ではどうぞ(*´∀`)つ
第一話 護瑠と簪
日本には更識家という対暗部用暗部が存在する。しかし、更識家の専門分野は情報収集であり、武力行使が必要となる場合に動ける人員はごく少数となる。ならば誰が武装勢力と戦うのか?
その役目を負っているのが俺たち対暗部組織『杜野』だ。
『本部から各部隊へ、状況を報告せよ。』
『第一部隊クリア、異常なし。』
『第二部隊クリア、同じく異常なし。』
『第三部隊もクリア、異常はありません。』
『よし、その先が最深部だ。これまで敵の姿が見えないことから戦力の集中が考えられる。気を付けろ。全員、配置につけ。』
俺は前線に出ている部隊員に指示を出す。といっても俺はまだ13歳で、現場での権限はほとんど無い。俺の仕事は本部での情報の統制であり、咄嗟の場では現場の判断が許されている。今回の任務は俺が経験を積むための実戦訓練の一つというわけだ。
「ふぅ・・・この後が重要だ。テロを企てたという話だが、大型の銃器を運び込んだという情報は無し。あっても小銃と爆弾位か・・・」
「護瑠、大丈夫・・・?」
「ああ、大丈夫だよ、簪。」
実行部隊の不足している更識は手に入れた情報を杜野と共有し、共同で作戦を行う事が多い。これは、今代の両家の当主が友人であることも関係しているのだが・・・。それはともかく、今回の作戦も更識が杜野に持ち込んだものであり、そのためこの場には更識の関係者もいる。それが彼女、更識簪だ。
正直、簪がサポートに来てくれて良かった。あ~、今日も簪は可愛・・・いや、任務に専念しよう。
「それにしても、どうしてここまで敵の姿は無いんだ?いくら規模の小さな組織だとしてもここは拠点なんだ。多少の警備はあって当然だと思うんだが・・・簪はどう思う?」
「それは私も気になってた・・・これを見て。」
簪が示したのは現在部隊が潜入している建物の地図、その最深部だ。その建物は元々研究施設として使われていたが、研究施設は廃棄されずっと放置されていた。そしてその場所は地下であり、そこから出入りするためにはいままで部隊が通ってきた通路を通るしかない。隠し通路が無いことも事前の調査で判明している。
「ここまで入られたらもう退路はない。考えられるのは既に放棄されているか、それとも入り込まれても関係ない程装備が整っているのか・・・」
「武器に関しては心配要らないと思う・・・ここに人が出入りし始めてから更識で監視していたみたいだけど、大型の物が搬入された記録は無いみたい・・・搬入元を調べても、あっても爆薬の材料くらいしか・・・」
「だな・・・」
『本部へ、配置完了しました。』
『!分かった、だが罠の可能性もある、十分注意しろ。では・・・やれ。』
俺の指示で巨大な扉が爆破され、部隊員が突入していく。資料によればこの部屋は研究資料などを保管していた場所らしく、広い空間になっているようだ。いったいどれだけの人員が集まっているのか・・・
『本部へ、こちら第一部隊!!』
部隊長から大声が飛んでくる。
『こちら本部、何があった!?』
『何もありません!!銃器も爆弾も、人もいません!!』
『なんだと・・・!!』
いったいどういう事だ!?確かに、こちらの入手した情報ではここにはテロ組織がいて、物資の搬入された形跡もあるのに。だというのに誰もいない?何もない?これはいったいどういう事だ!?
「!!護瑠、本家から緊急の通信が!更識家に襲撃が有ったって!!」
「なに!?こんなときに!?・・・くそ、こっちにも同じ内容の通信が・・・!!・・・この施設、まさか・・・」
「こっちは・・・陽動・・・?本家から戦力を引き離すための・・・?今までの事は偽の情報を掴ませるためのブラフだった・・・?」
簪は愕然とした表情で青ざめている。今までの更識の活動は自分達の首を絞めるものだったのだ、無理もない。だが、今の言葉で俺の疑問は確かなものになる。おそらくそれで間違いない。思えば今回の任務はテロ組織壊滅という重大さの割に敵の規模自体は小さく見える。今回俺が実戦訓練として指揮を取っているのもそれが原因だ。加えて俺が指揮を取るということで、普段より多くの人員を投入している。そのせいで、杜野にいる防衛戦力も低下している・・・
始めから全て計算の内だったのか・・・?いや、今はそんなこと考えている場合ではない!
『全部隊に伝える!全員早急にその施設から脱出し帰投せよ!更識家に襲撃があった!敵の狙いは手薄になった更識だ!』
『了解!!』
「簪、データの消去は終わっているか!?俺たちもすぐにここを離れるぞ!」
「大丈夫、データは削除済み。すぐに行こう、みんなが、お姉ちゃんが危ない・・・!!」
簪の姉の刀奈さんも今日は家に居るはずだ。簪と刀奈さんの仲が良いのは良く知っている。やはり心配なのだろう、簪の声は明らかに震えている。
簪の言葉に頷き、急いで出口に向かう。通信のことも考え、研究施設近くのビルの上階に作戦本部を設置したのは失敗だった。
・・・嫌な予感がする。あそこに運び込まれていた爆薬は確かに存在したはずだ。今までの事が全て敵の計画の通りなら、まさかここも!!
