカなの?君のお母さんが、僕のお母さんになれるわけないよ!」
「了承」
ふと、声がしたほうを振り向くと、頬に手を当て微笑む秋子が立っていた。
「あなたの両親には、わたしから言っておきます。もしサトル君が良いのなら、わたし達の家族になってくれませんか?」
「僕は…いいのかな?」
「やった~!サトちゃん、今日からわたしの家族っ!」
こうして、サトルは水瀬家の家族の一員となった。
それから何日もたった。
サトルは随分と水瀬家に打ち解けられ、以前の暗い性格は明るく変わっていった。
「なゆちゃん、ごはんが出来たって!おきなよ!」
「うにゅ~…」
何気ない日々。サトルにはとても新鮮に感じられ、そして何よりも幸せだった。
だが…。
「ねぇ、サトちゃん。もうすぐね、わたしのいとこの祐一が来るって!」
「祐一…君?」
「うん、昔からよく遊んでいたけど、これからはずっとわたしの家に住むんだって!」
「そう…なんだ…」
サトルは彼女の様子を見て、何か孤独な感情を覚えた。
「名雪、サトル君、ご飯ですよ」
「あ、サトちゃん、ごはんだって!」
「…今日はいいよ。おなか減ってない」
その日の夜。
「なゆちゃん…祐一君のことが好きなんだ…」
彼女は祐一が来ることを何よりも嬉しそうに話していた。
嫉妬…なのだろうか。だが、それに抵抗するほど、その頃のサトルは強い感情を持っていなかった。
「そっか。僕のことを好きになってくれる人なんて、いないんだ。あはは…ははははは…」
静かな部屋で、サトルの乾いた笑い声と鼻をすするような音が響いていた。
サトルは、名雪達の前から去った。
いずれ、独りぼっちになるくらいなら、自分から消えたほうがいいと考えていたからだ。
だが、自分の家に戻るつもりはない。一人で生きることを決意した。
それから、6年ほど経ったある日。
サトルは、様々なところを放浪しながら、何とか生きてきた。死のうとしたことも何度かあったが、結局、恐怖が勝り、実行できなかった。
この日、彼は想像も出来ない出来事に巻き込まれる。
「ミイイイイイイィ!」
「ひっ、怪物!?」
目の前には、黄色いセミを模した異形「ソノラブーマ」が居た。
一瞬、逃げようとしたサトルだが…。
「ここで死ねばいいのか…。僕は自分で死ねないもんね」
あきらめたように、目を閉じたサトル。
ソノラブーマは好機と見たか、腕先の巨大な鉤爪でサトルに襲い掛かる。
…筈だった。
「ヌンッ!」
ドゴオオオオオオオオオォ!
「ギャアアアアアアアアァ!」
突如、目の前を黄金の光が包み込み、ソノラブーマは跡形もなく消えた。
悟るが恐る恐る目を開くと、そこには光り輝く影がいた。
「似ている…。英雄になりたくはないか?皆に愛される英雄に」
「…英雄?」
英雄。
その言葉に、サトルは異常なほど心地よさを感じた。
「みんなに好きになってもらいたい…。英雄に…なりたい!」
その瞬間、目の前に青い長方形の物体が投げつけられた。
カードデッキだ。
「使え。英雄に近づくための武器だ」
そのカードデッキをゆっくりと掴む。
英雄になるために…。
「変身っ!」
話は、今の時間へと戻る。
「それで…。今もなりたい?」
そう問いかける青年。
竜也と話している名雪を見ながら、笑顔で返した。
「…ううん。僕は英雄になりたいんじゃなくて、なゆちゃんに好きになってもらいたかった。だから…」
「へぇ…。なら、大丈夫だね。英雄ってさ、なろうとした瞬間にアウトらしいからね」
「うんっ!…って、あれ?」
強く頷きながら、振り返ると…。
あの青年はいなくなっていた。
「よう虎水。名雪と一緒か?」
祐一と真琴、さらにミツルも居た。
真琴はおなかを押さえ、元気がない様に呟く。
「あうぅ…」
「真琴が腹をすかせているんだ。そろそろ竜也とあゆを呼び戻す。竜也しか、家で料理できる奴はいないからな」
「おれも腹へってさ。名雪と虎水が居ないと晩飯が食えないんだ」
今は、みんなが自分のことを大切にしてくれている。
彼は、なるつもりはなかっただろうが、いつの間にか「英雄」になっていた。
「じゃあ、かえろ。僕たちの家に!」
これから降りかかる戦いの間の小さな安らぎのときである…。
彼らは、この安らぎを果てるまで続けられるようになるため、戦い続けるのだ…。
仮面ライダーとして…
そして人間として…。
キャスト
虎水サトル=仮面ライダータイガ
水瀬名雪
水瀬秋子
沢渡真琴
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー
相沢祐一=仮面ライダーナイト
金色の影(仮面ライダーオーディン)
小説を読む青年
月宮あゆ
龍崎竜也=仮面ライダー龍騎