「簪、こっちだ!!」
「護瑠!?」
今までの事を考えると楽観視は出来ない。階段もエレベーターも使っている場合じゃない!
「あの施設に運び込まれた爆薬がここにあるかもしれない!階段を使っている暇は無い!窓から出るぞ!」
「うん!でも、どうやって・・・?」
「それならここに・・・あった!高層ビルには緊急脱出用のパラシュートが設置されているんだ、これを使うぞ。・・・しっかり捕まってろよ。」
「うん・・・。護瑠のこと、信じるから・・・!」
俺は簪を抱き締めると窓から飛び出す。簪も俺にしっかり抱き付いてくれている。簪の顔が赤いが、それはきっと俺も同じだろう。あぁ、やっぱり簪は可愛・・・・・・
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。冷静になれ。
「よし、行くぞ!」
俺は簪を抱えて窓から飛び出すと、すぐにパラシュートを開く。これでビルの倒壊に巻き込まれる心配は無くなったが・・・
ドドドドドォォォォォ
「ふう、やっぱりか。間一髪ってところかな・・・マズッ!」
ブワッ
ビルの倒壊からは逃げられたが、それによって起こった暴風でパラシュートの制御が利かなくなった!?
空中で激しく動くパラシュートは体にかなりの負担を掛けてくる、意識が飛びそうだ・・・。だが、ここで気絶する訳にはいかない、そんなことになったら簪が落ちてしまう!この高度から落ちて助かる訳がない!
それから少しして、落ち着きを取り戻したパラシュートはゆっくりと地上に落ちていった。落下速度が結構あったが、この場所がコンクリートでなくて助かった・・・
あのビルのあった場所からは少し離されてしまった様だが、ここからなら問題ない。すぐに更識家へ向かえるだろう。
「簪、怪我はないか?」
「うん、大丈夫・・・怖かったよぉ・・・」
簪はそう言いながら、俺に抱きついたままでいる。俺も死ぬかと思ったんだ、パラシュートを着けていなかった簪は尚更だろう。
「もう大丈夫だぞ」
「うん・・・」
そういって、俺は簪の頭を撫でる。すると、簪の体から少しだけ緊張が抜けた様な気がする。安心してくれたなら良かった。決して邪な気持ちはないぞウン。
少しそうしていると、簪はようやく俺から離れる事が出来た。落ち着いたら抱き付いていたことが恥ずかしくなったようで顔が赤くなっている。俺としては役得なのだが・・・今はやるべきことがある。
「簪、通信端末は無事?」
「大丈夫だよ、でも、家に連絡しようにもなにも反応がない・・・今も戦ってるのかも・・・」
最初に通信が入ってから結構経っている・・・なのに連絡がつかないってことはマズイ状況かもしれないな・・・たしか、今日は父さんも更識家に居るはずだ。家を出発する前、定例の情報交換だと言っていたからな。・・・まあ、あの人は殺しても死なない様な人だから案外ピンピンしているかもしれないけど・・・。最初の通信以来、杜野家からの通信もない。おそらく、更識家防衛のために手を回しているのだろう。
「急いで戻ろう、それが最優先だ。」
「うん・・・そうだね。」
状況を確認し、俺と簪は更識家を目指して走っていく。施設に向かった部隊の心配はしていない。彼らは今の俺では足元にも及ばない精鋭達だ、きっとみんな誰も欠けずに更識家に向かっていると信じている。
「おねーちゃーん」
「ん?簪、知り合いか?」
「んーん、顔が良く見えないし、あのくらいの子で知り合いは居ないから・・・お姉ちゃんの知り合いかな?」
走っている俺たちに遠目から声をかけてきたのは、帽子を目深に被って、お腹を押さえた子だ。簪の言う通り、刀奈さんの知り合いかも知れない。水色の髪なんてそうそう居ないから、簪を刀奈さんと間違えてる可能性もある。
急いでいる俺たちだが、小さな子を無視して行けない。さっきのビルの倒壊でこの辺りの住人は避難している様だし、何よりあの子は怪我をしている様に見える。俺たちが関わったことで怪我人が出ているかも知れないのに、放ってはおけない。
そんなことを考えていると、簪は帽子の子に駆け寄っていた。あ~、小さな子を心配している簪もとっても魅力的・・・
コドモのジャアクなカオをミタキガシタ
「簪!!」
「!?」
言うが早いか、俺は走り出していた。
あれはお腹を押さえているんじゃない!服の中に物を隠している!ビルの倒壊も、敵が誰も観測していない訳がなかった、あの子こそがビルを倒壊させた犯人!脱出した俺たちを見て、止めを刺しに来たのか!!
「間に合ってくれ!」
咄嗟に動けなくなった簪に向けて子供が服の中に隠していた銃を向けようとしている。この距離ではあの子を取り押さえることは出来ない!なら・・・なら・・・
「簪ぃぃぃ!!」
「ま・・・もる・・・」
「死ね」
ドゥンッドゥンッドゥンッ
銃声を三回聞いて、熱い痛みを感じて、俺の意識は途切れていった・・・
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